【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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おにいたまフェア
開催ちゅううううううううううううううう


#39 斑く戦場 1/3

 

 にわかに戦場へと参じた、謎の青年。彼は自らの仮面を打ち捨てる代わりに、漆黒の鎧戦士へと変身を遂げた。快盗に牙を剥き、あまつさえその正体を知る──目的は、いったいなんなのか。

 

 

「もしもし。随分と派手にやったみたいだね、HAHAHAHA」

 

 その()()()主はというと、万事知ったるという口調で電話をかけていた。専用のハイヤーは、運転手こそ在れども実質的には彼ひとりの密室である。相手もそれをわかっていて、ぶっきらぼうな口調で応じる。

 

「悪かったな、ビクトリーストライカーのほうは取り逃がしちまって」

「良いさ、また機会があればで。それより、キミの"本懐"のほうはどうだい?」

 

 電話口から、くつくつと嗤う声が響く。それだけで彼の思うように事が進んでいるのだということは、容易に想像がついた。

 

「キミの願い、かなうと良いね。──では、また」

 

 そう告げて、通話を終える。静寂に包まれた車内、八木は柔らかいシートに身を預けて瞼を閉じた。目的地では、部下がかの青年のことを問いたく自分の帰りを待ちわびていることだろう。回答は当然用意してある。しかし他の誰でもない、彼を欺くことに、ほんのわずかな胸の痛みを覚える八木だった。

 

 

 *

 

 

 

 街はずれの往来に、ぽつんと佇む喫茶ジュレ。快盗戦隊の根城という裏の顔をもつこの店は今、張り詰めた空気に覆われていた。

 

「答えろ、死柄木。あの男は何者だ?」

 

 ルパンブルーこと轟炎司の表情と口調は、いつも以上に険しく鋭い。その正体を知られているばかりか、戦闘中執拗に付け狙われたのだ。尤もこの場にいる誰も皆、他人事ではいられないが──

 

 問われた死柄木弔のほうも、いつもの揶揄めいた雰囲気は消え失せていた。

 

「……"荼毘"。俺らはそう呼んでた」

「本名か?」

「多分、違う」

「なぜ奴が俺の正体を知っている?まさか、貴様が──」

「──違ぇよ!!」

 

 今までに訊いたことのないような怒声だった。弔の緋色の瞳が、炎司をぎろりと睨みつける。びりびりと震える空気の中で、テーブルに指を叩きつける音だけがコツコツと響く。

 

「俺だって……何がなんだかわかんねえんだよ……!」

「………」

 

 皆、それ以上は言葉もない。彼らの頭には思考の奔流が怒涛のごとく流れていて、それらはことごとく悲観的なものだった。そのいずれかひとつでも言葉にしてしまえば、何かが折れてしまうのではないかという恐怖すら覚える。

 重苦しい沈黙の帳が、彼らの心身をも絡めとろうとしたときだった。

 

「荼毘、ですか。よもやまた、その名を聞くことになるとは思ってもみませんでした」

「!」

 

「黒霧……」

 

 ルパン家の代理人──黒霧。漆黒の靄に覆われたその頭部からは、表情を窺い知ることはできない。

 

「また、とはどういうことだ。貴様はあの男を知っているのか?」

「ええ、………」

 

「彼は一時期、ルパン家に居たことがありますから」

「──!」

 

 皆、いよいよ二の句が継げなくなった。荼毘はルパン家の人間だった?ならばなぜ今、国際警察にいる?弔と同じように潜入しているのか。しかし彼は、明らかに快盗を敵視していて──

 

「……一時期っつったろ。あいつはもう、とっくの昔にルパン家を去った──きみらが快盗になるより、前にな」

 

 弔自身、国際警察に潜り込んで彼に再会したとき、それこそ腰を抜かさんばかりに驚いたのだ。容姿からしてイリーガルな雰囲気を醸し出すあの青年が、よりにもよって綺麗事で塗り固められたような組織に。それも、長官の側近という立場まで得て。

 

(……あいつだ。あいつならきっと、すべてを知っている)

 

 拳を握りしめた弔は、そのまま踵を返して扉に手をかけた。同志たちからはどこへ行くかという問いさえない。訊くまでもなく、薄々想像がついたというのもあるが。

 彼がジュレを出ていくのとほぼ同時に、辛抱ならない様子のお茶子が黒霧に詰め寄る。

 

「どうしよう黒霧さんっ、あの荼毘って人に正体知られてるってことは、警察にも……!やっぱり、夜逃げするしかないんかな!?」

 

 夜逃げ──以前とは異なり、その言葉は真に迫っていた。快盗たち皆、いよいよ表の顔を捨ててアンダーグラウンドへ潜ることを覚悟せねばならないと。

 だが、黒霧は小さくかぶりを振った。

 

「彼がどこから皆さんの正体を知ったのかは調べてみる必要がありますが、おそらく昨日今日の話ではないでしょう。にもかかわらず、国際警察そのものがアクションを起こす様子はいっこうにみられない。今しばらくは警戒にとどめるべきかと」

「……チッ。状況によっちゃあ、こっちから探り入れるしかねえか」

 

 パトレンジャーの面々に腹芸ができないことだけが、不幸中の幸いか。無論それは、吹けば飛ぶようなものであったが。

 

 

 *

 

 

 

 焦燥の夜は刹那のうちに過ぎ、翌朝。

 

 ギャングラー出現の報を受け、パトレンジャーの三人は出動していた。

 

「たすけてっ、助けてぇ!!」

「!」

 

 悲鳴じみた救けを求める声とともに、逃げまどう女性の姿。彼女は巷でも知られる国際警察戦力部隊の姿を確認するや、なんと抱きついてきた──よりによっていちばん免疫のない男に。

 

「ぬわっ!?な、ななななん……ッ!?」

「飯田……あんた、」

「ふッ、不可抗力だろう!?」

 

 顔を紅潮させる天哉。思わず吹き出しかかる仲間たちだが、ここは既に戦場である。気を取り直し、鋭児郎が訊いた。

 

「何があったんスか?」

「あ、え、エビフライが……!エビフライがぁ!」

「エビ……フライ?」

 

 それが初耳であれば、彼らは女性が錯乱のあまり突拍子のないことを言っているのだと判断していただろう。

 しかし彼らは昨日、その脅威を味わったばかりだった。

 

「まさか──」

 

 心当たりはある。でも、そんなはずは──戸惑う彼らを嘲笑うかのように、街に恐怖をもたらす異形がこの場に姿を現した。

 

「ヒャハハハハハァッ!!やっぱ、動けるってサァイコー!!」

「あいつ……!?」

 

 それはどう見ても、昨日ジャネークと組んで暴れていたギャングラー。

 

「イセロブ……!」

「ン?──てめェらは、国際警察!!」

「おめェ、あのザミーゴってヤツに殺されたんじゃなかったのか!?」

「ハァ〜?ナニ言ってる、ちょっと油断してトバされちまっただけだわ!!」

「飛ばされ……そうか、あれは消されたんじゃなくて転送されたってこと……!」

 

 あんな粉々に砕け散っていたのに──しかしイセロブが現実に生存している以上、その見解が正しいのだろう。

 いずれにせよ……その"結果"に対処するのが、彼らの役割だ。

 

「「「──警察チェンジ!!」」」

『パトライズ!警察チェンジ!』

 

 VSチェンジャーを介して警察スーツを装着、一瞬にして変身を完了する。

 

「国際警察の権限においてッ、実力を行使する!!」

「実力ならこっちのほうが上だァ!喰らえェェェビフリャーッ!!」

 

 微妙にずれた返答とともに、身体からミサイルを発射するイセロブ。無論それらは、ことごとくがカリっと揚げられた美味しそうなエビフライの形をしている。緊張と食欲がせめぎあうも、皆、朝食はきちんと食べているので前者が打ち勝った。

 

「ネタがわかってりゃあ、こんなモン!」

 

 誰が言い出すでもなく、円形の陣を組むパトレンジャー。そうして軌道を変えてあちこちから迫るエビフライミサイルに照準を定め、撃つ、撃つ。乱れ撃つ!

 三人の連携によって、ミサイルはその大部分が撃墜された。残念ながら撃ち漏らしはあるが、

 

「こんくれぇなら……!──飯田、耳郎、俺の後ろに!」

 

 ふたりを背中に庇い、パトレン1号──鋭児郎が自身の個性を発動させる。鎧に包まれた地肌までもが巌のごとく硬質化する──英雄たるべく鍛えあげてきた、切島鋭児郎唯一無二の力。

 着弾したミサイルが一挙に爆発を起こし、その姿が劫火に呑まれる。

 

「やったぜェ!!」

 

 無警戒にはしゃぐイセロブ。しかし次の瞬間、爆炎の中から飛び出したパトレンジャー三人が、VSチェンジャーを一斉掃射していた。

 

「なにィ痛でででででッ!!?」

「ヘッ、個性舐めんなってんだ!」

 

 胸を張る1号。ただし相手がギャングラーであるからには、当然二の矢があって。

 

「少しはやるじゃねえか……。──だったら、こうだァ!!」

 

 刹那、鈍い輝きを放つイセロブの金庫。その光は三人に襲いかかり、

 

「──うわぁッ!?」

 

 彼らの身体は制御を失い、ひとりでに宙へ浮き上がってしまった。

 

「な、んだ、これ……!?」

「身動きが、とれん……!」

 

 空中でもがき続けるパトレンジャー、しかしルパンコレクションの力に逆らえるわけもなく。

 

「今度こそッ、エビFLLLLLY!!」

 

 再び放たれるエビフライミサイルは、今度こそ何ものにも邪魔されることなく全弾がパトレンジャーに直撃した。熱と衝撃に晒され、苦悶の声をあげる三人。警察スーツに守られているおかげで致命傷にはならないが、それでも手痛いダメージには変わりない。

 そのまま彼らは地面に墜落、したたかに叩きつけられる。

 

「ッ、痛ぅ……!」

「こ、これしきの……ことッ!」

 

 それでも幾つもの死線をくぐり抜けている彼らが、この程度で折れるはずもない。全身の力を振り絞り、立ち上がる──

 

──しかし、

 

「!、いない……!?」

 

 いつの間にか、イセロブは忽然と姿を消していた。慌てて彼の立っていた地点にまで走り、周囲を見渡すが、どこにもその気配すら残っていなかった。

 

「ッ、逃がしたか……!」

「まだそう遠くへは行っていないはずだ、手分けして捜そう!」

 

 三方に分かれ、捜索を開始するパトレンジャーの面々。──その様子を、繁みの陰から密かに覗いている者の姿があった。

 

「へへへへッ、馬鹿め」

 

 ハンチング帽を被った、小柄な中年男。扇子でぱたぱたと扇ぎながら、彼は去っていくパトレンジャーを嘲るように鼻を鳴らした。

 程なく、踵を返して去っていく。だが自分を見ている側だと思い込んでいた彼もまた、何者かに見られていたことには気づいていなかった。

 

 

 *

 

 

 

「──わかった。不審なエビフライにはくれぐれも注意してくれ」

 

 部下からの連絡にそのように指示を出して、塚内管理官はふぅと息をついた。彼らが標的を逃がしてしまったことについてはやむをえない。憂慮しているのは、警察戦隊……否、国際警察の根幹にかかわる問題が、今起きていることだ。

 

「イセロブ・スターフライドが生きていたらしい」

「……本当ですか?」

「ああ。昨日現れたザミーゴとかいうギャングラー、殺害するふりをして奴をどこかに転送していたようだ」

 

 ふりと言っても、ザミーゴにはそんなつもりもなかっただろうが。

 

「行かなくて良いのか、死柄木捜査官?イセロブからも、ルパンコレクションを回収しなければならないだろう」

「……わかってますよ」

 

 首肯きつつも、弔の腰は重い。自分以上にあの、"パトレン0号"のことが気にかかっている。にもかかわらず長官との面会がかなわなかったことを、塚内も知っていた。

 

「さっきも言った通り……俺も最低限の説明しか受けていないんだ」

 

 昨夜の、八木とのやりとりを思い出す。彼がいったい何者なのかを質す塚内に対し、彼の答は実に表面的なものだった。"死柄木とはまた異なる立場での、遊軍"──何故そのような存在が必要なのか、戦力部隊に組み込むのは駄目なのかを問うても、体制をより盤石にするためとしか返ってはこない。

 

「……快盗のことは、何か言ってましたか?」

「快盗?ああ、きみも含め快盗と交戦したとは聞いているが……どうかしたか?」

 

 怪訝そうに首を傾げる塚内。パトレンジャーの面々よりはよほどポーカーフェイスを演じるのは巧かろうが、注意深く観察しても何かを隠している様子は窺えない。これ以上つついても藪蛇になるだけと判断し、弔は立ち上がった。

 

「……いえ。じゃ、俺も出ます」

「ああ……気をつけて」

 

 一礼し、とぼとぼと去っていく背中。今日ばかりは妙に小さく思えてしまうのは、意地の悪いものの見方だろうか。

 なんにせよ、

 

(俊典……。おまえは一体、何を……)

 

 再会した旧友が得体の知れない存在になってしまったように感じて、塚内の懊悩は深まっていくばかりだった。

 

 

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