2020年、大変な年でしたが…来年こそは、よいお年を~
──P.M.3:10(日本時間) 槇島山山麓・旧常磐工業工場跡地
パトカーを降りた死柄木弔と飯田天哉は、朽ちた工場の建物内に進入していた。既に使われていない建造物とはいえ勝手に入り込むのは犯罪なのだが、そこは国際警察、職務に必要となればそれで押し通すつもりだった。
「お待たせ、快盗諸君」
弔のややかすれた声が、工場内に反響する──刹那、三つの影が眼前に降り立った。
「やあ、Bonjour」
「……10分遅刻だわ、クソが」
「ごめんごめん、色々立て込んでさァ」
当然だが気安く快盗と言葉を交わす弔に、天哉はやはり複雑な思いを抱いた。ほんとうなら、ここで銃を構えてこの三人を捕らえるべきなのだろうか。葛藤の中に、彼はいた。
「で、約束のモンは?」
「……チッ」
舌打ちしつつ、顎をしゃくる勝己。──促されたお茶子が、前へ進み出た。その手には、飛行船の玩具がごときオブジェクト。
「マジック……確かに」
「……死柄木、必ず返せよ」
「それは「それは俺が保証する」──!」
一歩引いてやりとりを見守っていた天哉の言葉に、快盗たち、そして弔も驚きを露にした。むしろ彼は、いつ暴発してもおかしくないと思われたのだが。
「………」
敵意の中に誠心を滲ませる天哉の表情を、彼らは信じるほかなかった。
*
帰路。山間の道を市街へ向かい、パトカーが下っていく。運転を代わると言った天哉がハンドルを握っているので、弔はぼうっと窓の外を眺めていることができている。趣味というほどのものではないが、車窓を流れる景色は昔から好きだった。
「……取り乱してしまいすまなかった、死柄木くん」
「は?」
思考を断っていたものだから、唐突に発せられた天哉の言葉を一瞬、量りかねた。
「……あァ、来る前のこと?別に気にしてないけど……俺なんかと仲良くしたって、きみの人生に良いことなんか何ひとつないと思うぜ。だいたい俺、きみみたいな声のでかいヤツ嫌いだし」
「……そうか。そう思っている人間は、きっと大勢いるだろうな」
「は?」
思わず振り向く──と、天哉は珍しく自嘲めいた笑みを浮かべていて。
「俺はこの通り、頑固で偏屈で……些細な不行状ですら、見過ごせずに正そうとしてしまう。事情の如何を、汲み取ることもできないくせにな」
だから弔がひねていようとそうでなかろうと、弔に嫌われることは無理もない──天哉はそう自覚していた。容姿こそ瓜二つの兄は、正義感は強くとも些事など呑み込む度量を備えていたというのに。
「だから、あれは俺の個人的感情だ。きみが気にかける必要はない」
「……あぁ、そう」
天哉のか細い声を聞き届けた弔は、再び車窓を見遣った。流れていく、木々の谷間の市街。こうしていると、まるでミニチュアのようだけれど。
「参考までに言っておくと、」
不意に、言葉が滑り出した。
「切島くんのことも最初は嫌いだったけど、今はそうでもない」
「!、え……」
「所詮そんなモンだろ、人間の好き嫌いなんて」
「……死柄木くん、」
柄にもないことを言ってしまったという自覚もあって、それきり弔は何も喋らなかった。天哉のほうも口を噤んでいたが、ただ、その心情は明らかに異なるところとなっていたのだった。
*
──P.M.6:30(日本時間) 警察戦隊タクティクス・ルーム
各所との調整に奔走していた塚内管理官も戻ってきたことで、警察戦隊ではいよいよ最終ブリーフィングが行われる運びとなった。
「──爆弾ごと長官を救出して、機内を制圧するだと?」
弔の立てた作戦を聞いて、塚内は呆気にとられたような表情を浮かべた。実際、旅客機内は空の密室である。敵に気づかれずにそのようなこと、できるとは思えない。
しかし、弔は自信を込めて断言する。
「できますよ、マジックダイヤルファイターならね。マジックの名前は伊達じゃないですから」
「……ふむ。爆弾はひとつとは限らない、複数が機内に仕掛けられていた場合はどうする?」
「マジックの能力を使う前に、ジムに反応をサーチしてもらいます。長官と同じで」
『任せてくださいっ!』
万が一ダメなら、プランβ──小型発信機を取り付けたトリガーマシンを引き渡し、ペッカーを追跡する──に移行するしかないだろうが。
「管理官!現状、この作戦が最も有効ではないかと私も考えます!」
「コレクションを渡したところで、人質が解放される保証もないですしね」
リスクは当然ある。ただ、もう時間がない。隊員らの賛同に後押しされて、塚内は決断した。
「……わかった、それでいこう。407便が日本領空に入るまであと三時間もない、すぐに準備を進めてくれ」
「「「「──了解!」」」」
四人の声が重なり、動き出す。これより先の塚内の役割は責任をとること、この一点に尽きる。
*
──P.M.9:15(日本時間) 日本海上空 フランソワ航空N407便内
ペッカー・ツェッペリンは再び機長室にいた。眼前には、変わり映えしない漆黒の景色が続いているが。
「そろそろ日本か、機長?」
「……あ、ああ。もう間もなくだ」
「そうか……ククッ」
仮面のような顔に感情はないが、嘴のような右側面の角が揺らいで、その愉悦を明らかにしている。休憩もとれずに極度の緊張状態を強いられた機長らは疲労困憊だったが、そんなことは彼の知ったことではない。
(知略こそ、将たる器と示してやる)
VSビークルを手に入れれば、ボスの座は我が物となる──
夢想を抱く異形に支配された旅客機がいよいよ日本領空へ進入した頃、狙い澄ましたかのように後方に現れた飛翔体があった。旅客機でも戦闘機でもない──その姿は、まるで骨董品がごとき飛行船。
「ちょうどいい距離保ってくれよ、飯田くん」
「わかっている、任せてくれ」
飛行船──マジックダイヤルファイターのコックピットに在ったのは、パトレン2号とルパンエックス。操縦は生みの親であるエックスではなく、2号が担当している。
「ジム、長官と爆発物の反応は?」
『今探してますぅ!』通信機から、ジムの声。『両方やらなくっちゃあならないってのが、サポートロボットのつらいところだなァ!』
「御託はいいから、早く」
ロボットの割に無駄口の多いジム・カーターだが、その情報処理能力は非常に高い。三十秒ほどして、『出ました!』と声が上がった。
『長官は機体中央にいます!爆発物の反応も!』
「他には?」
『ありません!』
「………」
「じゃ、やるか」
「……うむ!」
勢いよくレバーを引くパトレン2号。──刹那、マジックダイヤルファイターの隠された能力が発動した。その証に、エックスの姿が消え去り、
「おっ!?……こ、これは……」
「!、長官……ご無事で!」
たてがみのような金髪の男──国際警察長官が、コックピットに現れたのだ。
いったい何が──ルパンエックスが旅客機内、長官の拘束されていたレストルームに姿を現したといえば、詳細に説明するまでもなくわかるだろう。
「!?」
突然のことに驚く見張りのポーダマン。Xロッドソードで袈裟懸けに切り裂いて彼を昏倒させると、そのまま振り向きざま仮面の青年を拘束するロープを断ち切った。
「死柄木……」
「よう、久しぶり。時間がないから単刀直入に訊くけど、ギャングラーと他のポーダマンは?」
「……ここを除いて各クラスに二匹ずつ。ギャングラーは機長室だ」
「……ハァ、まず後ろを片付けてからか」
機内の戦力は自分だけだ。ペッカーに気づかれる前にポーダマンを一掃しておかないと、乗客に危険が及ぶ。
後方──ファーストクラスに向かおうとしたエックスだったが、それを青年が押しとどめた。
「後ろは、俺が」
「……大丈夫かよ?」
「ああ」
淡々とした声音が、かえって自信を窺わせる。彼の個性を知っている弔は、渋々ながら了承した。
──踵を返し、前方へ向かう。突然現れた白銀の快盗に、ポーダマンは慌てふためいたまま射殺されていく。乗客の無事だけ確かめ、エックスはひたすら機長室を目指し突き進んでいった。
同じ頃、機長室を占拠しているペッカーは後方の騒ぎを感知していた。乗客の反乱か?怖いもの知らずがいるものだと考え、一応様子を窺おうと扉を開いた瞬間、
「──ガッ!?」
いきなり伸びてきた手が嘴型の突起を掴み、ペッカーを機長室から引きずり出した。
「Bonsoir、ペッカーちゃん?」
「き、貴様……ルパンエックス!?」
なぜ機内にいる?元々いたとは考えられない。だが、この空の密室にどうやって外から?壁に縫いつけられたまま、ペッカーは混乱する思考を巡らせた。
「簡単な話だよ。──マジックさ」
あらゆる"マジック"を起こす──マジックダイヤルファイターの真価。
「言っとくけど爆弾爆発させたってムダだぜ?長官は俺と入れ替わってマシンの中だ。そんなモン、とっくに外して海に捨てちまってるだろうよ」
「な、なんだとォ……!?ッ、あの爆弾は数グラムで旅客機ひとつ粉々にできる傑作で……必要最小限のコストで最大限の成果を……」
ブツブツと言い訳めいた言葉を紡ぎ続けるペッカー。そんなもの、聞きたくはないし聞くつもりもなかった。目的はただひとつ、
『0・1──4!』
「ルパンコレクション、回収」
コレクションを奪われたにもかかわらず、策に溺れた策士の思考は己の失敗の正当化に埋め尽くされているようだった。呆れた弔は彼を壁から引き剥がすと、そのまま扉付近まで押し込んだ。
「反省ならお外でしろよ」
「へ、──!?」
ようやく我に返ったペッカーが感じたのは、強烈な疾風と浮遊感。──旅客機から放り出されたのだと気づくのに、時間はかからなかった。
「じゃ、アデュー」
そして、エックスも飛び降りる。大気にその身を晒されながら、彼はXロッドソードを構え──
「──スペリオル、エックス!」
『イタダキ、エックスストライク!』
放たれたX字型の剣波が墜落するペッカーに狭り、呑み込んでいく──
「グァアアアアア──!!?」
肉体の面では並でしかないペッカーが耐えきれるはずもなく、八つ裂きになって爆散する。夜空に弾ける紅蓮の花火を横目に、ルパンエックスは雲海へと墜ちていく。
「ハァ……そろそろ拾ってもらいたいんだけどなァ」
このまま大洋にドボンは御免である。ぼやいていたらば、
『トムラ〜お待たせぇ〜!』
「おっ」
彼方より来たる、夜の翼。グッドストライカーだ──その存在を認識すると同時に、彼は浮遊感から脱していた。
「大丈夫か、死柄木!?」
両翼の間──グッドストライカーの背中の上には、パトレン1号と3号の姿があった。
「間に合って良かったぜ。そうだ、ギャングラーは?ルパンコレクションは回収できたのか?」
「どっちもケリつけたに決まってるだろ。つーかもっと早く来いよなァ、危うく魚のエサになるとこだったよ」
「……文句ならグッドストライカーに言ってよ」
『ムムムム〜っ、オイラ精一杯スピード出したぞぉ!?』
実際、弔が迅速に事を進めすぎた側面もある。無論それは良いことなので、責めるものはいないが。
「ハァ……ぼちぼち、第二ラウンドか」
──そのつぶやきに呼応したかのように、夜空の一部がぐにゃりと歪んだ。そうして現れる異形の女……空中ゆえか、こうもり傘を差して落下速度を軽減している。
「まったく、この私がこんなところまで……」ぼやきつつ、「私の可愛いお宝さん、ペッカーを元気にしてあげて」
爆風に煽られ飛び出した金庫の残骸めがけ、ルパンコレクションから供給されたエネルギーを注ぎ込む。彼女──ゴーシュ・ル・メドゥの手によって、死したギャングラーにはもう一度チャンスが与えられるのだ。
「ウオオッ、素晴らしい化学反応だぁ──ッ!!」
巨大化復活を遂げるペッカー。再び落下を始める──と思いきや、彼は背中の小さな翼を精一杯広げることでその場にとどまった。飛行はできなくとも、滞空はできる。無論、それだけではない。
「墜落しろ、警察ども!」
翼から羽根を分離し、敵めがけて放つ。剣以外に武器をもたないペッカーの、唯一の飛び道具。
『あ痛タタタタタッ!?』
想像以上に速度のある羽根をまともに受け、悶えるグッドストライカー。当然、背中に乗っている三人はその被害をもろに受けるわけで。
「うおおおっ!?」
「ちょ……揺らすなってグッドストライカー!」
『だって痛いんだモン!』
「モンとか言うなキモいから」
いつか聞いたような会話だが、危機的状況には違いない。ペッカーの頭脳は──些かお粗末ではあっても──優れていて、グッドストライカーの動きを予測してくるのだ。命中の度に機体が大きく揺れ、三人は振り落とされそうになるのをじっと耐えるしかない。
「クククク……終わりだ!!」
ペッカーがいよいよ"それ"を確信したときだった。グッドストライカーの下方に飛行船が現れ、代わりに羽根を受けたのは。
「!、マジック……」
「飯田!」
『すまない、待たせた皆!』
「長官は!?」
『輸送機に移っていただいた。これで心おきなく戦えるぞ!』
「っし……!──死柄木、またスプラッシュ貸してくれ!」
「ハァ……壊すなよ」
手渡されたトリガーマシンスプラッシュをVSチェンジャーに装填し、
『スプラーッシュ!位置について……用意!』
「行けっ!」
『出、動ーン!激・流・滅・火!』
巨大化するスプラッシュ。彼女は消防車であり、グッドストライカーやマジックダイヤルファイターのように飛ぶことはできない。このままでは真っ逆さまに墜ちていくだけだが。
「グッドストライカー、頼む!」
『Oui!いくぜいくぜ〜、警察ガッタイム・スペシャルバージョンだぁ〜!』
スペシャルバージョン──パトカイザーの土台にスプラッシュ、さらにはダイヤルファイターであるマジックが左腕として合体を遂げる。
名付けて、
「「「完成!パトカイザー"スプラッシュマジック"!!」」」
水流と魔法、相異なる力をもった巨人が、夜空を背に誕生した。
「こ、こんな空中で合体だと!?計算外だ……!」
呆気にとられるペッカー。それでもなお果敢に羽根を突き立てんとするが、合体によってより堅牢となった機体には尽く弾かれてしまう。そうこうしているうちに、スプラッシュマジックは重力に従って落下……つまり、みるみるうちに接近してくる。
「クソザコだし、とっとと引導渡してやれよ」一緒にコックピットに入った弔の言。
「お、おう……そうだな。一気に決める!」
立ち上がり、VSチェンジャーを構えるパトレンジャーの三人。その動作に連動し、スプラッシュマジックは左手から複数のカードをばら撒いた。それはペッカーに向かってワインディングロードを形成する。
「な、なんだこれは……!?」
「決まっている。──貴様の往く、死出の道だッ!!」
「「「パトカイザー、ツイストアップストライクっ!!」」」
スプラッシュより放たれる、超高圧水流。慌てて防御姿勢をとるペッカーだが、直後、予想だにしないことが起きた。
ばら撒かれたカードが水流を弾き、その軌道を変えたのだ。それもカードの数だけ同じことが起きる。止まらない屈折に混乱するペッカー、彼の運命は既に決していた。
──水流がついにペッカーを捉え、呑み込んでしまったのだ。
「ガボガボガボッ、モガガガガガッ!?」
もがくペッカー、しかし水流……もとい水の塊は、彼をそのまま海中へと引きずり込んでしまう。そして、
(ふ……複雑怪奇ィィィィ……!?)
それは、誰にも届かぬ断末魔であった。
次の瞬間、爆発とともに海に弾ける無数の飛沫。それこそが、人間たちの勝利の証。
「「「任務完了!」」」
『気分はサイコー!』
「………」
「水を差すようだけどさァ……俺ら、墜ちてない?」
「あ、」
その事実を思い出したときには既に遅し……パトカイザーはそのまま、盛大に海へダイブするのだった──搭乗者たちの悲鳴とともに。
幸いパトカイザーは水中でも活動できるので問題ないといえばないのだが、日本本土まで地道に泳いで帰らなければならないのだった。
*
──A.M.0:00(日本時間) 国際警察日本支部庁舎 屋上ヘリポート
無事に保護された長官は、機内に残った随員たちに先立ち日本支部まで送り届けられていた。
冷たい風に身を晒しながら、コンクリートの地面に一歩を踏み出す。正真正銘、数年ぶりの日本だ。
数年ぶりといえば、直接、彼に相まみえるのも。
「日本へようこそ、長官」
「!」
出迎えに現れた男に、彼は微笑みかけた。
「久しぶりだね、塚内くん」
「………」
「──おかえり、俊典」
上司と部下ではなく、親しい旧友として。塚内もまた、長官──八木俊典の言葉に応えたのだった。
à suivre……
「爆豪くんが結婚!?」
「なぜか飛んできたキツツキが激突!?」
次回「もしも空が落ちてきたら」
「心配すぎる……!」
「……頭、大丈夫?」