【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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#3 俺たちのワンチャンダイブ 3/3

 街はずれに存在するアトリエ・バッチョ。このアジト兼仕事場をよもや掴まれているなどとは思いもよらず、ギャングラー"ナメーロ・バッチョ"はひとり悦に入っていた。

 

「くくくっ……いいねいいねェ!ドグラニオ様の像、次はどこに建てようかねぇ……」

 

 かっぱらってきたデバイスで周辺のマップを表示し、選定作業をすすめる。果たして天哉の推理したとおり、ナメーロの狙いは高層ビル群に狙いをつけていた。それもひとつではなく、その場にあるものすべて。

 

 しかし次の瞬間、アトリエのドアはいとも容易く弾き飛ばされた。

 

「!!?」

 

「動くなッ、国際警察だ!!」

 

 勇ましい発声とともに飛び込んできたのは──飯田天哉。寸分遅れて耳郎響香、さらに切島鋭児郎もまた、別の出入口から突入してくる。三方向を囲まれ、理解が及ぶより先にナメーロは逃げ場を失っていた。

 

「ど、どうしてここが!?」

「警察の情報力舐めんなっての!──行くよふたりとも!」

「ああ!」

「ウッス!」

 

「「「──警察チェンジ!!」」」

 

 パトライズ──電子音声が流れると同時に、頭上めがけて引き金を引く三人。放たれた光の弾が彼らの身体を包み込む。そして、

 

 彼らは、パトレンジャーへと変身を遂げた。

 

「国際警察の権限において、」

「──実力を行使するッ!!」

「助っ人だけど……右に同じくっ!!」

 

 三色の戦士たちに銃口を向けられ、ナメーロは過剰なほどに背筋を震わせる。

 

「こ、この、この状況はぁ……ッ」

「………」

 

 

「──いいねぇ!」

「は?」

 

 大前提として、ここはナメーロの所有するアトリエであった。ガラット・ナーゴのように血の気が多いタイプではなくとも、彼はまぎれもないギャングラーのひとり。

 己のテリトリーに侵入者を想定したトラップを仕掛けてあるのは、当然のことだった。

 

 四方八方から毒々しいピンク色の粘液が噴き出してきたのは、彼らがその事実に気づくより寸分あとのことで。

 

「うわぁっ!?」

 

 全身にスコールのごとく降りそそぐそれらは、あっという間に固まって彼らの自由を奪っていく。うっかりバランスを崩してしまった1号などは、うつ伏せに尻だけを持ち上げた情けない姿勢で身動きがとれなくなってしまった。

 

「う、動けん……!」

「くそっ、こんな罠が……!」

「罠ですよぉ~、げしげしっ」

 

 反撃不可能な状態であるのをいいことに、突き出された1号の尻を小突くように蹴るナメーロ。肉体的には大したダメージではないが、精神面は別問題である。

 

「てめっ、この野郎……!」

「おぉ怖いねぇ~!じゃ、仕事があるからこの辺でぇ!」

 

 戯れもそこそこに、ナメーロは脱兎のごとくその場を逃げ出した。彼の目的はドグラニオの彫像をあちこちに作りまくること。パトレンジャーなどに用はないのだ。

 

「ミイラ取りがミイラとは、まさにこのこと~!くくくくくっ──痛でぇっ!!?」

 

 いきなり足下に焼けつくような痛みが走り、ナメーロは盛大にその場を転がった。まったくの不意打ちであった。

 

「へ~、やっぱり罠だったんだ!」

「!?」

 

 にわかに響く、いとけない少女の声。痛みを押して顔を上げたナメーロが見たのは、こちらに銃口を向ける覆面の男女の姿で。

 

「かっ、快盗!?……ということはまさか、警察(ヤツら)は囮かァ!?」

「ふ……そういうことだ」得意げに応じつつ、「どうだ小僧、なんとかとハサミは使いようだろう?」

「!、………」

 

 勝己は憮然とそっぽを向いたが、舌打ちをしたり反抗する気にはならなかった。一見邪魔でしかないものを、己の目的を果たすための糧とする──昔から、自分に致命的に欠けていたもの。

 

「さぁ、行こうぜぃふたりとも!」

 

 おどけつつ、発破をかけるお茶子。いつもなら「仕切んな!!」と怒鳴りつける勝己も珍しく口を開かぬまま、VSチェンジャーを構える。

 そして、

 

「「「──快盗チェンジ!!」」」

 

『レッド!』

『2・6・0!──マスカレイズ!』

『快盗チェンジ!』

 

 ダイヤルファイターを装填したVSチェンジャーから発射される、光のカード。三人を透過したそれらは、強化服となって全身を包み込む。そして頭部には、シルクハット状のオーラが覆いかぶさり──

 

「──ルパンレッド!!」

「ルパンブルー……!」

「ルパンイエロー!」

 

「「「快盗戦隊──ルパンレンジャー!!」」」

 

 世間を騒がす快盗の姿へと、変身を遂げた。

 

「予告するッ!」

「貴様のお宝、貰い受ける!」

「~~ッ、ぼ、ボーダマンっ!」

 

 ナメーロの呼び声に応じ、どこからともなく集合してくるボーダマン。先手必勝とばかりに、彼らは躊躇なく銃撃を開始した。

 

「っとと!」

 

 重力に逆らって迫る、弾丸の雨あられ。しかし敏捷性に長けた快盗たちにとって、そんなものは脅威でもなんでもない。素早く飛び退き、ボーダマンらの視界から姿を消す。

 だが、それも一瞬のこと。

 

「おらっ、死ねぇ!!」

「!?」

 

 ロープを利用して宙を舞いながら、反撃の掃射を浴びせかけるルパンレッド。ボーダマンらが右往左往しているところに、ブルーとイエローが飛び降りてくる。

 

「邪魔だッ、失せろ!」

 

 ひらりとマントを翻しながら至近距離の敵を殴りつけ、開いた隙間から銃撃を繰り出す。壁を蹴って跳躍し、あるいは乱れぬ弧を描きながら。

 そんな彼らに一撃たりとも痛打を与えることができぬまま、ボーダマンはひとり残らず地に倒れ伏した。

 

「ふ~、片付いた♪」

「残るは貴様だけだ、ギャングラー」

「うぐぐ……ッ、これはまずいねぇ~……!」

 

 ナメーロは己が敏捷性に欠けることを自覚していた。サーカスのように華麗な戦いぶりを見せつけるルパンレンジャーとは明らかに相性が悪い、このままでは早晩ルパンコレクションも奪われてしまうだろう。

 

 

 異世界から戦況を見守るドグラニオたちも、その所感を共有していた。

 

「ナメーロめ、もう終わりか。呆気ない……」

 

 失望を露につぶやくデストラ・マッジョ。彼個人としては元々なんの期待もかけてはいなかったのだが、彼の主は違った。

 

「俺の銅像……アレひとつで終わりじゃあ肩透かしにも程があるな」

「所詮それまでの奴だったということでしょう」

「違いない。……が、これでは俺の気が収まらんのだよ」

 

 コツコツとテーブルを指で叩きつつ、ドグラニオは側に侍るもうひとりの配下に目配せをした。それを受け止め、彼女──ゴーシュは妖艶に笑う。

 

「でしたら私にお任せください、ボス。実験したいことがありますの」

 

 その手にはいつの間にか、彼女らギャングラーの身体に埋め込まれているものと同じ金庫が存在していた──

 

 

 *

 

 

 

 パトレンジャーは未だ、ナメーロの仕掛けた罠から抜け出せずにいた。

 

「ぐ……ッ、ぬ、けねぇ……ッ!」

 

 全身に力を込め、脱出を試みるパトレン1号。しかし元々の姿勢が姿勢であるから、傍目には臀部をひたすら上下させるという間抜けな動作にしか見えない。無論この場にそれを嘲う者はいないが。

 

 彼の仲間──2号と3号も、また捕らわれていることに変わりはないのだ。

 

「くそっ、せめて誰かひとりでも脱出できりゃ……!」

 

 雁字絡めの姿勢のまま、毒づく3号。だが指先一本を動かすことすらままならない状況では、それは不可能と言うほかない。

 

(応援を頼むしかないか……でも……)

 

 それを待っている間に、快盗が目的を果たしてしまうかもしれない。彼らにいいように利用されっ放しだなど到底許容できない。警察官としてのプライドがあった。

 

──そのとき、彼女の耳にエンジンのいななきのような音が飛び込んできた。

 

「!、飯田……?」

「……ッ、」

 

 その音は、2号──天哉の足下……ふくらはぎのあたりから響いている。それが"ような"ではなく正しくエンジン音であることを察すると同時に、響香は焦燥を覚えた。

 

「おい何してんだ!?まさか、個性使う気か!?」

「ッ、それならあるいはっ……脱出できるかもしれん……!」

「バカっ、ンなことしたらあんたは……!」

 

(なんなんだ……飯田さんの個性って?)

 

 それほど危険な個性なのだろうか。だとしたら……と鋭児郎が思う間もなく、天哉が雄叫びをあげた。

 

「う、うぅぅぅ……うおぉぉぉぉ──ッ!!」

 

 刹那、

 

──DRRRRRR!!

 

 生まれもったふくらはぎのエンジンもまた、絶叫した。巻き起こる旋風が、足を拘束していた粘液を吹き飛ばす。

 さらにその勢いがピークにある瞬間を逃さず、彼は両腕に全力を込めた。粘液が音をたてて剥がれていく。──彼の身体を、解放していく。

 

「ふ──ッ!」

 

 その後の行動も素早かった。すかさず仲間たちにVSチェンジャーを向け、引き金を引く。放たれる光弾は、彼らに纏わりつく粘液のみに命中、弾き飛ばした。

 

「うおッ、う、動ける……!あざっす、飯田さ──」

 

 喜びのままに顔をあげた鋭児郎が目の当たりにしたのは、

 

「ぐ……うぅ……ッ」

 

 その場に倒れ込む2号。露になったふくらはぎからは大量に出血し……緑のスーツを、真っ赤に染めていた。

 

「飯田っ!──あんた、なんて無茶を……」

「ッ、大丈夫……命にかかわるようなものではないからな……」

「そういう問題じゃ……──ッ、あんたもホント、ヒーロー馬鹿……」

 

 表向き呆れたような、しかしその内側から深い憐憫と共感の情を滲ませた響香の声音。それがひどく、鋭児郎の耳に残った。

 

 

 *

 

 

 

 ナメーロの戦いぶりは、従前の予想を裏切らないものだった。

 スピードを生かしてフィールドを舞うように戦うルパンレンジャーとは、そもそも相性が悪い。それにもまして屋外で戦闘に突入してしまったのだ、粘液によるトラップも用意していない。

 

「ぎゃあああ~!!」

 

 結果、彼はいま、取り囲まれた状態で地面を転がっていた。

 

「よ~し、追い詰めた!」

「年貢の納めどきだな、──レッド」

「チッ……わーっとるわ」

 

 気だるげに……しかし確実に殺気を発しながら、ナメーロにやおら迫っていくルパンレッド。彼の手により、ルパンコレクションは盗みとられる──この場にいる全員が、その近い未来を確実なものと思っていた。

 

 彼女──ゴーシュ・ル・メドゥが、姿を現すまでは。

 

「そろそろ始めましょうか……フフ、」

 

 金庫をするりと撫で、その場に置く。

 そして注射器のような形状のルパンコレクションを取り出すと、背中にある黄金の金庫を開き、双眼鏡型のコレクションと入れ換える。彼女は一般のギャングラー構成員とは異なり、複数のコレクションを所有しているのだ。

 

「──私の可愛いお宝さん、」

 

 

「ガラットを元気にしてあげて」

 

 背中の金庫が妖しく光り、後天的に融合させたジェネレータを介して彼女の腕にエネルギーを移していく。転がった金庫めがけて、彼女はそれを掌から放った。

 

 緑色の輝きに包み込まれた金庫がふわりと浮かび上がり、ビルの向こう側に消えていった。

 

 

 刹那、激震が周辺一帯を襲った。

 

「きゃっ!じ、地震!?」

「ッ、こんなときに……!」

 

 大願を阻む自然の悪戯に苛立つ快盗たち。しかしそれは程なく違和感へと変わった。

 

「違ぇ、これは……!」

 

 足音のような地響き。──刹那、ひときわ大きいビルが一瞬にして破壊された。

 

 そして現れる、巨大なる異形の影。

 

「あいつは……!?」

「なんで、倒したはずなのに……!」

 

 ルパンレンジャーが狼狽する一方で、

 

「ナメーロのおかげで棚ぼたね、」

 

「──ねぇ、ガラット?」

 

 ガラット・ナーゴ。昨日パトレンジャーによって粉砕されたはずの凶悪なギャングラーが、数十倍にも巨大化して地獄から舞い戻ったのだ──

 

 

 à suivre……

 

 

 

 




次回


「KAISER × KAISER」

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