【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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#37 もしも空が落ちてきたら 2/3

 庁舎を出たその足で快盗の拠点へ向かった、死柄木弔。彼が見たのは、いつもと様子の違う青と黄色の姿だった。

 

「うぅ〜ん……あのギャングラー、ジュゴンなの?マナティなの?」

「くッ、気になる……!気になって眠れなくなりそうだ……!」

「えぇ……きみらまでそれかよ」

 

 しょうもないことで真剣に悩んでいるのは置いておくとして──既に遭遇していたというなら、情報を持ってきたのも無駄足だったか。

 

「!、そうだ爆豪くん……!まだ帰ってこないけど、どうしたんだろ……」

「そういやいないね、彼」

「実は最近、爆豪くんの様子が変で……私たちこっそり後尾けてたんだけど、そこに絶妙なタイミングでジュゴーン・マナッティが現れて……はっ!?」

 

 同時に目を見開いたふたりが、そのまま顔を見合わせる。

 

「もしや小僧、ヤツに何かされているのか……!?」

「そっか……絶対そうだよ!だから様子がおかしかったんだ!」

「……?」

 

 論理の飛躍ぶりに首を傾げる弔だが、その勝己の様子を自分は見ていない以上否定はできない。ならば、

 

「やることは、ひとつか」

 

 

 *

 

 

 

 快盗との偶発的戦闘からあっさり退いたジュゴーンは、異世界にあるドグラニオ・ヤーブンの屋敷を訪れていた。屋敷といってもドグラニオがギャングラーのボスである以上、ここは構成員たちのサロンのような役割ももっている。

 

「ふむふむ……パトレンU号。パトレンジャーがグッドストライカーの力で一致団結、融合した形態。そしてロボット、ルパンカイザーにパトカイザー……フフフフ」

 

 快盗、そして警察の情報について記した本を読み込むジュゴーン。そんなもの出版されているわけもない、他ならぬ彼自身が収集したデータを纏めたものだ。

 

「なかなか研究熱心だな、ジュゴーン・マナッティ」

 

 ドグラニオの声かけに、ジュゴーンはわざわざ本を閉じて応じる。

 

「敵を知ることこそ、勝利への近道。そのための努力は惜しまないことにしております」

「へえ、ギャングラーには珍しいタイプね」

 

 同じ研究者肌のゴーシュ・ル・メドゥには、彼に共感するところが大きいようだった。──側近の片割れがそうであるから、知識の重要性をドグラニオも認識している。

 

「それもまた力のひとつ。期待しているぞ、ジュゴーン」

「フフフフ……お任せを」

 

 一礼したジュゴーンが再び書を紐解きはじめる一方で、

 

(デストラ……最近屋敷を空けることが増えたわね)

 

 決して良好とはいえない仲の同僚を、ゴーシュは気にかけた。

 

 

 *

 

 

 

──翌朝

 

 爆豪勝己はきょうも、朝早くにジュレを出ていく。炎司たちは何事もないふうにそれを見送る。あくまで、こののちの行動を悟られないために。

 

 勝己が発って程なく、ふたりもまた店を出た。傍に待機していた弔と合流し、再度の尾行を開始する。──ぞろぞろ、ぞろぞろ。

 

(……いい大人が何してんだろうなァ)

 

 弔はそう思ったが、口には出さない。大人といってもお茶子は未成年だし、自分はまだ学生でもおかしくない歳だ。まあ、炎司だけは擁護できないが。

 

「ほんと、どこ行くんやろ爆豪くん……。はっ、まさかこっそりエアロビ──」

「それは忘れろ……!」

 

 こんなやりとりもありつつ。

 あてもなくふらふら歩いているかと思われた勝己だったが、ふとコンビニの前で立ち止まった。入店するかと思いきや、店の前で掃除をしていた女性と立ち話を始めている。

 

「ば、爆豪くんが自ら女性に声かけを……!?」

「あの勝己が……」

「………」

 

 女性といっても、彼の母親……というには少し若いくらいの年齢の相手である。お茶子たちの心配しているようなことはないと思うが。

 しかし、「小さい」「色白」「可愛いんじゃないっすか」──およそ勝己が発するとは思えない言葉の断片が耳に入ってきた瞬間、お茶子が「まさか……!」と声をあげた。

 

『──あんたのこと、すげえ守ってやりたくなるっつーか……』

 

 立ち話だけのつもりが、おばちゃんと意気投合。それが交際に発展しての──

 

(スピード婚……!?)

 

 お茶子の脳裏に、タキシードを着た勝己がウェディングドレス姿のおばちゃんと誓いのキスをする光景が浮かぶ。そこからさらに想像……もとい妄想は進み、結婚生活へ。

 しかしそれは、決して幸福なものとはいえなかった。

 

(おばちゃんとの間に一男一女をもうけるも、鬼嫁と化したおばちゃんに疲れ果て離婚……親権を奪われたうえ財産のほとんどを裁判で持っていかれ、悲しく孤独な老後を送ることになるんじゃ……!?)

 

「心配すぎるぅ……!」

「は?」

 

 怪訝な表情を浮かべる弔だったが、こんなものは序の口だった。

 

 

 *

 

 

 

 続いて勝己は、とあるファミリーレストランに入店していた。ハンバーグステーキセットを注文し、上から唐辛子をかけて食べている。味付けを除けば、ごく普通の食事風景である。

 弔たちも後から入り、少し離れた席で様子を観察していたのだが──

 

(勝己が食事を……はっ!?よもやあのハンバーグが美味すぎて箸が止まらなくなり、店長を褒めちぎった挙げ句に店の全メニューに挑戦した結果──)

 

──パンパンになった腹に、なぜか飛んできたキツツキが激突!!

 

「腹が爆発して、勝己が死んでしまうのでは……!?」

「ハァ?」

「心配、すぎる……!」

 

 訳がわからない。

 

 

 その後も、

 

「勝己が書店を訪れている……!」

「いやフツーだろ……」

 

 突っ込みを入れる弔に構わず、ふたりの妄想は膨らんでいく。

 

「本を取ろうとしたら手と手が触れあって、どうもすいませんと顔を上げてみると、別れたはずのあのおばちゃん!?」

「ただの元嫁かと思いきや、その正体は悪の組織のスナイパーだった……!」

「突然追われる身となった爆豪くんは、おばちゃんの追撃をなんとか逃れるけど……」

「安心のあまり食べ過ぎてパンパンになった腹に、なぜか飛んできたキツツキが激突!腹が爆発して、勝己が死んでしまうのでは……!?」

 

「「心配すぎる……!」」

「……頭、大丈夫?」

 

 弔まで、要らぬ心配を強いられたのだった。

 

 

 *

 

 

 

「しまった、見失ったか……!」

 

 その後も尾行を続けていた一行だったが、現在は炎司が悔しげにこぼした通りの状況である。普段からリアクションの大きいお茶子などは文字通り右往左往している有様だ。

 

「どうしようどうしよう、こうしてる間にも爆豪くんが……ああ、爆豪くん……!」

「勝己……くっ、心配だ……!」

「………」

 

 取り乱すふたりを、冷めた目で見つめる弔。昨夜からというもの、ふたりの様子は明らかにおかしい。その原因が何か、うっすらとは察しつつあったが──

 

 と、彼らの眼前に、なんの前触れもなく漆黒の翼が現れて。

 

『大変だ大変だ、大変だぁ!!』

「!、キツツキ……!」

「よくも爆豪くんを!!」

 

 いきなりVSチェンジャーを突きつけられたものだから、彼──グッドストライカーは慌てた。

 

『ななな何すんだよぉ!?オイラだよ、オイラ!』

「ハァ……何か用?見ての通りこのふたり、今キマってるから」

『それどころじゃないんだ、あっちでギャングラーが暴れてるんだよぉ!』

「!」

 

 ギャングラーが──その言葉を聞けば、炎司とお茶子の表情も俄然引き締まる。精神の箍が外れているぶん、その闘志は尚更強く表出している。とはいえ、それも良いことばかりではないのだが。

 

 

 *

 

 

 

 街に出現したジュゴーン・マナッティは、今度こそ激しい破壊活動に勤しんでいた。

 

「ジュゴーン!マナッティ!!」

 

 自己紹介を兼ねた発声とともに、左手の"ジュゴカッター"、右手の"マナカッター"から同時に斬撃を放つ。それらは主の十数倍の背丈があるコンクリートのビルすら粉々に打ち砕く威力を誇る。知能派であろうと、彼はまぎれもないギャングラーであった。

 

「人間は弱い、ゆえに私は暴れます!フフフフ」

 

 独りほくそ笑むジュゴーン。しかし彼の破壊活動は長くは続けられなかった。前兆なく背中で光弾が爆ぜたのだ。

 

「おや痛いっ!」

「そりゃ結構」

「!」

 

 地上に降り立つ三人の快盗。仮面を装着した青と黄、そして生々しい手首のオブジェクトで顔を覆った銀色──ひとり欠けているようだが。

 ジュゴーンがそのことを指摘しようとした瞬間、相手は思わぬ言葉を口にした。

 

「ジュゴーン・マナッティ……!レッドにかけた術を今すぐ解け!!」

「これ以上レッドを傷つけるんは、私たちが許さないっ!!」

「はいぃ?」

 

 身に覚えのない言いがかり。ジュゴーンが首を傾げていると、噂の四人目が姿を現した。

 

「俺がどうかしたかよ」

「あっ、レッド!」

 

 ルパンレッドこと爆豪勝己。彼が合流するや否や、ブルーとイエローは敵に背を向けることも厭わず駆け寄っていった。

 

「うおッ!?」

「ばかバカ馬鹿っ、爆豪くんのバカぁ!めっっっちゃ心配したんやから!!」

「ハァ!?」

「おまえの腹になぜか飛んできたキツツキが激突したらと思うと、心配で心配で……!」

「はなっ、れろや!!つーかキツツキってなんだ!?」

 

 事情を知らない勝己からすれば、わけのわからないふたりの言動。──と、呆れた様子で一部始終を眺めていた弔が声をあげた。

 

「……なるほどなァ。ギャングラーの術にかかってたのはレッドくんじゃなくて、きみらふたりだったわけだ」

「へっ?」

「何……!?」

 

「フフフフっ、ようやく気づいたようですね。私は、人間の心配や不安を増幅させることができるのです」

 

 得意げに言い放つジュゴーン。炎司とお茶子は揃って愕然とした。──昨日の戦いで浴びた光線、あれによって心配性にさせられていたのだ。

 

「ッ、不覚だ……」

 

 不甲斐なさのあまり──感情のコントロールが効きにくくなっているのもあるが──、膝から崩れ落ちるふたり。その姿を睨めつけながら、勝己は半ば癖になっている舌打ちを零した。

 

「チッ……簡単に引っかかりやがって」

「ははっ、言えてる」同調する弔。しかし、「でも……アイツの今の言葉、聞いたろ?──きみを心配する気持ち、元々ふたりの心にあったモンなんだと思うぜ?」

「!、………」

 

 その言葉に、はっとする勝己。──ここ最近の自分の態度を顧みる。特に切島鋭児郎とのことで神経を尖らせておきながら、ふたりに何か相談したわけでもない。それが爆豪勝己という少年の曲げられぬ性であって、ふたりも何も訊いてはこなかったけれど……その心中においてはずっと、勝己のことを気にかけていたのだろう。

 

(……こいつらには、お見通しだったのか)

 

「それに、敵の術にかかったとはいえ……これだけ心配してくれるなんて、良い仲間だと思うけどなァ」

「死柄木……」

 

 手の装飾の奥──覗く緋色の瞳に、拭いがたい羨望が滲んでいた。幼少期よりルパン家に育ち、目的のためには複数の勢力を股にかけることも厭わない弔。ゆえにこそ、その心根には孤独があった。

 

「……は、……」

 

 勝己は小さく笑った。──他人の心配や気遣いを、受け入れられない自分。己の未熟さ、弱さを見透かされたように感じて、それが我慢ならなかった。その凝り固まったプライドが、すべての元凶だというのに。

 

 未熟さも、弱さも──すべて、自分の背負うべき罪だ。

 

「……悪かった、心配かけて」

「!、え……?」

「勝己……」

 

 思わぬ謝罪に、言葉を失うふたり。しかし次の瞬間にはもう、勝己は標的を睨みすえていた。

 

「あとは俺らでやる。──いいな、死柄木」

bien sûr(もちろん)

 

 

「「──快盗、チェンジ!」」

『レッド!──0・1・0!マスカレイズ!』

『Xナイズ!』

 

 電子音声とともに、ふたりの身体が眩い装甲に包み込まれ──

 

「ルパンレッドォ!!」

「ルパン、エックス」

 

「「快盗戦隊──ルパンレンジャー!!」」

 

「予告する。おまえの宝、俺たちが回収する」

「──ンで、ブルーとイエロー(コイツら)を元に戻す……!」

「──!」

 

 想いだけでなく、明確に形として。宣言したルパンレッドは、吶喊の狼煙をあげた──

 

 

 

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