賢者の娘は外の世界に留学したようです   作:エスカルゴ・スカーレット

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告白

「お邪魔しま〜すっ!」

 

「お邪魔するぞ〜い」

 

「はいはい、いらっしゃい…」

 

大学を出て少し歩き、私の住むアパートに到着。蓮子もお父さんも、初めて来る場所だからか変に周囲を見渡している。興味津々なところ悪いが、壁にも床にも特に何も無い。

靴は今履いていたものだけ。スリッパも無いし、玄関マットも無い。リビングにはマットと小さなテーブルのみあるという本当に最低限なものしか置いていない。このアパートは、俗に言う1LDKという造りだ。そこまで広くはない。

食器も調味料も何もかも必要最低限だけこちらに持ってきた。もしくはこちらで買い足した。

 

「さて。早速で悪いが…見せてもらおうか。君の秘密ってのを」

 

マットに直接腰を下ろして、テーブルに肘をつき

某特務機関NERV総司令官のようなポーズをとり、

正面の蓮子を見据えたお父さん。「信じる」とは

言ったものの、やはり少しは疑っているらしい。

まぁ、無理も無い。

そして一方の蓮子はというと、疑いの目を向けるお父さんの事は軽くスルーし、チラリと窓の外を見る。

 

「まだ夕方かぁ…。ま、ボチボチ始めますかね」

 

「…?」

 

「実は私ね?普通の人間には無い能力があるの」

 

「へぇ…?」

 

初耳だった。私が色々隠してきたのと同じように彼女も何か秘密を抱えていたらしい。…それが、まさか「能力」だとは。

 

「あなた、今時計持ってる?」

 

「持ってない」

 

「メリーは?」

 

「キッチンに置いてあるけど……」

 

「OKOK。それじゃあ、メリーにはキッチンでスタンバッててもらおうかな。くれぐれも、私に時計を見せないようにして。それと、あなたには私を見張っててもらうわ」

 

「「わかった」」

 

私はリビングからキッチンに移動し、タイマーの代わりに使っている小型の置時計の前に立った。お父さんは少し怪しむような視線を蓮子に送る。

蓮子は、そう話している間もずっと、ジワジワと紺青の混じり始めた橙色の空を見つめている。

 

「えーっと、現在は………午後6時36分56秒で、今居るのは京都府京都市██区████町、緯度

██°██′██″、経度██°██′██″…ね!時計見てみて、メリー!」

 

「あ……合ってる……」

 

「…あk…じゃなくてマエリベリー。一応、位置

情報も確認してみてくれるか?」

 

「う、うん…」

 

スマホ本体の位置情報をオンにし、今居る地点の位置情報を調べてみる。すると、今蓮子が言った通りの位置情報が出てきた。寸分違わず秒単位でピッタリ一致している。

 

「ピッタリ…だった…」

 

「どう?これが私の能力よっ!」

 

「「……ッ!?」」

 

私とお父さんはただ驚き、顔を見合わせる。目を見開き、口は半開きになっている。私もきっと、あんな感じの顔になっているのだろう。それ程、彼女には酷く驚かされた。

 

「まだ仮名だけど、私はこれを《星を見ただけで今の時間が分かり、月を見ただけで今居る場所が分かる程度の能力》と呼んでるわ」

 

「凄い……」

 

(俺は今確かにこの子を見張っていた…。だからこの子は、時計は愚かスマホも見てねぇ…見てたのは空だけだ……。つーことは…マジか…?体内時計ってレベルを遥かに超越してるしなぁ…)

 

私は素直に感想を漏らすが、お父さんは腕を組み何か考え込んでいる。私は特に何も疑問を抱かずただ話が進むのを待っていた。するとお父さんは何かに気付いたのか、ハッとした表情になった。

 

「─────って、待て。『程度の能力』だと?その言い方をするって、君はまさか………」

 

「そ。私はきっと、あなた達が住んでいる世界を知っていると思う。…断片的に、だけどね」

 

「……」

 

私は気付かなかったが、お父さんはどうやらあの言い方をされて気付いたらしかった。あれが自然すぎて、完璧にスルーしていた。流石は外出身のお父さん、幻想郷と外の違いは分かるらしい。

 

「さぁ、秘密は見せたわよ。何か質問があれば、何でも答えるけど?」

 

「……今……彼氏居る?」

 

「は…はぁ…?能力まで見せて、最初に聞くのがそれって…。妖怪とは一体……」

 

「単なる興味だ」

 

私も蓮子もドン引きした。彼女に至っては、顔がピクピクと引き攣っている。しかし、お父さんのことだからきっと本当に「興味」なんだと思う。

 

「居ないわよそんなの…男になんて興味無いし。寧ろ女の子の方が良いとまで思ってるわ」

 

「ほーん…そりゃ良かった。…いや、彼氏とかを通してウチの娘に変な男を紹介しないかって少し不安になっただけだ。別に俺が君を狙ってるとかそんな意図は無いからな」

 

「娘の学友に手を出すとか最低のドクズだもん、そんなのあってたまるかって感じ」

 

そんなことを言ったら、巫月お姉ちゃんの友達のアリスとお父さんはそういう(・・・・)関係になってるし、蓮子の定義に当てはめたらドクズになるが……。余計な事は言わない方が良いだろう。

 

(ワンチャン茜と百合あるか?蓮子と茜で蓮あかとか?いや、しっくりこねぇ………蓮メリとか?やべぇ、めっちゃ合ってんじゃん、語呂も良い。泣きそう…目頭が熱くなってきたぁぁぁ…って、そんなことを考えてる場合じゃねぇわ…)

 

「それでさ、他に質問は無いの?まさかそんな、合コンに来た男みたいな変な質問しかしないわけじゃないよね?」

 

「あぁ、聞きたいことだったらまだまだあるぞ。

…君はもしかして、宇佐見菫子の子孫か…?」

 

「え……」

 

具体的な個人名を出したお父さん。今度は蓮子が目を見開き、そして硬直した。どうやら、蓮子も知っている名前らしい。何も知らない私は、ただ2人のやりとりを側で聞いているのみ。

 

「何で…その人の名前を知っているの…?」

 

「俺は直接会ったことないが、嫁が宇佐見菫子と友達だったんでな、話を聞かされたりしたのさ。ある時を境にこっちの世界に来なくなっちまったらしいが」

 

「…うん…」

 

「年代的に……君から見て菫子は曾祖母か祖母…いや、祖母か?若しくはそこら辺の世代でしょ」

 

「そう…宇佐見菫子は私のお婆ちゃん…。私は、お婆ちゃんから聞いた妖怪の住まう美しい世界…幻想郷を探すために、このオカルトの世界に足を踏み入れたの…」

 

蓮子の口から「幻想郷」という言葉が出て、私は思わず声を出しそうになってしまったが、それをギリギリで耐えた。この期に及んでまだ、本当のことを彼女に隠したいと思っているからだ。

 

「……もしも見付けたら、どうするつもりだ?」

 

「お婆ちゃんに報告しようかなって思ってるよ。それ以上でもそれ以下でもない。…観光くらいはしてみたいけどね」

 

「君…蓮子が妖怪を恐れないのも、お婆ちゃんのおかげなのか?」

 

「ええ。『一見怖かったり、話してても怖くなることはあるけど、心を込めて話せばきっと妖怪も分かってくれる』って聞いてたからね」

 

「なるほどね…」

 

蓮子が危険を顧みずに突き進む理由がわかった。例え自分と異なる妖怪という存在と遭遇しても、話せばわかるというその信念があったからだ。

 

「いつから幻想郷に行けなくなったとかそういう話は聞いてるか?」

 

「20歳になった日から…らしくて。でも向こうに行ってた時の思い出は今でもずっと覚えてるよ」

 

「…最後の質問。幻想郷の存在を知ってるのは、菫子と蓮子と…他には誰だ?」

 

「私とお婆ちゃんの2人だけだよ。私の家系でも能力持ちは2人だけで、お婆ちゃんが私に話してくれたのも私が能力持ちって分かってからだし。だから、お婆ちゃんに倣って誰にも話さないよ。これから私の家系に能力持ちが現れてもね」

 

「…そっか。それじゃ……解除」

 

一瞬光に包まれ、それが収まるとそこには普段の姿をしたお父さんが座っていた。解除する前とは違って、蝙蝠の翼、牙が現れている。

 

「わぁ…ネットで見た通りだ…!本当の本当に、本人だった…凄いや…」

 

「ネット…?どんなシチュエーションだった?」

 

「北朝鮮で暴れた時の映像よ。他は黒いローブで隠してて見えなかったし。…向こうで暴れた時、それなりに苦戦した?」

 

「いいや?施設や軍備をぶっ潰す程度、吸血鬼の俺からすれば楽勝だぞ」

 

「その割に、服とかボロボロだったけど?」

 

「あー……あの時は確か、移動中にアメリカから飛んできたミサイルぶっ壊したからだな。危うく死にかけた。(懐かしいな…あの時は確か、てゐの

キス(幸運のお裾分け)のおかげで助かったんだよな…)」

 

「えっ?ミサイルが飛行中に空で爆発した事故は私も知ってるけど…アレあなただったの!?何で壊したの?」

 

私はそれも知らない。きっと、私が生まれるより前の話をしているのだと思う。…何だか私だけが話から置いていかれているような気がする。

 

「北朝鮮の軍備を潰すのが俺の仕事だった。その役をアメリカに取られたくなかったってだけさ」

 

「今は潰さなくていいの?その仕事は誰かからの依頼?なんで軍の施設だけを潰したの?理由は?今度はあなたが答える番よ」

 

「今は潰さなくていいんだ。あの時は、北朝鮮とアメリカ間で冷戦状態みたいなモンだったろう?で、とうとう戦争が始まりそうだったから、先に片方の軍備を潰せば戦争を未然に防げるっていう目論見だったんだ。この仕事は、茜の母親からの依頼だ。理由は下手すれば幻想郷も巻き込まれる可能性があったから。…他に質問は?」

 

「今サラッと言ってたけど…茜って誰?」

 

「あ」

 

全く、本当にお父さんという人は。私にとっては余計な事しか言わない。少しだけお父さんの株が下がった。とはいえ、これで私も楽になれるかもしれない。

私も本当の事を話していいのかな、とお父さんに視線を向けると、小さく頷いて答えてくれた。

たった数日しか隠せなかったが、秘密をバラしてしまう決意を固めて、一呼吸置いて私が答える。

 

「………私、本当は八雲茜っていうの…」

 

「あ〜……何で偽名なんて…いや、そんなことは聞くまでも無いか。見た目は日本人じゃないし。って、何でスカーレットじゃないの?ね、あなたもう結婚してるんでしょう?さっき、嫁さんって言ってたしさ。それとも、そっちの世界では父の苗字継がない感じ?今の日本は選択制だけどさ」

 

「あー…なんて言えば良いんだろ…。すまん茜、代わりに答えて…」

 

「えっとね、私のお母さんとお父さんはね、結婚してないの。だからお父さんが言う嫁さんは私のお母さんじゃなくて、また別な人なのね」

 

「ん……?んんっ?どういう事?つまりメリーのお母さんとエスカルゴは、愛人みたいな関係?」

 

「ま、まぁ…それに近いかも…?あはは…」

 

私の本名を知っても尚「メリー」と呼んでくれるあたり、蓮子だなぁと感じる。何だか、少しだけ嬉しくなってしまう。

 

「お父さん、幻想郷ではモテモテで、お嫁さんと彼女さんとか合わせて30人近く侍らせてるのよ。鳥獣鬼楽ってバンドも組んでてファンも居るし」

 

「侍らせてる言うな」

 

「へー…すごいハーレムだねぇ。やっぱり男って顔じゃないんだねぇ」

 

「おいコラそりゃどういう意味だ」

 

「えー?だってあなたさ、中の上とかそんな感じじゃん?割とそこら辺にも居そうな顔だしね〜。まぁ、そこそこだとは思うよ?」

 

「…恐れてないからって言い過ぎだぞ…」

 

「あ、ちょっと傷付いちゃった?ゴメンゴメン♪

顔だけ見たらそこそこカッコイイとは思うよ♪」

 

「ったく…イケメンに生まれたかったもんだな。

…まぁそんなのはどうでもいい。質問が無いなら俺はもう帰るが、どうする?」

 

「まぁまぁ。もう少しくらい良いじゃん?」

 

「………」

 

まぁ、こういうのが蓮子だ。そう割り切ることにしよう。それに、お父さんもさっき言葉で蓮子を傷付けていたので、これでお互い様ということになるだろう。

 

「ねね、メリーの家って何人家族?」

 

「お父さんとお母さんと私と……お母さんの式とその式一人ずつだよ」

 

「式?」

 

「えっと…部下とか手下とか……そんな感じ?」

 

橙は普段はマヨヒガに住んでいるが、家族の中に入ると思う。何より、私が赤ん坊の頃から一緒に居るのだから、私は家族だと思っている。

 

「なるほどね。…じゃあ、他の家に子供が居たらメリーから見たら異母兄弟とか姉妹になるんだ」

 

「そうね」

 

「ねぇエスカルゴ、子供は何人いるの?」

 

「15人。娘が13人の息子が2人だ」

 

「女子率高っ!ていうか、15人も子供居るの!?いくら何でも多すぎじゃない!?」

 

「ほんとそれよね…」

 

(子供が増えるのがわかってたから、お金が沢山必要だったんだよな…。カジノのあれは予知夢を利用してお金を稼いだに過ぎねぇし…)

 

「メリーは何番目?」

 

「私は確か、7番目の6女よ」

 

「うわぁぁ…とんでもないね…」

 

「あとね、子供に関してはね、お父さんが女好きだから女ばっかり生まれてくるんじゃないかって説まで出てるわ」

 

「あっははは、なんかそれ本当にありそうね!」

 

「おい待て茜、どこでそんな話が出てるんだ?」

 

「私達子供間でね。霊愛お姉ちゃんが最初に言い出したんだけど、皆もそれに賛成してる」

 

「えぇ…」

 

個人名を出してしまったが、もう大丈夫だろう。蓮子はしっかりと秘密を守ってくれるだろうし、他の姉妹達のプライベートな事以外なら話しても良いと思う。

 

「良いなぁ…何だかすごく楽しそう…」

 

「楽しいぞ?外の世界よりよっぽどな」

 

「外の世界?…こっちの事?」

 

「そうそう。それと、こっちにはまだ一夫多妻を容認する風潮があるから多少の無茶は大丈夫だ。文化的に言うと、明治初期くらいで止まってる」

 

「文化面についてもお婆ちゃんから聞いてるよ。だけど、一夫一婦制って確か……あぁ、明治後期からだ。なるほど、そりゃ一夫多妻なんてものも容認されるわ…」

 

「ふっふふ…」

 

お婆ちゃん…菫子から、幻想郷について大まかな事は聞いているらしい。あまり深く説明する必要が無くて少し安心した。だが、外に住まう人間が知っていい事には限りがある…と思う。

お母さんならどう判断するだろう。

 

「ところで、2人はどんな能力を持ってるの?」

 

「俺は《雷を操る程度の能力》と、《異世界への往来が可能になる程度の能力》があるぞ」

 

「私は《境界を操る程度の能力》」

 

「うわ、雷とか強力無比って感じ…。もう一つはメルヘンチックだし、メリーのもヤバそうだね」

 

「空間が歪むレベルで超強力だぞ。俺も茜もな」

 

「空間が歪む………あっ。もしかして、ファストフード店出てからトレイを取り寄せたのってその能力を使ったんだ?」

 

「…まぁそうだけどさ。君はどんだけ俺について調べてたんだ?恥ずかしくなってきたんだが…」

 

「もー、君じゃなくて蓮子って呼んで?」

 

「はいはい…」

 

「…エスカルゴについて調べてたのはね?単なる興味と、お婆ちゃんの言ってた幻想郷って世界に繋がるかもしれないっていう希望と、一種の憧れみたいなものがあるかな。一度は見てみたいな、って感じでさ」

 

「なるほど…?」

 

「あーあ…私も幻想郷に行ってみたいなぁ〜…」

 

「「………」」

 

これまでの流れからして、彼女がそう言うことは予想がついていた。だがこれだけは多分ダメだ。もし蓮子が脅してくるようなことがあれば…私達から彼女に口封じをする展開になりかねない。

私としては、彼女にも幻想郷の美しい自然を体験してみてもらいたいし彼女もそれを望んでいる。お父さんも、本音はOKだと思っているはず。

 

「俺としては……良いんじゃねぇかと思うが…。俺の一存じゃ決められない」

 

「どうしてよ?こっちとそっちを移動できるって大妖怪と呼ばれるくらい高位の妖怪じゃないの?世界を行き来なんて簡単じゃないわよ絶対」

 

「俺なんて全然高位じゃない。せいぜい、高位を目指す中堅くらいのもんだ」

 

「…でも、そっちはこっちに来てるのにこっちはそっちに行っちゃダメとか不平等すぎでしょ」

 

「言いたい事は分かる。けど妖怪と人間ってのは元から平等なんかじゃないんだ。だから、ここで平等だの不平等だのと言われても……すまない、困るとしか言えない。正体を明かしただけでも、俺ができる最大限の譲歩だと思ってもらいたい。だからもし蓮子が『私をそっちに行かせないなら正体をバラす』みたいなことを言えば……」

 

「ッ……」

 

「俺に蓮子を殺させないでくれ。俺や家族に害が無い者なら、俺だって出来るだけ殺したくない」

 

「あら、酷い物言いねぇ。ま、その通りだけど。でも菫子のお孫さんで能力持ちなんだから、私は別に構わないと思うわよ〜♪」

 

「「「ッッッ!??」」」

 

私達が囲んでいるテーブルの真上に、お母さんがスキマ越しに顔だけ現れた。あまりに急な事で、私達3人は全員腰を抜かしてしまった。




蓮メリとは(哲学)

菫子に関しては、20歳の誕生日に遂にあの病気が治ったってことにします。菫子本人からしたら、
「治ってしまった」って感じでしょうけどね…。
夢幻病になりたい。

エスカルゴ幻想入りした時には既に菫子は20歳になってました。だから、「エスカルゴは菫子とは会ったことがない」んです。
ずっと前から言っている通り、俺の作品は「原作より少し未来からスタートしてる」ので。
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