【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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#38 沈黙の黒 1/3

 

 その日、街には不審なエビフライが降り注いでいた。

 縦横無尽に舞う、カリッと揚げられたエビフライ、エビフライ、エビフライ。魚が竜巻に巻き上げられて海から運ばれてきた例はあるが、エビフライとなると前代未聞。まあ、当然の話である。

 

 それだけなら、椿事として笑い話に終っただろう。──しかし現実に、それらは接地の瞬間爆ぜ弾けた。建物も、そばにいた人々も、まるで紙のように吹き飛ばされる。当然、街は阿鼻叫喚に陥った。

 にわかに起こされた惨禍。人為的なものであることが明らかである以上、まず動いたのは地区を担当するプロヒーローたちだった。補助として日本警察が避難誘導にあたる中、彼らが犯人と対峙する。

 

 だが……犯人()()は、トップランカーでもないヒーローたちの手に余る存在だった。そして厳密には、"人"と形容しうる連中でもない。

 

──ゆえに、彼らが出動した。

 

「そこまでだッ、ギャングラー!!」

 

 左の胸元に"S"の文字があしらわれた制服を纏う四人組。それぞれが個性ではなく、特殊な形状の銃で武装している。何より、ギャングラーと呼ぶ異形の怪物たちを鋭く睨みすえるその眼光。

 

「ここは我々にお任せを!」

 

 ここまで戦線を維持し、傷だらけになった英雄たちに後退を請う。プロヒーローにはプロヒーローの役割がある。ギャングラーを相手取るのは──彼ら、国際警察の戦力部隊の役割だ。

 

「はッ、来やがったかサツども!……おいイセロブ、こっち手伝え!」

 

 車の上に乗って仁王立ちしていたヘビのギャングラー。しかし今回の犯行、彼が行ったものではなくて。

 

「ア゛〜ン?人間なんざひとりでどうにかしろよなぁ、ジャネーク」

 

 文句を言いながら車の陰から姿を現したのは……エビに似た、異形の怪人。ヘビのギャングラー同様、胴体に金庫を持っている。──つまり、彼もギャングラーであるということ。

 

「二体いたのか……!」

「ヘビに……エビ?」

 

 思わず漏れた切島鋭児郎のつぶやきに対し、

 

「ヘビじゃネェし!」

「エビでもねえ!」

 

 思いきり否定する二体のギャングラー。彼らはまぎれもない知的生命体であり、爬虫類や甲殻類と一緒にされるのはプライドが許さないのであった──個体差はあるが──。

 

「オレの名はジャネーク・ソーサー!」

「そしてオレはイセロブ・スターフライド!」

 

「幼なじみの──」

「──荒くれコンビだァ!!」

 

 仲良く肩を組み、名乗りを挙げる二体。そしてジャネーク・ソーサーを名乗ったヘビのギャングラーが、先制とばかりに動いた。

 

「まずはご挨拶だァ、喰らえィ!!」

 

 ジャネークの金庫が鈍く光る──刹那、誰も乗っていないはずの車がひとりでに始動した。みるみるスピードを上げ、戦力部隊の四人めがけて突っ込んでくる。

 

「ッ!」

 

 これまで様々なギャングラーと対峙してきた彼らである、ここで車に撥ねられるような者はいない。咄嗟にかわしつつ、敵を分析する。

 

「金庫が光った……。ルパンコレクションの力か?」

「あれは多分、"Elle me rend fou(夢中にさせる)"だな」

「乗り物を操るとか、そんな感じのヤツ?」

「ご名答。あとでまたパックあげるよ」

「それはもういいって……」

 

 約二名ほど軽口を叩く者もいつつ。ひたすら突進してくる車を避け、四人は己の銃を構えた。

 

『1号!パトライズ!』

『Xナイズ!』

 

「「「「──警察チェンジ!」」」」

 

 たちまちその身が、発色鮮やかな強化服に包まれ──

 

「──警察戦隊!」

「「「パトレンジャー!!」」」

 

「国際警察の権限においてッ、実力を行使する!!」

「ルパンコレクション、押収させてもらう!」

 

 赤、緑、桃──そして黄金。並んだ四人は同時射撃で、二体同時にダメージを与える作戦に出た。

 

「うおッ!?」

 

 銃弾の雨あられに堪らず怯む二大ギャングラー。しかしそれも一瞬のこと。

 

「チッ……!イセロブ、おまえのチカラ見せてやれェ!」

「ヘヘッ、やってやるぜぇ!!」

 

 ジャネークに代わって進み出たイセロブ・スターフライド。彼が放ったのは、街を煉獄へと変えたかのエビフライの群れだった。

 

「なっ……エビフライ!?」

 

 街で爆破事件が立て続けに発生したとしか把握していないパトレンジャーは、どう見てもエビフライにしか見えないオブジェクトに虚を突かれた。対処は必然的に遅れ、慌てて撃ち落とそうとしたときには既に手遅れだった。

 エビフライは縦横無尽の動きで四方八方から標的を取り囲むと、地上に墜落して各々大爆発を起こしたのだ。

 

「うわああああああッ!!?」

 

 頑丈な警察スーツをもってしても、その熱と衝撃は完全に殺しきれるものではない。パトレンジャーの面々もまた、激しい劫火に呑み込まれ、爆風を浴びて軽々と吹き飛ばされてしまった。

 

「ッ、不覚……!」

「あのエビ野郎……!」

 

 強い──それは当然のことだった。相手はギャングラーなのだ。黄金金庫や複数持ちでなくとも、決して油断ならない社会の脅威。

 

「へへへへッ、次でトドメだァ!!」

 

 調子に乗ったイセロブは、さらなるエビフライ爆撃を仕掛けてくる。その性質を鑑みると撃ち落とすことは困難、仮にできたとしても爆風によるダメージは避けられない。──と、すれば。

 

「切島くん、これ」

「!」

 

 パトレンエックスから渡されたのは、彼が所持しているトリガーマシンスプラッシュだった。

 

「なるほど、そういうことな!」

 

 エックスの意図を汲み、鋭児郎──パトレン1号はVSチェンジャーにスプラッシュを装填した。『警察ブースト!』の発声とともに、彼の右腕にスプラッシュの変形した消火器が装着される。

 

「いくぜ!お、りゃあッ!!」

 

 スプラッシュから放たれるのは、弾丸ではない。その名の通り、水──それも膨大な量を濃縮した超高圧水流である。エビフライを押しやったばかりか、水浸しにすることで不発に追い込んだのだ。

 

「な、何ィ!?」

「っし……!VSビークルの力、舐めんなよ!」

 

 得意げな1号。自分自身の力でないことはむろん承知している。だが、ギャングラー以上にその力を引き出せているという自負も、彼らにはあった。

 

「チッ……やるなァサツども」

「ヘッ、少しは遊び甲斐がありそうじゃネ?」

 

 互いに、この程度の応酬は小手調べにすぎない。これからがほんとうの勝負だと、誰もが信じて疑わなかった。

 

 

「──楽しそうだなァ、オレも混ぜろよ」

 

 

 にわかに響く、嘲るような声。それと同時に現れたのは、見るからに寒々しい姿かたちの異形だった。

 

「よう。ジャネーク、イセロブ」

「あっれェ……ザミーゴじゃねェ?」

 

──ザミーゴ・デルマ。その姿、パトレンジャーの面々には忘れえぬものだった。同時に、唯一遭遇の経験がない死柄木弔は少なからず衝撃を受けていて。

 

(よりによってここでダブルゴールドかよ……流石にヤバいな)

 

 三体がかりで襲ってこられたら、たとえ自分も含めたパトレンジャー四人でも太刀打ちできない。そういうとき、真っ先に撤退の二文字が脳裏をよぎるのが弔の強みであり、弱点でもあった。ここにいるパトレンジャー正規隊員らは、命を捨ててでも一歩も引かないだろうが。

 

 一方のザミーゴは、パトレンジャーを一顧だにせず同胞らに歩み寄った。

 

「オレと一緒に来いよ、──ジャネーク」

「アァん?」

 

 相棒のみの勧誘。当然、おもしろくないのはイセロブである。頭の触覚を揺らしながら、ずかずかとザミーゴに絡んでいく。

 

「おいおいザミーゴさんよォ、オレの相棒をどこ連れてくつもりだァ?」

「………」

「あァそうか!ひとりで寂しいんだな?ハハハッ、それなら仲間に入れてやらなくも──」

 

 見下したような言葉は、不意に途切れた。ザミーゴの銃が己を捉えた──その事実に言及する暇さえなく、イセロブは氷像と化していたのだ。

 

「な……!?」

 

 予想だにしない目の前の光景に、凍りつくジャネーク──こちらは比喩である──。時が止まったかのような空間の中で、ザミーゴは独り嘲っていた。

 

「ハァ……イセロブ、サムいよおまえ」

「〜〜ッ、ザミーゴ……!てめェ何を──」

 

 我に返ったジャネークが喰ってかかる。それを軽くあしらうと、ザミーゴは彼の触手を掴み引き寄せた。

 

「なッ、痛でででで!?」

「いいから、来いって」

 

 引きずられていくジャネーク。同時にイセロブを覆っていた氷が、彼もろとも粉々に吹き飛び──消滅した。

 

「……!?」

「砕け、た……?」

 

 パトレンジャーの面々はただ、困惑するほかなかった。ギャングラーがギャングラーを殺し、人間と戦うこともせず残る一体を連れ去った。結果だけ見るなら利敵行為だが、その裏にある意図はまったく窺えない。不気味な存在──弔でさえそう思うのだから、ザミーゴが如何に異様な存在かは明白だった。

 

 

 *

 

 

 

 ジャネークは憤慨していた。これから本番というところで妨害されたうえ、相棒であるイセロブを()()()()()遭わされたのだ。

 

「ザミーゴ……!てめェ一体どういうつもりだァ!?」

 

 詰問に対し、ザミーゴは不敵な笑みを漏らすばかり。ふたりがかりならいざ知らず、一対一では隔絶した実力差のある相手。ジャネークとしても、せいぜい虚勢を張るのが精一杯で。

 

「そうアツくなるなよ。──オレたちギャングラーの未来のために、おまえの力が必要になった。正確には、おまえの持ってるコレクションの力がな」

「ギャングラーの……未来?」

 

 およそ思いもつかないような言葉に、ジャネークは当惑した。彼に限らず、ギャングラーの多くは刹那的享楽を一義として活動している。ドグラニオ・ヤーブンから次代のボスの座を与えると言われて考えに変化があった者もいないではなかったが、多くにとっては夢想でしかない。ボスになってギャングラーという組織をどのように纏めていくか、具体的な構想をもつ者など皆無に等しいのだった。

 

「ま、そういうワケだから協力してよ。きっと、ボスもお喜びになる」

「………」

 

 ボスの名を出されては、ジャネークも応諾せざるをえなかった。

 

 

 *

 

 

 

「そうか、ギャングラーを取り逃がしてしまったか」

 

 組織トップの残念そうな言葉に、塚内直正は「申し訳ありません」と頭を垂れた。

 

「そう畏まらなくていいよ、塚内くん。ふたりきりなんだから」

「………」

 

 そういえば、あの仮面の秘書の姿が見えない。秘書というのも便宜上の話で、彼が正式にはどのような肩書きをもっているのか、なんの業務を担当しているのかも知らされていない。長官の側近に謎の多い人間がいるというのは、管理職として気分の良いものではなかった。

 とはいえ、今はギャングラーの話である。かの青年のことは胸にしまって、塚内は八木長官と膝を突き合わせた。

 

「今回気がかりなのは、三体ものギャングラーが同時に出現したことだ。うち二体は単に徒党を組んでいただけのようだが、あとから現れた一体──」

「ステイタス・ダブルゴールドだね」

「……ああ」

 

 ザミーゴ・デルマ──これまでに収集した情報を分析する限り、彼はギャングラーの中でも独特の立ち位置にいて、ほとんど表に出てこようとしない。

 それが今回、唐突に姿を現し、片割れを殺害してでもジャネーク・ソーサーを攫っていった。何か目的があって動いているのは明白である。

 

「警察戦隊としては、引き続きその二体の動向に気を配るしかないと思うが」

「そうだね。まぁ細かい差配はきみにまかせるよ、私は置き物のように座っていることしかできないからね。HAHAHAHA……ぐふっ」

「おいおい、大丈夫か?」

 

 自らを卑下したかと思えば吐血をするので、彼のそうした一挙一動には慣れている塚内も流石に肝を冷やした。心配するまでもなく、八木はすぐに立ち直ったが。

 

「大丈夫……それより、フランスで買ってきたお土産のマカロンがあるんだ。良かったら皆に持っていってあげてくれ」

「……では、ご厚意に甘えて」

 

 着色された菓子の群れ。赤、緑、桃の三色があるとは出来すぎているくらいだ。ただそういう気配りの裏には、何か意図があるように塚内は感じていた。

 

 

 *

 

 

 

 同じ頃、ルパンコレクションの奪還という使命ゆえ、警察と反目する快盗たち。

 元締めの来訪を受けた彼らは、意外な情報を得ることとなっていた。

 

「──これが現在地球に降下中のルパンコレクション、"ビクトリーストライカー"です」

「うわっ、宇宙やん!」

 

 麗日お茶子のなんの捻りもない突っ込み。裏を返せば、事実をそのまま示しているということでもある。

 

「宇宙にまでコレクション隠してんのかよ、アルセーヌは」

「で、どう回収しろと?ルパン家は宇宙船も所有しているのか?」

「残念ながら」にべもない黒霧。「そもそも、宇宙まで行く必要もありません。二時間後には大気圏内に到達します。場所は……このあたりかと」

「……弓引山か」

 

 表示されたマップを睨みながら、炎司。やや遠方ではあるが、急げば間に合わない距離ではない。地球の裏側などでないことはもっけの幸いか。

 

「この話、死柄木には?」

「私からは、特には。国際警察のほうにいるなら、あちらも把握しているのでは?」

「………」

 

「……一応、連絡しとくか」

 

 パトレンジャーの動きも確認しておきたい。そう考えての行動だったのだが、

 

 

「──は?何それ、初耳なんだけど」

 

 電話口の死柄木弔から返ってきたのは、意外な答だった。

 

「ケーサツは何も察知してねえってのか?」

「……少なくとも、パトレンジャーの連中はね。でも……、」一瞬の沈黙を挟み、「……とにかく、俺も行くよ。向こうで合流だ」

「連中には?」

「言わないよ、今すぐには」

 

 但し書きがついたことに勝己は眉をひそめたが、弔が二重スパイである以上やむをえないと割り切るほかなかった。彼が双方と巧く関係を繋いでいれば、それだけ自分たちの望みがかなう日は近づくのだ。

 

 通話を終え、動き出す快盗たち。弔もまた同じだったが……彼の脳裏には、ひとつの疑念がよぎっていた。

 

(ビクトリーストライカーが降りてきたってンなら、宇宙ステーションから情報が入らないはずがない。……握りつぶされてるのか?なぜ?)

 

 そのような判断の元凶は、ひとりしか思いつかない。──何を考えているのか、とことん得体の知れない主人である。まあ、仕えている意識など最初からないのだが。

 

 

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