IS学園で仮面ライダーごっこをした挙句、スーツアクターになった男 作:我が魔王の変身音好き好きマン
更識簪初登場、第7巻。
MF文庫版7巻、2011年初版。
オーバーラップ文庫版7巻、2013年初版。
仮面ライダーフォーゼ、2011年スイッチオン。
仮面ライダーウィザード、2013年フィナーレ。
『RIDER TIME────』
「『変身ッ!』」
──白状しましょう。始まりはただの、下心だったのです。
少年は、IS学園が嫌いだ。
IS学園に押し込められて、少年が感じていたのは、ただただ苦痛のみだった。
少年に何か夢が、目標があって、IS学園に入学させられた事で夢破れたわけでは無い。だが、せめて高校くらい自由に決めたいと思って、一体全体何が悪い?
女の園でハーレムじゃん、羨ましい! と愚か者どもは口にする。……女尊男卑の世の中で、そんな戯言を吐けるだなんて、どんなドMだ? そもそも、イケイケな女は少年の趣味ではなかった。
ISに乗れるってだけで十分だろう、と男たちは嘯いた。あぁ、認めよう。たしかにISはロマンだ、カッコいい。同意する。少年も入学する前は、ISを使いこなして人一倍に活躍してやろうと息巻いていた。
けれども、入学するにあたって、少年には、致命的なまでに知識が足りなかった。経験が足りなかった。心構えが足りなかった。
ここにいるのは、皆数百数千倍もの倍率をくぐり抜けてきた、世界有数のエリートたちなのだ。
周りの人間が、当然のように理解している事でさえ、少年にはおぼつかない。電話帳もかくやと言った参考書を、一週間で覚えてこいと副担任は言う。それは決して嫌がらせなどではない。クラスメートの彼女たちは皆それを可能とする能力を持っている。IS学園の生徒なら、出来て当然のことなのだ。
この中で1番になれるだなんて幻想。彼は初日に捨ててしまった。
その上、彼と同時に入学した、「1番目の男性操縦者」の男が、なお一層彼を惨めな気持ちにさせた。
初めは、少年と同じレベルの凡人、ともすれば少年よりもなお知識で劣る存在がいると知って、暗い安心を覚えたのだ。
しかし、少年と違って、かの男にはあらゆるものが備わっていた。
姉は
彼自身に目を向けても、そのIS操縦技術はまさしく天稟の才。イギリスの国家代表候補生ですら一目置くその剣技は、正しくブリュンヒルデの弟たる片鱗を見せつけていた。
格が違っていた。
男をダイヤモンドの原石とするならば、少年にはせいぜい、河原で拾った珍しい石ころ程度の価値しかない。
クラスメートは数千数万の同世代の秀才から選び抜かれた次世代のリーダー達。
もう一人の男は天災に、運命に、世界に選ばれた次世代の英雄。
少年だけだ。
少年だけが何かに選ばれた訳でもなく、成り行きだけでここにいる。
肌で感じるそれが、堪らなく悔しかった。
授業が終わると同時に、いつものように少年は教室を飛び出す。
後ろから呼びかかる、男女の声なんて聞こえない。
不貞腐れた少年は、学園の中をぶらぶらと彷徨い歩く。兎に角人と関わりたくなかったからだ。
さんざんばらにうらぶれて、たどり着いたのは、人気のない倉庫のようなところ。看板には、「第三整備室」と掲げられていた。
──丁度いい。
新学期早々にこんな所には誰もいない、いたとしても相当な根暗くらいだろう。そんな奴らは声なんざかけてくるわけない。
そんな想定のもとで、少年は整備室の扉をくぐる。
するとそこには──
「……誰? 本音?」
えらい美人がそこにいた。
淡い水色をした髪は、ともすれば派手に染め上げた不良であると印象付けかねないが、この少女の場合、それは無縁だろう。
小柄な身体付き、ちょこんと顔にかけられた眼鏡、終始おどおどとしたその姿は、どこか小動物を思わせる。
今の女尊男卑の世の中においては絶滅危惧種級の、「内気な図書委員風美少女」がそこにいた。
有り体に言って、少年のストライクゾーンど真ん中だった。
しばし少女に見惚れた少年は、ジト目を向けられていることに気がつくと、ハッとして自らの名前を名乗った。
すると、少女は「そう」と呟き、「更識簪」とだけ続けた。
……それで終わり?
一瞬ひるんだものの、彼女との接点を求めて抵抗する。少年は、会話のきっかけがないか、整備室中をキョロキョロと見渡してみた。
更識簪? 聞いたことがない。エピソードで語れることはないだろう。
少女はキーボードをずっと叩いている。しかし覗き見た画面を少年は全く理解できない。ISに関する知識面で語るのは不可能だ。
何かないか、何かないか。
少年が見つけたのは、おそらく少女のものであろう鞄に括り付けられた、ストラップだった。少年はそれそのものについては知らないが、シリーズに関する知識なら、子供の頃に少し齧っていた。
「──更識さん。そのキーホルダーってもしかして、『仮面ライダー』?」
「知ってるのッ!?」
馬鹿げたほどに食いつきがいい。
名乗る時でさえ手を止めなかった少女が、単語を口にしただけでこちらに顔を向けて話し始めた。
この話題は当たりだ。誰しも趣味の話なら饒舌になるだろう。これを足がかりにすれば──。
その予想は当たっていた。当たりすぎていた。
「あぁ、俺も子供の頃から『仮面ライダー』、よく見ててね。ドラマ仕立てで怖かった覚えがあるが、あれは寧ろ今の方が楽しめそうな──」
「そうだよね! そうだよね! みんな子供っぽいって言うけれど、大人だって楽しめるよね! 少し前までやってた『オーズ』だって、パンツとかメダルとか軽い要素に隠れているけど、本質は人間の欲望について取り扱っているし、『映司』のトラウマに関する話なんて、そもそも子供にわかるようには初めから作ってないよね。『映司』といえば闘うに連れてどんどんグリード化していくけど、これも『仮面ライダー』のお約束って感じで、私は好きだな。まあ『ブレイド』を思い出して不安になったところもあったけど最終的には──」
「……あー、うん。そうだ、な」
──饒舌すぎる!
彼がなんとか聞き取れたのは、『仮面ライダー』と言う単語と、『ブレイド』という観たことのあるシリーズくらいだった。というかこの子当然のようにパンツとか口にしてなかったか?
少年の反応が鈍いことを見て取った少女は、顔をうつむかせて小さく口走る。
「……ごめんなさい。やっぱり興味、ないよね」
「──いやいやいや。嫌いじゃないさ。もっと話そう! ……ただ最近、IS周りのゴタゴタで忙しかったせいで、『オーズ』、だったか? そのシリーズを見れなかったからついていけなかっただけだよ」
「……本当に? 無理に話を合わせなくてもいいんだよ?」
──セーフッ! 『ブレイド』関連で話を繋げられそうだ!
糸口を見つけた少年は、記憶を掘り起こして話し出す。
「ああ、本当、本当。『ブレイド』観てたけど面白かったよ。とりわけ後半は熱い展開だったし、最終形態は子供心で、なんというか、すごくカッコよかったよな。『オーズ』もあんな感じの話なのか? 機会があれば観てみようかな──」
「それならはいっ、これっ!」
無駄に洗練された技能だった。
製造・整備中のISを部分展開した少女は、
『仮面ライダーオーズ』Blu-ray全12巻セット、締めて7万弱円也。
これには、流石の少年も少し引いた。
「……いつも、持ち歩いているのか?」
「……うん。
ISそのものが完成していない少女は、その機能を四次元ポケット代わりに使っていた。
「──おい。大丈夫か?」
二週間後、少年は彼の副担任に心配されていた。
目尻に深いクマを作った少年は、授業中も幽鬼のように黒板にかじりついている。初日二日目は寝落ちしそうになっていたため、出席簿にて喝を入れられていたが、ここ最近ではそのような様子さえない。
声をかけられた少年は、目をしょぼしょぼと瞬かせた後に、返事をした。
「大丈夫です。織斑先生。続きをどうぞ」
「……そうか。お前が他のものと比べて些か劣っているのは事実だが、私から見れば所詮全員ひよっこだ。焦るなとは言わないが、あまり根を詰めすぎるなよ」
「わかりました。ご心配ありがとうございます」
再びノートを取り始める少年。
それを見た副担任は、満足そうに笑った。
少年は、周りと自分を比べて、劣っていることを殊更気にしていた。目に余るようであれば、多少の指導が必要だと考えていたが、この分では自力で解決したらしい。
女は生徒の成長に、口の端を薄く歪めた。
「『オーズ』全48話。視聴終了ッ!」
「どうだった? ……面白かった、よね?」
少年は何も寝食を犠牲にして勉強をしていたわけではない。
特撮作品をひたすら徹夜して見続けていたのだ。初めは、少女との接点を作るための視聴で、要点さえ纏めていれば十分だと思って、あまつさえネットで軽く事前知識を予習する体たらくだった。
だが、今の彼は──
「いや、うん。正直『仮面ライダー』舐めてたね。確かに今見ても面白い。というか子供が楽しめたのか心配になるわ。『ドクター』なんて最初面白おじさんコンビかと思ってたら闇が深すぎるだろ」
「んー。ちびっ子は、究極的にはヒーローがカッコよければそれで十分だって何かで聞いたことあるけど……」
どっぷり沼に引きずり込まれていた。
少年の、少女に向けるものとはまた別の意味での、「男の子の魂」が目覚める。ハッピバースデー!
「というか、『仮面ライダー』の変身形態って今あんなに多いんだな。俺が知ってた頃は、基本一つか二つで五つもあれば多いほどだったんだが」
「数が多くなったのは、一つ前の『W』からかな? いや『ディケイド』からかも……」
うんうんと唸る少女に対して、少年は嬉々として同意を求めた。
「でも、色々あるコンボの中でも、一番カッコいいのはやっぱりあれだよな」
「うん、あれだよね!」
「『プトティラコンボ』だよな!」
「『タジャドルコンボ』だよね!」
「は?」
「え?」
二人の間を、一筋の風が流れた。
IS学園には数多くの武術家が存在するが、彼らと一般人の間には、埋めがたい差がある。
段位が少し違えば、生物種としてももはや違う存在なのだ。
それは趣味にも当てはまった。少年少女は、目の前の相手が突如として異星人に置き換わったと錯覚する。
自分の最強を否定する相手を、人間は許容できない────
「おいおい、簪ちゃんよう。寝不足の俺じゃなくて、お前が寝言をほざくのは違うんじゃないか? 『仮面ライダー』ってのは、敵組織の力を用いて戦う戦士のことだろ? だったらグリード化する『プトティラ』が一番
「寝不足なら、今すぐに寝たほうがいいと思う。きっと頭に栄養が足りてない。あの最終回を見たなら『タジャドル』が最強って誰でもわかりそうなものだけど。一年間通して育んだ『アンク』との絆が感じられる最高のシーンじゃん! なんでわからないの!」
ぎゃーぎゃー、わーわー。
混迷した議論の結末は、『ガタキリバコンボ』の分身から両方、というか全部出せばいいんじゃない? という身もふたもない答えだった。
「んで、今やってるのが、『フォーゼ』だっけ? ……正直見た目、ダサくない?」
「……ノーコメントで」
話は次の世代へと移る。
タマゴの殻を被ったような佇まいに、少なくとも見た目に関して、少年は懐疑的だった。
少女も内心、それは同意見だったようだ。分の悪さを悟ったのか、少女は話を中身へと変える。
「でも、内容自体は面白いんだよ! 今回は学園ドラマ風になってて、不良が皆と友達になろうとする話なんだ。『フォーゼ』も宇宙の力を使って戦うから、あの見た目も宇宙服をモチーフにしているらしいし──」
「……へぇ」
「不良」が、「学園」で、「宇宙の力」で戦う。
どこかで聞き覚えのある話だった。
「じゃあ、俺も観てみようかな」
それからしばらく。
特撮に影響された少年は、
「──IS関連の法律多すぎだろ。当時の国会はパンクしてないか?」
「正直俺も覚えらんねー。後でセシリアに要点聞きに行こうぜ」
学生の本分を全うしていた。
元々、少年の目的は少女に近づくことで、特撮を見るのはそのための単なる手段だ。今となっては逆転しつつあるも、少女に近づきたいという思いは消えていない。
雑談の折、少女がIS業界の中でもトップ層の人間だと知った少年は、話を合わせるために、ISの知識を仕入れ、操縦の訓練に励んだ。
無論、彼自身は凡庸であったために、周りに助けを求め、教えを請う。クラスメイト達は、本質的に善人が多かったがために、もう一人の男子生徒を筆頭に、少年に対して手を差し伸べた。
少年は、学業に励み、趣味を楽しみ、学友との絆を深める。
いつの間にか、学園が嫌いじゃなくなっていた。
一人目からかなり遅れて、少年にも、専用機が与えられるという話がやってくる。
といっても、学園保有の打鉄を常時予約状態にして貸し出すという程度の暫定的な処置である。不平不満が沸くのが普通だろう。
申し訳なさそうにする教員をよそに、「もしかしてお揃い?」とノー天気に考えている少年。
彼を真に喜ばせたのは、担任の些細な提案だった。
「あっでも、装備は『葵』以外にも詰め込めるので、自由にしていただいて構いませんよ?」
「マジですかッ!?」
少年は待機状態の打鉄を引っ掴んで、学園を遮二無二駆け回る。
目的地はただ一つ。いつもの整備室だ。
「えー、それでは。第一回・『打鉄アストロスイッチ化』計画を始めます」
「わーわー、ぱちぱち」
「正直ラファールの方が良かったけれど、背に腹は変えられません!
……ってわけで手伝って?」
「……今度データ取りお願い」
「ミサイルの的ね、あいわかった」
少年少女は、力を合わせて、既存の武器の見た目を
後日。
少年のISの装備が公共の電波に乗ると、気合の入ったコスプレイヤーがいると言うことで、大規模にバズった。
そして、版権元から大目玉を食らった。
……ネームバリューを生かして、広告に参加するだけで許されたのは、単なる温情だろう。
さて、日常回は終わり、これからは戦いの時間。
『最初からクライマックスだ』
「──チッ、手間取らせやがって」
亡国機業との決戦の日、人気のない倉庫の中で、蜘蛛のような姿をした女が溜息をついた。
「なぁ、お前もわかるだろう? 私たちにとって、お前なんざどうでもいいんだよ。お前がお利口さんにしてくれるなら、そのまま家に帰してやってもいいぜ。
──だからよ、足をつかんでいる手、離しちゃくれないか?」
蜘蛛女の右足には、少年が纏わり付いている。
フルスキンにアレンジされた打鉄は見る影もなく、仮面は割れ、装備もボロボロになっていた。
既に決着がついた戦場で、少年は高らかに啖呵を切る。
「こと、わるッ!」
「ああ、そうかいッ!」
蜘蛛怪人は男を足蹴にする。
いかにISのシールドが優れていようとも、衝撃をゼロにはできない。この手の拷問を得意とする蜘蛛女にとって、少年の命はまさしく巣の中にあった。
ところが、この女は少年に対し多少なりとも
「いい加減、お前も大人になれよ。こんな所で油売ってても、お互い仕方ないだろ?
──誰も言ってくれなかったなら、私が言ってやるよ。
お前は何も期待されちゃいない。選ばれなかったスペア以下だ。おかしいと思わないか? もう一人が専用機やらで優遇される一方で、お前はそんなおもちゃで
……正直私でも同情するよ」
少年に、すでに確たる意思は存在しない。
蜘蛛怪人にへばりついているのも、正直惰性だろう。
だが、その時の女の声は、少年の耳をしかと貫いた。
ごっこ遊び、ごっこ遊び──。
うわごとのように、少年は呟く。
こりゃダメだ、と嘆息する蜘蛛女。そんな彼女と、少年の
その目は希望に満ちていた。
右手の
「──ごっこ遊びで、何が悪い」
「俺はこれが好きなんだよ。これが、一番強いって思ってるんだよ」
「俺が思う、一番強い奴の真似をして、何が悪い────」
その日一番の宣言だった。
選ばれなかった少年。
彼の心のうちに住まう、
その魂に気圧された怪人は、意図せずバツの悪そうに呟く。
「……あぁ、そうかい。そりゃ失礼。悪かったな、馬鹿にして。謝るよ。
だが、お前はすでに死に体で、お前の『最強』も、今や鉄屑だ。
──諦めろ。お前はヒーローにはなれない。そもそもヒーローなんか現実にはいねぇんだ。わかったら帰って映画でも見て──」
衝撃。
古ぼけた倉庫が、確かに揺れた。
蜘蛛女が動揺する中で、少年は言葉を訥々と重ねる。
「……お前はヒーローなんかじゃないって言ったな?」
「あん?」
少年は何にも選ばれていない。
それでも、選ばれた英雄は必ず何処かにいる。
「ああ、そうさ。俺はヒーローなんかじゃない。でも、ヒーローがいないわけじゃない。
──主役はいつだって、遅れてくるものだろ?」
そう言って、彼は、右手に握ったスイッチを蜘蛛女に投げつける。
それは変身アイテムなんかじゃない。
「テメェッ!?」
「そら、来るぞ。来るぞ──」
一閃。
倉庫の壁が、紙切れの如く両断される。
奥に見ゆるは、次世代の英雄。光り輝く剣を携えた、白き羽持つ
「
「…………なぁ、かんざしちゃん、よぉ」
「いいから、喋らないで!」
少女が見つけた時、少年は血塗れで生死の縁を彷徨っていた。
IS戦闘において、起こりうるはずもない大怪我。それは、少年が生身の状態でいたぶられていたことを意味している。
「あの日言った言葉、一部ていせいするわ」
少年は、少女に対して、言葉を残す。
「──暴走がカッコいいって言ったけど、絆の『ロストブレイズ』もカッコいいって、今なら思うよ……」
それは少年が学園で学んだ、遺言だった。
結論から言ってしまえば、男の身体に
──男の身体からはISを動かすに足る、
この診断結果は、世界に衝撃を与えた。
女性だけがISを扱える理由が、染色体遺伝子に起因するのではなく、体内の何らかの物質によってもたらされた効果であるという説が巻き起こったのだ。
少年の身体から抜け出た、原因物質さえ特定できれば、誰でもISが使える世界が来るかもしれない。
今、世界では一種のムーブメントが巻き起こっていた。
「──ありがとう、皆!」
激動の世界の中で、少年の周りにも変化が訪れた。
ISを動かせないものに学園にいる資格なし。
当然ながら、少年はIS学園を退学するより他なかった。
だが、その変化はひどく穏やかなものだ。
本来なら、彼は卒業後、IS関連施設で
しかし、今の少年はそうはなっていない。驚くほどに大量の誓約書にサインしたのち、少年は身柄を解放されることに相成ったのだ。
その理由は、悪の秘密結社との戦いでの功績に報いるためかもしれない。
その理由は、少年の顔が一般人に知られているからかもしれない。
あるいはその理由は、世界最強の女が、生徒に降り注ぐあらゆる理不尽を踏み潰したからかもしれない。
いずれにせよ、今や少年は自由だ。
「──IS学園、一足先に卒業しますッ!」
IS学園を放逐されて、宙ぶらりんになっていた少年の社会的身分を救ったのは、彼のIS装備でお世話になった版権元の企業だった。
ISが使えなくなった今でもなお、少年の知名度は陰りを見せない。少年の広告効果を求めた取引だった。
また、少年もやりたいことを見つけたために、積極的にそれを受け入れた。
少年は、
幸か不幸か、努力は裏切らない。IS操縦のために、軍隊レベルで身体を苛め抜いてきた少年の身体は、肉体だけなら、十分に仕上がっていた。
後は技術を身につけるのみ。
そして数年後。
今日もまた、いつものように、男は正義となり、悪となる。
「すげぇな、あいつら。来るのを待つんじゃなくて、自分たちから宇宙に行ったのか」
出勤中、駅前で配られていた号外を見て、男は呟く。
ここはもう、悪の組織が滅びた世界。
少しだけ平和になったそこで、ISは本来の役目を思い出していた。
男の手には、宇宙に行く為の
だが、それが何だというのだ。かの学園で作り上げた、彼らの絆は、何一つとして失われてはいない。
それに、学園から外に出たからこそ、手に入れたものもある。
男は、左手の薬指に収められた
これから行うことは、なんら生産性のない、けれども夢と希望を与える、ショータイムだ。
ヒーロースーツを纏う直前、男は学生の頃から続けてきた、決意を口にした。
「『変身ッ!』」
『Three・Two・One──』
『──Shaba Do Be Touch Henshin』
『────To be a got rise!』