賢者の娘は外の世界に留学したようです 作:エスカルゴ・スカーレット
「まずアメリカの例から探っていくわ。メリー、ラスベガスといえば何を思い浮かべる?」
「やっぱりカジノかしら。旅行ガイドでも頻繁に見かけるくらいには有名だし」
「ギリシャから来たメリーがそう言っちゃう程、ラスベガスといえばカジノの印象が強いよね〜。あのイリュージョニストが現れたのもカジノの場だったのよ。まぁでも、カジノはカジノでも違法カジノの方だったんだけどね?」
「何で違法カジノの存在が明らかになってるの?公開するわけないじゃない」
「警察に摘発されたらしいの。で、違法ってだけあって取り扱う金額は国家予算レベルで法外で、その分警備も厳しかったらしいのよ。勿論、防犯カメラも結構な数設置してあって、そこから彼の存在が世に広まることになったそうよ」
「なんで防犯カメラの映像を公開するんだろう?世界を恐怖に陥れるかもとか考えなかったの?」
「さぁ…そこはやっぱり『好奇心』でしょうね。結局人間ってのは好奇心の塊だし」
確かにそうなのかもしれない。蓮子を見ているとそうとしか思えなくなってくる。…尤も、蓮子は人間の中でも特に好奇心旺盛な方だと思うが。
「その映像がこれよ」
カチカチっと耳障りのいい音を出して、マウスをダブルクリックする。画面の真ん中にいるのは、黒いローブを纏っている身長差のある2人組と、銀髪で筋骨隆々なギャング風の若い男、それからマイクを持っている司会者の4人だった。背後は制服のような何かを着ている女性が囲っている。囃し立てる役か何かだと思われる。
勝負を決める方法はまさかのジャンケン。
司会者は男に意気込みを訊ね、その男は「絶対に勝つ」と意気揚々と答えた。次に司会者は、黒いローブの身長が大きい方に同じ質問をするとその者はこう答えた。
「俺も負けないよ。だけどその前に、イリュージョンを披露してもいいかな?」と。
司会者はその男がイリュージョニストである事を訊ねた上で、披露するのを容認したようだ。私はあまり英語が得意ではないので、雰囲気からそう読み取るしかできない。
そして自称イリュージョニストの男は、日本語でこう宣言した。
『悪夢「魔王の子守唄」!!』
すると、手からオレンジ色の火の玉が出現して、会場にいた者は全員それに目を奪われる。これで催眠の準備が整った。あとは催眠の言葉をかけるだけで全てが思いのままだ。……霊夢やお母さんなど、洗脳が通じない人は一定数存在するが。
「やっぱり……」
「ん?どしたのメリー?」
「あっ…!えっと…」
このスペルはお父さんが相手を洗脳もしくは催眠するときに使う特殊なスペルだ。だからこの男がお父さんであることは間違いない。しかし、蓮子
相手に「この男は私のお父さん」とは言えない。
「この声ってさっきのファストフード店の男の声じゃないかなー…と思って」
「そう思うよね?私も。格好もまるで同じだし、声も同じだし、背中の妙な膨らみも共通してる。違うのは相方かな。今回の相方は、ケーネよりも明らかに小さいし」
「そうね…」
さっきは慧音だったが、今回は一体誰だろうか。身長と体型、背中の膨らみ、年代的に考えると、レミリア、フラン、翼のある私のお姉ちゃん達が怪しい。何故また外の世界に幻想郷の住人が…。お父さんがデートと言って連れ出したか若しくは押し切られたかのどちらかだと私は思う。
画面越しだと妖気を感じられないので顔を見たり声を聞かなければ特定が出来ない。せめて声でも聞ければとは思うのだが、そばで見ているだけのようで喋る気配はない。アシスタントとして来たわけではなく本当に付き添いとして来たらしい。
そして、お父さんは「相手の男はパーを出す」と宣言して、ジャンケンを始める。するとどうしたことだろうか、本当に相手の男はパーを出した。お父さんはチョキ。つまりお父さんの勝ちだ。
司会者がお父さんの……ミスタースカーレットの勝利を宣言すると、カジノの会場は先程とは180°
変わって大盛り上がりする。その場面で、動画は
終了していた。
「えっ……何これ、どういう事?パーを出すって言われたこの男、なんで本当にパー出してるの?イリュージョニストの男が『俺はパーを出すぞ』とか言って心理戦に持ち込むならまだ分かるよ?でも『お前はパーを出す』と言われてやるかな?ジャンケンする前にイリュージョン見せる意味がよく分からないし、それ以上にあの火を見た皆が一斉に黙り込んだのは怖いよね。アメリカなら、
囃し立てたり、指笛とか歓声で場を盛り上げたりすると思うんだけど。それはしなかったとしてもピタリと黙るのは本当におかしいよ。少なくともイリュージョンを見た人間の反応じゃないよね」
出た。蓮子のマシンガン考察。こういった映像を見た直後の蓮子は、頭に浮かんだ考察を口にして頭の中を整理していくのだ。出会って数日だが、蓮子がこういうタイプの人間であることはすぐに分かった。
疑問形のときなどは、大抵の場合は私に訊ねてるわけではなく自問自答形式のものだ。だから私は彼女のマシンガン考察が収まるまでただ待つ。
「1000歩譲って声には出さないとするよ?でも、身動き一つしないのはちょっとおかしいよ。いやちょっとどころじゃなくてかなりおかしいかな。ていうか、何で火を出す前だけは普通に日本語になってるのかな。悪夢『魔王の子守唄』って何?
Nightmare devil's lullabyとか、大雑把にだけど
こんな感じじゃないのかな?もしかしてだけど、このイリュージョニストって英語苦手なのかな。会話程度しか出来ないとか?」
蓮子のこの予想は当たっている。お父さんは少し英語が苦手…というか、あんまり得意ではない。前に本人が言っていたのでおそらく間違いない。
「ね、メリーはどう思う?」
「えっ?そ、そうね…英語の会話も少しカタコトだったように聞こえたし、苦手って言うのは強ち間違ってないと思う。悪夢『魔王の子守唄』っていうのは……多分だけど、火を出す技名とか…?ほら、けん玉とかでも技名ってあるじゃない?」
「確かに技名っていうのはあるかも。悪夢ときて何で魔王の子守唄なのかはさておいてね。あと、今思い出したんだけど、何かを見たあとボーッと黙るのって、催眠の王道だよね〜」
「そう…なの?」
「この若い男…ジョニーだっけ?もしかしてこれ
『ジョニーはパーを出す』って会場に居た全員に催眠をかけて、実際その通りにしてジャンケンに勝ったとか、そんなんじゃない?」
「さ、催眠だなんてそんな非現実的な…」
怖い怖い怖い怖い、まさにその通りすぎて怖い。お父さんはきっと確実に賭け金を得る為にこんな暴挙に出たのだ。だとすれば、蓮子のこの予想は当たっていることになる。というか間違いない。お父さんならそうする。
「ん…?ちょっとまって?さっき司会者の人さ、ミスタースカーレットって言ってたよね?て事はこのイリュージョニストの苗字は、スカーレット
ってことになるよね。本名か偽名かはともかく。
で、さっきのケーネの話を信じてみるとミスタースカーレットは日本人ではないから、そうなると性がスカーレットってなるのも納得だよね」
「そうね…」
これではお父さんの本名がバレるのも時間の問題かもしれない。いや、お父さんの本名がバレても私には繋がりようがないから、その点では大丈夫かもしれないが。私はお父さんと外の世界に来たことは無いから、私に繋がる物証は無い…はず。
「ここで勝者の名前を上げてるって事は、勝負の前にこの2人の名前を紹介してると思うのよね。例えば入場する時とか。ジャンケン前のシーンの映像探すの、お願いしてもいい?私は日本の例の方を探すからさ」
「分かったわ」
私は私でパソコンを立ち上げて、検索エンジンで色々と漁る。「カジノ イリュージョン」だけでも
それなりに数多く出てくるが、最初からのような長い動画は無い。転載に転載を重ねられ、画質も音質もかなり悪くなっている。
「見つからない」と蓮子に言おうとしたその時。たった2、3分だけ長く、サムネイルが他と少し異なる動画を発見した。転載動画に埋もれた本家動画という話はたまに耳にするが、もしかするとそれがこの動画かもしれない。
蓮子が「日本の例」を探している間に、私はその動画を視聴する。場面は…予想通り2人の名前が呼ばれる直前だった。
『
どうやらモロに呼ばれていたらしい。ジョニー・
ハスキー、エスカルゴ・スカーレット…。まさかお父さんが本名で申請していたなんて。
『
10Billion$…1$を100円だとすれば10Billionは
1000億円となってしまう。信じたくないが、この
膨大なお金の行き先をジャンケンひとつで決めて
しまうらしい。そもそもこの違法カジノは、参加
する為のチケットが日本円で10万円らしいから、
チケット代を賭け金としていたのかもしれない。
違法カジノの情報すらこうも簡単に知れるのだ、ネットとは恐ろしい。
『
ここからは他の動画と同じだ。まずはジョニーが答え、次にお父さんが答える。そこで
ここまで見たなら、最後まで見ることはない。
問題はこの動画を蓮子に見せるか否か。何故ならお父さんの本名がモロに出ているからだ。そして蓮子は、「少年E」の名前を知っている。
とすれば「少年E=イリュージョニスト」という方程式が彼女の中で成り立ってしまい、最終的に
「少年Eは何らかの理由で人外となって失踪し、たまにイリュージョニストを名乗って姿を現す。そして彼の母親は、彼が人外になったことを既に知っていた」という結論に至る筈。
これにより私に辿り着くとは考えにくいものの、出来れば彼女に「エスカルゴ・スカーレット」を知られたくない。
なので、この動画は見なかった事に…………
「おっ、流石メリー!何か見つけた!?」
パソコンを覗かれた。……………終わった。
いやいや、蓮子の隣でパソコン使ってるんだからそりゃバレるって…。アナタ、結構ガバガバよ。