カードと星と、それから魔女と   作:change

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何か滅茶苦茶偶然に偶然が重なって奇跡が起きたので主人公に名前を授けることにしました。まぁ真名ではありませんが。
魔女も名前を公開。まぁ真名ではありませんが。


5.契約完了のコックスアイ

目を覚ましたら知らない家に居たときの恐怖感を知っている者は、一体社会にどれだけ居ることだろうか。

それも、恐ろしい魔女の家。倫理観が普通の人間とはかけ離れた、最早違う生物にしか見えない化け物の住む家に。

 

ベッドで起きた僕のすぐ横で、猫背になって椅子に座ったまま寝ている魔女の姿を確認した時は、あのマンションでの情景を思い出してしまい冷や汗がドッと体から出てきた。

そしてそんな僕は今、魔女の姿に怯え、折角の逃亡チャンスを不意にしている。

 

――仕方がないじゃないか・・・・・・。もし逃げ出したとしても、この化け物ならその内僕の居場所を特定しかねない。そんな気がする。

 

警察に通報するのも考えたが、逆に警察くらいどうにかしてしまいそうな危ない気配があるのは、僕自身が味わった悍ましさで証明されている。普通の人間がどうしたところで、この化け物を止めることは出来ない。

 

――話し掛ける勇気も無いし・・・・・・コイツが起きるまでどうにかして精神を落ち着かせよう・・・・・・今はまだ、頭が上手く回っていない。

 

寝起きだからではなく、思考が未だにパニックを起こしているのだ。デュエマをしていたあの時は一周回って勢いで行動していた部分もあったから、理性が保身の為に狂気を理解することを拒んでいた為、暫くの間は精神の崩壊をせずに保つことが出来ていた。だが冷静になった今はもう少し、狂気に対して耐性が無い分、落ち着くのには時間が掛かる。

 

――恐らく、今この化け物に話し掛けられたとしても、受け答えをまともに出来るとは思えない。どうにか生きて、コイツから逃がしてもらえるようにする為にも、最低限理性での対話の準備はしなければ・・・・・・

 

そうして俺は起きたまま、ベッドの中で横で寝たまま化け物の事を考えていた。

コイツは、俺が夢を見ていたということさえ無ければ、非現実的なことを平然とやってのけていたり、“外見”はより化け物らしい化け物と何やら関係があるようだった。

 

――コイツもあの化け物も、どっちも変な言葉を喋っていたし、コイツはあの化け物のことを知っていたみたいだし・・・・・・同じ生物だったりするのか?

 

俺は横目で椅子に座っている化け物女を一目見る。見た目だけなら美しい女性なのだが、中身は化け物の大差無い。だからこそ、あの化け物と同じ生物なのかどうか、どちらにも判断することが出来ない。

それに、あの化け物は対戦途中で人間に近い顔に変容した。しかも言葉も、俺の知っている日本語を話していた。もしかしたらあのまま更に時間が経っていれば・・・・・・

 

「・・・・・・」

 

化け物女を真っ直ぐ見る。徐々に大きくなっていく心臓の鼓動が、自分が今、目の前の存在に恐怖していることを指し示していた。

 

「ん・・・・・・ぁ、寝ちゃってたふぁぁあぁ・・・・・・んー・・・・・・」

「っ」

 

ジッと見ていると、化け物女は大きく欠伸をして、腕と体を椅子に座ったまま真上へと伸ばし始めた。俺は化け物女が起きたことに少し驚きつつも、察されないように静かに深呼吸をする。

 

「・・・・・・状況を、説明して欲しいんですけど」

「あ、起きてた?ごめんね?私も少し疲れちゃって・・・・・・ここ、私の家」

「そ、それはまぁ、分かってます。どうして自分が此処に居るのか。という質問です」

 

そう聞くと、目の前の化け物は質問の意味を理解したのか、納得したような顔で淡々と理由を説明した。

 

どうやら、俺はデュエマの後に気絶したらしい。緊張の糸が切れたからだろう。そこで化け物は俺をおいて行かずに、自分に必要だから連れて来たという。

 

「必要って、一体、何に・・・・・・?」

「うーん、キミに分かり易く言うなら、化け物退治・・・・・・かな?」

「・・・・・・勘弁して下さい。僕なんかよりもっと強い人が居た筈ですっ」

「別に、誰でも良かったんだよ?ただ、一人は必要で、偶然キミは私の見ていた大会で優勝した。どうせなら強い方が長持ちするし、また沢山探さなくても済むでしょう?」

「――っ」

 

化け物の瞳が妖しく光る。やはり、化け物に人らしさというものは無いのだろう。外見だけの、中身は別の生物だ。コイツは、俺を道具として、それもスペアのある使い切りとして使おうとしている。

 

交渉など、出来る筈が無い。あまりにも過ぎた希望的観測だった。強者の無理難題な要求を、弱者がどうこうして拒否することなど出来やしない。

 

「・・・・・・いつでも、私はキミを殺せるよ?」

「・・・・・・分かっ、た」

 

契約成立。そう言って化け物は満面の笑みを浮かべていた。俺の負の感情をグチャグチャに混ぜたような顔とは対照的だ。

 

「キミ、名前は?」

「・・・・・・―――」

「成る程ね、んー・・・・・・」

 

名前を言うと、化け物は顔をしかめて考えている素振りを見せた。先程の化け物の恐ろしい面を確認してしまった俺には、それが白々しく見えて仕方がなかった。

 

「じゃあ・・・・・・今日からキミは“コックスアイ”・・・・・・あぁ、“黒彩(コクサイ)”と呼ぼうかな。黒い彩りで、黒彩」

「何で名前を・・・・・・?」

「キミは私の道具だから。私のモノって記しを付けないと、こわーい化け物に体を良いようにちゃうからね」

「!?、体を・・・・・・」

 

それは一番考えたくもない。自分が怪物になるなど、普通に死ぬよりも痛く辛い思いをすることになる気がする。

 

「黒彩、って名付けられただけで効果があるのか・・・・・・?」

「道具の名前と外見を私が記憶していれば、その道具が何かしらに奪われたり壊されそうになったりした時に、私自身に流れるマナが、道具に宿るほんの僅かなマナと共鳴して、数十分くらいは道具は外敵から身を守ることが出来る」

 

俺の保身の為であり、コイツは道具を無くさないように、という訳か。

 

「それなら本名でも――」

「魔女の記しが刻まれていないと、持ち主の私のマナと共鳴出来ないの。だからキミの本名は使えない。それに・・・・・・もし化け物に知能が付いて来ていたら、どんなものでも情報はあまり公開したくはないもの」

 

化け物に知性・・・・・・やはり、あの時のデュエマ中の化け物が日本語を話していたように、化け物は成長すれば人と大差が無くなる知性を得るということなのだろうか?

 

「あ、一応その力は私のマナとキミのマナを消費することになるから、使うことが無いようにすること」

「・・・・・・あ、そうだ、そのマナって何なんだ?もしかして、デュエマと何か関係してるのか?」

「命の力。命の力には神秘が宿っていて、余剰に生み出された命の力を使って、私や化け物は特殊な力を行使しているの」

 

ん?さらっと問題発言があった気がする。

 

「それ、俺の命を使うのか?」

「余剰、つまりは使い道の無い余分なエネルギーを使うってこと。極僅かだけど、キミも、勿論他の人間にもあるわよ」

「は、はぁ・・・・・・?」

 

ふんわりとだが、不思議パワーの源は命の余分なエネルギーであるということは分かった。それが自分や他の人間にも僅かにあることも。

 

――それが沢山あれば、俺も目の前のこの化け物みたいな力を振るうことが出来るのだろうか?

 

「・・・・・・あと、デュエマとの関係ね。デュエマは私の故郷にもあって、そこでは賭事によく使われていたわ」

「賭事?」

「そう。ゲームを挑んだ者が物を賭け、受けた側はそれに見当たった物を賭けることになる。勝った方が敗者から物を奪い取り、敗者はただ失う」

 

まぁ、博打としては良いのでは無いだろうか。ただ――

 

「あの化け物がそれを受ける保障が無い。それに、この前のはお互いに何を賭けたんだ」

「受けるわよ、キミの言う化け物――シャドウはね」

「どういうことだ?」

 

化け物女は指に嵌めていた青く美しい造形をした指輪を俺の目の前に差し出した。青い宝石を覆う銀には文字のようなモノが彫られている。

俺はすかさずこの指輪について質問した。

 

「これは?」

「シャドウの欲する私の故郷の大切なお宝。これを私は守らなくてはいけないの」

「それでその、シャドウとかいう化け物はその指輪を引き合いに出されたら勝負に乗って来る訳か」

 

納得はした。だが、あの様な化け物に殺されるかもしれないというのに、それでも守らなくてはいけない程、この指輪は大切な物だとは思えなかった。

 

「そんなに、命を危険に晒す程大切な物なのか?それは」

「私の故郷を救う為にも、保身の為にも必要なの。これが無いと、私は本当に少ないマナでこの星で生きなければならなくなるの。それに、シャドウは指輪自体ではなく、それに宿るマナが目的だから、私の残り少ないとはいえ力の行使が出来る程にはあるマナでも、恐らくは襲われるわね」

 

・・・・・・そう聞くと確かに持っていた方が絶対に良い気がする。というか、シャドウに賭けで負ければ死ぬと言うのはそういうことか。指輪が奪われれば非力な獲物。恐らくは指輪回収後に殺されるだろう。

 

――力が無ければ化け物も死ぬ、か。

 

「弱肉強食なのは、どこでも一緒か・・・・・・」

「その言葉が正しいものであるのは、私の星でもこの星でも一緒なのね・・・・・・」

「・・・・・・」

 

珍しくしょんぼりとした、感情のある顔をしている目前の化け物に少し驚いた。それは化け物にも負の感情があるのかという驚きと、今までずっと恐ろしい笑みを浮かべていることばかりだった為、初めて見る表情への驚きだった。

 

「そういえば、お前はあの賭けで何を貰ったんだ?」

「化け物に宿るマナよ。さっきまでは潤ってたんだけど、たった今黒彩という道具としてキミと契約するのに使っちゃった」

「・・・・・・あ、まさか、大会で優勝した俺に契約したのは、マナの回収の効率を高める為でもあるのか?」

「あら、当たり。割と賢いのね。契約でちょっとマナを消費するから、なるべく長く持つ道具が欲しかったのよね。契約に使うマナはどんなものでも変わらないし」

 

木製の斧と鉄の斧、同じ値段であるのなら木製の斧で木を切るよりも、鉄の斧の方が早いし壊れ難い為そちらを選ぶ。つまりはそういうことだろう。質の良い品が手に入ってさぞかし満足なのだろう、目の前のこの化け物は。少し心からの笑顔を浮かべているようなのが憎たらしい。

 

「随分と面倒なのに捕まったのか俺は・・・・・・。化け物には迷惑なのしか居ないのか?」

「化け物呼ばわりは傷付くなー。私は魔女よ。化け物じゃない」

「はいはい、魔女ね。分かりました・・・・・・」

 

本当に傷付いてるならもうちょい感情の籠もった声してるだろ。棒読みなんだよ。

 

「にしても魔女か。魔女、ウィッチ、魔法使い・・・・・・ファンタジーの代名詞じゃないか」

「ふぁんたじー・・・・・・あぁ、夢物語だったわね、確か。同じことを言われたことがあるわ」

「へぇ、前契約者か?・・・・・・あれ、でも今俺と契約してるってことは・・・・・・」

 

そんな疑問抱くも、魔女は何も答えようとはしなかった。ただ、フフ、と笑う彼女の顔は、少し前に浮かべていた恐ろしく薄い笑顔だった。

 

俺は何とか話題を変えようと、咄嗟に別の質問を魔女へとぶつけた。

 

「あ、あの空間、あの空間について教えてくれないかっ」

「あぁ、デュエルスペースね。あそこはデュエマの勝ち負けで賭けを完了させる為の場所、それ以上でも、それ以下でも無いわ」

「もっと何か無いのか?例えばっ、クリーチャーが出てたりしただろ?それとか・・・・・・」

「んー、クリーチャーが出てくるのは演出ね。実際に派手な方が楽しいからって理由で付与されただけ」

 

予想外だ。あれだけ実際に神と戦ったのに、その神が実体化した原因は娯楽性の追求だなんて・・・・・・。

 

「神に殺されるかと思ってたのに・・・・・・娯楽の追求が原因だなんてふざけるなよ・・・・・・っ」

「・・・・・・ぁ、一つあった。細かい情報」

 

魔女が思い出したと言う風に目を少し見開き、服の上からでも分かる整った美しい胸の前で手を合わせる。俺は一瞬で怒気を霧散させ、その情報とやらを聞こうと内容を聞く。

 

「何?どんなの」

「あの空間では絶対にプレイヤーは意識と肉体を失わない。致命傷になるような怪我もしないの」

「本当か!?」

 

ベッドから上半身を起こし、思わず魔女の露出された艶めかしい両肩を両手で掴む。もしそうであるのなら、俺はデュエマ中に死ぬことは無いということだろうか。だとすれば、負ければ死ぬとしても、かなり精神的に楽にはなる。

 

「本当よ。こんなので嘘吐いてどうするのよ。黒彩がデュエマで死ぬことは無いし、意識を失うことは無いわ。腕や足が飛んだり、骨折することも、気絶することもね」

「良かった・・・・・・本当に良かった・・・・・・っ!」

 

涙が思わず出てしまう。それは度重なる非情な出来事の中で、唯一安心出来るものであったからだ。

 

「でも、精神的負担は気絶しないだけで無くなる訳じゃない。溜まるものよ。だから黒彩はあの後気絶した。相当精神に負担が掛かっていたからね」

「・・・・・・当たり前だ。神となんか二度と戦いたくない」

「ふーん、神、ねぇ・・・・・・」

 

涙を拭い、俺はベッドから出て立ち上がる。そのまま俺は、椅子に座ったままの魔女に言った。

 

「俺はまだ、お前の名前を聞いてない」

「魔女で良いわ」

「それだと他にお前みたいな他の星から来た魔女を名乗る奴が居た場合に面倒だ。良いから名前を教えてくれ」

「んー、予想してたよりグイグイ来るのね?嫌いじゃないわよ?・・・・・・でーも」

 

魔女が椅子から立ち上がり、俺の耳元で艶やかな声で囁いた。

 

「魔女は名前を明かさないの。道具に付けた私の記しが他者にバレたら大変だから。だから、私のことは・・・・・・そうね、“ウルディナ”とでも呼べば良いわ」

 

ウルディナ、それがこの魔女を名乗る化け物の仮の名前。俺がこれから大変な目に何度も顔を合わせることになるだろう元凶。

 

「ウルディナ、分かった。絶対に忘れない」

「あら、嬉しいわ。道具に名前を忘れないで覚えて貰えるなんて」

 

――あぁ、覚えたとも。もう絶対に、忘れない。

 

何が何でも、こんなことに巻き込んだ奴の名前は絶対に。




デュエマを書く。絶対に書く。次こそ必ず書く。書いてみせる。
因みに今回伝承に記された内容に黒彩が触れなかったのは必要がなかったからですね。指輪奪われたら殺される可能性大ってだけで十分な理由だったので。

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