起きたらマ(略)外伝?   作:Reppu

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SSS20:教導団の娘さん達-1-

『当たらないよ!?』

 

『アルーシャ下がれ!お前じゃ無理だ!』

 

妹達が発する悲鳴のような叫びを聞きながら、デルマはしかし指示を飛ばす余裕も無く機体を操作する。第三小隊が一方的に敗北した時点で油断は完全に消えていた、だがそれ以上に目の前の敵は圧倒的な力の差を誇示している。

 

(第三小隊の時は手加減していたとでも言うのか!?)

 

突き出されるビームサーベルを強引に躱しつつ、左手に持ったサーベルでお返しとばかりに切りつけるがビームの刀身は虚しく空を切る、それどころか逆に跳ね上げられた相手の足でマニピュレーターをサーベルの柄ごと破壊されてしまった。追撃に身構えるが、相手はそのままデルマの機体から距離を取る。その意図に気付いた時には全てが遅すぎた。

 

「アルーシャ!避けろっ!!」

 

ビットを飛ばし出来る限りの支援を行うが、既に別の機体に取り付かれ、そちらの対応に全てのリソースを割いていたアルーシャの機体は、側面から不意を打って放たれたマシンガンの直撃を食らいデルマの前で爆発した。

 

「こっのぉ!」

 

ビット6基、デルマの扱える上限一杯の戦力で攻撃を行うも、その結果は先ほどまでと何も変わらなかった。

 

(なんで、なんで当たらない!?)

 

デルマは胸中で叫ぶ。ビットによる攻撃の厄介さはデルマ自身が身に染みて理解している。小型で高速の機体は捉えることがそもそも困難である上、それぞれがMSと同等の火力を有している。それが一人の人間によって統制されて動くのだから、相手にしてみれば連携の完璧な小隊規模の戦力と戦わされているに等しいのだ。だというのに目の前の相手は、それをあざ笑うかのように躱している。それどころか時折マシンガンの銃口をビットに合わせて見せるのだ。その動きはまるでお前の使うビットなどいつでも撃ち落とせると宣言しているようであった。

 

「いや、事実出来るんだ。だが敢えてしていないんだろう!?」

 

安い挑発と理解できても、デルマは感情が激しく動くのを御しきれなかった。

 

「ビットォ!!」

 

デルマの意思を反映したビットが絶叫と共に最大稼動で敵機へと襲いかかる。後先を考えない連続攻撃は次第に敵機を追い詰め、遂にはサーベルを手にしていた右腕を吹き飛ばすことに成功した。

 

「どうだっ!」

 

喜悦に表情を歪ませるが、その暗い喜びが持続したのはほんの一瞬のことだった。

 

『嬉しかったですか?』

 

「!?」

 

今回の模擬戦はシミュレーションとは言え敵機との交戦という想定である。つまり、相手の通信が聞こえるという事は。

 

『まだまだ子供ですね、精進しなさい』

 

ショットガンに接射された激しい振動の直後、デルマの機体は撃墜判定を受け模擬戦は終了した。

 

「クソ!あんなのっ!」

 

シミュレーターから降ろされ、エルの率いている第一小隊と交代させられたデルマは忌々しげに壁を殴った。姉としての威厳を保つために普段は抑えているが、元々彼女は激情家である。格下と思っていた相手に手玉に取られて暢気に笑える性格ではない。忌々しげにシミュレーターを睨んでいると教導隊の方もメンバーを交代するようで、先ほどまでデルマ達と戦っていた相手がシミュレーターから降りてこちらへ近づいてきた。訝しげにデルマが眺めていると、隊長と思しき金髪の女性が眉間にしわを寄せながら溜息を吐いた。

 

「装備は一流、腕は二流、兵士としては三流でも過大評価と言ったところですか」

 

「なんだと?」

 

言い返そうとするデルマを無視して、目の前の中尉は困ったように仲間へと視線を向けると、聞こえよがしに口を開く。

 

「大佐の元を離れてハマーン大尉も随分鈍ったのかしら?この程度を良い仕上がりだなんて、正直期待外れにも程があります」

 

尊敬する上官を露骨に侮辱され、デルマだけでなく周りに居た姉妹達も剣呑とした空気を纏う。それを手で制しながらデルマは口を開いた。

 

「上官であればどんな発言でも許されるという事は無いと小官は考えます」

 

「そのような言葉は一人前の軍人として振る舞ってから口になさい。上官へ敬礼も出来ないお嬢ちゃん?」

 

「っ!?し、失礼しました」

 

そう指摘され、デルマは慌てて敬礼をして見せた。それ程までに先の模擬戦は彼女の感情を揺さぶっていた。だが、それを斟酌してくれるほど教導団のメンバーは寛容では無かった。

 

「敬愛する上官を貶められて腹が立ちましたか?奇遇ですね、私達もです」

 

意味が判らないデルマが困惑していると、中尉は言葉を続けた。

 

「貴女達の行動、言動、その評価が何処に帰結するか考えてみなさい。ええ、実に不愉快です。私達のかけがえの無い戦友が、貴女達の無様によって貶められているのですから」

 

「…あんな高性能機を引っ張り出してきてそんな言い草」

 

呟くようにそうアルーシャが漏らす。本来なら叱責すべき事なのだが、デルマ自身もその思いがわずかにあったために反応が一瞬遅れた。彼女達が搭乗しているAMSN-02“シュネーヴァイスⅡ”は教導団の使用しているMS-22“レーヴェ”に採用試験で敗北したYMS-21“ドラッヘ”をベースに開発されている。配備開始から4年が経つものの最新鋭であるレーヴェは未だアクシズには配備されておらず、教導団との交流訓練は今回が初めてだったデルマ達は、ビット攻撃が当たらない原因を新型機との機体性能差であると結論付けた。何故ならハマーン大尉のシュネーヴァイスⅡですら彼女達の飽和攻撃の前には被弾するからだ。

 

「あら、なら機体を交換しますか?でもそれだとご自慢のサイコミュ兵器が使えなくなってしまうかしら?ああ、なら私達がゲルググに―」

 

「そこまでで勘弁してください中尉。そんなことしなくてもコレで十分でしょう?」

 

中尉の言葉を遮ったのはデルマたちのよく知る人物、シュネーヴァイスⅡの生みの親であるエリー・タカハシ少佐だった。彼女の登場に、中尉達は居住まいを正し綺麗な敬礼をしながら口を開いた。

 

「お久しぶりですわ、少佐殿」

 

「はい、お久しぶりです。9年ぶりですか?壮健そうでなによりです」

 

「少佐もお変わりないようですわね」

 

「私としてはもう少し育ちたかったんですがね、ってそんなことは良いんです」

 

そう言いながらエリー少佐は手にしていた端末をデルマへ投げて寄越した。意図がわからず受け取るデルマへつまらなそうな表情でエリー少佐は口を開いた。

 

「シミュレーションに使った機体の数値です。はっきり言いますが機体のステータスは元のドラッヘの時点でMS-22に優越していますよ」

 

事実カタログスペックはリゲル、ドラッヘ、レーヴェではドラッヘが最も優秀だった。問題はそのスペックを完全に発揮するためにリユース・P・デバイスの存在が必要不可欠であったことだろう。オリジナルとは異なり、四肢の切断といった外科的手術は不要だったが、一般パイロットが用いる為にはより伝達精度を向上させるためにナノマシン及び機体との通信モジュールを埋め込む必要があった事から、コンペティションでは惨敗という結果を頂戴している。シュネーヴァイスではこの点をスペシャル専用機とすることで問題を解決しているため、フルスペックを発揮できるのだ。ついでに言えば一部構造材などをアクシズで開発された最新鋭の物に更新しているから、ドラッヘと比較してシュネーヴァイスは性能で勝ることはあっても劣ることは万一にもあり得ない。

 

「見て解るとおりです。機体側の落ち度はありません、今回の結果は純粋にパイロットの差ですね」

 

「そんな!だったらなんでビットが一発も当たらないんです!?」

 

「そっちこそ何を言っているの?」

 

冷え切った声音でそう口を開いたのは金髪中尉の後ろで黙って聞いていた、教導団のパイロットだった。こちらは東洋系なのか黒髪でやや童顔だ。しかしその目は金髪中尉よりも険を含んでいた。

 

「囲まれて撃たれるくらい数的不利なら当然起きる状況、あの程度の包囲射撃なら新兵でも出来る」

 

「何が仰りたいのですか?」

 

挑みかかるような目でデルマが問えば、黒髪の中尉は更に冷たさを増した瞳で睨み付けながら口を開いた。

 

「はっきり言わないと解らない?当たらなかったのは私達が優秀だからじゃない、貴女達の射撃が下手くそだっただけ。言っておくけれど教導団でも私達は特別優秀な訳じゃない、そんな私達でもあんな欠伸の出るような射撃なら避けられる」

 

その言葉が心底本心から出た言葉である事が理解できてしまうデルマ達は愕然とした。アクシズにおいて最強部隊を自負する彼女達にとってそれはあまりにも受け入れがたい事実だったからだ。何一つ言い返すことが出来ずに下を向くデルマを見て、黒髪の中尉は溜息を吐くと見物していたMSパイロット達を睥睨する。

 

「今まで毎年教導団が指導をしていただろうに、この練度は由々しき問題。今年は少し厳しくした方がいい」

 

「ミノル中尉の言うとおりですわね。最低限、今の彼女達の射撃を避けられる程度には鍛え直しましょう」

 

その宣言にパイロット達は声にならない悲鳴を上げるのだが、決定が覆ることは無かった。

 

 

 

 

「なんとか、威厳は保てましたわね」

 

一日目の教導を終え、ハマーン大尉の執務室に報告と今後の相談という体で集まった教導団のメンバーは大きく息を吐いた。

 

「お疲れ様でした。でも本当に中尉達は凄いですね。あの攻撃を躱しきるなんて私には無理です」

 

ハマーンの言葉にジュリア中尉は苦笑するとやんわりと否定した。

 

「教導団上位のメンバーならば解りませんが、私達も彼女達の小隊相手に1人では避けきれませんよ」

 

その言葉に思い出したように疑問の声を上げたのはフェイス・スモーレット中尉だった。

 

「あれ?でも大佐の作った対サイコミュ用の訓練データって一般に開放されてたよね?私達も定期的にやってるし。アクシズのパイロットだってアレをやっていれば、ここまで酷いことになってないと思うんだけど?」

 

「フェイス、一応言っておくけれど、アレを好き好んでやっているのは多分オデッサ上がりの人だけよ」

 

その疑問に答えたのは同じ小隊のメンバーであったセルマ中尉だった。ハマーンも困った笑みを浮かべながら同意する。

 

「でしょうね、私も何度か試しましたがアレはもっと無理です。多分殆どのパイロットはコバヤシマルプランか何かだと思って居るんじゃないでしょうか?中には数人試した人も居るみたいですが、はっきり言って秒も持ちませんね。というかあんな射撃私にも到底真似できません」

 

「…あのデータ、定期的にアナベル中佐が更新しているからね。最近はロックアラートすら鳴らないよ」

 

深い溜息と共にミノル・アヤセ中尉がそう口にすれば、ジュリア中尉が笑いながら付け足した。

 

「アレに比べればまだまだ彼女達は荒削りですね。尤も12歳であるという事を加味すればやはり恐怖を覚えずにはいられませんが」

 

そう言い切ったかと思えば、不意に真剣な顔になると居住まいを正して言葉を続ける。

 

「ですから大尉、一つお願いがあるのですけれど」

 

「なんでしょうか?」

 

自然とハマーンは声を強張らせた。懐かしいあの場所を思い起こさせるやりとり。大抵の場合その後は、あの人の口からとんでもない提案が飛び出すのだ。そして彼女の直感が正しかったことは、直ぐにジュリア中尉の言葉で証明される。

 

「貴女達の特別な力を、特別ではなくする手伝いをして頂けませんか?」




SSSとか書いといてこの体たらくですよ。すみません精進します。

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