クロス元が変わっただけで進歩ねえなあとも思いつつ、色んな懐かしさとか超展開へのツッコミとかがあふれて楽しかったです。
人里離れた弓引山には、昼間にもかかわらず不気味なほどの静寂が漂っていた。
「そろそろ、時間か」
腕組みをして立ち尽くしたまま、燕尾服姿の轟炎司がつぶやく。彼以下快盗たちは、今か今かと獲物の到来を待ちわびているのだった。
「どう、爆豪くん?」
「……見えたら言うわボケ、いちいち訊くなや」
双眼鏡を覗く勝己の返答に、お茶子は生温い笑みを浮かべた。彼のこういう言動には、呆れを通り越して微笑ましさすら感じつつある。
と、前方から堂々と接近する白銀の人影が現れて。
「
「あ、死柄木さん!」
「遅いぞ、何をしていた?」
「時間ピッタリだろ、現にほら」
上空を指差す弔。その意味を察した勝己が再び双眼鏡を覗き込むと、先ほどまでは何もなかった雲間に戦闘機と思しき機影が見えた。
「来たか!」
「だろ?じゃ、回収よろしく」
「え、死柄木さんは?」
「ちょっと気になることがあるんでね。ココで、低みの見物」
顔面を覆う手の意匠のせいで、いつも以上に感情の窺えない弔。まあ彼の手持ちのエックストレインは空を飛べないので、同行させる意味は薄いのだが。
「チッ、そーかよ。……クソオヤジ、丸顔!」
仲間に呼びかけつつ、VSチェンジャーを構える。ふたりもそれに追従した。ダイヤルファイター、それらに文字通り取り付けられたダイヤルを回転させる。
「「「──快盗チェンジ!!」」」
『レッド!0・1・0──マスカレイズ!』
たちまち変身を遂げる、三人の快盗。──ルパンレンジャー。
彼らは即座にダイヤルファイターを天上に撃ち出し、巨大化させた。飛翔するとともに、ビクトリーストライカーへと接近していくのだ。
「………」
その光景を、弔は沈黙のままに見上げていた。このまま何事もなく、回収できれば良いのだが。
──しかし弔の危惧とはまた別の形で、事は起きた。
ビクトリーストライカーの機体上部がハッチのように開いた瞬間──"彼女"は快盗たちめがけて、ビームを発射したのだ。
「!?」
唐突な敵対行動。快盗たちは焦りながらも咄嗟に回避したが、その驚愕は根強いもので。
「な、なんなん急に!?」
「誰か乗っているのか……?」
その推測は、否。コックピットには何者の姿もなかった。──操縦者は、彼らの遥か眼下に在ったのだ。
「ヘッヘッヘッヘ……あの乗りモンをゲットしたら、オレ、後継者になれるんじゃネ?」
ジャネーク・ソーサー。あらゆるマシンを操るルパンコレクションを持つ彼も、ビクトリーストライカーを入手しようと画策していたのだ。
「なるほどなァ、おまえの差し金かよ」
「!、うおッ!?」
いきなり銃撃を受け、ジャネークは慌てて飛び退いた。──別の事情からだが、地上に待機していた者がひとりいたのだ。
「あっれェ?オマエ、警察じゃネ?」
「C'est vrai、ただし快盗でもある」
「??」
弔の言葉は、ジャネークにはよく理解できなかったようだ。知能はもちろんのこと、警察と快盗を兼ねる者がいるという情報さえ持っていないらしい。まあ、腕力はあるかもしれないので油断はできないが。
「ビクトリーストライカーもおまえのコレクションも、俺が回収する。──快盗チェンジ」
『快盗、Xチェンジ!』
Xチェンジャーから光が放たれ、弔の全身を包み込む。白銀に覆われた、鎧と仮面。
「孤高に煌めく快盗、──ルパンエックス」
「〜〜ッ!」
焦りを露にするジャネーク。こうしている今も、彼はルパンコレクションを介してビクトリーストライカーを操っている。そのコントロールを保ったまま戦闘を行えるほど器用ではないと、残念ながら自覚はあった。
しかしいよいよルパンエックスが攻撃を仕掛けようというとき、思わぬ増援が背後から現れた。
「ヌウゥゥゥン!!」
「──!?」
迫る風圧に、危機察知能力が働いたのが幸いだった。咄嗟に回避行動をとった次の瞬間、成人ほどの大きさもある巨大なハンマーが、大地を穿っていた。
「──ジャネーク!快盗は俺に任せて、コレクションに集中しろ……!」
「で、デストラさん!?」
一つ目の巨人──デストラ・マッジョ。黄金の金庫をふたつ持つ彼に、ジャネークは畏敬の念を抱いているらしかった。謝意を述べたうえで、ビクトリーストライカーのコントロールに専心する。
一方の弔は、その登場に脅威を覚えていた。
「またダブルゴールドかよ……。次から次へと」
一つ目が、ぎろりとこちらを睨みすえる。
「ルパンエックスだったな。……ザミーゴのくだらん遊びであろうと構わん。──コレクションは、我らギャングラーが手に入れるッ!」
言うが早いか、ハンマーを振りかざして襲いくるデストラ。見かけによらず相当に機敏な攻撃。回避しつつ、Xロッドソードで邀撃するが刃が通らない。それどころか駄目押しの攻撃でハンマーが鎧に掠り、衝撃が全身を揺さぶる。
「……ッ!」
なんてパワーだ、掠っただけでこうまで──まして防御力にすぐれた、ルパンエックスの形態で。
それでも、援軍は望めない。現状の最適解、デストラの隙を逃さず突いてジャネークに肉薄し、ルパンコレクションを奪うこと──それしかない。
しかし現実に、デストラはあまりに強力だった。ジャネークに意識をとられれば、次の瞬間には命ごと吹き飛ばされているかもしれない。──まさしく、正念場だった。
一方、レッドたちもジャネークの操るビクトリーストライカーに苦戦を強いられていた。
「……ッ!」
四方八方に射出されるビーム砲をかわしつつ、懸命に接近を試みる。しかし巨体に見合わぬその機動性は、三人のダイヤルファイターを遥かに凌いでいた。
「め、めっちゃ速いぃ……!」
「ッ、どうにかコックピットに潜り込めれば……──レッド!」
「わーっとるわ!!」
やむをえず、ブルーとイエローは反撃を開始する。といってもこちらの攻撃など殆ど当たらない。その隙に、最もスピードのあるレッドダイヤルファイターで接近するのだ。
隙といっても、まったく攻撃が止んだわけではない。減りはしたが、ビームの一部はこちらを狙っている。ただ、操縦にも長けたレッドなら、その程度はどうにかなるという自負があった。
「ンの、クソ戦闘機がァ!!」
罵倒の言葉を発しつつ──勢い込んで、レッドダイヤルファイターから飛び降りる。急加速でもされたら真っ逆さまだったが、仲間が抑えていてくれたおかげでどうにか機体にしがみつくことができた。そこから、するりとコックピットへ滑り込む。
「っし……!」
コックピットの仕様は、ダイヤルファイターのそれと殆ど変わらない。勝手知ったる……ということで即座に操縦桿を握り、制御を図る。しかしそれは異様に固く、パイロットを完全に拒絶していた。
「クソっ、言うコト聞けや……!!」
実際の行為が通用しないのだから、言葉での命令など問題外。聡い勝己がそれを理解していないはずもないのだが、言わなければやっていられないのが彼の性だった。
「へへへへッ、何やったってムダじゃネ?」
地上にいるジャネークの言葉は、腹立たしいが真理だった。
そして唯一彼の行為を止められるはずのルパンエックスは今、デストラ・マッジョの猛攻に対し防戦を強いられていて。
「ヌウゥゥゥ!!」
「────ッ!」
押し出されるハンマーを両手で受け止めながらも、ずりずりと後退させられてしまう。規格外のパワーに、エックスはただ翻弄されることしかできない。
「ッ、チートかよ……!」
毒づきつつ──わずかな間隙を縫って、Xチェンジャーを突き出す。攻撃ではない、そんな小手先の不意打ちはおそらく通用しない。
「警察、チェンジっ!」
──つまりは、そういうことだ。黄金の警察官へと姿を変えたエックスは、敏捷性でデストラの攻撃をかわしつつ耐え忍ぶ戦法を選んだのである。
「ちょこまかと動き回るか。……いずれにせよ、無駄なことだッ!」
だが、デストラは即応してきた。ハンマーを振るう動作が小振りになった代わりに、明らかにスピードを増したのだ。
「マジかよ……っ!」
回避が、追いつかない。そもそもこちらの攻撃が通用しない時点で、趨勢は決しているのだ。
「──目障りだ!」
デストラが、ハンマーを地面に振り下ろす。刹那の静寂は、激震の前触れだった。彼を中心に地面が隆起し──爆ぜる。
「ぐああああああ──ッ!?」
その爆裂に呑み込まれ、パトレンエックスの身体は炎に塗れながら宙を転がっていた。そのまま地面に叩きつけられ、スーツは容易く限界を迎えた。
露になった弔の素顔。──手の意匠がごとりと地面に落ち、緋色の瞳がみひらかれる。
「とう、さ……あ……っ」
弔にとってそれは、とても大切なものだった。手を伸ばし、必死になってこちらに引き寄せる。しかし現実に、彼は命すらも風前の灯火の状況で。
「目障りな快盗だか警察だか……これでようやく始末できる」
ハンマーを携え、迫るデストラ。いかなる攻撃であろうとも、生身では耐えきれるはずもない。
歯噛みし、砂利もろとも拳を握りしめる弔。快盗は天上の戦いに必死で、警察はこの場の状況を察知しているかさえわからない。──万事、休す。
「終わりだ……!」
間近に迫ったデストラが、ハンマーを振り上げる──刹那、
蒼炎が、その巨体を呑み込んだ。
「……!?」
何が起きたのか、弔には一瞬、認識すらできなかった。炎に灼かれかけたデストラは咄嗟にその場を飛びのき、難を逃れる。当然、苛立ちゆえの唸り声を発しながら。
そして──彼らは捉えた。陽炎の中、迫る人影を。
「貴様は……」
「おまえ、なんで……?」
正邪、ふたつの声が重なる。それに応えるように、"彼"は歩を止めた。
「不甲斐ないな、死柄木」
「ッ、言ってる場合かよ……!秘書のおまえが、何しに来た!?」
その問いに、青年は応えない。ただ、仮面の奥で嘲るようにわらうだけだ。そして、その視線はデストラを向く。
「デストラだったな。悪いがあのコレクション、俺が貰う」
「何……?──あれしきの炎で、俺を止められると本気で思っているのか?」
デストラの言う通りだ。青年の個性──かの蒼炎が強力なものであるとは弔も知っているけれど、ステイタス・ダブルゴールドのギャングラーに通用するとは思えない。第一あれには、致命的なデメリットがあった。
「そうだな」
青年は、あっさりと首肯いていた。
「まァその前に、見なよ」
青年が、頭上を指差す。その言葉をあっさり受け入れてしまうのは、強者ゆえの余裕か。
果たしてそこでは、相変わらずダイヤルファイターとビクトリーストライカーのドッグファイトが行われている。しかしなんの前触れもなく、雲間から接近する機影があって。
「!、なんだ……?」
「あれは……!」
デストラは知らず、弔は知る。それが、答え。
「──やれ、ジャックポットストライカー」
真紅の翼は、なんの躊躇もなく空中戦に割り込む。当然、快盗たちもその存在を察知した。
「何だ!?」
「グッディ……?」
イエローの言う通り、その姿……グッドストライカーに酷似していた。しかしよく見れば細部に違いはあるし、そもそも真っ赤な体色は明らかにそれと異なる。
そして何より──冷酷なまでに、彼は周囲に対し無差別に攻撃を仕掛けた。
「ぐッ!?」
「きゃあ!?」
まずその巨大な両翼がブルーとイエローのダイヤルファイターを跳ね飛ばす。そうして邪魔者を排除するや、彼は本丸へと仕掛けた。──ビクトリーストライカーだ。
放たれるミサイルの群れ。それらはビクトリーストライカーを四方八方から取り囲み、喰らいつく。地上で操作を行っていたジャネークは、その存在への当惑ゆえ対処が遅れた。──結果としてビクトリーストライカーは、砲火に呑み込まれてしまったのだ。
「がぁああああああッ!!?」
その衝撃は当然、コックピットにいるルパンレッドにも伝播する。烈しい振動の中で、マシンの操縦も不可能とあっては、彼はただ揺さぶられる無力な少年でしかなかった。
そして、
「墜とせ」
青年の命令が高らかに響いたその瞬間、真紅の翼はその嘴をビクトリーストライカーに突き立てた。
コントロールを失った機体が、真っ逆さまに墜落を開始する。そして数秒後には、膨大な砂塵を巻き上げながら地面に叩きつけられたのだった。
「レッドっ!?」
仲間たちの悲鳴のような声が響く。──それゆえ、彼らは展開されたビクトリーストライカーの前部から、何かが転がり出たことに気づけなかった。
そして青年の目的は"それ"だったらしい。すかさず袖口からワイヤーを射出し、巻きつけ引き寄せる。
「"サイレンストライカー"、回収完了」
「コレクションの中にコレクションが……!?」
その事実を知るこの男は、一体何者だ?あの紅いビークルは?デストラの疑念は留まることを知らなかったが、何より目の前の獲物、奪われるわけにはいかなかった。
「そいつを、よこせ……!」
青年は応えない。……いや、胸元に"それ"を仕舞い込んだのが、回答だ。
「──ならば、消えうせろ!!」
激昂したデストラが、再び大地にハンマーを叩きつける。地面が一瞬膨れあがり、壌土の波となって青年に襲いかかる。
「ッ!」
「で、デストラさんなんでオレまでぇええええ!!?」
巻き込まれたふたりの明暗は、身のこなしによって分かれた。弔はかろうじて攻撃の範囲外に飛びのいたが、右往左往するばかりだったジャネークは巻き込まれてしまい──
「ッ、快盗チェンジ!」
吹っ飛ばされていくジャネークを認めて、弔は半ば反射的に動いていた。再変身を遂げると同時に跳躍し、じたばたもがくその身体に迫る。
そして空中に浮いたまま、バックルを金庫に叩きつけ──
『1・0──6!』
「ルパンコレクション、回収……ッ、」
ジャネークはそのまま墜落し、ルパンエックスはかろうじて着地する。その衝撃で、体幹にずしりと響くような痛みが走る。倒れそうになる身体を、小石を握りしめることで弔は支えた。
──いずれにせよ、胸を撫でおろすことはできない。彼の頭脳をもってしても、状況の変転に理解が追いつかない。
快盗たちなどは、それに輪をかけてだ。あの仮面の青年、そしてグッドストライカーに似た真紅のビークルがなんなのかすら、彼らは知らないのだから。
「レッド、大丈夫……!?」
「ッ、クソが……!」
墜落したビクトリーストライカーのコックピットから救け出されたレッド、救け出したブルーとイエロー。彼らの視線は一様に、もうもうと立ち上る土埃の向こうに注がれていた。
「……あーあ、高いんだぜ。このスーツ」
状況にそぐわぬ、綽々とした声。果たして言葉通り、青年は砂塵に塗れながらもそこに立っていた。傍らには、割れた仮面が落ちている。
──露になったその顔を目の当たりにして、快盗たちは思わず息を呑んだ。
わずかに幼さの残る整った顔立ちに、紺碧のような青い瞳。しかしすべての印象を浚うのは、彼の顔から首にかけて大部分を覆う、爛れた火傷のような痕。縫合痕もそのまま残されているのは、よほど治療が乱暴だったのか。いずれにせよ、表の社会で生きていくにはあまりに悍しい姿だった。
その碧眼が一瞬、快盗たちを睨みつける。思わず身構える三人だったが……次の瞬間、彼が腿に取り付けたホルスターから取り出したモノを認めて、その驚愕は最高潮に達した。
「う、うそ……!?」
「あれは……」
「黒い……VSチェンジャー……?」
驚愕と困惑、それによって産み落とされた沈黙の中心で、青年は高らかに躍る声を発した。
「──警察、チェンジ」