賢者の娘は外の世界に留学したようです   作:エスカルゴ・スカーレット

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第3章:決意
カルチャーショック


「オッケ、今行くよ。玄関で合流しよう」

 

「わかった」

 

 スキマ越しに短く会話した後、お父さんは私の目の前で姿を消した。魔界神から貰った能力で、アパートの玄関に瞬間移動したらしい。おかげで妖気が溢れかえるような感覚がする。

 

「来たぞ茜ー。荷物持って出てこーい」

 

「はーい、今行くー。行こ、蓮子!」

 

「そうね!」

 

 とは言っても、荷物なら私のスキマに全て収納してあるので、私達は手ぶらだ。あの時菫子から聞いた話によると、幻想郷は圏外なのでスマホを持っていく意味はあまり無い。用途と言えば偶に写真を撮る程度だろう。しかし私達は情報漏洩を避ける為にスマホすら置いていく事にした。

 

「あれ、手ぶらなのか」

 

「必要な物なら、全部スキマに仕舞ったからね。お父さんと同じよ」

 

「成程、そりゃ効率的だ」

 

「お父さんと同じ……え?エスカルゴもメリーと同じ能力持ってるの…?でもこの前《境界を操る程度の能力》を持ってるとは言ってなかったよ?あー、まさか隠してたのー?ズルいな〜」

 

「あぁ、俺の場合は少し特殊でさ。娘に頼んで、ポケットの中の空間を広げてもらってるんだよ。だから、ほぼ四次元ポケットみたいなもんだな」

 

「娘…メリーとは違う?」

 

「そ。まぁいずれ会う事になるかもしれないな。母親に似て、超絶可愛い娘なんだぜ」

 

「いずれって言うか今から会う事になるでしょ。まずはレイチェルに会いに行くって、お父さんが言ってたじゃない」

 

「あーそーだった。んじゃ紅魔館近くに飛ぶぞ、茜と蓮子は手ェ繋ぎな。置いていくぞ」

 

「「はーい」」

 

 すると私の肩にお父さんの大きな手が置かれ、瞬間移動を発動させた。視界が一瞬真っ白になり何も見えなくなるが、すぐに色を取り戻す。とは言っても、地面と数m先しか見えないが…。

 

「ほい到着っと」

 

「っ…おぉ……おおっ…!霧でよく見えないけど自然に囲まれてるのが分かるわッ!!緑の匂いが濃い!大自然の中よ、ここ!!あははっ♪」

 

「匂いとか野生かよ…」

 

「お父さんも匂いとかで判別してるでしょ」

 

「俺は野生児だからね、多少はね?」

 

「えぇ…」

 

 この空気、少し久しぶりかもしれない。京都や東京とは違う、自然の匂い。菫子の家の周辺も、緑はそれなりに多かった。それでも色々な意味で幻想郷には及ばない。

 私はそんな感傷に浸っているが、一方で蓮子は霧の中でも構わずキョロキョロと見回している。

 

「それにしても霧が濃いわねー…数m先までしか見えないじゃない」

 

「ここはいつもそうなのよ。だから、霧の湖って呼ばれてるわ」

 

「ふーん…湖ってことは魚とか居るの?」

 

「人魚みたいな妖怪なら住んでるけど普通の魚はあまり居ないわ」

 

「へー…セイレーンみたいに歌ったりするの?」

 

「たまに歌ってるわね。惑わせる力は無いけど」

 

「ふーん…一度会ってみたいなぁ…。だけど色々見たいし…んー…どーしよ、何するか迷うなぁ」

 

「とりあえず、レイチェルに会いに行きましょ。まずはそれからよ」

 

「そだね!…あれ、何でその子に会うんだっけ」

 

「言ったじゃないの…。確率を操ってもらって、蓮子が幻想郷で死ぬ確率を0にしてもらうのよ。私とお父さんが居ても100%絶対では無いから」

 

「そうだったそうだった。それじゃ2人共、案内お願い!」

 

「言われなくても♪」

 

「くれぐれも俺から離れんなよな」

 

 どうやらお父さんは、紅魔館側から見て対岸に瞬間移動したらしい。少し周囲を見せておきたいという気持ちの表れだと思うが、生憎今日は普段よりも霧が濃い為、そう上手くはいかなかった。

 今は夏だったような気がする。なのに霧の中は涼しい。という事は…居る。氷の妖精のチルノがこの近くに居るとみて間違いない。

 

「安心しろ茜、館に着くまでは誰にも会わない。そういうルートを歩いてきてるからな」

 

「へっ?…そ、そう…なの?」

 

「絡んできそうな子なら俺らの反対側にいるよ。レイチェルに操作してもらうまでは、出来るだけ誰かさんとの遭遇は避けたいからな」

 

「それは私もそう思うけど……何で分かったの?私がそれ考えてるって…」

 

「不安そうな顔してたからな。父さんの洞察力、舐めちゃいけないぜ?」

 

「…女心は分からないくせに、よく言うよね…」

 

「言うようになったなぁ茜も。ほら、よく女心と秋の空って言うだろ?つまりそういう事だ」

 

「端折りすぎ…」

 

 お父さんは偶にこういう鋭いところを見せる。第六感なのか、単なる勘なのか…。本当に、よく分からない人だ。6年間一緒に居るが、それでもお父さんの本質はあまり見えてこない。

 

「あれ?ここだけ妙に地面が抉れてるね。しかも水が流れ込んで湖が不自然に広がってる…。一体どうしてこんな…」

 

「あー…これって確かお父さんのせいだよね…」

 

「俺のストレス発散だな。深い意味は無いから、蓮子が幾ら深く考えても答えは出てこないぞ」

 

「ストレス発散ッ!?地面抉れてるじゃん、何をどうしたらこうなるの!?」

 

「雷一つ落としただけなんだけど…」

 

「うわー……。出たよ、常識外れな事をしといて軽く言ってのけるヤツ…███系と同じじゃん。ねぇ、メリー?」

 

「いや〜……これくらいの地形変化は幻想郷じゃある意味普通だし…」

 

「え゙っ……」

 

「何なら竹林の大半が吹き飛ぶとかもあるしね…湖の面積が広がるくらい普通よ。現にこっちじゃ問題にもなってないし、誰も気にしないからね」

 

「うへぇ…妖怪パワー怖い…」

 

「それにこれ、確か15年くらい前の話だからな。誰がやったとか、忘れてる奴が殆どだと思うぜ。紅魔館の皆は、近所だから覚えてそうだけど」

 

「紅魔館って?」

 

「今から行く真っ赤な館の名前さ。因みに、主な住人は皆俺の嫁か彼女か娘な♪」

 

「うーわ、女たらし〜」

 

「ふははは、何とでも言うがいいさ〜」

 

 何だかんだでお父さんと蓮子も仲良くやってるようなので、安心した。蓮子は男に興味が無いと言っていたので、ここから恋に発展し、結果この2人がくっつくということはきっと無いだろう。もしあったら、私の立場が…。

 

「お…おぉ〜っ…あれが紅魔館かな…?ド派手な紅だね…紅すぎて目が痛くなりそうだよ…」

 

 確かに。見慣れて忘れていたが、外の建物等と比べると些か目に良くなさそうだ。妖怪の私にはあまり関係の無い事だろうが。

 門番の美鈴は、しっかり起きていた。意外だがここ数年はちゃんと起きているから驚きだ。

 

「おやエスカルゴさん、お客様ですか?」

 

「そうそう。茜とその友達。レイチェルに頼みがあってさ」

 

「茜?えっ…あなた茜さんだったんですかぁ!?え〜…少し見ない間に大人っぽくなっちゃって…こりゃあ驚きましたねぇ…。えー…見た目だけで言えば茜さんが長女さんじゃないですか…」

 

「あはは…まぁね…」

 

 これでも私は6歳だし、巫月お姉ちゃんは15歳だから、実に9歳も離れている。見た目で言えば完全に逆だが、これは継いでる血のせいだ。私はお母さんの血を濃く継いでいるので、お母さんと似た成長を遂げたのだ。

 

「どうぞ、お通り下さい。エスカルゴさんと一緒でしたらOKでしょう。多分」

 

「「多分て」」

 

(門番なのにそれでいいの…?まぁ私としては楽に通れて有難いんだけどさ)

 

 相変わらずだなぁ、としみじみ感じる。思えば私が最後に紅魔館に来たのは結構前だったような気がする。宴会にも顔を出さずに勉強漬けだったあの頃が懐かしい。

 

「まぁいいや、俺にとっては帰宅も同然だしね。遠慮なく通らせてもらうね、サンキュ」

 

 お父さんは美鈴の頬を軽く指でつつき、蓮子と私は美鈴に軽く頭を下げて門を通過する。そして玄関を開けると、メイド服を纏った銀髪の少女…いや、幼女が急に現れた。

 

「うわー、中もトコトン紅い……って、えっ!?えぇっ!?何今の、瞬間移動!?」

 

「時間を停止させて移動してきたんだよ。普通は認知できないから、瞬間移動に見えるんだけど。

…ただいま、弦月姫」

 

「お帰りなさいませ、お父様。そして、ようこそおいで下さいました、蓮子さん。久しぶり、茜」

 

 一応私の事も言うんだな、と少しだけ驚いた。というか前2人が敬語なのに私だけタメ口とは、少しどころかかなり違和感がある。まぁ姉だし、これくらいが丁度いいような気もするが…。

 

「あれっ…何で私の名前を…」

 

「この場所に移動してきた際、お父様から事情を聞きましたので。…紅魔館の副メイド長、十六夜弦月姫と申します。以後お見知り置きを」

 

「宇佐見蓮子です…よろしくお願いします……。えっと…お父様に事情を聞いたって…時間停止?した時に聞いたって解釈で…合ってます…か?」

 

 自分よりかなり小さい子供があのような対応を見せたからなのか、蓮子の口調がよく分からないことになっている。というより時間停止だ何だと彼女の頭の中で情報が錯綜しているようだ。

 

「そうです。お父様は時間停止の影響を受けない体質ですので」

 

「体質って…。ね、エスカルゴチート過ぎない?私もその体質になりたいんだけど?」

 

「と、俺に言われても。…弦月姫、レイチェルは今どこに居るかわかる?」

 

「今はアフタヌーンティーの時間ですので中庭のテラスに。お嬢様と妹様もご一緒です」

 

「分かった。一緒に行こうぜ」

 

「はいっ♪…蓮子さん、どうぞこちらへ。紅茶の準備は整っておりますので」

 

「は、はい…」

 

 いつ準備したのか全く分からないが、弦月姫のことだ、時間停止で何とかしたのだろう。時間が停止すると私には認知出来ないので、お父さんと弦月姫お姉ちゃんが何を話して何をしているのか全く分からない。

 弦月姫お姉ちゃんとお父さんは、館の中の長い廊下を並んで歩いている。私と蓮子はその後ろをついていく。すると蓮子は歩きながら私に小声で話しかけてきた。

 

「ね…あの子ってメリーの妹…?」

 

「ううん、お姉ちゃん」

 

「お姉ちゃんんんっっ!??」

 

「ちょ、蓮子、声大きいって!」

 

「ごめん…。でも、どう見ても子供…というか、少女にもなりきれてない幼女じゃないのよ…」

 

「プライバシーに配慮して年齢は言わないでおくけど、私とお姉ちゃんは6歳離れてるよ……」

 

「姉と妹が逆でしょそれ…!」

 

「母親の血が違うから、どうしても成長の仕方に差が出ちゃうのよ。前に言った通り私は6女なんだけど、見た目だけなら本当に長女だからね…」

 

「ええええ〜……」

 

「聞こえてるわよ茜?」

 

「ひぃっ!?」

 

「だよねー…吸血鬼は地獄耳だもんね…」

 

「分かってるならひそひそ話なんてやめなさい、全部筒抜けなんだから意味なんて全く無いわよ」

 

「吸血鬼…!?やっぱりその翼って吸血鬼のソレだったんだ…。だけど、吸血鬼って普通は夜行性なんじゃ…」

 

「幻想郷の吸血鬼は昼も夜も活動的よ」

 

「エスカルゴだけじゃなかったんだ…。…やば、有名な妖怪とかは調べてきたのに予備知識が全く通用しないや…。何が何だか分かんないよ…」

 

「……多分、これからもっと驚く事になると思うけど…くれぐれも無駄に大きな声出さないでね…確率イジってもらう前に死ぬかもだからさ…」

 

「ゲッ…」

 

 そんな話をしている内に、周囲が明るくなり、紅ではなく緑に溢れている場所に出た。とうとう廊下から中庭に来たらしい。

 

「もうすぐでテラスですよ」

 

 と言っている間に到着した。そこには館の主とその妹、主の娘、そしてメイド長が居た。全員が吸血鬼で、人間である蓮子にとっては、緊張しか感じないだろうなとふと思った。




インドネシアが首都を移転するそうですねぇ…。
それに倣って、日本も首都移転したらどうかな。
東京から京都にさ。

…ほら、蓮メリの時代は首都が京都だから……。
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