起きたらマ(略)外伝?   作:Reppu

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こっちもぼちぼち書いていこうとか欲張り中


SSS2:ある少女の手記

私には小さい頃の記憶が殆ど無い。一番古い記憶は大きくて真っ赤な流れ星がゆっくりと空を流れていくところ。名前も帰る場所も、何も解らなくて困っていた私を最初に助けてくれた。ううん、拾ったのは連邦軍の兵隊さんだった。最初に私に声を掛けてきた兵隊さんは多分何も知らなかったんだと思う。ずっと私のことを心配してくれていたし、施設に着くまで何度もお菓子やジュースをくれたし、着いて別れる間際、何時までも手を振っていた。だからあの兵隊さんは、私が連れて行かれた施設が何だったのか知らなかったのだろう。

施設での暮らしは、今思えばとても辛いものだった。けれどそれまでの生活だとか、家族とかの解らない私にはあの頃比べる対象が無かったから、その暮らしに不満を覚えて居なかったように思う。むしろお菓子やジュースが何時でも飲んだり食べたり出来たから、毎日の痛い検査や、ロボットを動かして敵をやっつける訓練よりもそちらの方が覚えている。

そう言ったら同じ施設に居た友達に君はあの頃から抜けていたんだね、なんて酷いことを言われた。

 

 

人生というものの転機が何処にあるかと尋ねられれば、私たちは必ずあの日、宇宙世紀0079年7月12日と答えるだろう。

その日は何時もよりずっと騒がしくて、普段はそんなことが無いのに、施設に居る子全員(私はあの施設に何人居たか知らないから多分だけど)が食堂に集められていて、何時もニコニコお菓子やジュースを持ってきてくれていたお姉さんが、知らないおじさんと怖い顔で話していた。周りに怖くて泣いてしまう子が居たから良くは聞き取れなかったけど、移動がどうとか、処分がなんだ、みたいな話をしていた。

今にして思えばアレは連れて行けない私たちをあの場で処分…殺すことを相談していたんだろう。あの後、お姉さんにもそのおじさんにも会えていないから、真実は解らないけれど。

数え切れないくらい何度も何度も部屋が揺れて、皆足がすくんで座り込んで小さい子がわんわん泣いて、いつの間にかお姉さん達は居なくなって、私と同じ服の子でも比較的大きな子が助けを呼ぼうとドアに手を掛けたけど、ドアは開かなくて、遂には照明が消えて皆が部屋の隅に固まって怯えていたところに、ドアを破って誰かが入ってきた。

最初はその人達が持っていたライトに照らされて、まぶしくて解らなかったけど、目が慣れてくるとその人達は鉄砲を持った怖い顔のお兄さん達だった。着ている服がいつもロボットに乗って戦う訓練の時にやっつけていた服だったから、その人達が今施設を壊そうとしている悪い人達だと私は思ったし、鉄砲を持っていたから、多分ここで皆殺されちゃうんだと思って私は良く解らないまま泣いた。そんな私たちを見てお兄さん達はとても苦しそうな顔になって、何故か銃を下ろして手を上げて見せてきた。俺たちは君達に痛いことはしない、怖いこともしない、君達にこれを預けるから、嘘だと思ったら刺して良い。そう言って先頭に居たお兄さんは隣に居たお兄さんに鉄砲を渡すと、腰からナイフを鞘ごと外して私たちの方へ滑らせて渡してきた。私たちが傷つかないよう、怖がらないよう真剣に考えたんだろう、あまりにも優しく滑らせたから、私たちの所へ届くずっと前でナイフは止まってしまって、ちょっと間の抜けた沈黙の後、一番前に立っていた子が肩を震わせて笑い始めたのを切掛に、私たちは緊張の糸が切れたように皆で笑い出した。そうしている内に再び照明が点いて部屋が明るくなると、向かい合っていたお兄さん達も笑っているのが見えて、皆一気に気が緩んでしまった。それを感じ取ったのか、そのお兄さんが私たちへ名乗った。そこで私たちの多くは初めて今まで訓練で戦っていた相手がジオン軍という人達だと知ったのだ。

尤も、知ったその日にジオン軍の捕虜になった私たちは、結局誰一人、一度もジオン軍と戦うこと無く終戦を迎えたのだが。

 

 

転機が7月12日なら、変化、それも激流に飲み込まれるようなと言う変化はそれから2日後の7月14日からの日々を指すと思う。

捕虜として施設(後で知ったがオーガスタ基地という連邦軍の基地だったそうだ)からロサンゼルスにある病院へ移された私たちは、一人一人念入りに調べられた。血を採られたり全身をスキャンする機械に掛けられたり、小さい子がちょっと泣いてしまって、ついてきていたあのジオン軍のお兄さんが痛いことをしないと約束したのにごめんなんて謝ってまわって、それがおかしくてまた皆で笑った。だって、あの施設で注射を打たれるなんて毎日のようにあったことだったから。そう言って笑うと、お兄さん達がとても悲しそうな、怒った顔をしたのを今でも覚えている。あの時なぜお兄さん達がごめんなって言ったのか今なら解る。あれは多分、実験動物にされていた私たちを哀れんで、そんな事をした人達が許せなくて、そしてそれを日常と受け入れていた私たちの姿がとても悲しかったんだと思う。

お兄さん達とはそこでお別れして、私たちは宇宙へ行くはずだった。

ジオンでも私たちみたいな子が居る施設があって、最初はそこへ行くと説明された。おっきなまあるいロケットで宇宙に上がるのを皆でぼーっと待っていたら、とっても格好いいお兄さんがやって来て、急に止めてしまった。お兄さんはすごく怒っていて、周りのおじさんやお兄さん、おばさん、お姉さんが皆で必死に説得していたのを覚えている。沢山沢山お兄さん達は話していて、待っている間に私は寝ちゃったんだけど、起きた時には何故か皆で飛行機で移動する事になっていた。やっぱり丸くて紫のおっきな飛行機に乗って私たちはあの日、私たちの故郷と呼べる場所、オデッサへ向けて飛び立ったのだ。

 

 

オデッサはオーガスタとも、ロサンゼルスとも全く違って、如何にも軍隊の基地と言う場所だった。ロボットも沢山あったし、訓練で何度も何度も戦ったおっきな戦車や緑のロボット、すっごい速さで飛ぶ飛行機や空に向かって砲口を向けている大砲が幾つもあって、訓練をちょっと思い出しながら、こんなところで戦ったら1分もしないで負けちゃうな、なんて仲良くなったあの子と喋ったりした。けれどすぐに私たちはちょっと離れた所に移動して、そこはオデッサ基地の中だと言われたけれど、とてもそうは見えない場所へ連れて行かれた。

森の中に建てられた建物は真新しい白色で、周りに生け垣はあったけど壁やフェンスは立っていなくて、ちょっと歩けば海が見える、そんな場所。私はあの場所で、この世界はとても沢山の色や形で出来ていると言うことを実感したように思う。

オデッサでの私たちの最初はどこかぎこちないものだった。色々な初めてで頭が一杯だったこともあるけれど、それ以上に日々私たちがしていた訓練も検査もオデッサでは無かったからだ。

施設には前のオーガスタの時のように大人の人が何人か居たけれど、その人達は私たちの体調がどうかとか、困っていることは無いかと聞いてくるだけで、ロボットで訓練することも、注射を打つことも、変な映像を見せたりもしなかった。ただ、健康のためだと言ってオーガスタでは食べ放題だったお菓子とジュースが無くなったのは、皆ちょっと不満だった。

 

 

それが大事になったのはオデッサについて丁度一週間が経った日だった。

その日もやることが無くて、どうしようかとぶらぶらしていたら、何人かの子が袋を持って庭に集まっていた。嬉しそうにしている小さい子を見て興味を引かれた私が近づくと、年上の女の子が袋から見慣れたものを取り出した。それはオーガスタでよく食べていたクッキーだった。私も含めて知らない子も多かったけれど、オーガスタではニコニコしていたお姉さんに頼めば袋をくれて、その袋にお菓子を持って帰り部屋で食べられたのだそうだ。そんな手があったとは、私が落ち込んでいると女の子は笑いながらクッキーを分けてくれた。何度もお礼を言いながら、折角だからお茶を貰おうと食堂へ行こうとしたら、向こうから丸いおじさんと、目つきの悪い背の高いおじさんが歩いてきた。丸い方はこの施設の所長さんで、皆からは園長先生と呼ばれていて、目つきが悪い方はこの基地の司令官さんで、皆からは司令さんと呼ばれていた。園長先生は優しいし何時も笑っているけれど、笑わない司令さんは皆に怖がられていた。かく言う私も怖くって、その時はお辞儀をして早く通り抜けようとして、見事に転んでしまった。トカゲみたいなんて言われている司令さんが凄い慌てた顔で助け起こしてくれて、怪我は無いか凄く心配するものだから、失礼な事に私は思わず笑ってしまい、そして笑ってしまったお詫びに一緒にお茶を飲まないかと尋ねた。今思えば忙しい二人にとんでもない無理を言った訳だが、二人は笑ってお茶の席に招かれてくれた。そしてそこで騒ぎは起こる。

お茶請けとして出されたクッキーを園長先生が口に含んだ瞬間、いつも笑っている園長先生が突然怖い顔になって、この菓子は何処で貰ったのかと尋ねた。びっくりして言い出せない皆に代わって私が、オーガスタで食べていたもので皆が私物として持ち込んだものだと答えた。園長先生は怖い顔のまま、施設の全員を食堂に集めるように言うと、司令さんに一言二言耳打ちした後、食堂へ向かってしまった。悪い事をしてしまったかと怯える私達に、司令さんは悲しい顔をしながら、君達は何も悪くない、でもこれはちょっと食べないでおこうと言って全員からお菓子を取り上げた。

結論から言えば、お菓子には薬が混ぜてあって、それはとても悪い薬だったそうだ。少量でも段々体を壊していって、最後には何も解らなくなってしまう怖い薬。訓練の前に飲まされていた真っ白になる薬と同じものだそうだ。どんな目的で薬が混ぜてあったのかは解らない、けれどこの事で私たちにとってオーガスタの良い思い出は何一つ無くなったのだった。

余談だが、翌日施設の前に沢山のダンボールが届けられ、その中に一杯のお菓子が詰め込まれていた。運んできてくれたお姉さん達がとても羨ましそうに見ている中、私たちは思い思いのお菓子を存分に楽しんだのだった。

 

 

 

 

「まだ起きていたのかい?」

 

後ろから掛けられた声に振り向くと、湯気の立つマグカップを二つ持った愛しい人が立っていた。

 

「うん」

 

マグカップを受け取ると、彼は横にあった椅子に座る。手元に開いていたノートに目が行った彼が申し訳なさそうに口を開いた。

 

「日記かい?邪魔しちゃったかな」

 

「ううん、日記じゃ無くて…なんて言うのかな。あの頃の思い出を書いていたの」

 

「あの頃…ああ、オデッサかい?」

 

二人で過ごした時間は決して短くないけれど、尤も濃密で、言わずとも通じる時間は間違い無くあの基地での時間だろう。無言で頷く私に、同じように懐かしむ顔になった彼は、けれどすぐ苦笑した。

 

「なんだか、君とのことしか思い出せないな。あいつらはしょっちゅう顔を合わせるせいで思い出にならないのかな?」

 

「素敵じゃない。思い出になんてしなくても良い仲間なんて、最高の宝物だと思うわ」

 

そう言って私はノートを閉じる。騒がしくも幸せだった過去を振り返る時間は、今日の所はここで終わりだ。今から穏やかで愛おしい今を満喫するのだから。




雰囲気重視なので、今後本編の設定と齟齬がでることが予想されます。
あくまでフレーバーということでおなしゃす。

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