賢者の娘は外の世界に留学したようです 作:エスカルゴ・スカーレット
「うーん、中々見つかんないなぁ。気配探ってんのに兎と雑魚の気配しか見つかんねぇ。ちょっとタイミング悪かったかなぁ……」
「雑魚って?」
「低級妖怪。タダの知性無しだから全く以て話は通じない。もしそういうのに襲われたら、殺るか気絶させるんだ。まぁほぼ殺すな。後から兎とか人間に被害出るかもしんねーから」
「吸血鬼にとっては雑魚でも兎や人間にとっては脅威になり得るからってことね?」
「そゆこと。それと『吸血鬼にとっては』というより『大抵の妖怪にとっては』だな、あんなのは妖怪なら誰でも倒せるレベルだし」
「へー……」
私も気配を探ってみるが、確かにそうだった。動物の兎も居るが、妖怪兎の方もいる。そして、竹林内で蠢く低級妖怪達。因みに影狼は居ない。妹紅ほどでは無いが、彼女もこの竹林には詳しいので、妹紅の家まで案内してもらおうと思ったのだが……そう都合よくはいかないらしい。
「もこたーんどこですか〜?もこたんもこたん、近くにいるなら返事して下さーい、もこたーん」
「─────って、お父さん何を言ってるの!?もこたんってその呼び方、言っちゃ悪いけど少しキショイかも……」
「こう呼ぶとかなりの高確率で来るんだよ。多少代償は有るけどさ」
「えぇ〜……ていうか代償って何……?」
「んーとなぁ、具体的に言うと……」
ピッと指を立てて説明しようとするお父さん。しかしお父さんが説明を始める前に、周囲を観察していた蓮子が空を指さして大きな声を出す。
「メリー!空から女の子がッ!!」
空から女の子なんて幻想郷では当たり前だが、初めて来た蓮子としては新鮮なのだ。誰だろうと思いながらそちらに顔を向けた───その瞬間、私のすぐ横を、炎を纏った少女が通り過ぎた。
「一遍死ねッッ!!!」
「ギャアアアアアッ!!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!」
強烈な蹴りを頭に喰らったお父さんは、火達磨になりながら地面で転げ回って、やがて炭化して死亡してしまった。が、次の瞬間には雷の蝙蝠が出現し、何食わぬ顔で登場した。
蓮子は一部始終を見ていたが、驚きのあまり、声も出せない様子だった。
「……これが代償だ」
「えー……」
「え……何があったの、今……?」
「死んだから復活したの。これが不老不死よ」
「ッッ……!お、思ってたのと全然違うなぁ……完全に死なないんじゃなく、死んでから蘇るって感じなんだね……」
「そうね。どちらにせよ、完全には殺せないことには変わりないわ」
「なるほど……っていうか今のってアレかな!?ファストフード店でのイリュージョン!!」
肉体が消え、黄色の蝙蝠の出現、本人の登場。復活の為のこのプロセスを目の前で見た蓮子は、瞬時にそちらと結び付けた。その結びつけた結論が当たっているから、蓮子は本当に凄い。
「そうよ。当たり所が悪かったのか、あのときのお父さんは慧音の頭突きで死んだのよね。多分。それと、今来たあの人よ、不老不死の『先輩』」
「あの白髪の女の子が……」
「見た目は女の子だけど、軽く1300年は生きてるはずだから圧倒的年上よ」
「そっか、
私達がこっそりそんな話をしている間、妹紅とお父さんも何やら話し込んでいる。妹紅は色々と文句を言うが、当の本人はヘラヘラしていて話を聞き流している様子だ。
「全く、そう呼ぶなって何回言ったら分かるんだお前。ホントに殺すぞ」
今殺したばかりじゃないか、というツッコミを何とか飲み込む。私はツッコミ気質ではないはずだが、あれはツッコミたくなる。
「まぁまぁ、そうカッカすんなって。せっかくのお客の前でよ?」
「あぁん?客ぅ?……あぁ茜じゃないか。何だ、暫く見ない間に随分と大きくなったな。……もう1人は?」
(『暫く見ない間に随分と大きくなった』とか、久しぶりに会った親戚が言いそうなセリフねぇ。ていうか私のことを『もう1人』扱いって。まぁ別にいいんだけど……)
「久しぶり、妹紅。こっちは私の友達の……」
「宇佐見蓮子よ、宜しく。不老不死について少し話を聞かせてもらえないかしら?」
「宇佐見?その苗字、その帽子……お前まさか、菫子の子孫だったりするのか?」
「いかにも!宇佐見菫子は私のお婆ちゃんよ!」
「へー、やっぱりそうなのかぁ!私は藤原妹紅、宜しくな」
「ええ!」
眩しい笑顔でガッシリと握手を交わした2人。初対面であの妹紅と打ち解けるなんて……と私は内心で舌を巻く。菫子の孫という肩書きのおかげなのか、蓮子のコミュ力の賜物なのか。妹紅は、決して人に馴れ合うタイプではないので、きっと菫子関係というのが大きいのだろう。
確か妹紅は菫子と仲が良かったとお父さんから聞いている。因みに
「そっか、孫なのか……道理で何となく似てると思ったよ。菫子は元気か?」
「そりゃあもう!お婆ちゃんになっても超能力は健在だしね!」
「そうか……元気にやってるんなら良いんだよ。ところで、不老不死についてってのは一体?」
「あなたは不老不死に反対派だってエスカルゴが言ってたから、リスクとかを聞いておきたいなと思って!」
「聞いておきたいだと?蓮子……だったか。お前まさか不老不死を望んでる訳じゃないだろうな?絶対に辞めておけよ」
「どうして?」
「……不老不死になると、まず最初は己を大切にしなくなる。そして何れ孤独になる。このバカは私の忠告を無視して不老不死になったんだが……その結果として、よく自爆するようになったよ。まぁ、かくいう私も、技の大半は自分もダメージ喰らうんだが」
「自爆技かー……」
「そうだ。さっきはあのバカを蹴り飛ばしたが、私は炎を纏ってたろ?だから……ほら、見てみろ私の足。火傷してるだろ」
モンペを少し持ち上げて、足首を見せる妹紅。痛々しい火傷があるが、妹紅にとってはこれすら日常生活内なのか、全く意に介していない。
「痛くないの……?」
「そりゃ痛いさ、痛覚はあるんだから。でも全く気にならなくなる。どうせすぐに治るんだしな。そう考えると自分を大切にしなくなっていって、やがては私やあのバカのようになっちまうのさ」
「私はそんな風にはならない……と思う」
「そう思っていてもそうなるんだ。お前は、自分よりも大事なものはあるか?」
「そりゃあ、あるわよ。それがどうかしたの?」
「自分の大事なものを守る為なら不死者は命をも捨てられる。何せ、死んでもすぐ復活だからな、命なんてのは石コロの如く惜しくなくなるんだ。そうだろ?」
「……うん」
確かお父さんが不老不死になった直後、偽鈴仙から毒団子を盛られたと聞いている。その際に、永琳は躊躇いなくその毒団子を食べたとお父さんが言っていた。輝夜は、かなり長い間妹紅と殺し合いをしていたらしいし、やはり不死者とは何れそうなるものなのかもしれない。サグメは今の所大丈夫だそうだが……。
「この考えに頷いた時点で……お前が不老不死になった場合の未来はほぼ確定したな。その大事な何かを守る為なら、お前は自分の命を捨てる」
「あなたは私に『自分を大切にして』ほしいの?でも大丈夫よ、私の命は私のもの。自分の大切なものを守れるのなら、無限にある命、いくらでも捨ててやるわよ。尽きることがないなら捨て放題じゃないの」
「外の世界の人間の割に、考え方が幻想郷の奴に近いな。いや、バカそのものだ。なぁ大バカ?」
「うっせ」
「お前、蓮子に余計な事を吹き込んだな?普通の人間はこんな考え方しない筈だ。不老不死を望む人間は多いがその後に訪れるであろう未来に恐怖してしまう者だって少なくない。だがコイツは、
「不老不死になる方法がある。聞かれた質問に、俺はそう答えただけだ。不老不死の仲間ならもう何人もいる。サグメ、輝夜、永琳、そんで妹紅、お前もだ。神様だって不老不死に近いもんだし」
「サグメはまぁ、お前の女だし、そこはどうでも良い。だが蓮子は違うんだろう?あくまでも茜の友人で、お前とは関係無いはずだ。無関係の者を巻き込むのは止めろ。ロクに責任も取れないのに無闇に他人の人生を狂わせるな」
「あぁ、責任なんて取れねぇな。もし仮に蓮子が不老不死になった事を後悔しても俺は責任なんて取れるはずがねぇ。だが妹紅、俺は『不老不死になる方法があるか』と問われたから素直に答えただけだ。『はい』『いいえ』で答えただけである俺のどこが悪いってんだ?」
「そこは嘘をついてでも『人間から不老不死にはなれない、俺は妖怪だからなれたんだぞ』とでも答えれば、また違った結果になったかもしれないじゃないか」
妹紅本人が「人間から不老不死になった」からこそ、こうも止めてくるのだろう。彼女は昔から散々苦しんでいた、とあちこちから聞いている。今でこそ生に楽しみを見出しているようだが。
「悪いな。俺は、蓮子の好奇心を満たす手伝いをしてるだけに過ぎねぇんだ。それに、蓮子は元々不老不死への興味・憧れはあったらしい。なら、あまり結果は変わらなかったんじゃねぇのかな、とも思うんだよね」
「だとしても、これ以上この永遠の苦輪に他人を巻き込むのはやめろ。止めてやるべきだ」
「俺は蓮子の意見を尊重する。それが彼女の望みだからだ。それを蔑ろにしてまで、人間としての生を全うする……それで幸福を得たとしても本人からすればまやかしの幸福だろう。何せ、自分の望んだものではないからな。やらないで後悔するより、やって後悔の方が良いだろ」
「不老不死に関しちゃ、やってからでは遅いから言ってるんだいい加減分かれこのバカ!私だって一時はそう思っていた、だがその後は後悔の日々だった!!あんな酷い思いを他の誰かに味わってほしくないからこうやって止めてるんだ私は!」
「……だとさ、蓮子。俺としては、蓮子の望みを叶えてやりたいと思っている。だけど、今妹紅が言ったのも紛れもない事実だ。妹紅本人が、経験してきたことだからな。成るにしても成らないにしても、蓮子が自分の意思で決めて妹紅に決意を伝えて。本人から言われたら妹紅も頷くかもよ」
「うんっ……!」
拳をキュッと握った蓮子は、お父さんの隣から進み出て妹紅の真正面に立った。堂々とした様子からは、揺るぎない決意をひしひしと感じる。
「……ゴメンなさい。私は不老不死になりたい。そして妖怪であるメリーと永い永い刻を過ごす。それが、私の望み……ううん、幸せだから」
「理由は違うが……昔の私を見ているみたいだ。あの時の私には、止めてくれる人が居なかった。だが私は、どうあってもお前を止めてみせるッ!目を覚ませ蓮子、人間は人間として生きることが何よりも幸せなんだ、人間の体を捨ててもそれは真の幸せじゃない!」
「いいや、違うわ!私にとっては紛れもなく真の幸せよ!あなたの言うソレは、あなたにとっての幸せ!あなたと私の価値観は違うし、歩んできた人生も違う!私の幸せは他の誰でもない私自身が決めるのよ!!」
「……そうか。どうしても聞かないってんなら、力ずくで縦に頷かせてやる!!」
「わかったわ!勝負よ藤原妹紅!私が勝ったら、あなたはもう私を止めないで!!」
「私が勝てば、不老不死は諦めるんだな!!」
「望むところよ!!やるわよ、メリー!」
「うん!……えっ?」
「私の初陣の……サポートをお願い!!」
そう言われて思い出した。蓮子にとってこれが初めての戦いなのだ。1人では妹紅に適うわけがない。妹紅も実力者なのだ、超能力者でない蓮子では分が悪いどころの話ではない。
「わかったわ、トコトン付き合ってあげる!」
「ありがとうね、メリー!ここで妹紅に勝って、2人の未来を勝ち取ってみせるわよ!!」
「うんっ!勝つわよ、2人で!」
「そうね!!」
「その気持ちがどこまで続くかな?
蓮子がスカートのポケットに両手を入れたのと同時に、それと私のスキマを繋げて、戦闘準備を整える。そして妹紅が羽のような形の青い弾幕を発射してきたのを合図に、戦闘を開始した。
「2人の未来を勝ち取ってみせる」とかそれもうプロポーズなのでは…。