正義の味方に憧れた少年はオラリオで····· 作:頭のない案山子
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかの二期が始まりましたね。
それを見たらいても立っても居られず書いちゃいました。ぜひ楽しんでください。
灯りが一つも無い暗黒。
空に輝く星や月のみが僅かに照らし進むべき道を指し示す。
神々天界から降り地上で暮らすようになり発展した街【オラリオ】
その神々から人間の限界を簡単に超える【
裏路地を出た先の人工灯が輝く表通りでは帰還した冒険者や、酒を樽ごと飲み千鳥足の冒険者達が騒がしく行き交っている。
しかし、一人の男は裏路地を一生懸命駆けている。
積み上げられた木箱をなぎ倒して道を塞ぎ、目もくれず闇雲に足を動かして逃げる。
「なんで、なんで俺を!!」
「自分の胸に聞け」
逃げる男の問いかけに闇から別の男が答える。
建物に反響し前か上か後ろか何処にいるのか掴ませない。一応【
【
【レベル】は現在確認されているのは最高7だが、極小数のため滅多に合うことはない。
この【レベル】は基本的に一つ違えば勝つことはかなり難しく、二つ違えばまず勝てないとされるほど絶対的な強さを明確に表す材料になる。
男のLv.2。数年前に冒険者になり、ダンジョンへと潜る回数が少なかったためLv.2止まりである。
対して闇に紛れ追いかける男のレベルは推定になってしまうがLv.6。第一級冒険者と呼ばれる強力な冒険者で、どうやっても勝てる可能性は無い。そのため逃げに徹するしか無いのだ。
「あっ・・・あ、」
闇雲に入り組んだ裏路地を走ったせいで今どこにいるのかすら分からない。その上、無駄に体力を使い完全に虫の息に突入してしまう。
これ以上逃げ続けるのは不可能。
ならば迎え撃つしかない。勝てる可能性はゼロではあるが、このまま逃げるよりは幾分か現実的であった。
たどり着いた場所は比較的に開けていて大きな障害物はない。
近くに転がっていた鉄パイプを手に取り強く握り絞め構える。
黒色のグローブはステータスによって強化された握力で握りしめられ、極度まで摩擦が減り鉄パイプに吸着し多少力を緩めても離れない。
「ほう、逃げるのをやめた。悪党にしては随分と肝が座っているな・・・」
「かかってこい!!俺はこんな所で死ぬ訳には行かないんだ!妹の治療費を稼ぐためにもな!」
「妹のためか、一度悪に手を染め闇に堕ちた貴様が誰かを救うなど世迷言を・・・だがその妹には何の非も無いか」
闇から聞こえる声はどこまでも冷たく鋭い。声だけで切られたと錯覚してしまう。
声は四方八方から聞こえてくるせいですぐに身体を動かして見る方向を変えねばならない。
首に鎌をかけられたような感覚に襲われ徐々に息が激しくなるのが分かる。心では落ち着けと言うがダンジョンよりも濃厚な死の気配に簡単に落ち着けるわけがない。
重病の妹のために医療費を稼ぎたい。
そんな男の耳には命は危険だが一攫千金を狙える冒険者と呼ばれる職業があると聞かされた。死ぬ間際に親に託され絶対に守り続けると誓った妹を救うため、命をかけるなど安いものだと冒険者になった。
だが、そんなに甘い話ではなかった。
Lv.1ではまともに狩れず、他所のパーティーに混ぜて貰いお情けを貰う程度。良くてその日暮らし、悪ければ宿代で全て消えてしまう。あまりにも惨めで貧しい人生。
いつか見返してやる、もっともっと稼いで裕福な生活。幻を夢として見続けながら冒険者を続けていった。
当たり前だがそれで成果が出るはずがない。
一年経てどもレベルはまともに上がらず暮らしの質は改善できない。妹の病気も悪化し始め早急に金を揃えなければいけない。
焦った。例え悪魔に魂を売ってでも金を金が欲しい。
そこに悪魔よりもタチの悪い邪神が闇の取引を持ちかけた。
『お金に困ってるようだね。良ければ僕が楽で沢山稼げる方法を教えてあげようか?』
『え・・・』
『遠慮することは無い。このオラリオに住んでるのならば困った時はお互い様さ、ほらどうする?声をかけるのは今回ばかり。後で教えて欲しいと言われても定員がいるから教えられないよ?』
『・・・・・・教えてください、その稼ぎ方を』
『いいだろう、教えてあげる実は──』
幾つもの非合法に手を染めた。モンスターを売り捌き、他の冒険者を殺して奪い、罠にハメ囮にして逃げる。洗っても洗っても落ちない血の汚れ手から消えない。そんな生活を続ける事になる。
一年、この生活を続けやっと妹を救える資金が溜まった。
これで妹を救いこのファミリからも抜けてまた一から冒険者を始めようとしていたのに、
本名や所属ファミリアは一切不明で顔すら見た事がないので【
「だったら頼むよ。この金で妹を救うし足も洗う!だからどうか見逃して」
「無理だ」
いつの間にか張っていた弦が弾け矢を打ち出す。
明かりの通さない建物に囲まれた場所でありながら的確に右足の太ももを貫く。
剣を改造し矢としたのか矢尻の部分は矢の九割を占め、残りの一割が持ち手柄の部分であった。
穿たれた足から鮮血が舞い大量の血が溢れる。
引き抜こうと引っ張るが返しが付いていて抜ける代物ではない。その間にも血は流れ続け激痛が身体を走る。
「あっ゛ぁぁぁ゛」
「痛いか、その痛さは貴様の罪の重さだ。例えどんな正義を語ろうとも闇に堕ちればそれは悪、正当化できるはずがなかろう」
それは元【正義】の二文字を掲げていた自分に語りかけるようでもあるが、射たれた男はそんな事を考える余裕はない。
誰か助けてくれ、何でもいい
「貴様らは何時もそうだ。悪を行い他人を辱め殺し犯したのに、命が危ぶめば
貴様らに私の仲間は殺された、悪に邪魔だとされな!!!救済を踏みにじる貴様らにはこれが最前の救済だ!!」
虚空から二本目の矢を錬成する。
闇の中で一際見えづらい黒色の矢。弦に添え引き絞る。
キキキと弦は悲鳴を上げ両の瞳で的に狙いを定め弦を離す。
矢はぶれること無く男の脳みそを破壊。裏路地の床にドロドロに溶けた脳みそと真っ赤な砂鉄臭い血が混ざり合う。
冒険者になりしぶとい生命力を得た彼らでも頭を潰されれば復活することない。手から金貨が詰まった袋は滑り落ち麻布は血を吸い始める。
人間だった肉塊は心臓の鼓動を止め死を選ぶ。
まだ終わりではない。序章に過ぎない。
弓を射った男は月光に照らされ、殺伐としながら美しい白髪を深く黒いフードで覆い闇へとまた消える。
その後オラリオに息を潜めていた数々の
傍から見れば復讐に囚われた哀れな男は今宵もまた手を汚し、悪を無くすための悪になろうと血で血を洗い続けた。まるで着ている赤い外套の色を濃くするように。
数年後の路地裏のとある建物にて彼は目を覚ます。
まだまだ太陽は昇っておらず暗い。鳥すら起きて騒ぐ時間ではない。
それなのにも関わらず極東の産まれでありながら極東にあるまじき白髪の男【シロウ・衛宮】は自然と目を覚まし、まだ寝ぼけている目を擦りながら眠気覚ましにとある場所へ向かう。
寝室は二階なので下へ下る階段を使い移動し、降りてすぐの部屋に入る。居間兼職場と呼ぶべき場所の奥にある台所が目的地だ。
蛇口をひねれば大量の水が流れ両手を合わせて掬い数回に分けて顔に当てる。
冷たく清い水が心に染み渡るようにして目を覚ましていく。ついでにこの場で手を洗うのは忘れない。
「さて仕込みから始めるか」
先程言った通りここは職場である。
【オラリオ】にいる多数の冒険者達に対して商売する一人の商人で、バイトはたったの一人だが味は美味いと割りと有名な店を開いている。
【オラリオ】にある【ダンジョン】では常に死と隣り合わせである。すれ違った者、昨日会話した者、友人、恋人、それぞれに平等に与えられる【死】は揺るぎない。生き残るためには冒険し命をかけて強くなるしかない。極東の諺にある【毒を以て毒を制す】とはこの事を指すのだろう。
そんな彼らのためか多くの店はこの時間から開店させ出発を祝福している。
シロウにしてみればただの稼ぎ時と言うだけで特に他意は無い。
「今日はチーズとプレーンでいこう」
魔石で動く食べ物を保存する魔道具の中身を確認しながら今日の基盤メニューを決めていく。
調理に移ろうと包丁を手に取ったタイミングで勢い良く木の扉が開け放たれ、元気な彼女の声が飛び込む。
「おっはよー!!店長!!」
「おはよう。また一段と声が大きいな神ヘスティア」
「やっだなもーう、いつも通りヘスティアって呼んでよ。店長と僕の仲じゃないか!」
身長は明らかに小さい。ドワーフや
良く着る胸元が大胆に空いた神の服では横を通る男全ての目を引き付け、何度も破局へと導いたいわく付きの胸である。いつしかヘスティアは胸の神であるなどと噂がたったりしていた。
そんな彼女に詰め寄られればどんな堅物でも表情の一つや二つ変えてしまうはずなのだが、シロウは平然と下ごしらえを始めた。
「そう言えばベルくんかなり凄いんだぜ。何せコボルトをもう倒したんだから、目に入れても痛くないってこの事なんだね」
「やっと捕まえたのだから簡単に逃がすなよ、これでポックリ逝ったら話にならんぞ」
「わ分かってるわい!あぁーあどこかに僕のファミリアに入って、ベルくんを鍛えてくれる人が居ればなそんな心配も要らないのに」
「ふっ・・・わざわざ茨の道を進む事をしようなんて
「・・・分かってるくせに」
神はこの【オラリオ】では必ず【ファミリア】を結成する。
冒険者に【
しかし、つい先日とある一人の青年の所属が決まった。
ベル・クラネル。ごく一般的で平凡なヒューマンだ。
白髪の髪に対して目には燃えるような闘志の紅の双眼。全体的に小柄で筋力より速度で戦う冒険者。
素行もよくヘスティアが溺愛するのがよく分かる。もし、同じファミリアに入れば弟のように接し庇護してしまう。
そんな彼が冒険者として第一歩を踏み出したのだから嬉しくないわけがない。
「ヘスティア、私はただのコックだ。多少武術の心得はあるがそれも護身用でモンスターを狩るには足りえない。だから、冒険者としてではなくコックとして支えていこうと決めこの店を開いた。今更閉じるつもりは毛頭ない」
「それなら教えるぐらい──」
「ダメだ。俺にはモンスターを狩る才能はない、そのせいで冒険者を辞めたのにそれを教えれば彼も辞める事になるぞ」
話しながらもまな板の上では蒸したジャガイモを高速ですり潰して、形を成形からの高温の油へ衣の元を付け投入。カラカラとじゃが丸くんが上がる音が聞こえる。
これで数百回目で分かっていたとはいえ少し不貞腐れたように頬を膨らませて「分からずやー」と文句を零した。
神と言うより身長通りの子供だなと考えながら上がったじゃが丸くんを紙で包み根本していく。
じゃが丸くんを作り販売するのがシロウの仕事で売り子としてヘスティアを雇っていた。雑用に使われる神など前代未聞であるが、望んでしている事なので誰も止めようとしない所か面白がって茶化す始末だ。
娯楽に飢えているとは言えここまでかと何度呆れた事か。
「いいな今日は一○○個が目標だ。売って売って売りまくれ」
「任せてくれよ!!」
意気揚々と胸を張り目標の約三分の一、計三五個のじゃが丸くんを袋に詰めてダッシュでダンジョンの通りへと向かう。
そこが基本的な販売スペースで売れはする。
が、調理できるのがシロウ一人とペースが遅いので一日に作れる個数が低く基本的に赤字が続く。そらなら普通は潰れているのだが副職の方でかなり稼いでいるので、全体で見れば黒字になっている。
もはや趣味でじゃが丸くんを売っているのだが、今日も今日とて目標通りの個数を売りさばいていく。