【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

128 / 156
荼毘の金庫はエンビィ・チルダのものを想定してたんですが、彼の退行能力をルパンコレクション由来と誤解してしまっていたため急遽オリジナルコレクションを出しました。お恥ずかしい…

ともあれ燈矢編決着です


#42 燈矢 3/3

 ポーダマンに四方を囲まれた状況で、パトカイザーは孤軍奮闘していた。

 

「うおおおおおおッ!!」

 

 パイロットであるパトレン1号──切島鋭児郎の雄叫びとともに、勇躍する鋼鉄の巨人。トリガーキャノンが火を噴き、トリガーロッドが突き立てられる。

 

「一気にいくぜッ、グッドストライカー!」

『Oui!』

 

「「「──パトカイザー、弾丸ストライクっ!!」」」

 

 発射されるエネルギー弾の群れが、その数だけポーダマンを掃討していく。大きな爆発が起きる。

 それでもまだ、すべてを倒しきることができたわけではない。

 

「まだこんなにいるのか……!」

「ゴーシュのヤツ、どんだけ巨大化させてんだ……っ」

「ッ、全部、ブッ飛ばしてやらぁ!!」

 

 ポーダマンの反撃を己の肉体で受け止めつつ、パトカイザーとパトレンジャーは終わりの見えない戦いを続けるのだった。

 

 

──その光景を、彼方より見物している老人がいた。

 

「ほう、あれがルパンコレクションの合身か。生で見るのは初めてだな」

「ドグラニオ様、部屋にお戻りください。流れ弾が飛んでくるかもしれません」

「ハハハ。それで怪我でもするようなら、いよいよ年貢の納め時ってことになっちまうな」

 

 鷹揚に笑うギャングラーの首領──ドグラニオ・ヤーブン。彼は右腕とともにテラスに出て、森の中で行われている戦闘を見物していたのだった。

 

「アレは警察が操っているんだったな。快盗の連中は、ヤツのもとに向かったか」

「と、思われますが」

「フッ……おまえは行かないのか?俺は構わんぞ」

「……あのような男、いつまでもドグラニオ様の近くに置いておくわけにもいきますまい」

 

 ゆえにデストラ・マッジョは、この人間同士の争いを静観するつもりでいた。

 

 

 *

 

 

 

 独りで食事を終えた炎司は、椅子に凭れてぼうっとしていた。自分が何者かもわからない今の彼は、思考さえふわふわと心もとない。満腹ゆえに、眠気が襲ってきているというのもあるが。

 

「………」

 

 うつらうつらしていると、夢とも空想ともつかぬ光景が瞼の裏に浮かんでくる。白髪の少年が自分に縋りつき、何かを必死に訴えかけている。その身のところどころに痛々しい火傷の痕があって、思い返すだけで胸が痛む。──存在しない、はずの記憶。

 

(燈矢……!)

 

 不随意に、瞼が開いた。

 

「……とう、や」

 

 その名をつぶやくように呼びながら、炎司は椅子からするりと降り立った。

 

「燈矢……とうや……」

 

 出て行った彼を探して、炎司は彷徨いはじめた。それは庇護者を探し求める幼子の依頼心からか、それとも父親として我が子を想う気持ちなのか……今の炎司に、わかるはずもなかった。

 

 

 *

 

 

 

 時を同じくして──存在しえないはずのルパンブルーが、快盗たちの面前に姿を現していた。

 

「炎司さん……無事やったん?荼毘は……」

「………」

 

 訊くお茶子に対し、ルパンブルーは答えない。安堵と不審に揺れる天秤、後者が徐々にその比重を増していく──特に、レッドとエックスの間では。

 そして背中に回された彼の右手で何かが光った瞬間、ふたりはイエローを庇うように動いていた。

 

「丸顔下がれ!!」

「え──」

 

 レッドが声を張り上げるのと、ルパンブルーが発砲するのが同時。発射された光弾は──割って入ったエックスが、自らの鎧で受け止めてみせた。

 

「……ッ、」

「しっ、死柄木さん……!大丈夫!?」

「……ああ」

「ッ、てめェ、まさか──」

 

 彼らが思い至った可能性は、ひとつ。

 それを肯定するかのように、ルパンブルーはくつくつと嗤いはじめた。

 

「く、くくくく……っ、はははははっ!!」

「……!」

「流石に騙せねえか、死柄木とその子分くんたちは」

 

 誰が子分だ、と反射的に罵声をあげそうになった勝己だが、かろうじてそれは堪えた。

 

「てめェ、荼毘……!」

「ッ、炎司さんはどうしたん!?」

 

 お茶子の問いに対し、

 

「さァ……どうしたか、なっ!!」

 

 今度は蒼炎を纏い──放つ。離れていても熱を感じるそれを咄嗟にばらけてかわしつつ、三人は突撃した。

 

「継ぎ接ぎ野郎……!ソイツを返せ!!」

「ははっ、ナカマよりお宝か。快盗らしいなァ!」

「黙れ!あんたに何がわかるん!?」

 

 ルパンコレクションも、炎司も取り戻す。こんな男に、どちらも奪われて堪るものか。

 敵の纏う鬼気を身をもって感じながらも、ルパンブルーに変身した荼毘は一歩も引こうとはしなかった。

 

「邪魔するなよ……せっかくの親子水入らずをさァ!!」

「ッ!」

 

 蒼炎が周囲にばら撒かれる。慌てて後退しつつも、快盗たちは荼毘の言葉を洩らさず聞き取っていた。

 

「親子……だと?」

「……はははっ」

 

 唐突に変身を解く荼毘。ブルーダイヤルファイターの装填されたVSチェンジャーをも、彼はその場に投げ捨ててしまった。

 

「──死柄木……いや転弧。おまえ俺と初めて対面したときの会話、覚えてるか?」

「!」

 

 唐突な問いかけに、弔は記憶を手繰った。

 

──あんた、名前は?

 

──今は荼毘で通してる。

 

──通すな、本名だ。

 

──はっ……出すべきときになったら、出すさ。

 

 

「知りたかったんだろ、俺の本名?」

「!、まさか……」

 

 "それ"を悟ったのは、弔ばかりではない。

 

「──轟燈矢……。轟炎司(エンデヴァー)のッ、誉れある長男さァ!!」

「──!」

 

 察してはいても衝撃は免れない名乗りとともに、再び蒼炎が発せられる。生い茂った植物が一瞬にして炭化し、庭園は見るも無残なありさまへと貶められる。

 

「ははははっ、ははははははっ!!」

「!、てめェそれ……」

 

 レッド……否、快盗たちが唖然としたのは──荼毘の身体のあちこちが、白煙を上げはじめたためだった。

 

「……喜べ、俺は長くは戦えねえんだ。自分の炎に、身を灼かれるから」

 

 狂気に染まった碧眼に、わずかな悲哀が過る。

 

──そのとき、彼の背後……屋敷の中から、ちいさな男児が姿を現した。

 

「とうや……とうや……」

「!、この子……」

 

 燃えるような赤髪に、切れ長の碧眼。その姿に、快盗たちの心臓が嫌な音をたてる。

 

「……ハァ、待ってろって言ったのに──おとうさん」

「!、うそ……」

 

 譫言のように「とうや」と繰り返すこの子供が、炎司?──この超常社会において、それがありえない話でないのは言うまでもない。だが、

 

「てめェ……クソオヤジに何しやがった!?」

「さあ……、何か──なっ!?」

 

 荼毘の身体が鈍い緑色の光を放った瞬間、エックスは反射的に動いていた。

 

「避けろ!!」

「!?」

 

 レッドとイエローを突き飛ばした彼は、荼毘から発せられた光を浴びて吹き飛ばされた。そのまま地面に倒れ込むと同時に、変身が解除されてしまう。

 

「しがらっ……」

 

 呼びかけようとする声が途切れたのは……驚愕のためだった。

 

 縮んでいくのだ。四肢が、胴が。──そして髪色までも、白が艶のある漆黒へ染まっていく。

 

「ち、小さくなっちゃった……!?」

「ッ、う、ぐ……っ」

 

 身体が急速に退行していく熱と痛みに顔を歪めながら、弔は敵を睨みつけた。

 

「おまえそれッ、まさか……!」

「"弐番目のタフガキ"だっけか、"これ"の名前」

 

 着込んでいたコートのジッパーを下ろし、胴体に埋め込まれた金庫を見せつける。ぎょっとしつつ、弔は納得させられてしまった。この男は、ルパンコレクションの能力を使っている──!

 

「なんなん……それ……?なんで人間に、金庫が……!?」

「はっ……お前らも知ってんだろ?こういうことができるヤツ」

「……!」

 

──ゴーシュ・ル・メドゥ。つい先ほど激突した異形のマッドサイエンティストの姿が、脳裏を過る。

 

「荼毘……おまえ、そこまで……」

「"ソレ"は俺からのプレゼントだ、転弧」遮るように告げ、「おまえはもうすぐ自分が何者かもわからなくなる。でもそのほうが幸せだろ?」

 

「エンデヴァーだってそうさ。思い通りにならないお人形のことなんざ忘れて、一生俺に守られて生きていけばいいんだ。そうだろ……おとうさん?」

「……とうや……」

 

 立ち尽くす炎司に、手を伸ばそうとする荼毘。──しかしその手が、父に届くことはなかった。

 

「──がっ!?ごはッ、ア……!!」

 

 突然、身体を丸めて痙攣させた荼毘は、皆の見ている前で大量に吐血した。赤黒い血だまりが地面に広がる。

 皆が身じろぎもできない中──今度は炎司に、異変が起きた。

 

「う゛ッ……ああ、ああああ……!!」

 

 頭を抱えて苦しみ出す。──外からはそのようにしか見えていないが、このとき彼の脳内は凄まじい記憶の奔流に呑まれていた。幼少よりヒーローとなるために鍛錬を積んできたこと、長じてトップヒーローになったこと、しかし巨悪蔓延る世界を変えることができず、我が子にその夢を託したこと──

 

──その過程で、長男を()()()しまったこと。

 

(そうだ……、俺は……)

 

 

「……まだ、終われるかよ……!」

 

 吐き出した血を強引に拭いとると、荼毘は漆黒のVSチェンジャーを構えた。手には明らかに力が入っておらず、顔も青ざめている。にもかかわらず、その双眸だけが爛々と輝いていて。

 

「警察ッ、チェンジ……!」

 

 荼毘の身体を漆黒の闇が覆っていく。それが強化服へと姿を変え、隙間なく装着されていく。

 

──パトレン0号。本来存在するはずのない、黒のパトレンジャー。

 

「誰にも、邪魔はさせねえ……!」

 

 蒼炎を纏い、突撃する0号。その殺気は、真正面から受け止めるにはあまりに強大なもので。

 

「はははは……っ、死ね……!お前ら全員まとめて焼け死んじまえ!!」

「ッ、こいつ……!」

 

 最早、まともではない。しかしそれゆえに、この男を止めるものはひとつしかないと思い知らされる。──肉体の、崩壊。つまり、死。

 それは勝己たちが手を下すまでもなく、確実に進んでいることだった。彼が蒼炎を使うたびに人肉の灼ける匂いが広がり、警察スーツの()()()()は絶えず荼毘の肉体に苦痛を与えている。

 

「ははははっ、はは──がッ、あ、アア……!!」

 

 警察スーツの負担に堪えかね、身体が痙攣する。それを強引に抑え込み、敵と見定めた者たちに手向かおうとする荼毘。たまらず発砲しようとした快盗たちだったが……彼の背中にちいさな身体がしがみつくのを目の当たりにして、かろうじて引き金を引くのをこらえた。

 

「やめろッ、……やめてくれ……!燈矢……!」

「……ンだよ、まァた記憶戻っちまったのか……」

 

 幼子の姿で、懸命に自分を止めようとする父親。縋りつくようなその瞳を、荼毘は冷たく見下ろす。

 

「もう、いい……もう……っ」

「……もういい?──はっ」

 

 冷たく嘲った彼は次の瞬間、後方に蒼炎を発して炎司を弾き飛ばした。

 

「ぐあ゛ぁっ!?」

「炎司さんっ!!」

 

 イエローが悲鳴のような声をあげる。地面を転がされた炎司は、高温の火炎によって腕に火傷を負っていた。元々耐火性能の高い肉体でなければ、致命傷になりえたかもしれない。

 

「おとうさん……あんたはいつもそうだよなァ。常に自分が支配者でいると思ってる。……もういい加減、俺に主導権よこせよ……」

「……燈矢……」

 

 顔を歪めながらも身を起こした炎司は、

 

「……わかった」

「!」

「……!?」

 

 その応答は誰にも……荼毘当人にでさえ、予測しえないもので。

 

「ヒーローを捨てた俺の人生など、残り滓のようなものだ。そんなもので良いなら……燈矢、おまえに捧げる」

「……は、」声が震える。「焦凍は……あのお人形は、良いのかよ……」

「……焦凍は、人形ではない」

 

 ひとりの、人間だ。──そんな当たり前のことに、失ってからようやく気づいた。

 燈矢のことだって、そうだ。彼を慮っているつもりでいながら、その心を尊重していなかった。その果てが今この瞬間ならば、これより先の未来は贖罪のためにしか存在しえない。

 

「勝己、お茶子……死柄木。焦凍のことを……頼む」

「……クソオヤジ、あんたは……」

 

 あまりにも悲愴な……すべてをあきらめてしまった者の笑みに、勝己は得意の瞬間的な反駁すら形にすることができなかった。だって彼は……彼らには、懺悔する父親の気持ちなどわかるはずもないのだから。

 

「──いこう、燈矢。おまえの行きたいところへ。俺はもう、おまえの手を放したりは……しないから」

「………」

 

 沈黙する荼毘……燈矢は、ややあってパトレン0号への変身を解いた。晒されたその表情からは、揶揄めいたいろが消え失せていて。

 

「……燈矢、」

 

 慈しむような笑みを浮かべて、手を差し出す炎司。父の面影などない、まるくちいさな掌。燈矢はおずおずと、それに手を伸ばし──

 

 

──刹那、何かが弾ける音が響いた。

 

「え……?」

「!?」

「……!」

 

 その光景に、皆、声も出ない。

 

 

 燈矢に埋め込まれた金庫が──破裂した。浜に打ち上げられた鯨の腐乱死体が、そうなるように。

 

「────、」

 

 そして散らばる金庫の残骸とともに、燈矢もまた糸の切れた人形のように倒れ伏す。──炎司の頬から、血の気が引いた。

 

「燈矢……!!」

 

 駆け寄る炎司。自身が幼児の身体であることも忘れて、その身を抱き上げようとする。ただ……それを差し引いてもなお、燈矢の身体は軽かった。

 

「燈矢……なぜこんな!──死柄木っ、どうなっている!?どうすればいいっ、どうすれば……!」

「……ッ、」

 

 そんなこと、弔にだってわかるわけがなかった。人体とギャングラーの金庫が拒否反応を起こしたという推測は立つが、それと燈矢の命を繋ぎとめる方策はまったく結びつかない。

 

「……お、とう、さん……」

 

 傍らにしゃがみこんだ炎司の腕に、そっと触れる燈矢。碧眼から光が失われていく中で、彼は力なくつぶやいた。

 

「いっしょ、に……」

「……!」

 

 一緒に、いこう──その言葉を、炎司は拒絶できなかった。触れた掌が徐に熱をもっていくのを、彼は瞼を閉じて受け入れようとする。

 しかし次の瞬間、彼らの数センチすれすれの地面を、光弾が灼いた。

 

「!」

「……いい加減にしろや……!」

 

「生きんだよ、てめェらふたりとも!!」

「……勝己……、」

 

 炎司の心に、迷いが生じる。──死の先には、何もない。ここで燈矢とともに炎に灼かれたところで、彼の孤独が永遠のものとなるだけだ。

 

「……燈矢……、」自分より大きな手を握りしめ、「死ぬな……っ。死なないでくれ……!」

「────、」

 

 そのとき、だった。──金庫の残骸に埋もれたルパンコレクションが、輝きはじめたのは。

 

「……!」

 

 いったい、何が起きている?

 困惑する一同の前で、コレクションはひときわ眩い光を放ち──

 

 

 *

 

 

 

「「「──パトカイザー、ロックアップストライクっ!!」」」

 

 パトカイザー"ストロングバイカー"の放った必殺の一撃が、いよいよ最後のポーダマンに命中をとった。

 

「!!!!!」

 

 声にならない断末魔とともに、爆炎に消えるポーダマン。戦場に静寂が戻り、パトレンジャーの面々はようやく息をついた。

 

「ふー、やっと片付いたぜ……」

『気分はサイコー!』

「最高ではないぞ!急いで死柄木くんたちのあとを追わねば!!」

 

 合体を解除して地上に降りた三人は、快盗たちの進んだ方向へ走り出した。同じ形をした石造りの群れを駆け抜け──そして、

 

「!」

 

 立ち止まる。──向かいから、複数の人影がこちらに向かってくる。

 

「快盗……!」

「轟さんも──」

 

 素肌の上に、黒のコートを羽織った轟炎司の姿。そこで鋭児郎たちは、奇妙なものを見た。──コートの裾に包まれるようにして、四、五歳ほどの幼い少年が抱かれている。

 

「……ご心配をおかけしました。この通り、無事です……私は」

「あ、ああ……」

 

 それは喜ばしいが、その子供は──問いかけようとするより先んじて、炎司が告げた。

 

「……荼毘、です」

「!」

「え!?」

「なんだって!?」

 

 この幼子が、荼毘?しかしなぜ幼児の姿になってしまったのか。──そしてなぜ、その瞳はガラス玉のように何も映し出してはいないのか。

 

 

──人間だてらにルパンコレクションの力を行使した。その代償として彼は、これまでの人生すべてを失ってしまったのだ。

 

 

 *

 

 

 

「実験は失敗だったか、ゴーシュ」

 

 屋敷に戻ったゴーシュ・ル・メドゥを迎え入れたのは、そのような主の言葉だった。

 尤もそれは叱責ではなく、ただの確認でしかない。対するゴーシュは、むしろ愉しげに頷いてみせる。

 

「残念ながら。人間に金庫を埋め込むには、もっと徹底的な改造を施す必要がありそうですわ」

 

 それこそ、ヒトの原形をとどめなくなるほどに。

 

「ふぅむ。そこまでやって、生きていられる人間がいるとも思えんがな」

「フフ……それが、そうでもありませんのよ」

「ん?」

 

 不気味に嗤うゴーシュの──常人には視認しがたい──瞳は、既に新たな獲物を見定めていた。

 

 

 *

 

 

 

 ようやく在るべき世界へ帰還した者たちを待ち受けていたのは、宵闇を白に染める大粒の雪だった。

 

 そして──住人の戻った喫茶ジュレは。

 

 

「弐番目のなんとかに……ジャックポットストライカー。グッディの兄弟かぁ……心強い味方になりそうやね!」

「………」

「それにしても黒霧さん、きょうは何しとんのやろ……引き取りにも来ないし」

 

 返答がないことは、もとよりお茶子にもわかっていた。……とりわけ炎司の心の在り処が、ここにはないことも。

 

「……炎司さん。燈矢さんのこと、あれでほんとうに良かったん?」

 

──燈矢のことを、炎司は最後まで警察に明かさなかった。口もきけない幼児になってしまった彼はそれを良いことに、身元不明の子供として日本警察を経由し病院に収容されることになる。迎えに来る者も、いないままで。

 

「……家族に、あいつを押しつけるわけにはいかない。万が一あいつが元の自分を取り戻すことがあれば、危害を加えないとも限らない」

「それは……そうかも、しれないけど……」

 

 お茶子とて、その判断を完全否定することなどできない。だが理屈はともかく、感情の面では納得できない自分もいて。

 重苦しい沈黙が降りる中、勝己がつかつかと炎司に歩み寄った。

 

「──クソオヤジ、」

「……?」

 

 振り向いた炎司の頬を──握拳が、捉えた。

 

「ッ、」

「え、ちょっ……!?」

 

 驚愕のあまり口を無意味に開閉しているお茶子。それに対し、殴られた張本人である炎司はその勢いのままに顔を背けただけだった。

 

「ッ、吹っ飛ぶくらいしろや、クソが……!」

「……貴様の体格では無理だ」

 

 無感情に告げつつ、こちらを睨む少年を見下ろす。──このようにされる謂れはあると、炎司は自覚していた。

 

「"誰かが倒れたとしても、残ったヤツが願いをかなえる"……それを、履き違えるんじゃねえよ」

「………」

 

 燈矢とともに在ると決心したあのとき、ふたりに焦凍のことを託した。託したからと──彼と心中することをも、自分は受け入れた。

 それがこの若き同志たちにとって到底許しがたい逃避であることは、今となっては承知している。

 

「……うむ。すまなかった……勝己、お茶子」

「………」

「……炎司さん」

 

 素直に頭を垂れる炎司をしつこく睨みつつ、勝己は踵を返した。「疲れた。風呂入って寝る」と、誰に聞かれるでもなく言い残して。

 その背中を見送りつつ、炎司は思う。快盗になるためにすべてを捨ててきたはずなのに、気づけば背負うものが随分と増えてしまったと。

 

 焦凍は必ず、自らの手で取り戻す。そのあと……あとになってしまうことにまた憤るかもしれないけれど、必ず燈矢を迎えに行く。

 

 そのために命を繋ぐのだと、ホワイトクリスマスの夜、轟炎司は静かに誓うのだった。

 

 

 à suivre……

 

 





「ーーもう大丈夫。僕がいる」

次回「X」

「"先生"、俺は……」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。