「警察、チェンジ」
青年の発声と同時に、引き金が引かれる。途端、銃口からは弾丸ではなく、毒々しい瘴気があふれ出して青年を包み込む。それはあっという間に彼の姿を世界から覆い隠し──
「まさか──」
誰がともなくつぶやいた言葉は、現実のものとなった。
瘴気が晴れたとき、青年がいた場所に立っていたのは……漆黒の戦士。その意匠は警察スーツのものと酷似していて。
「貴様……警察か?」
「さァな」惚けつつ、「でも、そんなようなモンか」
そして青年は、こう名乗った。「パトレン0号」──と。
「えぇっ!?ぱ、パトレン0号って……」
「パトレンジャーに、まだ人員がいたのか……!?」
いや、だとしてもおかしい。トリガーマシンはまだしも、VSチェンジャーは快盗と警察あわせて六つしか存在しないはずなのだ。それを覆せるとしたら、
「ッ、おい死柄木「俺に訊くな!!」──!?」
ジャネークと交戦しているというのもあるのだろうが、エックスの声からはいつもの揶揄めいた雰囲気も余裕も消え失せていた。──実際この状況は、彼にとっても心外というよりほかなかったのだ。
あらゆる者たちが困惑に囚われる中、真っ先に動きを見せたのはデストラだった。
「警察がひとりやふたり、増えたところで同じこと……!──ここで朽ち果てろォ!!」
ハンマーを振りかぶり、迫るデストラ。対するパトレン0号を名乗る戦士は、黒いVSチェンジャーを静かに構えて迎え撃った。放たれる砲弾もまた、闇を塗り固めたような物体と化していて。
「ッ!?」
それを浴びたデストラは、思わずその場に立ち止まった。──想像以上の威力だった。身体から火花が散り、ひとりでに呻き声が発せられる。
「どうしたァ、一つ目?」
「貴様……!」
怯んだとはいえ、致命的なダメージではない。デストラは再び走り出した。ハンマーを振りかざし、弾丸を防ぎつつ。彼が防御に労力を振り分けるのは、それだけで尋常でない事態でもあった。
やがて、接敵。至近距離にまで詰められれば、流石に銃撃を続けてはいられない。ただ、0号の所作は警察はおろか快盗さえ凌ぐほどに敏捷だった。
「ええい、ちょこまかと……!」
「はっ……」
少なくともスピードにおいては、デストラを凌駕している。無論パワーは劣っているが、全身全霊で決着をつけるという気概は彼にはなかった。
──いずれにせよ、"本丸"の戦いが終焉を迎えようとしているのだから。
「スペリオル、エックス……!」
『イタダキ、エックスストライク!』
ルパンエックス渾身の斬撃が炸裂、「うぎゃああああ〜!」と悲鳴をあげながら、ジャネークが粉々に爆散した──
「ジャネーク……!ッ、役立たずめ!」
毒づいたデストラは、憤懣を露にしながらも状況を吟味していた。舎弟の支援のために出向いてきたが、肝心のジャネーク本人が倒されてしまった。周囲にはもはや敵ばかり。全員でかかってこられたとて敗けるつもりはないが、そこまで労力をかける価値を彼は見出していなかった。
「……もういい、遊びはここまでだッ」
言うが早いか、デストラは素早く飛び退いた。その一つ目がぎょろりと敵の群れを睨みつけ、威圧する。そうして追撃を阻んだうえで、彼は徐に次元の向こうへと消えていった──
「ふぅ……やっと、邪魔なのが消えたか」
「………」
あのデストラが、邪魔者にすぎないのか。だとしたら、彼の目的は──
「じゃあ──ここからは、オレのステージだ」
銃口が、快盗たちを捉えた。
響く銃声。しかし、弾丸はあらぬ方向へ飛んでいく。
「やッ、めろ……!」
「……水差すなよ、死柄木」
エックスが身を呈して飛びかかったことで、狙いが逸れた。ただ0号の行動は、彼にとってまったく予想の埒外にあることだったらしい。
「警察官なら、快盗は逮捕しなきゃだろ?」
「ふざけんな……!なんでおまえが──」
尋常でない様子で揉みあうふたり。ルパンレンジャーの面々にはわからないことばかりだ。──唯一明らかなのは、この場の敵味方くらいか。
「チッ……行くぞ!」
そう言ったレッドを皮切りに、彼らも参戦する。四対一の構図、しかし0号に焦りはない。むしろ、
「いいね、そう来なくっちゃなァ……!」
「ッ、てめェは、いったい何なんだ……!?」
その問いに答えはなく、
「さあ、オレと踊ろうぜ……!」
狂ったような哄笑が、響きわたった。
一方、騒擾を嗅ぎつけたパトレンジャーの面々も、ようやく現場にたどり着いていた。
「ムッ、快盗に死柄木くん……!いつの間に──」
「ちょっと待て!あいつらが戦ってるのって……」
「黒い、パトレンジャー……?」
当然彼らも、そのような存在は把握していない。
「ギャングラーが化けた偽物……か?」
「いや……あいつの音、人間だ」
「!、じゃあ、俺らの仲間なのか?」
「そこまでは──」
しかし、彼らに悩んでいる猶予はなかった。──デストラが姿を消したのと入れ替わるように、ゴーシュ・ル・メドゥが現れたのだ。
「私の可愛いお宝さん、ジャネークを元気にしてあげて……」
「!」
パトレンジャーの眼前でひしゃげた金庫にエネルギーが注ぎ込まれ、巨大ジャネークが復活を遂げる。
「アッレェ?オレ、生きてるんじゃネ?」
「そうね。ま、せいぜい引っ掻き回してちょうだい」
言うが早いか、そのまま踵を返して消えていく。いつもながら苛立たしい背中だが、相手がステイタス・ゴールドである以上、迂闊に手出しはできない。
と、こちらもいつもながら、漆黒の翼がぶらっと飛んできた。
『なんかゴチャゴチャしてるなァ〜!ところであの黒いの、誰?』
「!、あんたも知らないの?」
『知らない知らない!ってかこのニオイ……ジャックのヤツがすぐ傍にいるぅ〜!』
「ジャックとは!?……いやそんなことはいい、まずあのギャングラーをどうにかしなければ!」
「だな……!行くぜ、グッドストライカー!」
グッドストライカー、そしてトリガーマシン。発射、巨大化──そして、合体。
「「「──完成!パトカイザー"ストロングバイカー"!!」」」
右腕にクレーン、左腕にバイカーを装備したパトカイザーが、戦場に姿を現した。
「蛇の道は蛇……!一歩も近づけさせネエ!」
先手必勝とばかりに、目からビームを放って攻める巨大ジャネーク。合体したてで対処が間に合わず、ストロングバイカーは直撃を浴びてしまった。コックピットに激しい振動が伝わる。
「ッ!」
「なんの、これしきッ!」
その一発で趨勢が決まるほど、この機人は柔ではない。即座に態勢を立て直し、前進を開始する。ジャネークはなおもビームで攻めてくるが、それらは文字通りストロングな右腕で徹底的に弾き返した。
「何ィ!?ッ、前言撤回ィ!」
良くも悪くも深く考えない性のジャネークは、即座に接近戦へと頭を切り替えた。触手を鞭のようにしならせ、敵に叩きつけようとする。対するストロングバイカーはそれを防ぎつつ、クレーンによる打突で仕掛ける。どちらがより強力か、極めて単純な、ゆえに明快な勝負である。
──その一方で、地上の戦闘は混沌を極めていた。
「はははははっ!」
「ッ!」
嗤いながら、躍るように攻勢をかける漆黒のパトレンジャー。対する快盗たちは数に頼んで袋叩きにしようとするが、彼を捉えることができない。何より、ルパンエックス。元々相手と知己であるゆえか、その戦いぶりは消極的だ。実際、0号の側もエックスのことは眼中にないようだった。彼の標的は快盗たち──いや、
「お、らァっ!!」
「ッ!」
殺意を込めて放たれた拳に、ルパンブルーは気圧され飛び退いた。
「はっ……ずいぶん逃げ腰じゃねーの」
「………」
「昔のおまえが見る影もねえなァ──"エンデヴァー"?」
「な……!?」
「え……?」
エンデヴァー……轟炎司の、ヒーローとしての勇名。快盗の正体を知るはずのない国際警察の人間が、それを知っている?
もはや戦うどころではない。時が停まったかのような衝撃に、快盗たちは立ち尽くしていた。
一方で、パトカイザーと巨大ジャネークの組打ちはというと。
「うおらぁ!!」
「たわばぁ!?」
秘めたパワーの隔てにより、前者の圧倒的優位に事は進んでいた。当然だ。パトカイザー、それもストロングバイカーの腕力に、ただ暴れるしか脳のないギャングラーが敵うはずがないのだ。
「よし、行けるぞ切島くん!」
「おうよッ、次はこいつだ!」
1号が取り出したのは──トリガーマシンスプラッシュ。先の戦闘のあと、返却するより前に弔が不在にしてしまったため所持したままになっていた。彼には次に合流したときにこそ返すとして。
『スプラーッシュ!位置について……用意!出、動ーン!』
『おおっと!色々変わりまっす!』
両腕と胴体がいったん一挙に外れ、クレーンが左腕に替わる。そしてスプラッシュが、胴体と頭部、右腕を占め──
「「「──完成!パトカイザー"スプラッシュストロング"!!」」」
これまでにない最高にパワフルな巨人が、爆誕した。
出力を増したことで、パトカイザーはさらにジャネークを押していく。せめてもの抵抗として光線を放つが、かわすまでもなくスプラッシュストロングには通用しない。
そして度重なる殴打にジャネークが背を折ったところで、かの巨人は渾身のストレートを腹部に炸裂させた。
「ガァ──ッ!!?」
そのままクレーンが勢いよく伸び、空中に打ち上げられるジャネーク。巨人は、最大の好機を自らつくり出したのだ。
「耳郎、頼む!」
「任せな!」
3号が右腕を操作し、上空に向ける。空中でもがくジャネークに、当然ながら回避行動をとることはできない。
「な、なんかヤバいんじゃネ!?」
「ご明、察ッ!」
──そして、スプラッシュがコーティング弾を発射した。
「!?──ギャアアアアアッ!!」
泥の塊のようなオブジェクトが命中し、ジャネークは悲鳴をあげながら硬化させられてしまった。重量が増したことで、その身は重力に従って墜落を開始した。真下には当然、スプラッシュストロングの姿。
『トドメか〜!?』
「おうよ!いくぜ──」
「「「パトカイザー、ミックスアップストライクっ!!」」」
スプラッシュの先端に装着したドリルが高速回転し──落下してきたジャネークを、コンクリートもろとも貫く!
「グボアアアアアアッ!?や、藪蛇じゃネェェェッ!!?」
体内を穿たれたジャネークは、そのような断末魔をあげて爆散する。劫火がその身を照らし、紅蓮をより際立たせる。その勝利を祝福するかのように、空もまた夕暮れへと染まりつつあった。
──しかしその足下では、未だゴールなき闘争が続けられていた。
「はははは、ははは……!」
「……ッ、」
先の動揺もあってか、押されている快盗たち。飛びかかったレッドなどは殴り飛ばされ、地べたを転がっているありさまだった。
「そろそろその化けの皮、剥いでやるよ」
自身の持つ黒いVSチェンジャ──ー正確には装填したトリガーマシンに手をかける0号。今この状況で必殺の一撃を放たれれば、敗北は決定的だ。あるいはこの場だけではない、快盗としてそのものの。
──しかし、現実にそうはならなかった。
「ッ!」
0号のボディに突然電流が奔り、彼は苦悶の声をあげた。反射的にVSチェンジャーが取り落とされる。
そのまま、変身が解けた。
「……チッ、
「……?」
「まァいい。──また遊ぼうぜ、快盗諸君?」
一方的に別れを述べると、0号に変身していた青年は己を蒼炎で包んだ。皆がぎょっとする中、レッドだけは歯を食いしばって発砲する。しかし光弾が届くよりも早く、その姿は焔のむこうに消えてしまうのだった。
「………」
戦場はいつだって、唐突に沈黙を取り戻す。しかし今回ばかりは格別と言うよりほかになかった。──彼らの未来に暗い影を落とすような現実が、突然目の前に立ちはだかったのだから。
そして、その光景こそ極上と愉しむ者もいた。
「やっと面白くなってきたなァ……ははははっ」
うなだれる彼らを高みより見下ろし、嗤うザミーゴ・デルマ。暗躍する彼は、いったい何を企むのか。
快盗と警察、ギャングラー。鮮明に分かたれた三色は今、実体の知れぬ黒によって混迷を深めようとしていた。
à suivre……
「そんなに知りたいかよ、オレが誰なのか」
次回「斑く戦場」
「名付けて、スーパールパンレッドだァ!!」