起きたらマ(略)外伝?   作:Reppu

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SSS11:残された人々

「いやあ45は強いなぁ。こりゃ次期主力は決定じゃないの?」

 

撃墜判定を受けた自機の回収を待ちながら、ロバウト・フリーマン少尉はそう切り出した。ロバウトを含めて小隊のメンバーは皆ベテランと呼べるだけの技量を持っていた。その全員が一方的に撃墜されたのだから、そうした反応となるのは無理からぬことだった。

 

「ロバウト、貴様はGガンナーの良さが解らんのかっ!」

 

その言葉に同じく撃墜されて自機から降りていた、小隊長であるミノル・トクシマ少尉がそう吠えた。彼は戦中からこのGガンナーで編成された部隊に所属していたこともあり、殊更思い入れが強いのだ。

 

「いやいや、タイチョ。ここは大人しく諦めようや」

 

確かにGガンナーは良い機体だ。特に戦後に調達された“正規量産モデル”は、戦中に乗っていた機体と同じとはとても思えない性能を示している。それもそのはずで、戦中に数を確保するため、多くの面で妥協した量産型ガンダム、通称ジムをベースに中距離支援機としての性質を盛り込んだジム砲戦仕様がこのGガンナーと呼ばれる機体なのだが、戦後に生産されたものは、これらの妥協点を見直しベースとなった試作機により近い性能に引き上げられているのだ。それについてはロバウト少尉も認める所ではあったが、それを踏まえても今回相手にした機体、陸軍の次期主力を選定するための統合評価試験においてGガンナーの対抗馬として選出されたRTX-45、ガンタンクⅡは間違いなくGガンナーを凌駕していた。

 

「大体なんだオプション装備の75%が禁じ手ってのは!?手足を縛って戦えと言っているようなものじゃないか!」

 

まだ納得できないのか、そう吠えるミノル少尉に唯一撃破判定であったために機体を移動させていたヤン・ジュンギュ曹長が頭を掻きながら口を開いた。

 

「つまりそう言うことでしょう?まあMSの保有はかなり制限が掛かってますからね。宇宙軍の連中が優先されるのはどうにもならんでしょう。まさかMS無しで戦えとは言えませんしね」

 

そもそもオプションに関しての条件はあちらも同じで、むしろこの条件が無ければもっと一方的な戦いになっていたとヤン曹長は考えていた。それもそのはずで、ガンタンクⅡはミノフスキー粒子下でMSと戦うことを前提に設計された戦車なのである。特にヤン曹長の言葉通り、戦後MSそのものの保有数に制限の掛かっている連邦では、そのリソースを最前線である宇宙軍に優先で振り分ける必要があり、結果として他の軍は既存の兵器体系に属する機体を発展、改良させたものを運用する事となる。結果、陸軍ではむしろMSパイロットの方が冷や飯食い扱いになっているのだ。

 

「ヤン、貴様…。その物言いさては愛する我が陸軍から予算を奪い取っていく宇宙軍のスパイだな!?」

 

涙目になりながらそんなことを叫び始める。どうすべきか二人が頭を悩ませていると、件のガンタンクⅡが砂塵を巻き上げながらこちらへ近づいてきた。

 

「MS乗りの連中は元気ね。ミロス、データの転送は終わった?」

 

こちらのやりとりがかなり前から確認出来ていたのだろう、多少呆れを含んだ声音が外部スピーカーから響いた。

 

「バッチリですよ中尉、それにしても皮肉なもんですなぁ」

 

喜びを隠しきれない声音が同じく随伴していた僚機のスピーカーから届く。その声にミノル少尉は顔を赤くし、ロバウト少尉は苦々しい表情を浮かべる。そしてヤン曹長は溜息を吐いた。決して彼らは事情通というわけではないが、今日の対戦相手の素性くらいは知っていたからだ。

元々は陸軍の技術廠でガンタンクの技術研究を行っていた彼らは、戦中情報漏洩の罪で投獄されている。だがこれはジオン側へスパイを送り込む為に取られた欺瞞工作であり、言ってしまえば彼らはそのとばっちりを受けた訳である。しかも肝心のスパイが見破られており、偽情報を流すための体の良いスピーカーにされていたというのだから報われない。

 

「仕方が無いでしょう。勝つためにはなりふりなんて構っていられなかったのよ」

 

試験前のブリーフィングで顔を合わせた女小隊長は、寂しげな表情でそう口にした。研究していた試作機についてもオデッサ攻略のために実戦投入されたが、ジオン側の部隊と交戦し全機喪失してしまったとのことだ。因みにその時の運用レポートを戦後読まされた彼女達は頭を抱えたらしい。元々宇宙での経験からか、MSに傾倒していたヨハン・イブラヒム・レビル大将は、他の兵科について余り深く考えず既存通りの運用をしたらしい。その上で彼女達の送り出した機体が突撃砲に分類されていたのが不幸の始まりであった。確かにその機体、RTX-440、強襲型ガンタンクと名付けられたそれは、構造的にも突撃砲とされるべき機体に見える。これは同機が元々大戦初期にジオンが投入してきた大型戦車、あちらではヒルドルブと呼称される車両を撃破するべく設計したものだったことから、対MS戦闘能力よりも、重装甲、高火力が優先されたためである。しかし実機の完成直後に戦線は大きな変化を見せる、ホバー型MSが出現したのである。基本的にあらゆる兵器は自身より小回りの利く相手と戦うことは苦手である、当然ながら強襲型ガンタンクもこの例に漏れないわけで、彼女達はこの問題に対処するべく機体の再設計を検討していた。

だがここで件のスパイ投入計画がブッキングすることとなり、再設計を行う間も無く彼女達は投獄。これにより同機はMSの機動力の大幅な向上という戦場の変化に未対応のまま、当初の予定通りの役割を全うすべく軍の先鋒として送り出されてしまう。それでも突破力の高い同機は、当初文字通り破竹の勢いで進軍したらしい。だがここで二つの不幸が発生する。当時機体を任されていたパイロットは常識的かつ良識的な連邦の士官であった。故に自分達が歩調を合わせることで61式戦車で構成された部隊に被害が出ていることを懸念してしまい、抵抗が比較的少なかったことも手伝って、彼らは61式の部隊よりも前進する事を選択する。その少ない抵抗が欺瞞である事を知らずに。その結果は先に述べたとおりである。

本来ならば同機はこの結果を持って、時代遅れの兵器が戦果を上げることも無く歴史の闇に消える筈だった。だが、敗戦がその運命を変えることとなる。

 

「皮肉よね、敗戦による開発制限の適用外になった事で再起の機会が与えられるなんて」

 

MS並びにそれに準ずる兵器の開発制限として提示された“AMBAC採用機に対する開発制限並びに開示義務”、これによりMSは戦後その発展を大幅に制限されることとなる。一方で既存の艦艇や航空機、車両に関しては殆どが目こぼしされる内容となっていた。そこで連邦陸軍は、既存戦車の発展機としてRTX-44、ガンタンクを再設計する事を決定。440で得られた戦訓を含め、ガンタンクⅡを完成させることになったのだ。

 

「ほら、タイチョ。いつまでも拗ねてないで言うことがあるでしょうよ?」

 

恨めしそうな目でガンタンクⅡを睨み続けるミノル少尉の脇をロバウトが突き促すと、諦めたようにミノル少尉が口を開いた。

 

「悔しいが来週の合同訓練はあんたらに譲るとするよ。頼んだぜ」

 

 

 

 

「やあ、中佐。今回も大活躍だったね。お疲れ様」

 

「はっ、どうも」

 

教本に載せたいほど完璧でありながら、1ミリも敬意を感じさせないという極めて高度な敬礼をやってみせるデメジエール・ソンネン中佐を見ながら、ガルマ・ザビは密かに溜息を吐いた。終戦後軍から身を引いたガルマであるが、地球における諸業務は彼が最高責任者であるため、こうして連邦軍との合同訓練などの際には引っ張り出される事が多々あった。相手にしてみてもこれらの訓練にガルマが参観することは、ジオンが連邦に対し心を砕いているというアピールとなるため歓迎されている。そして参観するとなるとただ見ているだけという訳にもいかず、こうして終了後の不満解消に付き合う必要も出てくるのだ。

 

「そう邪険にしないで欲しい。軍部にも面子があるだろう?その辺りは中佐の方が良く解っていると思うのだが」

 

「はっ、理解しております」

 

だからこの場に居るではないか。言外にそう告げられて、ガルマは憚ること無く改めて溜息を吐き、中佐の対戦相手となった敵機の解析データへ目を落とした。RTX-45、ガンタンクⅡ。203ミリ滑腔砲2門、メガ粒子砲1門、4連装マルチランチャー2基に90ミリ連装機関砲2基を装備した、連邦陸軍の次期主力機だ。同機を見て軍上層部の多くが条約下での悪あがきと嗤ったが、最高責任者であるドズル・ザビ大将だけは違った。彼はMSは万能選手であるとは考えていたが、一方で特定条件下に最適化された兵器には劣ることを戦中のMA運用で痛いほど学んでいたし、ヒルドルブの実績についても自身で実際に確かめるなど所謂現場主義的な人間であったため、合同訓練へ強引にデメジエール中佐を引っ張り出したのだ。だが、中佐にしてみればはっきり言って不愉快な事であることは間違いなかった。戦後、オデッサ基地司令の強い要望もあり一定数は残されたものの、MSの保有を優先した軍部の意向により、MTの数は大幅に削減されることとなる。これはゲルググと言う極めて汎用性の高い主力機を戦中より配備できていたことと、ヒルドルブの担う任務が支援砲撃に移行したことで、ギャロップ陸戦艇や新規建造されるケープタウン級重巡洋艦の配備で対応可能であるという認識に後押しされる形だった。結果、ビーム対策などの小規模改造は受けたものの、ジオンではMTの新規開発更新は見送られており、中佐の乗る機体も戦中からほぼ変わらないままであった。そのように冷遇しておいて、使いたい時だけは好き勝手に呼び出すなどと言う態度を取っていれば、中佐の拗ねた態度も納得できるというものだ。

 

(武人の蛮用などという言葉があるが、人相手にまで適用しないでくださいよ、ドズル兄さん!)

 

思惑通りの勝利を掴み子供のようにはしゃぐ兄を想像しながらガルマはこめかみを押さえる。相手は確かに最大の仮想敵ではあるが、同時に唯一無二の同盟相手なのだ。ただでさえ宇宙軍で圧倒しているのだから、陸軍でくらい花を持たせなければ不満はたまる一方となってしまう。

だがこんな形で呼び出された中佐に空気を読めなどと言えるほど、ガルマは兵の気持ちがわからない男では無かったし、彼が言った言葉に素直に頷くような男なら、本国への栄転を蹴ってまでオデッサに居座り続けるような行動は取らないだろう。故にガルマはこの後の連邦軍へのフォローと同時に、目の前の中佐の機嫌を取るべく胃を痛めることとなる。

 

「どうだろう、何か欲しいものなどはあるかね?」

 

とは言え、彼もまだ20代の青年である。中佐の嗜好までは把握していなかったために、不用意にそんな言葉を投げかけてしまう。その様子に、一瞬考える振りをし、顎へ手を当てるデメジエール中佐であったが、直ぐに意地の悪い笑顔を作り口を開いた。

 

「欲しいものですか、でしたらガンタンクⅡですね。アレをください」

 

「なんと言うか、君たちは本当にそういう所がそっくりだね」

 

中佐の姿に、今は星の海を行く何処かの大佐を幻視しながらガルマは溜息を吐く。取敢えず、次の家族会議ではドズルに文句の一つも言ってやろうと心に誓いながら。


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