主人公君は今後とも名前なしの予定。
「優勝は■■さんです、おめでとうございまーす」
「あぁ、ありがとうございます」
午後6時半。すっかり夜になってしまったが、俺は店舗大会に優勝することが出来た。商品に貰ったプロモカードをバックにしまい、貰った5000円分の券を使い、ショーケースから《ドンドン水撒くナウ》を3枚買う。それでも少し余裕がある為、勿体ないからと適当に使う頻度の多いカードを買って外に出る。
――もう少し余韻に浸りたい所だけど、暗くなって来たし疲れたからな・・・・・・早く家に帰ろ。
「キミ、強かったねぇー」
「ん?」
突如声を掛けられ、後ろを振り向く。電光掲示板の光が逆光となって、目の前の女性の姿がくっきりと映る。
その女性は大会を見に来ていた女性と同じ人だった。もしや決勝辺りで見ていたのだろうか?集中し過ぎて気付かなかったのだろう。
「ねぇねぇ、ちょっとデッキ見せてくれない?」
「えっ!?あ、はい。どうぞ・・・・・・」
急に体を寄せて要求されてしまい、反射的にYESと答えてしまった。う、良い匂い・・・・・・。柑橘系の香りだ。
――綺麗な人だなぁ・・・・・・
「・・・・・・へぇ~、良く出来てるね。はい、ありがと」
「あ、はい。ありがとう、ございます」
完全にテンパっている。正直に言おう。ここまで綺麗な人に距離を詰められたのは初めてだ。今日の大会の決勝の何倍も緊張してる。
「ふふ、何か可愛いねキミ」
「えっ!?いや、そんなことは・・・・・・」
「あ、照れてる。ははは」
もう止めて。今の俺顔も耳も真っ赤だよ。カードオタクにこの距離感はいけない。下手したら恥ずか死ぬ。
「その、スミマセン、早く駅まで行きたいんでちょっと・・・・・・」
「ん?丁度良いや。私も今から駅に行く所」
OH・・・・・・。マジかよブッダ、寝ているのですか?いや、寧ろ起きてる?起きててこんな仕打ちしてる?滅びろブッダ。
――というか、誰かに似てる?どっかで見たような・・・・・・。
「何か、こういうの初めてだなー」
「えっ?こういうのって・・・・・・?」
「男の人と駅まで話をしながら歩くの」
マジか。この人ならそういう経験凄い多そうな気がしたんだけど。もしかして男性全員が声を掛けられなかったとか・・・・・・?いや流石にそれはねぇーよ。
「キミはどうしてデュエマを始めたの?」
「あー、一番最初に出来た友達がデュエマをやってたんです。まぁ、その影響ですかね・・・・・・」
「成る程ね。その友達は?今もやってるの?」
――・・・・・・・・・・・・。
「・・・・・・いえ、やってませんよ。何か疲れちゃったみたいで」
「ふーん?じゃあ他の友達に誰かやってる人は居ないの?」
「そうですねぇ?大会で良く知り合う人達と一緒にデュエマしたりしてるくらいで。友達と言えるような関係は・・・・・・居ないですかね?」
「ふーん?良くモチベーション保つねー?」
私なら絶対無理だなーと言い放ち、彼女は俺の前に立ちふさがり、深く息を吸って伺うように此方の顔を覗き込む。処遇、上目遣いというやつだ。
「じゃあさ、私とチーム組まない?デュエマのチーム」
「え、チーム・・・・・・ですか?」
デュエマのチームというのは、きっと団体戦の大会などで試合をするチームのことを指しているのだろう。
――女性の、それもこの人と、チーム?無理無理無理無理。
冷静なプレイが出来ない自信がある。もし大会で至近距離で話しかけられたり笑顔を見せられてみろ?俺の心臓がファルコン・ボンバーして死の宣告を受けてしまいかねない。
とても惜しいが断ろうと意を決したと同時に、彼女が実は・・・・・・と深刻そうな暗い雰囲気の顔で話し始める。
「私、チームがどうしても組みたいの・・・・・・。私と同い年の友人にデュエマが大好きな人が居て、その人がチームで試合をして腕を磨いているって聞いて・・・・・・」
「えっと、それなら別に他の人でも――」
「駄目っ」
「!?!!?」
近い近い近い!何なんだこの人、何で見ず知らずの男の人にここまでべったりくっ付くことが出来るんだよ!
当たってるから!ホント!勘弁して!
――うぉぉぉぉぉ精神がががががが
「アナタのプレイを見て思ったの。私はこの人じゃないと駄目なんだ、強くなれないんだっ、て。・・・・・・その、アナタのプレイに見惚れちゃったんだ・・・・・・なぁんて・・・・・・」
「えぇっ、あ、えと、あの――」
頭が回らない。デュエマの大会で消耗している時にこれ程の精神的負担が掛かると、全く上手い言葉が出て来なくなってしまう。
――見惚れた!?俺のプレイに!?というか最後、何で顔朱くしてるの・・・・・・!?
言ったのはそっちだろ、と思いながら、益々自分の顔が朱くなっているのを感じる。顔が熱い。近距離で火が点いているんじゃないかと疑ってしまう程に。
そして彼女は畳み掛けるようにしてトドメの一撃を放つ。チェリーボーイのハートを射抜く所か粉々にしてしまう程に巨大な弓矢を。
「駄目・・・・・・かな?」
「!・・・・・・まぁ、少しだけ・・・・・・なら」
「えっ良いの!?ありがとうっ!」
満面の笑みで喜ぶ仕草を見せる彼女に、思わず此方も笑顔になってしまう。
――もう、別にどうなっても良いんじゃないかなぁ・・・・・・
「じゃあこれ!私のメール先。お誘いとかはそっちでするから」
「あ、はい」
メモを受け取ると、じゃあね!と言って駅の中へと彼女は消えて行く。俺は駅前に置いた自転車を取って自宅への道を進む。
彼女と別れる瞬間、少し寂しく感じた。それと同時に、胸の苦しさも。
これは、恋、なのだろうか?
――いやいやいや、待て待て待て。
冷静になれ馬鹿。今はあの人が近くに居ない。だからその湯だった頭をどうにかしろ!
――あれは恋じゃない。ただ少し場の空気に流されただけだ。俺はそんなロマンチストじゃないだろう。
ネガティブになれ、俺。俺なんか描写さえされないようなモブ以下の存在なんだ。変な期待なんかするな。
「ただのチームを組もうというお誘いに驚いていただけ。そうだ、うん」
自転車に乗ったまま考えごとをしていたその時だった。
大地が大きく揺れた。
「っ!?」
思わず自転車を漕ぐのを止め、立ち止まる。
一瞬ではあったが、信じられない大きさの揺れだった。まるで地面に巨大な何かが叩きつけられたかのように思えた。
――震度5強くらいか?かなり揺れたな・・・・・・
周囲を歩いていた人も、いきなりの地震に驚いている。へたり込む人も居れば、壁際に手を添えて心配そうにしている人も居る。
余震かもしれない。少し急いで帰ることにしよう。そう思い再び自転車で帰路を走行する。
駅前から20分して家に着く。夏は本当に暗くなるのが早い。もう外には星と月がクッキリと見えている。
父も母も夏休みの間は家に居ない為、帰って来た俺はカップ麺にお湯を入れ、一人テレビの前に座り込む。
地震に関するニュースが無いかと探したが、20分前となると少し遅かったようで、地震に関する速報などを今から報道する気配は感じられなかった。
仕方なく自分のスマホで調べることにした。どうやら丁度あの場所付近が震源地だったらしい。震度は5強。予想は的中していた。
そうしている内にタイマーが鳴る。3分経った合図であるそれを止め、カップ麺の蓋を開ける。
「戴きます・・・・・・」
テレビを付けながらスマホを開きカップ麺を食べる。その姿は正にニートのそれだ。部屋の電気は点いてはいるものの、全灯ではない為少し暗い。
「あ、そういえばこっちのメアド送らないと、あの人から連絡取れないじゃん」
スマホを見ていたことでそのことに気付く。
ここで自分からメールを送らなければ、あの人とは会わなくなり、チームを組むこともなく関係を終わらせられていたかもしれない。
だが、そういった別れ方は――
――何も言わずに別れるのは、好きじゃない。
「・・・・・・仕方ない」
今日駅前で話をしていた者です。メアドは此方になります。そう打ち込んで、メモに書かれていたメアド先にメールを送る。今時メールでのやりとりなんて珍しくも思う。
「ふぅ・・・・・・送信完りょ・・・・・・うん?」
送信したのとほぼタッチの差で新たにメールが一件届く。返信にしては早過ぎると感じ、迷惑メールかと思い確認だけする。
『ありがとう!それじゃあ明日この場所に来れる?』
「え?返信早くないか?送って1秒も経ってないぞ・・・・・・?」
不思議に思いつつも、今は精神的な疲れが酷い為、そこまで深く考えることはしなかった。
メールで指示された場所の確認をすると、今日訪れた店舗から離れた場所にあるマンションだった。
――そこに住んでる・・・・・・とか?
『了解です』
メールを送信してから風呂に入る。色々な原因から出た脇汗を洗い流し、心身の疲れを取る。
「ふぅ・・・・・・明日はしっかりとした服着て行くか」
「さてと・・・・・・」
駅に入り、周囲に『ターゲット』が居ないことを確認した私は、ベンチに座って深く息を吐いてリラックスする。
――何とかデュエマが出来る人を一人は釣れたけれど、それでもまだ不安要素が残っている。何より、まだ『ターゲット』に憑いている『シャドウ』を消せていない。タイムリミットは明日の18時。それを切ってしまえば――
私は間違いなく、ソイツに殺される。
それだけは避けたい。どうやってこの世界に来たのかは謎だが、幸い、指輪を追って来た奴らは、私の居るこの町の付近に集まっている筈だ。
人から人へと移り住み、やがては一人の脳に寄生し、成長して器となった者を食い破る。それが『シャドウ』。嘗ては『ジェネシス』に住む人だった者。
――今はまだ成長途中。住処は分かっている。明日には『ターゲット』を抹消するか、『シャドウ』を消滅させなければならない。
出来れば成長途中の段階で『シャドウ』を倒したい。『ターゲット』ごと抹消するのにはかなりのマナが必要になる。
――私に残されたマナは少ない。十分に補給することも期待出来ないのなら、節約していくしかない。
マナとは神秘、
『シャドウ』を生み出したものが何であるのかは未だに分かってはいない。黒い星の欠片が関わっているのは間違いないのだろうけれど、その力を使った奴が居る筈なのだ。
「私の使命は、『ポセイディア』の王の指輪を守り、伝承にある勇者となる者を探し出すこと」
『ジェネシス』へのゲートは、指輪の力で開くことが出来る。しかし、開けるのは1日に1度、1時間辺りが限界。細かくなった星の欠片では、起こせる奇跡もその程度だ。
何よりも、指輪は既にこの世界に来ることにかなりの力を使ってしまっている。あまり無駄に使用することは出来ない。
――この星ではボードゲームになっていたけれど、マナを扱い勝敗を決するゲーム、デュエル・マスターズを使って『ジェネシス』の地で勝てれば、私はマナの使用を最小限に抑え、危険の無い状態で『シャドウ』を倒せる。やっぱりこれが一番か。
デュエル・マスターズは、『ジェネシス』では賭け事をするのに使う魔道具だった。その力でデュエマに負けた『シャドウ』を消す。賭け事である以上向こうの承認が必要ではあるが、『シャドウ』に知恵や理性は無い。本能で動く者なのだから、何も提示しなくとも成立してしまうことも有り得る。
彼には悪いが、これも使命を果たす為だ。騙される方が悪い。『シャドウ』を『ジェネシス』にゲートで送り、『シャドウ』が“ターゲット”から離れ実体化したところを魔道具という性質を持ったデュエマで倒してしまえば、マナを宿す『シャドウ』から、多少は私のマナも回復するだろう。
深く考え込んでいた所で電車が来る。計画は明日決行だ。問題があるとすれば彼が遅刻してくることだが・・・・・・
「まぁ、あの子なら寧ろ早めに着いているかもしれないくらいか」
顔を真っ赤にしながら受け答えする彼の姿を思い出し、思わず笑ってしまったその時、電車に乗ろうとした所で、大地が大きく揺れた。
――何?今の・・・・・・ただの地震?
この星の地震はここまで大きいものなのか、そう私は驚きながらも電車に乗って自宅へと帰って行った。
まぁ、生き残れるか殺されるかが掛かっている結構大変な状況な訳だけど、
「彼なら大丈夫だと思いたいなぁ・・・・・・」
それよりも、折角見つけて釣ったのが、使える駒であることを信じたい。
用語解説集
・シャドウ:黒い星の欠片の力で化け物になった者。マナの少ない地球では人に寄生し成長する化け物になりマナや指輪を持つ者を襲う。
次はデュエマを挟みたいかな。それもファンタジーな感じのを1個。