意図したわけではないのですが、今作の八木俊典が前に隙間で書いてた『僕らの英雄王』の闇堕ち塚内さんと対になってることに気付きました。どちらも大切な人を喪った結果、ある意味狂ってしまったのでした…
ギャングラーの首魁であるドグラニオ・ヤーブンは、薄暗い私室で独り黙考していた。いつも側近くに控えている部下たちも、それぞれ不在にしている。
ただ今に限っては、それは好都合だった。らしくもなく、過去を思い起こそうというときには。
──約三十年前
当時、未だ自ら率先して破壊と略奪の限りを尽くしていたドグラニオは、不思議な異世界を発見した。
そこではヒトの大部分がヒトの形をとどめていながら、それぞれが異能の力を宿していた。
一方的な虐殺に飽いていたドグラニオは、その世界がひどく魅力的に思えた。ならば尖兵を放つようなまどろっこしい真似はしない。単身乗り込み、侵攻した。
(だが、その多くは見掛け倒しも同然だった)
突如として現れた異形の怪物に、一般市民は怯えて逃げまどうばかり。代わって飛び出してきたこの世界の戦士たちも、ドグラニオの好敵手たりうる実力は備えていなかった。
──ひとりを、除いて。
その女は、他の戦士どもとは比較にならない超パワーでもって挑んできた。ドグラニオは歓喜し、およそ何百年ぶりかもわからない高揚感を味わった。彼女との一騎打ちは、ほんとうに楽しかった。
けれど、
『お師匠!』
彼女の不利を案じてか、飛び出してきたひとりの少年。ドグラニオが彼に矛先を向けたことで、趨勢は決した。
『──人間にしちゃ大したもんだ、久々に楽しめた』
『"コイツ"は、貰っていくぜ』
敗者となった彼女からあるモノを奪い、ドグラニオは去った。これだけ強い戦士がいる世界なら、一挙に侵略するのは惜しい。いずれもっと、愉しいゲームに使うことができるかもしれないと。
実際、ルパンレンジャーやパトレンジャーの手により、ギャングラー構成員はことごとく敗れ去っている。黄金の金庫をもつ実力者たちでさえも。
組織の維持という面では非常に拙い状況だが、そのことに対する憂慮より遥かに高揚のほうが大きい感情となっていることをドグラニオは自覚した。老いた血が、かつてのようにふつふつと煮えてくるような錯覚。
「……そういや、あの小僧はどうしてるかな」
かの女戦士の死を招いた、黄金色の髪の少年。去り際、その碧眼が凄まじい憎悪と殺意を込めて自分を睨みつけていたことが思い起こされる。
もう三十年以上も昔のことだから、少年は老境とは言わないまでもそれなりの年齢に達しているはずだ。彼が戦士として力をつけ、自分と対峙するようなことがあれば面白いのだが。
*
──ドグラニオが昨日のごときこととして思い起こした少年は今、ギャングラーに魂を売り渡した罪人として裁かれようとしていた。
「……そう。確かに私はあの日、ギャングラーによって大切なものを奪われた」
八木俊典が語った、過去。──それは他ならない、ドグラニオ・ヤーブンとの遭遇の記憶だった。
机越しに対峙する彼の旧友・塚内直正は、吐露された壮絶な過去に言葉を失っていた。──彼と自分が知り合ってから、十年も経ってはいない。それより以前の彼を自分は垣間見もしていなかったのだと、今この瞬間、改めて思い知らされたのだ。
しかし、そうだとしても──いや、そうであればこそ。
「それなら……それなら、ギャングラーを憎んだんじゃないのか!?大切なものを奪った相手に、どうして……!」
「………」
「──憎んださ」
その声音はぞっとするほど静かで、感情が乗っていなかった。
「あの黄金のギャングラーを……それ以上に、自分自身の無力さを」
「……!」
「それから私は、必死に復讐の方法を考えたよ。手っ取り早いのは、自分自身がギャングラーに敗けないくらい強くなること……でもきみも知っての通り、私は無個性だ。なんの力もない。……あるいは、そうでなくなる可能性もあったんだがね」
つぶやかれた言葉に旧友は怪訝な表情を浮かべたが……それをかき消すように、八木は矢継ぎ早に言葉を紡いだ。
「私は、無個性だ」強調するように繰り返す。「だから、こと考えるということに関しては、人並み外れてしてきたつもりだ。……その果てに私は、ひとつの結論を見出した」
「……なんだと言うんだ」
「haha、とてもシンプルなことさ」
「人間ひとりの力など、しょせん巨悪には通用しないということだよ」
だから国際警察を創設し、組織的にギャングラーに対抗する体制を整えた。大きな人のかたまりは、たとえ属するひとりひとりが平凡でも大きな力を発揮する。パトレンジャーの結成前から対ギャングラーの主導権を握り続けることができているのは、それが要因だ。
確かに、筋は通る。──しかしその部分だけなら、彼は偉大な長官のままだった。
「……それは国際警察をつくった理由であって、我々を裏切った理由の説明にはなっていない」
「haha……流石塚内くん、誤魔化せないね」
尤も最初から、誤魔化すつもりなどなかったが。
「この世界に個性という異能が出現し、ヒーローとヴィランが生まれた。そしてその最中、今度は異世界からの侵略者が現れた。世界は幾度となく脅威に晒されている。……しかし、そのことで人間の本質は変わったと思うかい?」
「何が……言いたい?」
「少数の守護者たちによって、大勢の人々がかりそめの平和を生きている。そしてそれを、真実だと思い込む。目の前にある危機を他人事だと信じて疑わない……こんな世界、歪んでいるとは思わないかい?」
「もうわかったろう、塚内くん」
「私の目的は、この歪んだ世界を正すこと……秩序という名の、抑圧からの解放だよ。そのためにはまず、異世界の魔具──ルパンコレクションと呼ばれるモノをひとりの人間の手から解き放つ必要があった」
目論みどおりルパンコレクションはギャングラーの手に渡った。世界は今大いなる脅威に晒されている。だが、その結果──
「我々この世界の人間は本来、ルパンコレクションの力を使うことができない。しかし死柄木……志村転弧の手によって、その境界は打ち破られた。パトレンジャー、そしてルパンレンジャー……彼らのように、その力を追い求める者は必ず現れる。理由はどうあれ、ね」
「………」
塚内はもう、呼吸を繰り返すので精一杯だった。この男の言う自由とは、大勢が力を得ることと引き換えに安息の失われた世界を指すというのか。──ならば今まで、自分たちが信じて戦ってきたものはなんだったのか。
「俊典……きみは……」
「きみは……誰なんだ……?」
ようやく搾り出したのは、そんな問いだった。
対する、答は。
「"
*
「──ぎゃわらばぁッ!!?」
怒れるルパンレンジャーの猛攻を前になすすべなく、ペンギンギャングラーは積雪で冷えた地面を転がされた。ただ銃弾による灼熱の痛みは、そのおかげでほんのわずか軽減されているのだが。
それももう、ここまでだ。激動の一日の疲労が溜まっている快盗たちは、一刻も早く決着をつけたがっていて。
「チッ……手間かけさせやがって」
「あ、そうだ。ゲットしたジャック、使ってみぃひん?」
「……もう愛称をつけたのか」
グッドストライカーのときといいやたら手早いと炎司は思ったが、実際正式名称では長くて呼びづらいので文句はない。
そしてイエローの提案を受けたレッドは、
「……チッ、やってみるか」
新たな力。当然、試すのはやぶさかではない。──しかし少しばかり胸騒ぎめいたものを覚えながら、赤き翼をVSチェンジャーに装填する。
『ジャックポットストライカー!7・7──7!快盗ブースト!』
刹那、三人の身体が光に包まれ──
「……ん?」
「あれ……?」
「………」
身体が自分のものでなくなったような、違和感。指先一本に至るまで、他人が動かしているような錯覚。
恐る恐る傍らのショーウィンドウを見た彼らは、一瞬、言葉を失った。
赤をベースにしたスーツ、しかし左半身は青、右半身は黄色にくっきりと分かたれている。はためくマントもまた、見事にトリコロールが三等分されていて。
そして何より、三人揃ってその鏡像を見ているはずなのに、そこにはひとりの姿しかない。
「……これはもしや、」
「もしかしなくても……」
「「「が、合体した──!!?」」」
──まさしく、恐れていた事態。
「ッ、グッドストライカーと効果が逆転しているわけか……」
「じゃ、じゃあパトレンジャーが使ったら切島さんが分裂するってこと?」
「──ンなこたぁどうでもいいわ、クソがっ!!」
他人と文字通りひとつになるなど、気色悪いことこのうえない。しかし肉体の面では、単なる足し算では片付けられない不思議な力が満ち溢れていて。
「チッ……こうなりゃとっとと片付けんぞ」
ルパンレンジャー融合体──名付けて"ルパントリコロール"は、「ウワァ目に優しくない!」などと喚いているギャングラーに銃口を向けた。装填されたジャックポットストライカーから、銃口にエネルギーが充填されていく。
そして、
「「「──イチゲキ、ストライクっ!!」」」
パトレンU号のそれと同じひときわ巨大な光弾が、発射された。その熱量は降り積もった雪を一瞬にして気化させながら、標的に向かっていく。
「エッエッエッ──ギャアァァァァァッ!!?」
そして……呑み込まれた。
「お……オレの名前は、ナンパリオ・ペンギーノでっす!ナンパァァ──」
己の名を叫びながら、爆散するペンギンギャングラー……もといナンパリオ。その様を見届けつつ、ルパンレンジャーは元に戻ったのだった。
「はっ!?よ、良かった元に戻れた……」
「……早よ風呂入りてえわ」
「………」
とはいえ、戦いは未だ終わっていないわけで。
「──私の可愛いお宝さん、ナンパリオを元気にしてあげて……」
静かに姿を現したゴーシュ・ル・メドゥの力により肉体が再構成され、ナンパリオ・ペンギーノは巨大化復活を遂げた。
「ナンパッパッパ!最高のクリスマスプレゼントだァ──!!」
「……まったく、私もきょうはそれどころじゃないっていうのに」
ドグラニオからも忘れ去られるようなヤツに、本当ならかかずらっていたくはない。ぶつくさ言いつつ、ゴーシュは去っていった。まあ、ナンパリオの知るところではないのが救いか。
一方で、
「いつものパターンか。どうする、レッド?」
「とっとと片付けるに決まってンだろ。──コイツでな」
グッドストライカーと同様、ジャックポットストライカーにも他のVSビークルとの合体能力がある。以前、荼毘──轟燈矢が実践していたように。
『ジャックポットストライカー!Get Set……Ready Go!』
撃ち出されると同時に、巨大化していく赤き翼。その後尾にレッド・ブルー・イエローの各ダイヤルファイターが続く。
「いくぜ……!」
快盗ガッタイム……とは、流石に言わなかった。
グッドストライカーのときと同様ジャックポットストライカーがボディーの大部分をなし、胸から上をレッド、右腕をブルー、左腕をイエローが構成する。頭部は王冠のような装飾で覆われ、背中には翼の意匠。
そうして生まれ出づる、新たな巨人。その名も、
「「「完成、──ルパンレックス!」」」
真っ赤な体躯を聖夜の街に煌めかせながら、戦場に降り立つルパンレックス。対するナンパリオは、
「サンタクロース気取りかァァァーーッ!!」
わけのわからないことをのたまいながら、突撃してくる。両刃剣を手に。
「はっ……」
思考も何も窺えない大味な戦いぶりに、コクピットのルパンレッドは思わず嘲笑をこぼした。正面から相手をしてやっても良いのだが、ここは"
「──おらァッ!!」
威勢の良い掛け声とともに──レックスが、
「!?」
翼を広げた赤き巨人は、重力に逆らいそのまま上昇していく。ナンパリオはといえば、ピョンピョンと飛び跳ねながら口惜しげに手を伸ばすことしかできない。
「ペッ、ペンギンは翔べないんだぞォ〜〜ッ!!?」
「そりゃ、ご愁傷サ……マっ!!」
夜空に消えたかと思えば、一気に急降下してくる。慌てて両刃剣を突き出すナンパリオだが、そんなやけくその攻撃がルパンレックスを捉えられるはずもない。
「ナンッパァァァァ〜〜!!?」
──結果、黄金の剣の一閃によりナンパリオは吹き飛ばされた。
「お〜、すごい!」
「スピードは、カイザーよりこちらが上のようだな」
面白くなってきた。疲れもどこへやらそう考えたレッドは、次なる攻撃手段に打って出た。
「ナンパァァッ、もう空には行かせねぇぇ〜〜!!」
早くも立ち直るナンパリオだが、走り出した彼は思わぬ攻撃に見舞われた。
広げられた翼から、無数の光の羽根が射出されたのだ。
「あ痛ッ!?痛ッ、痛だだだだだァッ!!?」
羽根が全身に突き刺さり、悶える。さらにその一部が足の甲から地面を貫通し、文字通り彼をその場に縫いつけた。
「う、動けなくなってしまったァ……!」
ならばもう、終わりだ。
「ふ──ッ!」
再び飛翔するルパンレックス。揺れるコクピットの中で三人は立ち上がり、VSチェンジャーを構える。その挙動に呼応し、レックスの剣にエネルギーが充填されていく。
「あっ!」
そのとき不意に、イエローが声をあげた。
「どうした、こんなときに」
「
「そんなもの……」
なんでも良いだろうとブルーが言いかけたところで、
「だぁってろ!」
遮るように、レッド。無駄を嫌う彼らしい……と思いきや。
「──レックス、インパクトォッ!!!」
「えっ」
「!?」
揚々とした叫びとともに、振り下ろされる黄金の剣。膨大なエネルギーを纏った一撃は、鎧に覆われたギャングラーの身体を見事に一刀両断してみせた。
「────!!??」
声にならない悲鳴をあげるナンパリオ。音もなく着地するルパンレックス。静寂の中で、勝敗は決した。
「せ、せめて名前はァ……覚えて帰ってェェェ──!!」
「メリークリスマース!」──その言葉を断末魔に、ナンパリオは斃れた。劫火が夜空を、街を赤く照らし出す。
「もう忘れたわ、バァカ」
最後まで容赦のないルパンレッドであった。
一方、遅ればせながらパトレンジャーの面々も戦場へと向かっているところだった。尤もビルの谷間に勇姿を晒すルパンレックスを目撃し、戦闘の終わりを悟ることとなったのだが。
「ッ、もう終わってしまったか……!」
パトカーを飛び出し、飯田天哉は悔しげにその機体を睨みつける。それに対し、
「……今回は出動までに時間がかかったしね。管理官が戻れば、次からは大丈夫だよ」
表向き冷静にフォローしつつ、響香もやりきれない表情をつくる。釈放されたとはいえパトレンジャーの面々には待機命令が下っていたこと、同じく釈放されたはずの塚内管理官が戻らなかったこと──そのふたつが重なり、出動のための手続に時間がかかってしまったのだ。組織である以上、やむをえないことではあるのだが。
「……にしても、あの赤い姿……」
確か、荼毘が使っていた──言いかけたそのとき、傍らに突然漆黒の翼が現れた。
『ジャックポットのヤツだぁ!』
「うおっ、グッドストライカー!?」
『オイラ、アイツに出番取られちまったんだよぉ〜……』
がっかりしているグッドストライカー。ひとまずは彼を慰めるという仕事ができて、鋭児郎たちは力なく笑った。このままパトレンジャーとして年を越せるかどうか……まだわからないけれど、昼間よりよほど希望は生まれているという予感があったのだ。
*
同じ頃、塚内直正は旧友の取調べを終わらせようとしていた。詰まりそうになる息を密かに整えながら、立ち上がる。
「おや、もう終わりかい?」
「……俺の立場で訊くべきことはすべて訊いた。あとは、物間捜査官たちの仕事だ」
その言葉は言外に、ふたりの友情が断たれたことを示してもいて。
一瞬、寂しそうに目を伏せる八木。──ただ彼にはひとつ、どうしても塚内に伝えておきたいことがあった。
「塚内くん。──死柄木弔のことだけど、」
「!」
彼の策略に踊らされた青年のことだ、塚内は当然足を止めた。
「彼が名を偽っていたこと……最初から、私は知っていたんだ」
「……何?」
──彼と出逢った日も、きょうと同じように雪が降っていた。
『あんたが、八木俊典サン?』
白銀の中に立ち尽くす青年の、雪を被ったでもないのに真白い頭髪に目を奪われる。
『……そうだが、きみは?』
『死柄木弔。……でもほんとは、志村転弧だったりして』
『!、何……?』
志村転弧──その名は、知っていた。師匠の忘れ形見であった弧太朗の、子供の片割れ。そして十数年前の惨劇で、唯一遺体のひとかけらも見つかっていなかった子供。
そのとき、八木はすべてを悟った。
『そうか、キミだったんだね』
『………』
『それで、私になんの用かな?お師匠……キミのお祖母さんをみすみす死なせてしまった、この私に』
そのために弧太朗少年の心は深く傷つき、巡り巡って目の前の青年の手を血で汚してしまった。復讐を受ける理由は、ある。
腹を括った八木だったが、志村転弧でありながら死柄木弔を名乗る青年は、思ってもみないことを口にした。
『あんた、国際警察の長官なんだろ?──俺のこと、使ってみないか?』
『……キミを?』
『──役に立つと思うぜ。あんたたちの願い、かなえるために』
──なるほど弔は役に立った。尤も彼の意図と、自分の真なる理想には相当の開きがあったのだけれど。
「ギャングラーとの通謀は濡れ衣。経歴詐称は、潜入捜査のうえで必要な措置として私が認めていた。となれば彼の嫌疑は十五年前の殺人……いや、個性の暴走による死亡事故だけだ」
「それで、彼への罪滅ぼしになるとでも?」
「haha……どうかな」
ただひとつ言えることは、いっそう激しさを増すギャングラーとの戦いにおいて、死柄木弔の協力は間違いなく必要ということ。八木の最後の言葉は、それを後押しするものに他ならなかった。
*
"先生"の死は、志村転弧の心に絶望と孤独とを再燃させていた。家族を殺めたときより余程、深く……昏く。
『……転弧様、』
どこからともなく現れる黒霧。彼の存在にいちいち感情を動かすのも、これが最後だと思った。
『……結局、僕は何もできなかった』
『最後まで"先生"に、認めてもらえなかった。……もうルパン家は終わりだ。おまえも、どこへなりと行けばいい』
『………』
黒霧は何も言わなかった。ただ、その場から去ろうともしない。
代わりに彼は、分厚いアタッシュケースを転弧少年に差し出した。
『……何、これ』
『"先生"からです』
『………』
既に気力をなくしていた転弧だが、"先生"の遺したものを黙殺することは流石にできなかった。おずおずと黒霧から受け取った鍵を差し、解錠する。
──果たしてそこに入っていたのは、黄金と白銀に彩られた銃と……人間の手の形をした複数のオブジェ。そして──隅に折り畳まれた、一枚の便箋。
思わず黒霧を仰ぎ見ると、小さな頷きが返ってきた。"すべては、そこに"──そういうことだろう。
便箋を手にとった転弧。そこにはたしかに、"先生"の直筆が綴られていた。
──親愛なる転弧へ
きみがこの手紙を読んでいるということは、私は既にこの世にいないのだろうね。こんな陳腐な書き出しになってしまうこと、どうか許してほしい。
転弧、亡霊のようだったきみはこの十年で、大きく成長したね。その間きみがどれだけ苦しみ、努力してきたか。傍にいられた時間は決して多くはないけれど、僕はこの目で見てきたつもりだ。
僕が遺したものは、そんなきみの奮励への報いだと思ってほしい。本当は、自分の声、言葉で伝えたかった。そうしてあげられなかったこと、重ね重ねすまないと思っている。
その金銀の銃は、きみが未来を築くための実力。そして手の意匠は、きみが過去を忘れないための心のよすがだ。それは、──
……罪を背負えと、私は言ったね。だがそれは、自分を責め、傷つけ続けることではない。きみが幸福であること、その幸福をほんの少しずつでいい、世界に分け与えること。それが罪を贖う唯一の方法であると、僕は信じる。
だからきみは、生きなさい。僕の、きみが手にかけた家族のぶんまで、精一杯生きなさい。ただひとつ、それだけ約束してくれるなら、きみを僕の後継者と認め、新たな名前を贈ろう。
"死柄木 弔"
"弔"は死を悲しみ、別れを告げること。そして遺された者は、前へ進まねばならない。いずれ自身が、死者の列に加わるその日まで。
そして、"死柄木"だが……これは僕が僕の人生において唯一他人から与えられた名前だ。それをきみに託す意味までは、あえて書かない。とても気恥ずかしいことだからね。
ではまた、いつか。遥か遠い未来に、きみと逢えることを祈っている。
──Arsène Lupin、きみの"先生"より
à suivre……
「これが最後だ……デストラ!」
「ギャングラーのはじまりの日だ……!」
次回「デストラクション」
「「あいつならーー!」」