「暑くない?」
「知らん」
背景、読者の皆さん。私、黒彩は、少年とのフリー対戦の後、大会にて初戦負けした挙げ句、何と今まで化け物女にストーカーされていたことが判明しました。現在、店の外にある自販機前に立つ俺の前で、見せ付けるかの如くミルク味のアイスキャンディーを舐めている糞女がその人です。
「お前、何しに来たの?」
「んー?あぁ、何か変な気配を感じて外に出てみたって所」
「変な気配?・・・・・・もしかしてシャドウ・・・・・・か?」
「違うわね。シャドウならもっと弱い。今回感じた気配は強かった。・・・・・・もしかしたら『
「三災?何だそれ?シャドウの親玉みたいな感じか?」
三災・・・・・・3つの災害?どうにも良いものには思えないが、一体何なんだ?
「三災っていうのは、私達が住む惑星、ジェネシスで暴れていたシャドウの統率種。四天王みたいなものかしら?3人だけど」
「そんな奴らが来てるのか・・・・・・?」
「確証は無いけど、来る理由ならあるわね」
そう言ってウルディナは胸ポケットの中を軽く叩く。ポケットの中に入るサイズで、シャドウのボスが狙う物・・・・・・。
あ、そうか。
「指輪か」
「当たり。後もう一つあるけど、どちらにせよ来ていたとしたら面倒なことこの上無いわね。アイツらは例外的に、人に寄生せずとも行動出来る程の莫大なマナを持ったシャドウだし」
莫大なマナを持つシャドウ、三災か・・・・・・。
「・・・・・・先に忠告しておくわ。三災の一、緑の災『ベルデ』は間違いなくアナタには手が負えない。相性が凄まじく悪いの、私とね」
「お前と?いやいや、平気で一般人に化け物と殺し合いさせるような畜生化け物女に適う敵なんて居るとは思えないんだけど」
「黙りなさいお猿さん。はぁ、猿は名前も覚えられないのかしら・・・・・・」
イラっと来た。が、ここで反応すれば余計に猿だ猿だと馬鹿にされる為黙っておく。
――このド腐れBBA
「・・・・・・まぁ、それは良いとして、私にも天敵くらい居るわよ。もし無敵だったら今頃ジェネシスは平和だし」
「確かにな。お前が無敵だったら独裁者ムーヴで世界平和でも作ってるか・・・・・・。どんな風に相性が悪いんだ?」
「・・・・・・マナには属性がある。自然属性のマナを多量に抱え込んでいるのがベルデ。私はマナが少ない上に、その多くは自然に弱い水の属性のマナなのよ」
「もしかして、それもそっちのデュエマと関係あるのか?」
デュエマには基本となる五色の文明、火、水、自然、光、闇が存在する。シャドウと戦うのにデュエマを使用した理由はマナを使うゲームだったからだ。デュエマのマナと、何か関係があるのかもしれない。
「まぁ、あると言えばあるわ。水は火に強く、火は自然に強く、自然は水に強い。光と闇はどちらも相反する力。マナというエネルギーの衝突は無い」
「もしかして・・・・・・そのマナの5属性を文明という形でゲームに落とし込んだのがそっちのデュエマなのか?」
「正確にはそれに加えて私達の世界の5つの地域もモチーフになっているけれど、まぁ正解よ。勘の良い道具で嬉しいわ!」
そう言ってウルディナは笑顔で俺の頭を撫でて来る。不思議なものだ、全く嬉しくない。寧ろ頭をこのまま引っこ抜かれないか心配で仕方がないくらいだ。
俺は自分の頭を撫でるウルディナの手を払い、『ジェネシス』におけるデュエマへの一応の理解を示した。
「・・・・・・大体分かった。会うことは無いとは思うけど、ベルデには注意する」
「そうして。契約している君の命が消えれば、私も困るから」
とは言ったものの、そもそもベルデの姿がどういったものかわからない。言動や行動に違和感のある人間やシャドウを見つけた場合には、ウルディナに確認の為にも一度会う必要があるかもしれない。
俺がそうこう考えている内に、ウルディナはアイスを食べ終えたようだった。持ち手となっていた木の棒は、ウルディナの手で店の前の可燃ゴミのゴミ箱へと捨てられる。
「さて、どうするのかしら?私はこれからシャドウ探しに歩き回るけど、君はまだカードショップでデュエマをしてるの?」
「そうだな・・・・・・。買いたいカードは手に入ったし、もう家に帰るとする。・・・・・・あ、そうだ。最後に一つ質問して良いか?」
俺は大会前に見ていたスマホのニュースを表示し、ウルディナに見せる。この神隠しと言われる事件に、俺達は関係していたのかどうか。
「・・・・・・いいえ、その事件に関しては、私達の仕業じゃないわね」
「違う・・・・・・のか?」
意外だった。てっきり、シャドウと初めて出会ったあのマンションだったし、俺達が関係しているかと思っていたのだが・・・・・・。
「それ、私達が訪れた所と部屋番号が違うもの。それはただの行方不明事件よ」
「そうだったか・・・・・・」
あの時は慌てていたから、どの番号の部屋を訪れていたのか知らなかった。何にせよ、関係ないのなら安心だ。
「・・・・・・でも、可笑しいわね」
「?可笑しい?何か変な所でもあったのか?」
「指紋も住んでいた形跡も無いなんて、早々そこらの人間が出来ることじゃない。というか、不可能に近いわ」
言われてみればそうだが・・・・・・。もしかして、シャドウの線を疑っているのか?だとしたらあのマンションにはシャドウが2体発生していたことになるんだが・・・・・・。
「シャドウでもそういった痕跡は消せない。しかも基本、そういった事はしないし。なら考えられるのは、それが出来る知恵と力のある此方の者・・・・・・」
ウルディナは思考状態に入ったようだ。自販機の側面に寄りかかって、暫く無言で考え込んでいる。
――三災だったりしないだろうな・・・・・・。あ、いや、三災は人に寄生しなくてはならない程マナに困っては無いのか。
「本物の『魔女』なら可能かしら・・・・・・?いや、それは有り得ないわね。魔女はジェネシスで確かに――やっぱり考えられるとしたら・・・・・・」
「考えられるとしたら?」
「三災か、もしくは進化したシャドウだと思う」
それはどっちもマズいんじゃないか?三災は強いし、進化したシャドウなら殺されかねない程の危険性がある。
「もう一度、あのマンションに行くわよ。実際に見に行く必要がある」
「あー、それは良いけど・・・・・・本当に俺はお前の加護で守られてるんだよな?」
「なるべく道具は長持ちさせたいから、してるわよ。嘘吐く必要ある?」
・・・・・・それもそうだな。
「・・・・・・シャドウと出会ってリアルファイトの殺し合い、というのは避けたいなぁ・・・・・・」
「私も避けたいわね・・・・・・でも、恐らく放置してたら更に厄介になって襲って来るだろうし。仕方ないわ」
ウルディナはそう言って勝手にマンションの方角へと歩き始める。ここからそう距離が離れている訳でもない。数分歩けば着くだろう。
「ちょ、置いて行くなよっ・・・・・・」
俺は急いで自転車を取りに行く。ウルディナが丁度店の壁で見えなくなった所で自転車のロックを外し、ウルディナの所まで走って持ち出す。
「あ、あれって・・・・・・」
「お父さん、明日何するのー?」
「ん?あぁ、明日はお父さん仕事があってな。ごめんな、遊んでやれないんだ」
確かに、大会の試合前に僕が対戦した少年が見知らぬ男の人と帰ろうとしている所だった。そういえば少年の父親は《ボーラス》を少年に渡してくれたとか話していたっけ・・・・・・。
「また仕事ー?」
「ちょっと最近忙しくてな。でもな?その分、お父さんも今日の休日の過ごし方は楽しかったぞー!」
「そうなの?」
「あぁ、
そう言って、少年の父親は彼の頭を優しく撫でる。そうか、少年の名前は進次というのか。
進次君のお父さんは、話を聞く限り仕事で忙しい毎日を送っているのだろう。息子である進次君とも、そんなに遊んでやれない。だからこそ、あの《ボーラス》をプレゼントしたのかもしれない。進次君に笑顔になって欲しかった。喜んで欲しかったから。
――親子・・・・・・か・・・・・・。
別に、そこまで羨ましい訳ではない。俺にも両親は居るし、そこまで家を離れることは・・・・・・まぁ、今もそうだし、偶にあるけど。それでも会いたいと思うことは極稀だ。だが、ここまで仲の良さそうな家族の交流を見ると、俺も家族と――親しい人と談笑したい、と少しだけ思ってしまう。
――・・・・・・懐かしいな。
空が豪奢で深い憂愁を秘めた色と光に満ちる。引き絞られた弓が、遥かな宇宙の縁から、巨大な黄金の矢を放つかの如く、雲の間から一筋の光が注がれる。
脳裏に浮かぶのは、夕日に照らされた幼き頃の親友の横顔。
そんな彼が居た記憶の中の景色は、此処とは違う、もっと古臭くて、澄んだ空気をしていた。
『ねぇ、アナタは、自分を信じることが出来る?』
彼女からの質問に、俺はまだ答えられない。もう何年も経ったが、それでもこの質問に対する答えが、自信を持って言えるものが無い。
掌から零れ出すほどの過去を一筋一筋と摘み上げては、歩いて来た道を憶い出す。
『アナタは、闇の中に光があると思う?』
『アナタは、人との絆があると信じることが出来る?』
『アナタは、心に従える?』
俺は思い出した問いの一つ一つに、当時どのような思いを抱いていたのだろうか。
彼女も、何を思ってこのようなことを言ったのだろうか。
「・・・・・・分かる訳、無いか」
「・・・・・・何が、分かる訳、無いか、よ。遅いから見に来ちゃったじゃない」
「悪い。・・・・・・いや、こんな奴に謝る必要ないか」
「言うようになったわねお猿さん?」
「黙れ阿婆擦れ女。・・・・・・というか、またこのやりとりを繰り返す気か?」
無駄だから止めだ止め、と言い、ウルディナと共に今度こそマンションへ向かう。
気付けば親子はもう居ない。きっと家へと帰ったのだろう。
「そうだ、先に言っておくけど、シャドウはアナタが思っている程恐ろしいモノじゃないわよ」
「え?いやそれは嘘だろ」
「動物型の寄生虫みたいなもんよ。この星を見て回れば、何か似たようなものの一つくらいあるんじゃない?」
「いやいや、だとしても脅威だろ。普通に恐ろしいって」
そう?と少し意外そうにしているウルディナを見て、何を言ってるんだかと不思議に思う。
「私からすれば、シャドウは確かに恐ろしいけど、人間の方がよっぽど恐ろしく見えるわよ?」
「え」
「流石のシャドウでも、同族を興味本位で殺したりはしないわよ。シャドウに興味というものがあるかどうかは別として」
そう言われると、何も言い返せない。確かに人間の方が恐ろしく思えてしまう。だが――
「いや、それでもだ。シャドウは人を食う。人の体を乗っ取ってしまう。そこに、人の魂の自由ってものは無い。生きながらの地獄を味わわされるんだ」
「へぇ、生きながらの地獄・・・・・・か」
一瞬、ウルディナの顔が曇ったように見えたが、きっと気のせいだろう。
「さて、じゃあ戦略でも話し合いながら行こうかしら」
「だな。偶には共感出来ることも言うもんだな」
「良い加減、私のことを主人と敬って欲しなぁ」
コラ、背後から胸を頭に当てるな。こんなの見られたら恥ずかしくなって死ねる。良いのか?道具がもう駄目になるぞ?
「その駄肉を当てるの止めてくれない?」
「もう少し敬ってくれるまでは止めないわね」
夕日が、そんな魔女の憎たらしい笑顔を照らしていた。
次はチェンジザワールドの投稿かな?分からん。