遊☆戯☆王 Love†Princess   作:レモンジュース

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――決闘疾走(ライディングデュエル)
それはスピードの世界で進化した決闘(デュエル)
そこに命を懸ける、伝説の英雄の名を冠する少女達を人々は恋姫と呼んだ――



決闘疾走 馬超VS公孫賛!

 

 決闘疾走(ライディングデュエル)専用訓練場。

 俺が持つ知識と『チーム劉備』の工作班の技術の粋を結集させて作り上げられた、決闘疾走の技術を高めるための訓練場である。この訓練場では、日々『チーム劉備』の決闘疾走者達が訓練に励んでいる。

 そして今俺は5階建ての観客席の最上段・最前列に立ち、これから始まる決闘疾走を行う2人を見下ろしている。

 対戦カードは、数多くのデッキに対するメタとなる【ヴェルズ】を使用する決闘者・翠と《白龍長子》の異名を持つほどに《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》を愛する決闘者・白蓮。共にチーム上位の速さを誇る決闘疾走者だ。

 

「ねえ、ご主人さま。白蓮ちゃんと翠ちゃんってどっちが強いのかな?」

 

 隣で一緒に観戦している桃香が話しかけてくる。彼女はこの2人の決闘疾走を見るのは初めてらしく、どちらが強いのか気になるようだ。……チームリーダーなら本当は知ってなきゃいけないんだけど、今は黙っておこう。

 

「そうだな、普通に考えれば《ヴェルズ・オピオン》でブルーアイズの特殊召喚を封じることができる翠だろうな。翠が先攻をとって、初手で《ヴェルズ・オピオン》をエクシーズ召喚することができれば、それだけで白蓮の動きは大きく制限されるはずだ」

「じゃあ、翠ちゃんが有利ってこと?」

「桃香、俺は『普通に考えれば』って言ったろ? 白蓮だってそれは前にやったバトルロイヤルで理解しているはずだ。何らかの対策は用意しているさ」

 

 そう、翠と白蓮は以前バトルロイヤル決闘疾走でその矛を交えている。もっとも、あの時は互いを牽制し合っている間に漁夫の利を得たたんぽぽが1位を取った。そのため、ちゃんとした2人の決着は着くことが無かった。そこで『誰の邪魔も入らない決闘疾走がしたい』という2人の要望に応え、今回の場が設けられたのである。

 スタートラインに立つ翠と白蓮、そして彼女達の足となるDホースは、スタートの合図を今か今かと待ちわびている。そんな2人と2頭を見て、俺は初めてこの世界での決闘疾走を見た時の興奮を思い出していた。

 

 

 

 この世界ではDホイールを用いた決闘疾走は行われない。それを最初に聞いたときは、少なからずショックを受けた。デュエルアカデミアに通っていた頃は、俺は通常のデュエルはもちろんのこと、決闘疾走にも夢中になっていた。それこそ、必死でバイトして貯金し、Dホイールを購入したくらいだ。しかも、この世界に飛ばされる数日前には己の限界を超えた先にある揺るぎなき境地『クリアマインド』の極意を掴んだのだ。

 それを行うことが出来なくなったのだから、この衝撃の真実は俺に大きな精神ダメージを与えるのに十分だった。

 その後、この世界の決闘疾走はDホイールではなく馬、Dホースに乗って行うのだと聞いた時は『馬で決闘疾走だと!? ふざけやがって!』と毒づいたものだ。馬ではバイク程のスピードは出ない。Dホイールを駆る時のような快感は得られないだろう、そう考えていた。

 しかし、その考えは黄巾党討伐の中で曹操と共闘した際に180°変わることとなった。

 Dホースと呼吸を合わせ、草原を駆け抜ける爽快感。Dホイールとは違い、Dホースという仲間と共に育む絆パワー。

 こうした魅力を、彼女は言葉ではなく決闘疾走を見せることで俺に教えてくれた。Dホースを駆る彼女が発したフィールは、覇王になるであろう片鱗があった。

 それ以降、俺はこの世界でも決闘疾走を行うために、乗馬の訓練をしている。今はまだ乗れるようになっただけという段階だが、いつか必ずDホースで『クリアマインド』に到達してみせる!

でも、曹操が『最高に高めた私のフィールで、最強の力を手に入れてやるわ!』とか、『もっと速く疾走れー!』とか、ヤバイ顔で叫んでいたのを見た時は正直ドン引きした。

 

 

 

「ご主人さま、準備ができたみたいだよ!」

 

 桃香の声に、俺は我に返る。再びスタートラインに目を向けると、スターターを務める兵士が旗を上空に掲げている。それと共に、つい先程まで観客席を埋め尽くしていた人々の声が静まり返る。

 声が止んだことを確認したスターターが、カウントダウンを開始する。

 

 

 10……9……8……

 

 翠が愛馬の手綱をきつく握り直す。

 

 7……6……5……

 

 白蓮が(あぶみ)を踏みしめ、身体を前へと傾ける。

 

 4……3……2……

 

 桃香がゴクリ、と息を呑む。

 

 1……

 

 そして、

 

 ……0!

 

 旗が振り下ろされ、2人は一斉に飛び出した!

 

「「決闘疾走、アクセラレーション!!」」

 

 

 

 

 通常のデュエルにおいて、先攻後攻は相手に譲る場合を除き、デュエルディスクによって自動的に決められる。だが、決闘疾走は違う。第1コーナーを制したものが先攻を取ることができるのである。

 そして、デュエルでは基本的に先攻が有利だと言われている。その理由は、相手よりも多い手札で動くことができるからだ。

 例えば、あらゆる召喚行為を無効化するカウンター罠《神の警告》を伏せることで相手のモンスター召喚を妨害する、デッキからカードを手札に加えることを封じるモンスター《ライオウ》を召喚する、といったものが挙げられる。

 特に今回のような馬超と公孫賛のデュエルでは、どちらが先攻を取れるかが勝負のカギを握る。一刀が述べたように、馬超のデッキには《ヴェルズ・オピオン》というモンスターエクシーズが存在する。このモンスターはオーバーレイ・ユニットを持つ限り、レベル5以上のモンスターの特殊召喚を封じる。つまり、レベル8の《青眼の白龍》を主力とする公孫賛にとってこのモンスターは天敵なのである。

 

「翠! この決闘疾走、先攻を譲るわけにはいかない!」

 

 その胸中に秘める闘志の如き赤い髪をなびかせ、《白龍長子》公孫賛が叫ぶ。

 彼女がこの決闘疾走で馬超を相手に先攻を取るためには、ブレーキング勝負が必要だと考えていた。

 ブレーキング勝負とは、コーナー直前でのブレーキ勝負。減速するタイミングが早すぎれば追い越され、逆に遅すぎれば曲がれきれずにコースアウト。猪突猛進の馬超ならばこうした駆け引きは苦手なはず。馬超のDホース・紫燕のような最高速度は出せずともこれなら先攻を取ることができる! そう白蓮は確信したのだ。だが――

 

「紫燕、加速だ!」

「な!?」

 

 インコースを走っていた馬超が、コーナー直前で加速した。急加速により、彼女はトレードマークである茶色のポニーテールをより一層なびかせ、そのまま公孫賛を引き離すと第1コーナーを曲がりきった。

 

「ここで加速するか、普通!?」

「へへ、あたしにはブレーキング勝負なんて難しいことは苦手だからな。インコースに入って加速するための訓練を積んできたんだ! てことで、先攻は貰ったぁ! ドロー! あたしは、《ヴェルズ・カストル》を召喚!」

「く……! カストルを召喚したってことは、もうアレが来るのか……!」

 

 《ヴェルズ・カストル》が召喚されたことで、公孫賛は顔を顰める。このカードは、召喚に成功したターン、もう一度だけ「ヴェルズ」と名のつくモンスターを通常召喚できる戦士族モンスター。つまり次に馬超が行う行動は当然――

 

「カストルの効果だ、《ヴェルズ・ヘリオロープ》を通常召喚!」

 

 《ヴェルズ・カストル》の隣に、岩石の身体を持つ人型のモンスターが現れる。2体のモンスターのレベルは共に4。これにより、エクシーズ召喚の条件が整った。

 

「行くぜ! あたしは、レベル4のカストルとヘリオロープでオーバーレイ! 2体の「ヴェルズ」モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚!」

 

 疾走する馬超の上空に渦が巻き起こり、紫色の球体となった2体のモンスターが吸収される。

 

「闇に侵食されし第二の氷結龍! その力を以て、敵を封じ込めよ!」

 

 そして爆発が巻き起こり、漆黒の鱗を持つ龍が姿を現す。

 

「来い! 《ヴェルズ・オピオン》!」

 

 闇の龍の咆哮が轟く。そのプレッシャーが公孫賛のDホースを一瞬とはいえ竦ませてしまう。

 

「まだまだ! オピオンの効果発動! オーバーレイ・ユニットを1つ使うことで、デッキから「侵略の」と名のついた魔法・罠を1枚手札に加える!」

 

 馬超が《ヴェルズ・オピオン》のオーバーレイ・ユニットとなっていた《ヴェルズ・ヘリオロープ》を墓地に送ると、それと入れ替わるようにデッキから1枚の魔法カードが飛び出す。

 彼女が手札に加えたカードは、《侵略の汎発感染》。このカードは「ヴェルズ」と名のつくモンスターを魔法・罠の効果から守る速攻魔法。これにより、2550というランク4のモンスターエクシーズの中でも高い攻撃力を持つ《ヴェルズ・オピオン》を、モンスターで対処する以外の方法がほぼなくなってしまった。

 

「あたしはカードを3枚伏せて、ターンエンド! 見たか、白蓮! この布陣、どう突破する!?」

 

 エースモンスターと3枚の伏せカード。完璧とも言える布陣に、先攻1ターン目とはいえ馬超は勝利を確信し、背後の公孫賛に向かって早くも勝利宣言を述べる。だが――

 

「ふぅん。そんなもの簡単さ」

「なんだと!?」

 

 そう、公孫賛は『それはどうかな?』と言わんばかりに笑みを浮かべ、馬超の勝利宣言をあっさりと否定したのだ。

 

「オピオンに加えて、汎発感染を含めた伏せ3枚。完璧だと思う気持ちはよく分かる。さすがだと言いたいが、甘いぞ翠! 私のターン、ドロー!」

 

 公孫賛は、その言葉がハッタリではないことを示すかのように、迷いなくカードをドローする。

 

「私は、手札から攻撃力300のドラゴン族チューナー《伝説の白石(ホワイト・オブ・レジェンド)》を捨てて、魔法カード《調和の宝札》を発動! このカードは、手札から攻撃力1000以下のドラゴン族チューナーを捨てることで、カードを2枚ドローする! よって、新たに2枚のカードをドロー!」

 

 2枚のカードを消費し、2枚を新たに手札へと加える。これだけならば、ただの手札交換。しかし、これだけでは終わらないのが公孫賛のデュエルだ。

 

「ここで、《伝説の白石》の効果発動! このカードが墓地に送られた時、デッキから《青眼の白龍》を手札に加える! この効果は強制効果、つまりコストで墓地に送られたとしてもタイミングは逃さない!」

 

 《伝説の白石》の効果により、公孫賛のエースモンスター、《青眼の白龍》が手札に加わる。これにより手札は7枚。つまり、ターン開始時よりも手札を増やしたことになる。

 

「さらに、今手札に加えた《青眼の白龍》を捨てて、魔法カード《トレード・イン》を発動!」

 

 《トレード・イン》は、手札からレベル8のモンスターを捨てることで、カードを新たに2枚ドローするカード。なんと、彼女はこのターンだけで4枚の手札交換を行ったことになる。

 

「だが、白蓮! 《死者蘇生》のようなカードでそいつの特殊召喚を狙ってるんだろうけどな、《ヴェルズ・オピオン》の効果でレベル5以上のモンスターの特殊召喚は封じられている! どうするつもりだ!?」

 

 《青眼の白龍》は効果こそ持たないが、その攻撃力は3000を誇り、全ての通常モンスターの中の頂点に君臨している。また、通常モンスターゆえにサポートカードは多く、様々な特殊召喚方法がある。

 しかし、馬超の言うとおり《ヴェルズ・オピオン》の効果によってレベル8の《青眼の白龍》の特殊召喚は不可能。公孫賛はどうすると言うのだろうか。

 

「ふぅん、こうするのさ! 私はライフを2000ポイント支払うことで、魔法カード《スター・ブラスト》を発動! このカードは、500の倍数のライフポイントを支払うことで発動し、手札かフィールドのモンスター1体のレベルを支払ったライフ500ポイントにつき1つ下げる! 私が選択するカードは《青眼の白龍》!」

 

公孫賛 LP8000 → LP6000

 

「初手から握ってたのか! しかも、2000のライフを支払ったってことは――」

「そうさ! レベル8のブルーアイズのレベルは4となり、リリース無しで通常召喚できる!」

 

 公孫賛は、レベルを下げられた《青眼の白龍》をデュエルディスクへと叩きつける。同時に辺り一面が光に包まれ、そこから白き鱗と青き眼を輝かせた巨大な龍が現れる。

 この白き龍こそ、強靭にして無敵を誇る、公孫賛の魂のカード。

 

「来い、《青眼の白龍》!!」

 

 白き龍が雄叫びを上げると、対峙した黒き龍はその身体を竦ませる。無理もないだろう。デュエルモンスターズの黎明期より『最強』の名を守り続けてきたモンスターの威圧を受け、正気を保っていられるモンスターなどいるはずがない。

 

「さらに、装備魔法《巨大化》をブルーアイズに装備する!」

 

 デュエルディスクに装備魔法が挿入され、その効果が《青眼の白龍》へと及ぶ。すると、《巨大化》の名が示すように、白き龍の身体が大きくなっていく。

 《巨大化》は、使用者のライフポイントが相手よりも少ない場合、装備モンスターの元々の攻撃力を倍化させるカード。公孫賛の現在のライフポイントはスター・ブラストのライフコストによって6000。条件は満たしている。白き龍の元々の攻撃力は3000。よって――

 

「こ、攻撃力6000!?」

 

 その姿、もはや最強を超えて『無敵』。召喚時の雄叫びをなんとか耐え切った馬超も、巨大化した《青眼の白龍》を前にして、驚愕の声を上げる。いや、馬超だけではない。彼女が跨る愛馬・紫燕までもがその身体を震わせている。

 

「ビビっている暇は無いぞ! ブルーアイズよ、その聖なる息吹で邪悪なる龍を粉砕しろ!」

 

 公孫賛が攻撃命令を出すと、《青眼の白龍》は息を吸い込み、攻撃の準備を行う。対する馬超はそうはさせまいと、伏せられていた3枚のうち、1枚を発動する。

 

「罠発動! 《聖なるバリア -ミラーフォース-》! 相手モンスターの攻撃宣言時に発動し、相手の攻撃表示モンスターを全て破壊する! ブルーアイズには消えてもらう!」

 

 《ヴェルズ・オピオン》の前に光の盾が展開される。その輝きによって白き龍の息吹を跳ね返すそうと、黒き龍は待ち構える。だが――

 

「甘い! 速攻魔法《我が身を盾に》! ライフを1500ポイント支払うことで、『フィールド上のモンスターを破壊する効果』の発動を無効にして破壊する!」

「な!?」

 

公孫賛 LP6000 → LP4500

 

 公孫賛のデュエルディスクより発せられた光が、聖なる輝きにぶつかり相殺される。これにより、白き龍の息吹を防ぐ手段は無くなった。

 

「喰らえ! 滅びのバーストストリーム!!」

 

 白き龍より解き放たれた聖なる息吹が、《ヴェルズ・オピオン》に直撃する。その圧倒的な衝撃に為す術もなく、黒き龍はあっけなく爆散する。

 

「うわああああ!?」

 

馬超 LP8000 → LP4550

 

 3450という莫大な戦闘ダメージから発せられる衝撃が馬超を襲い、その身体を揺らす。彼女のような乗り手でなければ、この一撃によって落馬していたことだろう。

 だが、大ダメージを受けてスピードを落としたために、公孫賛に追い越されてしまう。

 

「これが《白龍長子》・白蓮のフィール……。やっぱ凄いな……。大丈夫か、紫燕」

 

 馬超が愛馬へと声をかけると、『まだ大丈夫だ』と言わんばかりの嘶きを返した。

 

「よし。それじゃあ次のターンで反撃だ!」

 

 馬超は反撃へ移るために気を引き締め、前方を走る公孫賛を強く見据える。

 

「私はカードを1枚伏せる!」

 

 公孫賛はカードを1枚伏せ、ターン終了を宣言しようとする。そしてこのタイミングで、馬超は伏せられていたカードを発動した。

 

「罠発動! 《エクシーズ・リボーン》! 墓地のモンスターエクシーズを復活させ、このカードをオーバーレイ・ユニットとする!」

 

 倒したはずの黒き龍が復活し、その身体の周囲を《エクシーズ・リボーン》により生み出された闇色の球体が旋回する。これにより、再びレベル5以上のモンスターを特殊召喚できなくなる。

 

「くっ、ターンエンドだ……!」

「どうやらその顔、伏せたのは《リビングデッドの呼び声》ってところか。どうやら流れはこっちに傾いてるみたいだな! あたしのターン、ドロー! 《ヴェルズ・オランタ》を召喚!」

 

 馬超の前に、闇の如く暗い炎を纏った人型のモンスターが現れる。その攻撃力は1650と、攻撃力が6000となっている《青眼の白龍》には遠く及ばない。だが――

 

「オランタの効果発動! 自身をリリースして、相手の表側表示のモンスターを破壊する!」

「な、効果破壊!?」

 

 暗き炎の戦士がより一層燃え上がり、白き龍へと特攻する。その直撃と同時、巨大な爆発が巻き起こり両者は砕け散った。

 

「ブルーアイズ!」

 

 自身の分身とも言えるモンスターを破壊され、公孫賛は声を荒げる。一刀がその表情を見れば、『般若のようだ』と言っていただろう。

 

「これで場はがら空き! 行け、《ヴェルズ・オピオン》! 直接攻撃(ダイレクトアタック)だ!!」

 

 黒き龍が放つ闇の奔流が公孫賛を襲う。場にカードは無く、手札誘発のカードも持っていなかった彼女は、なんの抵抗もなくその生命(ライフ)を削り取られる。

 

「くっ……!」

 

公孫賛 LP4500 → LP1950

 

 この攻撃により公孫賛の残りライフポイントは初期ライフポイントの4分の1を切り、優位から一転、劣勢に立たされてしまった。

 さらに一度は追い越したDホースも、再び順位を逆転されてしまう。

 

「あたしは、カードを1枚伏せてターンエンド! どうだ、形勢逆転だ!」

 

 『無敵』と思われた白き龍を倒し、直接攻撃を成功させたことで勢いを取り戻した馬超は、意気揚々にカードを伏せ、ターンを終了した。

 

 

 

 

「ふわ~、翠ちゃん凄い……。白蓮ちゃんのブルーアイズを倒しちゃった……」

「ああ、さすが《錦馬超》といったところか」

 

 第3ターンが終了し、現在翠のライフは4550。対する白蓮は1950。

場は翠の方はオピオンに加えて《侵略の汎発感染》を含む2枚の伏せカード。白蓮は伏せカードが1枚。このターン発動できなかったことから、アレは恐らく《リビングデッドの呼び声》のような蘇生系のカードのはず。

 そして手札は翠が1枚で、白蓮は2枚。だが、白蓮の表情を見る限り、あの手札では今の状況を覆すことが難しいのだろう。

 

「ご主人さま、もしかしてこの決闘疾走、このまま翠ちゃんが勝っちゃうのかな?」

 

 桃香がそう思うのも無理はない。今伏せられたばかりのカードは、十中八九《侵略の汎発感染》と同じく相手の行動を阻害するカード。次のドローでどうにかしなければ、恐らく白蓮に勝ち目はない。さあ、どうする白蓮。

 

「それは白蓮の次のドロー次第だろうな。というか、桃香は白蓮を応援しなくていいのか?」

「もちろん応援してるよ、友達だもん!」

「じゃあ翠は?」

「翠ちゃんも応援してるよ!」

「つまり?」

「どっちも応援する!」

 

 なるほど、桃香らしい。まあ、俺も両方応援してるんだけど。さて、この決闘疾走の行方はこの先どうなるのか。

 眼下では、白蓮が逆転の一手を掴み取るためのドローを行おうとしていた。

 

 

 

 

「……確かにこの状況、逆転するのは一苦労、だな」

 

 ポツリ、と。誰に語りかけるでもなく、公孫賛は声を漏らす。

 倒したはずの《ヴェルズ・オピオン》が復活し、《青眼の白龍》は破壊され、極めつけは2枚の伏せカード。現状を打開するためのカードは今彼女の手札には存在しない。そのため、このドローで逆転のカードを引き当てるしか無い。

 それでも、やるしかない。メタを張られたままこのまま何もできずに終わるのは、《白龍長子》の名が廃る。だから、諦めずにその一歩を踏み出す! 一刀が授けてくれた、かっとビングの精神で!

 

「私のターン、ドロー!」

 

 公孫賛は、デッキより抜き放ったカードを確認する。逆転のため、彼女が掴みとった一手は――

 

「来た! 私は速攻魔法《スペース・サイクロン》を発動! フィールド上のオーバーレイ・ユニットを1つ取り除く!」

 

 デュエルディスクより発生した竜巻が《ヴェルズ・オピオン》へと突き進む。この効果が通れば、レベル5以上のモンスターの特殊召喚ができるようになる。

 さすがにこれは通せない。そう考えた馬超は、最初のターンから伏せられていたカードを発動する。

 

「やらせるか! 速攻魔法《侵略の汎発感染》! 「ヴェルズ」モンスターを魔法・罠の効果から守る! これで――な!?」

 

 湧きだした黒い霧が《ヴェルズ・オピオン》を包み込み、竜巻の行く手を阻もうとする。だが竜巻はその霧を突き抜け、そのまま闇色の球体を吹き飛ばしてしまった。

 

「なんでオーバーレイ・ユニットが取り除かれるんだよ! まさか故障!?」

 

 魔法効果を防ぐはずのカードが何の用も成さず、馬超は狼狽える。

 

「いや、故障じゃないさ。《スペース・サイクロン》はモンスターではなくフィールド上(・・・・・・)に影響を及ぼすカード。つまり、カード効果を受けないモンスターでもこの効果を防ぐことはできない!」

 

 これこそが《ヴェルズ・オピオン》を打ち倒すための逆転の一手。そして公孫賛は更なる反撃へと打って出る。

 

「これでブルーアイズの特殊召喚が可能となった! 行くぞ、私は《青き眼の乙女》を召喚して、《ワンダー・ワンド》を装備する!」

 

 その名の通り、青き眼を持った美女が姿を現す。またその髪は白く、まるで《青眼の白龍》を女性にしたかのよう。

 そんな彼女の手に、緑色の球体を先端に取り付けた杖が握られる。その効果により、攻撃力を500ポイント上昇させる。

 

「この瞬間、《青き眼の乙女》の効果発動! このカードがカード効果の対象になった時、手札・デッキ・墓地から《青眼の白龍》を特殊召喚する! 来い、ブルー――」

 

 デッキに眠る3枚目の《青眼の白龍》を呼び出すために、公孫賛はデッキに手をかざす。だが、それを馬超は許さない。

 

「速攻魔法《禁じられた聖杯》を、《青き眼の乙女》を対象にして発動! 攻撃力を400ポイントアップさせ、その効果を無効にする!」

 

 《青き眼の乙女》の上空より水が降り注ぎ、白き龍を呼び出すために発光していた彼女の身体は輝きを失っていく。

 

「ちぃ! これじゃデッキのブルーアイズが呼べない!」

「よし、これで!」

 

 《青眼の白龍》の特殊召喚を防いだことで、馬超の表情に余裕が戻る。だが――

 

「ふぅん、ならばこうするまで! 永続罠発動、《リビングデッドの呼び声》!」

「やっぱりそのカードを伏せていたのか!」

 

 予想していたとはいえ既に《青眼の白龍》を蘇生されるというのは脅威である。背後を振り向き、歯噛みした馬超の眼前では、再び降臨した白き龍が羽撃いていた。

 

「更に、《ワンダー・ワンド》のもう一つの効果発動! 装備モンスターと共に墓地に送ることで、カードを2枚ドローする!」

 

 杖と共に碧眼の美女が墓地へと吸い込まれ、それと入れ替わるように公孫賛の手に2枚のカードが握られる。

 

「バトルだ! ブルーアイズで《ヴェルズ・オピオン》に攻撃! そしてダメージステップ、速攻魔法《突進》を発動! ブルーアイズの攻撃力を700ポイントアップさせる!」

 

 魔法カードの効果を受け、白き龍の息吹がその威力を増す。その強烈な一撃を再び受け、《ヴェルズ・オピオン》は砕け散った。

 

馬超 LP4550 → LP3400

 

「私は、カードを1枚伏せて、ターンエンド。さあ、次で決めさせてもらう!」

 

 公孫賛は魔法・罠ゾーンにカードを挿入し、ターンを明け渡す。彼女の表情は、最初のターンに馬超が見せていたもの以上に、自身の勝利への確信が感じられた。

 一方の馬超は、かなりの焦りを覚えていた。相手の行動を封じ、優位に立つ戦法を得意とする「ヴェルズ」を使役しているにも関わらず、逆に自分が追い詰められている。しかも、最上級モンスターを主力とする相手に、だ。

 このままでは終われない。《錦馬超》として、いや、一人の決闘者として、勝ちたい。

 その思いが届いたのか、愛馬が力強く嘶いた。

 

「紫燕……。ああ、そうだよな。次のドローで逆転するぞ!」

 

 再度気合いを入れ直した馬超は、フィールを高め、最高のドローを行うために速度を上げていく。その速度は今まで彼女達が出した記録を遥かに上回っていた。

 

「あたしのっ、タァアアアン!」

 

 渾身の、今できる最高のドロー。馬超は速度を保ったままそのカードを確認する。

 

「よし! これなら!」

 

 逆転への一手を手にした彼女は、まずはそのカードを手に収め、既に手札にあったカードを繰り出す。

 

「あたしは、《ヴェルズ・マンドラゴ》を守備表示で特殊召喚! このモンスターは、相手の場のモンスターの数が自分よりも多い時、手札から特殊召喚できる!」

 

 地面からマンドラゴラに似た植物が湧き出し、馬超と併走する。おぞましい外見を持つモンスターが多い「ヴェルズ」モンスターだが、この植物型モンスターからは、なぜか愛嬌が感じられる。

 

「そしてあたしはこいつを召喚だ! 来い、《ヴェルズ・ケルキオン》!」

 

 続いて繰り出されたのは、両手にそれぞれ杖を携えた魔法使い。邪悪な力を持つはずの「ヴェルズ」モンスター。しかし、手に持った杖はむしろ正反対の神聖さを醸し出していた。

 このモンスターは、墓地の「ヴェルズ」モンスターを除外し、他の「ヴェルズ」モンスターを手札に戻す効果がある。さらに、その効果を適用したターンはもう一度だけ「ヴェルズ」モンスターを通常召喚できる。

 その効果で、《ヴェルズ・オランタ》を回収して召喚。そして効果を発動して再度《青眼の白龍》を破壊して公孫賛の場をがら空きにし、《ヴェルズ・マンドラゴ》と《ヴェルズ・ケルキオン》で攻撃力2350の《ヴェルズ・タナトス》をエクシーズ召喚。そのまま直接攻撃を決めれば、馬超が勝利を収めることができる。

 

「あたしは、ケルキオンの効果――」

 

 ――発動。馬超はそう宣言しようとした。だが、言い終える前に突如《ヴェルズ・ケルキオン》の姿が掻き消えた。

 

「な!? いったい何が!?」

 

 今度こそ勝利を確信したはずが、逆転への一手が消滅するという突然の出来事に思考が追いつかない。

 

「ふぅん。それは、ケルキオンの召喚時にこのカードを発動していたからさ」

 

 いつの間にか併走していた公孫賛。彼女の眼前には1枚のカードが展開されていた。

 

 

 《王者の看破》

 

 使用者のフィールド上にレベル7以上の通常モンスターが存在する場合のみ発動できるカウンター罠。その効果は、魔法・罠の発動、及びモンスターの召喚・特殊召喚・反転召喚を無効にし、破壊するというもの。まさに、最上級通常モンスター専用の《神の宣告》。

 公孫賛の場にはレベル8の通常モンスター《青眼の白龍》が存在する。これにより、《ヴェルズ・ケルキオン》の召喚を無効にして破壊したのだ。

 

「……ターン、エンドだ」

 

 最後の希望を打ち砕かれ、手札も尽きた。打つ手が無くなった馬超は悔しさに顔を歪ませ、公孫賛へとターンを明け渡す。

 紫燕にもその失意が伝わったのか、その速度は落ちていく。結果、2人の順位は逆転してしまうのだった。

 

「ふぅん。私のターンだ、ドロー!」

 

 公孫賛がカードをドローする。前の彼女のターンの宣言通り、このターンが最後となるのだろうか。

 

「どうやら、宣言通りこのターンで終わるようだな。私は、《スピア・ドラゴン》を召喚する!」

 

 完全なる勝利宣言を下した公孫賛が召喚したのは、槍の如き鋭い口を持った青き鱗の龍。

 

「そして、《スピア・ドラゴン》は相手の守備表示モンスターを攻撃し、その攻撃力が守備力を上回っていれば、相手に貫通ダメージを与える!」

「くっ……!」

「やれ、《スピア・ドラゴン》! 《ヴェルズ・マンドラゴ》を攻撃! ドラゴン・スクリュー!」

 

 青き龍は、その鋭い口を以て突撃することはなく、息吹を打ち出した。

その攻撃力は1900。守備力1450の《ヴェルズ・マンドラゴ》を粉砕する。そして、その効果により馬超に貫通ダメージを与える。

 

馬超 LP3400 → LP2950

 

 最後の壁が消え去り、馬超を守るものは何も無くなった。そして――

 

「ブルーアイズよ、翠にトドメだ! 滅びのっ! バァーストッッ! ストリィイイイイイイムッッッ!!」

 

 白き龍が咆哮し、放たれた最大の一撃が馬超を襲う。3000という莫大な攻撃力を直接その身に受け、ライフポイントを削り取られた彼女は、愛馬もろとも吹き飛ばされていった。

 

馬超 LP2950 → LP0

 

 

 

 

「2人共、お疲れ様」

 

 白熱した決闘疾走が終わって数分後。俺は桃香と共に白蓮達の控室へと訪れていた。

 

「おお、桃香に北郷! 私達の力、見てくれたか!?」

 

 本来苦手とする【ヴェルズ】を扱う翠に勝ったことが余程嬉しかったのだろう。白蓮はいつにも増して上機嫌な声音で声を返してきた。

 

「もちろんだよ♪ あの翠ちゃんに勝っちゃうんなんて、やっぱり白蓮ちゃんは凄いよ!」

 

 桃香も親友が勝利を収めたことが嬉しいのか、自分のことのように喜んでいる。

 俺はそんな2人を横目に、部屋の隅の椅子に腰掛けて俯いている翠へと話しかけた。

 

「翠も惜しかったな、相性がいいはずの相手に負けるってのはやっぱ悔しいよな」

 

 俺の労いの言葉に翠は顔を上げる。悔しげな表情を浮かべているのだろうと予想していたが、予想に反してその顔は晴れやかだった。

 

「あれ? けっこう平気そうだな」

「まあ、な。確かに悔しかったけど、それはあたしのデッキ構築が甘かったせいだからな。次に勝てるようにデッキを作りなおすことにするよ」

 

 そう言った彼女は勢い良く立ち上がると、桃香と白蓮の元へと歩いて行く。

 

「なあ、白蓮」

「ん? どうした、翠」

 

 白蓮と翠の間に漂う少し緊張した空気は、デュエル前に感じられたギスギスしたものでは無かった。むしろ、お互いを認め合ったライバル同士が作り出す心地よいものだった。

 

「今回はあたしの完敗だ。だけど、次は絶対に負けないからな!」

「……! ああ、望むところだ! 今度やる時は究極竜(アルティメット・ドラゴン)で返り討ちにしてやるさ!」

 

 決闘疾走者として元々良いライバル関係だった白蓮と翠。どうやら、この決闘疾走がその絆を更に深めるきっかけとなったらしい。

 やっぱりデュエルは凄い。ただ一度ぶつかり合うだけで、お互いのことを分かり合い、絆を深めることができるのだから。

 俺も2人に負けていられないな。もっとDホースの訓練を積んで、必ずこの世界でも決闘疾走者として俺の名を轟かせてみせる!

 

 

 

 

 

●オマケ1……白

 

 

白蓮「北郷、私の活躍を見たんだし、ブルーアイズを使う気に――」

一刀「なりません」

白蓮「服が白く輝いてるんだし、似合うと思うんだけどな~」

一刀「服は関係ないだろ、と何度言えばわかるんだ……」

 

 本気で制服を着るのをやめようと考える一刀さんであった。

 

 

 

●オマケ2……たんぽぽもいるぞ!in控室

 

 

蒲公英「ねえお姉様、《エクシーズ・リボーン》を温存しておけば、もしかして勝ってたんじゃないの~?」

一同『…………』

蒲公英「え、何この空気」

一刀「あれ? たんぽぽ、いたのか?」

蒲公英「ずっといたよ! 描写されてなかっただけで!」

 

 \俺もいるぞ!/

 

 

 

●オマケ3……管理者達の特訓風景

 

 

左慈「于吉、何故俺達は筋トレをしているんだ?」

于吉「デュエルで強くなるためです。熊を1頭伏せてターンエンド!」

左慈「まるで意味がわからんぞ!」

 

 デュエルマッスルは基本です。

 




Q.なぜ翠が【ヴェルズ】?
A.たまに意味不明な言語を発するから、つい。

Q.この時代に鐙ってあったっけ?
A.最強決闘疾走者のデュエルは全て必然! 鐙さえも決闘者が創造する!

Q.この社長化した白蓮が麗羽に負けたとか想像できないんだが。
A.俺もそう思う。

Q.最後に翠が吹っ飛んでたけど、ケガしてないの?
A.決闘者だから問題ない。崖から落ちてもほぼ無傷の人達だっているし。

Q.デュエルで身体を鍛える必要性がわからないんだが。(管理者Aさん)
A.ちゃんと鍛えないと、たまに発生するリアルファイトに対処できません。

 というわけで、今回は決闘疾走をやってしまいました。
 正直スタンディングとあまり変わらなかった気もするが。
 実際彼女達が決闘疾走やってるのを想像したら物凄くシュールな絵になるな、うん。
 あと、スピードスペルは色々なデッキが機能しなくなるので、期待していた人には申し訳ありませんが、使用しませんでした。
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