【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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エンデヴァーといいかっちゃんといい
堀越センセイ拗らせすぎやろ……じゅるり


#41 穢された子供 1/3

「きみを逮捕する、死柄木弔……いや──志村転弧」

 

 パトレンジャーの面々の前に、おおよそ半年ぶりに姿を現した青年──物間寧人。彼が突きつけた令状に記された名は、死柄木弔ではなかった。

 

「志村……転弧?」

「何を言っているんだ物間くん、彼は──」

「偽名だったんだよ、死柄木弔は」被せるように、寧人は告げる。「本名は志村転弧。──そうだよな、死柄木捜査官?」

「………」

 

 弔は否定しない。いや、言葉さえ失っている様子だった。誰も見たことがないその姿は、寧人の言葉が真実であることを如実に示していた。

 

「罪状は……わかっているよな?経歴詐称にスパイ行為、それから──」

「スパイって……おかしいだろ!?こいつが快盗と通じてるのは、そもそも潜入捜査官だからで──」

「快盗じゃない、ギャングラーだ」

「!?」

「彼にはVSビークルをギャングラーに横流しした疑惑がかかっている」

「なっ……違う、俺は──」

「──まだあるよ。尤もこれは日本警察の管轄だろうけど……」

 

 

「──殺人……!?」

 

 長官執務室に乗り込んだ警察戦隊管理官・塚内直正は、当の長官から弔の罪状を聞かされ驚愕を露にしていた。

 

「どういうことだ?死柄木……いや志村転弧が、そんなこと──」

「事実だ、尤も刑事責任を問えるかは別の話だけどね。何せ十五年も前の話だから」

「ッ、それはともかく……信じられない。彼がギャングラーに通じていたなど」

「私だってそうさ、でも容疑がかかっているのは事実だ。敵と通じているかもしれない人物を、野放しにはしておけない……そうだろう?」

「………」

 

 確かに、それは一理ある。そもそも名を偽っている時点で、拘束するには十分な理由になるのだ。

 しかし塚内は、以前から抱いていた疑念が深まるのを感じざるをえなかった。八木は……旧友はいったい、この先に何を見ているというのか。

 

 

 戻って、地下駐車場。罪状を読み上げた寧人が、機動隊ともども弔に迫ろうとしていた。

 

「さあ、志村転弧。おとなしく──」

「──待てよ!!」

 

 そう叫んで、双方の間に割り込んだのは──他でもない、切島鋭児郎だった。機動隊の面々に対抗するかのように、彼はVSチェンジャーを構えている。

 

「なッ……切島!?」

「切島くんっ、やめるんだ!そんなことをしたらきみまで──」

「だったらッ!!──このまま死柄木に、濡れ衣着せても良いってのかよ!?」

「そうではない!!」

 

 天哉も響香も、──名を偽っていたことはともかく──弔にかかった容疑など、鵜呑みにはしていない。だが本部から派遣されてきたであろう捜査チームに対し、銃を向けるなど──

 

「問答無用、障害は排除する」

「!!」

 

 寧人の瞳が鋭い光を帯びる──それを認めた鋭児郎は刹那、VSチェンジャーの引き金を引いていた。光弾が、彼らの足下に着弾する。

 

「ッ!」

 

 思わず怯む寧人たち。その隙を突いて、鋭児郎は弔の手をとった。

 

「逃げるぞ、死柄木っ!」

「!」

「な……切島くん!?」

「切島!」

 

 仲間たちの声にも耳を貸さず、鋭児郎は弔ともども再びパトカーに乗り込んだ。勢いよくアクセルを噴かし、駐車場を飛び出していく。

 

「ッ、……こちら物間。切島鋭児郎が容疑者を連れて逃亡」

 

「──わかった、追ってくれ。抵抗するようなら発砲も許可する」

「なっ……俊典!?」

 

 身を乗り出しかける塚内を、八木は手で制した。

 

「今、呼び捨てはまずいよ。向こうに聞こえてしまう」

「ッ、申し訳……ありません。長官、」

 

 

(切島くん、死柄木捜査官……!)

 

 ふたりを案じる気持ちさえ、今は表に出すことも許されなかった。

 

 

 *

 

 

 

──荼毘が名乗ったのは、死んだはずの我が子の名だった。

 

 轟炎司にとって、それは忌むべき過去そのもの。目を背け続けてきた、罪の象徴だった。

 

「燈矢……だと?」

「そうだよ?──十年ぶりだね、おとうさん!」

 

 両手を広げ、先程までとは別人のような満面の笑みを浮かべる荼毘。顔かたちは火傷のせいで随分と変わってしまっているが、その純朴な表情には確かに息子の面影があった。

 しかし、彼の言葉を受け入れることはできない。──受け入れられる、はずがない。

 

「ふざけるな……!燈矢は死んだ、十年前に!」

「……死んだ?」

「そうだ!!許されない、嘘だ……!」

 

 荼毘はにっこりと笑みを浮かべたまま、事実を確認するように言葉を紡いだ。

 

「"個性が暴走して起きた事故"、表向きはそういうことになってるんだよね。……でもおとうさんも、家族の誰もほんとうはそうじゃないと思ってる。そうでしょう?」

「……ッ、」

 

 そうだ──燈矢の死は事故などではない。故意、

 

 つまり、自殺だ。

 

「……燈矢は、独りで死んだ……。骨のひと欠片を遺して……それ以外、言葉も何も……」

「……何も遺さなかったのは悪いと思ってるよ」笑みを消し、殊勝な表情を浮かべる荼毘。「でも発作的だったんだ、自分でも笑っちゃうくらい」

 

「それに……肉体は、ここにこうしてあるわけだからさ」

「ッ、──黙れ!!」

 

 激情のままに、全身から火炎を噴き出す炎司。これ以上目の前の男が戯けたことを抜かしたら、全力で焼き尽くしてしまうかもしれない。──殺意。ヒーローとして二十余年、活動している最中にも、それだけは抱かぬよう自らを戒めていたというのに。

 

「ハァ……まだ信じてくれないんだ。頑固なのはほんと、昔から変わらないな」

 

 ため息をつくや否や、荼毘は漆黒のVSチェンジャーを持ち上げた。身構える炎司だったが、相手はそれより先に、

 

 銃を、その場に落とした。

 

「……!?」

「じゃあ良いよ、燃やせば?」

「な……っ」

「おとうさんの炎に灼かれるなら、ぼくは本望だ」

 

 両手を広げ、無抵抗の意を示す荼毘。──そうだ。死んだ息子の名を騙る、邪悪な男。ここで消してしまえば、証拠も何も残らない。

 かつてヒーローだった男には、あるまじき思考。しかしそれとは裏腹に、湧きあがった殺意が急速に萎えていくのを、炎司は感じていた。

 

 ──荼毘(この男)はほんとうに、燈矢なのかもしれない。

 

 その疑念がひとしずくでも心に落ちてしまえばもう、力を振るうことなど不可能だった。

 

「………」

 

 纏った炎が消えていく。残されたのは、哀れな父親の身体ひとつだった。

 

「信じてくれたんだね、おとうさん!」再び満面の笑みの荼毘。

「……俺は……、」

「ぼく、知ってたよ。おとうさん、ほんとうはすごく優しいんだって。ぼくを見捨てたのだって、ぼくが自分の個性で傷つかないようにするためだったんだよね?ぼく、ぼくね、そんなおとうさんのことが──」

 

 

「──だいすきで……だぁいきっらい」

 

 刹那、荼毘の纏った黒衣の隙間から、鈍い緑色の光が洩れた。今のはなんだと我に返ったのもつかの間、炎司の身体を異変が襲う。

 

「うぐ……あ……!?」

 

(身体が……熱い……!?)

 

 炎を使ったときとはまったく違う、体内をつくり替えられていくような感覚。立っていることもできず、炎司はその場に膝をついた。

 

「おま、えは……」

「大丈夫だよ、おとうさん」遮るように言い、「疲れたろ、今は眠りなよ。次に目が覚めたときには、もう……」

 

(もう……なん、だ……?)

 

 思考も、最後までは保つことができず──炎司の意識は、暗闇に閉ざされたのだった。

 

 

 *

 

 

 

「ふぅむ……。わかっちゃいたが、人間どもは随分賑やかだな」

 

 自らの屋敷にて、独りごちるドグラニオ・ヤーブン。側近から事前に報告を受けていたというのもあるが、屋敷の傍で起こった騒乱に彼が気づかないはずもなかった。

 

「それに……おまえがここに来るのも珍しいじゃあないか」

 

「──ザミーゴ、」

「………」

 

 「Hola」と、気取った挨拶を返す氷の魔人──ザミーゴ・デルマ。自身の制御下にない男の来訪だが、そのことについてドグラニオが気をやる様子はなかった。

 

「せっかくの祭りだろ?水臭いじゃないか、声をかけてもくれないなんて、さ」

「俺に言われてもな。デストラやゴーシュが進めていることだ」

「へぇ……その様子だと、もう後継者は決めたのかい?」

「フッ……未練か?」

「まさか、俺は自由にやるだけさ。これまでも、これからもね」

 

 勧められた椅子に座ることもなく、ザミーゴは踵を返した。

 

「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら……ハハハハッ」

 

 紡がれる謠に、果たしてどのような意味があるのか。少なくともドグラニオにとっては取るに足らないことであり、せいぜい微かな愉しみであった。

 

 

 *

 

 

 

 朝は抜けるような紺碧が広がっていた空が、鈍色に染まりつつある。

 彼方に雷鳴の音を聴きながら、切島鋭児郎は深々とため息をついた。外の様子を窺いつつ──踵を返して、臨時の潜伏場所とした工場内に戻る。

 

「とりあえずは、撒いたみたいだぜ」

「………」

「……大丈夫か、死柄木?」

 

 廃材にぐったりと身を預けた弔。そんな状態で返答がないものだから、心配になって鋭児郎は訊いた。尤も、肉体の面ではもとより故障などないのだが。

 

「そりゃ、こっちの台詞だよ」

「え?」

「容疑者と一緒に逃げたりなんかして……きみ、これからどうするつもりだよ。国際警察にいられないどころか、ヒーローだって──」

「……そうだよなぁ、困ったな」

 

 困ったと言いつつ、苦笑を浮かべる鋭児郎。自身の人生にかかわることだというのに、真剣に憂えているようには微塵も見えない姿。

 

「でも……おめェが無実の罪で捕まるの、指くわえて見てるなんてできなかったんだ」

「無実って……ははっ、なんの根拠があるんだよ」

「この何ヶ月、ずっと一緒にやってきたんだ。それで十分だろ?」

「………」

「おめェはギャングラーに通じるようなヤツじゃないよ、絶対に」

 

 断言する鋭児郎。その瞳は曇天とは裏腹に深く澄んでいる。そうだ、彼はこういう青年だ。一度信じると決めた相手は、とことん信じ抜く。──自分とは、違う人間だ。

 

「……確かに、ギャングラーに装備を横流ししたのは俺じゃない」

「だよな!」

「でも──人を殺したのは、事実だって言ったら?」

「えっ……?」

 

 言葉を失う鋭児郎に皮肉めいた笑みを投げかけると、弔は端末を取り出した。──いずれにせよ、いつまでも隠れているわけにはいかない。救け出さねばならない仲間が、いるのだから。

 

 

 *

 

 

 

 同じ頃、爆豪勝己と麗日お茶子は焦燥感に苛まれながらジュレにこもっていた。仲間が異世界に囚われた──しかし快盗として轟炎司の救出に動くわけにはいかないし、民間人としてなら当然何もできない。せいぜい、警察に届出を出すくらいか。

 

「ああぁ、どうしようどうしよう……!」

「……せーな、丸顔。気が散る」

「だって!死柄木さんからも連絡ないし、こういうときに限って黒霧さんは来ないし……!」

「………」

「ってか爆豪くん、さっきからなに調べて──」

 

 そのときだった。勝己の手の中にあったスマートフォンが、激しく震え出したのは。

 

「!」

 

 表示された名を見て、即座に受話する。果たして聞こえてきたのは、かすれた青年の声で。

 

『……やァ』

「チッ……遅ぇわ。進展は?」

『悪いけど……それどころじゃなくなった』

「あ?」

 

 どういうことだ──訝しんで訊く勝己に対し弔が語った顛末は、彼らを驚愕させるに十二分のものだった。

 

「……わァった、すぐ行く」

 

 通話を切り、スマートフォンを内懐に仕舞い込む。その動作が妙に緩慢なものに、お茶子には見えた。

 

「……ねえ、どしたん?死柄木さん、なんか変──」

 

 彼女の問いかけは、半ばで途切れた。──そこでようやく気づいたのだ。勝己の手は震えていて……それゆえ、彼らしからず動きが鈍いのだと。

 

「ば、爆豪くん……?」

「……死柄木が、警察を追われた」

「えっ……?」

「クソ髪も一緒らしい。俺らも合流すんぞ」

 

 平坦に聞こえる声は、動揺を押し殺しているからか。いずれにせよお茶子に、これ以上この場で説明を求める権利は与えられなかった。

 

 

 ぽつりと、雨粒が滴り落ちた。

 

 

 

 

 

 

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