孤独を薄める為の酒を探す。
今の俺には、それしかやる事が無い。
仕事も、自分自身の生活も、やる事為す事全て裏目に出ちまう俺には、さぞお似合いだろう。
滑稽な自分の姿を想像し、自分を嘲笑する。
ようやく、暫く前にコンビニで買った安いウィスキーを見つける。
ボトルの封を切り、そのまま口を着けて胃袋に流し込んだ。
生温い液体が、喉と胃を焼くのも気にせずに二口目を呷ると、急激にアルコールが回り、意識が飛びかけるが気合いで耐える。
このまま、気を失えればどんなに楽だろう。
「明日、仕事休んじまおうかな。あ、もう今日か。」
ローテーブルに置いた目覚まし時計は、すでに0時40分を標していた。
早く寝ないと、今日の仕事に支障が出るレベルである。
揺れる視界に納めた時計を見つめながら、三口目を呷った。
アルコールで鈍った思考と震える指先が、スマホのメールを起動。
会社のメールボックスに、今流行りのデジタル辞表をぶちこんで酒を溢さないようにベッドに倒れ込む。
「あー、辞めちまったぁ。」
今日の昼間には電話やメールの嵐だろうなと予想しつつ、ネットサーフィンで暇を潰す。
5分程、下らない動画を見ていたら電話が鳴った。
「うわ、雨崎さんだ。」
会社の先輩である雨崎晴子が電話を掛けてきた。
何故このタイミングで?
まさか、まだ会社に居るのか?
今日は夜勤じゃない筈なのに?
恐る恐る電話に出ると、低く唸るような声が鼓膜を揺らす。
「あなた、あのメール冗談よね?えぇ?」
ドスの効いた低音が、鈍った思考を吹き飛ばす。
まずい、本気で切れてる時の声だ。
「あーいや、何て言うか、その。」
頭を全力で回転させ、この場に置ける最適解を探す。
駄目だ、エラーしか見えねぇ。
酔いは覚めても頭は冴えないのである、悲しい事に。
「あなたが辞めるとしわ寄せがキツイんだけど?せめて替わりの人探して育成してから辞めてくれない?」
あんまりにあんまりな物言いである。
反論の言葉を吐こうにも、言葉と言葉が繋がらない。
4つ数えて息を吸い、4つ数えて息を吐く。
ゲームで習った精神安定の仕方を思い出して実行。
しかして、ようやく口から出たのは、何故まだ会社に居るのかと言う下らない質問だった。
「高木さんが体調不良だから、その替わり。」
雨崎さんは素っ気なく、事も無げに、吐き捨てる様に呟いた。
高木さん、また酷使されたのか。
よりにもよって、彼女が居る時に退職届をメールで送るとは俺もついてない。
適当な相槌を打とうと口を開いた瞬間、マンション特有の鉄扉がノックされた。
「嘘だろ?」
心臓を鷲掴みされたような感覚が、体を硬直させる。
再びのノックは、心なしか荒くなっているように聞こえた。
「開けなさい。」
スマホから地獄の底みたいな声が聞こえ、玄関からは絶えずノックの音が聞こえる。
「開けなさい。」
ドアが変形している、誇張無しに変形している。
止めてください、勘弁して下さい。
修理費高いんです、勘弁して下さい。
「開けな、さいっ!」
「うわあぁぁ゛ぁ゛ぁ゛!」
聞きたくなかったドアの破断する音と、飛び散る破片。
その奥に見える、青い髪色のボブカットと身長147センチの先輩の姿。
「仕事よ、40秒で支度しなさい。」
壊れたドアの上で、彼女は腕組みしてふんぞり返りながら、某有名アニメのセリフを投げつけてくる。
「悪夢だ、これは悪夢だ。」
辛い現実から目を背けたい、誰か助けてくれ。
「あんな悪趣味なメール打つぐらいなんだから、よっぽど暇なんでしょ?」
雨崎先輩が肩を掴んでくると、ミシミシと骨が悲鳴を上げる。
「余計な事考えなくて良いようにしてあげるわ。」
労働基準法なんぞ糞食らえスタイルな俺の所属している会社は、24時間営業の非合法な何でも屋。
近所の迷い猫探しから殺しの依頼、果てはオカルトまで、なんでも承っています。
誰か助けて下さい。
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