賢者の娘は外の世界に留学したようです   作:エスカルゴ・スカーレット

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決着と対価

「うわわわっ……これが弾幕!?なんて圧倒的な物量なの……!」

 

「ぶつかったら負け!ドッジボールと同じよ!」

 

「……!りょーかい、それなら得意よ!メリーは防御をお願い!」

 

「わかっ……防御!?じゃあ、蓮子はっ……」

 

「トーゼン、攻めるわッ!!」

 

 不死鳥の羽のような弾幕を掻い潜りつつ妹紅に向かって走り出す蓮子。何度も何度も掠るのが、本当に危なげに見える。

 小型の結界でチマチマと弾幕をガードするも、その都度結界を張り直すのは、少しキツイものがある。

 

「来るか、菫子の孫!いいぞ、その度量に免じて飛ばないで相手してやるよッ!!」

 

「そりゃ有難いわ、さっさと決着つけてあげる!私、体力無いの!!……やぁぁっ!!」

 

 手から零れ落ちそうな程のまきびしを取り出す蓮子。私のスキマ空間と蓮子のポケットを繋いであるから、私達は武器を共有することができる。

 

「ハハッ!なんだそりゃあ、忍の真似事か?」

 

「んあー、投擲技術無さすぎでしょ私ィ〜!!」

 

 蓮子が投げるまきびしは、10mも飛ばずに地に落ちてしまう。私はそれを小型のスキマで回収、再びスキマ空間に入れておく。こうすることで、半永久的に使い回せる。

 

「あァ、そうだ。ルールは、私は一発被弾したら負けでいい。そっちは、まぁ、好きなだけ来な!体力が尽き果てるまでな!!」

 

「言われなくてもっ!」

 

「だがな!見せてやるよ、蓮子!!これが私の、妖怪退治の奥義だ!火符『火葬封印』ッッ!!」

 

 極めて鋭いホーミング性を帯びた燃える御札をこれでもかと放つ妹紅。一般的、もしくは一般的よりも下と思われる蓮子では、あんな弾幕、すぐ被弾してしまう。

 すると、少し離れた場所から私達の戦いを見物していたお父さんが、怒気を含めた彼らしくない(・・・・・)声で妹紅を呼んだ。

 

「オイ妹紅ォ!ソレは俺と輝夜専用のはずだ!!なんで蓮子(にんげん)相手に使ってやがんだッ!?」

 

「威力は落としてるし、当たっても大して燃えやしない!これは勝負だ、外野は黙ってろ!!」

 

「……チッ……。火傷しちまったらキレーな肌がダメになっちまうだろーが……」

 

 成程、確かに妹紅は明らかに手を抜いている。しかしあのホーミングの鋭さだけは本気だろう。左右に加え前方という三方向からの激しい攻めは確実に蓮子の体力を削っている。後方から攻撃が来ないだけまだマシだと思うしかない。私でさえ相殺するのがやっとな密度だ。

 

「蓮子、5mまで近付いて!当てれば勝ちだよ!当てるだけでいーの!」

 

「うぇっ!?む、無理無理!絶対無理だよ!この物量じゃ近付けない!」

 

「っ……あと10秒、10秒だけ耐えて!蓮子を守る結界を張るから!」

 

「じゅ、10秒…………。わかった!信じてるよ、メリー!」

 

 特殊な結界を張るには、それだけ準備が必要。効力を高めたりする呪具などを使用しないから、それだけ時間を要する。激しい戦いの中での10秒というのは、かなり長い時間だ。

 それまでは……蓮子に賭けるしかない。

 

「オイオイ、思ったより介入するじゃあないか、茜!お前はサポートに徹してな!」

 

「分かってるわよ、邪魔しないでくれるっ!?」

 

「……ほー、言うねぇ!これならどうだッ!」

 

「ウソ…………数、また増えてるじゃない……!あ、あははっ……やばいわ、なんだかテンション上がってきた……!アドレナリン出まくってる!今の私ならイける!!」

 

「あと5…………っ、蓮子!?」

 

 ホーミング弾による強襲が蓮子を襲う。しかし本人は、全身に掠るのも恐れずに妹紅へ向かって走っていく。直接被弾しないのが奇跡のようだ。

 

「おかしい……何で当たらない……!?」

 

「『アキレスと亀のパラドックス』の応用よっ!弾幕が私を捉え、向かい始めたとき!私は更に、前へ進んでいる!追尾弾の弱点はゲームも現実も同じ!動き続ける、ことよ……!!」

 

 蓮子の体力がそろそろ限界だ。アドレナリンで誤魔化せるのももう少しだろう。あと2秒、このあと2秒が長く感じられる。

 妹紅は後退しつつ弾幕を放ち、蓮子はひたすら走って追いかけている。恐らくこれはホーミングばかりだからこその戦法だ。もしも普通の弾幕が紛れていたらすぐに被弾していた。

 

「いくわよ、蓮子……ッ!全力出して!!」

 

 結界を発動させた。薄水色で半球状の結界が、蓮子を覆う。前後左右、上部を保護するためだ。そしてこの結界は蓮子と一緒に移動するし、まだ機能がある。

 

「なっ……!?私の弾幕が……」

 

「おぉーっ!弾幕がジュウジュウ消えてくわっ!凄いわメリー!……あ、でもこれ私からの攻撃も通らないんじゃ……」

 

「大丈夫よ蓮子!あなたの攻撃は通る(・・・・・・・・・)!!」

 

「ッ!?わ、分かった!!コレで決めるわ!!」

 

 まきびしを放り出し、ポケットに手を入れる。そして西部劇のガンマンのように取り出したのは一丁の拳銃────3Dプリンター銃だった。

 当選ながら菫子の銃ではなく、蓮子が自分用に作っていたあの銃だ。

 

「トドメよ、藤原妹紅!!」

 

「な、にィッ……!?」

 

 妹紅は火炎による陽炎(かげろう)で撹乱しようとするが、蓮子の照準は一切ブレない。真っ直ぐに、銃口を妹紅に向けている。

 

「──────……っ」

 

 結界に守られながら引き金を引く。夜の竹林に鼓膜が破れるかと思うほどの轟音が鳴り響くと、次の瞬間には妹紅の胴体に風穴が空いていた。

 

 

 ◆

 

 

 妹紅との戦闘後、蓮子は先程の結界の仕組みを事細かに尋ねてきた。色々と説明しにくいことがあるので、かなり端折って解説した。「一定以上の運動量を持つ物体しか通さない結界」だと。

 運動量は質量×速度だ。妹紅の御札の弾幕は、速いが質量はかなり少ない。御札だからである。その点、蓮子の3Dプリンター銃の攻撃は違う。金属の銃弾は御札より重いし、御札よりも速い。

 つまり、もし妹紅が肉弾戦に移行したらすぐに負けていた。体格的に見れば蓮子より妹紅の方が重いのだろうし、走る速さだって蓮子より速い。

 賭けに勝ったから勝負に勝った。それだけだ。

 因みにこの結界は、博麗大結界の超劣化版だと言える。コレの発想元が、博麗大結界だからだ。

 

「おめでとう蓮子、メリー。良い戦いだったよ。だが……メリー、お前なぁ……またデタラメな結界作ったなぁ……。おっかねぇおっかねぇ」

 

「えへへ、まぁね……」

 

 そして蓮子は、不貞腐れる妹紅に説得をする。かなり長々と言うものだから、お父さんは近くの雑魚妖怪を狩って時間を潰し始めているほどだ。

 

「と、いうわけで。私は不老不死をそう簡単には諦められない。でも、簡単には決めない。一時の迷いでもないことを、悩んで悩んで悩み抜いて、ハッキリさせる!そしてこれから訪れるであろうどんな困難も、頑張って乗り越えてみせるわ!」

 

 妹紅を相手にとり滔々と述べ立てるその姿は、さながら大魔王を説得しようと舌戦を繰り広げる勇者のようだった。

 妹紅も反論するが蓮子も更に反論し、ついに、妹紅は派手に舌打ちをし……。

 

「もういい!どいつもこいつも永遠の苦輪に身を投じやがって……!お前の人生だ、お前の好きに生きな!何があっても死ねないという事を絶対に忘れるなよッ!!趣味が『自殺』になっても私は知らんからな!!忠告はしたからなッ!!」

 

 吐き捨てる様に言い残すと、戦闘後であるにも関わらず炎の翼を出して、夜の竹林の上空へと、飛び出して行った。

 それに気付いたお父さんは先程の妹紅のように空から舞い降りてきた。

 

「あーあ、妹紅が諦めちゃった。こうなったら、誰が蓮子を止めるんだろうなぁ?」

 

 なぁ、メリーよ?と付け足し、お父さんは私を見てケラケラ笑っている。お父さんは、私に何を期待しているんだろう。……私は蓮子と永く永く一緒にいたいと思っている。だから妹紅のように声を大にして反対したりはしない。それは、私の意思と反することだから。

 だけど、蓮子の家族のことを想うと、やっぱり不老不死になるのはダメじゃないか、とも思う。

 

「ちょっと、何よ?メリーに私を止めさせる気?私に賛成しておいて、それは酷くない?」

 

「賛成はしてない。さっき妹紅にも言ったけど、俺は、あくまでも不老不死になる方法を知ってるとしか言っていないぞ。ただ、蓮子の意見を尊重したいってだけ。それに、それを実行するのは、俺の気持ちひとつだからな」

 

「え、何よそれ!不老不死になるって説得して、不老不死になる為にあの人を説き伏せたのよ!?なのに今更、不老不死にするかどうかはあなたの気持ちひとつって……あんまりじゃない!?」

 

「つーか、何の対価も無しに、人間の肉体、理、倫理、(しがらみ)……その他諸々の君自身を縛るものを捨てられると思うんじゃないぞ?」

 

「……脅してるの?」

 

「さぁ、どうだろうな。脅しと受け取るか事実と受け取るかはそちらに任せるよ。だがこれだけは覚えておけ。なんの対価も無しに、悪魔が願いを叶えてくれると思うな?」

 

「……悪魔……」

 

「悩め。考えろ。生きてるうちしか、その優秀な頭は使えねぇ。そんでもって結論が出たら、また俺に『不老不死になりたい!』って言ってみな。そんときゃあ、しっかり対価を受け取った上で、正真正銘、不老不死の肉体にしてやるさ」

 

「…………」

 

「それじゃ、今晩の案内はこれくらいにしよう。宿屋に泊まるんなら、この先はメリーが案内してやってくれ。俺は帰るぜ」

 

「わかっ────」

 

「待って!!」

 

 飛び立とうとしたお父さんの翼を、蓮子は強く掴んで引き止めた。まさか、もう覚悟が決まったなんて言うつもりなんじゃ……と思ったが、私の心配は杞憂に終わった。

 

「どうした?まだ大して考えてないだろ」

 

「ううん、そうじゃないの。さっき言っていた、対価って一体何なの?やっぱり悪魔なら、魂とか求めてるの?」

 

「対価を聞いてどうするつもりだ?それを聞いてどうしても払えないものなら『諦める』ってか?なら、所詮はその程度の覚悟だった、ってことになるけど」

 

「そうじゃないの!あなたに魂を渡したら、私が不老不死になる意味が無い!だから教えて……!対価は魂かそれ以外なのか、それだけどうしても聞きたい!対価と聞いて、臆したわけじゃない。対価を払う意味があるかどうか(・・・・・・・・・)だけ知りたい!」

 

 臆したのではなく、意味があるかどうかだけを知りたい。なんて蓮子らしい、無鉄砲で、論理的だけど倫理に欠如した、純粋な考えなのか。

 そこまで考えているなんて、彼女は、どれだけ考えが深いんだろう。私は、これまでの人生で、そこまで深く考えた事など、無いかもしれない。いつもお母さんに言われるばっかりで、流されるばっかりだった。

 すると、お父さんは振り返って言う。

 

「安心しな。俺は、魂なんて求めてないからな。でもそれ相応の対価は払ってもらう。それが一体何なのかは自分の頭で考えろ。己が何をするか、何を失うか、何を得るか、何に成るのか……俺が対価を提示したとき、どんなものでも(・・・・・・・)払うだけの覚悟があるか。死ぬほど考えときな」

 

 それだけを言うと、優しく蓮子の手を解いて、月が昇る東の空へと飛び立って行った。蓮子は、引き留めもせずに、飛び立ったお父さんを無言で見送り、やがて大きな溜め息をついた。




アキレスと亀のパラドックスとは

ゆっくり歩く亀を、走って追い掛けるアキレス。
アキレスが亀の居た位置に到着した時、ゆっくりとはいえ歩いてる亀は、その時点のアキレスより少しだけ先に進んでいる。
アキレスはまた亀の居た位置に着く。しかし亀はまた少しだけ進んでいる。
……あれれ?アキレスさん、相手はノロっちぃ亀なのに、永遠に抜かせないのでは??

というのが、アキレスと亀のパラドックスです。
もう論破されてるんですけどね。
詳しく知りたい方はググってみてネ。
蓮子はホーミング性の弾にこのパラドックス性を僅かに見出して、ひたすら走って突っ込むという捨て身とも言える戦法に出たワケです。




蓮子と追尾弾のパラドックス(今考えた)

走る蓮子を追い掛ける追尾弾。
追尾弾は、その時点での蓮子の位置に向かおうとするが、追尾弾がその地点に到着した時、蓮子は前へ進んでいる。(前からの弾幕は左右へ避けているので実際はもっと複雑)
追尾弾は再び蓮子の位置を把握し追い掛けるが、その地点に到着した時、蓮子は更に進んでいる。
これを繰り返すことにより、蓮子は追尾してきた(・・・・・・)
追尾弾には(・・・・・)被弾しない。(正面だと蓮子本人の性能によるので、被弾する可能性アリ)
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