賢者の娘は外の世界に留学したようです 作:エスカルゴ・スカーレット
「えっ……?エスカルゴ…スカーレット…?」
「これでも、一応日本人なんだけどね。キラキラネームってやつだ」
「元、ね!元!ギリシャに帰化したからっ!!」
「あぁそうそう、元日本人ね…。(おい、そんなの聞いてねぇぞ…それ早く言ってくれよ…)」
あああぁぁ、やってしまった。お父さんが本名をバラしてしまった。よりによって蓮子に。やはり早く帰ってもらうか帰りながら話すべきだった。だが後悔先に立たず、時すでに遅し。もう遅い。
お父さんは苦笑いで硬直して、蓮子はお父さんを見上げてパチパチと瞬きしている。
「あなたがエスカルゴ?本当の本当に?それで、メリーのお父さん……なの……?」
「そう…だけど?」
完全にやらかしてしまった。人生の中で、最大の汚点だ。血が滲むほどに拳を強く握り締め、唇を噛む。すると口内にじんわりと鉄の味が広がる。
「ラスベガスで違法カジノをしていた本人…?」
「何でそれを知ってる…?」
「その前にちびっ子とネズ〇ーランドに来た?」
「うぐ…」
「ケーネって人と2人でファストフード店の中でイリュージョンを見せた…と誤魔化した?」
「そうだが…え、何で知ってるの怖い」
人間ではなく妖怪であることが蓮子にバレてると悟ったらしいお父さんは、一切誤魔化さず正直に答えていく。蓮子はさらに確信を持ったようで、うんうんと何度も頷き、質問を続ける。
「妖怪だとバレないように人間に擬態してる?」
ゆっくりと、ただ無言で頷いたお父さん。
「そのオッドアイは自前?」
「自前」
「ずっと前、北朝鮮で女子供と一緒に暴れた?」
「………あぁ、あの時か。うん、暴れた」
「日本で暴れた?」
「…?いいや」
「ふむ……」
ある程度絞って質問した蓮子は、それらの答えを聞いて黙り込む。出来ることなら答えが出る前に
「じゃあ今日はこの辺で」と退散したかったが、そう言おうとしたその時、蓮子が口を開いた。
「じゃあ、元の姿に戻ってみてくれる?」
「それは困る」
「でしょうね。イベントでもないのにこんな人間だらけの場所で妖怪の姿なんて出来るわけない。だから今回は擬態して、これまでは変装してでも来てたんでしょ」
「わかってるじゃないか」
「だから、メリーの家で正体見せて!勿論、私は誰にも言わないから!」
それを聞いたお父さんは、何を思ったのか蓮子を哀れむような目になり、小さく溜め息をついた。
「……あのなぁ?妖怪相手にそんな交渉が通じるとでも思ってるのか?あまり言いたくないけど、君が誰にも俺らの正体を言わないという根拠は、どこにも無いんだぞ。ネットで匿名で好き放題に呟ける昨今、そういう言葉を信じられるとでも?知り合って暫くならまだ分かるが俺は初対面だ。悪いが、信用に値しないと俺は判断する」
「………まぁ…そうだよね。信用に値しないっていうのはちょっと傷ついたけど…」
「あっ……すまない…」
「でもその通りだよね。初めて会った人に全てを見せろとか言われても、そりゃ渋りますってね」
「「………」」
私も今のお父さんの言い方には少し傷ついたし、同時に憤りも覚えた。そして“信用”を大事にするお父さんらしくない言い方だな、とも思った。
…とは言え、お父さん目線で考えればそう言ってしまうのも仕方のない事だった。というか、寧ろそれが自然だと言えなくもない。
私が蓮子に全てを話さないのと、同じ事だった。
「………いいよ。じゃあ、こうしましょ。私が、メリーのお父さんより先に色々見せてあげるし、どんな質問にも正直に答えてあげる。その代わりお父さんも、正体見せた上で私の質問に答えて」
「話にならないな。見せ合ったとしてもそれは、君が俺らの事を絶対にバラさないという根拠には成り得ない」
「そうね。だから………私を信じて。お願いよ」
真っ直ぐにお父さんの目を見つめる蓮子。そしてお父さんもまた、真っ直ぐに蓮子を見つめる。
娘の私は、2人の傍で緊張して固まっている。
お母さんが妖怪である事はまだ知られてないし、蓮子の中の「メリー」は、少なくとも半妖か妖怪という位置付けになっているはず。まぁ、半妖も妖怪も、妖怪の血が流れてる事には変わりない。
今の蓮子は私に対してどう思っているのだろう。
「…良いだろう。君を信じるよ。だがもし、この約束を破れば………あとは分かるな?」
「ええ。殺してくれても構わないわ」
「ッ!?何を言ってるの蓮子!?私のお父さんはそういう事には躊躇いが無────」
「あなたが何を言ってるの、メリー?私が約束を守ればいいっていうだけの話でしょう?」
「…だけど…幾らなんでも命を懸けるなんて…」
「妖怪と交渉するんだもの、これくらいの覚悟はとうに済ませてるわ」
「………」
そうだ、すっかり忘れてしまっていた。蓮子は、
「安全でつまらない」より「危険だが楽しい」を
選ぶタイプだった。だからオカルトというこんな界隈に足を踏み込んだのだ。危険を避けるなら、元からこういったことには関わらない。
「…先に言っておくが、俺には嘘をついているかどうか判別する術がある。だから君が嘘をつけばすぐに分かるぞ。…悪魔との
「大丈夫。ただ正直に話すくらい造作もないわ」
…何だろうか、彼女の言動に少し違和感がある。何か焦っているような、気が早ってるというか。何だか心配になってしまう。というか、軽々しく命を懸けてしまう蓮子は…そういう性格は、妙にお父さんに似ている…と思う。
もしかしたら、彼女と居るとどこか安心するのはお父さんに似ているからなのかもしれない。
「さ、メリーの家に行きましょ。案内してっ♪」
「おっ、そうだな。頼んだぜメリー」
「……言っとくけど、最低限の家具しかないから全く寛げないわよ…」
橙色の夕日が沈みゆく中、私と蓮子とお父さんは3人横並びで私の住むアパートへ向かい始めた。
これからどうなるのか緊張しているのと同時に、隠し事がほぼ無くなったとあって、心が少しだけ軽くなったのを感じていた。
彼の言う「嘘をついているか判別する術がある」というのは「催眠で吐かせる」って事です。
展開が早いって?一応、コレ短編ですからね…。