ルパンの方は顔見せ程度ですが。
異世界に聳える自らの屋敷において、ドグラニオ・ヤーブンはギャングラータッグの
「まさかガラットを味方につけて暴れさせるとはな、ナメーロも想像以上に頑張るもんだ。──なぁ、ゴーシュ?」
「はい、ボス」意味深に笑いつつ、「期待以上の多彩なデータが取れそうですわ、ふふ」
ふたりが上機嫌に振る舞う一方で、デストラ・マッジョの目はやはり厳しい。各々のギャングラーがどのように暴れようと自由だが、ドグラニオの後継者をめざすとなれば話は別だ。
しかし、
(まあ、ボスがお楽しみならやむを得まいが……)
いずれにせよ、そろそろ状況が動く頃だ。そんな彼の推測は見事に的中し、
街をかき分け、トリガーマシン三機が姿を現した。
「ギャングラー!!これ以上の暴挙は我々が許さんッ!!」
エメラルドグリーンに輝くトリガーマシン2号のコックピットで、パトレン2号──飯田天哉が勇ましく咆哮する。昨日の戦いでは怪我のために足を引っ張ってしまった。その雪辱、果たしてみせる──
一方で、ガラットもまた復讐の炎を燃やしていた。
「性懲りもなく出てきやがったなァ、サツども!今度こそブッ殺してやるッ、オラァ!!」
ガラットの四本の腕が展開し──そのすべてが、2号へと差し向けられる。昨日の成功体験が、ガラットの脳内には鮮烈に残っていた。
だが現実には、天哉の怪我は既に治療済みだ。
「そう来ると思っていた!──ふっ!」
操縦桿を滑らかに操作し、すべての拳をかわしきる。予想しえた攻撃を避けるなど、天哉とトリガーマシンの性能をもってすれば造作もないことだ。
「耳郎くん、烈怒頼雄斗!今だ!!」
『よっしゃあ!!』
響香の応答をかき消すほどの歓喜の声が響いた。同時に、真っ赤なボディのトリガーマシン1号が勢いよく飛び出していく。
『おらぁッ!!』
「グワッ!?」
体当たりによりよろけるガラット。そこにマゼンタカラーのトリガーマシン3号がすかさず接近し、警棒によるピストン攻撃を仕掛ける。
しかしガラットも、昨日と同じ轍は踏まなかった。四本腕で身体を覆い、その場に踏ん張ってみせた。
「その程度の攻撃でぇ……このオレを殺せると思ってんじゃねぇぇッ!!」
一方、地上にて。逃げ惑う人々も既に失せた中で、パトレンジャーとガラットの死闘を"低みの見物"と洒落込んでいる者がいた。
──勿体ぶるまでもあるまい。ナメーロ・バッチョである。
「う~ん……いいねいいねぇ、さっすがガラットぉ!」
手を叩くナメーロ。彼の周囲にあるビルは皆、既にドグラニオの彫像へと変えられている。
「さぁてと、あといくつ創れるかなぁ♪」
「──残念だが、もうゼロだ」
「!?」
にわかに響く声は、既にナメーロの耳にこびりついていた。
「で……出やがったなぁ、快盗!!」
赤と青、黄──ただの盗人でないことを示すがごとき鮮やかな衣装を身に纏った三人が、再び姿を現した。
「テメェのコレクション……今度こそいただき殺す」
「だって!殺される前におとなしく渡してくれへん?」
「~~ッ、な、舐め腐ってるねェ……!いいか、昨日は遅れをとったけどなァ、二度もしてやられるナメーロ・バッチョじゃねえぞぉ!!」
「そうか。ならば、小僧の言うとおりにするしかないな」
標的はナメーロのルパンコレクション。その奪取を目的としているうえは、彼らの意志は完全に一致している。それが彼ら三人の絆だ。──それ以外、何もいらない。
「「「──快盗チェンジ!!」」」
『0・1・0、マスカレイズ!──快盗チェンジ!』
VSチェンジャーにダイヤルファイターを装填し──撃ち出す!
銃口から放たれた仮面の意匠が全身を包み込み……快盗スーツへと、その形を変える。
変化が収まりきらないうちに、三人は高台から飛び降りていた。「名乗りはナシかよ!?」と慌てるナメーロ。
「ま、まあいいねぇ……──ボーダマンっ、今度こそ叩きのめせェ!!」
彼の号令により、どこからともなく集結するボーダマン。昨日かなりの数を掃討したはずだが、まだこれだけの数を従えていたのか。
「ンなモン関係ねえっ、まとめてぶっ殺ォす!!」
某世紀末漫画であれば、「ヒャッハー」とでも続けていそうなルパンレッドの咆哮。戦っているときのこの少年は、普段とは打って変わって楽しそうだ。野蛮さは不変だが。
「……ふ、」
切り込み隊長たる彼に続きつつ、ルパンブルーは密かに笑った。無論、気取られぬように。
一方、トリガーマシンとガラット・ナーゴの戦いは熾烈を極めながら、互いに平行線を辿っていた。
「ハァ、ハァ……チョロチョロ動き回りやがってェ……!」
息を切らしながら毒づくガラット。三機の見事な連携に、彼は翻弄されっぱなしだった。
が、トリガーマシンを操るパトレンジャー三人もまた、焦燥に駆られつつあった。
「ッ、やっぱり決め手ナシか……」
ぽつりとこぼす3号。やはりトリガーマシンの攻撃では、巨大ギャングラーに対して決定打にはならない。
「──それでもッ、このギャングラーが斃れるまで喰らいつく!それしかあるまい……!」
『飯田……』
「そうだ、そうだとも……。──僕はもう二度とあきらめない!市民を守るためなら、どんな困難が立ちはだかろうと屈しはしない!!」
『!!』
2号──天哉の叫びは、仲間たちの情熱をも呼び起こし、燃えあがらせた。ヒーローだろうが警察官だろうが関係ない、人々を守る。それが彼ら三人の絆だ。──それ以外、何もいらない。
そして彼らの意志に呼応するようにして、転機が訪れた。
『お前らのパッション、グッと来たぜ!』
「!?」
にわかに響いた甲高い声は、コックピットにまで貫通するようにして届いた。この特徴的な声、聞き覚えがある──
『──オイラだよ、オ・イ・ラ!』
「うおッ!?」
いきなり目の前に車とも戦闘機ともつかぬ小さな飛翔体が現れ、1号は思わず仰け反った。
「オメー確か……グッドストライカー?」
『おうさ!あいつ倒したいんだろ?また手伝ってやるぜ!』
「そ、そりゃ嬉しいけど……どうやって?」
またパトレンU号に"融合"したところで、相手は巨大だ。イチゲキストライクが通用するとは、とても──
『騙されたと思って、またオイラを使ってみな!』
「!、よ~し、そこまで言うなら!」
グッドストライカーに押し切られつつも、決断した1号は一昨日の戦闘よろしく彼をVSチェンジャーに装填した。コックピットのハッチを開き、露になった外部めがけて銃口を構える。
『位置について……用意!──出、
トリガーを引き、撃ち出す──と、驚くべきことが起きた。
トリガーマシン同様に、グッドストライカーもまた巨大化したのだ。
『一・撃・必・勝!』
「うおおッ、オメーも巨大化すんのかよ!?」
『そゆコト!さあお前ら、警察ガッタイムだ!』
「が、ガッタイム?」
様子を伺っていた3号が唯一当惑の声を発したが、1号、そしてグッドストライカーの登場を待つまでもなく燃えていた2号にとっては、些細な造語など埒外のことだった。
『正義を掴みとろうぜぇ~!』
グッドストライカーの号令を合図に、フォーメーションを組んだ四機が変形を開始する。
グッドストライカーが胴体や脚といったメインパートを形成し、そこにトリガーマシンが合体していくことにより明確な人型が形成されていく。
──そう、人型だ。四駆の形をしていたマシンが寄り集まって、人型の有人機動兵器へと姿を変えようとしている。
そしてついに、表れた頭部。エメラルドグリーンのツインアイが、ぎらりと輝きを放つ。
グッドストライカー内の共同コックピットにて、パトレンジャーは叫んだ。
「「「完成──」」」
──"パトカイザー"。誕生を祝福されし、巨大ロボットの名である。
*
ナメーロと戦うルパンレンジャーの面々もまた、パトカイザーの降臨を目撃していた。
「け、警察のマシンがロボットになっちゃった……」
思わず釘付けになるルパンイエロー。確かに驚くべきことだが……いまは戦闘の真っ只中だ。
棒立ちになった隙を見逃さず、ボーダマンが彼女に襲いかかる──が、その攻撃が届くより早く、銃弾がその頭部を吹き飛ばした。
「!、あ……」
我に返ったイエローが見たのは、VSチェンジャーを構えるブルーの姿。
「奴らのことより、自分の戦闘に集中しろ」
「あ、ありがとっ!……救けてくれて」
後半は聞こえないようにつぶやいた。ルパンレンジャーは本来、助け合いを是とはしていない。
──が、それは力を合わせないこととは当然別である。
「一気にボーダマンを片付ける。──レッド、イエロー、来い!」
「おーけー!」
「命令すんなクソオヤジッ!」
反応は対照的だが、伴う行動は寸分違わないものだった。踏ん張るブルーの肩を蹴り、一気呵成に跳躍する。
そして、
「死ねぇッ!!」
「こわっ!?」
やはりアクションは同じだった。高所から地上に銃口を向け……連射する。狙うは当然、ひしめくボーダマンの脳天。
降り注ぐ弾丸の雨によって大勢が斃れ、生き残った少数も恐慌状態に陥る。そこにすかさず、ルパンソードを構えたブルーが迫った。
「ふ──ッ!」
姿勢を低くして地面を滑走し、ボーダマンとボーダマンの間をすり抜けながらひとり残らず切り裂いていく。
快盗スーツ越しにも誇示された筋骨逞しい肉体が、軽やかにマントを翻し──敵を、全滅させた。
「……さあ、あとは本丸だけだ」
*
「死ねぇッ!!」
奇しくもルパンレッドとまったく同じことを叫びながら、ガラット・ナーゴが四本腕を振り下ろす。
が、相手はボーダマンなどではなく、ルパンコレクションが四つも寄り集まって誕生した"警察皇帝"である。
「もうその手は食わん!!」
2号の操縦によって、常人を凌ぐ軽快な跳躍を見せるパトカイザー。巨体をビルとビルの間に滑り込ませ、地面を転がりながら腕の攻撃を避けていく。
そして、そこからが彼の真骨頂だった。転がりながら左腕のトリガーキャノンを連射する。激しく動きながら、その狙いは正確のひと言。一発も外すことなくガラットのボディに命中させる。
「あ痛だだだだッ!?て、テメェェっ!!」
逆上し、さらに乱暴な猛攻を仕掛けるガラット。街への被害など気にかけない──ギャングラーとしては当然と思われるが、彼は忘れていた。
周囲のビル群は、ナメーロがつくり出したドグラニオの彫像……つまり、"守るべきもの"へと変わっているのだということを。
「バカヤロー!!」
「!?」
いきなり足下から罵声が飛んできて、ガラットはぎょっとした。自分と比較して蟻ほどの大きさのナメーロが、頭から湯気をたてている。
「なんてヘタクソな戦い方だッ、周りを見てみやがれェェェ~!!」
「あァ!?なに言ってやが……」
言われたとおりに周囲を見渡したところで、ガラットはようやく己の失態に気がついた。
そこら中に存在したドグラニオの彫像が、ことごとく姿を消している……代わりに残された、瓦礫の山。
「……あ」
「「隙ありィ!」」
二体のギャングラーの意識が戦闘から逸れた瞬間、警察も快盗も動いていた。
「グギャッ!?」
パトカイザーの右腕のロッドがガラットに突き刺さり、
ロープで両腕を縛りあげられたナメーロは、飛びかかってきたレッドにダイヤルファイターを叩きつけられていた。
『6・3・6!』
「あっ、ちょ──」
制止の声も虚しく、あっさりと解錠される。開いた金庫に乱暴に手を突っ込み、ルパンコレクションを取り上げた。
「あぁ……でもちょっとキモチイぐへぁっ!!?」
「キメェんだよ死ね!!」
用済みとばかりに蹴り飛ばされるのだった。
パトカイザーとガラットの戦闘も、いよいよ決着へと向かう。
「さあ、とどめといこう!」
「うっす!!」
「りょーかい!」
コックピット内で立ち上がり、VSチェンジャーを構える三人。その動作に同調するかのように、パトカイザーの肩のサイレンが光を放つ。
「パトカイザー、必殺!」
「「「──弾丸ストライクっ!!」」」
全トリガーマシンのエネルギーが、右腕の警棒に集束していく。──集めたエネルギーを、すべてトリガーキャノンに充填する。
そして──弾丸として放つ!
疾風のごとく奔る光の塊。咄嗟に腕で受け止めようとしたガラットだったが、文字どおりの"必殺技"を前にしてはあまりに脆く。結果として、彼の胴体には風穴が開いていた。
「な……ナメーロ、あとヨロシク──!!」
それが断末魔のことばとなった。倒れ伏したガラットは爆発を起こし、跡形もなく吹き飛んだのだった──
「っし!勝った!」
「ふぅ……あんた、こんなこともできるとはね」
「グッと来たぞ、グッドストライカー!」
コックピットの中心部から飛び出す、ぬいぐるみのような形状になったグッドストライカーのコア。それが小刻みに身体を揺らしている、喜びを表現しているのだろう。
『オイラもお前らのバトル、グッと来たぜ!──でも、』
「?、──うおぉッ!?」
突然、身体が浮くような感覚。
彼らは、空中に投げ出されていた。
「うわあぁぁぁッ!?」
「が、合体を解除したのか!?どういうつもりだッ!?」
『オイラ、快盗にもグッと来ちまったんだ!』
「ハアァ!?」
伸ばした手をすり抜け、飛んでいくグッドストライカー。パトレンジャーはむなしく地上へと墜ちていくのだった。
そしてグッドストライカーは、ルパンレンジャーのもとに姿を現した。
『よう、快盗!』
「!、テメェ警察の……何しに来やがった?」
『オイラは警察じゃない、自由を愛する風来坊さ!気分がいいから、今度はお前らを手伝ってやるよ!』
「……へぇ」
面白そうだ。珍しくそのような思いを抱いたレッドは、躊躇うことなく彼を手に取った。
「えっ、この子使うん?」
「物は試しだ」
文句は受け付けないとばかりに言い切る。それでも普段なら、ブルーから小言が飛ぶのだが。
「ふ……。そうだな、試してみるか」
やはり珍しいことにレッドに賛同するひと言が飛び出し、彼らの行動は決まった。
VSチェンジャーにグッドストライカーを装填し、
『グッドストライカー!3・2・1──』
「行くぜ──!」
『──ACTION!』
刹那、ルパンレッドの身体が光に包まれ──
「え……?」
「なんだと……」
(あ?)
気がつけば、呆気にとられたような仲間たちのリアクション。彼らに目を向けたとき、それぞれの視界の端々に赤い影がよぎった。
もう一度、しっかりと見遣る。──いずれにも、ルパンレッドの姿。ここに鏡はない。つまり。
「爆豪くんが……分裂した……」
「……この場合、分身というほうが適切だな」
三体に増えたルパンレッド。そのいずれもが「キメェ……」とつぶやいている。分身といっても、そのすべてが"本物"としての意識を有しているらしい。
『へ~、快盗の場合は分身するのか!』愉快そうな声をあげるグッドストライカー。
「「「てめっ……知らねえで使わせたんか」」」
「ってか、警察の場合はどうなったん?」
『三人が融合した!』
「ゆ、融合!?」
さらに呆気にとられるイエローを尻目に、勝己は密かにそれよりはマシかと思った。他人と融けあってひとつになるなど、想像しただけで怖気がする。
「「「チッ、とっとと奴ぶっ殺すぞ」」」
ナメーロはもう満身創痍だ。ルパンコレクションも奪った以上、生かしておく理由はない。
ブルー、イエロー、中心のレッドがVSチェンジャーを構える。残る左右のレッドはルパンソードを。"五人"での同時攻撃──それこそが彼らの必殺技だ。
『イタダキ……ストライクッ!!』
VSチェンジャーの電子音声が流れると同時に──その一撃は、放たれた。
光弾と、剣波。それらがひとつのエネルギーの塊となって、ナメーロに襲いかかっていく。
「よ、よよ、ヨロシクされたと言うのにィ──!!」
というか、何をヨロシクされたのかもわからぬまま。ナメーロもまた、爆死を遂げたのだった──
その光景を見届ける羽目になったドグラニオ・ヤーブンとその側近たちは、文字どおりのお通夜状態であった。ただし、ガラットとナメーロの死を悼んでのことでは当然ない。
「……俺の像が」
せっかくの彫像が、ひとつ残らず破壊されてしまった──ドグラニオには、その事実にのみ落胆していたのだった。
彼を気遣いつつ、デストラとゴーシュは密かに顔を見合わせた。
「そこまで楽しみにしていらっしゃったのか、ドグラニオ様……」
「そうみたいね。……ふふ、確かになかなかの出来だったわ」
と、ここで「ゴーシュ」と声がかかった。
「若い野心に、もう一度チャンスを」
「は?しかし……」
「ああ、奴は失敗した。そういう後がない奴がどう足掻くかも、また見物じゃないか」
くつくつと笑うドグラニオ。彼は早くも切り替えているらしかった。
「そういうことでしたら……ふふ、喜んで」
ゴーシュにも、躊躇う理由はなく。
数秒後には、彼女は人間世界に降りたっていた。
「私の可愛いお宝さん、」
「──ナメーロを元気にしてあげて」
ルパンコレクションを発動し……そのエネルギーを、ナメーロの残骸である焦げた金庫へ注ぎ込む。
その金庫を中心として、ナメーロは巨大化復活を遂げた。
「はっ!?す、スミマセンドグラニオ様ぁ!」
「……穴埋めはきっちりすることね」
去っていくゴーシュ。残されたナメーロにはもう、遊んでいる余裕はなかった。
「こうなったら……テメェら快盗の首だけでも手土産にしてやるゥ!!」
声を裏返して叫びながら、ナメーロはルパンレンジャーめがけて足を振り下ろした。
それをひらりとかわしつつ、
「チッ、往生際の悪ィ……。──おいコウモリ野郎!」
『へっ?それ、オイラのことか!?』
「テメェの力がありゃ、俺らにも警察と同じことができんだよなァ?」
「だったら付き合えや。──行くぞ!」
「うむ」
「おーけー!」
いったんグッドストライカーを放してダイヤルファイターを再装填し──即座に、撃ち出す。
たちまち巨大化するダイヤルファイター。ブルー、イエロー、そしてグッドストライカーを掴んだレッドが、そのコックピットに乗り込んでいく。
『強引だなァおまえ……』
「うっせ。それより、どうすりゃいい?」
『さっきみたいにオイラを装填して、撃ち出せ!そしたらあとはオイラがやってやるよ!』
「そーか、よッ!」
巨大ナメーロの粘液が飛んでくる。それをひらりとかわしつつ、レッドはグッドストライカーの指示を容れた。
『グッドストライカー!Get Set……飛べ!Ready……Go!!』
『行くぜ~、快盗ガッタイム!』
合体シークエンスに入るマシン四機。しかし、先ほどのガラットの末路を見ているナメーロが何もしないはずがなかった。
「合体、よくないねぇ!!」
隠しもっていた銃が火を噴いた。
「──!」
マシンは既にグッドストライカーに任せてあった。操縦はきくが、反応が遅れ──
刹那、マシン四機は爆炎に呑み込まれてしまった……。
「や、やった……倒した。快盗を倒したぞグハァッ!?」
小躍りするのもつかの間、いきなり背中に衝撃を受けてつんのめるナメーロ。何事、と慌てて振り向けば──
──そこには、トリコロールに彩られた鋼鉄の巨人の姿があった。パトカイザー?いや、違う。
「"ルパンカイザー"、テメェがこの世で最後に聞く名前だァ!!」
やけに揚々とした声でそう言い放つレッド。戦闘中で興奮しているのはいつものことだろうが、それにしても──
(……テンション高すぎない?)
(ふむ……)
首を傾げるイエローに対し、ブルーは彼の心中を察したようだった。この場では何も言わず、黙って操縦桿を握る。
「ッ、ロボットなんて無骨!芸術性ゼロだァァァッ!!」
やけっぱちの銃撃を繰り出すナメーロ。しかしそんなものがルパンカイザー相手に通用するはずがない。軽やかに跳躍し、お返しとばかりに右腕のガトリングが回転する。
「うぎゃぎゃぎゃぎゃッ、きょ、凶悪ゥ!?」
「快盗舐めんなオラァ!!」
いやいやこの凶悪さは快盗というより強盗ではないか。切実にそう思うもつかの間、早くもルパンレンジャーは動いた。
「テメェに時間はやらねェ、とっとと死にさらせ!!」
もう肝心要の目的は果たしたのだ、これ以上長引かせるつもりはなかった。
一度コックピットに差し込んだVSチェンジャーを引き抜き、構える。
パトカイザー同様、ルパンカイザーもまたパイロットたちの動作に同調する。その手の中に光が寄り集まり、巨大なVSチェンジャーのかたちを創り出す──
「オラァッ!!」
そして引かれるトリガー。放たれる弾丸は……一発二発ではなかった。
『連射連射連射ァ!!』
弾丸がナメーロの身体を食い破っていく中で、シャウトするグッドストライカー。そして、
『グッドストライカー連射!倒れちまえショット~!!』
彼独特のセンスをもとに技が命名されると同時に……ナメーロの身体は、ついに四散していた。「最悪だねぇぇぇ!!?」という、断末魔とともに。
『ヒュ~、気分はサイコー!』
「………」
コックピットの中心でぴょんぴょんと跳ねるグッドストライカー……らしきものに対して罵声を浴びせないあたり、勝己の機嫌は悪くないらしかった。少なくとも、ここ数日においては。
*
日没を目前に迎えた頃になって、黒霧がジュレを訪れた。
「ルパンコレクション回収、お疲れさまでした」
受け取ったコレクションをアルバムの空白ページに触れさせる……と、なんとゆっくりと吸い込まれていくではないか。傍目には驚くべき光景だが、何度も目にしている快盗の面々にさしたる感慨はなかった。
「それより例の……喋るルパンコレクションのことだが」
「グッドストライカーですか、あれは我々の手には負えないコレクションでして。警察にコレクションが渡ったこととも、あるいは関係しているかもしれません」
戦闘ののち、アデューと言い残していずこかへ飛び去ってしまったグッドストライカー。"自由な風来坊"の自称は確からしいと、お茶子が苦笑いを浮かべる。
「は~……まあでも、警察が持ったまんまよりはいいのかなぁ……」
そうこぼしたときだった。噂をすればというべきか、からんころんとドアベルが鳴る。
「いらっしゃいま……あ」
既に腐れ縁のようにさえ感じてしまう、パトレンジャーの面々の姿。当然、彼らのほうは夢にもそんなことは思っていないだろうが。
「一昨日はすいませんでした。三人、大丈夫ですか?」
「……ええ。──勝己、ご案内を」
「!、……チッ」舌打ちしつつも、「コチラニドーゾ」
手近な席を指し示す。棒読みではあるが、少なくとも敵意はうかがわせない。鋭児郎が笑みを浮かべるのを無視してさっさと厨房に引っ込んでいく勝己。代わってお茶子がメニューを持っていく──特に決めたわけでもなく定着している役割分担である。
それを受け取りつつ、天哉が口を開く。
「ようやくきみの歓迎会ができるな。遅くなってしまってすまなかった」
「いやそんな……事件続きだったんですし」謙遜しつつ、「あの……飯田さん、」
「なんだい?」
「耳郎さんから聞きました。飯田さん、元々はヒーロー目指してたって」
「!」
一瞬目を見開いた天哉は、「そうか」とだけ応じた。鋭児郎がどういうつもりでいまその話を持ち出したのかは、聞いてみないとわからない。
「あの、今さらこんなこと言っても、しょうがないかもしれないんスけど……」
「………」
「飯田さんはッ、ニセモノなんかじゃない!……と、思います」
「!」
「……スンマセン、急に。でもそれだけは、どうしても言いたくて」
いまの天哉は警察官だ。けれど市民を守ろうとするその姿勢は、間違いなく本物のヒーローだと思う。兄を汚され、憎悪に駆られた──だからなんだというのか。彼はまだ、たった15歳の子供だったのだ。
鋭児郎の真摯な気持ちを察してか、天哉は笑った。
「ありがとう、烈怒頼雄斗。プロヒーローにはなれなかったが……俺はこれからも、市民を守る警察官であり続けるよ」
「市民を守る……か」
いつの間にか厨房に"侵入"してきた炎司のつぶやきを耳許で聞き、勝己は盛大に顔をしかめた。
「入ってくんなや、聖域だぞ」
「店長の入れない聖域があってたまるか。……それより、黒霧がいない」
「いつものことだろ、神出鬼没」
ああしてルパンコレクションの話をしていても、客が来ると忽然と姿を消してしまうのだ。そういう個性を持っているにせよ、あまりに鮮やかである。
「それにしても立派なものだな、パトレンジャーは。どこぞの小僧とは大違いだ」
「あーいうのがお好みかよ。じゃあ快盗やめて復帰すれば?連中、喜ぶんじゃねーの」
「なんだ、やきもちか?」
「ッ、ざっけんなクソオヤジ!」
噛みついてくる勝己。──正直を言うと、こういう子供を相手にするのは未だ新鮮だった。失った末の息子も反抗的ではあったが、彼は自分を心の底から嫌悪していて、可能な限り視界にも入れたくない様子であったから。
「心配するな。"カイザー"に喜ぶ少年らしいセンスは嫌いじゃない」
「は?……~~ッ!!」
一瞬ぽかんとしたあと、みるみるうちに顔を真っ赤にする勝己。「てんめぇ!!」と殴りかかってくる彼を軽くいなし、炎司は密やかに笑うのだった。
à suivre……
次回
「鳴らない六弦」