"もしも彼が原作準拠主義者だったら?"
引き続きリクエスト受付しております、作者が思いついているものや、琴線に触れたものを時々書いていく予定です。
小舟に満載された状態で薄目を開けて遠くなっていくメリー号とバラティエを見送り横に目をやればいつまでもバラティエの方に手を振るギン。
そして完全に見えなくなったところで傍に倒れ伏していた大男が起き上がり腕を回し軽く伸びをすれば
「なっ!?目覚めるのが早すぎる!!」
そう言ってトンファーを取り出して気絶でもさせようとしたのか大きく振るうギンに
「落ち着け、今更どうこう言わねぇよ…」
凄まじい速度で振われた高い威力の攻撃を男…クリークは事も無げに受け止め"あの冷酷非道な機械みたいな男が変わるもんだ…"と感慨深げに思いながらもトンファーを受け止めた手に力を込めつつその手から取り落とさせた。
「ぐっ…アンタのやり口は良く知ってる、回復した所でまたあの海上レストランを襲おうってハラだろう、なぁ"騙し打ちのクリーク"!!」
トンファーを失っても恩人の乗っているあの船には行かせない、と闘志を剥き出しに構えるギンにクリークは嘆息しつつ
「…だから落ち着けと、それとも何だ?グランドラインに行って奴と再会する前にこの東の海で朽ちるつもりか?」
そう言ってゴキリと指を鳴らして構える。
常人を超えた怪力とウーツ鋼の鎧に大量に仕込んだ武器、それらが首領の強みだと思っていたギンだったが、鎧も武器も全て壊された"何も無い"目の前の男から立ち上がる気迫は尋常なものでは無く覚悟を決めた筈のギンも気圧されたのか一歩下がらせられる。
「あぁは言ったが今更…グランドラインになんておれはいけっこないですよ、どっかの誰かさんの毒ガスを浴びたこの身体じゃぁあと数時間待つとも知れないですしね…」
アンタの使った毒ガスのせいだろ?と暗に口の端から血を流しながら自嘲めいてそう言うも
「はぁ…俺が入念に調合した毒だぞ?テメェの食事には毎回徐々に量を増やしながら毒を混ぜてたんだ、そんなんでくたばる程ヤワな調整はしてねぇ筈だが?
血を吐いてんのは気管の表面が炎症でやられてるからだ、安静にしてりゃそのうち治る…あとこれも飲んどけ」
クリークがブーツの底から取り出した包みを受け取りつつもギンは愕然とし、そう言えば"ドレッドノート・サーベル号"で幹部達の食事は全て首領がいつも手作りしてたな、と思い出しいつもの食事に毒が入っていたと聞き軽く頬を引き攣らせる。
「…昔から読めないお人だったが…首領、アンタ一体何がしたいんだ?
さっきの戦いもそうだ、違和感はあったがさっきの気迫で確信した…あんた本気で戦ってなかったんじゃないか?」
その言葉にクリークは眉を上げ
「ほぉ…そこまで読めたか、流石グランドラインで一味に合流するだけあるな、これはグランドラインに行く前に育て甲斐がありそうだ」
と軽く呟くだけ。
「っ…あの命懸けの戦いを馬鹿にしてるのか首領?本気も出さずに船も奪えず!無様に麦わらに負けて!アンタは一体何をしてぇんだよ!」
その態度にギンは猛然と捲し立てる、もし本気で目の前の男が戦っていれば…自身が憧れた男のあんな無様な姿は無かったのではないか?、そう考えてしまったのだ。
「だから落ち着けと…それともなんだ?おれが麦わらとコックを血祭りに上げてあの海上レストランを奪ってしまえば良かったって言うつもりか?」
クリークのその言葉に
「っ…そういうわけじゃないですが」
と言葉に詰まるギン、それを見てクリークは
「なぁギン、世の中にはな必然ってもんがあんのさ。
"おれが海賊艦隊を作るのも"、"第一回のグランドライン遠征が失敗するのも"、"お前があのコックに救われるのも"、"おれが麦わらに敗れるのも"、"そしてお前がグランドラインで…まだ出て来てなかった新世界か?まぁ、グランドラインで麦わらと再会するのも"全ては必然ってわけだ。
全ては必然なんだよ、偶然なんてねぇあるのは必然だけだ…これから先あの麦わらの周りでは次々と嵐が起こるだろうさ、そしてお前はそんな男とグランドラインで再会を約束した男…きっとあのコックの窮地を救う事になる筈だ…だからこそお前も今のままでは力不足、しっかり鍛え上げてやる。
途中までしかわからねぇ以上それが退場した俺に出来る唯一の事だからな…」
ギンはその姿に"まるで自分を通して他の人間を見ているような"そんな不気味な違和感を覚えるのだった。
"騙し打ちのクリーク"…東の海で最強最大の海賊団と専ら言われており賞金2000万ベリーと東の海にしてはかなりの高額賞金首の海賊である。
彼を総督とする武装集団は"ドレッドノート・サーベル号"を旗艦として海賊船75隻、7500人の兵隊を擁する大組織で勿論そんな大人数では海賊稼業だけでやっていける訳もなく東の海では海賊であると共に業界最大手の傭兵団でもあった。
報酬によっては何でもやる…そんな彼らが突如として活動を中止、偉大なる航路に入ると決定した時は賛否両論であったが彼らが海難に遭い旗艦を残してほぼ壊滅したとニュースになった時は多くの者が"やっぱり…"と納得、それ程までに当時はグランドラインと言う場所は恐れられていたのであった。
普通だったらここで折れていたかもしれない…だがこのクリークと言う男は普通では無かった。
首領クリーク、彼には前世の知識があった。
そしてその中にあった架空の冒険活劇、それが好きであり自身がその世界にいると知った時にはとても喜んだ…だが彼は自身が物語の途中で主人公に倒されるいわゆるやられ役だと知った時にそれは深く、深く悩んだのだった。
わざわざ好き好んで殴られに行きたくはない…だが自身はやられ役ではあるものの"主人公の仲間フラグを立てる"という重要なファクターとなりうるやられ役…ここで逃げては原作の通りに進まず、これから先の世界を巻き込む主人公のあの大冒険も無くなってしまうかもしれない…それは許容できない。
ならば原作と同じように行動し、原作と同じ結果になるように動けばいい…そう結論を出した男は朧げな記憶を頼りに自分が劇中でどんな行動をしたか、何と言っていたかを必死で思い出した上に無闇矢鱈と命を奪う気も無いので周囲の人間も鍛えつつその名を上げていく。
お陰で原作より少し多くの数の男達が傘下入りを希望、目標があったクリークは快く承諾し"原作と同じように装備を作り"、そしてそれらを使いこなすべく練習し、更にはイレギュラーがあっても対応できるように知識を元に戦闘力を磨き続ける傍、夜な夜なフル装備をして鏡の前で
「うっとおしいわァ!…もうちょっと腕は上か?…うっとうしいわァ!!…もうちょいドスの効いた感じか?うっとうしいわァ!!!…よし、通しでやってみるか…」
と台詞とポーズを原作と同じになるように練習し…そしてとうとう東の海でライバルとしてこちらを敵視しているバギーが討伐されたとの報告にとうとう動き出した。
まずは失敗すると知っていて海賊艦隊75隻を率いてリヴァースマウンテンに向かうことすらせず真っ直ぐにカームベルトに、風も波もないのでオールで漕いで強行突破を図る。
勿論そんな事すれば海王類が黙ってる筈も無くカームベルトを無理矢理抜けてグランドラインに入った時には船は半数近くに減り、更にそこに襲い掛かるのはグランドラインの出鱈目な気候、嵐に雷、雨に雪、尋常ではない気候に翻弄され更に艦隊は数を減らし、そして鷹の目を引きつけながらもカームベルトに再度突入、スピード優先の為海王類は長年の修練による巧みな槍捌きで尾やヒレを切り落とし再び東の海に舞い戻る。
原作と同じになるように海軍が追ってきた際にはギンに影武者になるように命令して送り出し、そして不安はあったもののその目論見はうまく行き次にギンとクリークが合流した時にはギンはバラティエでサンジに助けられ、そして案内を買って出たのだった。
それからは練習の成果もあり"多少の違いは色々あったものの"概ね事態は原作の通りに進行し絶対に痛いだろうなぁ…と思いつつ力を抜いて主人公の攻撃を無防備に受けた所で気絶したフリをする。
そして最後の一芝居…とその時を待ち主人公が助け出された所で口の中に隠していた血糊袋を噛み潰すと
「俺が最強じゃねぇのかァ!!」
ゆっくりと立ち上がりそう叫べば余程の重症に見えたのだろう、周囲の部下が何とか抑えようと立ち上がる…その数十人ほど。
「誰も俺に逆らうなァ!!今日まで全ての戦闘に勝ってきた!!俺の武力に敵うものはありえねェ…って原作より多いわぁっ!!」
「え?」
「と、兎に角首領を抑えろ!!」
「…俺は最強の男だぁ!!」
そして無防備にしたその腹をギンが拳で撃ち抜くのを合図に冷や汗をかきながらも再び気絶したフリをして事態はようやく終結。
犯罪者に海賊といった荒くれ者達を纏め上げ、その素行はともかく強さだけなら東の海でも随一と言われ、多くの国家からある程度頼りにされていた"海賊傭兵艦隊"。
そしてその崩壊とそれを纏める首領の突然の凶行に多くの者が驚きそして首を捻った…強さだけなら本部の海兵にも勝る男が何故たかだかルーキーに破れたのか。
色々な憶測が飛んだものの答えは知れずやがてその噂も人々に忘れ去られていた頃、その張本人はとある島で"最大の出番は終わったな、後はギンをグランドラインにいるであろうキッドの所に送り込むだけか…"と考えつつギンに覇気の使い方を指導しつつ考えていたのだった。
そして既にキッドの元にキラーがいる事を知って
「ちょっと待て!?キラーとギンって別人なのか!?」
と頭を抱えたり、ギンが新世界で出てくる可能性がある以上引き返すわけにも行かず襲いかかってきた海賊を返り討ちにしどんどんと勢力を拡大して再び"海賊艦隊提督"としての名を取り戻した挙句に最悪の世代に"12人の超新星"として数え上げられて胃が痛くなるのはまた別の話である。
早いものでもう四百話に突入しました、日々皆様の応援のおかげとこの場を借りて御礼申し上げます。
さて、この話は原作通りに進めたものの曖昧な知識のせいで原作から外れたルートです。
そこにいる人々が意思を持って生きている以上寸分の狂いなく原作通りにはならないという事をコンセプトとしています。
キッドのとこの殺戮武人キラーをギンだと思っていたフシがありその為に出番が終了した後は迅速に隠れ家に移動、武装を整えると少人数で秘密裏にボートでカームベルトからグランドラインに突入。
枷を外しているので海王類なぞ恐るるに足らずと強行突破しギンを鍛え上げながらキッドの情報を集め、いざ会ってみればキッドの傍には既にキラーが存在しており頭を抱えた模様。
んー、描いてみたはいいが思ったように書けなかったな…表現力がいまいちと言うかもっと原作遵守に囚われた不気味な存在にしたかったんですけどねー…要練習ですね。
ではお付き合いいただきありがとうございました、次の更新はお休みして次回は27か28の更新になるかも知れません。
原作突入後の描写について、現在原作が始まった事により麦わら一味の描写が多くなっていますがそれについてのアンケートを行います
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麦わらメイン(原作のに近く変化がわかる)
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クリークメイン(傍観者、クリーク主人公)
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二つの視点(麦わら視点とクリーク視点)