賢者の娘は外の世界に留学したようです   作:エスカルゴ・スカーレット

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いざ行かん、幻想郷へ

「へー…お婆ちゃん、3Dプリンター機なんて物買ってたんだね……。こりゃあ凄いや、サイズが間に合えば色んなモノが作れるじゃん」

 

「そうね…。まさか一般家庭にこんなのあるとは予想もしてなかったわ…」

 

 蓮子のお婆さん…菫子の家の蔵には、業務用の大きな3Dプリンター機があった。蓮子は、傍に置いてあった説明書に従い、自分の作りたい物のプログラムを打ち込んでいく。確か、お父さんが幻想郷に来る前は樹脂製が主流だったようだが、この機械は主に樹脂で、超硬合金以下の硬度なら金属の加工も可能らしい。技術の発展とはかくも恐ろしいものだ。それともこれが「業務用」たる所以か。

 

「んあー、カーブむっずかし!座標合わせるのはイけるけど厚さ合わせなきゃだし…ぐぬぬぬ…!お婆ちゃんはこんな機械を使ってたっていうの?くっ…でも負けてらんないわ!!」

 

 勝ち負けではないのだから、別にゆっくり制作してもいいと思うのだが、彼女がそうしたいならそうしても良いだろう。折角プログラムの仕方が書かれた説明書があるのだから有効活用せねば。

 それに、対抗心というのは時に人を大きく成長させてくれるものだ。私は姉や妹達、親に対して対抗心を抱いた試しなど無いが、対抗心のお陰で成長した例を、私は知っている。私の馬鹿な兄…妖舞がいい例だ。

 

「メリー、材料は今何が入ってる!?」

 

「えっと…樹脂ね」

 

「オッケー、じゃあまず最初は樹脂で試作品よ!それで上手くいったら金属で本番にしましょ!」

 

「そうしましょ…って、えっ!?もうプログラム打ち込み終わったっていうの!?」

 

「そうよ?こういうプログラムってX軸とY軸とZ軸の数字を変えるだけだからね。後は誤字とかしなきゃいいだけだし」

 

「へ、へぇー…流石ね…」

 

 やはり天才…私には無い才能だ。こんな早くにプログラムを終えるとはスゴすぎる。始めてからまだ30分経過したかしていないかくらいだ。

 

「スイッチ・オンっ!」

 

 プログラムされた最大の長さに合ったサイズの樹脂が切り出され、徐々に削られていく。…だが私が思っていたよりずっと小さい。プログラムを始めた頃、「お婆ちゃんとお揃いの銃を作る」と言っていたはずだが…どう見ても小さすぎる。

 2センチ程度の三日月のような物体だ。これはどう見ても銃ではない。

 

「出来たーっ!」

 

「ね、蓮子。それ、どう見ても銃には見えないんだけど…?」

 

「だって引き金だもん。3Dプリンターってね、部品を作ってから自分で組み立てるのよ?いわば自家製プラモデルみたいな感じね」

 

「あ…そうだったんだ…」

 

「妖怪の力なら、0からでも完成品とか作れるんだろーなー」

 

「『創造』なんて、妖怪でも簡単じゃないわよ。私は無理だし、お母さんでもきっと出来ないわ」

 

「エスカルゴは?」

 

「お父さんはまぁ…出来るわよ。寧ろ得意な方。何でも創れるって訳じゃないらしいけどね」

 

「へぇー…。じゃー次は銃身でも作ろっかな〜」

 

「…設計図は?」

 

「作ってないよ。こうプログラムで打ち込むと、機械に搭載されている線画機能で形を確認出来るから、その都度確認して作ってたのよ。ほら!」

 

 ピピッと軽い電子音が蔵に響く。プログラムの画面は黒い背景に切り替わって、緑色の横と縦、奥に伸びる座標の線が現れる。蓮子がスタートのボタンを押すと、始点(0,0,0)から線が伸びて、少しずつ銃の形を描いていく。

 

「よっし、出来た!それじゃ、ちゃちゃっと銃身作っちゃいますか!メリーは武器になりそうな物考えておいて!」

 

「うん、分かったわ」

 

 それから凡そ5、6時間…私達は、武器作りに没頭した。プログラムを打ち込んでいく速度は、慣れと共に目に見えて早くなっていった。やはり蓮子は天才だ、普通の人間とは違うと思う。もう全ての座標が頭の中に浮かんでいるかのような、神憑り的な速さだ。

 

「あなた達、そろそろ夕飯にしましょう?」

 

「夕飯?うわ、外真っ暗じゃん!…うぐ…なんか急にお腹がっ……」

 

「私も…」

 

「あらまぁ、やっぱり夢中になってたのねぇ…。ほっほっほ…」

 

「ていうか私達、お昼ご飯食べてなくない!?」

 

「1回話しかけたんだけど、夢中になってて全く反応してくれなかったから…」

 

「「え゙っ……」」

 

 それは気付かなかった。というか、今も菫子が来るまで外が暗くなっていることに全く気が付か無かった。それほど、作業に没頭していたのか。お陰で色々作れた事は作れたが。

 3人で中に入り共に食卓を囲む。彼女の料理はとても美味しく、ついつい箸が進む。

 

「お婆ちゃん、何であの蔵に3Dプリンター機があるの?それも業務用とかいうビッグサイズの」

 

「あなたの為よ?蓮子」

 

「私の…?」

 

「いつかはこんな日が来るだろうと思ってね…。蓮子に能力があることが分かって、まずは機械を仕舞っておくために大きな蔵を建て…それから、機械を買ったのよ。全てはこの日の為。あなたが幻想郷で死なないよう、装備を整えさせる為よ」

 

「じゃあ……お婆ちゃんは分かってたの?私が、幻想郷に行けるようになるって事…」

 

「ええ、そうよ。紫さんが直々に来るのは流石に予想外だったけどねぇ…。なんたってあなたは、この私の孫なんだからねぇ。小さい頃から好奇心旺盛だったあなたなら、いつかこういう道に進むだろうなって予想してたよ?」

 

「たはー…お見通しだったかー」

 

 …そもそも幻想郷の事を蓮子に吹き込んだのは菫子だったはずだが…。まぁ、そんな余計な事は言わないでおこう。

 

「ええ、そりゃあもう。…で、どう?ちゃんと、自分の身は守れそうかしら?」

 

「バッチリ!お婆ちゃんはESPカード投げてたようだから、私はもう少し攻撃的なモノを投げる予定よ!そもそも戦闘する予定は無いから、多分出番は無いだろうけどさ」

 

「いいえ、きっと戦闘することになるわ。結構、好戦的な人達が多いからねぇ。メリーさんなら、そこら辺は分かるでしょう?」

 

「…そうですね…。きっと戦闘は避けられない。私もそう思います」

 

 例えば、レイチェルに会いにいくとして、湖の周辺は必ず通る。すると、チルノに会う可能性も少なからず出てくる。すると蓮子並みに好奇心が旺盛なチルノなら、珍しい外来人だからと勝負を挑んだりしそうだ。大妖精が止めても無意味だ。

 

「メリーまで…。戦いに行く訳じゃないのに…」

 

「気を落とさないで、蓮子。戦うということは、決して悪い事じゃないの。向こうでは戦いが遊びなのよ。戦いを『ごっこ遊び』にしているの」

 

 流石、幻想郷に来た事がある人間は言うことが違う。その通りだ。決闘…つまりは戦いを遊びにしている。やはり私からの説明はあまり必要無いだろう。

 

「うへー…戦いが遊びって…」

 

「だから蓮子が幻想郷に行って、どこかの誰かに

『戦おう』と言われたら、それはこっちの世界で

言う『一緒に遊ぼう』と同義なのよ。勿論普通に

『遊ぼう』って言う人も居るけどね」

 

「うーむ……非力な人間に戦いを挑むとは何たる鬼畜…」

 

「怖いなら行けないわねぇ、うふふふっ♪」

 

「お婆ちゃんは怖くなかったの?」

 

「怖くなかった、と言えば嘘になるかもね。でも恐怖心より好奇心の方が勝ったから、私は行動を起こしたの。何なら、死ぬ事も怖くなかったわ。全ては自分の意思によるものだから…ね」

 

「…そっか…」

 

「蓮子が幻想郷に行きたいと言うなら、出来れば私とて止めたくない。でも怖がりながら行くなら止めるわ。恐怖心は睡眠不足並みに己の判断力を鈍らせる。判断力の鈍りは、向こうでは死に直結すると言っても過言じゃないわ」

 

「…死と隣り合わせって事ね。でも大丈夫だよ。私にはメリーが居るから…!メリーならいざって時は私の事守ってくれるもん!ねっ!」

 

「勿論そのつもりよ。だって蓮子だもんっ♪」

 

 パチンとウインクをして私を見つめる蓮子に、私は笑顔でそう答える。有事の際は、彼女の事は私が守らなければ。お父さんが案内役だがあまり頼ってもいられない。

 

「あははっ、私だからって何それ♪」

 

「ふふっ、自分で言って分かんなくなったわ♪」

 

「全くもー、メリーったら〜」

 

「えへへへっ…///」

 

(蓮子なら、大丈夫よね……。昔から強いあの子だもの、私と次会う時は冥界で…なんてことにはならないわよね……)

 

 食後は、もう一度蔵に行って作業を再開した。弾幕としてアレを使うには、食前までに用意した数だと到底足りなかったのだ。…だが、数を補完する為にアレを大量生産したは良いが、持ち帰る為の袋などの持ち合わせが無い事に完成してから気付いた。

 

「どーしよ、折角作ったのにこれじゃ10分の1も持って帰れないよ…」

 

「……私に任せて、蓮子。私の能力でこれを全部仕舞ってあげる」

 

「えっ…!?メリーの能力って確か…えっと…」

 

「《境界を操る程度の能力》。細かい説明は省くけど、これは異空間すら生み出せる能力なのよ。だから……」

 

「ッ……!?」

 

 山になるほど大量に作ったアレの真下に大きなスキマを開き、落とし込んだ。これでアレは私のスキマに収納された事になる。なので荷物で悩むことは無くなった。

 

「え…えぇっ!?落ちた!?うわ、目玉だらけ…中見えないや…何これ、どうなってるの…??」

 

「近付きすぎたらダメよ?もしあなたが落ちれば今作ったアレを全身に喰らう事になるわ♪」

 

「うげっ…それだけは死んでも勘弁だなぁ……。でもこれどうやって取り出すの?いちいちメリーにお願いするのは…何て言うかさ…?」

 

「そうねぇ…。試しにスカートのポケットに手を入れてみて?」

 

「…うひゃあっ!?底が無い!?手が…手が!!手がどこまでも深く入っていくんだけどッ!?」

 

「さっき見せた《境界を操る程度の能力》による異空間を蓮子のポケットにも作ってみたわ。勿論今のは一時的なものだけど。……つまり、蓮子のポケットと私の異空間を繋いでいれば、例え私が仕舞った物でも蓮子が取り出せるってワケよ」

 

「と…とんでもないね……リアル四次元ポケットじゃないの、こんなの……」

 

「そうね、仕舞った物ならサイズも何も関係無く取り出せるものね」

 

「…って、ちょっと待って?その能力を使えば、京都まで一瞬で帰れるんじゃないの!?」

 

「そうよ」

 

「おおおおおおっ!!東京から京都まで一瞬とか夢みたい!!帰りはこれで帰ろっ!!!瞬間移動みたいなの体験してみたいわ!!!」

 

 能力で帰るなんてそんな怠惰な…という言葉は無意識のうちに飲み込まれた。蓮子の楽しそうな顔を見たら断るなんて出来なくなってしまった。断れるワケがない。

 

「それじゃ、誰にも見つからないように私の家に繋ぐけど、それで良いわね?」

 

「はーいっ!!あーあ、早く明日の朝にならないかなー♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ある日の大学帰り。揃ってアパートに入り、準備物を確かめる。不足している物資は、何一つありはしない。完璧だ。これなら最悪でも死にはしない。全ての確認を終えた私は、蓮子の目の前でスキマを開き、1人になっている状態のお父さんを呼んだ。

 

「お父さん。準備、整ったよ。お迎えお願い」




プログラム中の線画機能は神。線画が狂ってたらプログラムが間違ってるっていう事ですからね。工業系の人は特に分かるはず…。
NCフライス盤使った事はあるのでそんな感じで考えてますが、実際の3Dプリンターとはかなり違ってそうですね…(汗)
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