遊☆戯☆王 Love†Princess   作:レモンジュース

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 前回のあらすじ

 ・ガイザーは不憫。
 ・ウヌクも不憫。
 ・やっぱりバリアンズ・フォースは万能。

 書き終えた後に本文だけで3万字を超えていることに驚愕。というわけで分割して投稿します。




孫呉襲来[後編] 一刀VS孫権!①

 

 

 ――おい、あの人って確か『チーム孫策』のリーダー、孫伯符だよな。

 

 ――隣の2人はもしかして妹の孫権と孫尚香……?

 

 ――本当かよ。じゃあ、『チーム孫策』の主力のお出ましってことか!

 

 

 『チーム孫策』のリーダーとその妹2人の登場に、観客達がざわめき出す。騒ぎになるのも無理はない。敵チームのリーダーが一切の前触れもなく現れたのだから。

 

「久しぶりね、北郷一刀」

 

 孫策は軽いノリで話しかけてくるが、実際にはそんなことはない。孫呉の小覇王が放つ覇気(フィール)が、俺の身体を貫いていく。この世界に来たばかりの俺だったらここで気を失っていただろう。

 

「ああ。久しぶりだな、孫策さん。洛陽で会って以来だったか。要件は? 明命とこの2人を連れ戻しにでも来たのかな」

 

 俺もその気迫に負けないよう、精一杯のフィールを以てやや挑発的な言葉を返す。

 孫策と孫尚香は感心したような笑みを見せるが、次女の孫権は――

 

「貴様! 明命の真名を口にするとはどういうことだ!」

 

 俺が明命のことを真名で呼んだことに腹を立て、声を荒げる。ムスッとした生真面目そうな印象の通り、敵チームの人間がかつての仲間の真名を呼ぶことに嫌悪感を抱いたらしい。

 

「落ち着きなさい、蓮華。今の小喬達のデュエルを見ていたならわかるでしょ? 北郷は軽々しく真名を呼ぶような人間ではないと。そんな彼が明命の真名を口にしたということは、あの娘自身が許していることに他ならないはずよ」

「それは……!」

 

 どうやら、今のデュエルはしっかりと見られていたらしい。小喬ちゃんが《RUM(ランクアップマジック)-バリアンズ・フォース》を使ったことも……。

 

「み、見ていたんですか、雪蓮様」

「ええ、最初から最後までね。チーム全員に伝えていたはずよ。バリアンズ・フォースは絶対に手にしてはいけないカードだと。それを使うとはどういうことかしら?」

 

 『デュエルを観戦していた』という孫策の言葉に、小喬ちゃんが怯え出す。どうやら『チーム孫策』でもバリアンズ・フォースは安易に手を出してはいけないカードであったらしい。

 

「……まあ、小喬へのお仕置きはチームに戻ってからにするとして。

 北郷、小喬とのデュエルで疲れているところ悪いとは思うけど、今からデュエルをしてくれない?」

「デュエル? 別にいいけど、何が狙いだ? チーム同士の正式なデュエルの申し込みは聞いていないから「No.(ナンバーズ)」を始めとしたカードが狙いじゃないことはわかるが」

「そんなことは言わないわ。貴方の実力を知りたいからという理由でどうかしら?」

「『どうかしら?』って言われてもな。あんた程の実力なら、今のデュエルを見ただけでも俺の力量を見極めることくらいできたんじゃないのか?」

 

 決闘者の中には、デュエルを一度見ただけで実力を把握できる者もいるという。『チーム劉備』では、星や愛紗がその力を持っている。『チーム曹操』でも曹操や徐晃が当てはまるという話だ。『チーム孫策』でもそのような決闘者が存在すると思っていたのだが、違うのだろうか。

 

「ええ、確かに通常のデュエルなら既に見極めた。『天の御遣い』という噂に違わぬ相当の実力者のようね。でも、決闘疾走(ライディングデュエル)の実力はまだ見ていないわ。乗れるんでしょ? Dホース」

「……ああ、乗れるぜ」

 

 

 

 通常のデュエルと決闘疾走(ライディングデュエル)において、ルールの違いは特に存在しない。せいぜい、第1コーナーを先に曲がった者が先攻を取る程度だ。

 それなら別に決闘疾走(ライディングデュエル)をする必要が無いと思いがちだが、決闘疾走(ライディングデュエル)ではDホースを育て乗りこなす技量が要求される。

 かなりの訓練期間が必要になる乗馬をデュエルと両立させるということは、相当な集中力と身体能力を持ち合わせていなければならない。慣れない頃はプレイングミスや落馬が発生することも数多くある。俺もDホースでの決闘疾走(ライディングデュエル)を始めたばかりの頃はそうだった。

 

 

 

「なるほどね、話はわかった。俺もそろそろ他国の決闘疾走者(ライディングデュエリスト)とデュエルがしたいと思っていたところなんだ。しかも相手がチームリーダーだっていうのなら腕が鳴るよ。場所はウチの決闘疾走(ライディングデュエル)専用訓練場でいいか?」

「構わないわ。でも、貴方のデュエルの相手は私じゃない」

「え?」

 

 てっきり孫策本人がデュエルをすると考えていたが、彼女は視線を横に向け、告げる。

 

「孫家3姉妹の次女、孫仲謀が相手をするわ」

「わ、私がですか!?」

 

 孫策の代わりに指名されたのは、孫権だった。決闘疾走(ライディングデュエル)ができるのなら別に相手を選ぶ気はないが、言った本人ではなくその妹とのデュエルになるとは正直驚いた。孫権の反応を見る限り、彼女自身も今この場で初めて知ったようだ。

 

「別にいいじゃない、蓮華。貴女もチーム内でのデュエルだけでなく、もっと他のチームの決闘者とデュエルをして経験を積むべきよ。

 『天の御遣い』の決闘疾走者(ライディングデュエリスト)としての実力を把握できて、蓮華の経験を積む。しかも勝っても負けても互いに損は無い」

「……まさか姉様、最初からこれが狙いだったのですか?」

「当ったり~!」

 

 妹の実力を伸ばすためだけに乗り込んでくるとか、随分と思い切ったことをするもんだ。俺には真似出来そうもない。「No.」を狩るためだけに各地を放浪する愛紗みたいな人もいるから文句は言えないけど。

 

「ずる~い! シャオもデュエルしたい!」

「今回は蓮華に譲りなさい、シャオ。そもそも貴女、Dホースに乗れないじゃない」

「むむむ……、それはそうだけどぉ~」

「何がむむむよ」

 

 この世界では、決闘疾走者(ライディングデュエリスト)になるための免許は存在しない。しかし、Dホイール(機械)と違ってDホース(生物)に乗らなければならないため、決闘疾走(ライディングデュエル)に耐えられるだけの体力を持ち、なおかつ決闘者と相性の良い馬を見つけることが重要となる。その上で訓練を積み重ねなくてはならないのだから、孫尚香のような小さな少女にはまだ決闘疾走(ライディングデュエル)は早いのだろう。

 そう考えると、別世界から来た俺が自分と相性の良いDホースと出会うことができたのは奇跡に等しいのかもしれない。

 

「仕方ないなぁ。それじゃあ今回はお姉ちゃんに譲ってあげるから、絶対に勝ってきてよね!」

「言われるまでもない。元よりそのつもりだ」

 

 会話を終え、こちらへと向き直る孫権。どうやら準備万端のようだ。彼女の瞳からは、眼前の敵を必ず下してみせるという意志が感じられる。

 

「よし、それじゃあ行こうか。最高の決闘疾走(ライディングデュエル)をしようぜ」

 

 

 

 

 『天の御遣い』と『孫呉の姫』が決闘疾走(ライディングデュエル)を行うという知らせは、あっという間に知れ渡った。白昼堂々、大勢の民の前で話をしていたのだから当然といえば当然なのだが。

 余所のチームのデュエル、しかも決闘疾走(ライディングデュエル)を生で見ることができる機会など、そうそうあるものではない。そのため2人のデュエルが行われる訓練場には、かつて無い程の観客が押し寄せていた。5階建てとなっている観客席は満席となり、立ち見の者までいる。

 

「ふっふっふ。これでやっとウルトラレア仕様の《オネスト》を買えるのです!」

 

 

 訓練場の運営をしている陳宮は大儲けできて大層喜んでいたそうな。

 

 

 閑話休題。

 

 さて、『チーム孫策』の者達には、最も決闘疾走(ライディングデュエル)を間近で感染できる特等席が用意されている。他チームとはいえ折角来てくれたお客様に楽しんでもらいたいと、一刀が配慮したためである。だが、今この場にいるのは孫尚香、大喬、小喬の3人(・・)のみ。肝心のリーダーである孫策はどこかへと消えている。今彼女がいる場所は――

 

「蓮華が初めて行う他チームとの決闘疾走(ライディングデュエル)。冥琳……じゃなくて、冥華蝶はどっちが勝つと思う?」

 

 5階建ての観客席よりも更に上の屋根。風が強く、お世辞にも足場が良いとは言えないその場所に彼女は立ち、隣の女性へと声をかける。

 

「ふむ、その質問に対して答えるのなら、『わからない』としか言えないな。孫権殿の実力は確かなもの。並の決闘者が相手ならば赤子の手をひねるように勝利を収めるだろう。だが、相手はあの『天の御遣い』だ。高速展開を得意とする小喬を倒す程の実力を持つ彼と戦うとなれば、孫権殿が更なる成長をしなければ苦戦を強いられることは必定だ」

 

 孫策と会話をする女性の名は冥華蝶。長身で、長く黒い髪を真っ直ぐに伸ばした褐色の肌の決闘者。普通にしていれば美人と言われているのかもしれないが、メガネの上から蝶を模した仮面を装着しているせいか、その魅力が損なわれてしまっている。

 

「意外ね。てっきり蓮華が必ず勝つとでも言うかと思ったのに」

「物事は客観的に見る性分なのでな。特定の人物を贔屓することはしたくない」

 

 冥華蝶の正体を孫策は知っている。しかし、突如奇天烈な格好をし始めた親友に対して『冥琳、貴女何をしているの?』と尋ねてみたところ、『私は冥華蝶だ。冥琳などという者は知らん』と真顔で返されてしまって以降、仕方なく冥華蝶と呼ぶことにしているのである。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       

 

「ふ~ん。……あ、そろそろ始まるみたいね」

 

 彼女達の眼下、開始位置(スタートライン)では2人の決闘者と2頭のDホースがデュエル開始の合図を今か今かと待ちわびている。だが、表情を引き締める孫権とは対称に、一刀の方は随分と落ち着いている。余裕の表れか、それとも……。

 

 

 

「それではこれより、『チーム劉備』所属・北郷一刀と『チーム孫策』所属・孫権による決闘疾走(ライディングデュエル)を開始します!」

 

 デュエル開始を告げる兵士が旗を上空へ掲げる。すると、観客席を埋め尽くす観衆の声が一瞬にして静まり返る。聞こえるのは、風と衣擦れの音のみ。

 人々の声が止んだことを兵士は確認し、秒読み(カウントダウン)を開始する。

 

 10……9……8……

 

 孫権が表情と手綱をより強く引き締める。

 

 7……6……5……

 

 太陽の光を浴びた一刀の衣服が、光り輝く。

 

 4……3……2……

 

 両者が同時に(あぶみ)を踏みしめ、身体を傾ける。

 

 1……

 

 どこからか、誰かが息を呑む音が聞こえ、

 

 ……0!

 

「デュエル開始ィ!!」

 

 旗が振り下ろされ、両者は一斉に飛び出す!

 

「「決闘疾走(ライディングデュエル)、アクセラレーション!!」」

 

 

 

 

 ――第1コーナーを制した者が先攻を取得する。

 

 狙おうと鍛錬すれば必ず先攻を取得できるこの方法は、かつて(・・・)先攻が有利と言われていたデュエルモンスターズにおいて魅力的なものであった。

 だが、ある日突然ルールが変更されたことでそれは変わった。

 

 ――先攻の最初のターンは、通常のドローが行えない。

 

 これにより、無作為または宣言した方が先攻を取得する通常のデュエルと違い、決闘疾走(ライディングデュエル)では先攻と後攻のどちらを選ぶかという駆け引きが生まれた。

 

 ――カード1枚分の有利(アドバンテージ)を捨て、全速力でDホースを駆って相手を待ち構えるか。

 

 ――手札6枚と攻撃権により、相手を攻め立てるためにわざと(・・・)先攻を譲り渡すか。

 

 一刀と孫権。2人が選ぶのは――

 

 

 

「先攻は俺がもらう!」

「いいだろう、貴様が私の攻撃をどのようにして受け止めるか、見せてもらおう!」

 

 どうやら一刀は先攻を、孫権は後攻を狙っていたようだ。お互いの目的が分かれていたため、Dホースは競り合うことなく一定の速さを保ち一刀が先に第1コーナーを曲がりきった。

 孫権があっさりと先攻を譲ったということは、彼女は序盤から積極的に攻め立てるデッキを使うのか。一刀はそのように推測する。

 

「魔法発動、《調和の宝札》! 手札の攻撃力1000以下のドラゴン族チューナー1体を墓地に送ることで、カードを2枚ドローする! 俺は攻撃力1000の《Galaxy Serpent》をコストにして、カードを2枚ドローっ!」

 

 乗馬しながらのデュエルという不安定さを物ともせず、一刀は華麗にカードを操る。その姿は、長年も決闘疾走(ライディングデュエル)をやってきたかのような感覚を抱かせる。

 

「続いて、魔法カード《黙する死者》を発動! 墓地の通常モンスター、《Galaxy Serpent》を守備表示で特殊召喚! そして、《スター・ブライト・ドラゴン》を召喚! このカードが召喚に成功した時、自身以外のフィールド上のモンスター1体のレベルを2つ上げることができる! これにより、《Galaxy Serpent》のレベルを2から4にする!」

 

 一刀は、そのまま流れるように2体のドラゴン族モンスターを呼び出す。銀河の蛇と光り輝く龍が、辺りを眩しく照らしていく。

 

「レベル4のモンスターが2体……いや、合計レベル8。1ターン目から来るか……!」

「最初から全力で行かせてもらうぜ! 俺は、レベル4の《スター・ブライト・ドラゴン》に、レベル4の《Galaxy Serpent》をチューニング!」

 

 4つの光の輪へと姿を変えた《Galaxy Serpent》を、一直線上並ぶ4つの球体となった《スター・ブライト・ドラゴン》がくぐり抜けていく。

 

「星海を切り裂く一筋の閃光よ! 魂を震わし世界に轟け! シンクロ召喚! 《閃珖竜 スターダスト》!!」

 

 星屑(スターダスト)の名の通りの輝きを持つ龍が光臨し、翼を大きく広げる。その度に白銀の光がフィールドへと降り注いでいく。攻撃力は2500と、並の上級モンスターよりも少し高い程度。レベル8のシンクロモンスターとしては少々低めの数値だが、見る者を魅了するその輝きの前では些細な問題だ。

 

「俺はカードを2枚伏せてターン終了だ。さあ来い、仲謀さん!」

 

 叩きつけるように2枚のカードをデュエルディスクへと挿入し、一刀はターンを明け渡す。

 1ターン目から召喚されたエースモンスターに対して孫権はどのような戦略を見せてくれるのか、一刀の心は躍っていた。

 

「その余裕、すぐに叩き折る! 私のターンっ!」

 

 風の如き流れる一刀のドローとは反対に、孫権のそれを例えるならば、烈火。炎の如き勢いでカードをドローした彼女は、引き当てたカードをそのままデュエルディスクへと挿入する。

 

「魔法カード《E-エマージェンシーコール》を発動! デッキから「E・HERO」を1体手札に加える。私が手札に加えるのは、《E・HEROエアーマン》!

 私は、手札に加えたエアーマンをそのまま召喚して、効果発動! このカードが場に出た時、デッキから「HERO」モンスター《E・HEROキャプテン・ゴールド》を手札に加える!

 そして、キャプテン・ゴールドを手札から墓地に送ることで、デッキからフィールド魔法《摩天楼-スカイスクレイパー-》を手札に加える!」

 

 一気に3枚分のデッキ圧縮。次々とカードを入れ替えていく孫権だが、彼女自身もDホースも走る速度が緩まることはない。これだけのカード捌きをしても速度を保ち続けているということは、孫権が一流の決闘疾走者(ライディングデュエリスト)であることを示している。

 

「流石は『チーム孫策』の決闘者ってところか」

「この程度で驚いてもらっては困るな。キャプテン・ゴールドの効果で手札に加えたフィールド魔法、《摩天楼-スカイスクレイパー-》を発動!」

 

 孫権がフィールド魔法ゾーンにカードを設置すると、訓練場内に超高層建築物が乱立していく。その大きさと数に太陽の光が遮られ、辺りは薄暗くなってしまう。実体が存在しない仮想立体映像(バーチャルソリッドビジョン)であるためぶつかることはないのだが、突如現れた見慣れぬ建築物を前に、一刀のDホースが僅かに減速してしまう。

 

「フィールド魔法で俺のDホースをビビらせるなんて、随分とセコい真似してくれるじゃないか」

「何を言う、フィールド魔法の発動で萎縮する貴様のDホースが臆病すぎるだけではないか。

 バトルに移らせてもらおう。行け、エアーマン! スターダストを攻撃しろ!」

「何!? 攻撃力1800のエアーマンで、攻撃力2500のスターダストに攻撃だと!?」

 

 風の戦士が摩天楼を自在に駆け抜け、《閃珖竜 スターダスト》へ肉薄する。だが、一刀の言う通り攻撃力はスターダストの方が高い。このままではエアーマンが返り討ちにあってしまう。

 

「スカイスクレイパーが存在する限り、「E・HERO」がモンスターに攻撃する時、攻撃モンスターの攻撃力が攻撃対象のモンスターよりも低い場合、攻撃モンスターの攻撃力はダメージ計算時のみ1000アップする。つまりエアーマンの攻撃力は2800へと上昇し、スターダストを倒せるようになる!」

 

 「E・HERO」にとって最高の舞台といえる摩天楼。そこで戦うのなら、ヒーローが負けることなどありえない。

 敵のエースをあっさりと倒すことができるという喜びに、孫権の表情が緩む。だが――

 

「だったら俺は、《閃珖竜 スターダスト》のモンスター効果を発動する! 1ターンに1度、フィールド上のカード1枚の破壊を1度だけ無効にする。俺はスターダスト自身を選択して、戦闘破壊を無効にする!

 波動音壁(ソニックバリア)!!」

 

 スターダストを球体の障壁が包み込み、破壊による衝撃から守る。レベル8シンクロモンスターにしては低い攻撃力であっても、この破壊耐性によって《閃珖竜 スターダスト》は場持ちが良いモンスターであるのだ。

 

「だが、破壊はできずともダメージは受けて貰うぞ!」

 

 それでも、戦闘ダメージを防ぐことはできない。スターダストの攻撃力2500と、スカイスクレイパーにより上昇したエアーマンの攻撃力2800。つまり、300ポイントのダメージが一刀を襲う。

 

 一刀 LP8000 → LP7700

 

「くぅっ……! なんてフィールだ……!」

 

 300ポイントという戦闘ダメージは、それ程高い数値ではない。だが、彼とその愛馬を襲う衝撃はその10倍はあるのではないかと思われた。お互い、通常のデュエルよりも衝撃を体感しやすい決闘疾走(ライディングデュエル)に耐えるために訓練を積み重ねてきた。

 だというのに、この攻撃だけで身体を激しく揺さぶられ、危うく落馬するところであった。それだけ孫権が放つフィールが高いということだろう。一刀は改めて《孫家の姫》の強さを実感させられた。

 

「中々のフィールだったが、これで攻撃は――」

 

 ――終了だ。

 

 そう続けようとした一刀であったが、その言葉は途中で止まってしまう。なぜなら、スターダストへと新たなモンスターが攻撃を開始しようとしていたのだから。

 

「なんだ、こいつは……!?」

 

 純白のマントと、若草色の身体。風属性を思わせる風貌だが、このモンスターはいつ現れたのか。そもそも、攻撃を行っていたはずのエアーマンはどこに消えたというのか。

 そんな一刀の疑問に、孫権が答える。

 

「私は、速攻魔法《マスク・チェンジ》を発動した。

 このカードは自分フィールドの「HERO」を墓地に送ることで、エクストラデッキの同じ属性の「M・HERO」に変身させる。

 これにより、攻撃を終えたエアーマンを風属性の《M・HEROカミカゼ》へと変身させたのだ」

「変身……だって?」

 

 元来、「E・HERO」というカテゴリのモンスターは融合召喚を中心とした戦術を行うはず。変身……ましてや《マスク・チェンジ》という名のカードすら初耳だった。

 

「カミカゼが相手モンスターを破壊した時、カードを1枚ドローできる。効果を使用した以上、貴様のスターダストは効果を発動できない。

 さあ行け、カミカゼ! スターダストを撃ち抜け!」

 

 カミカゼの右手に風が集う。そこから打ち出される空気弾によって、《閃珖竜 スターダスト》を撃ち抜くのであろう。

 カミカゼの攻撃力は2700。発生するダメージは200ポイントだが、今度は破壊を防げない以上、このままでは戦闘による破壊とダメージの衝撃が一刀を襲うだろう。

 

「スターダストを倒されるわけにはいかない! 永続罠《ディメンション・ゲート》を発動! このカードは、自分フィールドのモンスター1体を除外する! 俺はこの効果でスターダストを除外する。これで俺のフィールドにモンスターはいなくなった。さあ、どうする?」

「ならば、カミカゼの攻撃を直接攻撃へと変更。確か《ディメンション・ゲート》は、相手モンスターの直接攻撃宣言時に墓地に送ることで除外したモンスターを特殊召喚する効果があったはずだ。なるほど、これで再びスターダストを呼び出して攻撃を防ぐということか」

 

 《閃珖竜 スターダスト》が破壊無効効果を発動できるのは、1ターンに1度。しかし1度フィールドを離れればその制約から解放される。

 《ディメンション・ゲート》の効果で除外して再びフィールドに呼び戻せばもう1度破壊を無効にし、カミカゼの効果の発動を封じることができる。

 

「いいや! 俺は《ディメンション・ゲート》の効果を使わない!」

「な、なんだと!?」

 

 だが、一刀はその効果を使わない。無防備となった状態で放たれた空気弾。その一撃が、容赦なく彼の身体を貫いた。

 

「ぐあああああ!?」

 

 一刀 LP7700 → LP5000

 

 先程の9倍、しかも直接攻撃による衝撃に一刀の意識が飛びそうになる。

 また、決闘者が受けた衝撃はDホースにもそのまま伝わる。足がふらつき、速度は大きく落ちる。疾走中の2頭のうち、どちらかが速度を落とせばとうなるか。孫権の前を走っていた一刀は、瞬く間に追いつかれてしまう。

 

「……私はカードを3枚伏せてターンを終了する。さあ、貴様のターンだ」

 

 腑に落ちない。そう言わんばかりの孫権だが、一刀はそんな彼女の感情を物ともしない。

 

「変身召喚……「HERO」デッキの新しい戦い方か。面白くなってきたぜ! 俺のターンっ!」

 

 大ダメージを受けたにも関わらず、彼の顔からは苦悶の表情は完全に消え去っていた。それどころかこの状況を楽しんでいる。それは彼の愛馬も同じであり、まだまだ走り足りないと言わんばかりだ。孫権には彼等が不思議でならなかった。

 そして、不思議に思ったことはそれだけではない。

 

「何故だ、北郷一刀」

「? 何故って、何がだ?」

 

 決闘疾走(ライディングデュエル)を嗜む決闘者は、聴力が非常に発達しているという。孫権が漏らした小さな呟きは一刀の耳にしっかりと入った。

 

「何故、《ディメンション・ゲート》の効果を発動しなかった! 自分から大ダメージを受けに行くなど、正気の沙汰ではない!」

 

 通常よりも激しい衝撃を受ける決闘疾走(ライディングデュエル)。数多くの決闘者はそんな衝撃をなるべく受けないようにと、日々肉体を鍛え、如何にダメージを防ぐかという研究に余念がない。孫権もそんな決闘者の1人だ。だからこそ、わざと大ダメージを受けた一刀の行動が理解できない。

 

「確かに、自分から大ダメージを受けに行くのは普通に考えれば愚かかもしれないな。だけど、《ディメンション・ゲート》の2つ目の効果を使ってしまったら、このカードが発動できなくなってしまう。だから発動しなかったんだ」

「……なんだと?」

 

 対して、一刀は孫権の怒りを抑えるためか諭すように告げる。孫権が振り返ると、彼が1枚のカードをデュエルディスクへと挿入するところだった。

 

「俺は永続罠である《ディメンション・ゲート》を墓地に送ることで、魔法カード《マジック・プランター》を発動する!」

「ま、《マジック・プランター》だと!?」

 

 ――《マジック・プランター》

 

 自分フィールドの永続罠を墓地に送ることでカードを2枚ドローするカード。永続罠をコストにする必要があるためドローできるまでにやや時間がかかるが、貴重なドローソースとして複数の決闘者に愛用されている。

 その効果により、一刀の手には2枚のカードが新たに加わる。そして――

 

「《ディメンション・ゲート》が墓地に送られた場合(・・)、このカードの効果で除外したモンスターを特殊召喚できる。これは「場合の任意効果」であるため、タイミングを逃さない!

 戻って来い、《閃珖竜 スターダスト》!!」

「ライフポイントを犠牲にした手札補充……、だが残念だったな。私のカミカゼは戦闘によって破壊されず、相手の攻撃回数を1度のみにする効果がある。そいつ1体では何も出来ない!」

 

 カミカゼが持つ更なる効果。攻守共に強力な効果を併せ持つモンスター効果に、デュエルを観戦する『チーム劉備』の面々がざわつく。いや、そもそも攻撃力2500の《閃珖竜 スターダスト》では攻撃力2700の《M・HEROカミカゼ》と戦闘を行っても一刀がダメージを負うだけ。このままではスターダストは『1度だけの耐性を持つ壁モンスター』にしかならない。

 だが――

 

「いいや、出来るさ。俺は魔法カード《精神同調波》を発動する!」

「っ! その、カードは!」

 

 ドラゴンシンクロ使い、北郷一刀はそれをあっさりと否定する。

 

「こいつは、俺のフィールドにシンクロモンスターが存在する場合、相手モンスター1体を破壊する!

 戦闘で破壊できないなら、効果で破壊すればいい! 行け、スターダスト! 流星閃撃波(シューティング・ブラスト・ウェーブ)!!」

 

 《閃珖竜 スターダスト》の口腔より放たれた音速の一撃が、風を斬り裂き、摩天楼の窓ガラスを粉々にしながらカミカゼへと殺到する。如何に風を操る戦士であろうと、音速には及ばないのか。為す術もなく破壊されてしまう。

 

「これで君のフィールドからモンスターは消えた! このまま攻めさせてもらうぞ! スターダストで直接攻撃(ダイレクトアタック)!」

 

 《閃珖竜 スターダスト》が、更なる一撃を放たんとビル群を見下ろし、充填を開始する。これが決まれば孫権の残りライフは5500となり、ライフ差は500へ――

 

「させるか! スターダストの攻撃宣言時、私は罠カード《ヒーロー見参》を発動! 貴様は私の手札1枚を無作為(ランダム)に選び、それがモンスターだった場合、私のフィールドに特殊召喚する! 今の私の手札は1枚のみ。よって、このモンスターをそのまま守備表示で特殊召喚させてもらう。来い、《聖鳥クレイン》!」

 

 どうやらそう簡単にはダメージを与えられないようだ。聖なる鶴が、孫権を守るように立ちはだかる。

 

「《聖鳥クレイン》が特殊召喚に成功した時、私はカードを1枚ドローする!」

「だったら、俺はスターダストの攻撃対象をクレインに変更する!」

 

 《聖鳥クレイン》の守備力は僅か400。ダメージを受けないとはいえ、薄紙のような防御ではあっさりと倒れてしまうだろう。

 

「破壊などさせん! 私はクレインの効果で手札に加えたカードを捨てて、速攻魔法《マスク・チェンジ・セカンド》を発動!」

「新たな《マスク・チェンジ》だと!? だが、今フィールドにいるのはクレインのみ! 「HERO」なんてどこにもいないじゃないか!」

「いる必要はない。《マスク・チェンジ・セカンド》は、手札コストが必要な代わりに対象モンスターよりレベルの高い同属性の「M・HERO」を変身召喚する。そして、対象モンスターに制限はない!

 さあクレインよ! 今こそ力を解き放ち、眩き戦士へと姿を変えよ! 変身召喚、《M・HERO光牙》!!」

 

 人口の光が包む摩天楼。だが、それを掻き消すかのような猛々しい光が辺り一帯を支配する。光の竜である《閃珖竜 スターダスト》でさえも光に目が眩むほどだ。

 

「モンスターエクシーズ以外のモンスターを変身可能な《マスク・チェンジ》……。だが、そいつの攻撃力は2500。スターダストと攻撃力が同じなら、こいつの効果で光牙だけを破壊して――」

「いいや、光牙は相手フィールド上のモンスター1体につき、攻撃力を500ポイント上昇させる。よって、今の攻撃力は3000だ」

 

 新たな「M・HERO」、両手に鋭い刃を携えた戦士が光の竜の前に立ちはだかる。攻撃力の差は僅か500。だが、その僅かな数値が高い壁となるのである。

 

「くっ! スターダストの攻撃は中止。……カードを2枚伏せて、ターンを終了する」

「ならば私のターン、ドロー! 私は魔法カード《テイク・オーバー5》を発動! デッキの上からカードを5枚墓地に送る!」

 

 引き当てたカードをそのまま発動する孫権。たった1枚で5枚もデッキ圧縮を行えるこのカードは、「No.」程ではないが非常に珍しく高価なカードとして有名だ。

 孫権はデッキトップの5枚を豪快に掴み取り墓地へと叩き込み、笑みを浮かべる。

 

「墓地に送られた《リバイバルゴーレム》の効果を発動! このカードが墓地に送られた時、このカードを墓地から手札に加えるか特殊召喚する。私は、特殊召喚する効果を選択する!」

 

 人工物溢れる摩天楼が立ち並ぶ地面の下から、岩石巨人が現れる。攻撃力はたったの100だが、守備力は2100。どこから墓地に送られても現れることから、壁としては十分な性能と言えるだろう。

 

「続いて、墓地の魔法カード《神剣-フェニックスブレード》の効果発動だ。墓地の戦士族モンスター、《E・HEROエアーマン》と《M・HEROカミカゼ》をゲームから除外することで、このカードを手札に戻す」

 

 《神剣-フェニックスブレード》は、戦士族モンスターの攻撃力を300ポイント上昇させる装備魔法。上昇値が低い点では少々残念だが、今孫権が行ったように、他のカードを用いずに手札に回収できる効果は、手札コストとして最適だ。

 

「墓地で真価を発揮するカードを同時に墓地に送るなんて、流石にいい運命力を持っているな……!」

「ふん、感心している暇は与えないぞ。バトルだ、私は光牙でスターダストを攻撃!」

 

 光の牙の名の通り、神風を超える速度でスターダストへと肉薄する光牙。《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》に匹敵する力を持つ刃が襲いかかる。

 2体のモンスターの攻撃力の差は500。それ程大きなダメージは発生せず、スターダストが破壊耐性を持つ以上、被害は小さい。一刀はそう考えるが――

 

「この瞬間、《M・HERO光牙》のもう1つの効果発動! 墓地の「HERO」を除外することで、相手モンスター1体の攻撃力を、除外したモンスターの攻撃力分下げる! 私が除外するモンスターは、《E・HEROキャプテン・ゴールド》だ!!」

「なっ……!」

 

 キャプテン・ゴールドの魂で形成された鎖が、スターダストを縛る。除外したキャプテン・ゴールドの攻撃力は2100。つまり、スターダストの攻撃力は400ポイントまで急激に低下する。これでは、並の下級モンスターにも打ち倒されてしまう。

 スターダストは破壊耐性を持つため、この戦闘で破壊することはできない。だが、それでもダメージは通る。

 身動きが取れなくなったスターダストを、光牙の刃が貫く。そして――

 

 

 

 

「これで兄上のライフは残り2400。このままでは……!」

 

 一刀と孫権のデュエルは、数多くの者が観戦している。それは、『チーム孫策』から『チーム劉備』へと移籍した決闘者(デュエリスト)である周泰も同じ。

 彼女は、かつての仲間と現在の仲間が自分のために戦っていることから、どちらを応援すべきか悩んでいた。だが、これほどまでにライフポイントに差がついた現状を見せられては、一刀を心配せずにはいられなかった。

 

「心配はいらないよ、明命ちゃん」

「桃香様……?」

 

 そんな彼女を諭すのは、『チーム劉備』のリーダーである決闘者、劉備。彼女は以外にも、一刀を心配するような様子はあまり見られなかった。既にライフポイントが3分の1以下となった一刀と、未だ無傷の孫権。一刀を心配するのは当たり前のことではないだろうか。

 

「明命ちゃんの気持ちは、私にも覚えがある。かつてそうだったから」

「今は、違うのですか?」

「うん。だって、私はご主人様の勝利を信じているから」

 

 そう言った劉備の瞳からは、迷いは全く感じられない。本当に、一刀の勝利を心の底から信じきっている。

 

「しかし、蓮華様の場には《M・HERO光牙》がいます。あのモンスターは、相手モンスターと戦闘を行う時は攻撃力が3000以上になるだけでなく、相手モンスターの攻撃力を下げることができる。つまり、戦闘では無類の強さを誇ります。

 次の兄上のターン、スターダストを守備表示にしたとしても貫通能力を付与するカードを使われでもしたら、兄上は……!」

 

 周泰の言う通り、《M・HERO光牙》は戦闘でほぼ確実に相手モンスターの攻撃力を上回る。普通に考えれば、突破は困難なのである。

 

「大丈夫。ほら、コースをよく見てみて」

「コースを? …………あっ!」

 

 劉備が指し示す先へと、周泰も視線を向ける。すると、そこには信じられない光景が広がっていた。

 

 

 

 

「バカな……! 何故、光牙が破壊されている(・・・・・・・・・・)!?」

 

 モンスター同士の戦闘によって巻き起こった爆発。《閃珖竜 スターダスト》の破壊耐性により、どちらのモンスターもフィールドに残っているはずだというのに、光牙がフィールド上から姿を消し、スターダストのみが摩天楼の上空を飛行していた。

 攻撃が無効となった? いいや、そのようなことはない。

 

 一刀 LP2400

 

 確かに、一刀のライフは2600ポイント減少している。つまり攻撃が通ったのだ。ならば、何故破壊されないのか。

 

「俺は光牙が攻撃して来た瞬間、永続罠《革命-トリック・バトル》を発動していたのさ」

「トリック・バトル、だと?」

「このカードは、攻撃表示同士のモンスターが戦闘を行う時、戦闘ダメージはそのままで、攻撃力が高い方が破壊される。

 これにより、俺は2600の戦闘ダメージを受けたが、光牙を破壊することができたってわけだ」

 

 デュエルモンスターズには、戦闘ダメージを相手に跳ね返すカードが何枚か存在する。基本的にはこうしたモンスターとの組み合わせ(コンボ)で使われる《革命-トリック・バトル》を採用している一刀の考えを、孫権は疑問に思う。

 相手の攻撃モンスターを除去したいのなら《聖なるバリア-ミラーフォース-》や《次元幽閉》といった罠を使って除去すればいいはずだ。トリック・バトルのようなカードを使ってしまえば――

 

「ならば、私は罠カード《ヒーロー・シグナル》を発動する!

 このカードは、自分フィールドのモンスターが戦闘によって破壊された時、デッキからレベル4以下の「E・HERO」を特殊召喚する。私は、レベル4の《E・HEROシャドー・ミスト》を攻撃表示で特殊召喚!」

 

 このように、戦闘破壊に反応するカードの発動を許してしまうのだ。

 

「シャドー・ミストの効果発動! このカードが特殊召喚に成功した時、デッキから「チェンジ」と名の付いた速攻魔法カードを手札に加える!

 私は、2枚目の《マスク・チェンジ・セカンド》を手札に加えて、そのまま発動だ。手札から《神剣-フェニックスブレード》を捨てて、地属性の《リバイバルゴーレム》を《M・HEROダイアン》へと変身させる!!」

 

 風属性、光属性の「M・HERO」に続いて現れた3体目のモンスターは、蒼いマントを揺らし、銀の鎧と刺突剣を装備した地属性の戦士。

 硬そうな装甲と剣を表すように、攻守はそれぞれ2800と3000。戦闘において非常に頼りになる能力値(ステータス)だ。

 

「ダイアンとスターダストの攻撃力の差は2400! この攻撃で終わりだ!」

 

 一刀が発動している永続罠《革命-トリック・バトル》の効果により、ダイアンとスターダストが戦闘を行えば、一刀がダメージを受け、ダイアンが破壊される。だが、孫権の言う通り2体の攻撃力の差が一刀のライフポイントと同じである以上この攻撃が通れば一刀の敗北が確定してしまう。

 

「確かに、この攻撃がまともに通れば俺の負けだ。だが、俺はこのカードに賭ける! ダイアンの攻撃前に、ライフを1000支払うことで罠カード《活路への希望》を発動!」

 

 一刀 LP2400 → LP1400

 

「このカードは、俺のライフが相手よりも1000ポイント以上少ない時、ライフを1000支払うことで発動する。そして、ライフの差2000ポイントにつき1枚、俺はカードをドローする。

 現在の俺のライフは1400。対する君は無傷の8000。ライフの差は6600、つまり俺は3枚のカードをドローできる!」

 

 肉を斬らせて骨を断つとは、まさにこのことだろう。自分達の身を傷付けてまで引き当てた3枚のカード。孫権の攻撃を凌ぐには、この中に活路を切り開く希望(カード)が無ければならない。

 

「なるほど、ミラーフォースなどのカードを使わずトリック・バトルを使用したのは、この状況を作り出すためだということか。

 だが、3枚のカードを引き当てたところでこの攻撃を防ぐことなど出来るものか! ダイアンよ、奴にトドメを!」

 

 カミカゼや光牙と異なり、飛行能力を持たないためか、ダイアンは摩天楼の壁を蹴りながら上昇していく。

 《閃珖竜 スターダスト》は光属性。この戦闘を乗り切る方法としてまず思いつくのは、《オネスト》というモンスターの効果だ。

 《オネスト》は、ダメージステップ開始時に手札から墓地に送ることで、光属性モンスターの攻撃力をバトルする相手モンスターの攻撃力分上昇させるモンスターカード。これでダイアンの攻撃力を上回り、かつスターダストの効果を発動すれば孫権に400ポイントのダメージを与えた上で、どちらのモンスターも破壊されない。だが、一刀がスターダストの効果を発動する気配は感じられない。

 

(勝った……!)

 

 己の勝利を確信し、孫権の口元が緩む――

 

「ダイアンの攻撃宣言時、俺は手札から《工作列車シグナル・レッド》のモンスター効果を発動する!」

「何っ!?」

 

 だが、突如ダイアンとスターダストの間に大蛇の如き真紅の車両が割り込み、攻撃を受け止める。意外なモンスターの登場に、孫権は驚きを隠せなかった。

 

「シグナル・レッドは、相手モンスターの攻撃宣言時に自身を特殊召喚して、そのモンスターとシグナル・レッドでダメージ計算を行う。そして、その戦闘でこいつは破壊されない」

「くっ! それでは……!」

「そうだ。俺はシグナル・レッドを守備表示で召喚した。貫通能力を持たない限り、守備表示モンスターの守備力を攻撃表示モンスターの攻撃力が上回っても、ダメージは発生しない。よって、ダイアンの攻撃は無意味に終わる。

 更に、シグナル・レッドとシャドー・ミストの攻撃力はどちらも1000ポイント。スカイスクレイパーの効果は適用されない!」

 

 なんという強運だろうか。孫権はそう思わずにはいられなかった。

 あと一撃。それだけで全てが終わったというのに、偶然引き当てたカードに防がれてしまうとは。姉の孫策も類稀なる強運を持っているが、彼の土壇場での引きはそれに匹敵するのではないか。

 

「私はこれで、ターンエンドだ……」

 

 いや、例えそうだとしても関係ない。このデュエルで北郷一刀を倒し、チームメイトを奪い取った報いを受けさせる。それが今の自分に課せられた使命なのだから。

 

「俺のターン、ドローっ!! さあ、そろそろ反撃といこうか!」

 

 残りライフは既に初期の2割以下である1400。相手のライフが全く減っていない状態でここまで追い詰められれば、普通の決闘者は心が折れ、Dホースも失速していくはずである。

 だが、北郷一刀は違った。むしろデュエルを始める前よりも生き生きとしていて、まるでこのデュエルを楽しんでいるようではないか。いや、彼だけではない。Dホースもより高く嘶き、速度を上げていく。

 

「魔法カード《武闘円舞(バトルワルツ)》を発動! このカードは、自分フィールドのシンクロモンスターの効果以外を模倣(コピー)した「ワルツトークン」1体を特殊召喚する!」

 

 《閃珖竜 スターダスト》と全く同じ姿を持つトークン。レベルや攻守が低いことが多いトークンだが、この「ワルツトークン」は《閃珖竜 スターダスト》の映し身であるため、レベル8・攻撃力2500という強力なモンスターとなった。

 

「続いて《カードガンナー》を召喚し、デッキの上からカードを3枚墓地に送って効果発動! 墓地に送ったカード1枚につき、ターン終了時まで攻撃力を500ポイントアップする。こいつの元々の攻撃力は400。よって、攻撃力は1900になる!」

 

 必死にDホースと並走する小さな絡繰だが、デッキ圧縮に加えて高めの攻撃力を出すことができるのだからその能力は中々のもの。

 

「最後にシグナル・レッドを攻撃表示に変更して、バトルフェイズに移る! まずはシグナル・レッドで《E・HEROシャドー・ミスト》を攻撃! 2体のモンスターの攻撃力は同じ。よって、《革命-トリック・バトル》の効果を受けず両方のモンスターが破壊される!」

 

 大きめの質量を持つ機械だが、攻撃力はそれ程高くない。対抗するシャドー・ミストは、自らの拳をシグナル・レッドへと叩き込み、両者は共に爆発四散する。

 通常の戦闘では攻撃力が低いモンスターが破壊され、《革命-トリック・バトル》が発動されている今はその逆。しかし、攻撃力が同じであるならばどちらにも当てはまらないため、相打ちとなったのである。

 

「くっ! だが、シャドー・ミストのもう1つの効果発動! このカードが墓地に送られた時、デッキからシャドー・ミスト以外の「HERO」を手札に加える! 私が選ぶカードは《E・HEROブレイズマン》だ!」

「「チェンジ」カードと「HERO」、2種類のカードを手札に呼び込むモンスターだなんて、流石だな。だが、今度はこっちが驚かせる番だ! 「ワルツトークン」で《M・HEROダイアン》を攻撃!」

 

 「ワルツトークン」が《M・HEROダイアン》へと特攻する。本来は無謀な行動だが――

 

「何をするかと思えば、今度はダメージ覚悟の破壊狙いか……!」

「いいや! 「ワルツトークン」の戦闘によって発生するお互いのプレイヤーへの戦闘ダメージは0になる! つまり《革命-トリック・バトル》の効果と合わせて、ダメージを受けずにダイアンを破壊できるのさ!」

 

 《革命-トリック・バトル》の効果によりダイアンが破壊され、孫権の場はがら空きとなる。トークンと罠カードの効果を組み合わせ、戦闘ダメージという損失を負わずに相手モンスターを除去する今の状況は、まさしく革命と言っても過言ではないだろう。

 

「そして、もう説明の必要は無いだろうが《革命-トリック・バトル》の効果が適用されるのは、攻撃表示モンスター同士の戦闘のみ。直接攻撃ならば相手プレイヤーに戦闘ダメージを与えるのみ。まずは《カードガンナー》で仲謀さんに直接攻撃だ!」

 

 《カードガンナー》が両腕の砲身から光線を打ち出し、孫権へと直撃する。初期ライフの約4分の1に匹敵するダメージを直接受ける孫権だが、そこは『チーム孫策』の決闘者だからか。若干ふらついただけで彼女のDホースも速度を落とさない。

 

 孫権 LP8000→LP6100

 

「やっぱこの程度じゃビクともしないか。なら、次はどうかな。《閃珖竜 スターダスト》で直接攻撃! 流星閃撃(シューティング・ブラスト)!!」

「ぐっ! このフィールは……!」

 

 続いて、《閃珖竜 スターダスト》の口から衝撃波が撃ち出される。一刀のエースモンスターの一角が放つ渾身の一撃。気分が高揚している一刀のフィールが重なっていることもあり、発生する衝撃はかなりのもの。

 

 孫権 LP6100 → LP3600

 

 身体を大きく揺らし、速度を落とした孫権とDホース。一刀はそんな隙を見逃さず、ついに彼女を追い抜いた。

 

「そんな、バカな……」

 

 決闘疾走では、Dホースで『「追う者」と「追われる者」』を表現すると言われている。つまり、決闘疾走で相手を追い抜くということは、デュエル中の優劣が逆転したことを意味するのである。

 

「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

 あと一歩のところまで追い詰めた状況での優劣逆転。それは、孫権の心に大きな傷を与えるのに十分であった。

 




Q.蓮華の頭のアレは、決闘疾走(ライディングデュエル)の時もつけているの?
A.もちろん装備しています。

 切り方が微妙な気もしますが、文字数的にはちょうど良かったので残りは後ほど投稿します。
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