恋のゆったり口調でデュエルさせるのは難しい。
◇
虎牢関。
洛陽へと進む連合軍を阻む鉄壁の城塞。この関を守護する将の名は呂布。真名を恋という。『三國無双』と
ほとんど喋ることはなく、デュエル中でも終始淡々とカードを繰り出す大人しい性格である。だが、その攻撃は真紅の頭髪と瞳の如く苛烈を極める。生半可の防御で凌ごうものなら簡単に食い破られてしまうという。
彼女は現在、虎牢関の上に立ち、ある方角を見つめていた。その先にあるのは汜水関。『チーム董卓』の仲間である華雄が守っているはずの場所である。
「恋! こんなとこにおったんか。汜水関の方をじっと見てどないしたんや?」
そんな呂布に背後から声をかけた女性の名は張遼。真名を
張遼の声に対して、呂布はただ一言、
「……来る」
それだけを答えた。
「は? 来るて、連合軍がか? まさか。あの華雄が負けたとでも言うんか? もしそうやとしても、早過ぎるんとちゃうか?」
張遼には呂布の言葉が信じられなかった。華雄のデュエル・タクティクスは単純だが、それは1つの戦術を極めているからであって、決して弱いわけではない。ましてや彼女に対して最初にデュエルを挑んだのは、特に名も知られていない『チーム劉備』の決闘者。そう簡単に負けるとは思えなかった。
「…………来る」
だが、呂布の顔は真剣そのもの。嘘を言っているようには見えない。
華雄の強さを張遼も認めている。とはいえ、呂布が嘘を吐けない性格であることも知っている。また、勘も鋭いのだ。つまり、9割に近い確率で的中しているのだろう。
「……恋がそこまで言うんなら、もう汜水関は落ちとるんやろうな。そんならどないする?」
「……出る」
「せやな。ウチも同じや」
2人が考えていたことは同じであった。どうせ籠城しても援軍は来ないのだ。それならば、派手に暴れまわって連合に大打撃を与え、堂々と撤退したほうが良いだろう。
「ほな行こか、恋。『三國無双』の呂奉先と『神速』の張文遠のデュエル。連合の奴等に見せつけてやろうやないか!」
「……ん」
気合いの篭った張遼に対し、呂布はただ頷くだけ。しかし、共に心は同じ。
――
◆
俺達連合軍が虎牢関の目前まで差し掛かったとき、既に門の前には呂布や張遼を始めとした決闘者達が布陣していた。
「ほう、さすがは呂布と張遼。正面から戦うことを選んだか」
「どういうことなのだー?」
感心する華雄に対して、鈴々が問う。この2人、共に攻撃力重視のデッキを使うこともあってか、すぐに仲良くなった。愛紗は未だに警戒心を解いていないが、そのうち和解してくれるだろう。デッキタイプも少し似ているしな。
「簡単なこと。『チーム董卓』の決闘者は数が少ない。籠城したところで、すぐに数の差で圧倒されてしまうことだろう。ならば、最初から連合を迎え撃った方が簡単だ。
『三國無双』の呂布と『神速』の張遼。あの2人ならば有り得るだろうさ」
元チームメイトなだけあって、自信満々な表情で華雄は答える。愛紗は『何を馬鹿なことを……』と呟いている。
「……そうですね。確かに、華雄さんの言う通りかもしれません」
だが、華雄に対して同意する者もいた。雛里だ。
1度デュエルをして認め合った者の言葉だからか。疑う素振りなど全く見せていない。
「難攻不落の虎牢関を捨てて、わざわざ正面から迎え撃つなんてことは、普通ならあり得ません。
しかし、虎牢関を守るのは呂布さんと張遼さん。天下に名を轟かす決闘者です。彼女達程の腕なら可能かもしれないです」
「でも、やっぱり関に篭っていたほうが安全なんじゃないかなー」
雛里の説明に対し、桃香はまだ疑問が消えないみたいだ。まあ、俺もなんだけどね。
「そうとも言えません。……籠城したままでは、最終的には逃げ場を失ってしまいます。華雄さんが言うように、数では私達が大きく圧倒しているのですから」
言われてみれば確かにそうだ。連合には曹操や孫策といった凄腕の決闘者が控えているんだ。例え天下無双の呂布といえども、この物量差の前ではやがて倒れてしまうだろう。
「ふむ。だからある程度大打撃を与えた上で、包囲される直前に堂々と撤退する。そう言いたいのだな、雛里」
「……その通りです、星さん」
さすがは星。雛里が言いたいことを理解したみたいだ。
「とはいえ、策はどうする?」
「特に何も。今回、先鋒を務めるのは袁紹さんのチームです。『チーム袁紹』が呂布さん達を撤退させればそれで良し」
「無理だとしても、間近で観察しておけば、私達のチームが当たるときに情報面で優位に立つことが出来ます」
星が知略家の2人に尋ねると、朱里と雛里がそれぞれ答える。確かにその通りなんだけど、言葉の端からは、『チーム袁紹』が勝つことなど全く考えていないように感じられる。どうやら、汜水関で先鋒を押し付けられたことをまだ根に持っているらしい。
それに、袁紹達が先鋒になった理由というのも、弱小チームの俺達が汜水関を落としたことが気に食わなかったからっぽいし。前日の軍議でも、『今度は
「ともかく、呂布達のデュエルがどのようなものか、見せてもらうとするかね」
『三國無双』を誇る呂布のデュエルが、始まる。
◇
呂布、そして張遼へと挑む『チーム袁紹』の決闘者達。だが、『三國無双』と『神速』の前に次々と倒れていく。
今も呂布と顔良、張遼と文醜のデュエルが繰り広げられている。顔良と文醜はそれぞれ『チーム袁紹』の中でも上位に位置する決闘者であり、彼女達の敗北はチーム全体の敗北を意味する。故に、ここで屈するわけにはいかない。だが――
「お前、弱い」
そう言い捨てる呂布。現在、2人の状況は天と地程の差があった。
呂布 LP6800
顔良 LP700
呂布のフィールドには、攻撃力3100を誇り、メインフェイズ2を除き相手のカード効果の対象にならないという強固な耐性を持つシンクロモンスター、《神樹の守護獣-牙王》が君臨している。更に、メインフェイズ2をスキップする永続魔法《
対する顔良は、手札にもフィールドにもカードが無い状態で自身のターンを迎えようとしていた。
「やっぱり呂布さんは強い……、だけど! 姫のためにも、チームのためにも負けられない! 私のターン、ドローッ!」
顔良は、金色の輝く
そんな状況下の顔良が一矢報いるためには、何かしらの逆転に繋がるカードを引き当てるしかない。幸い、彼女のデッキには《神樹の守護獣-牙王》を倒すことのできるカードが1枚だけ残されている。それを引ければ、まだ戦えるかもしれない。
僅かな希望に縋り、顔良が引き当てたカード。それは……。
「! 来ました! 私は、魔法カード《ハンマーシュート》を発動します! フィールド上に表側攻撃表示で存在する、攻撃力が1番高いモンスターを破壊します!
今、フィールド上のモンスターは牙王だけ! そして、《ハンマーシュート》は対象を取る効果ではありません! よって、牙王の効果の影響を受けずに破壊できます!」
デッキは、顔良の思いに答えた。デスティニードローによって引き当てられた『対象を取らない』破壊効果を持つ魔法カード。
牙王の真上にその身体を大きく上回る質量まで巨大化した金光鉄槌が現れる。それなりの体格を持つ牙王を上回る槌が容赦なく叩き潰そうとして――
「速攻魔法、発動。《禁じられた聖衣》」
純白を金で彩った衣が牙王を包み込む。その衣によって、槌は弾き飛ばされてしまう。
このカードは、対象のモンスターの攻撃力を600ポイント下げる代わりに、他のカード効果の対象にならず、カード効果では破壊されなくなるという耐性を与えるカード。
もっとも、顔良の場にはモンスターはいない。つまり、攻撃力が下がるというデメリットは無いに等しい。
「そ、そんな……」
デスティニードローをも防がれた顔良。打つ手が完全に無くなった彼女は、『ターン、エンド……』と悔しさを滲ませた声を発することしか出来なかった。
「……恋のターン、ドロー。牙王で
対戦相手がどのような状態であろうと、呂布は表情を変えない。容赦もしない。ただ眼前の敵を殲滅するのみ。
呂布の指示を受けた牙王は、地に膝をつけた顔良へと突撃し、その身体を『チーム袁紹』の本陣まで弾き飛ばした。
顔良 LP700 → LP 0
「と、
親友が一方的に倒される光景を目の当たりにして、文醜はその真名を叫ぶ。今すぐにでも仇を討ちたい。
「おっと、そうはさせへんで。呂布を倒したいんなら、ウチを倒してから行くんやな。ま、無理な話やけどな」
だが張遼とデュエルをしている今は、それができない。
この2人のデュエルも、呂布と顔良のような差は無いものの、それなりの差がついている。
張遼 LP3500
文醜 LP900
現在、文醜のフィールドには槍を構えたモンスター、《一撃必殺侍》が1体。攻撃力は1200と、それほど高くはないものの、ダメージ計算を行うときにコイントスを行い、表か裏を当てることができれば、相手モンスターを効果破壊するという効果を持つ。ギャンブル性は高いが、文字通り一撃必殺の効果を持つこのカードは、文醜のお気に入りであった。
一方、張遼の場には戦闘では破壊されず、戦闘ダメージも受けないシンクロモンスター《
そして、魔法・罠ゾーンには、2枚の伏せカード。
「だったら、さっさと終わらせてやる! 速攻魔法《サイコロン》を発動! サイコロを1回振って、出目によって効果を適用する!
2~4が出たら、フィールド上の魔法・罠を1枚破壊!
5が出たら、フィールド上の魔法・罠を2枚破壊!
だが、6が出たらあたいが1000ポイントのダメージを受ける!」
「ほう。残りライフが900しかあらへんのに、効果ダメージのデメリットを持つギャンブルカードかいな。ええ根性しとるやん」
「へっ! それがあたいの生き様だからな! 行くぜ、ダイスロール!!」
――5、つまり最良の目だ。
「うっしゃあ! 5の出目の効果だ! 2枚の伏せカードを破壊するぜ!」
サイコロから突風が巻き起こり、張遼の場に伏せられていた2枚の伏せカードが破壊される。
「あっちゃー。ミラフォが破壊されてもうた。やっぱミラフォは噛ませやな」
そのうち1枚は、《聖なるバリア -ミラーフォース-》。
相手モンスターの攻撃宣言時に発動し、相手の攻撃表示モンスターを全滅させる強力な罠。とはいえ、今回のように発動される前に破壊されることも多い。
攻撃反応型の罠を破壊できたことに、文醜は思わず両拳を握りしめる。後は、《一撃必殺侍》の効果で《BF-アーマード・ウィング》を破壊すれば、少しは危機を脱することができる。運は自分に向いてきているのだと、文醜は確信していた。
だが、そこで文醜は気づく。張遼が笑みを浮かべていることに。伏せカードを2枚も破壊されたというのに、何故笑っていられるのか。
「せやけど、残念やったな、破壊された《BF-マイン》の効果発動や!」
「っ!? 破壊されることで発動する罠カード!?」
「その通りや! セットされたこのカードが相手に破壊された時、ウチのフィールドに「BF」モンスターがおる場合、相手に1000ポイントのダメージを与えて、カードを1枚ドローする。
アンタの残りライフは900。これで終いや!」
爆発が巻き起こる。
賭け事が大好きで、【ギャンブル】を使っているが、サイコロを投げても悪い出目、コインを投げても悪い面ばかり。
そして、今回珍しく大成功したと思ったら、実は大失敗。文醜は『今日はとことん運がねぇや』と毒づきながら、意識を手放したのだった。
文醜 LP900 → LP 0
◇
「呂布殿、霞殿。お疲れ様なのです! これで『チーム袁紹』の主力は壊滅! あとは本陣の袁紹を叩いて、撤退するだけなのです!」
『チーム袁紹』の2枚看板を破った2人を、小さな少女が労う。名を陳宮、真名を
だが、背伸びをしたいお年頃なのか、ぶかぶかの上着を羽織っており、袖から見える指は少しだけである。
「いいや、そうも行かへんみたいやな」
「……袁紹、いない」
2人の言う通り、視線の先にある『チーム袁紹』の本陣からは、袁紹の旗が無くなっていた。どうやら、既に後方へと避難してしまったらしい。
「なんですとー!? 袁紹め、なんて薄情者なのですか!」
「せやな。しかも、囲まれ始めとる。そろそろ撤退せんとあかんで」
『チーム袁紹』の決闘者が敗北するのは予想通りだったのだろう。『チーム袁紹』のすぐ後ろからは『チーム劉備』が、右翼からは『チーム曹操』が接近しつつあった。
総大将が引っ込んでしまった以上、撤退を開始した方が良いだろう。
「……でも、今逃げても追いつかれる」
「つまり、もうちょい敵さんを潰して混乱させる。そう言いたいんやな」
張遼の問いに、呂布は小さく首肯した。
「恋は目の前の敵を倒す。霞は右の方。……それで逃げられる」
「……ええで、了解や。『チーム曹操』はウチがなんとかしたる。『チーム劉備』は恋に任せたで」
呂布は再び首を縦に振る。だが、今度は少し力強いものだった。
「では行くのです! 敵前衛を突破し、その勢いを以て全力で撤退するのですぞ! 皆の者、突撃なのです!!」
迫り来る2つのチーム。どんな敵であろうと、叩き潰して逃げ切ってみせる。呂布と張遼は、陳宮の号令を合図としてそれぞれの敵へと突撃を開始する。
◇
「『チーム袁紹』がやられるのは予想通りだったけど、呂布はそのまま突っ込んできたか。
愛紗、頼めるか?」
「もちろんです」
呂布達のデュエルをじっと観察していた『チーム劉備』一同。
『チーム袁紹』が敗走したことを確認した一刀は、隣に立つ関羽へと指示を出す。これはあらかじめ決められていたことであった。呂布達が『チーム袁紹』を壊滅させた後に向かってくる確率が高いのは、すぐ後ろに陣を構える自分達。だからこそ、デュエルを観察し続け、誰を呂布または張遼に向かわせるかを話し合っていた。
当初、劉備は『董卓を助けたいから協力して欲しい』と提案しようとしていたのだが、それは華雄によって止められた。
「こちらがどのような考えを持っていようと、全く知らない人間の言葉を信じることはまずあり得ない。私もデュエルをしたからこそ、このチームを信じることができたのだ。
だから、貴様達の思いを伝えたいのなら、デュエルで決着をつけた上で説得するべきだ」
華雄はこのように語った。
ならばデュエルの相手はチーム内でも屈指の実力を誇る決闘者が相応しい。そこで推薦されたのが、これまで数多くの決闘者と戦ってきた関羽であった。
そして、こちらへ向かってきたのは呂布。常勝無敗の『三國無双』とのデュエルはかなりの重圧を感じることだろう。だが、呂布とのデュエルに関羽は若干だが喜びを感じていた。
実を言うと、関羽は周辺にある「No.」の気配を感知することができる。「No.」とは、不可思議な力を持つモンスターエクシーズ群のことであり、それぞれ1枚ずつしか存在しない。また、全て集めた決闘者は全能の力を手に入れることができるという。関羽は、主のためにこれらのカードを集める『ナンバーズハンター』としての活動も行っている。
連合に参加してからも、それぞれのチームから「No.」の気配を感じ取ることが出来た。特に『チーム曹操』が所有する「No.」の数は最も多く、今すぐにでも「No.」を回収したいという思いを抑えるのに苦労したものである。
閑話休題。
とにかく、今近づいてくる呂布からも「No.」の気配を感じ取ることができた。『チーム袁紹』とのデュエルでは召喚されることは無かったが、それは「No.」を出すまでもないと判断されていたからであろう。
ならば、『ナンバーズハンター』である関羽がその手で「No.」を引きずり出すまで。
主君達のため、『董卓を助けたい』という思いを届けるため、ついでに「No.」を回収するために。
様々な思いを胸に、関羽は戦場へと歩き出す。
そして2人は対峙する。
赤く燃える真紅の瞳と髪を輝かせる『三國無双』、飛将軍・呂布。
美しい黒髪を
「お前、誰だ」
呂布は、無表情のまま
対する関羽は、
「我が名は関羽。
人の心に淀む影を照らす眩き光。人は私を『ナンバーズハンター』と呼ぶ」
※呼びません。
「ここから先には我が主が居られる。呂布よ、通りたければ私を倒していくのだな!」
問いに答えた関羽は、意地でも通さないという意志を呂布へと示す。その背後には銀河の瞳を持つ竜の姿がうっすらと見えていた。
さらにその背後、具体的には『チーム劉備』の本陣からは、
「私は今まで聞いたことがないが、そうなのか」
「あわわ、愛紗さんが勝手に言ってるだけなので、気にしちゃだめです」
とかなんとか言っている。
関羽は、『雛里は後で
「……お前、強い。でも、恋の方がもっと強い」
一方の呂布は一目で関羽の強さを見抜いたのか、その瞳は『チーム袁紹』の決闘者を屠った時以上に真剣味を帯びる。流石は『三國無双』と言うべきか。呂布から発せられる静かな気迫は関羽を圧倒しかけていた。これまで多くの場数を踏んできた関羽でなければ、この気迫だけで尻込みしていただろう。
「ふ、大層な自信だな。しかし私はこれまで多くの「No.」を狩ってきた『ナンバーズハンター』だ。貴様が持つ「No.」も狩らせてもらおうか!」
「……そんなこと、させない」
「デュエルディスク、セット!」
「……セット」
2人はデュエルディスクを空中へと放り、左腕に構える。
あとはデュエルで語るのみ。
「デュエル!」
「……デュエル」
デュエルディスクによって、先攻と後攻が決定される。先攻を取ったのは、関羽。
「私のターン、ドロー!」
気合一閃。デッキからカードという名の剣を抜き放ち、手札へと加える。ただカードをドローしただけだというのに、その一連の動作は無駄がなく、美しい。『ナンバーズハンター』の他に、美髪公とも呼ばれる彼女をよく表している。呂布でさえ、表情からはわかりにくいが、内心では美しいと感じていた。
「まずは、フィールド魔法《
関羽がフィールド魔法ゾーンにカードを挿入すると、太陽の光を浴びていた場所は、またたく間に宇宙の闇に包まれる。
このフィールドにより、関羽のデッキの力が十全に発揮される。
「続いて《マンジュ・ゴッド》を召喚し、効果発動! このカードが召喚に成功した時、デッキから儀式モンスターまたは儀式魔法を1枚手札に加えることができる! 私が手札に加えるのは、儀式魔法《光子竜降臨》だ!」
関羽の眼前に現れたのは、その名の通り1万の腕を持つ厳ついモンスター。鬼のような表情をしているが、このモンスターは天使族である。
「そして、そのまま発動! レベル4の《マンジュ・ゴッド》をリリースすることで、手札からレベル4の儀式モンスター《
《マンジュ・ゴッド》を贄として、竜に跨る聖騎士が降臨する。
強力な効果を秘めるモンスターが何枚か存在する儀式モンスター。
だが、本来ならば3枚以上のカードを必要とするため、採用率はあまり高くない。関羽はこれを《マンジュ・ゴッド》によって消費を軽減したのである。
「この瞬間、《光子圧力界》の効果発動! 「フォトン」モンスターの召喚・特殊召喚に成功した時、そのモンスターのレベル×100ポイントのダメージを、「フォトン」モンスターをコントロールしていないプレイヤーに与える!」
《光子竜の聖騎士》のレベルは4。つまり、400ポイントのダメージが呂布を襲う。
星々が煌めくと、4本の光が放たれ呂布の身体へと殺到し貫いた。
呂布 LP8000 → LP7600
「む……」
「まだだ! 《光子竜の聖騎士》の効果発動! このカードをリリースすることで、デッキから我がエースを特殊召喚する!」
聖騎士が竜の背から飛び降り、墓地へと吸い込まれる。すると、聖騎士の魂を受けた竜の身体が肥大化していく。
「活目するがいい、これが私の力の象徴!
闇に輝く銀河よ! 希望の光になりて、我が僕に宿れ! 光の化身、ここに降臨! 現れろ!」
――《
それは、瞳に銀河を宿した光の竜。これまで数々の「No.」を狩ってきた関羽の相棒とも言えるモンスターであり、エクシーズキラー。
《ナンバーズハンター》を象徴するエースモンスターをこうして1ターン目から召喚したということは、最初から全力で迎え撃とうとする意志が感じられる。
光子竜も、主の全力に応えるために雄叫びを上げ、両翼を青白く煌めかせる。
「再び《光子圧力界》の効果発動!
呂布 LP7600 → LP6800
「先攻の最初のターンは攻撃ができない。私はこれでターンエンドだ!」
1ターン目からライフの8分の1を削る効果ダメージ。
『三國無双』を相手に、関羽は最初から全力だ。だが、呂布の表情からは、怯んだ様子は全く見られない。
彼女にとって、この程度のダメージはそよ風に等しいとでも言うことだろうか。
「恋のターン、ドロー。魔法カード《魔獣の懐柔》を発動。おいで、《キーマウス》、《森の聖獣 ユニフォリア》、《森の聖獣 カラントーサ》」
呂布はカードをドローすると、そのカードを即座に発動する。
《魔獣の懐柔》は、使用者のフィールドにモンスターが存在しない時、デッキからカード名が異なる獣族・レベル2以下の効果モンスターを3体、効果を無効にして特殊召喚する通常魔法。
このカードを発動したプレイヤーはそのターンの間、獣族以外のモンスターを特殊召喚できない。だが、呂布のデッキは獣族モンスターで統一されていることが先程までのデュエルでわかっているため、このデメリットは無いに等しい。
「ドローで引き当てたカードを、即座に……!」
「ユニフォリアをリリースして、《
ユニフォリアを贄として現れたのは、赤紫色の肌と青紫色の体毛を持つ、鋭い牙を覗かせた獰猛な獣。その大きさは関羽の《銀河眼の光子竜》に勝るとも劣らない。
《百獣王 ベヒーモス》のレベルは7。本来ならばアドバンス召喚をするためには2体のリリースが必要。だが、ベヒーモスは元々の攻撃力を2700から2000に下げることで、1体のリリースで召喚することができるのである。
「ベヒーモスの効果。アドバンス召喚に成功した時、リリースしたモンスターの数だけ墓地の獣族モンスターを手札に戻す。
手札に加えるのは、ユニフォリア」
「アドバンス召喚の損失を取り戻したか。しかも合計レベルは10、もう来るのか……!」
関羽が感嘆の声を上げると同時、呂布は右手を掲げる。すると、彼女を包む空気が荒ぶりだす。その気迫、まるで数多の獣を従える百獣の王。
「レベル2のカラントーサ、レベル7のベヒーモスに、レベル1の《キーマウス》をチューニング……!」
呂布の言葉と共に、3体のモンスターが上空へと飛び上がる。《キーマウス》はそのレベル分、つまり1つの輪と姿を変える。
「荒ぶる野生の血流交わりし時、大地を守護する力が目覚める。猛り狂え、シンクロ召喚……!」
その輪の中心を、9つの光球となった2体のモンスターが通り抜け、光が弾けると巨大な獣が現れた。
「大自然を護る力、《神樹の守護獣-牙王》!」
獅子の如き姿を持つ守護獣が咆哮すると、フィールド全体が震えた。いや、フィールドだけではない。関羽までもが一瞬とはいえ意識を手放しそうになる。さすがは呂布のエースモンスターといったところか。
このモンスター1体によって、『チーム袁紹』のほとんどは壊滅状態に追いやられた。強力な耐性と高い攻撃力を持つ牙王を突破出来るか。それができるかどうかで勝敗は決まると言っても過言ではないかもしれない。
「……更に、永続魔法《一族の結束》と《強者の苦痛》を発動。牙王の攻撃力を800ポイントアップして、お前のモンスターの攻撃力を下げる」
《一族の結束》は、墓地のモンスターの種族が統一されている時、使用者のフィールドに存在する同じ種族のモンスターの攻撃力が800ポイントアップする永続魔法。墓地に眠るモンスターの加護を受けた牙王は、高い攻撃力を更に上昇させる。
また、《強者の苦痛》は相手フィールドのモンスターの攻撃力を、そのレベル×100ポイント下げる永続魔法。よって、光子竜の攻撃力は800ポイントダウンする。
「攻撃力の差が一気に……!」
「バトル。牙王でお前のモンスターを攻撃」
牙王が、その牙で光子竜を噛み砕かんと突撃する。互いのモンスターの攻撃力の差は2枚の永続魔法によって1700となっている。
対する関羽は、戦闘破壊などさせまいと光子竜へと指示を出す。
「させん! 銀河眼の効果発動! バトルする互いのモンスターを、バトルフェイズが終わるまでゲームから除外する!」
「……無駄」
だが、その効果は発動できなかった。効果を発動する際に放たれる淡い光が光子竜から発せられない。
「しまった! 牙王の効果か!」
《銀河眼の光子竜》は相手モンスターと共にゲームから除外することで、戦闘を回避することができる。だが、この効果は戦闘を行う相手モンスターを
効果の発動を封じられた光子竜は、為す術もなく食い破られてしまう。
「くっ、銀河眼……!」
関羽 LP8000 → LP6300
戦闘破壊とダメージによる衝撃が関羽を襲う。戦闘において圧倒的な耐性を持つはずの光子竜をあっさりと打ち壊した呂布。そのプレイングセンスは、まさに『三國無双』に相応しい。
「恋は、カードを1枚伏せてターン終了。
……その程度じゃ、恋には勝てない。もっと全力でかかって来い」
相手のエースを倒したにも関わらず、特に喜びも示さず淡々とデュエルを進める呂布。これは、まだまだ余力を残していることの表れであろうか。
「舐めるなよ……! 私のターン、ドロー!」
だが、相手がどれ程の猛者であろうと、決して臆するわけにはいかない。それが、チームを背負う決闘者としての責務。
関羽は、より一層気合いを入れてカードをドローする。信じてくれている仲間達のために、絶対に勝つのだと。
「……よし! 私は、魔法カード《フォトン・サンクチュアリ》を発動! 「フォトントークン」2体を守備表示で特殊召喚する!」
関羽がドローしたカードを魔法・罠ゾーンに挿入すると、2つの光球が現れる。
また、「フォトン」モンスターが特殊召喚されたことで、《光子圧力界》の効果が発動する。このトークンのレベルは4。それが2体特殊召喚されたことで、800ポイントのダメージが呂布を襲う。
呂布 LP6800 → LP6000
「更に、魔法カード《トークン復活祭》を発動! 私のフィールドに存在するトークンを全て破壊! そして、破壊したトークンの数までフィールド上のカードを破壊する!
この効果で《神樹の守護獣-牙王》と《一族の結束》を破壊する! この破壊効果は対象を取らないため、牙王の効果は適用されない!」
トークンが爆発し、その余波が呂布の場へと及ぶ。突破が困難と思われた牙王も、爆発に巻き込まれその巨体を沈めていく。
「く、牙王……!」
「まだだ! 私は、《
関羽の手札から、《銀河眼の光子竜》を10分の1程度の大きさにしたような竜が現れる。攻撃力と守備力も、光子竜のものをそれぞれ10分の1まで減らした300と250。だが、光子竜と同じく銀河を瞳に宿した竜の秘める力は計り知れない。
「そして、そのまま効果発動! このカードをリリースすることで、手札か墓地から「ギャラクシーアイズ」と名の付いたモンスターを特殊召喚する!
私が特殊召喚するのは当然、《銀河眼の光子竜》!!」
呂布 LP6000 → LP5200
「バトル! 《銀河眼の光子竜》で
私と銀河眼の怒りを受けよ! 破滅のフォトン・ストリィイイイム!!」
「ぐっ……!」
呂布 LP5200 → LP3000
光の奔流が、大地を蹂躙する。
《強者の苦痛》によって攻撃力が下がっているとはいえ、宇宙最強の竜が放つ2200ポイントの大ダメージ。流石の呂布もデュエルディスクを盾にして、その衝撃を軽減させる必要がある。
衝撃が収まると、呂布の周りの地面は無残に破壊されていた。だが、呂布はデュエルディスクを盾にすることで、どうにかその場に立ち続けていた。
もっとも、関羽の怒りが篭められたフィールを耐えることができたのは呂布だからこそであろう。並の決闘者であれば、この一撃で気を失っていてもおかしくはない。
「私はメインフェイズ2へと移行し、速攻魔法《グリード・グラード》を発動! シンクロモンスターを破壊したターンに発動でき、カードを2枚ドローする!
そして、この2枚のリバースカードをセットして、ターンエンド!」
◆
「ご主人さま! やっぱり愛紗ちゃんは凄いよ! 呂布さんのライフを5000も減らしちゃうなんて!」
呂布のエースを倒し、大ダメージを与えた事で優勢になった愛紗。それを見た桃香は自分のことのように大喜びする。まだ決着もついていないのに喜ぶのはまだ早い気もするが、無理もないだろう。『チーム袁紹』の決闘者達は、呂布のライフを約1000ポイントまでしか削れなかったのだ。
それ程までに強い呂布のライフを大きく削ったのだから、愛紗の実力の高さは多くの諸侯にも知れ渡ったことだろう。
だが、俺は桃香のように安心することはできなかった。
呂布は「No.」を所持しているはずなのだ。それを未だ出していないにも関わらずあそこまでの力を示した彼女が「No.」を召喚したら、それはどれ程の力が解き放たれるというのか。
愛紗、頑張れよ……!
◇
「恋のターン、ドロー。
……ここまでライフを減らされたのは、久しぶり。だから、少しだけ本気、出す。
2枚目の《魔獣の懐柔》を発動」
「な、2枚目だと……!?」
再び発動された《魔獣の懐柔》により、《子狸ぽんぽこ》、《子狸たんたん》、《モジャ》の3体が現れる。
(再び3体の下級モンスターを並べてきたか。次は何が来る……?)
「恋は、《モジャ》をリリースして手札の《キング・オブ・ビースト》を特殊召喚する」
その内の1体、黒い身体と黄色い顔の小さなモンスターが墓地に送られると、手札から《モジャ》を成長させたかのような巨大な獣が姿を現す。
《モジャ》と同じ配色の身体だが、肥大化した身体からは骨がむき出しとなった4本の足が伸び、その凶悪な顔は関羽を睨む。
「攻撃力2500……! 銀河眼を上回るか!
だが、そのモンスターはフィールドに出てしまえば何の能力もない! 銀河眼を倒すことはできん!」
関羽の言う通り、弱体化した光子竜を屠る攻撃力を持つとはいえ、光子竜には戦闘を行うモンスターと共に除外する効果を持つ。
その程度のことは呂布も把握しているはず。
「だから、こうする。《森の聖獣 ユニフォリア》を召喚して、効果発動。墓地のモンスターが獣族だけの時、このカードをリリースして墓地から《森の聖獣 カラントーサ》を守備表示で特殊召喚する」
「っ! そいつの効果は……!」
「そう、カラントーサが獣族モンスターの効果で特殊召喚された場合、フィールドのカードを1枚破壊できる」
兎のような姿をした聖獣が光子竜へと突撃する。
その小さな身体からは考えられない衝撃を受けた光子竜は、地に倒れ伏してしまった。
「く、またしても……!
だが、銀河眼が破壊されたことで、罠カード《魂の綱》を発動! ライフを1000ポイント支払うことで、デッキからレベル4モンスター《聖鳥クレイン》を守備表示で特殊召喚する!
更にクレインが特殊召喚された時、カードを1枚ドローする!」
関羽 LP6300 → LP5300
光子竜は破壊されたが、その魂は受け継がれる。《魂の綱》によって、関羽のデッキから1羽の鶴が導かれた。
同時に、関羽の手に新たなカードが加えられる。デュエルモンスターズにとって、カードをドロー・サーチできる効果を持つカードは非常に重宝される。《聖鳥クレイン》は、関羽の壁になるという役目を担うだけでなく、カードという名の希望を導いたのだ。
「じゃあ、次。レベル2の《子狸ぽんぽこ》と《子狸たんたん》でオーバーレイ」
「っ! 来るか!」
呂布はそれを意に介さず、2体の子狸を選択して次なるモンスターを呼び出す。子狸達を吸い込んだ光の渦は、通常のエクシーズ召喚を行う時よりも大きく、速く回転する。
心が押しつぶされそうな異様な雰囲気に包まれていくフィールドに関羽は息を呑む。
「2体の獣族モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚……!」
巻き起こる金色の爆発は、「No.」がエクシーズ召喚されるという証明。それを一層裏付けるように、呂布の右手の甲にそのモンスターを示す「64」の刻印が浮かび上がった。
「混沌と混迷の世を斬り裂く知恵者。世界を化かせ――」
――《No.64
空中に浮かび上がる茶釜が展開し、鎧姿の狸武者が現れる。その兜には、「64」の文字を現す飾りが取り付けられている。
「く、これまで何体もの「No.」を見てきたが、これほどの威圧感を受けたのは初めてだ……。『三國無双』が操るだけで、「No.」はこれ程の力を持つというのか……!」
ランク2という低ランクであるにも関わらず、関羽の額からは汗が幾筋も流れ落ちていく。
これが、本気の呂布の放つフィール……!
「……三太夫の効果発動。オーバーレイ・ユニットを1つ使うことで、「影武者狸トークン」を1体特殊召喚する」
三太夫の周りを旋回していた光球が右手に持った刀へと吸い込まれる。それを振るうと、空間が斬り裂かれ、その中から狸の人形が現れた。
「……このトークンの攻撃力は、特殊召喚された時にフィールドに存在する1番攻撃力が高いモンスターと同じになる」
人形が煙に包まれる。それが晴れていくと、現在最も攻撃力が高いモンスター、すなわち《キング・オブ・ビースト》にそっくりのモンスターへと変化していた。だが、その身体の色は灰色に近く、本体と比べて薄い。
「そして、永続罠《暴走闘君》を発動。攻撃表示のトークンの攻撃力を1000ポイント上げる」
永続罠の効果により、「影武者狸トークン」の攻撃力は更に上昇する。《キング・オブ・ビースト》の攻撃力と《暴走闘君》の強化値を足し合わせると、その攻撃力は3500。
「1ターンでこれだけのモンスターを並べるとは……!」
「……バトル。三太夫でクレインを攻撃」
クレインの守備力はわずか400。攻撃力が1000ポイントしかない三太夫でも、十分屠ることができる差だ。
狸とは思えないその剣速によって、クレインは斬り刻まれ爆散する。
「くぅ……! しかしこの瞬間、罠発動! 《時の機械-タイム・マシーン》! この戦闘で破壊されたモンスターを、破壊された時と同じ表示形式で特殊召喚する!」
墓地に送られた鶴が、再び主を守るべく現れる。その忠義と不屈さ、まさに不死鳥の如し。
そして、クレインのドロー効果も発動することで手札が更に増加する。
「……だったら、今度は《キング・オブ・ビースト》で攻撃」
猛攻は続く。
《キング・オブ・ビースト》がその巨体でクレインを踏み潰す。その獰猛さは、
「最後に、「影武者狸トークン」で
攻撃力3500という莫大な攻撃力。それを防ぐ手段は、今の関羽には存在しなかった。
暴走する影武者の突撃をまともに受け、大きく跳ね飛ばされてしまう。
「ぐ、あぁああああ!!」
関羽 LP6300 → LP2800
何度も地面をバウンドし、地面を転がっていく。
どうにか立ち上がることができたものの、誰が見ても満身創痍であることは明らか。
腕や足、額からは血が流れ、衣服は所々が裂けている。全身が激痛を訴え、悲鳴を上げる。
「はぁ、はぁ……。なんという、フィールだ……。肋骨の1,2本は持って行かれたか……」
「恋はこれで、ターンエンド。……まだ、続ける?」
ターン終了の宣言。
並の決闘者ならば、このようなボロボロの状態でターンが回ってきても、諦めてサレンダーを選ぶだろう。
だが、関羽の瞳にはまだ生気が宿っている。
「ふ、ふふふ……。愚問、だな。
私は主君と仲間全員の思いを背負ってこの場に立っている。私の心が折れることなど、ありはしない!」
「……わかった。ならば、来い……!」
(おそらく、この身体がデュエルに耐えられるのは、あと1,2ターン程度。だが、今の手札では足りない……。この状況を覆すには、
絶対に引き当ててみせる……!)
「私の、タァアアアアンッ!!」
――『ナンバーズハンター』としてのプライド。
――『チーム劉備』を背負った者としての使命感。
――巡り会った好敵手を打ち倒さんとする決闘者としての意地。
全てを乗せた渾身のドローを抜き放つ。その衝撃が一陣の旋風を巻き起こし、フィールド全体を震わせる。
「…………来た! 私は、魔法カード《ブラック・ホール》を発動っ!!」
「っ!?」
ほとんど表情を変えることのなかった呂布の顔が驚愕に歪む。
無理もない。《ブラック・ホール》は、フィールド上のモンスターを全て破壊する強力なカード。現在、関羽の場にはモンスターがいないため、その破壊効果を受けるのは呂布のフィールドのみ。つまり、禁止カードに指定されている《サンダー・ボルト》を使用したのと同義だ。
「でも、三太夫は他の獣族がいる時破壊されない……!」
2人が立つ宇宙空間に出現した漆黒の穴が、呂布の場のモンスターを飲み込まんと唸りを上げる。
自身の効果により守られた三太夫を除く3体のモンスターは、《ブラック・ホール》へと吸い込まれ、消滅した。
「破壊しきれなかったか……。だが、これならどうだ! 魔法カード《死者蘇生》を発動!
3度目の降臨。
その気高き咆哮は、何を意味するのか。
――主と共に何度でも戦えることへの歓びか。
――自身をコケにした眼前の敵への怒りか。
――はたまた、そろそろ休ませて欲しいという嘆願か。
また、「フォトン」モンスターが特殊召喚されたことにより《光子圧力界》の効果ダメージが呂布を貫く。
呂布 LP3000 → LP2200
「行くぞ! 《銀河眼の光子竜》で、古狸三太夫を攻撃! 破滅のフォトン・ストリィイイイム!!」
光子竜の全身が青白く輝き、その光は竜の口元へと収束していく。
そして放たれる光の砲撃。敵を破滅へと誘う一撃は、相手が「No.」であろうとも打ち砕く。
「う、ぐぅ……!」
呂布 LP2200 → LP1000
光が三太夫を飲み込み、身体を蒸発させる。2体のモンスターによる戦闘ダメージは1200ポイント。直接攻撃よりも小さいダメージだが、一際強い輝きを放つ宇宙最強の竜と「No.」の激突による余波は、相応のダメージを発生させる。
注意して見ない限りわかりにくいが、決闘者を護る楯の役割も果たす呂布のデュエルディスクにほんの僅かだがヒビが入っている。
エースモンスターを2体も倒され、ライフを1000ポイントまで減らされ、挙句の果てにはデュエルディスクへのダメージ。かつてない出来事の連続に、本来ならば苦しい状況のはずだが、呂布の心は躍っていた。
もしも許されるなら、このままずっと戦っていたいと。
そして関羽の心も同じだった。《銀河眼の光子竜》の攻撃を2度も受け、それでもなお変わらぬ姿で立ち続ける決闘者。強者と出会う歓びを味わうのは、本当に久しぶりであった。
「私はカードを1枚伏せてターンエンド!
今、貴様のライフポイントは1000。手札は0。次のドローで逆転のカードを引き当てられないのならば、私が勝利する。だが、例え高攻撃力のモンスターを召喚しても銀河眼の効果で戦闘を無効にできる。さあ、どうする?」
確かに関羽の言う通りである。このデュエルがどう転ぶのかは、次のドロー次第。
ここまで追い詰められ、逆転のカードを引けなければ負けるという状況を味わうのは、呂布にとっては董卓とのデュエル以外では本当に久しぶりであった。
しかし、彼女は気分の高揚を抑えられない。ここで一発逆転のカードを退くことができたら、どれだけ気分がいいか。
言葉による感情表現が苦手な呂布だが、ピンチの時にカードをドローする時の緊張感は、他の決闘者と変わらない。
全ての思いを右手に宿し、希望の道筋を照らし出す。
「恋のターン、ドロー……! 永続罠《暴走闘君》を墓地に送り、魔法カード《マジック・プランター》を発動。カードを2枚ドローする……!」
「ここで、ドローソースだと!?」
呂布の手に、新たなカードが加えられる。後がない状況で発動された手札増強カード。天は呂布の味方をしようとでもいうのか。
呂布は引き当てたカードを確認すると、薄く微笑んだ。
関羽にはわかる。それは、勝利を確信した決闘者が浮かべる笑みだと。
「《死者蘇生》を発動。《神樹の守護獣-牙王》を特殊召喚……!」
「私と同じカードを……!?」
大地が隆起し、その中から主を勝利へと導くため、守護獣が復活する。
再び対峙する光子竜と牙王。
それぞれのエースモンスターが向かい合い、咆哮すると大地を震撼させる。常人ならば気を失いかねないフィールの激突を発生させてもなお、2人は微動だにしない。
「そして、魔法発動。《野性解放》……!」
《野性解放》は、フィールド上の獣族・獣戦士族1体の攻撃力に、そのモンスターの守備力を加える。
発動ターンのエンドフェイズに対象モンスターは破壊されてしまうが、この状況では何も問題はなかった。
《神樹の守護獣-牙王》の攻撃力と守備力はそれぞれ3100と1900。つまり、《野性解放》の効果により攻撃力は5000まで上昇する。
対する《銀河眼の光子竜》の攻撃力は《強者の苦痛》で800ポイント下げられ、2200。そして、関羽の現在のライフは2800ポイント。
つまり、牙王の攻撃により関羽のライフは尽きる。
「《神樹の守護獣-牙王》で、《銀河眼の光子竜》を攻撃……!」
先程と同じように、『メインフェイズ2を除き、カード効果の対象にならない』という牙王の効果により、光子竜は効果を発動することが出来ない。
「……これで終わり」
久々に出会った好敵手とのデュエルもこれで終わる。
一抹の寂しさを覚え、呂布は眼を閉じる。あとは『チーム劉備』の本陣を突破し、この場を離脱するのみ。
――それは、どうかな?
「っ!?」
突如聞こえた声に、呂布は眼を見開いた。
視線の先には、光子竜を組み伏せ、トドメを刺さんとする牙王の勇姿。そして、この攻撃の瞬間に発動されていたと思われる関羽の罠カード。
――《フォトン・ショック》
「……本当は使いたくなかったのだがな。
このカードは、私の「フォトン」モンスターが相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算時に発動できる。
この戦闘で発生する私への戦闘ダメージ貴様にも与える!」
それが意味することは、2800の戦闘ダメージを呂布も受けるということ。現在の呂布のライフポイントは1000。すなわち、このデュエルは
関羽がカード効果を言い終えたと同時、光子竜はついに地面に倒れ伏し、辺りには爆風が吹き荒れる。
その暴威を直接受けた関羽と呂布のライフは尽き、両者共に地面へと投げ出された。
関羽 LP2800 → LP 0
呂布 LP1000 → LP 0
◆
「愛紗!」
ライフが0になった衝撃で吹き飛ばされ、地面へと叩きつけられた愛紗。
彼女に駆け寄ると、デュエルディスクを杖代わりにしてなんとか立ち上がるところだった。
「申し訳、ありません。奴に勝つことが出来ません、でした……」
「気にするなよ。あの常勝無敗の『三國無双』と引き分けたんだ。恥じることはないさ」
呂布とのデュエルは想像以上に過酷だったのだろう。俺が愛紗を支えてやると、全身でもたれかかってきた。どうやら、立っているだけでやっとの状態らしい。
「愛紗はゆっくり休んでいてくれ。後は俺達が呂布を説得して――――!?」
愛紗から視線を外して呂布が吹き飛ばされた方へと目を向ける。
そこには、衣服の所々にダメージを負いながらも、悠然と佇む『三國無双』の姿があった。
まさか、あの衝撃を受けても、未だ余力を残しているというのか!?
「お前、強い。……決着はまた今度つける。
…………陳宮」
「ここにおりますぞ! 魔法発動! 《燃えさかる大地》!!」
呂布の後方に控えていた小さな少女、陳宮。
彼女がデュエルディスクにカードを挿入すると、突如現れた火炎が辺り一面を埋め尽くす。
《燃えさかる大地》は、フィールド魔法を全て破壊し、お互いのスタンバイフェイズ時、ターンプレイヤーに500ポイントのダメージを与える永続魔法。
デュエルは既に終了しているので、前半の効果は何の意味もないが、後半の効果で俺達に損害を与えようという魂胆か。
「くっ! カード効果を現実に干渉させるだとっ!?」
「はーっはっはっはっですぞ! 周囲を火の海にした後、さっさと逃げさせて頂きます!」
言うやいなや、2人は
引き際を良くわかっているのだろう。消火作業の傍らに呂布達の行方を捜索したが、どこへ逃げたのかという情報は何一つ入ってこなかった。
消火作業を終えると、俺達の元に『孫策達が虎牢関を落とした』という連絡が届いた。どうやら、俺達が頑張っている裏で、虎牢関の守備兵を倒していたらしい。
孫策に何らかの因縁があるらしい華雄は、『孫策め。手柄だけを横取りするとは、なんて卑怯な奴だ!』と憤っていた。もっとも、それは華雄のみで、『チーム劉備』の他のメンバーはそれ程気にしていなかった。
愛紗が呂布と互角のデュエルを繰り広げたという名声は、今後の戦いの中で大きな力となるだろう。だから『虎牢関を落とすという一過性の手柄程度、別にいいよね』というのが桃香を始めとした俺達の総意であった。
『チーム曹操』も、洛陽の民に対してカードの支給を行うのだとか。おそらく、曹操の名を、洛陽の民の頭にではなく、デッキに刻もうという考えなのだろう。
あと、『チーム袁紹』もカードを施すとか言っていたが、どうせ反りまくったゴールドレアを渡すのだろう。正直な話、あんまり喜ばれないと思う。
ともかく、呂布と陳宮を説得出来なかったことは心残りだが、長く続いたこの戦いもあと少し。洛陽での戦いを終えれば、終止符が打たれる。
俺達『チーム劉備』は、戦いに巻き込まれた董卓ちゃんを助けだすという目的もある。華雄と約束したからな。絶対に成功させないと。
決意を新たに、俺達は連合軍の旗が並び始めた虎牢関に向かって、ゆっくりと軍を進めていった。
●オマケ1……その頃の『チーム公孫賛』
『チーム公孫賛』のリーダー、公孫賛。そして公孫越。彼女達は劉備達から少し離れた場所で関羽と呂布のデュエルを観察していた。
「1体のモンスターを1度のデュエル内で3回も場に出すとはな。私が見込んだ通り、奴のデュエルは私と似ている。
よし、同じドラゴン使いとして、改めて《
「やめてください、姉さん。これ以上チームの評判を悪くしないでいただけませんか。不愉快です。《黒炎弾》で焼き払いますよ」
やたらと《青眼の白龍》を布教しようとする公孫賛と、それを全力で阻止する毒舌少女、公孫越。今日も『チーム公孫賛』は平和だった。
●オマケ2……董卓ちゃんと賈駆さん
「
虎牢関が落ち、かつての仲間が散り散りになったという報が洛陽へと届く。
つまり、董卓を討たんとする連合はすぐそこまで迫っている。
親友を護るため、一刻も早くこの街から逃げなければ。そう考えた賈駆は大急ぎで董卓の元へと駆け込む。
だが、そこには窓を開けて虎牢関の方角を見つめる少女の姿があった。
「来るよ、詠ちゃん。私と同じ力を持つ決闘者が……! どんな人かわからないけど、私の持つこのカードで、倒してみせる。
そのためにも、今からデッキ構築を――」
「そんなことはいいから、早く逃げるわよ!」
その後、渋る董卓を説得するのに1刻を費やした。
Q.白蓮さんが迷惑なキャラになってない?
A.忘れちまったさ。『普通』なんて言葉。by白龍長子
Q.1回のデュエルで3回も場に出されて疲れました。休みか欲しいです。(光の化身さん)
A.多分無理じゃないかな。
Q.私が悪役のように描かれている気がするのだが。(ナンバーズハンターさん)
A.気がついたらそうなっていた。すまぬ。
Q.あわわ、どのお店を探してもDDBが売り切れています。(匿名希望)
A.そんな貴女にパーフェクトルールブック。
Q.斗詩のデッキってどうなってるの?
A.とりあえず《ハンマーシュート》3積み。後は未定。
恋姫達にデュエルをさせるにあたって扱いに困ったキャラ、それが恋だったりします。
彼女は口数が少ないこともあって、カード効果をなるべく本人に説明させないようにしていましたが、なかなか難しいです。
また、今回のデュエルを書くにあたって【獣族】ってそこそこ強いのかもという印象を持ちました。今後、有能な獣族シンクロ・エクシーズ・ペンデュラムが出たら大化けする、かも?