起きたらマ(略)外伝?   作:Reppu

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SSS17:M・U・C

宇宙世紀0079、人類が増えすぎた人口を宇宙へと移民するようになって半世紀以上が過ぎ去ろうとしていたとき、民主主義は死んだ。ジオン公国の独立宣言に端を発した大規模なクーデター軍により、軍部を始めあらゆる中枢機関が掌握されたからだ。

 

連邦はクーデター軍の手に完全に落ちたかに見えた。だがしかし、連邦には最後の希望が残されていた。

 

――地球連邦軍総司令だ。

 

第47代地球連邦軍総司令、ヨハン・イブラヒム・レビル大将。彼は秘密裏に開発されていた“地球連邦軍総司令専用MS”に乗り込み、ただ1人敢然と戦い続けた。

地球連邦軍の民主主義を、再び取り戻すために。

 

「私の特別な“スーツ”を出してくれ、マチルダ」

 

「これから派手なパーティーが始まるのですね?こんなパーティーは私初めてです!」

 

「OK!レッツパァリィィ!!」

 

隔壁を吹き飛ばし純白のMSが躍り出る。

 

「ウェルカム!ようこそジャブローへ!」

 

言うやレビルはクーデター軍に向けて躊躇無くトリガーを引いた。地球連邦軍総司令専用MS。開発コードガンダムの両手に握られたビームライフルはその凶暴な力を解き放ち、包囲していた61式戦車を瞬時にスクラップへと変えた。その様子をモニターで見ていたはずのマチルダは大した感想もなかったのか、次の仕事に掛かるべくレビルに向かって普段と変わらない口調で話しかけてきた。

 

「あら、皆さん既にお揃いのようです。総司令、ここは秘密格納庫のミデアで脱出しましょう。格納庫の扉を解錠しますので、暫くの間だけお客様のお相手をしてあげて下さい」

 

「任せて貰おう」

 

圧倒的物量に包囲されているにもかかわらず、レビルはそう平然と言い放ちガンダムを駆けさせる。その動きには一切の躊躇がなく、手にしたビームライフルから吐き出される光条は次々とクーデター軍の機体へと突き刺さる。マチルダが秘密格納庫の扉を開くまでの数分間、その蹂躙劇は続くこととなる。

 

「お待たせしました、総司令」

 

マチルダの言葉と同時にジャブロー本部中央広場に建てられていたイサーク・イブラヒム・レビルの像が大きく持ち上がり、その下に秘密格納庫へと続く通路が現れた。

 

「…必ず、戻るっ!」

 

決意の言葉と共に一度だけ偉大なる父の像を見上げた後、レビルは振り返ることなく格納庫へと向かう。だがその格納庫へもクーデター軍は迫っていた。

 

「ミデアの発進準備は間も無く完了、…おや、また随分と大勢でお客様がいらっしゃいました。総司令、丁重におもてなし下さい」

 

マチルダの言葉に無言で頷くと、レビルはクーデター軍の兵士――クーデターに参加はしたが、彼らは間違いなく連邦軍の兵士だ――へ銃口を向ける。それがたとえ携行ミサイルを装備しただけの歩兵であっても、レビルの攻撃の手が休むことはない。

 

「総司令!ミデア発進可能です!後部カーゴへお乗り下さい、搭乗チケットは不要ですわ!」

 

マチルダがそう告げたときには、秘密格納庫に侵入していたクーデター兵は粗方掃討されていた。安全を確認したレビルは悠然と機体をミデアへ乗せると、待っていたかのように前方の岩盤が次々と崩落、ミデアは南米の空へと羽ばたいていくのだった。

 

「マチルダ、今日の私の予定は?」

 

「南洋同盟の大僧正と太平洋の野生動物の保護に関する会合と食事会ですが―」

 

そう告げてくるマチルダにレビルは言い放つ。

 

「そうか、悪いがそれはキャンセルになる…。今から地球連邦を救いに行くので欠席すると伝えてくれ」

 

 

それは、彼の長い戦いの始まりだった。

 

 

「総司令、スカイダイビングの気分は如何ですか?」

 

「悪くない」

 

HAROにてサンフランシスコへと降り立つレビル、街の至る所にはクーデター軍の破壊の爪痕が残されている。燦然と輝いていた街並みは、文字通り火が消えまるで死んだように静まりかえっていた。

 

「素晴らしく紳士的な着地ですわ、総司令」

 

建物を破壊することなく着地したことを称賛するマチルダに、レビルはニヒルに返す。

 

「紳士なのは17時までだ」

 

着地に気付いたクーデター軍の兵士がレビルのガンダムを取り囲もうとした瞬間、背中のコンテナが開き、アームに懸架されていた100ミリマシンガンが素早く両手へと送られる。同時にガンダムは猛然とサンフランシスコの市街を駆け出した。

 

「今から地球連邦を――」

 

走りながら目の前に現れた装甲部隊に対しマシンガンを向けながらレビルは決然と言い放つ。

 

「取り戻す!」

 

放たれる弾丸、爆発する戦車や対空車両。繰り返すがクーデターに参加したが彼らは地球連邦軍の兵士である。だがそんなことはお構いなしに、レビルはサンフランシスコの街を砲火と爆炎に染め上げる。

 

「背中のコンテナには様々な武器が搭載されています、是非色々お試し下さい」

 

闘争本能を助長するようにマチルダが煽れば、レビルはコンテナから次々と武器を取り出しクーデター軍へとぶっ放す。市街の3分の1近くが炎に彩られたころ、マチルダが驚きと共に報告をしてきた。

 

「総司令!これは、まさか連邦軍の誇るビッグトレーと戦う事になるなんて!」

 

「面白い。ビッグトレーと連邦軍総司令、どちらが上かはっきりさせるとしよう」

 

「ビッグトレーのような装甲目標にはバズーカやキャノンがオススメですわ!」

 

アドレナリンが異常分泌でもしたのか総司令とは思えない発言をするレビル、だがマチルダはそれを止めるどころかノリノリでアドバイスを始める。だがこの場にそれに突っ込む人間はいない。双眸をランランと輝かせたガンダムがコンテナから180ミリキャノンを取り出し、迷いのない動きで艦橋を照準。僅か3秒の早業で弾倉を撃ちきった後には、元ビッグトレーであった巨大な火柱がサンフランシスコの街を照らしていた。

 

「一仕事終わりましたね、総司令」

 

そう告げるマチルダにレビルは頭を振って応えた。

 

「いや、まだ始まったばかりだ」

 

紅蓮に染まるサンフランシスコを見渡し、レビルは言い放った。

 

「戦いは続く、私の中に“地球連邦”が生き続けている限りな」

 

 

そう、彼らの戦いは続く。

 

 

「マチルダ、地球連邦の状況は?」

 

「全中枢機関は副司令の手に落ちました。こちらをご覧下さい」

 

そう言ってマチルダは端末をレビルへと差し出す。

 

『親愛なる連邦市民の皆さん、今晩は。地球連邦の正義と自由のサポーター、政府政策推進部からのお知らせです、まず皆さんにお伝えしたいのは、今回の出来事は“反乱”ではなく“革命”であるという事です。人類が宇宙へと移民を開始し半世紀以上が過ぎた現在、多くの問題が発生し――』

 

「見るに堪えないプロパガンダ放送だな」

 

不機嫌そうに眺めていたレビルの顔が、モニターに映し出された人物によりより一層険しいものとなる。

 

『――これらの問題を解決するべく、地球連邦軍副司令であるエルラン中将と地球連邦軍は立ち上がったのです!』

 

「エルランッ!」

 

拳を握り絞めるレビルに対し、マチルダが愁いを帯びた視線と共に口を開いた。

 

「今回のパーティーは、少々長くなりそうですね」

 

 

その後も彼らの奪還は続いた。

 

 

熱砂吹き荒れるサハラ砂漠。

 

「クーデター軍はこの砂漠を隠れ蓑に航空基地を建設、周辺地域へ牽制を行っているようです、基地は統一戦争時代の施設跡を流用しているため地下壕などの存在も予想されます」

 

「了解した。さあ、ショータイムを始めるぞ!」

 

 

密林と海水が彩る南海の孤島。

 

「南洋同盟領海の僅か3キロ先の孤島に、あろうことか連中メガ粒子砲のフラックタワーを建造しています。総司令に好意的な彼らを恫喝するつもりでしょう。周辺の発電施設を制圧することで砲台を無力化できます!」

 

「成程な、だがマチルダ。別にアレを壊してしまっても構わないだろう?」

 

 

弾圧によりゴーストタウンと化したダブリン。

 

「総司令、どうやらダブリンにはエルランに従わなかった兵士達が拘束されているようです。ですが、市街全域に爆弾が設置されているのを確認しました。これは明らかな罠です」

 

「部下の救出に向かう」

 

断固たる口調でそう宣言すると、マチルダが止める間も無くレビルは言い放った。

 

「何故なら私は!地球連邦軍総司令だからだ!」

 

 

そして戦場は、ジブラルタルを経て宇宙へと移る。

 

「ンフゥハァハハハハァーッ!君は最高だよレビル!」

 

「エルラン!」

 

「君は恩人だね、私の素晴らしい人生プランを全てキャンセルしてくれた…。だからさぁ!素敵なプレゼントをくれてやるよ!」

 

グレーに塗装されたエルランの操るガンダムが指さした先にはガラスケースに囚われたマチルダの姿があった。

 

「エルラン!何処まで卑怯な真似を!!」

 

「おおっと!迂闊に避けるとビームが可愛い可愛いお前の部下に当たってしまうぞぉ!?」

 

防戦一方となるレビルをエルランがはやし立てる。

 

「どうしたレビルッ?練乳をイッキ飲みしたみたいにスィートだぞ!?俺を殺す気はあるのか?ああ!?」

 

「総司令!私に構わず戦ってください!」

 

悲鳴のような懇願を告げるマチルダ、だがレビルは毅然と言い返す。

 

「それは出来ない。何故なら私は!地球連邦軍総司令だからだ!!」

 

レビルの気迫に、一瞬動きを止めてしまったエルランの隙を突いてマチルダを救出するレビル、手札を失ったエルランはスペースポートへと逃走する。そこは幾重にもトラップの仕掛けられた彼のとっておきの場所だった。たまらず膝を突くガンダム、レビルはエルランを罵った。

 

「この卑怯者が!」

 

「卑怯?レェビィル!“アイツが卑怯だからボクチン勝てません”かぁ?ヒーローごっこはもうお終いって訳だ!どうしたレビル?さあ撃ってこいよ!ブルッてんのか?」

 

その一言がレビルの総司令魂に火を点けた。今までの損傷など感じさせないような見違える動きでエルランのガンダムを追い詰めるレビルのガンダム。だが、僅かな差で最後の一太刀が躱されてしまう。

 

「ンフゥハァハハハハァーッ!それでこそレビルだ!ならばとっておきの次へ連れて行ってやろう!」

 

言うやエルランは機体を乗り捨て、待機していた宇宙戦艦へと乗り込む。即座に発進を始める戦艦を見て、レビルは躊躇うことなくガンダムを宇宙戦艦に飛び乗らせた。

 

「無茶です!総司令!」

 

「無茶なものか!私は連邦軍総司令だぞ!マチルダ!すまんがちょっと宇宙まで行ってくる!」

 

たどり着いたのは宇宙世紀開闢の場となった軌道上のコロニー、ラプラスの残骸だった。

 

 

「こんな所まで追いかけてくるなんて、余程俺の事が愛しいようだなレビル?実は俺もお前が愛しくてたまらないんだ…、殺したいほどになぁ!」

 

2人を運んできた宇宙戦艦がゆっくりと崩れ、その中から巨大な人影が現れる。それは40メートルはあろうかという、巨大な黒いガンダムだった。

 

「馬鹿な!それは私専用の試作機っ!?何故貴様が動かせる!?」

 

巨大なガンダムは極秘裏に開発された超兵器である。その圧倒的な力を恐れた地球連邦政府の手によって封印されていた。レビルの総司令魂に感応して稼動するため地球連邦軍総司令でなければ動かせない筈なのだ。

 

「ンッフゥ!シャーマンパワーは貴様だけのものではないのさレェビィル!さあ、楽しくダンスといこう!」

 

「成程、つまりここがクライマックスか」

 

コンテナからビームライフルを取り出しながらそう口にするレビルに、エルランが笑いながら応じた。

 

「それは違うぞレビル?ここはお前の人生のフィナーレさ!」

 

その言葉を皮切りに猛然と襲いかかってくる黒いガンダム。その力は圧倒的であり、見る者が居れば誰もが勝負はあったと考えただろう。そう、地球連邦軍総司令、ヨハン・イブラヒム・レビル大将その人以外は。振るわれる拳を避け、放たれるビームの雨を躱し、ガンダムの振るうビームサーベルが黒い巨人を切り刻む。そしてその時は遂に訪れた。

 

「ぬおおおおおおっ!?」

 

損傷に耐えきれず遂に膝をつく黒いガンダム。そして振るわれた最後の一撃によって機体は大爆発を起こした。その爆発はすさまじく、辛うじて足場として残っていたラプラスの残骸を粉々に砕いてしまう。

 

「そんな!総司令!?」

 

漸く通信の繋がったマチルダはその状況を見て絶望の悲鳴を上げる。だが、当の本人であるレビルは至って冷静だった。

 

「心配するな、マチルダ。私を誰だと思っている?」

 

「司令!」

 

「そう!私は!地球連邦軍総司令だ!これまで不可能を可能にして生きてきた。そして!」

 

ガンダムが手にしていたビームサーベルを近場を通ったラプラスの残骸へと突き立てる。

 

「これからもそうする!」

 

素早くたぐり寄せた残骸をさながらサーフボードのように乗りこなすガンダム、その技の冴えは、人類最高峰にも勝るとも劣らないものだった。

 

「総司令!」

 

あまりにもファンタスティックな光景に、マチルダが歓声を上げる。その声に応えたのは、落ち着いたレビルの言葉だった。

 

「さて、家に帰るとしよう。ああ、マチルダ、南洋同盟の大使館に連絡を入れておいてくれ。遅くなりましたが、野生動物保護に関する会合と食事会を行います、とな」

 

そしてガンダムは、幾つもの流星と共にジャブローへと帰還した。

 

 

 

 

「なんだコレ」

 

MS開発競争の原因となったとして航海中の禁酒を言い渡された俺は、いつものようにテム大尉達と遊ぼうと考えたのだが、大尉も少佐も設計に掛かりっきりで相手にしてくれなかった。しょうがなく艦内を彷徨っていたら、なにやらヘッドギアを付けてわいわいやっているトッシュ少尉とショウ曹長を見つけた。へえ、VRゲー?しかもロボゲーとな?オイオイおっちゃんも交ぜてくれよ。なんて言ってトッシュ少尉のを借りてレッツプレイ。流石にいきなり対戦は無理だって事で、チュートリアルのストーリーモードをやったんだけど。

 

「あ、終わりました?おー、流石大佐。初回でノーマルエンドとはやりますね」

 

「途中の兵士救出数が足りてなかったみたいですね、あと20人助ければグッドエンドでしたよ」

 

なんか良いこと言ってる風の演説とともに流れるエンドロールを半眼で見ながら、俺は発生した疑問を素直にぶつけることにした。

 

「なんぞ、コレ?」

 

「アングラの有志が作ってるゲームっすね、確かサークルはギガソフトだっけ?」

 

「最初は家庭用ハードのRXBOX用に開発してたらしいんですけど、ほら、露骨に実在の人物使ってるでしょ?流石に許可が下りなかったみたいですね」

 

でしょーね。因みにエルランは爆笑しながらOK出したらしい。条件は本人役としてゲームに参加させる事だったって。あ奴ジオンに移り住んでからフリーダムに拍車が掛かってやがるな。

 

「さて、大佐も無事連邦軍総司令魂がインストールされたみたいですし」

 

何その不穏なプラグイン。

 

「次はグッドエンド、そしてトゥルーエンドを目指しましょう。大丈夫です、大佐ならやれますよ!」

 

結局その日は徹夜でゲームを攻略することとなり、翌日仲良く三人でシーマ中佐に説教されたのだった。まあ、問題無い。

 

――何故なら私は、オデッサ基地司令なのだから!




本投稿の経緯

友「最近マクベの外伝さぁ、なんなの?」

作「何なのと言われましても、普通に外伝ですが」

友「内容は硬すぎる、これじゃ外伝じゃなくマクベの第二部だ」

作「じゃあ、どうせえと?」

友「決まっているだろう?足りないのは総司令魂だ!」

と言うわけで偉大なる某大統領をリスペクト(人コレをパクリと言う)して、執筆するに至りました。
キャラが違う?これは劇中劇(ゲーム)だから…。

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