ツルギ、フタフリ   作:わさび仙人

4 / 18
第四話

「やーやー皆のしゅー! ちゅうもーく!!」

 

 午後のひと時。確保した物資を持ち帰った僕らは、例のごとくデパートの会議室に集まっていた。

 議題はもちろん、不知火(しらぬい)のポートラル加入についてだ。

 

「この出会いは偶然か必然か。それとも運命か宿命か。我らがポートラルに新たな同胞を迎え入れたことを、この樽神名(たるみな)アド様が今ここに報告するぜィ。紹介しよう! 彗星のごとく現れた美少女剣士の名は――ヌイヌイッ!!」

 

「知ってる。一緒にここまで来ただろうが」

 

「しゃーらっぴゅー!! こういうのはムードっちゅーもんが大事でしょーがッ!!」

 

 改まって意気揚々と不知火を紹介するアドが、姫片(ひめかた)の冷たい指摘に頬を膨らませた。

 不知火もなんだか反応に困ったような表情を浮かべている。そろそろ本当にアドを避け始めるかもしれない。仲間にネグレクトされるなど、なんと哀れな盟主だろうかと呆れそうになる。

 

「あの、あだ名ではなく名前を教えてくださる? 皆さんと違ってわたくしは初対面ですわ」

 

「ああ、そうだよな、甘噛(あまがみ)

 

 物資回収には参加していなかった甘噛の当然の反応にフォローを入れる僕。確かに、デパートで留守番をしていた彼女がこの空気についていけるはずはない。

 

「彼女は不知火。さっきの物資回収の途中でたまたま会ってな。どこの生存組合にも入ってないらしいから、僕からポートラルに来ないか提案させてもらったんだ」

 

「まあ、組合に加入しておりませんの? それは驚きですわね」

 

 やはり甘噛も僕らと同様の反応だった。それだけこのニュータウンに置いて、生存組合という仕組みが重要視されているということだろう。

 しかしそんな仕組みを作ったのが、僕らの目の前で新たな仲間の加入に浮かれまくっているハイテンションガールだなんて……正直嘘だと言われれば納得してしまいそうである。礼音(あやね)さんあたりだろう、こういうのは普通。

 

「さすがはサン様。誰にでも救いの手を差し伸べるお優しい姿勢、本当に素敵ですわ」

 

「ああ……ありがとな」

 

 僕の隣に座る甘噛が満面の笑みで腕に絡みついてくる。

 これはいつものことと言えばいつものことなのだが、何度経験しても周囲の目が気になって仕方がない。まあ、みんなすっかり慣れて誰も気にしてはいないように見えるけれど。

 

「紹介を賜った、不知火だ。よろしく頼む」

 

 短めの挨拶を述べた不知火は、ぺこりと小さく頭を下げた。

 一同の拍手で、晴れて彼女もポートラルの仲間入りだ。

 

「んじゃーヌイヌイこっちおいでー。お姉さんがポートラルの幹部を一人ずつ紹介してあげよう」

 

 アドに強引に手を引かれ、不知火は会議室の面々を一人ずつまわっていく。

 不知火は浮かれ切ったアドに随分翻弄されているようにも見えるけれど、大丈夫だろうか。

 

「大丈夫ですかね、不知火……いきなりアドに振り回されてますけど」

 

 アドたちの様子を楽しげに見守る礼音さんに、僕はこっそり声をかけた。

 

「なに、初めは戸惑っていても、不知火くんも直に慣れるさ。樽神名くんの力量を知れば、いずれね」

 

 礼音さんの落ち着きっぷりは本当に見習いたい。それだけアドのことを評価しているのだとわかる。

 僕自身もアドのことは認めている。ただ残念な点が多いだけに、認めているのだと認めたくない自分がいるのは……否めない。

 

 

 

 *****

 

 

 

「そんじゃ、この会議はこれにて閉廷ッ!! 解散ッ!!」

 

「「うーい」」

 

 裁判じゃねえよ、なんてツッコミを入れる者はいない。一人だけテンションの高いアドを残して、各々が会議室を後にした。

 アドはまさにポートラルの基本理念――《終末をもっと楽しもう》の体現者だ。壊れてしまったこの世界ですら、彼女にとってはテーマパークも同然なのだろうか。

 いや、それはさすがに言い過ぎかもしれない。そんなことを本人に尋ねようものなら、意外と「遊園地の方が楽しいに決まってるっしょ?」なんて真顔で答えそうだし。

 

 けれど時々そう思い込んでしまいそうになるほど、彼女はいつも楽しそうにしている。

 この壊れてしまった世界においては、安全な拠点よりも十分量の食料よりも、こうして仲間と馬鹿騒ぎできる雰囲気の方が、案外一番大切なのかもしれない。

 

「いやあ、ここの盟主は随分とエネルギッシュだな」

 

 来栖崎(くるすざき)と共に会議室から自室へと戻る途中、不意に僕に声をかけてきたのは不知火だった。

 

「そもそも人と話すこと自体久し振りだったから、少しばかり疲れたよ」

 

「毎日会ってたって疲れるよ、あいつは」

 

「ははは。お前も皮肉を言うんだな、サン」

 

 会議室では口数が少なかったように思える不知火だったが、ようやく表情が少し柔らかくなったように感じる。

 やはり人見知りしやすい性格なのだろうか。今は僕の隣に来栖崎という顔見知りがいるから、それほど気を張ってはいないようだ。

 

「それはそうと、私に謝らせて欲しいんだ」

 

「謝る?」

 

 デパートの通路を歩きながら、不知火が唐突に話を切り出した。

 何のことか見当もつかない僕は、ひとまず立ち止まって彼女の言葉に耳を傾けることにした。

 

「ああ。このデパートに来る前の話だが、あのときは煽って悪かったな、来栖崎」

 

 僕から来栖崎へと視線を向け直し、そう述べる不知火。

 先ほどからずっとむくれた様子で知らん顔していた来栖崎も、ここにきてようやくこちらへと顔を向けた。

 

「弁明させてもらうと、戦力として役に立つかどうか不信感を抱かれたまま加入するのは、私としても不本意だったものでな。お前に私の実力を示すには、あれが一番手っ取り早いと思ったんだ。今では早計だったと反省している」

 

 そう語る不知火の潔さに、僕はますますの好感を覚えた。

 しかし来栖崎はその謝罪を耳にしても、不知火を突っぱねるように再びそっぽを向いた。

 

「おい、来栖崎……」

 

「いいんだ、サン。あの勝負をけしかけたのは私の方だしな。これからの活躍で信頼を取り戻せるよう、努力させてもらうよ」

 

 不知火は許容したようだが、僕としては何とも言えないもどかしさが残った。

 これから背中を預け合う仲間になったというのに、いきなり関係に亀裂など作りたくはなかったのだけれど。

 しかしながら、来栖崎も不知火を許してやればいいのにと思う。負けてしまったことを根に持っているのか、それともいつものように他人に心を開きにくいだけなのかは、僕にはわからないけれど。

 

「そうだ。それと一つ聞きたいことがあったんだ」

 

「聞きたいこと? なんだ、不知火?」

 

 改まってそう述べる不知火に、僕は再び耳を傾ける。

 これまで組合のことすら知らずに生き延びてきた彼女のことだ。突然放り込まれた環境への疑問は尽きないだろう。僕で答えられることならばなんでもサポートすべきだ。

 

「ああ。少しばかり聞きづらいんだが……サンと来栖崎は、一体どういう関係なんだ?」

 

 しかしその問いに、僕は一瞬固まってしまった。まさか最初にこの疑問が投げかけられるとは思っていなかったのだ。

 

「悪意があって尋ねているわけじゃないことはわかってほしい。ただ、この短時間で純粋に疑問に思ってな。お前たち二人が常に行動を共にしている理由がわからないんだ。恋仲というわけじゃないんだろう? 来栖崎の態度からは、とてもそういった風には見えない」

 

「ああ……それはな……」

 

 何と答えるのが正しいのだろうか。

 僕は来栖崎に血を飲んでもらうためだけに生きる存在。そして来栖崎は、自身の感染を治療し、恋人を見つけ出すまで命を繋ぐために僕の血を飲んでいるだけだ。

 常に行動を共にしている理由は、突然の感染発作に対応するため。それ以上でもそれ以下でもない。

 

 けれど、これをどう説明したらいいのか、僕にはわからない。

 このような歪な関係を説明したところで、不知火のような常識人に理解してもらえるとは到底思えないのだ。

 そもそもこの関係に屈辱すら抱いている来栖崎の前で、僕なんかが安易に他人に語っていいものでもない。ならば、一体どう答えるのが正しいというのだろう……。

 

「いや、やっぱり答えなくていい」

 

 ところが、口籠る僕に不知火はそう述べた。

 

「話しにくい事情があるなら無理には聞かない。仲間になったとはいえ、知られたくないことの一つや二つ、誰にでもあるだろう」

 

「……すまないな、不知火」

 

 不知火の言葉には、正直救われたようにも感じられた。これほど物分かりがよく、気配りもできる彼女ならよい仲間になれそうだと、僕は純粋にそんな印象を抱いた。

 ただ、僕の背後の来栖崎はずっと難しい顔をしている。まあ、時間はかかるかもしれないけれど、少しずつ打ち解けていってもらえたらいいだろう。不知火もきっとわかってくれるはずだ。

 

「ヌイヌイーッ!!」

 

 不意に廊下を走って近づいてくるアド。

 いつにも増して楽しそうな彼女は、またも強引に肩を組んで不知火を困らせていた。

 

「えっと、まだ何か用が?」

 

「あるあるそりゃあるぜヌイヌイ。君がいなきゃ始まらないチョーゼツ大事な用が」

 

 アドが何を言おうとしているのか、僕はもうあらかた予想がついていた。

 なぜなら廊下の先の角から、アドが何を言うのかそわそわと様子を窺う姫片と豹藤(ひょうどう)ちゃんの姿がちらりと見えているからだ。

 

「今夜は荒れるぜ。ヌイヌイの仲間入りを祝して歓迎パーチーを開催するから、デパートの屋上にカモンベイベーッ!!」

 

「「宴じゃーーーーッ!!」」

 

 ほら、やっぱり。アドが啖呵を切るのに合わせて、姫片と豹藤ちゃんが涎を垂らしながら飛び出してきた。

 しかし、これに反対するほど僕だって野暮じゃない。せっかく仲間が増えたのだ。歓迎会くらいしてあげたい。

 今はまだ、このポートラルの明るすぎるくらいの空気に困惑している様子の不知火だけれど、少しでも早く輪の中に馴染めるよう、まずは宴会でも楽しんでもらいたいものだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。