何度目だろう。   作:ウェットル

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コメント欄に要望があったので、続き(?)を書きました。


好奇心は猫を殺す。

 どれほどの時を繰り返していても、ボクは永遠に『今』を生きている。

 

 誰かを救っても、誰かを殺しても、誰かを救わなくても、誰かを殺さなくても。

 間違いなくボクは死に、間違いなくボクは生まれ直し、間違いなくボクは同じ学校に通うか、あるいは間違いなく「知らぬ存ぜぬ」を貫けなくなって同じ学校に関わる。

 

 ボクに物語は紡げない。紡いだ先からなくなるからだ。

 

 死ねば過去に戻り、死ぬ前の世界の未来を知ることさえ許されない。

 魂だけでも世界に留めようと、あえて死を司る神々のもとへと下ったこともある。

 それでもダメだった、それでも許されなかった。死後の世界の管理下にあったはずの魂は、この世界のルールをも越えて過去へ飛び続ける。コキュートスの氷も、メソポタミアの檻もダメだった。忠義も、愛も、何もかもが消えてなくなる。時の果てへ。

 

 転生するもの。

 物語の過去へ生まれ直すもの。

 

 そんなものに、安楽の世界などないのだと訴えるように。

 何度でも繰り返される。死を受け入れまいが、受け入れようが。

 繰り返されるという余白しかない物語を、途中から変えることさえできない。受け入れても同じ『今』を永遠と繰り返すのだから、ゲーム感覚で生き方や恋愛対象を変えても選択肢が最後は尽きる。

 クズの道を走ることさえ考えた、外道のありようをなぞることさえ考えた。

 それらをヤケクソ気味に、思いのままに実行したこともあった。

 

 ・・・・・・それでも、何も変わらなかった。

 

 この世界での神々や天使のたぐいが裁きに来たことはある。

 それでも、「この世界での終わりを迎えたことは決してない」。

 

 悪として裁かれたとしても、それは彼らの物語の上での悪であって。

 この自分という存在を、転生し続けるという現実を、繰り返されるというボクの物語そのものを終わらせるに足るような、真の裁きにまでは至れていない。

 同じ境地に至った、あるいは陥った馬鹿がいるのであれば、そいつはきっと不死身だとか不滅だとか、無敵だとかと勘違いして苦しみ続けるのだろうが。

 

 一日も、あるいは一筆も物語が進まないに等しいボクにとっては、不死身だとか不滅だとか、無敵だとかになっているも同然の『今』こそが恐ろしいのだ。

 

 連載中の漫画は同じ展開を繰り返され、完全に異なる展開になるという未来に至ることは決してない。放送中のアニメや特撮もそうだ、『今』は永遠に繰り返されている。

 人間の意志、心というものがそれほどまでに強固である、とも言える。

 あるいは、そうした働きさえも。宝くじの当選結果でさえも。

 

 例えるならば、チェスの勝負でさえも。

 駒の数や種類や指す順番が同じならば、結局は『指し手』を変えない限り、いつかの戦いと似たような駒の動きをする。

 それが明日のいつかではなく、ボクが生き続けている『今』を再現する、その要素の数と種類と順番が同じ『今』だから・・・・・・決して、物語や心を変えることはないのだ。

 

 文字すら残らないまっさらな単行本。

 そこに刻まれる物語が、この世界の物語であっても。

 筆の走らせ方を変えようが、脚本をいじろうが。永遠に何も変わらない。

 

 ――――『今』の要素の数と、種類と、順番を弄らない限りは。

 

 

 

相棒(リジル)、このパターンは何度目だっけ?」

 

 相棒は応えない。

 道具が物を語るには、言葉を発する口か、ものを表現する仕草が必要だ。

 何気ない光沢の変化であったり、露骨なまでの光沢の変色であったり。

 そもそも、相棒はあくまで『今』に囚われている道具のひとつに過ぎない。決して同じ時を過ごしてはいないが、繰り返される物語には必ず相棒が隣りにいた。

 生まれる場所が同じならば、授かるものも同じ。

 繰り返される『命』とは、繰り返される『今』とは、それほどの力がある。

 

「ああいや、悪い。相棒は”知らない”んだったっけ?」

 

 突然、相棒の刃先が動き、僧侶の駒を盤上から弾き落とす。

 もったいないことをしないでほしい。彫りのいい綺麗な駒なのに。

 駒の頭と胴体をすっぱりと切り離さないでほしい。見るだけで痛々しくて居た堪れないじゃないか。チェス盤に換えはあるかもしれないけど、それとこれとは別だ。

 同じ会社のコーラを味わうのだって、何通りだってあるのだから。チェス盤も同じだ、同じつくりの製品でもゲームの楽しみ方はたくさんある。

 

 それでも、それがボクの美学になりつつあっても。

 謝るべきはボクであって、相棒の気持ちに応えるべきだ。

 

「悪かったよ。でも、その打ち手は”知ってた”んだ。

 チェスなら相棒より、ボクのほうが長く遊んでいたからね」

 

 もっとも応えはするけれど、勝負は別。

 申し訳ないが、君の考えるパターンはお見通しなんだ。

 そう言外に伝えると、相棒が目の前の皮を削る。相棒の特性を考えれば、相棒自らが好きなように動くことは、この世界では決して変なことではない。

 ただ、ちょっとくらいは奥ゆかしさを憶えてほしいと思うのだけれども。毎回。

 

『”お前 やれ 自分自身で! 別の 武器とで!”』

 

「悪かったって」

 

 次は兵士の駒。

 相変わらず、怒った時の相棒の動きはわかりやすい。

 攻め方がどこか大雑把になりやすいし、視野が若干狭くなるのか、盤面を隈なく見ないと気づきにくいような打ち手を用意すれば簡単に勝ててしまう。

 ほら、後ろにあった兵士の駒にまたやられた。騎士の駒にばかり目を向けるから。

 もったいないことをするよ、君は。ああ、逆転できそうだったのに!

 

 犬が全身を震わせるように、相棒は刃先をデタラメに振り回す。

 

「『そっちの兵士こそが囮だ』って思ったほうがいいよ?

 駒っていうのはね、駒価値なんて算数だけじゃどうしようもないくらい、囮とか囮を警戒したうえでの罠とかを無数に用意しておく・・・・・・ための道具なのさ。

 パワーなんてどうでもいい、計略を張り巡らせればいいんだ。

 ぶっちゃけ王自体も、うまく使えば囮になる。わかるでしょ?」

 

 こっちの話を聞けば聞くほど、相棒の動きは派手になっていく。

 ガチャンガチャンと地面に、壁に、天井にと跳ね回って落ち着きを失っていく。

 ああ、部屋を片付けるの大変だってのに、またこのパターンか。

 気がつけば溜息を吐いているうちに、女王の駒まで取れてしまった。

 

『”いや これで 勝ち 私のもの”』

 

「・・・・・・ん?」

 

 ふと飛んできた、相棒が刻んだ文字を見て、王の駒に目を戻してみる。

 相棒が王の駒を取った上で皮を弾き、こちらに投げてきていたことは分かった。

 

「ああ、いや、そうだったわ、ごめん。

 君は女王でも騎士でもないけど、簡単にチェックメイトできるやつだったね」

 

 飛んできた皮の形を見てみる。

 白磁のような透き通った皮紙。血の通う桃色を思わせる膨らみ。

 おそらくは彼女の乳房を切り取って作ったのであろう羊皮紙、いや悪魔の皮紙は、相棒の赤い文字を刻むにふさわしい芸術的な一品。

 時価にして幾らほどになるのだろうか、売る気はないが。

 

「【王の駒(リアス)】を直接テイクするやつがあるかい、君ってやつはもう・・・・・・」

 

『”うるさい 初めて 私が 殺した”』

 

 また皮紙が飛んでくる。

 

『”未来 私 初めて 違う ? でも これ 私!”』

 

 また皮紙が飛ぶ。赤い文字が舞う。

 

『”これ 何度目? 私 私自身 それも”』

 

 また皮紙が飛ぶ。また赤い文字が舞う。

 誰かの恋文でも引きちぎったのだろうか、赤黒い紐のようなものも飛んだ。

 誰かの運命の赤い糸とやらは、またもこの『今』から亡くなったらしい。

 

『”繰り返す それでも 私 = 私”』

 

 また皮紙が飛ぶ。まだ赤い文字が舞う。

 今日の相棒の調子はいいらしい。皮紙を使い切ると、寄ってきた獲物を刺した。

 どうやら囮役になっていた、この『今』での【兵士の駒(兵藤一誠)】のようだ。

 

『”こいつら ころころ 変える 言うこと。

 前 前の前 前の前の前 いつの前 いつもそう お前 言ってた”』

 

 次は生き残っていた騎士の駒を。ふたつまとめてテイクした。

 この調子で行くと、次の次はボクと対峙している小さめな戦車の駒だろう。皮紙の元色が黒めだと赤が目立たないからと、兵藤一誠の皮を使うのは止めたらしい。

 

『“私 違う 主 お前 お前だけ”』

 

「聖剣の因子とか、あれの適合率とか関係なく・・・・・・そうだったっけ」

 

『”そう お前だけ それ お前 物語”』

 

 目の前の、白い皮紙は舞う。

 

 

 

 

『”私 = お前 の 物語”』

 




 どこかの実験場で運命的な出会いを果たした、なにかの間違いで元々の持ち主の血を引いてしまった誰かと、『ドラゴンの心臓をえぐる偉業』の後に持ち主を失った魔剣がいるらしい。

 なお、場所が場所。実質の強制イベント。
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