【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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#36 天上事変 2/3

──A.M.10:30(日本時間) 警察戦隊タクティクス・ルーム

 

「楽にしてくれ」

 

 入室してきた管理官の言葉に、警察戦隊の隊員たちはかえって居住まいを正した。それだけ緊迫した心境にあるということだろう、無理もない。

 

「管理官、長官の乗った旅客機がギャングラーにハイジャックされたって……!」

「長官は……いえ、乗客の皆さんはご無事なのですか!?」

 

 青年らの矢継ぎ早の問い──紅一点である耳郎響香が冷静に「落ち着きなよ」と言ってくれるので、管理官である自分がわざわざ大声を出さずとも済むのが不幸中の幸いだった。

 

「……きみたちが慌てるのもわかるが、まずは状況を説明させてくれ。──ジム、」

『はいっ!』

 

 ジム・カーターがカタカタと端末を操作し、プロジェクションマップを表示する。

 

「長官の搭乗なさっているフランソワ航空N407便は日本時間午前一時頃、シャルル・ド・ゴール空港を出発した。そして一時間前、午前九時ごろ──」

 

 トルコのイスタンブール上空で、乗客に紛れていたギャングラーがその姿を現した──

 

「ペッカー・ツェッペリンと名乗ったギャングラーは長官をはじめとした乗客を人質に、国際警察の保有するルパンコレクションの引き渡しを要求してきたそうだ」

「……つまり、VSビークルを?」

「そういうことだ。回答期限は十二時間後……正確には十一時間半後か。中東支部の陸戦部隊、アルスラン隊長による尽力で、どうにかそこまでは引き伸ばした」

「なるほど、日本にできるだけ近づけようってことですか。でも、そう上手くいきますかね?」

 

 口調は相変わらず皮肉めいているが、死柄木弔の指摘は尤もだった。今のところは航路通りに飛行を続けているが、それもペッカー・ツェッペリンの言葉ひとつでどうとでも変わってしまうのだから。

 

「VSビークルが日本支部に集まっていることは、相手だってわかっているはずだ。自分から取りに来るよう誘導する。きみらを日本から出すのは……最終手段だ」

 

 いかに緊急事態といえど出入国にはそれなりの手続きが伴うし、その間に別のギャングラーが国内で犯行に及ぶ可能性だって考えられる。なるべく日本からパトレンジャーを出したくない──それが本音だった。

 

「なるほど。じゃあもうひとつだけ、相手の要求にはどこまで従う気ですか?まさか本気でVSビークルを渡そうってんじゃないですよね?」

 

 流石にこれには、皆──とりわけ飯田天哉などは思いきり顔を顰めた。日本的礼儀を襲っていないというのはあるかもしれないが、相手が誰であろうと言動に毒があるのは彼の性格としか言いようがないだろう。

 幸いなのは、対する塚内がおおらかというか、あまりそういったことを気にしない性質であることか。

 

「ギャングラーと交渉はしない!……が、最初から原理原則を前面に出すわけにもいかないだろう?人命がかかってるんだ」

「………」

「相手と駆け引きをする、そして最終的には出し抜く。VSビークルをひとつも渡さず、人質も救出する」

 

「それが、我々に課せられた任務(ミッション)だ」──塚内はそう言明した。

 

「具体的には、どうするんです?」

「それを考えるための十二時間だ。……これから上層部(うえ)と詰めてくる、きみらは待機していてくれ。無論、何か思いついたら遠慮なく報せてくれるとありがたい」

「了解しました!」

 

 部下の敬礼を受け入れ、塚内管理官は退室していく。──それを見送ったところで、弔もまた立ち去ろうとする。

 

「……どこへ行くんだ?」

 

 訊いたのは他でもない天哉だった。四角張った視線と声をぶつけられた弔は歩を止め、ぎろりと彼を睨めつける。

 

「いちいち言わなきゃいけないのかよ。……トイレだよ、日本語で言えばご不浄、便所、お手洗い。アンダスタン?」

「……ッ、」

「じゃ、失敬」

 

 今度こそ出ていく弔をこれ以上留めるための言葉を、天哉はもたなかった。ただ、納得したわけでないのはその表情からして明白で。既に弔の言動に慣れている鋭児郎と響香は、思わず顔を見合わせた。

 

 

 *

 

 

 

──A.M.10:45(日本時間) SALON DE THE JURER

 

 フランス流の内装とメニューにこだわりのあるこの喫茶店では、快盗たちが"業務連絡"を受けていた。

 

「ハイジャック、だァ?」

 

 聞き返す声に、弔は電話口で首肯した。──彼を通して、国際警察の情報は快盗たちに筒抜けになっている。尤も、警察側もそれを黙認しているふしがあるが……。

 

「ああ、見事にしてやられてくれちゃったよ。長官の来日計画まで洩れてるなんてさァ」

「……国際警察内にスパイがいるっつーアレか。てめェといい、獅子身中の虫だらけだな」

「俺は虫じゃないもん」

「モンとか言うなやきめェ」

 

 不毛なやりとりを挟みつつ、

 

「で、ケーサツはどう動くつもりなんだよ」

「方針としては、日本の領空にまでギャングラーを引きつけて人質の救出だってさ。ま、具体的にどうやるかはまだ決まってないけど」

「けっ……俺らが行けば早ぇだろ。空飛べンだから」

C'est vrai(まったくもって).……でも流石に今回はね。国際警察の長官を救出したのが快盗で、警察戦隊は指くわえて見てるだけでしたーなんて、面子丸潰れどころか存続にかかわる」

 

 ルパン家の人間であり、国際警察にとっては"獅子身中の虫"である弔だが……少なくとも、ギャングラーに情報や物資を横流ししているような連中とは違う。警察戦隊というチームを今失うわけにはいかないという想いは、正規の隊員たちと変わらない。

 

「で、爆豪くんさァ。きみが空飛べンのは、どうしてかなァ?」

「ア゛ァ?」

 

 人を喰ったような問いに、勝己の眉間に皺が寄る。スピーカーフォンにして炎司とお茶子も傍らで会話を聞いているので、彼がそうするのもむべなるかな、という心境であった。

 

「そういう個性があるわけじゃない。──ダイヤルファイターのおかげだろう?だったら、パトレンジャーにだって同じことができるはずだ」

「!、てめェまさか……」

 

 弔の"提案"──それは快盗たちにとって、到底受け入れがたいものであった。

 

 

 *

 

 

 

──A.M.11:30(日本時間) イラン・アルダビール上空 フランソワ航空N407便内

 

 ギャングラーによってハイジャックされた機内は、異様なまでの静けさと緊張感に包まれていた。

 通路をポーダマンが巡回し、絶えず乗客たちの監視を続けている。わずかな身じろぎひとつに敏く反応し、銃を突きつけてくる彼らは、抵抗する力をもたない大勢にとってあまりに恐ろしい存在であった。

 

 その中にあって……ハイジャック犯たちにとって最大の切札、国際警察長官とその秘書……仮面の青年だけはレストルームに"招待"されていた。

 

「さあ長官、そろそろお考えを改めていただけましたでしょうか?」

 

 椅子に拘束した目の前の男に対し、慇懃無礼な口調で問いかけるペッカー・ツェッペリン。対する痩身の男──国際警察長官は、「HAHAHA」とフランスというよりアメリカナイズされた笑い声で応じた。

 

「私の立場を理解してほしいな。ギャングラーとは交渉しない!……としか言えないだろう、表向きはね」

「……ふぅむ、困りましたね。あなたが直接命令を下せばそれで済むんです、がっ!」

 

 ペッカーの拳が、長官の頬を捉えた。衝撃にぐらりと脳が揺れ、切れた口腔から血が滲み出る。

 

「おっと失礼、手が滑ってしまいました」

「ッ、それはまた……なんともうっかりさんだね」

 

 そのときだった。隣に拘束された仮面の青年が、己の手に力を込めたのだ。拘束しているとはいえ様々な個性持ちが存在する世の中、ペッカーは咄嗟に剣を構えた。

 

「おい、反抗するつもりか?他の乗客がどうなっても構わないんだな?」

「……やめなさい」

 

 主に制止され、青年は不承不承ながら矛を収めた。ペッカーが小さく鼻を鳴らす。

 

「まあいい、時は我が掌にある。──それに、」

「!」

 

 長官の胸元に、小型のピンマイクのようなものを取り付ける。──なんだ、これは?アナウンスでもさせるつもりかと訝る彼だったが、それは外見からは想像もつかないようなおぞましいモノで。

 

「あなたの部下にその気がないなら、その爆弾がドカン!……この旅客機ごと、あなたを吹っ飛ばしますよ」

「!、……そんなこと、きみだってただじゃ済まないだろう」

 

 その言葉に、ペッカーは今度こそ嘲笑を露にした。

 

「ははははっ!我々ギャングラーが、その程度で粉微塵になるとでも?そんなご認識で国際警察の長官とは、嘲笑わせる!」

「………」

「はははは、ははは……ンンンンっ。──ではゆっくりお休みください、閣下?」

 

 ポーダマンに監視をまかせ、ペッカーは踵を返し去っていく。その背中を睨めつけながらも、長官は深々と息を吐いた。むろん手加減はしたのだろうが……ギャングラーの拳は、かなり骨身に堪える。

 

「HAHAHA……まいったね、これは。ぐふっ」

 

 血を吐く……これは殴られたせいではない。持病のようなものだった。

 

「……見張りはポーダマンだけです、今なら──」

 

 不意に口を開いた青年が、感情のない声でそう言い放った。その掌に再び力がこもるのを認めて、長官は苦笑した。

 

「駄目だって。いっとき自由の身になるのと引き換えに、大勢の乗客が殺されたのでは話にならない」

「………」

「大丈夫。パトレンジャーが来るのを待とう」

 

 そう言って、彼は瞑目した。うっすら笑みすら浮かべたその表情の裏に、何を想っているのか。それを知る者は彼自身と、そして近侍する仮面の青年だけだった。

 

 

 一方、ペッカーは再び機長室を占拠していた。緊張の面持ちで操縦に専心する機長を尻目に、我が物顔で無線を使用している。

 

「やあ、隊長。わざわざ無線を繋げてくれるとは手間が省けていい。どうせなら警察戦隊と直接話をさせてもらいたいんだがな」

 

 親しげですらある物言いに、無線越しのアルスランは苦虫を何匹も噛み潰したような表情を浮かべた。

 

「日本と貴様らの現在位置では距離がありすぎる。そちらの要求は私が間違いなく日本支部へ繋いでいる」

「そうか。で、回答は?」

 

 一瞬、言葉に詰まるアルスラン。当然VSビークルを渡しはせず、乗客を救出して貴様を討つ──そのための作戦を考えているところだなどとは、口が裂けても言えまい。敵はそれなりに頭も回るようなので、こちらが素直に要求を呑むとは思っていなかろうが。

 

「……協議中だ。結論が出るまでには今少し時間がかかる」

「悠長なことを。長官閣下、それに乗客どもの命は私が思うより軽いらしいな?」

 

 次の瞬間、ペッカーの剣が副操縦士の喉元に突きつけられていた。恐怖に慄く声が、アルスランの鼓膜を打つ。

 

「よせ!時間がかかると言っただろうッ、そちらの望みにかなうよう全力で調整している。期限までは……待ってもらいたい!」

 

 言葉こそへりくだり、懇願するようだったが……その実、彼は凄まじい気迫を放っていた。獅子のごとき風貌と相俟って、それは咆哮のようで。

 わずかながら鼻白んだペッカーは、仕方がないという態度で了承した。──ただし、

 

「長官の身体に私お手製の爆弾を取り付けさせてもらった」

「な……なんだと!?」

「慌てるな、時限式だ。回答期限までは爆発しない……と言いたいところだが、そちらの態度如何では私の手で爆発させることもできる」

 

 爆破用のスイッチを撫でながら、ペッカーは愉快そうに嘲う。少なくとも現時点では、アルスランは敗北を認めざるをえなかった。

 

「……わかった、警察戦隊にその旨伝える。そちらは引き続き、日本に向けてフライトを続けてくれ。そのほうが受け渡しもスムーズにいく」

「承知した、よろしく」

 

 ギャングラーにしては一定の知性を感じさせる言葉が、かえって恨めしい。通信を終えたアルスランは悔しげにぐるると呻きながら、再び塚内に連絡をとった。状況はさらに悪化している……なればこそ、迅速に伝達するのが彼の役目だった。

 

 

 *

 

 

 

──P.M.1:00(日本時間) SALON DE THE JURER

 

 死柄木弔の"提案"について……快盗たちの間では、未だ結論が出ていなかった。

 

「……やはり俺は反対だ。いくら死柄木を介してといえど、返還される保証がない」

「でもっ!その死柄木さんが情報くれなきゃ、私たちにはわからないことが多すぎるんやし……人質の人たち、危ない目には遭わせられないよ……」

「人質より……ルパンコレクションが優先だ」

「そんなこと!……わかってる、けど……」

 

 炎司とお茶子の間でこのような論争が続き、決着がつかない。一方で……このようなときに最も激しい主張をすると思われがちな勝己は、カウンター席に座ってぼんやりとスマートフォンを弄っていた。

 

「……小僧、貴様はどう考えている?」

 

 痺れを切らした炎司が、ついに訊いた。むろん、彼らとて勝己が何も考えていないとは思っていない。その沈黙のうちに何を隠しているのか──それが快盗の行動を決定づけるものになるのではないかと、ふたりは予感していたのだ。

 

「……俺は、」

 

 目を伏せたまま、勝己が口を開こうとしたときだった。

 

「お話し中のところ、失礼します」

「!」

 

 相変わらず唐突かつ神出鬼没。──いつの間にか、黒霧がテーブルのひとつを陣取っていた。

 

「ハイジャック犯について情報を得ましたので、ご報告に。──名前はペッカー・ツェッペリン。爆弾を製造し各所で爆破テロを起こしたという記録があります」

「ツェッペリン……また随分と皮肉な名前だな」

 

 そちらの知識も多少ある炎司のつぶやきは、少年たちには理解できず流されてしまった。

 

「所有していると思われるルパンコレクションは"L’homme sage(賢者)"……知力を底上げする効果があります」

「な、なんか地味やね……」

「否定はしません。ですが、それゆえに──」

「……まあまあ綿密に練られてるっつーことか」

 

 今回の、計画は。

 

「ッ、ね、ねえ黒霧さん!なんかええ方法ないかな?できれば、その……乗員乗客の人たちに犠牲を出さないように……」

 

 お茶子の言葉に──黒霧は、靄を揺らすことで応えた。

 

「……申し訳ありませんが、戦術を考えるのは皆さんの領分でしょう。あるいは、死柄木弔なら何か考えているのかもしれませんが」

「!、………」

「死柄木は今回、警察の側につくようだ。──マジックダイヤルファイターを貸せと、我々に言ってきている」

「……そうですか」

 

 ルパン家の人間である弔が国際警察を優先したことについて、黒霧の反応はそれだけだった。「いずれにせよ、どうするかは皆さんにお任せします」──そう告げて、去っていく。任せる……つまり弔に追従したとしても、やむをえないと言うのだろうか。

 

 不意に、勝己が立ち上がった。

 

「爆豪くん?」

「……死柄木に連絡する」

「!、……小僧、貴様」

「俺らが行ったところで、人質どころかコレクション奪れる確証もねえだろ」

 

 ペッカーは爆弾魔だと、黒霧は言った。旅客機に爆弾を仕掛けられていて、爆発させられたら──それに乗じて、まんまと海中に逃げおおせられる可能性もゼロではないだろう。

 

「……万が一マジックが戻ってこなかったら、どうする?」

「そんときゃ、また国際警察に侵入でもなんでもして奪い返してやる。ついでに死柄木の野郎を殺す」

「わ、私も一緒に行く!……殺すほうは手伝わんけど」

「………」

 

 炎司はため息をついた。──彼自身、有効な手立てを見出しているわけではない。であれば年長者だろうと、多勢に無勢だったのだ。

 

 

 *

 

 

 

──P.M.1:30(日本時間) 警察戦隊タクティクス・ルーム

 

「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん………」

 

 この執務室内に待機する者たちの中に、ひたすら唸り続ける青年の姿があった。特別に食堂から運んでもらった昼食を口にしてから小一時間そうしているものだから、いい加減仲間も辟易しはじめていて。

 

「切島……あんた、もっと静かに考えらんない?」

 

 呆れを隠そうともしない響香の言葉に、いったん唸るのをやめた鋭児郎はぼりぼりと後頭部を掻いた。

 

「だってよぉ、管理官が何か思いついたら遠慮なく教えてくれって。やっぱ任せきりっつーわけにはさ……」

「そりゃそうだけど……」

 

 とはいえ、現在進行形で行われているハイジャック。刻一刻と状況は変化しているだろう、それを把握したうえで分析しなければ、効果的な作戦など立てようもない。

 

「………」

 

 とはいえただぼうっとしているわけにはいかないと、皆、色々とアイデアを浮かべては沈めている。飯田天哉もまた例外ではなかったのだが……彼の視線の先には、明確に仲間と呼ぶには距離の開いたままの青年の姿があって。

 彼は会話に参加するでもなく、定位置になっている応接ソファでスマートフォンを弄っていたが……あるときそれが鳴動した瞬間、「お」と声をあげた。

 

「死柄木、どした?」

「……あー、デートのお誘いだったりして」

「はぁ?あんた、こんなときに……」

「わかってるって。ちょっくら電話してくる」

 

 ひゅう、と口笛を吹きつつ退室していく弔。その後ろ姿を眺めつつ、鋭児郎は苦笑し、響香は呆れ顔である。──実際にデートの誘いを受けたのかどうかは、また別の話として。

 ただここでも、天哉だけは種類の異なる表情を浮かべていた。その心中に宿るは、

 

 

「──てめェの提案、呑んでやる」

 

 電話口の勝己の言葉に、弔は唇をゆがめた。彼らが協力してくれるか否か、正直なところ五分五分だったのだ。仮に拒否されても、やむをえないと思っていたのだが。

 

「Merci、じゃあ15時に槇島山ふもとの工場跡で落ち合おう。万が一尾けられるとまずいから」

「……わーった」

 

 言うまでもなく国際警察の庁舎内である、細かいやりとりはナシにして通話を終えた。そうしてすぐタクティクス・ルームへ戻ろうとしたのだが、

 

「……誰と電話していたんだ?」

「!」

 

 立ちはだかる、大柄な影。──飯田天哉だった。眼鏡の奥を怒らせて、こちらを睨みつけている。

 

「誰って……言ったじゃん、デートのお誘いだって。つーか盗み聞きすんなよなァ、趣味悪ィ」

「趣味が悪いのはお互い様だろう。工場跡でデートなどと」

「………」

 

 天哉らしからぬ物言いに、弔は一瞬言葉に詰まった。その隙を逃さず、相手は畳みかけてくる。

 

「相手は快盗だな?……また、情報を洩らしたのか?」

「……ハァ。だったら何?俺が快盗に情報をやるのは、潜入捜査の一環だよ。何か問題ある?」

「……ッ、」

 

 確かに、表向きはそういうことになっている。快盗と連絡をとっていたところで、職務の範疇だと言われればそれ以上追及できない──理屈としてはそうだが、感情が納得を許さないのだ。

 

「……だがきみは、俺たちに対しても隠しごとが多すぎる。以前対立するそぶりを見せた割には、快盗たちとの距離も近い」

 

 実際、そこは否定できない。あれは信用を得るための芝居であって、実際にはどちらがルパンコレクションを入手しようが上納先は同じである。いつまでも誤魔化すのは最初から無理だと割りきって、戦場では普通に共闘していた。

 ただそれも、"潜入捜査官だから"と言えばそれまでだ。──少なくともこの場で、天哉が自分の正体を暴くことなどありえない。

 

「少しは信用してほしいんだけどなァ……人命第一っていう、きみらの方針は共有してるわけだし。ってかきみ、俺にどうしてほしいわけ?そこんとこはっきりさせてもらわないと、俺も同じ話しかできないんだけど?」

「……それは、」

 

 天哉が言葉に窮するであろうことは、訊く前から予測していた。性格は違うが、鋭児郎と同じかそれ以上にわかりやすい青年である。その不信感は、以前からありありと伝わってきている。

 

「……要するに、きみは俺が気に入らないんだろう?まァそれは構わないけど、だからって改めるつもりもないから」

「………」

「じゃ、Au revoir」

 

 冷たくそう告げて、天哉の横をすり抜ける。互いに背を向けたまま、距離は開いていく──そう思われた、刹那。

 

「……きみの、言う通りだ」

「………」

 

 立ち止まる。

 

「俺はきみの言動を受け入れられない、どんなに取繕おうとそれが本心だ……!でもっ!俺だってほんとうはきみと親しくなりたいし、信頼したいんだ!!どうすれば、僕は……!」

 

 拳を握りしめ──自らの狭量を、嘆いている。その震える背中に何も感じ入らないほど、弔は冷酷ではなかった。

 

「……ハァ。とりあえず、一緒に来る?」

「!」

 

 少なくとも今回に限っては、やましいことなどない。目を丸くする天哉に、弔はにこりと笑いかけてみせた。

 

 

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