果てなき沈黙の森は、銃声と鬨の声響く戦場へと様変わりしていた。
「ッ、うぉおおおおおおっ!!」
全身を硬化させ、正面突破を図るパトレン1号。実際、彼の個性と警察スーツの前にはポーダマンの攻撃など通用しない。彼らは一様に蹴散らされ、道が開かれる。
しかしようやく作った隙間を、またしても湧いて出るポーダマンが埋めた。
「コイツら、無限湧きかよ……!?」
「この森は、ポーダマンの生息地ということか……!」
それにしたって、数が多すぎる。こちらだって頭数はいるから苦戦はしないが、彼らは確実に体力を消耗していた。
「チッ、いつまでもてめェらと遊んでられるかよ──イエロー!」
「よし来たっ!」
イエローにサイクロンダイヤルファイターを投げ渡すと同時に、ルパンレッドはマジックダイヤルファイターをVSチェンジャーに装填した。
それを見ていたパトレンジャーも、
「その手があったか……!耳郎くん、俺たちも!」
「ああ!」
『サイクロン!』『マジック!』──『快盗ブースト!』
『バイカー!』『クレーン!』──『パトライズ!警察ブースト!』
旋風に車輪、魔法の弓矢、そして伸びるクレーンに発射されるドリル。あらゆるモノを打ち砕く超パワーに晒され、ポーダマンの群れは断末魔の絶叫とともに消滅していく。
そしてその残滓までもが消えたところで、ようやく森に静寂が戻った。
「ふー……か、片付いたぁ……」
「ひとまず、敵影は消えたか……──切島くん、大丈夫か?」
「痛てて……ま、これくらいは慣れてら」
肩のあたりを擦りながら、答える1号。そんな彼に気を遣るようなそぶりも見せつつ、エックスが声をあげた。
「今のうち、進もう」
再び歩き出す六人。日本ではおよそ見かけない奇妙な形をした木々が、四方を覆い尽くしている。精神にも悪影響を与えかねないそのような光景が永遠に続くかと思われた矢先、風景が徐々に変わりはじめた。
(……拓けてきた?)
そう、ここまでは鬱蒼と茂っていた木々がその本数を減らしはじめたのだ。霧が立ち込めているので、それでも視界が悪いことに変わりはないが。
不安半分、期待ともいえない名状しがたい感情が半分という状態の中、六人は慎重に歩を進めていく。
そして、たどり着いたのは。
「──これは……!?」
驚愕の声があがるのも、無理からぬ光景だった。
家、家、家。──森を切り拓いた中に、石造りの邸宅らしき建造物がいくつも立ち並んでいる。
「なんなんだ、ここは……?家が並んでいるが……」
「!、まさか、ギャングラーの……!?」
一行の緊張感が、にわかに高まる。しかしその中で唯一、その可能性をまったく気にとめることなく深入りしていく者がいた。
「ちょっ……おい、死柄木!?」
「尻込みしててもしょうがないだろ」
それはそうだが……それにしたって警戒を窺わせない態度に胡乱なものを感じながらも、一行はそれに続いた。
果たして弔は、手近な建造物のひとつの前で立ち止まると、躊躇う様子もなくその中に入っていく。やむをえず皆もそちらへ歩を進めて、それでようやく建造物のディテールが判別できた。
「……クソボロいな」
相変わらず端的にも程があるが、勝己の言葉は的を射たものだった。石造りのために原形こそとどめているが、塗装はその痕跡を残すばかりとなり、ところどころ風に晒され形がゆがんでしまっている。数十年……いや数百年は使用されていないのではないかというありさまだ。
「入ってみようぜ。死柄木、何か知ってるみたいだし」
鋭児郎の言葉に、再び動き出す一行。建物の中は暗く、スーツの視界補正機能に頼らなければ何も見えないだろうという状況で。
そんな中で、弔──ルパンエックスは立ち尽くしていた。こちらに背を向ける形で。
「し、死柄木?」
「──見ろよ、これ」
「!」
彼が指差した先には、やはり石でできたテーブルや椅子が並んでいて。そのうえには、くすんだ銀色の食器が置かれている。このような状態でなければ、人間界の一般家庭でもよく見る極めてありふれた光景だ。
「これ……ギャングラーの食卓なん……?」
「違ぇだろ」
「なあ死柄木、これって──」
「ご想像の通りさ」と、弔は口の中でつぶやいた。
「ここは、この世界の人間の集落だよ」
「え……!?」
「この世界に、人間がいただと……!?」
「ああ。尤もとっくの昔に、
そういうことになっている……聞かされた話では。
「……なんであんた、そんなことまで知ってんの?」
潜入捜査官に対するものとしては、耳郎響香の問いは自然なものだった。ギャングラーの情報に通じているのはわかるにしても、通常の方法では行き来できないこの異世界のことまで。まさか彼がギャングラーのスパイだとは思わないが、だからこそ浮かんだ疑念はその場ではっきりさせておきたかった。
ややあって、弔は重い口を開いた。
「……"先生"が、教えてくれたから」
「先生……?」
「身寄りをなくした俺を引き取ってくれた人。あの人がいるから、今の俺がいる。……さ、次行こう」
それ以上の具体的な聴取は望めなかった。炎司の救出という一義的な目的がある以上、今は彼の思う通りにするしかない。
ただ鋭児郎だけは、"先生"という単語に聞き覚えがあった。あれは確か、弔が初めて庁舎の共同浴場に現れたときのことだったか。
「男は、ダチと裸の付き合いをするものだ」──何者かはわからないが、そのようなことを幼い弔に教えたのだとすれば、きっと悪い人間ではない。今はまだ、そう信じるよりほかになかった。
廃屋を出た弔は、そのまま集落の奥へ奥へと進みはじめた。皆、周囲を警戒しつつ、そのあとについていくほかないのだが。
「他の家、見なくていいのか?」
鋭児郎の問いに、彼は歩を止めぬまま答える。
「エンデヴァーを拐ったのが
「なるほど……」
「……死柄木くん。きみは、彼とは親しい仲だったのか?」
「いや。でもなんとなくわかるんだよ、俺とあいつは同じような人間だから」
確かに、人を喰ったような言動に近似性は感じるが。
皆が一応納得する中、弔は荼毘と出会ったときのことを回想する。ルパン家にある日突然現れた継ぎ接ぎの青年。彼は"先生"のボディガードのような役割を与えられて禄を食んでいたが、その感情をなくしたような碧眼は少年だった弔にこのうえない不快感を味わわせた。それが同族嫌悪と呼称される感情であると知ったのは、彼がルパン家を去ってからのことだったが。
ただ自分と荼毘が決定的に異なるのは、"先生"に対する親愛の情の有無だろうと弔は思う。彼はメシの種程度にしか認識していなかったけれど、自分にとっては育ての親だった。"死柄木弔"を形作ったのは、"先生"だ。それは永遠に変わることのない事実で。
(だから俺は、"先生"の意志を全うする)
そのために今、轟炎司を取り戻す。
「あらあら、皆お揃いで。いえ、ひとり足りないかしら?」
「!」
──にわかに現れた"悪魔"は、それぞれの思考を現実に引き戻した。
「ゴーシュ……!」
「一応、あの子とは縁があるの。邪魔しないでちょうだい」
「チッ……邪魔はてめェだっつの」
当然、彼女とは交渉の余地などない。皆、先ほどポーダマンを相手にしていたときとは比較にならない緊張とともに戦闘態勢をとる。
一方のゴーシュは、数の優劣など気にもとめていないような余裕ぶった態度で。
「フフ……そう来ると思ってたわ。それなら皆まとめて──切り刻んであげるッ!!」
声を張り上げると同時に、ゴーシュは仕掛けた。ひとりに対して一本──つまり六本ものメスを同時に投げつけてくる。
「ッ!」
対する人間たちの戦法は……スーツの特長の違いもあり、快盗と警察で分かれた。ルパンレッドとイエローはその場から飛び退いてかわし、パトレンジャーはVSチェンジャーで迎撃する。
ただひとりルパンエックスだけは、アーマーでメスを弾き飛ばして反攻に打って出た。
「ちょぉ……っ、死柄木さん!?」
「行くぞま……イエロー!」
負けてられないとばかり、レッドが続く。戦場でも競争心を忘れないのは悪いことではないが、うっかり"丸顔"と呼びそうになっていることは看過できない。
ともあれ快盗たちは、持ち前のスピードでゴーシュに肉薄、至近距離で銃撃を仕掛ける。
「ウフフフフ……、フフフフフっ!」
しかしゴーシュの余裕が崩れることはなかった。あらゆる攻撃を両手でいなし──両腕を"サブマシン腕"に変えて反撃を仕掛ける。
遠近をカバーした攻撃は、快盗と警察双方に届く。六人がかりでありながら、誰もが被弾を覚悟せねばならなかった。
「ッ、こいつ、これだけ大人数に攻撃されてるってのに……!」
「──こいつは、ステイタス・ゴールドだ!油断するな!」
エックスから檄が飛ぶ。確かに、背中にあるのは黄金の金庫。この異形の女は、かつて快盗と警察の総力をかけてようやく倒したライモン・ガオルファングと同等の力をもっている──
「フフフ……まあ、あんなヤツと一緒にしないでほしいのだけど」嗤いつつ、「そろそろ本気、出させてもらいましょうか」
言うが早いか、ゴーシュは"サブマシン腕"で弾丸を一斉乱射する。降り注ぐ鋼鉄の雨あられに、快盗たちもいったん後退せざるをえない。
その隙に、ゴーシュは背中の金庫を開いた。元々入っていた注射器型のルパンコレクションを取り出すと、今度は桃色の双眼鏡を仕舞い込む。
「あれは、"Guéris le monde"……!」
「どんなコレクションなんだ、死柄木?」
「……対象のすべて、それこそ細胞ひとかけらまで詳細に観察できるコレクションだ。使い手によっちゃ、ビクトリーストライカーと同等の力を発揮する」
つまり、こちらの動作や癖、何もかも見抜かれてしまうということ。
「チッ……だったら使われる前に倒しゃあいいだろうが!!」
言い切らぬうちに、レッドはシザー&ブレードダイヤルファイターをVSチェンジャーに装填していた。電子音声とともに、巨大化した武器が装着される。
「死ィねぇぇぇ──ッ!!」
いつもながらの烈しい罵声とともに、ブレードの変形したブーメランを勢いよく投げつける。光を纏ったそれは、ゴーシュめがけて喰らいつき──
「無駄よ」
「!」
──弾かれた。
「もうあなたの動きは見切ってるのよ、前に戦ったときにね」
「ッ、」
歯噛みするほかなかった。以前相まみえていることが、こんな形で災いするとは。
「フフフ、見えるわよ……あなたたちの何もかも──ん?」
皆をヘビのように見回していたゴーシュは、不意にルパンエックスに視線を定めた。
「あなた……そう、そうだったの。フフフフ……!」
「……なんだよ、キモいな」
どういうつもりか知らないが、じろじろ見られていい気はしない。身構えるエックスに、ゴーシュはますます笑みを深めた。
「これは遊んでる場合じゃないわね。フフ、フフフフっ!」
唐突にサブマシン腕が発射される。それらは六人の足下に着弾し、大量の火花を散らした。そうして彼らの身動きを封じたところで、ゴーシュは再び金庫のコレクションを入れ替えた。
「私の可愛いお宝さん、"あいつら"を元気にしてあげて」
エネルギー波が、木々の隙間めがけて放射される。
──刹那、森を掻き分けるようにして、巨大なポーダマンの群れが姿を現した。
「!!」
「あとは任せたわ……フフフフフっ」
木々を蹂躪しながら迫るポーダマンの群れに隠れるようにして、後退していくゴーシュ。「待てや!!」と声を張り上げるレッドだが、彼女がそれに従うはずもなく。
「ッ、クソが!!」
「つーかどうすんだよ、巨大化されちまうなんて……!グッドストライカーもいねえのに──」
『オイラならここだぜー!』
「!?」
いつものように文字通り飛んできたグッドストライカーに、皆、驚愕した。
「あんた、どうやってここに……」
『オマエらのあと、尾けてきたんだ。ファインプレーだろ〜?』
「ははっ、さすが俺の親友。──パトレンジャー、きみらにここを任せたいんだけど」
「何っ?」
炎司の救出という最大の任務がある──それゆえに、二つ返事で了承はしがたいパトレンジャーの面々。
しかし、
「大丈夫っ!え、エンデヴァーもちゃんと救けるから!」
「……どっちにしろ荼毘ってヤローは、いっぺんブッ殺す」
快盗たちの言葉に──1号が、頷いた。
「……わかった。俺らに任せとけ!」
グッドストライカーをその手に掴みとり、
『グッドストライカー!位置について……用意!出、動ーン!』
『オマエらの友情、グッと来たぜ〜!警察、ガッターイム!』
──完成、パトカイザー。
「さァ、今のうち」
「……相変わらず小狡いな、てめェは」
「賢いって言えよ。荼毘が黒幕なら、何言われるかわかんないだろ?」
「確かに……。怪我の功名、やね!」
言葉の使い方が正しいか否かはこの際置いておくとして。ブルーを欠いたルパンレンジャーは、巨人たちの足下をくぐり抜けるようにして走り出した。
「──で、てめェはヤツがどこにいると思ってンだ?まさかあてどもなく走ってるとは言わねえだろうな」
「……まァ、一応は」
「一応て……」
それでも、弔の勘を信じて突き進むしかない。──そう、拠るべき勘はあるのだ。
やがて彼らがたどり着いたのは、集落の奥地に立つひときわ大きな屋敷だった。他と違って豪奢な装飾が残されており、高い身分の人間が居住していたことが窺える。
「ここ……?」
「こういうとこなら、潜伏しがいもあるだろ?」
「………」
兎にも角にもと、彼らは屋敷へ歩を進めた。弔の勘が当たっているか否かは、調べてみればわかること。
──そうして彼らが敷地に足を踏み入れた、そのときだった。屋敷の陰から、マントを翻すように人型のシルエットが姿を現したのは。
「……!」
「!、……無事、だったのか?」
彼らの心に宿ったのは敵意ではなく、安堵と不審のない混ぜになった感情。
──彼らの前に現れたのは他でもない、ルパンブルーだったのだ。