・原作に基づいた世界観、登場人物の設定を、読者様が理解している前提で進行していきます。
・原作とは無関係のオリジナルキャラクターが登場します。
・本作は非公式二次創作作品であり、一部の設定や解釈において原作との相違が起こる可能性があります。
・原作シナリオのネタバレ要素を含む可能性があります。
・一部の登場人物による下ネタの要素を含む可能性があります。
以上の内容についてご理解いただける方のみ、本作をお楽しみください。
個人の趣味で書いているシナリオにつき、苦情等は一切受け付けません。嫌なら読むなッ!!笑
はい、そこ。前置きが鬱陶しいってそっ閉じしたそこのあなた。
――読み損ねたことを、後悔しろ。
「『G-4』、『B-8』、それから……『D-11』ッ。近い物資はこのあたりですッ!」
見上げた曇り空から、
これは号砲。無事に生きていられる保証もない明日へと、僕らが一斉に駆け出すための合図だ。
「聞いたねヒサギン! 一番近いGを狙いにいくよ……ってあれ、ヒサギンは?」
「
そんなアドと
おかしいな。僕は真っ白な髪を波打たせて走る少女を追って、もう随分走ったような気分なのだけれど。
脚が重い。肺が痛い。脳がまともに思考しない。体力に人一倍恵まれていない自分に、反吐が出るほど憤りたくなる。
それでも僕は走るしかない。微かな点にしか見えないほど突き放された彼女を見失うことは、僕にとっては死を意味するも同然だから。
走る。走る。走る。時折転がっている真新しいゾンビの死骸を避けながら。
そんな僕の視界から、ずっと追いかけてきた背中が消えた。どうやらこの先の角を右に曲がったらしい。
すっかり遅れて僕も右折する。しかしその瞬間に僕は、全身の血の気が引くような恐怖感を覚えた。
「……来栖崎……?」
乱れた息を整えながら、視線を右へ、左へ。
しかしどこをどれほど見渡しても人気のない住宅地が広がるばかりで、追いかけてきた彼女の――来栖崎の姿がない。
彼女の名前を呼ぼうとして、咳き込む。
少し血の味が滲んだ痰を飲み込んだ僕は、もうとっくに追いつけないところまで駆けてしまったであろう来栖崎を追おうと、再び駆け出した――
――その時だった。
「あ……ッ!!」
僕は冷静さを欠いていた。
来栖崎を見失ったことに対する恐怖、自責、焦燥。これらの感情に完全に支配されていた僕は物陰に潜んでいるゾンビに気づくことができず、あろうことかその真横を通過しようとしてしまった。
当然ゾンビは襲い掛かってくる。僕の喉笛を噛み千切ろうと。
これに反応できる体力など僕には残っていない。来栖崎と離れてしまった今、僕が死を免れることはもうできない――
――はずだった。
ヒュン、と。風が突き刺さる音。
それを僕が耳にすると同時に、目の前のゾンビは何かに殴られたように頭を傾け、倒れ込んだ。
腰が抜け、暴れまわる心臓を手で抑え込むことしかできない僕。
見るとそのゾンビのこめかみには、七色の羽根が美しい一本の矢が聳え立っていた。
「無事か、サンくんッ!?」
声のした方へ視線を向けると、
息切れが酷く、答えることができない僕は、右手を軽く上げて彼女に無事を伝えるので精一杯だった。
「ったく。遅すぎ」
そのとき、呆れ返ったようなふてぶてしい声がした。
僕はその声が聞こえた方へ向かって、砕けた腰を叱咤しながら立ち上がり、よろめき歩く。
すると、住宅街の一区画先を曲がったところに物資のコンテナ。そしてその上に座る来栖崎の姿が、僕の目に映った。
「ケツパ背負ったナメクジかなんかなのかしら、こいつ」
そう呟く軽蔑の視線に、僕はたまらなく安堵する。
ああ、僕はまだ生きていられると、彼女の姿を目の当たりにすることで実感できるのだ。
「どうやら一つ目のコンテナは確保できたようだな」
「そうですね……あっ、さっきはありがとうございます、礼音さん」
「なに、気にしないでくれ。怪我もなくてなによりだ」
追いついてきた礼音さんとそんな言葉を交わす。
これが
「他のみんなは?」
「樽神名くんたちは二つ目と三つ目のコンテナを狙いに向かったよ。三つ目はさすがに厳しいかもしれないと溢していたがな」
そう話しながらコンテナを背もたれに腰掛ける礼音さんは、ふふと上品に笑っていた。
随分疲弊していたこともあって、僕もコンテナの隣に腰掛けることにした。まあ、僕はただ走っただけでこの有様なのが恥ずかしいけれど。
「……あれ?」
そのとき、僕はふと違和感に気づいた。
コンテナの一部――主に蓋のあたりが半開きになっている気がする。これまでに何度か物資回収作戦には参加しているが、このようなコンテナを見るのは初めてだ。
「なあ来栖崎、お前もうコンテナ開けたのか?」
「は? なんで」
「いや、蓋がなんだか……」
別に来栖崎が先に中身を抜いたのではと疑っているわけではない。
ポートラルに所属する約30名が二日間生きられるだけの物資が詰まったコンテナ。そのような貴重なものに、彼女がこっそり手をつけるような人物ではないことは僕もわかっているのだが。
「ああ、それはしばしばあることだ。気にするほどでもないだろう」
僕の疑問に答えたのは、隣に座る礼音さんだった。
「いくらパラシュートのついた頑丈なコンテナとはいえ、上空からの落下衝撃は計り知れないからな。当たり所が悪かったりすると開いてしまったり、損傷したりすることもあるらしい」
「はあ。そういうものなんですか」
「まあ、中身が無傷なら何も問題はないさ。私たちは入れ物に用はない。必要なのは中の物資だけだからな」
そんな何気ない礼音さんの言葉に、僕は言いようのない感情を覚えた。
入れ物に用はない。必要なのは中身だけ。それはまるで、コンテナの上で脚をぶらつかせ、かかとで鉄の箱をカツカツと打ち鳴らしている少女が考えていそうなこと。
この鉄の箱は、まるで彼女に血を飲ませるためだけに存在する僕のようだなんて、そんなことを考えてしまって。
「……それにしても、すみません。また僕は助けられるばっかりでしたね……」
後ろ向きな思考からは何も生まれない。そのようなことはわかっている。
それでも、僕はこのコンテナとは違う、僕はもっと仲間の役に立ちたいと考え行動するたびに、自分の無力さを痛感して心が擦り減っていく。
「誰にでも得手不得手はあるものだ。君は君にしかできない部分で組織を支えてくれているじゃないか。それでは足りないのか、サンくん?」
礼音さんの温かい言葉が胸に染みる。彼女の言う通り、ポートラルという組織における僕の役割は参謀職だ。前線でゾンビと戦う役目ではない。
礼音さんの言葉は確かに嬉しい。彼女は彼女なりの観点で僕のことを認めてくれているのだから。
けれど、それだけで納得することは難しい。計り知れない恐怖を押し殺して戦う少女たちの陰に隠れて、僕はいつも後方から偉そうに指示を出すだけだ。そんなことしかできない自分が、どうしようもなく歯痒くて、憎らしい。
「それでも、少しくらい戦えたらとは思いますよ。自分ばかり守られるのは、やっぱり申し訳ないですし」
「
「まあ……確かにそうかもしれませんけど」
「冷静さを欠いた頭脳では統率が崩れる。そうして烏合の衆となれば組織の壊滅は必至だ。君は君の知らないところで、ちゃんとポートラルを守ってくれているのだよ。だからもっと自信を持ってくれ」
「……ありがとうございます、礼音さん」
こうして礼音さんから励まされるのも何度目だろう。嬉しいような情けないような。
来栖崎のかかとがコンテナを叩く音が少し強まったようにも感じる中、僕はぺこりと小さく礼音さんへ頭を下げた。
しかし、僕の中の葛藤は収まらない。
ポートラルという組織に守られている以上、僕はもっとポートラルに貢献したい――いや、すべきだと思う。
しかしそれは、来栖崎に血を飲ませるためだけに生きると誓ったことと矛盾しないだろうか。
来栖崎のためだけに生きるべき僕が、ポートラルという組織のために力を尽くすことに疑問を感じる。
それが間違いだとは思わないものの、どうにも来栖崎に対して罪悪感を感じ得ないのだ。
「それはそうとサンくん、気づいているか?」
「……?」
自問自答していると、不意に礼音さんの声色が緊張感をまとった。
しかしその理由がてんでわからない。僕が首をかしげていると、礼音さんは僕と来栖崎だけに聞こえる声で囁いた。
「……見られているな、何者かに」
「えっ」
冗談で言っているような雰囲気ではない。どうやら礼音さんは、僕が気づいていない何者かの視線を感じ取ったようだ。
しかし僕には何も感じられない。これも戦い慣れた者とそうでない者の能力の差なのだろうか。
「は? 今更? こんなわかりやすい気配に気づかないなんて、よっぽど乳繰り合うのに忙しかったのかしら、このトシマンドリル」
「気づいてたのか、来栖崎? どうして言わないんだよッ!?」
「フン。私にそんな報告義務があったかしら」
マフラーを弄りながらそっぽを向く来栖崎は、どうやら非常に機嫌が悪いらしい。そもそも機嫌がいいこと自体、最近は稀なのだけれど。
いや、今はそんなことを考えている場合ではない。問題は僕らの様子を伺っているという、僕には居場所の見当もつかない何者かの目的だ。
コンテナの横取り、というわけではないと思いたい。
この渚輪ニュータウンでは、アドの功績により物資の奪い合いは禁じられている。投下物資は初めにコンテナに触れた者が所属する生存組合の物となるルールが遵守されているからこそ、生存者たちは物資を巡る抗争を起こさずに済み、横取りの可能性に気を張る必要もなくなっているのだ。
もしこれを無視して物資を奪うような人物が現れようものなら、今後その者の所属する生存組合は《触れるだけで物資の独占権を得る権利》を自ら放棄することになる。物資に乏しいこの環境に置いて、それはあまりにもリスクが大きすぎるはずだ。
だからこそわからない。このコンテナは来栖崎が触れた時点で、ポートラルに所有権がある。
いくら見張っていたところで、僕らがこの物資を置いて去ることなどありえないというのに。
ならばゾンビがまだいるのだろうか。先ほど見た限りでは、僕を襲った一体だけだったように思えるけれど。
いや、奴らに相手の様子を伺うような知性などない。もしもゾンビに知性が備わっているのなら、渚輪ニュータウンの生存者はとっくに殲滅されているだろう。
目に見えぬ何者かの意図を必死に読もうと頭を回転させる僕。
そんな中、隣に腰掛けていた礼音さんはすっと立ち上がると、誰もいないように見える正面に向かって一歩足を進めた。
「安心してくれ、私たちに敵意はない。良ければ少し話をしよう。姿を見せてはくれないか?」
礼音さんの呼びかけに対し、返ってきたのは沈黙。
本当は誰もいないのではないかと思うほどの、長い長い数秒。
言いようのない緊張感に、生温かい汗が僕の首を流れ落ちていく。
するとそのとき、ある住宅の塀の陰から一人の少女が僕らの前に姿を現したのだった。
紺色のショートヘア。蒼い瞳の釣り目と太眉からは、どこか勇ましく凛々しい印象を受ける。
B系とまではいかないもののゆったりとしたパンツスタイルに、大きめのブルゾン。身長はそれほど高くはなさそうだが、そのファッションから体格までは正確にわからない。
「敵意がないのはこちらも同じだ。覗き見していて悪かったな」
僕らの方へと足を進めながら謝罪を述べる少女は、特に見覚えのない顔だった。
アドが他の生存組合との会合に行く際には僕と来栖崎が同行することが多いのだが、この少女とはどこの組合でも顔を合わせた記憶がない。
そもそもだ。彼女はここで何をしていたというのだろうか。
コンテナの物資が目的ならば、ポートラルが所有権を獲得したこのコンテナにはいち早く見切りをつけ、他のコンテナを狙うのが最善手だというのに。
「私たちに何か用だったかな? 残念ながら物資を譲ることはできそうにないが、それ以外なら話を聞こう」
「いや、特に用があるというわけじゃない。ただ、こんなところで懐かしい顔を見たものだからまさかと目を疑ってな。その動揺を気配として悟られてしまったようだ。私もまだまだ修行が足りないらしい」
「懐かしい顔……?」
「ああ――」
礼音さんとの対話にも堂々と応じる少女。
彼女は歩み寄る足をぴたりと止めると、とある人物へと視線を向けた。
「――久しぶりだな、来栖崎」
少女と僕、礼音さんの視線が、名を呼ばれた彼女の方へと注がれる。
コンテナの上でマフラーを弄っていた来栖崎はようやくこちらを向き、少しの間沈黙が流れた。
「あんた……」
少女と目を合わせ、ようやく口を開いた来栖崎。
どうやら二人は知り合いらしい。自分のことをあまり語ろうとしない来栖崎の交友関係には謎が多く、これは僕としても少し新鮮に感じられる。
少なくとも、来栖崎と顔見知りならば話は早そうだ。
所属する組合のことなどについて詳しく聞けるだろうと安堵した僕は――
「……誰?」
――来栖崎の一言に、一瞬で肝を冷やした。