正義の味方に憧れた少年はオラリオで·····   作:頭のない案山子

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予定通りに投稿できるのは気持ちがいいですね。


前を向く少年と過去に苛まれる青年

 

 ベルを抱えての帰宅は時間も時間であるためかそこまで人目に付くことはなく、目に付いたとしても兄弟の弟が寝落ちしたのだとベルの体格から思われ生暖かい目線をする人が殆どである。

 肩の上ですやすやと寝ている少年を見る度に昔の頃の自身と姿が重なっていく。

 がむしゃらに力を求め特訓し寝落ちするまで休憩はとらないなんてのはざらにあり、毎度団長のアレイゼに叱られていた。

 

 純粋な目もそうだったが何から何まで似ていた。

 唯一違う点を上げるとすればベルがまだ汚れを知らない白だとするなら、汚く汚れた黒であるところだろう。

 空から降り注ぐ光の柱が足取りを早めさせる。

 

△△△△△△△△△△△△△△△△

 

 

 「うっ、」

 

 暗い闇のそこから救いあげられるような奇妙な感覚の後に目に数刻ぶりの光が飛び込む。

 淡く儚い火の明かりは傷んだ身体を優しく包み込み怪我などなかったと錯覚させようとしてくる。が、それはベル自身が許さない。

 この痛みは自分の力のなさと無力さの照明の証なのだ。いつかこの痛みを克服できた時こそベル・クラネルとしてあゆむことが出来る。そう固く決意を固めていた。

 

(それよりここは・・・なんか温かい感覚はずっとあったけど)

 

 疲労による気絶からの寝起き一番では頭が上手く回らず少し混乱したままの状態が続く。

 その混乱を終わらせる一声が耳に届く。

 

「おや、起きたようだね」

「シロウ・・・さん?」

「何故そこで疑問形を、まぁいい。目覚めたなら問題ないな」

 

 ダンジョンを出て直ぐに出会ったシロウさんにここまで連れてきてもらったのだと気づき、慌てて頭を下げ感謝しようとするが治りきっていないようで肩に痛みが走る。

 

「生憎と私は冒険者ではないのでね、ポーションの類が一切この家にない。時間的にも店が開いていないので明日買うからとりあえず今日一晩は薬草の応急処置で我慢してくれ」

 

 そう言って数種の薬草を臼ですり潰し混ぜた痛み止めの作用がある液体を桶に入れて持ってくると、ベルの寝ているベットの横にある椅子に腰を下ろし桶もテーブルに置く。

 左肩に巻かれている布を取り新たな布を薬草の液体に沈めて巻き直す。

 一瞬凄まじい痛みがあるがポーションもない今はこれが最善策なので仕方がない。

 

 巻き終わると桶を持ち上げて部屋から出ていく。

 身動きの取れないベルでは追いかける事が出来ないので大人しく少し待つと、コップに飲み物を入れて戻ってきた。

 

「これを飲みたまえ。オラリオの外、極東に伝わる薬膳茶だ。効果は微々たる物だが無いよりはマシだろう」

「ありがとうございます」

 

 差し出されたコップの取っ手を掴んで受け取り唇に当て一口飲む。

 

(うっっ、苦い)

「その顔は苦かったな。まぁ私も最初は苦いと感じていたが今では普通に飲めるようになってね」

 

 本当に同じ物を飲んでいるのかと疑いたくなるような清々しく、顔色一つ変えず簡単に飲んでいた。

 ベルにはこれが大人・・・と衝撃を受けていた。

 

 

 

「うぅぅぅ、あの神様は」

「ヘスティアの事かそれならあの通り」

 

 どうにか一杯を飲み干すと口の中に苦さが残り続けていて、若干声が上擦ってしまう。

 その反応に少し笑みを浮かべてベルの質問に答えるため立ち上がると、部屋の向かい側の部屋の扉をあける。

 

「ベルくーーーーん!!!!」

「か、神様?」

 

 扉を開けた先には同じ形のベットに縄でぐるぐる巻きにされている神様の威厳も何も無いただのロリ巨乳であった。

 突然の光景に理解が追いつかず頭が混乱してしまう。

 これの理由を知っていてなおかつ加害者であるシロウが涙目の神に呆れながらどうしてこうなったのか説明し始める。

 

「君を抱えて連れ帰ったのは良いのだが、怪我人に飛びついてあまつさえ抱きつこうとしていたのでね、ゲンコツを一発叩き込んで痛がってるうちにあそこに括りつけた。純粋に治療の邪魔だったのとうるさかったのが正直なところだ」

「えっと神様が迷惑をかけてすみません」

「きぃぃぃ!!謝ってどうするのさ、早くコレを外せぇぇーー!僕は神様だぞ!」

「神ならもう少し自重をだな」

「僕のベルくんがいるんだ抱きつかないでどうする」

「・・・・・・てな感じだ」

 

 ゆっくり開けた扉を閉めヘスティアの叫び声が格段に小さくなるも休むこと無く騒ぎ続ける。

 明らかに近所迷惑で、店ならまだしも通常の家だと騒音問題で追い出されるなんてのはよく聴く話なので、本当にごめんなさいと深く頭を下げて解放してあげてくださいとベルは口を開いた。

 

 

 数刻程経つと身体の痛みが引いていく。

 まだ腕を上げる等すれば痛みが再発するが、寝てる分には問題なく寝返りを打たないようにすれば熟睡もできるはずだ。

 

 解放されたヘスティア様はシロウさんに連れていかれ、未だに下で怒声が飛び交っている。

『何度間違える気だ!!』

『だって仕方がないだろ?神なんだから、料理なんて』

『言い訳をするな、自分で作ると決めたのだからちゃんと作れ』

『むむむむ』

 何かを作っているようだが、身体も起こせず微睡みに沈みかけてるベルからしてみればなんでも良かった。

 睡魔と戦いながら辛うじて意識を保っていると木のドアが軋む。

 

「まだ起きているかね」

「は、はいなんとか」

「なら丁度いい」

「ベルくん・・・」

 

 ベルよりも二回り以上の巨体が塞いでる隙間から恐る恐る抜いでるように、木のトレーに深い器とスプーンを乗せて部屋に入る。

 一度部屋に入れば器から漂う甘い匂いにより食欲が刺激され、胃袋が食べ物を欲する。

 

「ごごめんなさい」

「別に構わん。腹が減るという事はまだ生きているという証拠だ。ろくに食わずに外に出したとあれば店を営んでいる私の名が廃るよ。ちなみにそれはヘスティアが君の為に作ったものだよ」

「なゃ、・・・・・・くぅぅ!なんで先に言うだい」

「隠してもどうせあとでバラすだろうに」

「だとしてもだ!・・・・・・ぅぅ、ベルくん食べてくれるかい?」

 

 先程聞こえてきた怒声の意味がわかってきた。ヘスティア様は不慣れな料理を僕ののためにしてくれ、シロウさんに教えて貰っていた。

 基本的にファミリアで出る食事は、ヘスティア様のアルバイトの余りや試作品のじゃが丸くん。一から作るという事はなく、出来合い品を食べることだけだ。

 それも仕方がないのだが。

 教会の下を住まいとしているせいでガスも水も通っていない悪環境で、料理をしろだなんて言う方が無理がある。神の中には料理をする人も居るだろうが、ぐうたら癖のあるヘスティアがそんなめんどくさいことを好んでしているはずもなく、人生初の料理であると言っても過言ではない。

 差し出したトレーを掴む手にはいくつもの傷跡があり、かなり苦戦したのが分かる。

 それを断る事などベルにできるはずもない。

 

「はい、いただきます」

「ベルく──」

「飛び込むなよ」

「あう!」

「あははは」

 

 おじいちゃんと一人暮らしのベルはこの時、兄がいればこのような人なのだろうと思い盛大に笑った。

 

△△△△△△△△

 

 林檎のリゾットと呼んでいたが今までに食べたことの無い味にスプーンは止まらず気づいた頃には平らげてしまっていた。

 いい食いっぷりだとおかわりを持ってきてくれ、結局三杯分食べてしまう。それだけ身体が疲労していたのかもしれない。

 

 食器は『洗い物ならできるぜ』と豪語したヘスティアが持ち去り、一回の洗面台で洗っている。そのため、命の恩人と二人きりになる。

 

(シロウさんは何者なんだろう。こうやって見ると僕と同じぐらいの力かと思うけど、時々アイズさんと──うんん、アイズさん以上の力を持ってるようにも感じる)

 

 それはベルという人間が幾多の苦難をこの小さな身で乗り越えてきた故の経験による勘である。

 最弱であるが故に最強との力量差がわかる。全然届かない事は明白、触ることすら叶わない遥か頂きに位置する。

 ロキ・ファミリアの面々と見比べても遜色がないどころか、それ以上ですらあるかもと感じている。

 元冒険者?でもシロウなんて名前の人は聞いたことが無い。レベル六程だとするなら、オラリオの外にもその名前が轟いていてもおかしくは無いはずなのに。

 

「どうかしたかね。そんなにマジマジと見つめてきて」

「いや、その・・・何者なんですか?助けてくれたり、感謝はしてます。でも、なんで僕なんかのために」

「全く──本当に昔の私を見ているようだよ」

「え?」

「なんでもない。まぁそうだな強いていえば彼女(ヘスティア)には世話になったからかな」

 

 下でガチャガチャ怪しい音が聞こえてはいるが、昔のヘスティアの事を思い出す。

 

 

 

 当時諸事情で荒れた生活を送り、とある男に半殺しにされ契約を結ぶ事で無様に生き残る事になった。

 契約の内容にはこれ以上均衡を崩すなと言われ、闇派閥(イヴィルス)の完全な殲滅までには至らなく路頭に迷っていた時期だ。

 何をするでもなく一日飲み場でうつ伏せている日が何日も続いたある日、かけられるはずの無い声がシロウの耳に入る。

 

『元気かい?って聞こうとしたけど、その顔を見れば元気じゃないのは丸わかりだぜ』

 

 職場を探し転々としていた神ヘスティアがいた。

 

 路頭に迷った時、人生を悔いる時、懺悔をする時、生きる糧とする時。神ははるか太古から存在し共存していた。

 それが宗教──信徒となりそれが理由で戦争等も起きたが今回はその話ではなく、人の最後の拠り所が神であるという事だ。

 契約上身の上話は言えないが嘘を織り交ぜた実話ならば神の嘘発見器にもバレず、相談という形で聞けた。

 

 ダンジョンに潜り仲間を皆殺しにされ、荒れていたがとある人物に助けられた。それでも生きる目的が見つからず何をすればいいのか分からないと。

 

『ぶぇぇぇぇんんんん!!』

『きみが泣くことでは』

『あるよ!だって君たち人間は僕達の可愛い子供だぜ?その子供が悩んで、悔やんで、絶望してるなら四肢を切られるような痛みと同等だとも』

『大袈裟な所詮』

『赤の他人でも?──違うよ、赤の他人だからこそ君が受けた真の痛みは分からないから、より痛いんだよ。だから君のためならなんでもするぜ』

 

 全てが包み込まれるようだ。

 血液の巡りが早くなる。薄れていくだけの景色に色が戻る。

 優しさに包まれ今自分ができる最前の方法が分かった。しかし、それには人手がいる。

 

『なら──』

 

 店を一緒に手伝ってくれ。

 

 かけた言葉に豪快に笑うといいともと手を差し出した。

 

 

 

「それで今のじゃが丸くんを販売するこの店に──」

「ぶぇぇぇぇんんんん」

「君もか」

「だってだって・・・」

「本当に君にこそ適したファミリアのようだね」

 

 他のファミリアに入り直す事すらできないシロウでは、彼女を神として救う事はできない。

 だからこそバイトとして雇い僅かながらの恩返しをしていたが、生涯に返しきれるのかどうか怪しい所だ。

 そこに、ファミリア──神としてヘスティアを救う昔の自分とよく似た少年がいる。まさに運命(fate)のイタズラとでも呼ぶべきか。そのせいなのか思考回路が間違うのは。

 

「君はなんのために強くなりたい」

 

 幼少期を救ってくれたアストレア様に投げかけられた言葉。

 アストレア様の代理をしようなどと言うのは烏滸がましいが、聞かねばならない。少年が何を持ってオラリオに訪れたのか。

 純粋な汚れなかった自分の答えを彼に求めてしまったのかもしれない。

 言葉として出したので今更やめることもできず返答を待つ。

 

 しばしの間黙り続けポツリとこぼした。

 

「英雄になりたいです」

 

『正義の味方になりたい』

 

 その返答は差異は多少あるが根本的には何も変わらない。目的はまるでおなじ。

 汚れても汚れなくても行き着く先は同じだったのだ。

 

 物語で読んだ弱気を守り悪を砕く、全ての善の味方で悪の絶対的な敵。必ず勝つことが定められた宿命の正義の味方(英雄)

 答えは想像すれば簡単だった。

 簡単なはずだった。

 

 簡単であるが故に難しい。曲がりくねった人生を歩むシロウには難しい答えも彼は簡単に答えることができる。まさにこれこそが真の英雄(正義の味方)なのだ。

 

「くくくく、なるほどなそういう事か」

「えっ、僕何かおかしなこと」

「違うそうじゃないさ・・・これは勝手に救われただけの事」

「そうなんですか?」

「そうだ」

 

 間違った道には歩ませない。純粋な彼を自分と同じ目に合わせてはいけない。それだけは分かった。

 だが具体的にどうする?何をする?それは考えるまでもない。

 

「ベル・・・英雄になれるかどうかは知らないが英雄になるための技を教えよう」

「え・・・英雄になるため?」

「別に嫌なら良いが」

「いえいえいえ!お願いします!!シロウさんに教えて貰えるだけで満足です!!」

「そうか、なら教えよう」

 

 弟子をとるのは彼女(アストレア)の猿真似だが失敗は経験済み。ならば残るは成功の道を沿えばいい。

 もう同じ過ちを犯すつもりも悪に落とすつもりもない。正真正銘の英雄を作り上げる事にする。神々によって救われた人生を一人の英雄に繋げるのだ、こんな素晴らしい話はない。

 

「それではダンジョンは禁止だ」

ええぇぇぇぇぇぇぇえええええ!!!

 

 この日、一人の少年は冒険者としての人生は幕を閉じた。

 

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