【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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「とうや」って名前の響きがなんかかわいくてすき


#40 誰そ彼れ 1/3

 

 師走もいよいよ終盤に差し掛かり、街はクリスマスムード一色に染まりつつある。繁華街では街路の片隅にクリスマスツリーが飾られ、店々も色とりどりの電飾で己の存在を主張している。一段と厳しさを増しはじめた寒さを一時的なりとも忘れうるような、華やかな光景。

 

 繁華街からははずれに位置する喫茶ジュレもまた、ささやかながらクリスマスの彩りを取り入れていて。

 

「──おっ、七面鳥!しかも丸焼きかよ、スゲー!!」

 

 クリスマス限定メニュー表を前に、子供のようにはしゃぐ切島鋭児郎。と、そんな彼を三つ年下のウェイターが鼻で笑うのも恒例となっていて。

 

「は、ガキかよ。つーかあんたの給料で食えんの?高くつくぜ」

「おいおい、国際警察舐めんなよ……って言いたいとこだけど、おめェが勧めてくれたソシャゲに課金しすぎて金欠だったわ。ははは……」

「は?課金してンのかよ、ウケる」

「えっ、おめェしてねーの?」

「無課金でヨユーだわ、あんなん」

「マジか!さすがバクゴー、漢らしいぜ!!」

 

 「攻略法教えてくれ!」と乞われ、「ヤだ」と舌を出しながらも満更ではなさそうな勝己。

 一方、こちらも。

 

「そういえば麗日くん、悩んでいた件はどうだい?」

「はい!まぁまだ全面解決ってワケじゃないですけど……でも、道は見えてきたって感じです」

「その道を進んでいけば、きっといつか何か見えてくるさ。思いきってドーンと行きたまえ!……というのは、他人の受け売りだがな」

「ふふ……ありがと、飯田さん」

 

 和やかなやりとりに挟まれ、紅茶を嗜む耳郎響香は微笑を浮かべていた。愉しい会話というのは、傍らで聞いていても愉しくなるものなのである。

 

「ずいぶん仲良くなったね、ふたりとも」

「おっ、俺らダチに見えるってよ。バクゴー!」

「ダチとは言ってねーだろ」

 

 

──そんな彼らの様子に、別の客席で注文をとっていた店長・轟炎司は密かに聞き耳をたてていた。

 

「………」

 

 仲間たちを見守る立場。そういう意味では、彼は響香と同じ──しかし伊達眼鏡に紛らわせたその表情は、まったく対照的なものだった。

 

 

 *

 

 

 

「お呼びでしょうか、ドグラニオ様」

 

 主人自らの呼び出しに、デストラ・マッジョは恐縮していた。目の前にいる老人は、そんなこと気にも留めないかのようにワインを煽っている。

 

「よう、元気にしてたか?」

「はっ……申し訳ございません。幾日も顔を見せず」

「フ……構わんよ、おまえも"客人"の件で忙しくしていたようだからな。──ただな、デストラ」そこでいったん言葉を切り、「俺はおまえがまた、かつてのように暴れる姿を見てぇんだ」

 

 怪訝な表情を一つ目に表す側近を前に、ドグラニオは独りごちるように続ける。

 

「おまえがいない間、考えてた。俺が手元に置いてなきゃ今頃、おまえがライバルどもを蹴散らして、この椅子を奪い取ってたんじゃねえかってな」

「……ドグラニオ様、」

「ま、人間のお遊びに付き合うのも良いが……それが済んだら、少し考えてみちゃあくれないか」

 

 透き通った碧眼にじっと見つめられ、デストラは是非も述べずに沈黙するほかなかった。

 

 

 *

 

 

 

 深夜の国際警察庁舎は、文字通り夜警の役割を果たすかのように煌々と輝きを放っている。

 それは昼夜を問わず、様々な角度からギャングラー対策に邁進している職員たちの努力の象徴でもある。──中でもその中核を担う警察戦隊のリーダー、塚内直正は独り執務を続けていた。

 

「………」

 

 気を抜いていると未だ青年と誤認されがちな童顔を顰め、各部署から上がってきた情報を精査する。

 特にこの一、二週間ほどは忙しい日々が続いていた。長官来日に伴う組織改編の影響は、管理職である彼にはもろに降りかかっている。尤もそれが隊員たちの職務にまで支障をきたさないよう、矢面に立つのが彼の役割なのだが。

 

(……ま、取って喰われるワケじゃないしな)

 

 おそらく、きっと……そうだと良いが。

 取り留めもない思考を払おうと頭を軽く振っていると、ジム・カーターが目ざとくそれを見咎めた。

 

『管理官、お疲れでしょう。少し休んできてください!』

「いや、もうすぐキリの良いとこだから……」

『そう言って、この前は朝までコースだったじゃないですか!』

 

『良いから休んでください!』と迫られ、塚内は屈服した。この事務用ロボット、披露する機会はほぼないが腕力もなかなかのものである。それに、実際疲れも溜まっていた。

 

「じゃ、ひとっ風呂浴びて仮眠してくる。その間、留守は頼んだぞ」

『了解ですっ!』

 

 淀みのない敬礼に苦笑しつつ、塚内は部屋を出た。

 

 

──と、いうわけで。

 

「あ゛ーーー………」

 

 大浴場の程よい熱さの湯に浸かり、塚内は唸り声を洩らした。年寄りじみていることは自覚している。いくら若く見えても、中身の加齢までは止められない。社会人、それも責任ある立場である以上やむをえないことなのだが、その良し悪しの判断はつかない。何もかも忘れて、気の赴くままに毎日を過ごしてみたいという気持ちも実のところはある。

 

「………」

 

 まあ、実際にはギャングラーがいる限りそういうわけにはいかない。せめて今くらいは何も考えずに湯を楽しもうと暖色の灯を見上げていたら、次第に頭がぼうっとしてきて、そのまま視界がすうっと狭まった。

 

 

──………、

 

──……くん、

 

──……うちくん……って……。

 

 

「塚内くん、起きて!」

「!?」

 

 ぎょっとした塚内が目を開けると、まず鬣のような黄金が目に飛び込んできた。次いで、反射的に動いたことによる水飛沫の束。

 

「がぼっ!?、うぶっ、ごほ、ごほっ!!」

「あー……だから言ったのに。大丈夫かい、塚内くん?」

「!、と、俊典……!?」

 

 こちらを気遣わしげに覗き込んでくるのは、痩せた男の彫りの深い顔立ちだった。ともすれば他人に緊張感を与える容姿だが、人の良さのようなものが滲み出ている。彼が国際警察のトップなのだと言われれば、玄人ならあぁそうかと納得するかもしれない。

 

「……失礼しました、八木長官」

「おいおい、今ここには私たち以外いないんだ。いつも通りでいてほしいな」

「……ああ。きみもここに来るんだな」

「フランス本部にはないからね、こんな設備。HAHAHAHA」

「………」

 

 つられて唇を弛めかけ……慌てて引き締める。以前ならいざ知らず、今の彼とは本音で語りあえる関係ではなくなってしまった。

 

「お風呂でうたた寝なんて、ずいぶん疲れてるようだね。休みはとれてるかい?」

「休みどころか、ろくに家にも帰れてないな。ギャングラーだけならいざ知らず……誰かさんが解決の糸口も見えない仕事を増やしてくれた。そういや最近、あの仮面の秘書の姿も見ないけど?」

「hahaha……」

「笑って誤魔化すな。……俊典おまえ、何しに日本へ戻ってきた?おまえがしようとしてることは、ほんとうに、平和のためか?」

「………」

 

 笑いをおさめた八木は、湯を掬いあげてばしゃばしゃと顔を洗った。そのしぐさ、姿かたち、塚内の知る彼と何も変わらない。

 変わっていない、はずなのに。

 

「……平和というより、自由のためかな」

「……何?」

 

 それは塚内にはおよそ理解しがたい言葉だった。しかし友人が覗かせた本音の欠片、蔑ろにすることなどできない。

 懸命に咀嚼しようと試みる塚内の頬を、八木の人差し指が突いた。

 

「ちょっ……俊典!」

「HAHAHA、そう難しい顔するなよ〜。塚内くん、せっかく若々しいのに皺ができちゃうぞ」

「あのな……」

 

 こういう子供のようなところも、昔と変わらない──自分より幾分か年長なのだが──。脱力した塚内は、身体が火照ってきたのを感じて立ち上がった。

 

「おや、出るのかい?」

「あんまり長湯すると身体に良くないからな、それに仮眠の時間もなくなる」

「……すまないね、苦労をかけて」

「俺より死柄木捜査官を気にかけてやれよ、直属の部下だろう。会ってもくれないって、カンカンだぞ彼」

「haha……そうだね。部下は大事にしなきゃ、ね」

「………」

 

 ため息混じりに、湯けむりの向こうへ消えていく塚内。その背中を見送りながら……八木もまた、大きく息を吐いた。

 

「"自由"と"平和"……両方守れる世界なら、良かったのにね」

 

 そのつぶやきは、既に独りぼっちの浴場にむなしく吸い込まれていった。

 

 

 *

 

 

 

 いよいよクリスマスを翌日に控えたイブの朝、耳郎響香は単独でパトロールに出ていた。街も人も特別な日を前に浮ついている──それ自体は咎めだてするような話ではない。響香とて、若者としてクリスマスを楽しみたい気持ちはある。

 だが、ギャングラーにせよヴィランにせよ、こういう特別な時機を狙って大きな犯罪を計画しているものなのだ。無辜の市民がその企みに巻き込まれることがないよう、気を引き締めていかなければ。

 

 同じく街を警邏しているプロヒーローたちと会釈をかわしつつ歩いていると、職場ひっくるめて常連となっている喫茶店近くで"彼"と遭遇した。

 

「──わかりました。どうもありがとうございました!」

「いえ……お気をつけて」

 

 歩き去っていく女性。それを見送る大きな背中に、響香は声をかけた。

 

「今日は口説かなくていいんですか?」

「!」

 

 振り返った男──轟炎司は、その強面を盛大に顰めた。

 

「どーも」

「……どうも。ご心配なく、二度としませんから」

「別にとやかく言いませんよ。浮気はどうかと思いますけど、私生活に介入する権限はないんで」苦笑しつつ、「ただ、爆豪たちへの影響を考えてもらえれば──」

「──以前、我々を快盗だと疑っていましたね」

 

 遮るように放たれた言葉は、かつての"エンデヴァー"の片鱗を感じさせるものだった。

 

「我々のこと、調べたんでしょう?」

「!、それは……」

「だから、必要以上に我々を気にかける。勝己は切島鋭児郎、お茶子は飯田天哉が……だから貴女は、この私というわけですか」

 

 有無を言わせぬ炎司の言葉に、響香は明確な否定を述べることができなかった。別に、チーム内でそういう役割分担をしているわけではない。現在の関係性を構築したのは、身も蓋もない言い方をしてしまえば成り行きだ。ただ、その結果として唯一の大人で壁も分厚い炎司を、響香が気にかけているのも事実で。

 

「……迷惑、ですか?」

 

 去ろうとする背中を追い、そう問いかける。対する炎司は振り向きもせず、

 

「歓迎します、お客様としては。だが、そこまでにしていただきたい。私だけでなく、勝己もお茶子も自分自身で生計を立てている、立派な大人です」

「……それは、否定しませんけど。でも──」

 

「そういうあなたは、どうなんですか?」

「……何?」

 

 思いもよらぬ問いかけに、炎司はようやく立ち止まる。その心音が揺らいだのを、響香は感じとった。

 流れる沈黙。しかし暴虐が蔓延るこの社会において、それは容易く破られるもので。

 

「──見つけたぞ」

「!」

 

 にわかに響く重々しい声、足音。凄まじい威圧感を放ちながら現れたのは、緑を基調とした筋骨隆々のボディをもつ、一つ目の巨人。

 

「おまえは……デストラ……!」

 

 死柄木弔が交戦したという、"ステイタス・ダブルゴールド"。響香は思わず冷や汗を流した。よりによって独りのときに、こんな街中で!

 

「ッ!」

 

 一方、思わず身構える炎司。それは快盗としての反射的な動作だったのだが、響香は前職ゆえのものだと誤認した──幸か不幸か。

 

「エンデヴァー……いや轟さん、下がってて。こいつはウチを狙って来てる!」

「!、……わかりました」

 

 表向きは一般市民である以上、彼女の言葉に従わざるをえない。致し方なく後退した炎司だったが、当然遠くへは逃げず、手近な建物の陰にするりと身を滑り込ませた。そして携帯電話を取り出す。

 

「──勝己、俺だ」

 

 

「一つ目野郎!?──わぁった、すぐ行く」

 

 連絡を受けた勝己は、すぐさまお茶子とともにジュレを飛び出した。デストラがなぜ直接出撃してきたのか、考える余裕はなかった。

 

 

──そして、こちらも。

 

「わかった、すぐ救援を送る。それまで持ちこたえてくれ」

 

 響香からの要請に表向き冷静に応じた塚内管理官。通信を終えるや否や、彼は即座にジム・カーターを呼んだ。

 

『了解!切島さんと飯田さんに現場へ急ぐよう連絡します!』

「頼む。死柄木捜査官、きみも──」

 

 唯一室内にいた弔に呼びかけようとするも、既に彼は飛び出したあとで。塚内はひとまず、椅子に座り込んだ。

 

(今度はステイタス・ダブルゴールド……。偶然か?それとも──)

 

 何かある。それは叩き上げの勘と言うべきもので……いずれにせよ、今は如何ともしがたい。

 と、そんな折、デスクに備え付けの電話が鳴って。

 

「……はい、警察戦隊──」

『──お久しぶりです、塚内管理官』

「!、きみは……!?」

 

 なんの前兆もない"彼"からの電話は、塚内の心身にさらなる嵐を巻き起こすものだった。

 

 

 *

 

 

 

 果たして塚内管理官の指示通り、耳郎響香──パトレン3号はデストラ相手に孤軍奮闘していた。

 

「ヌゥゥンッ!!」

「ッ!」

 

 叩きつけられるハンマーを間一髪でかわしつつ、至近距離からVSチェンジャーの光弾を見舞う……当然のように、通用しない。どうにか市街地からは引き離したが、それ以上を望むことは困難だった。

 

(コイツ……マジで強い……!)

 

 以前戦った"ステイタス・ゴールド"を、遥かに凌ぐパワー。下手な小細工など通用しないと本能でわかる。

 

 そんな戦闘の様を、密かに追いかけてきていた炎司が観察していた。

 

(……デストラ相手に、俺独りでは厳しいか)

 

 ルパンブルーとしても……エンデヴァーとしても。

 暫し様子を見ていたらば、戦場に黄金の影が飛び込んできて。

 

「──デストラぁっ!」

「!、死柄木!」

 

 3号を庇うように割り込むと、弔──パトレンエックスはXロッドソードでハンマーを受け止めた。

 

「パトレンエックスか」

「デストラ……!今度は何しに出てきた?」

「貴様には関係ない……失せろ!」

 

 実際デストラには、そう言わしめるだけのパワーがあった。腕力でエックスを弾き飛ばす。と、次は飛びかかってきたパトレン3号にいよいよハンマーを命中させた。

 

「うぐあぁぁッ!!?」

 

 小柄な身体は容易く吹き飛ばされ、積まれた木箱を打ち壊しながら地面を転がる。それはちょうど、炎司の隠れていた場所で。

 

「!」

「ぐ、うっ……──!、轟さん、なんでここに……!?」

 

 そのとき、彼らの背後に空間の歪みが出現する。はっとしたのもつかの間──デストラの全身から、ミサイルが発射されて。

 

「────、」

 

 いちかばちか、炎司は響香の手をとり歪みに飛び込んだ。同時にミサイルが着弾……辺り一面が劫火に包まれる。

 

「フン……」

「──デストラっ、おまえまさか、ふたりを異世界に……!」

「失せろと言ったはずだ!」

 

 閃光を目にした瞬間、エックスの胴体をハンマーが突き上げていた。

 

「が──」

 

 うめき声すら、完全にはあげられぬまま……再び吹き飛ばされたエックスは、そのまま港から海に落下した。

 

「………」

 

 戦場に静寂が戻る──デストラの勝利という形で。

 そんな彼の背後に、人影が現れて。

 

「余計な虫は紛れ込んだが……一応、舞台は整えた。あとは貴様の好きにしろ」

「………」

 

 デストラの言葉に──荼毘は、嗤った。

 

 

 

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