賢者の娘は外の世界に留学したようです 作:エスカルゴ・スカーレット
竹林にてお父さんと別れた私達は、人里内でも大きな宿屋に宿泊することにした。
幸いにも、二人で一晩泊まる程度のお金の持ち合わせはある。初めての幻想郷という事で、私が彼女に奢ることにした。
軽い夜食を頼み、それを部屋で食べたあとは、二人で露天風呂に入る。景色は文字通りの日本の原風景という風情で、名も知らない虫などの声が何とも言えない季節感を醸し出していた。
「幻想郷って良いところだね……。お婆ちゃんが授業中に眠ってまで入り浸ってたっていうのも、納得だわぁ……」
首まで温泉に浸かり、夜空に煌めく星々を眺めながら、蓮子は言う。
薄らと雲が掛かり、朧気な月光が魅せる彼女の横顔はとても綺麗で、現代の輝夜姫にも思える。人間にしては妙にズレた人外的思考回路さえ無視すれば、周りの男共を容易く釣れそうだ。
「でしょう?蓮子とここに来れてよかったわ」
「しかもまさか、不老不死になる方法が実在するとはね……妖怪の存在だとか、そんなことよりも本当に不思議だよ……」
「……やっぱり、不老不死になりたいの?」
「なりたいよ。だって、始皇帝さえ追い求めた、人類の夢だもの。いや、人類の夢だからってのはおかしいかな。……誰も叶えられなかった夢を、私が叶えたいの。ま、実際は何人も先に叶えてたみたいだけど……」
「……そう……」
「────ってのは、少し前までの夢」
「え……?」
「今は違う。今はね、メリーと色んな世界を冒険したいの。あなたと私の二人なら、できないことなんて無い。さっきだって初陣で勝てたし……。つまりね、今私が目指している不老不死は、目的じゃなくて手段だってこと。手段なくして目的は達成できないわ!」
「蓮子……」
不老不死になりたい理由の中に私が入っていて良かった。嬉しい。蓮子にとって私は……私とはそれほど大きな存在になれたのかと思うと、凄く幸せに感じる。
「様々な世界を冒険するどころか、人間……いや生物としての枠を逸脱することになるんだから、そりゃ対価も必要となってくるわよね。そこは、私の考えが甘かったと認めざるを得ないわ」
「……そうね」
「何を要求されても良いように、覚悟しなきゃ。ね、エスカルゴが好きなものってなんなの?」
「可愛い女の子と……可愛い女の子の血と……」
「あとはあとは?」
「……可愛い女の子とのセッ……性行為……」
「げっ……もしかして魂じゃなくて身体を求めてくるの……?そういえば、悪魔の契約って肉体の一部を差し出すと聞いた事があるわ……。魔女の契約なんて悪魔と性交するって話もあるし……」
「えー……流石のお父さんも娘の友達を襲ったりしないでしょ……多分……あははは……」
確信が持てなくなってきた。お父さんなら娘の友達だろうと何だろうと手を出しそうだ。いや、何かあればすぐ手を出すだろう。
でも蓮子とお父さんが性交なんて嫌だ。絶対許さない。もしそんな展開になったらお父さんを軽蔑する。キライになる。絶縁だってしてやる。それくらい嫌だ。
「じゃあ、一体何なんだろうなぁ……不老不死に見合う対価って……」
ぶっちゃけ、蓮子がお父さんにキスでもすればすぐにOKだと思う。でも嫌だ。私が嫌だから。だから、その方法だけは絶対に蓮子に教えない。それにもし、それでお父さんが拗らせたら……。それを考えただけでも、温泉に浸かっているのに寒気がする。
「対価はともかく、もう、決意は固まってるってことでいいの?」
「ううん、実はまだ……。私個人としては大丈夫だけど不安は残ってるよ、そりゃ……。まだ人間だしさ……大学とか周囲の目とか、色々気になるからね……。幾ら私が若く美しいとしても、全く変わらなきゃ怪しまれること間違いなしだわ」
「……何より大事なのは、お父さんやお母さん、家族のことじゃない?蓮子が不老不死になったらいつかバレる時が来るわ。そうなったらどうするつもりなの?」
「…………………」
「蓮子……?」
「!……あぁ、ごめん……ウトウトしてた……」
「今日は疲れたもんね。早めに休も?」
「うん、そうしよっか。深夜まで話したかったんだけどな〜」
「んもー、疲れてるんだからダーメ。温泉でウトウトしちゃってるくらいなんだから……」
「はいはい、わかってるわよ」
「それじゃ、出てすぐ寝られるように布団敷いて待ってるわね」
「おっ、悪いねぇ!私はもう少し景色を楽しんでから出るわ〜」
「寝落ちして溺れないでよね」
わかってるわかってる!!と元気に返ってきた声を背中で受け、私は先に露天風呂を出る。今は蓮子を一人にしてあげよう。彼女もきっとそれを望んでる。
さっきのアレはウトウトしていたんじゃない。思いを馳せていたんだ。大好きな家族に……。
「……お婆ちゃん……私、どうすればいいかな?皆の死を見届けなくちゃダメだとしたら、私……イヤだよ……。お母さん、お父さん……。でも、それでも……夢を追いかけたいって思っちゃ……ダメかなぁ。逃げちゃダメかな……?」
◆
人里内の宿屋に泊まった日を境に、お父さんは私達の前に姿を現さなくなった。
理由は、何となく分かっている。お父さんは、蓮子によく考えさせたいんだ。人間を辞めるとは一体どういう事なのか。その後の人生がどういう歪み方をするのか。……遺された者達が、どんな思いをするのか。
でもそんな数日間を経て、蓮子は答えを出したらしい。何度も聞き返した。だけど蓮子の答えは全く変わらない。
だから今日からは、幻想郷を見て回るのは一旦中断し、お父さんを探すことになった。けれど、相手は幻想郷やその他周辺の世界をも股に掛ける吸血鬼だ。そう簡単に
まずは一番可能性が高そうな紅魔館へ向かった私達だったが……。
「えっ?エスカルゴさんですか?勿論居ますよ、
「「えっ……」」
ケロッとした顔で美鈴は答える。お父さんも、自分の動向を隠すつもりは微塵もないと見える。
それにしても、まさか一発目で当たるなんて、これはツイてるとしか言えない。幸運だ。なら、さっさと会わなければ。ちんたらとしていれば、誰とヤリにイクか分からない。
「美鈴、今すぐお父さんを呼んで。さもないと、強行突破するわよ。本来ならスキマを使って侵入してやってもいいんだから……!」
「えー、でもなぁ……。アポ無しでしょう?今、その……ね?あの〜……メイドちゃんとその……察してください……」
「……でも!」
「アポ無しならダメですよね。うーん……お客人として大人しく待って下さるんなら通しますよ。勿論、許可を取ってからですけど」
「待ってメリー。……美鈴さん、だっけ?私達はエスカルゴに『いつでも来い』って言われてる。これって一応アポ取ったことになるんじゃない?そう言われているのは、本人に確認してもらえばすぐに分かると思うけど」
「……では、確認してきます。ですがくれぐれも大人しく!ここで!……待っていて下さいね」
営業スマイルを浮かべ、美鈴は館の中に戻る。そんな事言ってたかな、と思うが、お父さんなら突飛な話にも合わせてくれそうな気はする。
たまに霊夢並の察しの良さを発揮するお父さんだったら────。
「お待たせしました」
「「……!」」
美鈴はお父さんを連れてきた。かなり待った。かなり長くお楽しみだったようだ。
因みに後でお父さんに聞いたところによると、やはり蓮子の嘘を察していたらしい。そこら辺は流石お父さんだと思う。嘘も方便だな、と苦笑いしていたが……。
「よっ。一週間ぶりくらいかな」
「どうして姿を消してたのよ?案内の役目すらも放棄して……」
「今日は広い丘にでも行こうか。そこで話そう。転移『
お父さんは魔法を使い、私と蓮子を無名の丘へ瞬間移動させた。突然の出来事に蓮子は目を白黒させているが、次の瞬間、お父さんがスキマにて現れたことでどうにか落ち着きを取り戻した。
「配慮ありがと。私としてもこっちの方が気持ち落ち着くわ」
「そっか、なら良かった。……それで?わざわざ俺に会いに来た訳じゃあないんだろ?」
「分かってるくせに」
「さぁ?何の事だかな。自分の口で言わないと、相手には伝わらんぜ。……ほら、言ってごらん。自分が何をしたいか、どうなりたいのかをね」
「私を不老不死にして!」
「覚悟を決めた、か。家族の事はどうするんだ?行方不明のまま、か?そいつは無責任な気もするけどな。俺が言うのもおかしな話だが」
「ええ、そう!無責任よ!でもそれでいいの!」
「と言うと?」
「私は昔から不老不死に憧れがあった。だから、私の家族は皆、私の夢を知ってるの。特に、この幻想郷に通っていたお婆ちゃんは、確信してた。私がいつか、本当に不老不死になるってことを。不老不死の実例、藤原妹紅と親交があったから、この世には不老不死が存在する事も承知の上ッ!私はお婆ちゃんっ子だからね、お婆ちゃんにだけ真実が伝わっていれば、それで満足!現し世には何の未練も無いわ!」
早口で言い切った蓮子は、肩を上下させて深く深く息をする。言いたい事は全て言った。だからこの先はお父さん次第で全てが決まる。
蓮子の人生も、蓮子の家族の人生も……そして私の人生も……。
「自分の夢の為に、父母に寂しい思いをさせる事すらも厭わない。クフッ……イイね、その歪んだ自己中…!!そうだよ、蓮子……俺はその覚悟が聞きたかったんだ……」
「え……」
「不老不死なんてモノは、どう足掻いても周囲を振り回す代物なのさ。だからな、不老不死者は、少なからず自己中だ。現在はそうでなくてもな、不老不死を選んだ時点では、どうしても自己中な心が混じってる……!生きたい、死にたくない、復讐したい、この人と運命を共にしたい……ッ!己のその欲望を満たす為なら、生物の理すら捻じ曲げて己が生きる道を選ぶんだ。理由はどうあれそんなブッ飛んだ自己中な覚悟を求めてた……」
「………」
「さぁ言え、蓮子。家族や経歴、己の全てを擲つ覚悟の言葉を。悪魔である俺に言ってみろッ!!この世界の理すらも捻じ曲げる、究極の自己中を魅せてみろ!」
「生命の理にも倫理にも、人間としての人生にも縛られたりはしない!私の人生は私が決める!!この先ずっと、永遠に……ッ!!私はメリーと、永遠に冒険するんだからっ!!」
「……蓮子……」
長年共に過ごした家族よりも、冒険を選んだ。いや、優先順位を付けて選んだと言うよりかは、大丈夫だろうと家族を信頼して……任せたんだ。
特に、お婆ちゃんなら分かってくれると……。
それでも、人としての人生より、私との冒険を優先してくれるのはとても嬉しかった。私なんてもう、目頭が熱くなってきた。どうしてだろう、幻想郷での生活で嬉しくて泣いたことなんて無いはずなのに。
「蓮子……ありがとう……」
「へへっ……。さぁエスカルゴ!私の覚悟はもう伝えたわ!私を不老不死にして!」
「ああ…………分かった。それじゃあ約束通り、対価を払ってもらおうか」
「……覚悟を伝えるのが対価……じゃなくて?」
「そんなことを言った覚えは無いぞ。不老不死の対価ってのは……そう……。交換だ。命には命で払ってもらう」
「え……それはやらないって言ってたじゃない!嘘ついたの!?私を騙したの!?」
「勘違いするな、誰が蓮子の命を貰うと言った?無論、メリーの命でもないけど。愛する娘の命を欲しがる奴が居るかってんだ。だろ?」
「じゃあ、誰の命を欲してるって言うのよ……」
動物でも生贄にしろってのかしら、などとブツブツ言っていると、お父さんは柔らかく微笑んでとんでもない事を言ってのけた。
「俺だよ、蓮子」
「?」
「
「は……?」
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〈 To BE CONTINUED…//// |
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