正義の味方に憧れた少年はオラリオで·····   作:頭のない案山子

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どうも!!明けましておめでとうございます・・・もう大体一月ほど経ってしまいましたが、、、
プライベートでも色々ありテスト期間に執筆するという愚行を起こしている今日この頃、皆様に忘れられていないか心配に思いながら投稿しています。次回はいつになるか分かりませんが、二月には2本程投稿したいですね・・・はっきり言ってシロウくん、当分戦闘シーンほとんどないんだよな


二人の苦労人は肩を並べる

 

 二日が経過した。

 空を自由に舞う落ち葉を真っ二つにすらできないどころか、斬ることすら出来ずに撫でるだけ。刃物の切れ味自体がそこまで良くないから撫でる形になってると思われた。

 剣を振り続けた腕は疲労から筋肉痛を訴え、全身からは夥しい量の汗が流れ服自体が重りになりより動きに制限をかけている。

 

──だとしても辞める事は出来ない。

 

 これは強くなるための特訓だ。

 これをすれば簡単に強くなれる、できれば強くなる。そんな事の保証はない。繰り返し繰り返しできるようになって初めて力になる、ステータスに頼らない”技術”を今短期間で覚えようとしてる。そこには近道なんて逃げ道は当たり前だが無い。あるのはひたすらな往復練習だけ。

 寝ても覚めても剣は常にそばに置き、身体の一部として扱えるように食事中もトイレも、いつでも必ず握っているようにしている。

 

 シロウも相当な無茶だと言うのは自覚している。

 今教えているのは本来【殺人】を目的とし高めてきた技術で、人間以外のモンスターを倒すための技は一切教えていない。と言うより教えられない。

 モンスターは生き物の形を取っているからこそある程度殺人ができれば狩ることはできる。それでも完璧とは言えずそこは経験で補うしかない。

 そして、ベルにはその全てが欠けていた。

 技術だけに割ける時間はそう長くない。期間が空けば空くほどモンスターを想定した戦闘経験は薄れていき、対人を想定したものになってしまう。しかしそればっかしはシロウにはどうにもできず、基礎を組み立てられれば今すぐにでもダンジョンに放り込む考えもある。

 

「ハッ!!」

 

「ッッ──!!」

 

「ァァッ!!」

 

 なのに必死に剣を振り続ける少年の背を見つめることしか出来ていない。

 

(これが師匠という者なのか・・・教えるというのは簡単ではないな)

 

 二日間も同じような光景を見る事しか出来ていない自分の無力さに嘆いていた。

 シロウの殺人剣とベルの求める殺怪剣では立ち位置が違いすぎて、どこまで教えればいいのか、どこまで教えていいのか分からずにいる。

 師匠と呼ぶべき存在もおらず独学で手に入れた力だけに教える見本がなく手探りで行うしかない。

 

(・・・俺はどうすれば、ん?)

 

 不意にドアがノックされる。

 小刻みに野菜をみじん切りにしていた包丁は停止しノックした者を招き入れるために、調理を中断して出迎えに向かう。

 ドアに着いた時には既に来訪者はドアを開けている段階だった。

 

「失礼しますシロウ」

「君は・・・アスフィか」

 

 予期せぬ来訪者はオラリオの中でもトップクラスの美女であった。

 心の美しさを表すような澄んだ青髪、瞳はより洗練された深い蒼き双眼。全体的に出るとこは出て引っ込むとか引っ込んでいる、女性からしてみたら理想のプロポーションを惜しげも無く強調する服装に、一部の紳士には効果的な冒険者は普通使わない眼鏡が小さい仮面のように機能していて知的さを増している。

 彼女はアスフィ・アル・アンドロメダ。

 神トップクラスのトラブルメーカーにして欲望に素直なヘルメスファミリアの団長を務め、類まれなる魔道具制作の才能から【万能者(ペルセウス)】という二つ名が付けられた。

 その才はシロウも認めておりとある魔道具の制作の以来をだしていた。

 

「君から尋ねてくるとは珍しい」

「えぇ確かに。プライベートで貴方を尋ねることはありませんからね」

「その口調から察するに依頼していたアレができたというよりヘルメスの方かな」

「正解です」

 

 顔を俯かせメラメラと怒りのパラメーターを上昇させていく。

 どこか生真面目なアスフィは自由に好き勝手するヘルメスにいつも迷惑をかけられていて、内面に相当怒りを貯めている。

 今回もそれに関する事でわざわざ出向かなければ行けなかったようだ。

 

「とりあえず席に着いてくれ。女性を立たせておくのは男として申し訳が立たない」

「そうですね・・・失礼します」

 

 少しやつれた様子でシロウの後を追ってリビングへと向かい席に腰を下ろした。

 客人を出迎えるために一度キッチンに戻りお湯を沸かし始める。

 

「それでなんのようかな」

「ヘルメス様がどこかでシロウが師匠になった噂を聞いたらしく感想を聞きたいと」

「はぁ・・・隠すつもりは無かったが情報が渡るのが早いな。誰かがベル(・・)本人から聞きそこから流れたか。一応後で注意をしなければな」

「ヘルメス様ならまだ問題はありませんが、ロキファミリアにこの情報が入れば団長フィンが直接動くかもしれませんし、そもそも死人(・・)が師匠になるというのは神に取って娯楽の一つになりかねません」

「どうせヘルメス当たりが情報を操作してる気もするが保険は掛けておいて問題はないからそうするよ」

 

 口ぶりからしてヘルメスと直接話しをする事になりそうなので、じっくりと丁寧に飲み物を入れるより簡易的なものでいいだろうと袋詰めされたパックを二つ使って紅茶を淹れる。

 お茶請けとしたオラリオでブームになりつつある幾重にも生地を重ねたバームクーヘンを皿に乗せて同時にだす。

 

「ひとまずインスタントだが」

「ありがとうございます・・・はぁぁ」

 

 受け取った紅茶に一口つけてから大きなため息を吐き出す。身体に溜まっていたストレスを吐き出したのかかなり長い間漏れていた。

 それほど心身を疲弊させられているのだと労るために甘味でも作ってやろうと心に誓う。

 当の本人は気持ちを安らげさせる匂いをうっとりげに瞳を閉じて余韻を味わっている。

 商店街の女将に勧められて購入した物でかなり安かったが、高級な物に負けじと品質がとてつもなく高いのが今初めて分かった。このレベルのが低金額で売られていれば金欠なファミリアや、安月給で生きてる市民の間で流行るのも仕方がない。

 紅茶の優雅な匂いを堪能し満足気に机に置く。

 

「さて話を戻そうか。私がここで状況説明し君が説明するでは不十分なのかな」

「はっ、ええそうですね。ヘルメス様は直接聞きたいと」

「ふむ・・・分かっていると思うが」

「利点がないですか。貴方が言いそうなことでしたが当たったようですねその顔は」

 

 シロウの性格を理解している友人よりも深い親友の域にまで達している相互の関係から、完璧な返答を予測しそれに対する答えも用意していた。

 腰に提げていたポーチのチャックを開け中から取り出したのは、赤い線が中央で一周していて途中に丸く小さい赤い石が付けられているシンプルなデザインの指輪である。

 数々作られてきた魔道具には指輪型は多くあり、身近で簡単に装備でき邪魔になりにくいと利点が多いためありふれているが、このデザインの魔道具は見たことがない。

 初めて見た物に興味津々に眺める。

 

「これは昔から制作を重ねていたのですがつい先日完成した魔道具、装着者が魔力を流す事で前方に花弁型の魔力障壁を発生させます。その名を【厄災払う三つの理(ロー・アイアス・センプリチェ)】文字通り貴方の切り札を簡易的に使えるようにしたものです。

 性能は階層主は防げず中層辺りのモンスターが防げる程度ですが、例えば初心者に持たせるには十分な性能かと」

「やれやれ私も人の事を言えないが、許可なく勝手に使うものでは無いよ」

 

 シロウの使う武器は全て他人が使う物を魔法によって再現する事で実物を持ち歩かずに戦闘を行う。そのため実物を所持しておらず調理用の包丁がせいぜいだ。

 他人の他人の物をコピーとある意味で伝言ゲームのようになっているが、シロウも相手の許可を得ずに使っているので心が痛い。

 

 それはそれとして厄災払う三つの理(ロー・アイアス・センプリチェ)の実用性はかなり高い。

 魔法を使えない初心者がモンスターの攻撃を防ぐ簡易的な魔法を平等に使えるのであれば、一気に生存能力は増すに違いない。今までの冒険者事情を劇的に変える画期的な代物である。

 

「それで回数は何回だ」

 

 興味深そうに指輪を見回してから一つの問をだす。

 

「ほんとうに神と話しているようだ。シロウが見抜いてる通り、二回しか持ちません。その上価格も最安値で九○○○万ヴァリスです」

 

 前提条件としてこれは上級冒険者よりも下級のそれも初心者冒険者達の命を危険から守るための道具である。現状いくつもの神がファミリアを形成し今なお子供達を増やし続けている。

 ではその中で危険から守るためにと九○○○万ヴァリスを簡単に出せるファミリアがどれだけあるだろうか。半分にも満たないごく少数のファミリアしかない。これを市場に出した場合【ヴァリスを稼ぐために命が危険に晒されるので、それを防ぐために道具を買うがその為には莫大な額の金を用意する】と本末転倒になっている。

 さらには頑張って用意をしてもたったの二回で壊れるのであれば、額が額だけに使うのを躊躇したり継続的に購入出来なかったりと意味をなさないだろう。

 それを知ってから改めて見直せば「惜しい」というのがシロウが思った素直な感想である。

 

「無いよりはマシか」

「結局は予防策程度に考えて頂ければ・・・金額や性能は時間が解決すると思いますので、どうにか形にできたこれを調整するだけです」

 

 とある魔道具の作成を依頼した四年前に情報を渡して四年程度で形にできたのだから言葉通り十年もあれば、冒険者の必需品になっている可能性は捨てきれない。

 そうすれば死で溢れるオラリオはもう少しマシな場所になるに違いないと、未来を想像しながら少し微笑む。

 むぅぅ、その顔にアスフィは不貞腐れたように頬をふくらませる。長年の付き合いからか何を考えていたのか分かったのだ。

 

「五年です!いや三年、三年で絶対に完成させます」

「それはそれは楽しみにしているよ」

 

 嫌味のように言い返した後は出した食器類を流しに置いて、待ち人の元へと足を向ける事にした。

 その足取りは待ち受けているであろう苦労に二人は重かった。


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