IS学園で仮面ライダーごっこをした挙句、スーツアクターになった男   作:我が魔王の変身音好き好きマン

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インフィニット・ストラトス第1巻、2009年刊行。
白騎士事件、原作開始点の10年前、1999年勃発。
仮面ライダークウガ、2000年伝説を塗り替える。

……あれれ〜(一年ずれてて)おかしいぞ〜?
こじつけなきゃ(確信)

平成仮面ライダー製作発表会、1999年。
篠ノ之博士IS製作発表会、1999年。

……ヨシ!(現場猫)


『祝え──』


2019:ジオウ・オン・ステージ!

 

「この本によれば、普通の高校生常盤ソ────」

 

「……失礼。皆さんにとってはこちらの本、でしたね」

 

「さて、改めて。

 この本によれば、二人目の男性操縦者、彼には魔王にして時の王者「オーマジオウ」の影武者(スーツアクター)となる未来が待っていた。IS乗り(ライダー)としての力を失い、学園をめでたく『卒業』した彼は、我が魔王の影武者(スーツアクター)となるべく、日々鍛錬を重ねることとなる。しかし、そんな彼を、時代の亡霊は手放さなかったようで……」

 

「おっと。流石に読みすぎました」

 

 

 

 

 

「第14回・『打鉄アストロスイッチ化計画』ー!」

「いぇーい」

 

 あの頃は楽しかった。

 

「今回は特別ゲストとして、一夏にも来てもらってます!」

「あー、俺なんて言えばいいんだ?」

「適当に合わせておけばいいと思う」

 

 勿論、今は今で、楽しんでいる。

 

「おい、一夏! 剣の稽古をサボって何をしている!」

「待て待て箒! これは、あれだ、そう! 男同士の付き合いってやつだ!」

「むっ……そうか。それならまぁ、仕方のない、のか……?

 ──って! 簪もいるではないか!」

 

 だけど、あの頃はたしかに、楽しかったんだ。

 

 

 

「────いっ! おいっ! 起きろッ!」

「──!? すいません! すいません!」

 

 うだるような暑さ。寝苦しい体勢。何より聞き慣れた怒鳴り声。

 青年は微睡みから叩き起こされる。

 それは、どこかのテーマパークの舞台裏。

 

「ったく。もうすぐ本番だぞ。弛んでるんじゃないか? お前は今日、主役なんだぞ!」

「いやー、あはは。本当すんません。緊張してたらウトウトしちゃって。でももう充分寝たんで大丈夫っす、立花のおやっさん!」

 

 愛想笑いを浮かべる青年。そんな彼の様子を見て、おやっさんと呼ばれた男は「調子良いな、お前」と頭を軽くはたいた。

 

「いてっ」

「まぁいい。これから最終ミーティングだ。こんなところで油売ってないでさっさと顔洗ってこい!」

「てて、……うっす!」

 

 青年は威勢良く返事を返し、座っている椅子から跳ね起きて手洗い場へと向かう。その様子を見て、立花はやれやれと首を振った。

 男の元に少年が着の身着のままで転がり込んできた日から、優に数年の時が流れていた。

 

 

 

 青年が眠気を覚まして現場へと向かうと、既にそこは大勢のスタッフでごった返していた。

 

「板東先輩。スーツの変声機の調子がおかしいんですけど、手貸してもらえますか!?」

「りょーかい。少し待っとけ! すぐに向かう!」

「ありがとうございます! なるべく早くお願いします!」

 

「輪島チーフ! 物販の方から売り物以外を渡すなって苦情が来てます!」

「うるせぇ! 協力してくださったお子さん方にはお土産を渡すのがマナーだろ!?」

「だからって毎回オリジナルを渡さないでくださいよー!」

 

「石動さーん! 搬入されてるスモークガスの量が少ないそうです! 脚本的に弄れるところってありますか?」

「あぁ、それなら────」

「なるほど! 係に伝えてきます!」

 

 チーフディレクターを始めとする首脳陣。音響、効果、演出を一手に背負った舞台チーム。青年の同僚にして敵役の、悪役怪人の皆さん。

 多種多様な青年の「仲間たち」が思い思いに自分の要件に対処し、有機的にショーが作り上げられている真っ只中だった。

 

「お疲れ様でーす!」

「うーい。お疲れー!」

「おう、今日もよろしく!」

 

 青年が開口一番挨拶に声を出すと其処彼処から返答が返ってくる。

 人と物を掻き分けて、青年は空いている場所を求めてウロウロと彷徨う。そんな彼に、「こっちこっち!」と声が投げかけられた。

 

「こっちの方空いてるよー!」

「ありがとうございます! 沢渡さん!」

「いいってことよ!」

 

 そう言ってからからと笑う女。彼女もまた、ヒーローショーには欠かせない存在。

 「司会のお姉さん」役の人だ。

 沢渡は冷房の真下に我が物顔で位置し、陣取っていた。

 熱気あふれる現場の唯一のオアシス。

 青年はおずおずと、及び腰でそこに近寄る。

 ひんやりとして気持ちいい。

 

「……あの、ここ二人じめにしていいんですか?」

「んー? 大丈夫、大丈夫! 私が下手に汗をかいて化粧が乱れた方が皆の迷惑になるからさ!」

 

 正論だ。間違ってはいない。

 彼らキャストの中でも、生身で出るのは彼女くらいな以上、配慮は必要だろう。

 納得する青年に対し、沢渡は「それを言うなら君もでしょ」と続けた。

 

「俺もですか?」

「そう、君も。いくらスーツがここ数年で高性能化したからって、熱中症になるかもしれないじゃん。ヒーローが熱中症に負けたなんて、笑い話にもならないよ!」

「……それって現場の皆にも当てはまることじゃ?」

「裏方と主役じゃステージでの印象は全く違うの!」

 

 冷房環境利用の是非を巡って話し合う二人。

 そんな彼らの空間に、三人目が割り込んだ。

 

「それじゃあ、僕も同席していいかい? 『我が魔王』」

「──あっ、どーも。お疲れ様です! 葛城さん!」

「あぁ、お疲れ様。沢渡さんも」

 

 当然のように足を踏み入れ、一番風の当たる位置に座り込んだ男。

 そんな葛城に、女は疑問を問う。

 

「──お疲れさまですー。葛城さん、もう役に入ってるんですか?」

「うん? そうだけど?」

 

 沢渡の問いに、当然じゃないか、と言う顔をして男は認め、続けた。

 

「ナレーションは舞台の雰囲気を作る役柄だ。いくら変声機で声を変えたとしても、いくら台本に従うとしても、『ウォズ』っぽさが無ければ、お子様方はすぐに気がつくと思うけどね。君はどう思う? 『我が魔王』」

「えぇ、確かにそうですね。勉強になります!」

「それは良かった。それじゃあ、三人で動きを確認しようじゃないか」

 

 青年たちは時間直前まで、スタッフ総出で細部を詰めていく──────。

 

 

 

「しっかし。本当便利になったわよねぇ」

 

 開演までもう少し。

 青年は美術の人に手伝ってもらいながら、衣装合わせを進めていた。

 

「白石さん。いつもそれ言ってません?」

「あら? そうだったかしら。まあそのくらい便利ってことよ。

 ──ISに乗らない私がいうのもなんだけど、まさしくISサマサマね」

 

 ISという、既存の技術体系に属さない異端技術。

 天災によりもたらされた技術は、様々な分野へと波及し、用いられていた。

 無論、それは特撮業界でも例外ではない。

 ISスーツを開発するにあたって、生体電気を操作する研究が進んだ。そのノウハウは、スーツを着た状態でスーツアクターが無理なく激しく動き回ることを可能にした。スーツそのものの耐久性も、銃弾に耐えきれるとまでは言わないまでも、爆風で傷つかない程度には頑丈だ。

 ISの持つ性能である量子化技術。これを再現しようとする試みの中で、安価小型化に対するブレイクスルーがいくつも巻き起こった。

 今では、ヒーローショーで扱うスーツの多くに、小型の変声機が取り付けられている。これを用いることで、従来の録音形式では対処できなかったことも解決できるようになった。

 無論、突発的なアクシデントに対応できるというメリットを享受する代わりに、アクターの演技力が今まで以上に求められるのだが。

 

 青年がスーツを着終えたのを確認して、白石は青年にも同意を求める。

 

「はいっ、これでよし! 動きに変なところない?」

「──あっ、あー。『特に問題ないですよ』」

「……急に本物の声にならないでよ。びっくりしちゃうじゃない」

 

 驚き呆れる女に一礼して、青年は舞台へと向かう。

 これから先は、彼らのショータイムだ。

 

 

 

「みんな〜、こ〜んにちわ〜!」

「こ〜んにちわ〜!」

「う〜ん、声が小さいですね〜。

 ──それじゃあもう一回! もっと大きな声で! こ〜んにちわ〜!」

「こ〜んにちわ〜!」

 

 舞台袖。

 先に舞台に出た沢渡の声に乗せられ、多くの子供達の声がこだまする。

 掴みは上々。ショーは無事に滑り出した。

 

「『普通の高校生、常盤ソウゴ。彼には魔王にして時の王者、オーマジオウとなる未来が待っていた──』」

 

 葛城の朗読に合わせて、会場のボルテージが上がり、世界が切り替わる。

 ここはもう、逢魔降臨歴(脚本家の台本)のページの上。『ジオウ』の世界だ。

 

『BUILD』『EX-AID』『GHOST』

 

 おどろおどろしい音楽の中で、重低音の『アナザーライドウォッチ』が鳴り響く。舞台上に上がったのは、悪役怪人の皆さんだ。

 

「今日ここに集まっている子供達で〜ベストマ〜ッチ!」

 

 『アナザービルド』役の人がそう言うと、怪人集団は観客の子供達を何人か舞台上に上げ、寸劇を始めた。

 没入感はますます高まったことだろう。

 

 青年がじっと待機している中。ようやく沢渡からお呼びがかかった。

 

「わぁ、どうしよう、どうしよう! 『ライドウォッチ』を持った『アナザーライダー』を倒せるライダーなんて……。

 ──そうだ! ジオウだ! ジオウならきっと倒せる! みんな! せーので一緒にジオウを呼ぼう!

 それじゃあいくよ!? せーの!」

 

「ジオウ────ッ!」

 

『RIDER TIME!』

『KAMEN RIDER ZI-O!』

 

 鳴り響く変身音。

 軽快なオープニング曲とともに、青年は──いや、『仮面ライダージオウ』は舞台に上がった。

 

「わー! ジオウだ! がんばれー! あくしゅしてー!」

「あっ、ずるいぞにーちゃん! おれも! おれもおねがい!」

「こら、危ないでしょ! 猛、雄介! ちゃんと席に座ってなさい!」

 

 青年の耳に、親子連れの声が聞こえる。

 そのことに、青年はなんとも言い難い喜びを覚えた。

 何故ならそれは、かつての昔なら、いつでもどこでも聞こえた声だからだ。

 何故ならそれは、十年近く前では、絶対に聞くことのできない声だったからだ。

 何故ならそれは、青年がまだ少年だった頃、仲間たちと一緒に取り戻した声だったからだ。

 

 20年前、世界を震撼させた「白騎士事件」。あの日確かに一度、予定調和の『時代は壊れた』。

 ISの台頭に伴い発生した思想、女尊男卑。その病は静かに、だが確実に蔓延していた。

 女性こそ優れている。男は劣等だ。子供から老人まで、男というだけで害悪だ。

 程度の差はあれど、そのような空気感が社会に形成され始めていた。

 

 しかし数年前、IS学園に集った新時代のISライダー(ヒーロー)たちにより、歪められた『未来が変わった』。

 女尊男卑の思想を密かに推し進めていた「悪の秘密結社」。その機業は、青年を含む皆の力で既に壊滅していた。

 

 そして今や。女尊男卑の風潮は最早存在しない。

 そのことは、今日この日ヒーローショー に集っている親子連れからも明らかだろう。

 病の媒体になっていた亡国が潰えたのももちろんだが、他にも理由はある。当時女尊男卑を肯定していた女性たちは、自分たちが母親となってようやく気がついたのだ。

 ……自分の可愛い子供が、半分の確率で男であるということに。

 そのことに実感を持って社会が気づくや否や、さざ波のように女尊男卑の風潮は引き上げていった。

 

 青年は一つかぶりを振ると、悪役怪人に向かって駆け出す。

 これから先は、夢と希望の、楽しい楽しいヒーローショー(ごっこ遊び)だ。

 

 

 

 楽しいヒーローショー。予定調和の勧善懲悪。

 ここで行われるのは、善悪一体となって子供に夢を与えることだ。

 

 だが、この日のそれは、逢魔降臨歴(決められた台本)から大きく外れることとなった。

 

 予定にない発砲音がこだまする。

 演出にない爆発がステージを襲う。

 

「────────────ッ!?!?」

 

 観客演者問わず、絶叫が響き渡った。

 一人の観客が、何かを見つけたのか空を指差して叫ぶ。

 

「あいつだ! あいつがやったんだ!」

 

 そこにいたのは、空に浮かぶ機械鎧。

 人類技術のハイエンド、生きた幻想。

 インフィニット・ストラトスを身につけた女だった。

 女はゆっくりと口を動かして告げた。

 

「み ぃ つ け た」

 

 自ら作り上げた爆炎を突っ切って、ステージに女が乱入する。

 ……彼女の姿を見た多くの人間は、言いようのない「生理的嫌悪感」を得た。

 女の纏うISは、幼児に設計を担当させた結果として出来上がった代物であるかのようだった。

 それほどまでにそれは「異形」だった。

 銀灰がかった黒色から見て取るに、ベースとなっているのは第二世代型純国産IS「打鉄」だろう。だが、ISに使われている打鉄のパーツの総量は、恐らく半分にも満たない。

 その右腕は打鉄のそれと比べて、ひと回り太いマゼンダ色だった──中国製IS「甲龍」のそれだ。

 対照的に左腕はほっそりとした蒼色をしている──イギリス製量産機「メイルシュトローム」のものだろう。

 それら両腕の先端は、打鉄の黒よりもなお深い漆黒に染まり、指先では時折紫電が舞っていた。ドイツ軍謹製のプラズマ手刀だ。

 さらに肩部には実体盾の代わりに、ネイビーカラーの──ラファール・リヴァイブの──推進翼が取り付けられている。

 極め付けは胸部装甲。此処には、最早ISでないものが用いられていた。国連がISを模倣して作り上げた俗称「鉄屑」「ISのなりそこない」、E・O・Sの装甲板を無理やり貼り付けている。

 既存のISをめちゃくちゃに繋ぎ合わせた結果として出来上がった異形の化け物。

 正道たる打鉄から路を踏み外した、『アナザー(もう一つの)打鉄』とも呼ぶべき代物だった。

 

 爆炎上がるステージ上で、青年は乱入者の女と相対する。

 と、同時、顔を合わせるや否やのこと。

 ゲラゲラ、ゲラゲラと。

 ヒーロースーツを身に纏った青年のことを、女は嘲り嗤い、嘲笑した。

 目の前で笑い出す暴力機構に、内心恐々としていると、インカム越しに立花の声が聞こえた。

 貴重な情報を聞き漏らさないように、さり気なく耳に手を当てて静聴する。

 

「坊主。返事しなくてもいい。聞こえてると思って話す。さっき警察に通報して、今まさに自衛隊からISを派遣してもらっている。だが、すぐさまってわけには行かねぇ。

 ──だから、坊主。話をして、ISの気を引けるか?」

 

 寒気がした。とんでもない無理強いだった。

 生身でISには勝てない。これは世間の常識である。

 そして青年は、学園での経験からそれを風聞以上の実感として知っていた。

 悲鳴をあげそうになる青年に、立花は言葉を継ぎ足す。

 

「悪い。難しいのはわかってる。だが、現状頼める奴がお前しかいないんだ。大多数は観客の避難をしなきゃならねぇし、瓦礫にテメェの腹ぶち抜かれてる馬鹿もいる。とてもじゃねぇが手が足りねぇ」

 

 そこで、青年は通信機越しにゼィゼィと荒い息が漏れていることにようやく気がついた。

 青年の驚愕をよそに、立花は三度言葉を重ねる。

 

「朗報と言っちゃあなんだが、白石の嬢ちゃんの試算だと、そのスーツなら多少の衝撃なら耐えられるとのことだ。豆鉄砲くらいなら、おそらく即死はしない。だからよぅ、坊主。

 ──頼む」

 

 最後の一言ともに、通信が途絶えた。

 耳に当てていた手を握りしめ、青年は狂人に問いかける。

 

「──何がおかしい」

 

 被害状況、避難状況。それらを横目で見る。今の所、見える範囲で危険な人はいない。

 だが、未だ状況は女の手の上だ。

 青年は、とっかかりを求めて女と話そうとする。

 わざわざステージ上に降りてきたことからも、十中八九狙いは男性操縦者であった自身の身体だろう。

 だが、頭のネジが丸ごと外れていると思われる目の前の女。どんなトチ狂った理由が飛び出すか分かったものではない。

 理由を探りつつも、青年は会話で時間を引き延ばす。

 

「……あぁん? なに糞みてぇな男が私に声をかけてんだよッ!」

 

 そんな青年の思惑に、罵声でもって返す女。

 全くとっかかりの掴めない返答。

 しかし、女尊男卑の坩堝を体験したこともある青年は、独特の話運びにも慣れていた。

 青年はうわべだけ丁寧にした言葉を女に投げつける。

 

「……あぁ。それは悪かった。どうかお聞かせ願えますか?」

「ったく! そうだよ、男なんざ、そうやって這いつくばってろ!

 ──それより、なんだよその格好! ISに乗れなくなったからって、しこしこヒーローごっこかぁ!? 泣けてくるねぇ、おい!」

 

 奇しくも女の話し方は、かつて青年が戦った怪人・蜘蛛女に似通っている。全く同じとは言わないがその時の例に従うならば、この手の奴は自身の話に反発されるのをひどく嫌う。

 青年は女の話を受け入れて返した。

 

「あぁ、そうだ。カッコいいだろう? 『仮面ライダー』」

「──ハッハァ! テメェマジかよ! その年になって脳みその中は未だにガキなのか?」

 

 嘲る女。

 それを聞いた青年は、会話の流れが通ったと判断した。狂人だが、意思疎通は決して不可能ではない。

 青年は話題を振って、会話を引き延ばす。

 

「一つお聞かせ願いたいんだが、今回の御用向きはいったい何用で?」

「そんなのもわかんねぇのか? やっぱ脳みそ猿以下なんじゃねぇ?

 ──テメェの肉体、その生体サンプルだよ」

 

 ──だろうな。

 

 青年は、内心で言葉を返す。

 そしてこの瞬間、青年に一つの解法が浮かんだ。

 

「それじゃあ、俺がついていけばお前はおとなしく帰ってくれるのか?」

 

 一見するとただの自己犠牲。

 だが違う。これは打算と信頼だ。

 青年はおそらく、すぐさま殺されることはない。

 そして、少しの時間さえあれば、国のIS操縦者が必ず助けに来てくれる。

 理想的な時間稼ぎの方策だった。

 

「あん? お利口さんじゃねぇか。結構なことで。

 ──気が変わった。今日ここに集まってるジャリガキ、男どもを皆潰して帰ることにするよ」

 

 だが、狂人の思考は読めない。

 

「──は、あ?」

「いや、テメェがそんなにも乗り気なら、時間も余って私暇になるだろ? だったらここにいる男どもを皆殺しにして行った方が世の中の為になるだろ?」

 

 私って天才じゃね? そう言ってゲラゲラ嗤う女。

 それを見て、青年は話運びの失敗を理解した。

 だが、まだ修正可能だ。

 青年は、手に持った武装を構えて啖呵を切る。

 

「それなら撤回だ。俺がお前の相手をしてやるよ」

「ハッ! 蛮勇ご苦労! 死なない程度に殺してやるよ!」

 

 字換銃剣『ジカンギレード』。

 ジオウの武器だ。ヒーローの武器だ。

 それでも、握られたそれは、ひどくちっぽけで頼りない。

 青年は今日ほど、かつて失ったスイッチ(IS)を待望したことはなかった。

 だが、それでも引くわけにはいかない。

 青年は銃剣を上段に構えて、女に立ち向かった。

 

「────疾ッ!」

「おうおう、鴨撃ちかなんかか?」

 

 駆け寄る青年に対し、女は左手に握ったライフル銃の引き金を容赦なく引く。

 『スターライト・プロト』と言う名のそれは、最新鋭の武装、蒼き雫のそれと比べればあまりにもお粗末だろう。

 だが、人一人絶命させるのには過分過ぎる代物だった。

 

 ──まるで遊んでやがるッ! だが有難いッ! 一発一発ならなんとか躱せるッ!

 

 蒼き極光、致死の光線。

 青年は銃口の向き、双方の立ち位置、女の目線、障害物の有無。戦場のありとあらゆる要素を脳内に叩き込み、昔取った知識と経験で秤にかけて青年は生存の道を突き進んだ。

 10メートル、7メートル、5メートル、3メートル────。

 

「ぅるるるぅあぁあ──ッ!」

 

 唸り声。乾坤一擲。

 彼我の距離三尺余。学園仕込みの剣の間合いだ。

 青年は『ジカンギレード』を振り下ろし──当然のように何事もなく、傷一つつけられなかった。

 

「──ははっ、まあそうだよな」

「ちっ、男の汚ねぇおもちゃで私に触りやがって」

 

 お互い、結果は分かっていた。

 こんなもの、ただの暇つぶし、ごっこ遊びだ。

 生身ではISを傷つけられない。

 20年前、天災の敷いた法。不変の真理。

 

 分かっていても、青年は思わず肩を落とす。

 そんな彼に、女はいやらしく微笑んで──

 

「うん。まぁテメェもよくやったよ。

 ──だったら次は私の番だな?」

 

 ──引き金が引かれ、光が迸る。

 絶叫がステージを響き渡った。

 青年の右肩に光線が掠り、スーツを巻き込んで醜く焼け爛れる。

 痛みに悶える青年を見て、女は喜悦を挙げた。

 

「安心しろ、殺しはしねぇさ。殺しは、な」

 

 そう言って、女は引き金を繰り返し引く。

 その直前に、悪魔の文言を口にした。

 

「あ、そうそう。これから先(・・・・・)避けるたびに一人ガキを殺す(・・・・・・・・・・・・・)から、そのつもりでよろしく」

 

 皮肉にも、青年の腹はそれで決まった。

 

 光線が迫り来る──青年の持つ字換銃剣に直撃する。それは見るも無残にへし折れた。

 光線が迫り来る──青年の腰を狙った一撃。全力で身体を捻ることで、即死を避けたが彼のベルト『ジクウドライバー』が機能不全に陥った。

 光線が迫り来る──わざと青年を狙わない一撃。悪意の塊。青年は自ら銃口の先に滑り込み、脇腹を犠牲に子どもの命を拾った。

 光線が迫り来る。光線が迫り来る。光線が迫り来る────。

 

 ハイパーセンサーに補正されて、狙いすまされた女の銃撃は、青年の身体各所を狙い撃った。

 それは決して命に別状のある、後遺症の残る傷ではないだろう。

 だが、それは拷問としての銃撃だった。

 心を貫く光線だった。

 

 度重なる暴虐の末、青年は遂に倒れ臥す。

 同時、女の引き金がカチリと空虚な音を立てた。女は不満そうに不平を漏らす。

 

「──チッ、弾切れかよ。虫ケラのくせに、耐えやがったか」

 

 掠れゆく意識、動かない身体、折れかけた心。

 

「頑張って!」

 

 青年の意識を繋ぎとめたのは、誰とも知れぬそんなたわ言だった。

 

 

 

 どこかから声が聞こえる。

 

「がんばってー! 『ジオウ』!」

「まけないでー!」

「こら、猛、雄介! 危ないでしょ!

 ……あの! 子供達のためにも、頑張ってください!」

 

 それは、ヒーローショーの続きと思い込む子供達の声だった。

 彼らは青年が立ち上がって勝つことを信頼していた。

 

 どこかから声が聞こえる。

 

「もう少しで救助が来る! 気張れよ!」

「わっ私が助けに行きます!」

「ぬわぁ危ないぞ沢渡ちゃん! 

 ──俺たちは観客の救助で手一杯だ! すまねぇ、坊主!」

 

 それは、今の青年の仲間。年齢性別問わずの仲間の声だった。

 彼らも彼らの戦いを、人を倒す戦いではなく、人を助ける戦いに全霊を注いでいた。

 

「『祝え! 全ライダーの力を受け継ぎ、時空を超え、過去と未来をしろしめす時の王者。その名も仮面ライダージオウ。まさしく再臨の時である!』」

 

 それは、青年の同僚が変声機を使って紡がれた従者『ウォズ』の声だった。

 『ウォズ』の祝福から始まる流れは、劇中におけるお約束。主役勝利のルーティンである。

 

 青年は、砂のように砕けたコンクリートの破片をギリと握りしめる。

 子供達の応援を受けてなお、仲間の声援を受けてなお、『ウォズ』の祝福を受けてなお!

 立ち上がらないなんて──

 

「──『ジオウ』じゃねぇよな」

「あぁん?」

 

 不屈のヒーロー。ごっこ遊びの青年は、模倣して立ち上がる。

 痛みは今も確かにある。だが、青年にとってそれはもう、取るに足らない些細なことだ。

 青年は失ってしまった字換銃剣『ジカンギレード』の代わりに、たまたま近くに転がってきていた後で使う予定だった剣を握った。

 時冠王剣『サイキョーギレード』。

 『ジオウII』として再臨した今。ちょうどいい筋書きだ。

 青年は王剣を正眼に構えて、女に向き直る。

 女はその滑稽な姿に、茶化さずにはいられなかった。

 高速切替(ラピッド・スイッチ)で打鉄用ブレード『葵』を取り出して、女は青年を嘲る。

 

「おいおい、そんなおもちゃそのにで、斬りあえると本気で思っているのか?」

 

 冗談だろう? そんな意を含んだ質問に、青年はひどく真面目に問い返す。

 

「ああ、俺はこれで勝てると踏んでいる。

 ──試してみるか?」

「──上等だよ、くそったれ!」

 

 言葉と同時に女は前に足を滑らせて、大地を駆け巡る。

 青年は何にもとらわれることなく、ひたすらに時を待つ。

 数回挟まれたフェイントの後、女は刀を振りかぶって──

 

「輪島さん! ストロボ今ですッ!」

「石動ぃ! お前の悪巧み、信じてるからなッ!」

 

 突如として焚かれたストロボ。

 集中の極地にあった女は、青年の背後から広がった閃光に目をやられ、狼狽えた。

 女の動きがピタリと止まる。

 青年はカッと目を見開き、裂帛の気合とともに王剣を振るう。

 

「そこだッ! ちぇぇぇえいぃぃつっッ!」

「──なっ!」

 

 青年の首元を狙って放たれるはずだった『葵』の峰。

 青年はその瞬間、手にしていた『サイキョーギレード』を思いっきり『葵』の剣腹に叩きつけた。

 鉄塊と鉄塊がぶつかり合い火花が舞い散る。

 打ち負けたのは、IS装備『葵』だった。

 刀身に罅一つなく、されども持ち手の指に衝撃が余すことなく全て伝わる。それにより、女はたまらず刀の握りを解いてしまう。

 はるか彼方へとすっ飛んでいく『葵』。

 それを見て、男は威勢良く哮り出す。

 

「こちとらISでの実戦経験は豊富なんだ! 剣を持った生身の女とも戦ったことがある! 織斑先生ならそのまま斬鉄までやってのけただろうが、俺でもこのくらいはなんてことない! ノウハウが、鍛練が違うんだよ!」

 

「あいつ、やりましたよ立花のおやっさん!」

「よーしよし。よくやったぞ坊主! 今度喫茶店でカレーを奢ってやろう!」

「それなら俺は謹製のコーヒーを奢ってやろう」

 

「おやっさん、ご馳走様です! あとコーヒーは勘弁してください! 石動さん!」

 

 気色ばむ青年と仲間たち。

 声を上げる彼らとは対照的に、女は無言で自分の手をじっと見つめる。

 

 ──心境の変化、か? 引いてくれると助かるんだが。

 

 取るに足らないと思っていた虫ケラ。そいつに武器を落とされた。

 どう出るかと様子を伺う青年に対し、女は嗤い顔を引っ込め、真顔になって向き合った。

 

「────はぁ。もういいや。五体満足で捕らえろって言われてたが、めんどくせぇ。

 ……偶然(・・)テメェが死んじまっても、それは事故だよな?」

 

 女の纏う空気が変わった。

 これまでは、子供が虫で遊ぶかのような幼い残虐性を発揮していた。

 しかし、今の女にあるのは、混じり気のない殺意だ。

 

 ──この女は自分を殺す気だッ!?

 

「じゃあな、糞野郎」

 

 冗談も何もない。IS本来の暴力性を解放する。

 女は青年の元へ駆け寄ると、青年が防御する間も与えず漆黒の右手を抜き放った。

 青年も目にしたことのあるそれは、兎愛用のプラズマ手刀。

 ISの装甲をも融解させる絶死の抜手だ。

 

 ──南無三!

 

 そのまま青年はどうすることもできず、胸を貫かれる。心臓を僅かに逸れたことは、決して幸運などではない。青年が死の間際まで味わい続ける、地獄の苦しみを悪戯に引き延ばすだけだ。

 

 そのようにして自分が死ぬ未来。それを青年は予知した。

 『仮面ライダージオウII』の未来予知能力。『バリオンプレセデンス』が発動した。

 

 

 

 

 

 

 

 ……無論、青年は『仮面ライダージオウ』ではない。

 彼の予測は所詮猿真似。

 夢現(ゆめうつつ)へと消え去ることになる。

 

 どこかから声が聞こえた。

 

「ふぃー。間一髪」

 

 青年の臓腑を貫く鬼手は、割り込まれた薙刀によって叩き落される。

 手刀の熱量に押され、溶け折れる薙刀。

 青年には、それに見覚えがある。

 その薙刀は、紛れもなく彼女(・・)のものだった。

 

「誰だよ邪魔しやがって。

 ──ってはぁ!?」

 

 自身の必殺を無に帰した相手を見て、女は狼狽する。

 女の目の前には、ISを纏った少女が立っていた。

 そのISは一見すると、第二世代純国産IS「打鉄」に相違ない。

 一方で、従来の打鉄を防御型とするならば機動型と称するに相応しいチューンナップがそれには施されていた。

 その改造は、打鉄らしさを損なわない改造。打鉄の正統なる後続機を名乗るに相応しい佇まい。

 女の纏う異形のISを『アナザー(もう一つの)打鉄』とするならば、さしずめ『打鉄弐式(II)』と呼ぶべき代物だった。

 

「もうISの到着だと!?」

 

 自身の予定では、ISと相見えることはないと踏んでいたために、女は酷くうろたえる。

 女が事前に立てていたスケジュールでは、もうとっくに青年の拉致を終わらせていた頃合いだった。

 だが、青年をはじめとして多くの連中が無駄に時間を引き延ばしたこと。何より女自身が無意味な遊びに時間をかけたこと。

 それが、少女をこの場に間に合わせた。

 

 

 未来が変わった。

 

 

 女は青年に、少女に明らかに隙を晒している。

 今この瞬間を除いて、決着をつけるチャンスは他にはない!

 アイコンタクト。

 仮面越しに、青年と少女は予知した未来を共有する。

 それは学生時代から積み上げてきた過去の意思、歴史の賜物。

 青年と少女は、示し合せることなく、同時に台詞を謳いあげた。

 

「『なんか、いける気がする』──」

 

 少女が女に向かって疾駆する。

 最短距離を最速で、曲がることなくひたすら直進。

 織斑千冬より伝わるIS界の秘伝、瞬時加速(イグニッション・ブースト)

 

「そんな素人同然の瞬時加速(イグニッション・ブースト)で、私を捉えられるかよッ!」

 

 しかし、それはもう卑近化してしまっている。言ってしまえばただ素早く動くだけ。近寄ってくるなら迎え撃つなんて造作もないことだ。

 そんなことは(・・・・・・)専門機関に属していた二人も当然知っていた(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 なにせ、彼らの仲間はその技を多用していたのだから────!

 

『SAIKYO FINISH TIME──』

 

 迎撃態勢を整える女の耳に、電子音が割り込んだ。

 次の瞬間、女は大きく仰け反る。

 

「なっ────ッ!?」

「悪いな。今日はあいつと俺でダブルライダーなんだ」

 

『KING GIRIGIRI SLASH!』

 

 女の顔にぶち当たったのは、青年が投げつけた一本の剣。

 時冠王剣『サイキョーギレード』。

 あらゆる特殊防御を無効化する王剣は、シールドを無視して女の気をひくという大役を担っていた。

 

「テメェッ! 実験体の、虫ケラの、男の分際でよくもやりやがったなッ!」

 

 されど所詮はただの鉄の塊。

 なんらダメージを受けないにせよ、自分の行いを邪魔されたことに女は激昂する。

 

「──よそ見厳禁」

「──しまっ」

 

 国家代表クラスの少女は、そんなあからさまな隙を見逃さない。

 『打鉄弐式(II)』は、『アナザー(もう一つの)打鉄』に機体ごと正面衝突した。

 

『FINISH TIME──』

 

 ISごと女をがっしりと掴み上げた少女は、打鉄尾翼のブースターを点火する。

 ISは空へと向かう。

 

「クソがッ!? 離せよ女ァ!」

「──断る! 地上だと危険。あなたは私が連れて行く」

 

 女は少女を振り払おうと遮二無二暴れるが、両の手足を抑えられた上、背中越しに瞬時加速(イグニッション・ブースト)の衝撃を浴びた反動で振りほどけない。

 ISは蒼穹(そら)へと向かう。

 

「なぁ、おい! お前も女だろ? 男なんて劣等な奴等がのさばっていて、気持ち悪くないか? ISを使える私たちは選ばれてるんだ! これはあいつらをぶっ殺せっていう思し召しなんだよ!」

「そんなこと、考えたこともない。私の家族、友達、仲間。そこに男も女も関係ない。

 ──それに、私たちはISで宇宙に行く(・・・・・)んだ!」

 

 女の必死の説得。

 それを少女はくだらないと一蹴する。そも、女尊男卑などそんなつまらない枠組みに自分たちを押し込めてくれるな!

 ISは宇宙(そら)へと向かう。

 

「──ぐふっ。が、はっ!」

 

 一定の高度に達すると、少女は勢いに任せて、女を弾き飛ばした。

 ぐるぐると回る女。いくらISが万能でも、度重なるGの衝撃に女自身の肉体がもたない。

 反面、少女は反動を意にも介していない。

 それは、自分の価値を高めて舞い上がったものと、他人を下げることでのし上がったものの差だ。

 

「本当にISで強くなりたいなら、誰かを馬鹿にする前に、ちゃんと鍛えておくべき。あの(・・)織斑先生だって、そう言っていた」

 

 空中で満足に身動きの取れない相手に対し、少女は素早く体制を立て直し、己が信ずる決め技へと移行した。

 高速切替(ラピッド・スイッチ)により、ロケットのような腕部パーツ、ドリルのような脚部パーツを呼び出し装着する。

 少女の行いは、所詮空想の見様見真似(ごっこ遊び)だ。

 青年の行いは、所詮空想の見様見真似(ごっこ遊び)だ。

 それでもこれは、彼らが模倣し続けた、彼ら二人の独自流派、専用技術に他ならない。

 少女は敵に、妄執に、過去の残骸に向かって、両脚で蹴りを叩き込む。

 

「────『宇宙ロケットきりもみキック』!」

 

『LIMIT TIME BURST!』

 

「……なんちゃって」

 

 流星が直撃する間際、女が最後に見たのは無限に広がる成層圏(インフィニット・ストラトス)だった。

 彼女が初めて見た景色だった。

 

 

 

 ISによる白昼堂々の惨劇。

 しかし意外にも、軽傷を除いて人的被害は──とりわけ観客の被害は──皆無だった。それは現場のスタッフが一丸となって事態の収束に尽力したからだろう。

 事件解決の第一功、ISを装着した少女と、第二功、仮面をつけた青年は、崩壊したステージで向かい合う。彼らにとっては、数年ぶりの再会だ。

 昔の思い出、あの日のこと、今日まで積み重ねてきた話。話したいことはいくらでもある。

 だが、二人とも今更なんと言っていいかわからない。

 青年がおもむろに右手を上げて挨拶すると、少女はこれまた曖昧に軽く会釈する。

 無言。一陣の風が二人の間を通り抜けた。

 意を決して、彼は/彼女は声をかける。

 

「久しぶ────」

 

「あー! ジオウだー!」

 

 二人を遮ったのは、避難をまだ終えていなかった、一人の男の子だった。

 ハッとして止まる二人。

 そんな彼らをよそに、男の子は青年に声をかける。

 

「『ジオウ』かっこよかった! わるものとたたかってて、まけそうになってたけどまた、たちあがって。……とにかくかっこよかった!」

 

 呆然。

 矢継ぎ早に「どこがかっこよかったか」を語り出す男の子。

 彼の勢いに、青年と少女の雰囲気は押し流された。

 男の子は言葉を今度は少女へと向けた。

 

「あとねー、そこのおねーちゃんもすっごくかっこよかったよ! 『ジオウ』がまけそうになったときにたすけにきたときとか! ねぇねぇ、おねーちゃんのISが着けてるのって、もしかして『フォーゼアーマー』?」

 

 無論、それは『フォーゼアーマー』ではない。

 見た目だけ、ガワだけそれっぽくこしらえた、ただの既製品だ。

 だが────。

 

「……うん。そうだよ。今日は『ソウゴ』に『ライドウォッチ』を貸してもらってたの」

 

 少女はそれを肯定した。

 「やっぱり? うわ、すっげー」などと無邪気に喜ぶ男の子を尻目に、少女は青年に目配せを送る。

 アイコンタクトを受け取った青年は──あるいは受け取る前からそうするつもりだったのか──少女の言葉に追従した。

 

「……『ああ、そうさ。この人はオレの仲間。オレが王様になったら、IS部隊の隊長をやって貰おうと思っていてね。フォーゼライドウォッチを貸してたんだ』」

 

 青年は変声機のスイッチを入れ、仮面をつけ直して幻想を紡ぐ。

 その答えに、男の子はキラキラとした眼差しを向けることで返した。

 

 そうだ。

 彼らはもう、学園の整備室で駄弁るだけの子供ではない。

 青年は子供達の夢を創る、一人のスーツアクター(大人)だ。

 少女は子供達の未来を守る、一人のIS操縦者(大人)だ。

 目の前にいる男の子は、彼らのことを『仮面ライダージオウ』、『フォーゼアーマーを纏ったIS使い』としてみている。

 ここでつまらない真実を露呈させて、男の子の夢を砕く? そんなもの、ヒーローとは到底呼べないだろう!

 

 青年は身につけた仮面を外さない。

 少女も青年のそれを外れないように補強する。

 いずれは、仮面を外した素顔で語り合うことがあるかもしれない。

 だが、それは今この瞬間ではない。

 今の彼は、『仮面ライダージオウ』だ。

 今の彼女は、『打鉄弐式(II)・フォーゼアーマー』だ。

 男の子の見ている前で、青年と少女は別れを告げる。

 

「──『おじさんが料理を作って待ってるから、また今度(・・・・)クジゴジ堂で会おう!』」

「……うん。また今度(・・・・)クジゴジ堂で」

 

 こうして、再び『仮面ライダージオウ』は、『打鉄弐式(II)・フォーゼアーマー』と別れることとなる。

 

 『ジオウ』と『打鉄』、青年と少女。

 次に彼らが巡り会う駅は、過去か未来か────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かくして、普通の高校生だった彼は、無事仮面ライダージオウの影武者(スーツアクター)を務め上げたのだった。

 ──さて、これより私は、我が魔王の三度目の銀幕出演、勇姿を拝見しに伺います。

 やがて訪れる次の機会、それまでこの本は書庫に仕舞っておきましょう」

 

 




「平成仮面ライダー、最終章」「時代を壊せ、未来を変えろ!」
劇場版 仮面ライダージオウ Over Quartzer
本日2019年7月26日より全国劇場にて絶賛公開中!

『祝え! 全ライダーの力を受け継ぎ、時空を超え、過去と未来をしろしめす時の王者。その名も仮面ライダージオウ。その真なる姿、オーマジオウの力を今こそ継承する瞬間である──!』


という熱いダイレクトマーケティングの為の話。
今話のタイトルそのまんま。

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