遊☆戯☆王 Love†Princess   作:レモンジュース

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 番外編第2回。本作品で言わせたかったセリフがようやく書けました。
 本日フラゲで判明したばかりのカードも出ます。



決闘恋姫の日常② ちょっとイケてる月ちゃん / オイオイこれじゃ……

●ちょっとイケてる月ちゃん

 

 

 

 多くの人間が行き交う街の中を、丈の短いメイド服を着た少女が歩く。『チーム劉備』に所属する侍女、賈駆である。彼女は今夜の夕食に使う材料が入った袋を両手に抱えて歩きながら、目の前の光景を見つめていた。

 

「…………またか」

 

 メガネメイド少女の眼前で大男と少女が対峙している。前者は頭に黄色い布を巻きつけており、随分と前に暴れていた『チーム黄巾賊』の残党だということがわかる。上半身裸であるその男の腹筋は割れ、腕の筋肉も盛り上がっている。

 

 ――すげぇぞあのオッサン。あの筋肉、只者じゃねぇ。

 

 ――相手のお嬢ちゃんも可哀想に。

 

 

 

 少女と大男が対峙しているこの状況は、賈駆にとっての常識ならば止めるべきものだ。しかし、彼女の常識は少数意見に分類されてしまう。

 

 ――アンタら、さては最近この辺りにやってきただろう。心配されるのはむしろオッサンの方だぜ。

 

 ――はぁ? どういうことだよ。確かに俺達は昨日ここに着いたばかりだけどよ。あんな小さい女の子が勝つ姿なんて想像もできねぇぞ。

 

 ――だよな。それに、ヒラヒラの服に蝶の仮面。どう見ても怪しいだろ。

 

 ――昨日来たばかり、か。それなら知らないのも無理は無いな。だったら覚えておくといい。この大陸を守る7人の決闘者、その内の1人の名を。

 

 

 

 多くの観衆に囲まれる中。対峙する2人の内、仮面を付けた少女が口を開く。

 

「『チーム黄巾賊』の残党さん。悪いことは言いません。今すぐ盗んだカードをお店に返してください」

 

 自分より遥かに大きな男を目の前にしても、少女は怯まない。それどころか、相手を威圧するかのようだ。

 

「は! そいつは聞けねぇな! 俺はこのカードで警備兵(セキュリティ)に捕まった仲間を解放するんだからな。邪魔をするというのなら容赦しねぇぞ、クソガキ」

 

 大男の方も負けてはいない。『フンッ!』と声を上げながら筋肉を盛り上げ、少女から放たれるフィールを相殺する。

 

「……仕方ありませんね。ならば、私がデュエルで貴方を拘束してみせます!」

 

 

 

「なんでやねん」

 

 思わず知人と同じ口調で突っ込んでしまった。どうしてデュエルで拘束するのか。普通に拘束しなさいよ。

 

「上等ォ! テメェみたいなヒョロヒョロの小娘なんざ、完膚なきまでに叩き潰してやる!!」

 

 男の方も何故同意するのか。そんなに鍛えてあるなら力づくで逃げることくらい出来るでしょうに。いや、そんなことされても困るのだが。

 

「その言葉、そっくりそのままお返ししましょう。真の銀河眼(ギャラクシーアイズ)使い、月華蝶が操るドラゴンさん達が、貴方を倒します!」

 

「「デュエルディスク、セット!」」

 

 両者は手に持ったデュエルディスクを放り投げ、左手に装着する。そして、互いに5枚のカードをデッキから抜き放ち――

 

「「デュエル!!」」

 

 戦いは始まった。そんな様子をボンヤリと見ていた賈駆は、脇道に入って城へと戻ることにした。

 少女が仮面を装着し、デュエルで悪人を成敗するのはかなり前から行なわれていることなので、今更どうこうするつもりはない。どうせあっという間に終わらせてしまうのだろうから。無論、少女の勝利で。

 

「…………胃薬、残っているかしら」

 

 今日も帰ったら胃薬を飲もうと考えながら賈駆は歩き出した。

 

 

 

 

「先攻は俺が貰う! 俺は《深海王デビルシャーク》を召喚!」

 

 「シャーク」と名がついているが、鮫らしき特徴は全くないドクロ頭の魚モンスター。デュエルモンスターズにはこのようにカード名または種族と特徴が合っていないモンスターが数多く存在する。

 デビルシャークの攻撃力は1700。下級モンスターとしてはまずまずの数値だ。

 

「更に、カードを2枚伏せてターン終了だ! さぁ、テメェのターンだ!」

 

 唐突に変更されたルールによって、先攻は最初のターン、ドローフェイズに通常のドローが出来なくなった。これにより『相手より多くのカードを持つことが出来る』という特権が消滅した。だが、相手を待ち構えることが出来るという点では先攻が有利と言える。自分から先攻を取り、カードを2枚伏せたということは、そのカードに余程の自信があるということか。

 

「私のターン、ドローです」

 

 一方、月華蝶はゆったりとした動作でカードの剣を抜く。彼女はどんな時でも落ち着いて自分のデュエルをする。デッキの仲間を信じて戦えば、必ず思いに答えてくれる。そう教えてくれたご主人様(ひと)がいたから。

 

「……どうやら、このターンで終わりのようです」

「はぁ? 何言ってんだテメェ」

 

 モンスター、そして2枚の伏せカードがある状況下での1ターンキル宣言に、どよめきが起こる。

 『そのようなこと出来るはずがない』とバカにする者もいれば、『是非見せて欲しい』と期待する者もいる。

 1ターンキルを確信する程とは、少女はいったいどのようなカードを引き当てたというのだろうか。

 

「私は、《RUM(ランクアップマジック)七皇の剣(ザ・セブンス・ワン)》を発動します!」

「何!? ランクアップマジックだと!?」

 

 ――すげぇ! 後攻1ターン目から来やがった、セブンス・ワン!

 

 ――これなら月華蝶の勝利は決まったようなもんだ!

 

 赤い輝きを放ちながら発動された魔法カードを前に、観客達が熱狂する。この魔法カードは、月華蝶を含む極少ない決闘者しか持っていない超レアカード。そんな代物を早速見ることができたのだから、興奮するのも当然だろう。

 

「このカードは、エクストラデッキから101~107の数字を持つ「No.(ナンバーズ)」を特殊召喚します! 来てください、宇宙を貫く雄叫び! 《No.107 銀河眼の時空竜(ギャラクシーアイズ・タキオン・ドラゴン)》さん!!」

 

 光が弱まる中、月華蝶の目の前に赤と青の宝石が付いた黒い四角錐が出現する。光が完全に収まると、その四角錐は姿を変え、一体の竜が咆哮した。

 ランク8、攻撃力3000。そして「No.」の名を持つモンスターエクシーズ。誰が見ても強力なモンスターであることがわかる。

 

「ランク8のモンスターエクシーズを、魔法カード1枚で召喚した、だと……!?」

「驚くのは まだ 早いです。セブンス・ワンのもう1つの効果! タキオンさんをランクアップさせて、カオス化します! ランク8のタキオンさんでオーバーレイ・ネットワークを再構築! カオスエクシーズ・チェンジ!」

 

 だが、そんなモンスターエクシーズでさえ前座にすぎない。漆黒の竜は上空に渦巻く空間へと吸い込まれ、新たな力を得て現れる。

 

「逆巻く銀河を貫いて、時の生ずる前より蘇れ! 永遠を越える竜の星! 顕現して下さい、《CNo.(カオスナンバーズ)107 超銀河眼の(ネオ・ギャラクシーアイズ・)時空龍(タキオン・ドラゴン)》さん!」

 

 金色に輝く三つ首の龍。デュエルモンスターズの中でも最高位に近い4500もの攻撃力を持つその力を前にして、男は驚愕で目を見開いた。手札1枚でランク9の大型モンスターを呼び出すなど、インチキにも程がある。

 

「くっ……! だが、俺は罠カード《激流葬》を発動する! モンスターが場に出た時、フィールド上の全モンスターを破壊する! そして俺のフィールドに存在するデビルシャークは、対象を取らないカード効果で破壊されることはない! つまり、破壊されるのはそのデカブツだけだ!」

 

 なるほど。どれだけ高い攻撃力を持っていようと、カード効果で除去してしまえば問題は無い。加えて、自身のモンスターを巻き込まないようにしている辺り、彼の戦略はそれなりにあることが伺える。

 

「激流に飲み込まれ、消えろ! 「CNo.」!!」

 

 デビルシャークを素通りし、高波がネオ・タキオンへと迫る。「CNo.」を倒せるという歓びに男の顔は歪み――

 

「なん……だと……?」

 

 

 

 高波が突如静止した(・・・・)瞬間、歓びから一転、驚愕へと変化した。

 

 

 

「一体何が起こっている! デュエルディスクの故障か!?」

 

 男は慌てて自身のデュエルディスクへと目を落とす。だが、『故障』という表示は一切なく、問題なく作動していた。

 いや、ただ1つ変化があった。それは、少女の魔法・罠ゾーンに置かれた1枚のカード。それは――

 

「私は、手札から(・・・・)カウンター罠、《タキオン・トランスミグレイション》を発動していました。これにより、同一チェーン上に発動されていた貴方のカード効果を無効にし、デッキに戻させていただきます」

「バカな、手札からカウンター罠を発動するだと!?」

 

 罠カードは、伏せた次のターン以降にしか発動できない。そのはずであるのに、手札から直接発動されたという事実に、月華蝶を除く全ての者が驚いていた。

 

「このカウンター罠は、自分フィールドに「ギャラクシーアイズ」と名の付いたモンスターが存在する場合のみ発動できます。さらに、「ギャラクシーアイズ・タキオン・ドラゴン」と名の付いたモンスターが存在するならば、手札から発動することが許されるのです」

 

 言い終えた瞬間、静止していた時は動き出す。ただし、その向きは正反対。激流はカードの中へと消え、そのままデッキへ戻って行った。

 

「そして、貴方の《激流葬》を無効にしたこの瞬間、手札から《冥王竜ヴァンダルギオン》さんの効果を発動します。このモンスターは、相手のカード効果をカウンター罠で無効にした場合、手札から特殊召喚できます!」

 

 月華蝶の背後に巨大な歪みが生まれ、その内より漆黒の竜が現れた。レベル8、攻撃力2800の最上級モンスター。冥界の王の名を持つに相応しき能力値だけでなく、その風貌もまた威圧感を与えるに十分。

 

「俺の罠を無効にした挙句、最上級モンスターを特殊召喚だと!?」

「それだけでは終わりません。ヴァンダルギオンさんのもう1つの効果! この方法で特殊召喚に成功した時、無効にしたカードの種類毎に、3種類の効果の中から1つを発動します。

 私は罠カード《激流葬》を無効にしたため、『相手フィールド上のカード1枚を選択して破壊する』効果を適用します。対象とするのは《深海王デビルシャーク》さんです!」

 

 ヴァンダルギオンがデビルシャークの身体を軽々と引き裂いた。対象に取らずに破壊することが許されないのなら、対象に取ればいいだけのこと。

 

「俺のモンスターが……! だが、俺にはまだ伏せカードが――」

「残念ですが、そのカードは発動自体を封じさせていただきます。私は、ネオ・タキオンさんのエクシーズ効果を発動します。

 1ターンに1度、自身のカオス・オーバーレイ・ユニットを1つ使うことで、表側表示のカード効果を無効にして、相手フィールド上にセットされているカードの発動を封じます。

 時空を操るネオ・タキオンさんの前に、あらゆるカード効果は無力。全てを封じよ、タイム・タイラント!」

 

 彼はいったい、何度驚けばいいのか。手札1枚で超大型モンスターを出しただけでなく、手札からのカウンター罠と漆黒の竜。挙句の果てにはカード効果の封印ときたものだ。これで、伏せていた《次元幽閉》もただの紙へと成り果てた。

 

「くっ……。今フィールドにいるモンスターは、攻撃力4500の「CNo.」と、攻撃力2800のヴァンダルギオン。攻撃力の合計は7300。ライフはギリギリ――」

「言ったはずです。このターンで終わらせると。私は手札の炎属性モンスター《羅刹》さんと《火之迦具土》さんを除外して、手札から《焔征竜-ブラスター》さんを特殊召喚します!」

「な……! 「征竜」だと!?」

 

 「征竜」モンスターは、炎・水・風・地の4種類の種族に存在するレベル7のドラゴン達。それぞれ固有の効果の他に、手札から指定する種族及びドラゴン族モンスターを合計2体除外することで、手札か墓地から特殊召喚する効果を持つ。

 緩すぎる召喚条件を始めとした効果と制圧力から、各種デッキに1枚しか入れられないという制約が課せられている強力なモンスター郡である。

 そして、今特殊召喚された《焔征竜-ブラスター》の攻撃力は「征竜」の中で最も高い2800ポイント。これにより、月華蝶のフィールド上のモンスターの総攻撃力は10100となった。

 

「バトルです! 3体のドラゴンで一斉攻撃! その咆哮で、とらえた全てを飲み込んで!」

 

 月華蝶の指示を受け、3体のドラゴンが雄叫びを上げる。男は為す術もなく、ただ自分がやられる様を受け入れるしか無い。

 

「征服のブラスト・バーン!」

 

 最初にブラスターから放たれる爆炎が男のライフを焼いていく。

 

「冥王葬送!」

 

 続いてヴァンダルギオンの巨躯から放たれる拳が炸裂する。

 

「これで終わりです! アルティメット・タキオン・スパイラル!」

 

 最後に、金色の三つ首龍が撃ち出す三条の光線が男の残りライフ、2400を焼き尽くした。「CNo.」を含む3体の強力なドラゴン達の攻撃を一斉に受けた男は、背後に立っていた観客達の方へと弾き飛ばされていった。

 

 男 LP8000 → LP0

 

 

 

 

「く、遅かったか!」

 

 膝まで伸ばした長い黒髪を揺らしながら、1人の少女がデュエルの行なわれていた現場へと駆け付けた。少女の名は関羽。『チーム劉備』の一員である彼女は、『華蝶仮面が現れた』という知らせを受けると、すぐさま現場へと向かったのである。

 華蝶仮面はかつて自身と張飛を相手にして、圧倒的な勝利を収めた実力者。しかも次に現れた時にはその数を増やし、今では合計で7人になっているという。『正義の使者』などと謳いながら街に現れて大暴れし、警備の邪魔をする彼女達を許すことは出来なかった。

 だが、駆けつける頃には既にデュエルが終わり立ち去っているのがほとんどであり、中々尻尾を掴めない。稀に遭遇することがあっても、デュエルを申し込む前に逃げられてしまうのが現状であった。

 

 ――凄かったよな、月華蝶の1ターンキル!

 

 ――俺、華蝶仮面の愛好者(ファン)になっちまったよ!

 

 ――あの娘達がいれば、この街の平和は安泰だ!

 

「民の心を惑わすとは許せん。この街の平和を守るのは私達『チーム劉備』だというのに……!」

 

 青龍偃月刀(デュエルディスク)を強く握りしめ、関羽は誓う。

 次こそは必ず我が銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)の餌食にしてくれる、と。

 

 

 

 

 

●オイオイこれじゃ……

 

 

 

 ある満月の晩。森の中を1人の少女が駆ける。足元まで伸びる黒髪と背丈と同等の長さの長刀(デュエルディスク)を、地面に擦らず移動しており、その速さはかなりのものであることが伺える。

 やがて街へと近づいたところで、ようやくその少女は足を止める。

 

「ここが、『チーム劉備』の本拠地……」

 

 少女の名は周泰、真名は明命。『チーム孫策』に所属する決闘者の1人である。隠密行動を得意とし、今回この場所に訪れたのも敵チームの視察のため。前述した長い黒髪と浅黒い肌、今回のために用意した黒ずくめの衣服により、夜闇に紛れるには丁度良い格好をしている。

 

「この時間なら極少ない守衛を除けば寝静まっていることでしょう。今のうちに――」

「どうするのニャ?」

「『チーム劉備』に忍び込み…………って貴女誰ですか!?」

 

 いつの間にか真後ろに立っていたナニか。隠密行動を得意とするはずが背後を取られてしまうとは、一生の不覚。だが、ここは焦らずに目の前の問題に対処することが先決。

 周泰がゆっくりと振り返ると、そこには――

 

 

 

 

 

 ――お猫様の化身がいた。

 

 

 

 

 

 薄い緑色の長髪、白い猫耳と手袋、そして履物。つぶらな瞳と「ニャ」という語尾。まるで猫が魅力を維持したまま人間になったようではないか。

 

「あ、貴女様はなぜ……こ、このようなところ、に…………?」

 

 周泰は理性を全力で稼働させ、目の前の猫耳少女へと問いかける。気を抜けばすぐにでも襲いかかってしまうかもしれない。

 

「美以は眠れなくなったから散歩をしていたのニャ。そしたら怪しい動きをしているお前を見かけたのニャ」

 

 夜闇に完全に紛れたつもりが、バレバレだったらしい。かなりの視力を持っているらしい。まさに猫そのもの。ますます愛でたくなってしまうではないか。

 

「お前を連れて行けば、きっと(にい)も桃香も褒めてくれるニャ。美味しいご飯もいっぱい貰えるニャ。だから大人しくお縄に着くニャ」

 

 ニヤニヤと笑いながら、縄を取り出す『美以』という猫耳少女。お猫様の化身の手に掛かるのならば、お猫様愛好家として最高の最期。だが、『チーム孫策』のため、何も出来ずに捕まるわけにはいかない。理性を投げ捨てるのはまだ早い。

 

「残念ですが、私とて『チーム孫策』の一員。そう簡単に捕まるわけにはいきません。どうしてもと言うのなら――」

 

 

 

 

 

 ――デュエルです!

 

 

 

 

 

 猫耳少女が口にした『桃香』というのは、『チーム劉備』のリーダー、劉備の真名であったはず。真名を呼んだということは、彼女がチームの一員であるという証拠。ならば、デュエルの腕も立つはず。

 

「デュエル……受けて立つニャ!!」

 

 やはり受けてくれた。申し込まれたデュエルを受けるのは、決闘者として当然のこと。しかも、お猫様の化身とデュエルが出来るのだ。これ程嬉しいことがあるだろうか。いや、無い!

 

「私が勝ったら見逃して貰います!」

「美以が勝ったらお前を兄達のところに連れて行くニャ!」

 

「「デュエルディスク、セット!」」

 

 互いのデュエルディスク、魂切と虎王独鈷(こおうどっこ)を左腕に装着する。周泰はお猫様の化身とのデュエルに興奮し鼻血を垂らしながら、猫耳少女はとある少年に褒められながら御馳走をたらふく食べるほんの少し先に未来に思いを馳せて涎を垂らしながら――

 

「「デュエル!!」」

 

 煩悩まみれのデュエルの幕を開けた。

 デュエルディスクにより、先攻と後攻が決定される。先攻となったのは猫耳少女。

 

 

 

 

「あの、ご主人様。美以ちゃんを見かけませんでしたか?」

 

 ほとんどの人が寝静まっている深夜。新発売のカードの裁定を確認していると、魔女帽子を被った魔砲幼女、雛里が部屋を訪ねてきた。

 

「いや、見ていないな。何かあったのか?」

 

 また食料庫を荒らしていたのだろうか。

 

「いえ、何かあったというわけではありません。ただ、新しい1ターンキルの道筋を考えたので、同士である美以ちゃんを相手にしてみたいと思いまして。

 見つからないのなら仕方がありません。ご主人様、相手をしてくれませんか?」

「えっ」

 

 真夜中の部屋で2人きり。だが、今の俺達にそんな色っぽいことは全く期待できない。俺にできるのは1キルを防ぐための初手を用意できるか祈るだけ。

 どうやら、今夜はそう簡単に眠れそうもないらしい。

 

 

 

 

 先攻と後攻を決めた後、まず互いのプレイヤーはカードを5枚ドローする。その初手を見た周泰はほんの少し笑みを浮かべる。

 

 《成金(ゴールド)忍者》

 《幻影騎士団(ファントム・ナイツ)シャドーベイル》

 《大嵐》

 《融合武器ムラサメブレード》

 《ブラック・ホール》

 

 カード名からもわかる通り、周泰のデッキは【忍者】である。そして、この初手は彼女にとって最高のもの。《成金忍者》は手札の罠カードをコストにしてデッキからレベル4以下の「忍者」を特殊召喚できる。この効果で《幻影騎士団シャドーベイル》を捨ててレベル4の《忍者マスターHANZO》を呼び出せば、ランク4の《機甲忍者ブレード・ハート》をエクシーズ召喚できる。

 このモンスターエクシーズの攻撃力は2200であり、オーバーレイ・ユニットを1つ使うことで2回攻撃が可能となる。また、《融合武器ムラサメブレード》は、戦士族モンスターの攻撃力を800ポイント上昇させる装備魔法。

 事前に《大嵐》と《ブラック・ホール》で猫耳少女の場を一掃し、直接攻撃を叩き込めば、6000ポイントもの大ダメージを与えられる。

 万が一ブレード・ハートが除去されても、《幻影騎士団シャドーベイル》は墓地に存在する時、相手の直接攻撃宣言時にモンスターカードとして特殊召喚できるため、最低限の壁にもなる。

 これこそ完璧な――

 

 

 

 

 

 ――オイオイこれじゃ……美以の勝ちじゃニャいか!

 

 

 

 

 

「は?」

 

 自身の有利を確信した瞬間に放たれる対戦相手の勝利宣言に、周泰は思わず呆けた声を出してしまう。先攻の1ターン目はドローが出来ず、攻撃も不可能。たった5枚のカードで何故勝利を確信できるというのか。

 

「美以は手札から《サイレント・ウォビー》の効果を発動するニャ!」

 

 猫耳少女が1枚のモンスターカードの効果発動を宣言すると、周泰の場に1匹のやや太り気味な鮫が出現した。

 

「私のフィールドにモンスターを? これはいったい……」

「このモンスターは、相手フィールド上に特殊召喚することが可能ニャ。この方法で特殊召喚に成功した時、お前はカードを1枚ドローするニャ!」

「え、わざわざ手札を……? ならば遠慮無く、ドロー!」

 

 ただでさえカードの枚数で不利な先攻プレイヤーが、相手にドローをさせるとは何が狙いなのか。猫耳少女の真意が掴めないまま周泰はカードをドローする。

 引いたカードは《デーモンの斧》、モンスターの攻撃力を1000ポイントアップさせる装備魔法だ。これで次のターン、攻撃力4000のブレード・ハートによる1ターンキルが――

 

「そして、美以はライフを2000ポイント回復するニャ!」

 

 猫耳少女 LP8000 → LP10000

 

「あぅ……」

 

 残念、どうやら1ターンキルは出来ないようだ。とはいえ、カードの枚数はこちらの方が断然有利。

 

「続いて、美以はフィールド魔法《天空の聖域》を発動するニャ!」

 

 猫耳少女がフィールド魔法ゾーンにカードを挿入すると、白く神聖な宮殿が上空に出現した。夜闇を突如照らした眩しさに、思わず目を覆ってしまう。

 

(あのフィールド魔法は、確か天使族モンスターの戦闘によって発生する、天使族をコントロールするプレイヤーへのダメージを0にするものだったはず。時間稼ぎのつもりでしょうか)

 

 だとしたら無駄である。周泰の手札に《大嵐》がある限り、破壊耐性を持たないカードは全くの無力。改めて周泰は自身の有利を確信した。

 

「そして、速攻魔法《光神化》! 手札の天使族モンスター《裁きの代行者 サターン》を、攻撃力が半分の状態で特殊召喚するニャ!」

 

 紫の翼を生やした「土星」の名を冠する天使族モンスター。レベル6、攻撃力2400という上級モンスターとして基準となる能力値を持つ。しかし、《光神化》により攻撃力は半分の1200へと下がっている。これでは並の下級モンスターにも及ばない。

 

(何かがおかしいです。《光神化》で特殊召喚されたモンスターは、エンドフェイズに破壊される。《天空の聖域》でダメージを無くすつもりなら1ターン目で発動する必要性はまず無いはずです)

 

 手札に残った1枚がチューナーモンスター、または上級モンスターであるならば一応の辻褄は合う。だが、それでもまだ違和感が残る。猫耳少女の狙いはどこにあるのか。

 

「相手フィールドにモンスターが表側表示で存在し、攻撃力1500以下のモンスターが美以のフィールドに特殊召喚されたことで、速攻魔法《地獄の暴走召喚》を発動するニャ! そのモンスターと同じ名前のカードを美以の手札・デッキ・墓地から特殊召喚するニャ!」

 

 猫耳少女のデッキから、残り2体のサターンが光臨する。《地獄の暴走召喚》は、使用者から見た相手、つまり周泰も《サイレント・ウォビー》を特殊召喚できる。だが、相手から一方的に特殊召喚されたカードが彼女のデッキに入っていることなどあり得ない。

 

「レベル6のモンスターが3体。なるほど、ランク6のエクシーズ召喚ですね。随分と手間をかけ――」

 

 

 

 

 

 ――何勘違いしているニャ?

 

 

 

 

 

「ひょ?」

「美以はエクシーズ召喚をしないで、《裁きの代行者 サターン》の効果を発動するニャ!

 美以のライフポイントがお前よりも多く、《天空の聖域》が存在する時、このカードをリリースすることで、ライフポイントの差分のダメージをお前にお見舞いするニャ!」

「ライフポイントの差分のダメージ…………っ!」

 

 周泰は気付いた。いや、気付かされてしまった。猫耳少女の狙いに。

 相手を有利にするだけで全く意味のないように思われた《サイレント・ウォビー》の特殊召喚も。先攻1ターン目からの《光神化》も。《裁きの代行者 サターン》の効果を発動するための行動だったならば、説明がついてしまう。

 

「こんな、ことが……」

 

 最高の手札であったはずなのに、1枚も発動することが出来ない。周泰はあまりにも理不尽なこの状況を信じることが出来なかった。

 

「1体目のサターンの効果! 2000ポイントのダメージを受けるニャ!」

 

 自らの魂を糧としたサターンの一撃が、周泰を襲う。今の彼女の手札には、効果ダメージを打ち消すカードは存在しない。

 

「きゃあっ!?」

 

 周泰 LP8000 → LP6000

 

「まだニャ! 2体目のサターンを射出! 今度は4000ダメージをお見舞いするニャ!」

 

 ライフ差が開けば開くほど威力を増していくのが、このモンスターの恐ろしいところだ。サターンが3体フィールドに並び、《天空の聖域》が存在している場合、ライフ差の7倍のダメージがほぼ確定するのだから。

 

「くぅ……!」

 

 周泰 LP6000 → LP2000

 

 これで、両者のライフポイントの差は8000。よって――

 

「これで終わりニャ! 3体目のサターンの効果を発動して、8000ポイントのダメージを受けるニャ!!」

 

 初期ライフと同等の威力を持つ効果ダメージ。合計ダメージは14000。莫大なダメージを直接その身に受けた周泰は、大きな運河の向こうに見える猫達に手を振りながら眠りについたのだった。

 

 周泰 LP2000 → LP0

 

 

 

 

「…………美以、この娘はいったい?」

 

 

 雛里に何度かワンキルされた翌朝。俺の寝台のすぐ横に、荒縄で縛り上げられた黒髪美少女が寝そべっていた。確かこの娘、『チーム孫策』の周泰ちゃんだったはず。ミケ・トラ・シャムの3人につつかれながら『にへへへ~』とだらしない声を上げて鼻血を流していることから、相当なドMちゃんなのかもしれない。あまり関わらない方が良さそうだ。

 

「拾ったニャ」

「よし、元いた場所に返そうか」

 

 俺は決闘者であると同時に、紳士なのだ。無抵抗のドMちゃんにアレコレするなんてことはしない。…………多分。

 俺は理性を保っているうちに冥華蝶を呼び出し、彼女に依頼してドMちゃんを『チーム孫策』へと送り返して貰った。

 めでたしめでたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして1週間後。軍議の最中に奴は現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お猫様の化身達ともっとモフモフするため、チームを抜けて来ました! 今後は『チーム劉備』の一員として、よろしくお願いします!」

 

『えっ』

 

 どうしてこうなった。

 




Q.月ちゃんから溢れ出る圧倒的ラスボス臭。
A.《タキオン・トランスミグレイション》が強すぎるせい。

Q.シャドーベイルが活躍していないんだが。
A.出るとは言いました。(発動、特殊召喚されるとは言っていない)

Q.サイレント・ウォビーの効果処理が間違っている件。
A.演出の都合でこうなりました。実際には同時です。

Q.忠義とはなんだったのか。
A.お猫様には勝てなかったよ。

Q.冥華蝶って?
A.ブックス!

 《タキオン・トランスミグレイション》のせいで、月ちゃんがかなりイケてるラスボスっぽくなってしまう。
 桃香VS月を書いている時にこのカードの情報が無くて本当に良かったと思う。
 もし先に判明していたら桃香さんに勝ち目は無かったかもしれない。

 勢いで明命を寝返らせてしまったけど、そのせいで孫呉の人材不足が更に加速しているという。
 これはもう孫家三姉妹を圧倒的強キャラにするしかないですね。
 幸い雪蓮は『未来予知レベルの勘』という恐ろしい能力があることだし。

 それではまた、次回もお会いしましょう。

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