【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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あけましておめでとうございます!ハーメルンで迎える4回目の年越しになります。

というわけで、記念すべき2021年初投稿は…なぜか飛んできたキツツキ!!


#37 もしも空が落ちてきたら 1/3

 

 デストラ・マッジョは、いつかの酒場を再訪していた。

 身なりの良い人々が酒を酌み交わし、談笑している。彼らはギャングラーではないだろうに、明らかに異形の怪人であるデストラを前になんの反応も見せない。呼び出した男曰く、"そういう場所"らしいが──

 

 その男ことザミーゴ・デルマはデストラの向かいに腰掛け、初めて招待されたときと同じくシェリーグラスを弄んでいた。

 

「──つーわけで、また大きく動くと思うぜ?お巡りサンたちはさ」

 

 もたらされた情報に、この一つ目巨人は低い唸り声を発した。聞く者に怖気を走らせるような声色……ザミーゴは変わらず飄々とした笑みを浮かべているが。

 

「……人間どもめ。無駄な足掻きを」

「ハハッ……オレとしちゃあ、アツくなってきたと思うけどなぁ」

「そのくだらない趣味、いい加減どうにかすることだ。……ドグラニオ様も、おまえには注目しているのだからな」

 

 心底不本意そうに吐き捨てると、デストラは席を立った。踵を返し去っていく巨体。一分一秒でもこの空間にいたくないのか。あれだけの剛腕であるというのに、その精神は理性によって占められている──実に勿体ないことだと、ザミーゴは思った。

 

 

 *

 

 

 

 ある日の警察戦隊。タクティクス・ルームは、事件発生時とも異なる独特の緊張感に覆われていた。

 

「おはよう、皆」

 

 たてがみのような金髪が特徴的な、痩身の大男。彼の挨拶に対し、隊員たちは最敬礼とともに「おはようございます!」と返礼した。声までぴしっと揃っている──厳密には所属の違う一名を除いて。

 それを認めて、彼は苦笑を零した。

 

「HAHAHA、そう畏まらないでほしいな。せっかく大袈裟な就任式だなんだはナシにしてもらったんだ、皆も忙しいだろうしね」

「……そう仰られましても長官、彼ら一般隊員に緊張するなと言うほうが無理な話です。まあ、彼は例外にしても」

「例外でーす」

 

 例外こと死柄木弔は立ち上がることすらせず、定位置の応接ソファで顔パックに勤しんでいる。「死柄木くん立ちたまえ!!」という飯田天哉の尤もな注意と「家でやれよ」という耳郎響香の尤もな突っ込みが重なる。

 

「haha……彼は前からこうだから」

 

 ぼやきつつ、八木長官は隊員たちに歩み寄り、それぞれに握手を求めた。耳郎響香、飯田天哉。そして、

 

「切島鋭児郎くん、ヒーローネームは烈怒頼雄斗だったか。伝説の漢気ヒーロー・紅頼雄斗にあやかったそうだね」

「!、う、ウス!」

 

 そんなことまで知っているのか──鋭児郎が目を丸くしていると、八木はこけた頬にえくぼをつくって笑った。

 

「キミの協力にはほんとうに感謝しているよ。それと同時に、巻き込んでしまったことをすまないとも思っている」

「いや、そんな……俺、じ、自分はギャングラーと真正面から戦えて光栄っス……で、であります!」

 

 相手は本来雲の上の御方である、鋭児郎がしどろもどろになってしまうのも無理はない。ただその想いは本物なのだと、八木も感じとってくれたようだった。

 

「きっと間もなく戦いは終わる。その日まで、よろしく頼む」

「……ウス、あ、了解であります!」

 

 皆に声をかけ終えた八木は、塚内に意味ありげな眼差しを送ってタクティクス・ルームを辞した。側近らしい仮面の秘書を連れて。

 

「ふぃー……き、緊張したぜ」座り込む鋭児郎。「優しそうだけど……なんつーか、オーラが違ったなぁ」

「たしかにね。……独特の音がしたし」

 

 「それにしても」と、響香。

 

「あの秘書、なんで仮面なんか付けてるんだろ?」

「見せたくない事情がある……顔に傷があるとか。考えられるのはそんなところかな?」

 

「──やめといたほうが良いぜ、探るのは」

 

 美容作業を終えた弔が、輪に入ってきた。

 

「なんで?」

「あいつの素顔を知ろうとした人間は、皆消されるとかなんとか。本部時代ウワサになってた」

「ムッ、なんと恐ろしい……!」

「……実際、消された人は?」

「知らな〜い」

 

 呆れるパトレンジャーの面々だったが、弔はそれなりに本気で忠告をしたつもりだった。まあ、しつこく嗅ぎまわるような連中ではないだろうと、妙な信用もあるが。

 

「それより切島くんさァ、」

「うおっ」

 

 隣にやって来たかと思えば唐突に肩を組んでくるものだから、変な声を発してしまった鋭児郎である。普段は自分がやる側なので、むろん不快ではないが。

 

「その後どーよ、例の喫茶店店員とは」

「……バクゴーのことか?」

「そうそう、バクゴー某くん」

 

 鋭児郎は小さくかぶりを振った。ヤドガー・ゴーホムの事件後からこっち、何度かジュレを訪れているのだが……彼の勘気が解ける様子は、今のところない。

 たとえば、こんなやりとりがあった。スマートフォンでソーシャルゲームに興じている勝己に、俺にも教えてくれよと声をかけたときのこと。

 

──ご自分でお調べになったらいかがですか。

 

 勝己の答は、ただそのひと言。そしてそのまま、奥へ引っ込んでいってしまったのである……。

 

 

「敬語だぜ……?あのバクゴーが。いくら俺でも、一瞬心折れそうになったぜ……」

「あー……」

 

 あの尊大が服を着て歩いているような少年が敬語とは、どう考えても悪い意味としかとりえない。よほど鋭児郎を遠ざけたいのだろうことは想像に難くないけれど、かといって弔は関係修復の秘策を持ち合わせてはいなかった。だいたい自分が他人同士を取り持つなど、どだい無理な話なのだ。

 

 

 *

 

 

 

 爆豪勝己のことで悩んでいるのは、身内同然の"彼ら"も同じで。

 

──その日()、勝己は朝早くにジュレを出た。買い出し等、店の用事ではない。にもかかわらず彼はここ最近、毎日のように早朝出かけてはなかなか戻ってこない。

 

「……いくらなんでもおかしくない?ここ最近のサボり方。お店にも支障出るレベルやし……」

「……うむ」

 

 キッチンに潜んでその一部始終を窺いつつ、勝己の同僚ふたりは視線をかわしあっていた。店を空けてばかりになった少年のことが気にかかり、夜も眠れない……は言い過ぎであるが。ともあれ、これ以上放ってはおけないというところまで来ている。

 

「行くか」

「うん……!」

 

 勇んだふたり──轟炎司・麗日お茶子は、ある意味強硬手段に打って出ることにした。

 

 その手段とは即ち、

 

「尾行開始や……!」

 

 と、いうわけである。

 

「どうせ、サボっているだけだとは思うがな」

「それなら良いけど……切島さんとのことがあってから爆豪くん、なんかずっとしんどそうやったし。──心配、じゃない?」

「………」

 

 炎司の答は、沈黙。その意味をお茶子は察したが、あえてそれ以上は訊かなかった。

 人気の少ない昔ながらの住宅街を、あてどなく彷徨うかのように歩き続ける勝己。多少の距離を開けつつ、ふたりは追跡を続けていく。

 

「こ、行動が読めへん……!?まるで野良猫や!」

「そんな可愛いものではないと思うが……──!」

 

 勝己が急に踵を返したものだから、ふたりは慌てて駐まっている車の影に隠れた。それはいいのだが、炎司などは身体が大きすぎて入りきっていない。

 

「ちょっ、炎司さんはみ出とる……!」

「仕方がないだろう……!」

 

 不毛なやりとりをしつつ、顔を覗かせる。しかし、

 

「あ……あれ……?おらん!?」

 

 勝己の姿は、忽然と消えていた。周囲一帯見渡すが、あの特徴的な容姿はどこにもない。

 

「……まだそう遠くへは行っていないはずだ、捜すぞ」

「う、うん!」

 

 いつの間にか、炎司も積極的になっている。……ただその意欲に反して、勝己の姿はついに発見できなかった。

 

 

 *

 

 

 

「どこ行っちゃったんだろ、爆豪くん……」

 

 橋の欄干に凭れかかり、力なくつぶやくお茶子。その眼下では、親子連れが水面に向かって仲良く釣り糸を垂らしている。

 

「直接本人に訊ければ、早いのだろうがな」

「……素直に教えてくれるタマちゃうもん。ただでさえ思春期まっさかりで、あの性格やし」

「……思春期か」

 

 炎司は思わず口許をゆがめた。子供だと馬鹿にしたのではない、その子供をどうしていいかわからない自分を嘲っただけだ。四人の我が子を育てておいて……いや衣食住を不自由なく与えているだけで、育児など満足にしていないからこうなる。ついぞ自分は、父親にはなれなかった。

 

 尾行を続けるか断念するか……指針もないまま、そこにとどまるふたり。しかし次の瞬間、彼らにとって何より最優先すべきことが起きた。

 

 

「──私の記憶が正しければ、人間とはか弱き存在のはずで〜す」

 

 逃げまどう人々を追うでもなく、佇む海洋哺乳類に似た異形。その腹部には金庫が埋まっており、彼がギャングラーと呼ばれる異世界の怪人であることを示している。

 

 人の流れに逆行するかのように、付近にいた炎司とお茶子──否、彼らが変身を遂げた快盗が姿を現した。

 

「そこまでだ、ギャングラー」

「!、おや、これはこれは……ルパンブルーさんにルパンイエローさんではないですか」その場に膝をつくギャングラー。「わたくし仰る通りギャングラー、ジュゴーン・マナッティと申します。以後、お見知りおきを……」

 

 その場に両膝を折り、やおら一礼するジュゴーン・マナッティ。その折り目正しい行動は、快盗たちを当惑させるに十分だった。

 

「……どこで覚えてきた、そんな礼儀作法」

「〜〜ッ、礼儀正しいからって、手加減なんかしないからね!」

 

 VSチェンジャーを突きつけるルパンブルー・イエローに対し、ジュゴーンは態度に反して怯むこともない。

 

「おっと、そうはいきませんよ。──モォ〜ッ!」

 

 立ち上がるや否や、頭部を囲む木舟の意匠から白い濃霧を発生させる。それはたちまち周囲に拡がり、快盗たちをも包み込んでしまった。

 

「何、これ……!?」

「目晦ましか……小癪な」

 

 ブルーの言う通り、確かに小癪ではある。しかしそれも立派な戦法である。──事実、

 

「ジュゴーン!」

「きゃ!?」

「マナッティ!!」

「ぐッ!?」

 

 抜き足差し足で背後をとったジュゴーンが、両手の武器で奇襲を仕掛けてきたのだ。鋭い剣波をまともに喰らってしまい、ふたりはその場から吹っ飛ばされる。

 

「ッ、この……!」

 

 転んでもただでは起きない。攻撃の来た方向めがけ、射撃を仕掛ける。慌てたジュゴーンは咄嗟に飛びのくが、それでも光弾が脇腹を掠った。

 

「痛てて!……や、やりますねぇ。でしたらば、これは如何でしょう!?」

 

 元々暴力より搦手を好むジュゴーン、今度は不可思議な赤い光線を放射した。それを浴びたルパンブルーとイエローはというと、

 

「!、……なんだ?」

「何か……された?」

 

 一瞬わずかな熱を感じただけで、身体はなんともない。ゆえに再度反撃に転じようとしたふたりだったが、ジュゴーンはこれ以上の戦闘継続を良しとはしなかった。

 

「きょうはこんなところでしょう。ではでは、ごきげんよう!」

「待て……!」

 

 気配がする方向へ銃弾を撃ち込むが、それらすべて霧をかき分けるだけに終わった。

 程なく、視界が開けていく。そのときにはもう、ジュゴーンの姿は消えていて。

 

「逃がしたか……──ッ!?」

 

 息をついたその瞬間、ブルーに異変が起こった──肉体ではなく、思考に。

 

(そういえば帳簿のあの部分、計算を間違えていなかったか……?)

 

 突然店の帳簿が気になりだす。

 イエローにもまた、同様の現象が起きていて。

 

(あれ……私、鍵閉めてきたっけ!?)

 

「……一度、戻るか」

「う、うん!」

 

 地味な焦燥を抱えながら、快盗たちはその場から身を翻した。

 

 

 *

 

 

 

 数時間後、警察戦隊ではジュゴーン・マナッティの情報分析が行われていた。

 

『目撃証言から、最近あちこちに出没しているギャングラーの似顔絵を作成しました!』

 

 プリントアウトされた似顔絵を配っていくジム・カーター。それを見下ろして、鋭児郎は「おっ」と感嘆の声を洩らした。

 

「超うめえ……ジム、おめェが描いたのか?」

『まさか!担当係があるんですよう』

「ははっ、やっぱりその道のプロの仕事だなァ」

 

 手袋のせいもあるが、小学生のような絵しか描けない弔のひと言。妙に説得力がある。

 

「しっかしコイツ、ジュゴンそっくりだな……」

「いや、マナティにも見えるぞ!」

「え……どっちでも良くない?」

 

 三者三様の反応。変なところで気が利くジムが、すかさず両者の動画を表示する。

 

『左がジュゴン、右がマナティです!』

「あ、マナティのほうが可愛い」

「うむ!だがジュゴンも十分可愛いぞ!」

「……どっちも鼻の短いゾウにしか見えないんだけど」

 

 今のところ人的被害が確認されていないこともあってか、どうでもいい話題で盛り上がる一同。傍目から見れば緊張感のない光景だが、有事に備えて精神のバランスをとっているともいえる。四六時中張り詰めていることはできないのだから。

 

(……ま、いいか)

 

 ため息をつきつつ、弔は踵を返した。ジュゴーンの似顔絵片手に──行き先は決まっている。

 

「どこへ行く?」

「!」

 

 タクティクス・ルームを出たところで、唐突に声をかけられる。相手の大仰な仮面を認めて、弔はさらに深いため息をこぼした。

 

「……俺のシゴト知ってんだろ。つーかおまえ、ずっとここに張りついてんのかよ……キモいな」

「通りがかっただけだ。……ご苦労だな、二足の草鞋なんて」

「お気遣いドーモ。朝から晩まであの男にくっついてるほうがイヤだけどな、俺は」

 

 仮面の奥でくつくつ嗤う青年。──彼と長話をする趣味はないので、今度こそ弔は暇も告げず立ち去った。相手の内心に、計り知れないものを感じながら。

 

 

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