賢者の娘は外の世界に留学したようです 作:エスカルゴ・スカーレット
「メリー、見てよこれ!これもだよ、これも!!これの現場も日本だってっ!!」
「聞こえてる聞こえてる、とりあえず落ち着いてちょうだい…」
ネットに掲載されているとある画像を指さして、目を輝かせながら狂ったように喚く蓮子。私は、そんな彼女をただただ宥めようとするが、彼女はそんなこと知ったこっちゃないと言わんばかりに矢継ぎ早に言葉を紡ぎ出す。
「だって、現代の日本にあんな異形が現れてたと知ったらテンションも上がるじゃない!?しかも今回は割と最近なの!!」
「気持ちは分かるけど落ち着いて蓮子、ガッツリ目立っちゃってるから…」
「図書館ではお静かに。…宇佐見蓮子さん?」
「こりゃ失礼失礼…あははは…」
(もうっ、蓮子ったら…)
私達秘封倶楽部の活動場所は、またもや図書館。ネットもあって本もあって、文句無しの活動場所である。一つ不満を言うとしたら、テンションが上がってしまった蓮子を宥めるのが大変なこと。今だって、司書に目を付けられてしまった。
私達が出禁になるのも時間の問題かもしれない、という考えが浮かぶ程度には、何度も司書に注意されている。勿論、注意の対象は蓮子だけだが、一緒に居る私まで出禁にされかねないと思う。
「────で?今度は何の記事を見付けたの?」
「これこれ!」
活動内容は相変わらず“消えた破壊者”について。なので蓮子が見付けたのもそれ関連の記事の筈。彼女が指さすそれを見て、私は目を見開いた。
写っていたのは、“消えた破壊者”の方ではなく、そっくりさんである私のお父さんだったのだ。
尤も、見えるのは顔だけで、身体は黒いローブを纏っているせいで見えない。だが、あんな特殊なオッドアイは間違いなくお父さんだと言える。
「げ…現場は?」
「それが…実はここ、少年Eの出身地福島にあるファストフード店なの!」
「へ、へぇ…また少年E絡みなの?」
「お父さん=少年E」なのは相変わらず秘密だ。でも破壊者はお父さんではないので、今回のこの案件は破壊者絡みではなくお父さん絡みとなる。これは面倒な事になった。ボロを零さないように気を付けて喋らなければ。
「そうそう!だから破壊者はこの人なんじゃ…?と思うんだよねー…。顔、鮮明に写ってるよね?少年Eと比べたら……ほら!目の色違うだけで、これもうほぼ同一人物じゃん!?ていうか、そうなんじゃないのッ!?」
「ン゙ッン゙ン゙ッ!」
保存していた少年Eの画像を別タスクで出力し、あからさまに興奮する蓮子。司書はわざとらしく咳き込んで彼女を軽く睨みつけたが、それを見て
「やばっ」と小声で呟いただけの蓮子は、流石のメンタルの持ち主だと思う。
「ゴホン。…えーと、見て、これ。福島の中でも片田舎の…少年Eの住んでいた町の隣町に、彼は現れたの。しかもこの時は女連れだったのよ?」
「女連れ…!?」
記事を上にスクロールし直すと、青と白が混じる特殊な髪色で、妙な形の帽子を頭に乗せた女性と入店する様子の写真が掲載されていた。
紛れも無く、上白沢慧音だ。
その下にはテーブルを挟んでお父さんから慧音にキスをしている写真まである。
「カレカノだったんだねぇ〜…。ていうか、この女の人の髪、凄い色してるね。帽子も何か変…」
言われて気付いたが、慧音の帽子は少し特殊だ。
………私のコレは???
「で、その後の展開なんだけど…!これまた凄い展開らしいのよ!キスの後からこの2人が消えるまでの長い動画あるけど…見てみる?」
「うん…見てみたい」
「オッケー!」
イヤホンを片方ずつ装着して動画を再生させる。すると、この動画の撮影者の周囲にいる野次馬の声が聞こえてくる。
「うわっ、こんな所でキスしてるぞ…!?」
「女の方めっちゃ驚いてる…てか綺麗だな」
「こんな所でキスするなんて大胆すぎる…」
確かに大胆だ。というかお父さんはそんな所でも普通にキスしているのか。…何だか、私の頬まで熱くなってきた。幻想郷でも外の世界でも、私のお父さんは私のお父さんらしい。
「相変わらず柔らかい唇だったよ、慧音」
「…お前は恥じらいというものがないのか……?何だってこんな所で出来るのか…疑問だ……///」
「慧音の反応を見たくてさ。照れる顔はいつにも増して可愛らしいよ」
「…何にせよ、突然キスしたんだ。私は…」
慧音は割とマトモでよかった…などと思っていた次の瞬間。慧音の両手がお父さんの頭を掴んだ。キスなら頬の辺りだろうに、何故頭を…といった私の疑問は、すぐに氷解した。
「おっ!?次は彼女からか!?」
「アツいねぇお2人さん!ヒューヒュー!」
幻想郷の人間ならまず先に妬みが来るはずだが…流石文明が発達している外の世界。同じ「人間」でも、多少の違いはあるらしい。
「えと…何するんだ?」
「驚かせたバツとしてお前を頭突く」
「ファッ!?」
「覚悟はいいな?」
「えちょ、待っ────」
次の瞬間、ゴスッともガツッとも聞こえる、重い音が聞こえてきた。私や蓮子もだが、この動画の撮影者も驚いたのか、画面は酷く揺れている。
「きゃあああああああッ!」
「うわっ、倒れた!!」
「血!!デコから血ィ出てる!!」
「え…あれ?ちょっと強すぎたか…?」
…前言撤回する。慧音もマトモじゃない。慧音の頭突きは強烈な事で有名だ。人間の子供相手ならともかく、妖怪のお父さん相手にやるのだから、軽くやったつもりでも強くなったんだと思う。
「鈍器だろこれ!いくら石頭でもこんな風になる訳ねぇ!大の男が気絶だぞ!?」
「けっ、警察だ警察!」
「ていうかこの男の背中の膨らみは何だ?」
「触るな!!」
「ヒィィィイイッ!!!」
ローブを纏っているお父さんの背中の膨らみは、言うまでもなくアレだ。翼だろう。だからこそ、慧音はこうも声を荒らげたのだ。
「ちょ、ガチの殺人現場に居合わせちまったんじゃねーかコレ…」
「殺じ…違う、殺してなんかない!」
焦る慧音だが、周囲の人物はただ戸惑うばかり。というか、殺人現場とか言いつつその者もスマホばかりいじってカメラをお父さんに向けている。
これだから人間は……と溜め息をつくと、慧音は次の行動を起こす。
「そろそろ起きてくれ…よっ!!」
「うわぁまた頭突きした!?」
「追い討ち!?ちんたらしてんなよ警察!マジで早く来いよ!!」
「おかしいな…」
「いやおかしいのはアンタだよ!?」
「何?」
「ヒィィィッ!」
うん、擁護のしようがないほどオカシイ。これは確かに慧音が悪い。あそこでキスしていたなら、こんな事にはならなかったんだろうが……慧音のお堅い性格がこんな所で裏目に出てしまうとは。
私が溜め息をつくそのタイミングで、お父さんの身体が揺らめき、フッと消えてしまった。つまり打ち所が悪くて絶命したということだ。だから、肉体は自然と消滅し、次の瞬間─────。
「えっ!?今何が…」
「全部消えた…!?」
「あ……!」
カウンター上に、バチバチ放電する巨大な黄色い蝙蝠が出現した。これには蓮子も目を見開いて、口をポカンと開けて画面を見つめている。私も、何も知らない頭でこれを見たらこんな顔になったかもしれない。いや、確実になっていた。
「うわああああ!こっちにいるぅぅぅ!!」
カウンターに立つお父さんに気付いた人間達は、今度は慧音から目を離してそちらに目を移した。お父さんも何が起きたのか困惑して、状況を把握しようとしている。数秒後、意を決した様に腕を広げ、少し上ずったこえでこんな事を言う。
「瞬間移動のイリュージョン、驚いたかっっ!?驚いたよなぁ!」
…何だか、私が恥ずかしくなってきてしまった。お父さんよ…流石にそれは無い。酷い言い訳だ。私でももっとマシな言い訳が思いつく。
例えば………あれ?まずい、全く思い付かない。
「い、イリュージョン…?」
「タネが全くわからない…。テレビでやるのと、流れも何もかも違うぞ…」
「そもそも今の黄色い蝙蝠は…?」
やはり言葉に詰まってしまったお父さん。当たり前だ、こんな言い訳、キツすぎるにも程がある。
「あー…えっとまずさっきテーブルに倒れていた俺、あれは残像だ」
「残像!?いやいやいやいや、そんなわけが無いだろう!あんな鮮明な残像があるかよ!!」
「残像って言い方は適切じゃなかったかな。立体ホログラムだ!」
「なっ、なら投影機はどこにあるんだ!?それにあの音、女の動き、全部リアルだった!」
「音は録音、動きは練習したから。自信が無きゃこんな所で出張公演しないだろう?」
「ま、まぁ……確かに…」
「投影機はテーブルに置いてある彼女の帽子だ!不思議な形だと思っただろう?」
「なるほど…!!」
案外、口八丁手八丁で何とかなっている。人間がチョロいのかお父さんの誤魔化しが上手いのか、よく分からない。一方蓮子はと言うと、疑い深くこの動画を注視している。
「でもさっきの黄色い蝙蝠は何だ?」
「彼の背中の膨らみ、それが仕掛けだ」
「な、なるほど……」
「突然の事で、困惑もしてるだろう!だが、良い反応をもらえた!諸君には感謝する!ついでに、ネットにアップしてくれても構わないぞ!」
お父さん。そのせいで大変な事になってるよ…。
幻想郷に戻ったら、直接そう言ってあげたい。
というか「諸君」とは……お父さんにはあんまり似合わない文言だ。
「目が紅と黄色って何なの…?」
「カラコンだ!」
「今どきそんなの売ってなくない?」
「ねぇ?」
「えっ」
思わず私も「えっ」と言ってしまった。カラコンなんてものは現在でも売っていると思っていた。まさか、この時代には既に無くなっていたとは。
「着色に使われる色素が目に悪影響を与える事が発覚して、数十年前から販売終了して…即刻回収されたはずだけど…」
「ずっと昔の製品を今更…?」
「い、異国で買ってきたんだ!私も彼も、日本人ではないからな!ほら、私の髪を見れば一目瞭然だろう?」
「それ地毛だったの!?」
「地毛だ!」
半獣とはいえ、慧音もれっきとした日本人のはずなのに……よくもまぁ誇りが邪魔しなかったなと思う。私ならと考えると…咄嗟には言えないかもしれない。
「日本語うますぎじゃん!」
「ていうか異国なんて言い方する?」
「しないしない」
「えっ」
「えーと…だな………。よしっ、最後に姿を消すイリュージョンでおさらばしよう!」
「おい、逃げんのか!?」
流石のお父さんも誤魔化しがキツいと思ったか、姿を消すと言って逃走しようとしている。私には分かる。これは逃げるための口実だと。
「アシスタント、帽子を持って此方へ!」
「あ、あぁ…」
「それでは皆さん、ご機嫌ようっ!!また逢う日まで!転移『ルーラ』!!」
「うわぁ消えた!?」
「何だったんだ今の…」
パトカーと思しきサイレンの音が聞こえてきた。それを悟ったお父さんらしいは慧音の手を握り、スペルによる瞬間移動でカメラから姿を消した。そこで動画を一時停止させた蓮子は、イヤホンを外して一息つく。
「はー…何これ。タネも仕掛けもまるで不明…。こんな技術、今でもあるかどうか分からないよ。蝙蝠の方はほんっとに謎すぎて頭パンクしそう。普段は手品のタネとか初見で見破るのになー…。
…というか、イリュージョニストなら破壊者とは無関係なのかなぁ…?でも顔はそっくりだし…。まさかこれが、行方不明になった少年Eだったりする?でも日本人じゃないって女の人…ケーネが言ってたからなぁ…。破壊者だったら店ごと破壊すれば済む話だもんね…うんうん…」
「顔の似た人は3人いるって言うから、それかもしれないわよ。少年E、破壊者、それとこの人」
「5人じゃない?」
「私は3人って聞いたと思うけど……まぁそれはどっちでもいいわ。それにしても凄い仕掛けね。私もまるで分からないわ……」
一応わかるし、真実は「少年E=この人」だが、そう言っておかなければならないだろう。…少し申し訳ないが、私にも立場というものがある。
「じゃ、残り少しだけだからついでに見ちゃお?数秒だし」
「そうね」
再度イヤホンを装着して、それを確認した蓮子は動画を再生させる。すると丁度、警察がファストフード店に入ってきたところだった。
老人に近い男性と若い男性の二人組だ。
「警察だ!…あれ、犯人は…」
「今消えた!おせーんだよ警察!」
「消えた!?」
「オマワリさん、こいつらだよ、こいつら!写真撮ってたから私!」
「俺も俺も!ほら!」
「ん?この男の顔、どこかで…?確かずっと前にニュースで見たような……」
「北朝鮮、軍の基地、破壊…」
そこで、動画は終わっていた。TVでもないのに何故こんな大事な所で終わるのか。この撮影者に少し文句を言ってやりたい。
しかし、最後に意味深な言葉を聞いた。北朝鮮、軍の基地、破壊。これは一体─────。
「あっ……!?待ってメリー、今の見たっ!?」
「何かあったの?」
「見てよ!イリュージョニストとアシスタントが座ってた咳のバーガーとポテトが消えてる!!」
「……それがどうかしたの?」
蓮子は何か興奮しているが私にとっては特に何も感じるものは無かった。机の上に何も無いというただそれだけのことだ。
「いい?動画の最初の方は……ほら、ある」
「あるね」
「でもラストは……無い。で、警察が来たところから見直していくと………!!!」
「あっ……!」
空間に穴が開き、そこから手が伸びてきた。手はトレイを掴み、それを引き上げると穴は閉じる。幻想郷の妖怪なら大半がこれの正体を知ってる。スキマだ。お母さんや私、そしてお父さんも愛用するスキマだ。まさか、カメラに映り込んでいたとは。
「えっ?何これ、どういう事?まるで空間に穴を開けて、騒ぎに乗じて自分達の食べ残しを取ったみたいな手際……」
「………」
お父さんのことだ。十中八九、そうなんだろう。
リアルすぎる蓮子の予想、奇想天外すぎる結末、どれもこれも驚かされてばかりだ。それにしても私のお父さんは、外の世界でも簡単に能力を使用するらしい。全く、少しは自重してほしい。
「宇宙規模だったら分かるけど、こんなお手軽に空間を歪ませるなんて信じられない…」
「…これも含めての『イリュージョン』とか?」
「誰に向けてのよ?」
「監視カメラに向けて?」
「流石に苦しいでしょそれ…。苦しいといえば、さっきのあの説明も苦しいように聞こえたよね。うっかりやったものを必死に誤魔化してるようにしか見えなかったよ」
これも、きっとその通りなんだろう。蓮子の賢者にも似た深い洞察力には恐れ入る。私の事も深く観察したら秘密がバレてしまいそうだ。
「うーん…。物理の事は後で私が調べてみるわ。今はとりあえず、この男についてね!」
「それなんだけど…」
「ん?メリー、何か気付いた?」
「動画の最後に警察の人が『北朝鮮、軍の基地、破壊』…って言ってた気がするんだけど…」
「あれっ?その事件知らない?結構世界的な事件だから、メリーも知ってると思ったんだけど」
「えっ?あー、幻…ギリシャに居た頃はあんまりニュースとか見なかったから…」
「そうなんだ。…まぁ、繰り返し昔の事件を取り
上げるのって日本くらいのものかもしれないね。
20数年前にね、北朝鮮に謎の集団が………あれ、
待って?北朝鮮に現れた男…この男…破壊者…。
みんな顔が酷似してる…!?」
「どういうこと?」
無言のまま凄い速度で別のタスクを開いて、また検索エンジンを開き、その事件についての記事、写真を私に見せる蓮子。そこに写っていたのは、グングニルを構えるレミリア、レーヴァテインを持つフラン、ナイフを構える咲夜、弾幕を構えるお父さんの姿だった。
「…どう見ても人間じゃない。でも、コイツらが北朝鮮の軍の基地を破壊してまわって、あの国を無力化させたの。数年間だけだったけどね……。そうよ、何で忘れてたのよ私…この時も少年Eの特集が組まれてたじゃない…!!」
「そうなの?」
「私はね、北朝鮮に現れた破壊者と日本に現れた破壊者は同一人物だと思っているの。この時は、敵対勢力の規模が大きいから、お仲間さんを引き連れてきたって感じかしらね。日本の方は、つい規模が大きくなっちゃったって感じだとすると」
「うーん…無理矢理感が否めないけど…」
「だよねー…う〜ん…謎は増えるばかりだぁ…。ファストフード店に現れた男と北朝鮮の男、これどう見ても同一人物でしょ…少年Eよりもずっと同一人物に見えるよ?……イリュージョニストの背中の膨らみさ、ケーネは仕掛けだって言ってたけど、本当は翼を隠してたんじゃないのかな…。翼なんてあると人外なのバレるし、顔からして、過去に北朝鮮に来てるのが周囲にバレるから…」
「そっちの線が濃いでしょうね…」
蓮子は将来、警察や探偵になれそうだ。それほど彼女の推理は冴え渡っている。
「……あっ、そうだ。このイリュージョニストの男ね、実はアメリカにも現れてたらしいのよね。それから、男か女か犯人は分からないんだけど、アメリカの例に似た事が最近の日本であったの。ちょっと頭こんがらがるけど、そっちとも記事を見比べてみましょ」
「何だか、かなり大規模なのね…混乱しそう…」
「なのに、大事な情報は何一つ分からないまま。腕が鳴るわ!!」
更に2つ追加で新たなタスクを開く蓮子。流石の高性能なパソコンでも少々重くなりつつあるが、私や彼女の心はパソコンに反比例するように浮き上がっていた。
実際は、「日本の破壊者=少年E=エスカルゴ=イリュージョニスト=北朝鮮の破壊者」ですが、
メリーの認識だと「日本の破壊者≠少年E=エスカルゴ=イリュージョニスト=北朝鮮の破壊者」ですね。
エスカルゴが外の世界で何かしたり、誤魔化せば誤魔化すほど「=○○○○」が増えていきます。
さてさて、「アメリカの例」と「それに似た日本での例」が何なのか覚えていますか?
あと五日連続こっち投稿します。
それと本編もたまに更新します。