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『チーム劉備』が治める街を、1人の少女が歩く。足元まで伸ばした長い黒髪と、それと同等の長さの
彼女は今、カードショップ巡りをしている最中である。チームに参入するからには、店ごとの特徴を覚えておかなくてはいけないと考えたからだ。なお、周泰は【忍者】というデッキを使っており、動きの中心は戦士族モンスター。そのため戦士族のカードを多く取り扱っているカードショップをよく利用することになる。しかし【忍者】では自分フィールドの「忍者」をリリースして、特定の種族のモンスターを特殊召喚する《忍法 変化の術》及び《忍法 超変化の術》という罠カードを使用するため、他の種族のカードも探さなくてはいけないので他の決闘者よりも多くの店を抑えなくてはならない。
そのような理由もあり、周泰は朝から夕刻までほぼ丸一日を利用して、時にはお猫様と戯れながら街中のカードショップを渡り歩いた。その甲斐もあり贔屓にしようと決めた店を幾つか選んだのだが、物色している中で『チーム孫策』にいた頃と違って明らかに違う特徴を発見した。
「効果ダメージへの対策となるカードの値段があまりにも高いですね。これはいったい……」
周泰が呟いた通り、効果ダメージを防ぐ、または効果ダメージを受けた時に発動するカードの値段が他のチームに比べて高いのである。周泰自身が知る限り、通常の相場の2~3倍はあるのでは無いだろうか。
「まず誰も使わない《防御輪》でさえ高価買取をしているのは、どう考えても異常です」
《防御輪》とは、罠カードの効果によりダメージを0にする速攻魔法のことである。これだけでもわかる通り、効果ダメージを防ぎたいなら手札から捨ててダメージを0にするモンスター《ハネワタ》など、より有用なモンスターが数多く存在する。周泰の頭の中では疑問が渦巻くばかりである。
「お、明命じゃないか。どうした、そんな難しい顔して」
すると、自分の名前を呼ぶ声が後ろから聞こえてきた。振り返ると、そこには1人の少年が立っていた。『チーム劉備』に所属する決闘者、北郷一刀である。周泰も一礼をして挨拶を返す。
周泰は『チーム劉備』に参入したその日のうちに真名を全員へと預けた。もちろんその逆もだ。また、一刀はお猫様の化身……、孟獲から『
「1つお聞きしたいのですが、兄上。なぜ『チーム劉備』では効果ダメージ対策のカードの価格が高騰しているのでしょうか」
「ああ、確かに高いよな。バーンメタ……」
疑問に思ったことを聞いてみると、一刀は苦笑を浮かべて頭を掻いた。微妙に泣きそうな表情にも見える。かなり深刻な理由なのだろうか。
「ちょっと付いて来てもらってもいいかな。アレを見れば絶対に納得するはずだから」
「は、はぁ……」
一刀に連れられてやって来た場所は、多くの民が集まる広場。その中心で2人の決闘者がデュエルを始めようとしている。そのうちの片方の男性は一般市民のようだが、もう一方は周泰もよく知る人物だった。
とんがり帽子を被った、あどけない容姿の少女。『チーム劉備』の鳳統である。
「あれは雛里さんですよね。兄上が見せたかったものというのは雛里さんのデュエルということでしょうか」
「ああ、そうだ。よく見ていろ、魔砲幼女のデュエルを」
一刀が漏らした『魔砲幼女』という単語に、周泰は息を呑んだ。確か、『チーム劉備』には効果ダメージと高攻撃力で相手ライフを一瞬で刈り取る決闘者が存在すると。このチームの調査を命じられた時も、周瑜や張昭からも「『魔砲幼女』に出会った時はすぐに逃げろ」と注意を受けていた。どんな恐ろしい決闘者なのかと思っていたが、まさか鳳統がそうだとでもいうのか。
――今日の『魔砲幼女』はどんなバ火力を見せてくれるんだ!
――ひーなーりーん! ひーなーりーん!
――せめて1ターンは保たせろよ~。
どうやら鳳統は民の間でも凄腕の決闘者として有名なようで、集まった観客から多くの声援を受けている。その本人はやや恥ずかしそうに頬を染めているが。
本当に彼女があの暴虐の『魔砲幼女』だとでも言うのか。その疑問を一刀に尋ねてみたが、「1ターンでわかる」とだけ言われてしまう。
たったの1ターン? そんなバカな。そう思わずにはいられない。
そうこうしているうちに、デュエルが始まった。
「先攻は俺が貰う! 俺は魔法カード《デビルズ・サンクチュアリ》を発動! 俺のフィールドに「メタルデビル・トークン」を1体特殊召喚する!
そしてこのトークンをリリースして《マテリアルドラゴン》をアドバンス召喚!」
先攻を取った男性は、1ターン目から即座にアドバンス召喚を行った。リリースやシンクロの素材として扱いやすいトークンを呼び出し、それを用いて上級モンスターをアドバンス召喚。《マテリアルドラゴン》の攻撃力は2400もあり、上級モンスターとして基準点を満たしている。更にこのモンスターは2つの強力な効果まで持っている。「効果ダメージを回復に変える」効果と、「手札1枚をコストにしてフィールド上のモンスターを破壊から守る」効果である。
「最後に、永続魔法《強者の苦痛》を発動だ! このカードがある限り、アンタのフィールドのモンスターの攻撃力はそのレベル1つにつき100ポイント下がる。俺はこれでターンエンド!」
効果による破壊とダメージを防ぐ攻撃力2400のモンスターと、戦闘を補助する永続魔法。いきなり3枚ものカードを使用するだけあってなかなか強力な布陣だ。これを突破してライフポイントを削るのは骨が折れるだろう。
「なるほどな。あの布陣ならば、雛里のデッキに対してよく効くだろう」
だが、それを見る一刀は少し褒めただけ。鳳統にとっては大したことがないだろうと言わんばかりだ。
「私のターン、ドロー! 私は《
鳳統はその容姿からは想像できないような掛け声とともにカードを引き、モンスターを呼び出した。「帆船」というだけあってその質量は広場を埋め尽くすほどの大きさだが、元々の攻撃力は800しかない。
「この方法で特殊召喚した《太陽風帆船》の元々の攻撃力と守備力は半分になります。そしてレベルが5であるため、貴方が発動している《強者の苦痛》により更に攻撃力が500ポイント下がって0になります」
上級モンスターでありながら、攻撃力が皆無。特殊召喚がしやすいとはいえ、これでは帆船どころかボロ船だ。
「続いて、《KA-2 デス・シザース》を通常召喚します!」
次に鳳統が召喚したのは、青い装甲を持つ蟹のような機械族モンスター。レベルは4だが、攻撃力はたったの1000ポイント。しかも、《強者の苦痛》により600ポイントまで下がってしまう。男性の場に君臨するドラゴンとの攻撃力の差は歴然だ。
「ところで明命、デス・シザースの効果は知っているか?」
「す、すみません。わからないです」
これでどうやって勝つのか。そう考えた周泰へと一刀が問いかける。だが、《KA-2 デス・シザース》は今まで見たことがないカードであったため、そう返すしか無かった。
「まあ仕方ないか、俺も滅多に見かけないしな。今日あの娘が使っているデッキは、【シザースバンカー】と呼ばれているデッキだ」
「【シザースバンカー】……ですか?」
これまた聞きなれない単語だった。デッキ名に「シザース」と入っていることから、《KA-2 デス・シザース》を中心としたデッキということか。
「あのデッキは、その名の通り《KA-2 デス・シザース》と、同じ効果を持った上位種のモンスター、《ニードルバンカー》で相手モンスターを破壊することを目的とした機械族デッキだ」
「戦闘破壊? しかし、今のデス・シザースの攻撃力はたったの600ポイント。攻撃力2400の《マテリアルドラゴン》を倒すことはまず不可能ではないでしょうか」
確かに周泰の言う通り、このままでは《KA-2 デス・シザース》が戦闘で勝つことはできない。
そう、このままならば。
「私は、魔法カード《ミニマム・ガッツ》を発動! このカードは、自分フィールドのモンスター1体をリリースして、相手モンスター1体を選択して発動します! そして、対象となったモンスターの攻撃力は0になります!」
「な、なんだって!?」
力を失った帆船が、1つの砲弾となって《マテリアルドラゴン》へと突撃する。どれだけ攻撃力が高い上級モンスターでも、0になってしまえばただの的。貧弱とされる下級モンスターでも倒すことができるようになる。
「更にもう1枚! 装備魔法《ニトロユニット》を《マテリアルドラゴン》に装備します!」
装備魔法は、自分フィールドのモンスターに装備することで攻撃力や守備力を上昇させる目的で使うというのが一般的だ。だが、今発動された装備魔法は相手モンスターを対象にしたもの。《マテリアルドラゴン》に装備された《ニトロユニット》は、特にモンスターへと影響を与えたようには見えない。その代わりに、取り付けられた
「バトルです! 《KA-2 デス・シザース》で、《マテリアルドラゴン》を攻撃!」
デス・シザースが持つ2つのハサミが、帆船の突撃を受けて倒れ伏した竜を切り刻む。下級モンスターが上級モンスターに打ち勝つ姿に、観客が沸き立つ。
「くっ……!」
男性 LP8000 → LP7400
これだけでも十分に思われるが、『魔砲幼女』の力はこれだけでは終わらない。終わるはずがないのだ。
「この瞬間、《KA-2 デス・シザース》! 《ミニマム・ガッツ》! 《ニトロユニット》! この3枚のカードの効果が同時に発動されます!
まずはデス・シザースの効果! このモンスターが相手モンスターを戦闘で破壊して墓地に送った時、そのモンスターのレベル1つにつき500ポイントのダメージを相手に与えます!」
「……彼は誤った。《マテリアルドラゴン》を出しておけば効果ダメージを受けないという考えは、雛里相手では甘すぎる」
「あ、兄上……?」
脂汗を額から流しながら話し始めた一刀。その尋常ではない様子に、周泰は一瞬怯んでしまう。そう言えば一刀は幻竜族とドラゴン族を用いたデッキを使う決闘者だったはず。全く同じ状況に陥ったことがあるのだろうか。
「そして、2枚の魔法カードの効果です! 《ミニマム・ガッツ》の効果を受けたモンスターが戦闘によって破壊され墓地に送られた時、その元々の攻撃力分のダメージを貴方に与えます! 《ニトロユニット》を装備した場合も同じです!」
「な!? それじゃあ……!」
戦闘破壊された《マテリアルドラゴン》のレベルは6、攻撃力は2400。つまり500×6+2400×2の、合計7800のダメージを与えることが出来る。既に600ポイントの戦闘ダメージを受けているため、これで勝負は決する。
断末魔の叫びにも似た声を上げ、男性はその場に崩れ落ちていった。
男性 LP7400 → LP0
――すっげぇ! また1ターンキルをやっちまいやがった!
――確かこれで41回目だよな! どこまで記録を伸ばすんだよ!
――ひーなーりーん! ひーなーりーん!
目の前で起きた一瞬の出来事に、周泰は口を開いたまま言葉を出すことが出来なかった。突破に手間がかかりそうな布陣を突破するだけでは飽き足らず、1ターンキルを成し遂げてしまうとは。しかもそれを可能としたのが見たことがないカードばかりだったのだから尚更だ。
「機械族と、今回は使わなかったけど魔法使い族を用いた効果ダメージと高攻撃力による1ターンキルデッキ。これが『魔砲幼女』の実力だよ、明命」
「……現実を目の当たりにした今でも信じられません。あの可愛らしい雛里さんがここまでえげつない戦法をとるだなんて」
デュエルが終わり、観客から胴上げをされながら『あわあわ』と涙目になっている鳳統からは、先程まで感じられた威圧感が感じられない。まるでデュエルになると人格が変わってしまうかのようだ。
「それでも認めるしかないんだ。今、あそこで41回目と言っていたがそれは広場での記録だ。城でチームの皆と行ったデュエルを含めれば、その数は100を超える」
「そんなにですか!?」
「ああ。しかもそのほとんどが《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》や《連弾の魔術師》の効果ダメージを中心としたものだから、皆が効果ダメージを恐れるようになってしまったんだ」
「まさか、雛里さんに対抗するために皆が買い求めるようになったから……」
「そのまさかだ。おかげで『チーム劉備』の中では効果ダメージを対策できるカードは「
「そ、そんなにですか……」
「No.」は、100枚集めれば全能の力を手にすることが出来るとまで言われている超レアカード。周泰はいつかその力で《レスキューキャット》という禁止カードに指定されているカードを無制限にしたいと願っている。これを口にすると呂布を除く全員が揃って「や め ろ」と言う。
自身を墓地に送ってレベル3以下の獣族モンスター2体を特殊召喚するという素晴らしいお猫様の復活を何故認めてくれないのか。周泰には理解出来なかった。
ともかく、そんなレアカードに匹敵する価値を《マテリアルドラゴン》や《防御輪》持たせるとは、なんという影響力だ。
「だけど、どれだけ対策しても雛里はそれを上回る。特に同じく1ターンキルを愛する美以と競い合うようになってからはより酷くなっていってな」
「あ、兄上! 気をしっかり持って下さい!」
疑問が1つ解消されたと思ったら、新たな問題が発生する。いつか鳳統にデュエルを挑まれた時のために、効果ダメージを対策するためのカードを用意しておこう。そう決意しながら一刀を落ち着かせる周泰であった。
Q.『魔砲幼女』にワンキルされないためにはどうすれば良いですか。
A.手札に《ハネワタ》を始めとした手札誘発のカードを握っておきましょう。
相変わらず外道なひなりん。どうしてこうなった。
本編にも書いた通り、『チーム劉備』では雛里と美以のせいでバーンメタのカードの価格は非常に高いです。《サルガッソの灯台》ですら持っているだけで羨ましがられます。
そんなこともあってか、カード売却によるお金稼ぎのために余所のチームからやって来る決闘者がいるとかいないとか。
ここ最近はあっさりしたデュエルばかり書いているから、そろそろシリアスも書きたいなと思う今日このごろ。……前も似たようなこと書いていた気がするなぁ。
それでは次回もよろしくお願いします。