このカウンター罠は、自主規制しなければならないシナリオを無効にして、デュエルをさせる。
その効果で、我は拠点フェイズを書き換えたのだ。
by ドン・サウザンド
◆
それは、桃香と共にカードショップから戻り、デッキ調整でもしようかと考えていた時だった。
自室のドアを乱暴にノックする音に返事をすると、詠が大慌てで部屋へと飛び込んできた。
「ここにいたのね! ちょっと来なさい!」
「どうしたんだ、詠。何かあったのか?」
「とにかくさっさと来る!」
詳しい説明をしてもらえないまま、俺は庭へと連れ出された。そして、そこで繰り広げられていた光景を見て、説明をしてもらうまでもなく、大体の理由を察する。
「やっちゃえ、たんぽぽの
「そうはさせるか! やれ、《Sinサイバー・エンド・ドラゴン》!」
たんぽぽを守護するモンスター、アトラ、トリオン、カズーラ、ティオ。可憐な容姿の少女を模した
それに対し、焔耶はエースモンスターである三つ首の機械竜を呼び出し、その口より放たれる火炎弾によって蟲惑魔達が掘り進めた落とし穴を次々に破壊していく。
またやり合ってるのか、この2人は……。
本来ならデュエル中、
だが、現在彼女達はそれを
この世界では、一定の実力まで到達した決闘者はそのフィールによってモンスターを実体化させ、使役することが可能となる。
これこそが、
なお、『チーム劉備』では、詠以外の全ての決闘者が実力にバラつきはあるものの、その技術を身に付けている。
俺もある程度は仮想立体触感を使用できるが、たんぽぽのように4体のモンスターを同時に召喚したり、焔耶のように攻撃力4000の大型モンスターを召喚したりするまでには至っていない。
更に補足すると、この2人でさえ仮想立体触感の技術はチーム内で真ん中辺りだったりする。上位に位置するのは愛紗、月、星、恋。特に愛紗と月は「どちらが真の
まあ、それはともかく。
「なんとかしなさいよ、これ」
「そう言われてもなぁ……」
一応、2人が争う原因に1つだけ思い当たることはある。
桃香とカードショップに出かける前、たんぽぽに『焔耶の雰囲気が変わったけど、何かあったの?』と言い寄られた。
その際桃香は、数日前に俺達が焔耶と
たんぽぽはそれを聞いた途端、プンスカと怒り出し、どこかへと走り去ってしまったのだ。
それがまさか、こんなことになっているとは思ってもみなかったが。
「とりあえず、止めるか」
「頼むわよ。城の一部が破壊されたばかりなのに、庭までボコボコにされちゃたまんないわよ、はぁ……」
確かに銀河眼決戦で発生した修理費は凄まじかったからなぁ。こうしている間にも目の前では地面が変形し、爆音が轟き、見るに堪えない惨状が広がっていく。
「それじゃあ、後はお願い。ボクは部屋に戻らせてもらうわ」
「は? 詠は手伝ってくれないのか?」
「バカ言わないでよ。ボクにはアンタと違ってやることがいっぱいなの。……それに、胃が少し痛い」
「あー、それは悪かった。お大事にな」
詠は身体をふらつかせながら自室へと戻って行った。大丈夫かな、最近は以前より増して調子が悪そうだ。
デュエルドクターの華陀に診てもらった時も、『むしろ悪化したわよ!』とか言ってたし。
とにかく、2人を止めよう。
「焔耶! たんぽぽ! それくらいにしとけ!」
爆音に声をかき消されないよう、声を張り上げて2人の争いを静止する。
「あ、ご主人様!」
「お館……」
俺に気付いた2人は動きを止める。だが、モンスター達は召喚されたままだ。
「たんぽぽ。さっきの話で腹を立てたのはわかるけど、そこまで怒ることないんじゃないか?」
「ふ~んだっ。たんぽぽは、順列をはっきりさせとこうとしただけだもんっ。
あんなにご主人様のことを嫌ってたのに、今更好きになって! そんなのに偉そうな顔されちゃ困るし」
たんぽぽの言う通り、焔耶は桃香に対して過剰な愛情を向けており、桃香が想いを寄せる俺のことを毛嫌いしていた。
そんな彼女があの日以来、俺への態度が軟化されたのだ。
出会った時から俺に好意を向けているたんぽぽには、それが気に食わないのだろう。
「誰がこいつの事を好きなどと言った!
「隠したって無駄だよ~っ。桃香様に教えてもらったんだもんっ。ご主人様と愛し合って、凄く幸せそうだったって」
「ぐっ。この……!」
羞恥のあまり、顔を紅潮させる焔耶。わかるぞ、その気持ち。桃香のやつ、何もかも包み隠さず話しちゃうんだもんなぁ。横で聞いてた俺でさえ恥ずかしかった。
「でも、いい? たんぽぽの方が、あんたなんかよりず~っと、ご主人様の事を大好きなんだからっ。
具体的には、《千眼の邪教神》と《
ここで言う《千眼の邪教神》は、攻守共に0という最弱の通常モンスター。一方《F・G・D》は攻守共に5000という、固定ステータスでは最大を記録する超大型モンスター。つまり、10000ポイント分の差があると言いたいのだろう。大きく出たなぁ。
「だからっ……! でぇい!」
「待て待て待てって!」
俺が近くにいることを気にかけたのかは知らないが、今度は
「落ち着けって、たんぽぽ!」
「離してよご主人様! はっきりさせるの! こいつよりたんぽぽの方が立場が上だって!」
「別に、立場とか順列とか気にしなくても……」
俺の大切な人が立場とか順列を気にして争うのも、城内で大暴れするのも見たくない。
「じゃあさ、ご主人様。たんぽぽと焔耶、どっちの方が好きなの?」
…………は?
「すぐに答えられないのは分からなくもないよ。ご主人様って優柔不断だもん。
デッキ構築の時も1枚のカードを入れるかどうするかで1日費やすくらいだしね。
女の子のことだと尚更!」
言い返せない。だけど、仕方ないじゃないか。納得のいくデッキを作るには、相応の時間がかかるんだぞ。
女の子の件に関しては、大いに反省していますが……。
「まったく、順列だ立場だと、その程度のことでワタシに喧嘩をふっかけてきたのか、くだらん」
険のある言い方をするたんぽぽに対し、焔耶は心底呆れたように呟く。
「ワタシは別に、こんな男の事などどうでも良いというのに……。本当にくだらん」
良かった。ここで焔耶が引いてくれれば、喧嘩も終わってくれるはずだ。その後はこの荒れた庭を片付けさせよう。
「だが……」
え?
「このワタシが! お前のような小娘以下とされるなど、納得できるか!!」
「うぉ~いっ!?」
そう言って
鈍砕骨が叩きつけられた地面は、大きなクレーターができていた。華雄といい、焔耶といい、どうしてそこまで破壊力のあるデュエルディスクを使うのか。
「ご主人様どいて! アイツ殴れない!」
「そうだぞ、お館」
俺がたんぽぽを抱えているため、焔耶は全力を出さずにいてくれるらしい。良かった……のか?
「あのなぁ。2人共、今は『チーム曹操』との戦いを控えた大事な時期なんだぞ! 仮想立体触感で戦ったり、デュエルディスクで殴りあったりして! 危ないだろ!」
主に城内が。
それに今言ったように、もうすぐ『チーム曹操』との決戦なのだ。曹操が率いるチームは恐ろしく強い。そのため今はカードを揃え、プレイングを磨き、体力をつける必要がある。
俺が言った言葉が通じたのか。さすがに2人も黙り込み、召喚していたモンスターを引っ込めた。
口論やリアルファイトをしながらモンスターを実体化させることができるんだから、その熱意をもう少し別のところに回してもらいたいものだ。
「どうしても決着をつけたいなら……」
だが、彼女達はひとまずの決着がつくまで納得しないだろう。だから――
「おい、デュエルしろよ」
俺は2人に言った。決闘者ならデュエルで語れ、と。
この世界におけるデュエルは何よりも重い。デュエルで決めたことならば、誰も文句を言うことはできない。
「確かにご主人様の言う通りだよねっ! さっすがご主人様!」
「ふん、お館にしては正論だな。少し見直したぞ」
お館にしては、というのは余計だ。
因みに、デュエルを行うことにもある程度の危険が伴う。
強力なフィールを持つ決闘者同士のデュエルは、下手をすると大怪我に繋がるからだ。
汜水関の戦いでは、強靭な肉体を持つ華雄でさえ、雛里のフィールを受けてしばらく起き上がることも出来なかった程だ。そのため、決闘者たるもの常にデュエルで発生するダメージを念頭に置き、肉体強化に努めなければならない。
桃香も『運動なんてしたくないよ~』と、身体を動かすことを渋っていた時期もあったが、洛陽で月とデュエルしてからは積極的に鍛錬へと励むようになった。
「それじゃあ焔耶、覚悟しなさい! たんぽぽの【蟲惑魔】で翻弄してやるんだから!」
「望むところだ! ワタシの【Sin】が誇る圧倒的な力で叩き潰してくれる!」
2人は、改めてデュエルディスクを構え直す。
彼女達がデュエルするのを見るのは久しぶりかもしれない。さて、どんなデュエルを魅せてくれるのだろう。楽しみだ。
デュエルを始める理由はあまり褒められたものではないが、俺の心は浮き足立っていた。
「「デュエル!!」」
デュエルディスクによって先攻と後攻が決定される。
先攻となったのはたんぽぽ。先攻の最初のターンはドローフェイズを行えないが、妨害札を多く持つ彼女にとって、先攻を取れたことは大きなメリットとなる。
「たんぽぽのターン! 《カズーラの蟲惑魔》を召喚!」
薄布を纏った可憐な少女が、
彼女が乗ったものは、ウツボカズラ。虫が好む香りを発し、誘い込まれて袋状の消化器官に落ちた虫を捕食する植物だ。
今も、仮想立体映像により映しだされた蝶が袋に落ち、消化された。
「そして、カードを2枚伏せて、ターンエンド!」
2枚の伏せカード。《カズーラの蟲惑魔》を攻撃表示で召喚したということは、どちらかは
「ワタシのターン、ドロー! まずはフィールド魔法《オレイカルコスの結界》を発動!」
続く焔耶のターン。彼女がフィールド魔法を発動すると、2人の足元に魔法陣が出現した。
「このカードは、1ターンに1度だけ破壊されず、自分フィールドのモンスターの攻撃力を500ポイントアップさせる!
更に、エクストラデッキから《サイバー・エンド・ドラゴン》を除外することで、手札の《Sin サイバー・エンド・ドラゴン》を特殊召喚する!」
焔耶が呼び出した《Sin サイバー・エンド・ドラゴン》――。
白銀の装甲で覆われた《サイバー・エンド・ドラゴン》と異なり、白黒の鎧を纏っている。
焔耶が操る「Sin」モンスターは、多くが元となるモンスターをデッキまたはエクストラデッキから除外し、特殊召喚する効果を持つ。その条件により呼び出されるモンスターは、元となるモンスターと同じステータスを持つため、高い攻撃力を有している。
加えて、《Sin サイバー・エンド・ドラゴン》のように、ほとんどが身体の随所に白と黒を基調とした鎧を纏う。
高い
「バトル! 《Sin サイバー・エンド・ドラゴン》で、《カズーラの蟲惑魔》を攻撃!」
「そうはさせないよ! この瞬間、たんぽぽは罠カード《狡猾な落とし穴》を発動!
自分の墓地に罠カードが無い時だけ発動し、フィールドの2体のモンスターを破壊するよ!」
カズーラとSin サイバー・エンド、2体のモンスターの足元に落とし穴が出現する。本来なら相手のモンスターを選択すべきところだが、焔耶の場にはSin サイバー・エンドしかいないため、《カズーラの蟲惑魔》も選択しなくてはならない。
しかし、蟲惑魔は『「ホール」または「落とし穴」と名のついた通常罠の効果を受けない』という共通効果を持つ。つまり、破壊されるのはSin サイバー・エンドのみ。
よって、Sin サイバー・エンドは落とし穴へと引き込まれ、破壊されてしまった。
「ちぃっ……!」
「まだだよ! 《狡猾な落とし穴》を発動したことで、デッキから「蟲惑魔」モンスター、《ティオの蟲惑魔》を守備表示で特殊召喚!」
カズーラの効果により、新たな蟲惑魔が特殊召喚される。今度のモチーフはハエトリグサ。その名の通り、ハエなどの小さな虫を捕らえて消化吸収してしまう植物である。
カズーラといい、ティオといい、「蟲惑魔」モンスターは小悪魔っぽいたんぽぽに合っているっちゃ合っているけど、この不気味さには未だに慣れないなぁ。
「《ティオの蟲惑魔》の効果発動! このカードが特殊召喚に成功した時、墓地の「ホール」または「落とし穴」と名のついた通常罠カードをセットするよっ! たんぽぽがセットするのは、当然《狡猾な落とし穴》!」
再び《狡猾な落とし穴》がセットされる。あの罠は使用条件が厳しいものの、何度も発動することができれば、厄介この上ない。
「またその罠を使うつもりか。さすがだと言いたいが、甘いぞ蒲公英! 罠カードはセットしたターンに発動できない! ワタシは、速攻魔法《Sin Cross》を発動!
墓地の「Sin」モンスターを、召喚条件を無視して特殊召喚する!」
破壊された《Sin サイバー・エンド・ドラゴン》が復活する。エンドフェイズに除外されるデメリットがあるとはいえ、無条件で大型モンスターを復活させる速攻魔法はいつ見ても理不尽だと思う。
「今度こそ、その雑魚モンスターを粉砕してやる! 《Sin サイバー・エンド・ドラゴン》で、再び《カズーラの蟲惑魔》を攻撃だ!」
《Sin サイバー・エンド・ドラゴン》の三つ首が、それぞれ《カズーラの蟲惑魔》へと狙いを定めてエネルギーの充填を始める。その攻撃力は、《オレイカルコスの結界》によって強化され、4500ポイント。あの《
だが、焔耶は更に驚くべき行動に出る。
「ダメージステップに、速攻魔法《リミッター解除》を発動! 機械族の《Sin サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃力は倍となり、9000! これで終わりだ!」
たんぽぽの目が見開かれる。そう、《カズーラの蟲惑魔》の攻撃力はわずか800。この攻撃をまともに受けてしまえば、発生するダメージは8200。つまり――、
――1ターンキルが成立する。
「1Killなんて、させるわけないでしょ! 罠発動! 《スキル・サクセサー》! カズーラの攻撃力を400ポイントアップさせるよっ!」
例え攻撃力が400アップしたところで、攻撃力9000のSin サイバー・エンドには到底敵わない。
三つ首より放たれた光弾がカズーラを襲い、その大火力によって疑似餌もろとも焼き消され、爆散した。
「きゃあああ!?」
馬岱 LP8000 → LP200
7800という莫大な戦闘ダメージを受けたたんぽぽは、その小さな身体を後方へと吹き飛ばされ、地面を転がった。
だが鍛えていたおかげか、大した怪我もなく、すぐに立ち上がる。もしもたんぽぽが決闘者でなければ、危なかった……。
「ふん、《スキル・サクセサー》のおかげで命拾いしたな。いや、一撃で沈んだ方が良かったんじゃないか?」
「へ~んだ! そっちこそ、1Killできなくて残念でしたぁ~」
「こらこら2人共、デュエル中に口喧嘩はやめろって」
やれやれ、デュエル中はちゃんとデュエルに集中してもらいたいものだ。
「ワタシは、メインフェイズ2に移る。
《Sin サイバー・エンド・ドラゴン》をリリースして、魔法カード《アドバンスドロー》を発動だ。カードを2枚ドローする!」
《アドバンスドロー》は、フィールド上に存在するレベル8以上のモンスターをリリースして、デッキからカードを2枚ドローするカード。
《Sin Cross》で特殊召喚された「Sin」モンスターは、エンドフェイズに除外されるため、それを焔耶はドローに変換したのだ。
「どうやらワタシは運が良いらしいな。
手札のレベル8モンスター《Sin青眼の白龍》を墓地に送り、魔法カード《トレード・イン》を発動する。再び手札交換だ!」
「んな!? そんなのズルい! この卑怯者!」
「いつも「落とし穴」カードでワタシの行動を妨害してくる貴様に言われたくない!」
2人の更なる口喧嘩はともかく、2連続で手札交換をするとは、焔耶の言う通り確かに運が良いだろうな。
「続けるぞ。ワタシは《終末の騎士》を通常召喚する。
このカードが召喚に成功したことで、効果発動だ。デッキから闇属性モンスターを墓地に送る!」
ゴーグルと赤いマフラーを身に付けた、黒髪の騎士が現れる。彼がその右手に持った剣を焔耶のデッキへ
アレは確か……。
たんぽぽはこれ以上モタモタしていると、すぐに押し切られてしまうだろうな。
「まだだ! デッキから《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》を除外し、手札の《Sin レインボー・ドラゴン》を特殊召喚! そして最後に、カードを1枚伏せてターン終了だ!」
七色の宝玉が埋め込まれた、白い鱗を持つ竜、《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》。その魂を模して呼び出されたのは、身体の各所が黒く染まったモンスター、《Sin レインボー・ドラゴン》。
その攻撃力は、《Sin サイバー・エンド・ドラゴン》と同じく4000。いや、《オレイカルコスの結界》で強化されているから、4500だ。
こんな高打点がポンポン出てくるんだから、焔耶のデッキを相手にするときは一瞬たりとも気が抜けない。
「たんぽぽのターン、ドロー! …………!」
ん? どうしたんだ、たんぽぽのやつ。ドローしたカードを見て、急に黙り込んだぞ。
何かいいカードでも引いたのか?
「おい、蒲公英! 何をしている、早くデュエルを進めろ! まさか、デュエルを諦めたのではないだろうな!!」
焔耶も、動きを止めたたんぽぽに対して文句、と言うより怒声を放つ。
「ああ、ごめんごめ~ん。じゃあ、まずは《アトラの蟲惑魔》を召喚!」
遅延行為はまずいと思ったのだろうか。たんぽぽはターンを再開し、手札のモンスター、3体目の蟲惑魔を召喚する。
少女を模した疑似餌は、他の蟲惑魔と比べると大人びた容姿をしている。また、その攻撃力は1800と、蟲惑魔の中で最大を誇る。このことから、アトラが蟲惑魔のリーダー格であることが伺える。
アトラのモチーフについては、その本体が持つ8本の足、そして張り巡らされる糸から、蜘蛛であることがわかる。
何の種類の蜘蛛であるかはわからないが、恐らく非常に凶悪な蜘蛛なのだろう。
「その伏せカードは、どうせライフを1000払って罠カードの発動と効果を無効にする《盗賊の七つ道具》なんでしょ~。でもねぇ、アトラがいる限りたんぽぽが発動する通常罠の発動と効果は無効にされないよ。残念っ!」
「っ! だが、その伏せカードは《狡猾な落とし穴》。墓地に罠カードがあっては、発動できまい!」
たんぽぽの指摘は正解だったのだろう。焔耶の顔が歪む。
どうでもいいけど、2人共心情が顔に出やすいな。デュエル中に心情を悟られないようにするべきだと星や桔梗が常々指摘しているってのに。
それに、焔耶は1つ勘違いしている。「落とし穴」カードを巧みに操るたんぽぽが、《狡猾な落とし穴》のデメリットへの対策をしていないはずがない。
「甘いよ! たんぽぽは、
「墓地から罠だと!?」
「墓地からこのカードを除外して、《ティオの蟲惑魔》の攻撃力を800ポイントアップして、2500にするよっ!」
墓地から《スキル・サクセサー》が除外され、その効果が適用される。
《スキル・サクセサー》は、墓地からも効果を適用できる特殊な罠カード。《狡猾な落とし穴》を積極的に利用するたんぽぽにとって、重宝されるカードだ。
「これで、条件は整った! もう一回《狡猾な落とし穴》を発動~! 《終末の騎士》と《Sin レインボー・ドラゴン》を破壊するよ!」
再び出現した落とし穴。今度は、焔耶のモンスターを2体纏めて飲み込んでいく。焔耶は、デュエルディスクにセットされた伏せカードをガン見して、唇を噛む。
しかし、焔耶の墓地には
「《狡猾な落とし穴》を防げなかったか……っ! だが、一見正しいように見えた今の効果破壊、それは大いなる間違い!
ワタシは、墓地の《Sin トゥルース・ドラゴン》の効果発動!!
「Sin」モンスターが破壊された場合、ライフを半分支払うことで、このカードを特殊召喚する!」
魏延 LP8000 → LP4000
2体のモンスターが破壊された瞬間、焔耶の真上の空間が歪み、金色の鱗を持つ巨大な龍が姿を現した。その大きさは、愛紗や月の銀河眼に勝るとも劣らない。
そして、このモンスターが持つ攻撃力と守備力。それは――
――5000
そう、半分のライフを支払う必要はあるものの、あの《F・G・D》と全く同じステータスを持っている。
それどころか、《オレイカルコスの結界》により強化されているから、攻撃力は5500まで上昇している。なんという超大型モンスター。
まさに、
なんて化け物だよ……っ!
「見たか! これこそがワタシの切り札! 我が力の象徴! その雑魚共では、到底太刀打ちできまい! これでワタシの勝ちだ!」
勝利を確信し、高らかに笑う焔耶。だが――
――それはどうかな!
たんぽぽは、不敵に微笑みながら、言い放つ。
「負け惜しみを! 攻撃力5500を、どうやって突破するというんだ!」
「別に突破する方法が攻撃力である必要はないでしょ。たんぽぽは、速攻魔法《緊急テレポート》を発動っ! デッキからレベル3以下のサイキック族モンスター、《メンタルシーカー》を特殊召喚!」
たんぽぽが速攻魔法を発動すると、目と耳を覆うバイザーを身に付けた少年がデッキより現れた。
攻撃力は800と、かなり低い。だが、このモンスターが特殊召喚された理由は、その特性にある。
「《メンタルシーカー》はレベル3のチューナーモンスター。これがどういう意味か、脳筋な焔耶でも流石にわかるよねぇ~?」
「脳筋言うな! シンクロ召喚だろ、バカにするな!」
「ご名答~! じゃあ、遠慮なくいくよっ! レベル4の《アトラの蟲惑魔》に、レベル3の《メンタルシーカー》をチューニング!」
たんぽぽが叫ぶと同時、2体のモンスターが上空へと浮かび上がる。
《アトラの蟲惑魔》はそのレベル分、4つの光球となり、一直線上に並ぶ。
「清廉なる花園に芽吹き孤高の薔薇! 蒼き月の雫を得て花開け!」
それを《メンタルシーカー》のレベル分、3つの輪が囲み、光が弾け、1体の竜が現出した。
「シンクロ召喚! 来て、《月華竜 ブラック・ローズ》!!」
薔薇の如き紅い身体を持つ竜が吼える。
たんぽぽのエースモンスターであるその竜の輝きは、清廉かつ美しい。
攻撃力は2400と、《Sin トゥルース・ドラゴン》に遠く及ばない。だが、このモンスターには攻撃力の差など意味を為さない。
「まずいっ! そのモンスターは……!」
「月華竜の効果発動! このカードが特殊召喚された時、相手フィールド上の特殊召喚されたモンスター1体を手札に戻す!
真紅の翼が大きく
発生した竜巻が、舞い散る薔薇と共に《Sin トゥルース・ドラゴン》を閉じ込める。
いくら攻撃力が高くとも、このモンスターにはカード効果への耐性が無い。月華竜にとっては格好の獲物である。
《Sin トゥルース・ドラゴン》は、その竜巻に為す術もなく焔耶の手札へと送還された。
「ぐ、このぉ……!」
焔耶の場には《オレイカルコスの結界》と1枚の伏せカード。その1枚は、先のやり取りから、《盗賊の七つ道具》であることがわかっている。そして、ライフは4000。
「これで終わりっ! まずは《ティオの蟲惑魔》で
「ぐぅ……っ!」
魏延 LP4000 → LP1500
ハエトリグサの表面が焔耶を叩く。上級モンスターと同等までに上昇した攻撃力をまともに受け、肉体を鍛え上げた焔耶でさえもその身体を後退させる。
たんぽぽの攻撃は、まだ残っている。
「《月華竜 ブラック・ローズ》で、トドメッ!
月華竜の口より放たれる光の奔流が、焔耶を包み込む。そして――
「ぐぁああああ!!」
魏延 LP1500 → LP0
焔耶のライフは完全に削りきられ、その身体は崩れ落ちていった。
「へっへ~ん! 大勝利~! ご主人様、見ててくれた? たんぽぽの華麗な逆転勝利!」
「ああ、しっかり見ていたさ。流石だな、たんぽぽ」
賛辞の言葉と共に頭を撫でてやると、たんぽぽは身体をくねらせ、喜びを表現する。パワーデッキの焔耶に対して、ある意味ワンショットキルを決めたのだから、嬉しいのだろう。
もっとも、あそこで焔耶が《Sin トゥルース・ドラゴン》を出さなければ、勝負はまだわからなかったはず。
今回の焔耶の敗因は、高攻撃力モンスターを出すことを意識しすぎたことだ。たんぽぽのことだから、それさえ計算の内だったのかもしれないが。
とにかく、これで順列云々は置いておくとして、一応の決着はついた。
早いとこ、この荒れた庭を片付けさせ……
「おい蒲公英! もう一度ワタシと戦え!」
……させない、と? あれ?
「え~、なんで~? 負け犬の遠吠えはみっともないよ~?」
「うるさい! たった一度のデュエルで決着などと、ワタシは認めない! マッチ戦だ!」
あの、焔耶さん? 庭の修繕は……?
「ふん、いいよ! 相手になってあげる! 今度もたんぽぽが勝って、二度と文句が言えないようにしてやるんだから!」
たんぽぽまで乗っちゃってるし。なんだかんだで仲良いよな、あの2人。
仕方ない、2人が納得できる決着がつくまで待つことにしよう。1,2戦もやれば終わるだろう。
そんな俺の諦めを余所に、2人のデュエルが再び始まるのだった。
「今度はワタシが先攻だ! フィールド魔法、罪深き世界《Sin World》を発動!」
結局、続く2回のデュエルは焔耶が連続で勝利を収めたものの、『2回勝ち越すまで認めない!』とたんぽぽが言い出し、第4戦が始まった。
その後は交互に勝ちを重ねていったせいでなかなか決着がつかず、夜になって桔梗に強制中断されるまで2人はデュエルし続けたのであった。
●オマケ1……今日の白蓮さん
白蓮「っ! この気配は……!」
桃香「ど、どうしたの白蓮ちゃん」
白蓮「誰かが、ブルーアイズを使っている……」
真のブルーアイズ使いは、離れていてもその気配を感じることができるのだ!
●オマケ2……デュエルドクター華陀
赤く燃えるような髪を持つ青年、華陀。
彼は
病魔を滅するために大陸を渡り歩き、今日も仮想立体触感を使って多くの患者を治療する。
「《ご隠居の猛毒薬》を発動! 元気になれぇえええ!!」
彼がカードを翳すと、どんな重症の患者の傷も、みるみるうちに癒えていく。
「お医者様! ありがとうございます!!」
「いいってことさ。俺はデュエルドクターだ! 病魔・怪我に苦しむ人の傍に、いつでも参上するっ!」
因みに、使用デッキは【ビークロイド】だそうです。
●オマケ3……デュエル風景ですよ?
于吉「さあ、まだまだ攻めますよ! 《ブラック・マジシャン》で攻撃!」
左慈「ぐぅ、あぁ……っ!」
于吉「気絶するにはまだ早いですよ、フフフ」
左慈「はぁ、はぁ……。いい加減、休ませろ……!」
重ねて言いますが、デュエルですよ?
Q.何ィ!? 拠点フェイズを書き換えただとぉ!?
A.全部ドン・サウザンドってやつのせいなんだ。
Q.今回のデュエル、短いですね。
A.リアルでは3~4ターンで終わるのはよくあること。
Q.たんぽぽの最後の手札は?
A.たんぽぽ繋がりで《ダンディライオン》
Q.結局2人は何回デュエルしたの?
A.20回くらい(適当)
Q.次のコレクターズパックにアルカナフォースは収録されますか。(管理者Bさん)
A.いずれわかるさ。いずれな。
先攻ドロー廃止はビックリしました(KONAMI感)
遊戯王の小説や架空デュエルを作る人にとっては衝撃的なルール変更でしたね。
私のリアルでのデッキ、【先攻ショックルーラー】が決まりにくくなって、少し残念です。