【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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#44 デストラクション 1/3

 

 この場所に来るのももう何度目かと、デストラ・マッジョは思う。

 薄暗く、時が止まったような酒場。しかもきょうは、バーテンダーも含め誰ひとりの姿もない……()()()()()()

 

「よう。待ってたぜ、デストラさん?」

「……ザミーゴ、」

 

 口笛を吹きながら、冬でも構わず氷を齧る青年。ザミーゴと呼ばれた彼が人間でないことは……言うまでもあるまい。

 

「なんの用だ。私は今忙しい、手短に済ませろ」

「冷たいなァ。せっかく俺もギャングラー次代ボス、デストラ・マッジョ様に貢献しようと思ってるのに」

「……何?」

 

 立ち上がったザミーゴは……刹那、怪人態へと姿を変えた。暗がりでもわかる、寒々しい肌の色。

 その中にあって唯一輝きを放つ黄金の金庫の片割れが、がちゃりと音をたてて開かれた。

 

「!、貴様、それは……」

「快盗から手に入れたんだ。あんた、()()()()()も持ってるんだろ?」

 

「コレがありゃ、あんたに敵うヤツはいなくなる。きっと、ボスもお喜びになると思うぜ?」

 

 その言葉はデストラにとって、何より魔性のものだった。

 

 

 *

 

 

 

──数日後

 

 クリスマスから一週間が経過し、街は一年の最後……大晦日を迎えていた。

 

「♪〜」

 

 喫茶ジュレの店先で、口笛吹きつつ掃き掃除をしている麗日お茶子。クリスマスのあとには晴れの日が続いていて、往来はすっかり元の姿を取り戻しているけれど、常に日陰となっている片隅にはまだ雪が残っている。そんなさまからも季節が感じられて、彼女はなんとなく陽気な気分になっているのだった。

 

「──お茶子、」店から顔を覗かせる轟炎司。「外はもういい。中の用意を頼む」

「ラジャ!」

「……今日はやけに浮かれているな。何か良いことでもあったのか?」

「そういうことやなくて……大晦日からお正月って、なんとなく浮かれちゃわない?テレビも特別編成だしさ!」

「まあ、一般市民はそういうものか」

 

 それが行き過ぎて犯罪に走るはぐれ者も大勢いて、ゆえに年末年始はヒーローにとって繁忙期になってしまうのだ。ヒーローを辞めて二度目の年越し、それまで数十回をヒーローとして過ごしてきた炎司だったが、既にこのゆったりとした雰囲気が肌に馴染みつつあった。

 

「でも誰かさんは……きょうも平常運転なんだよねぇ」

「………」

 

 ため息混じりに、街の方角を見遣るふたり。もうひとりの従業員は、相変わらず買い出しに出たまま帰ってこないのだった。

 

 

 *

 

 

 

 もうひとりの従業員こと爆豪勝己は、欠伸をこぼしつつ往来をぶらついていた。当然、買い出しという目的は果たす。ただその前に、少しばかり意味のない道草というわけである。

 

「はー……寒ィ」

 

 吐く息は白く、着込んでいても寒風は容赦なく身を凍えさせようとしてくる。体質の関係上、勝己はとりわけ寒さが苦手だった。しかしそれと同じくらい人混みも嫌っているので、大晦日のショッピングモールなどに足を踏み入れる気にはならない。だったらおとなしく用だけ済ませて店にいればいいのだが、それはそれで負けたような気分になるのだった。

 面倒な思考に浸っていた勝己少年は──背後から忍び寄る不審な影に、気づくことができなかった。

 

「──ッ!?」

 

 いきなり肩を掴まれ、引き寄せられる。反射的に相手の腹めがけて肘打ちを仕掛けようとした勝己だったが、それはもう一方の手に止められた。

 

「おいおい、ナカマにそれはないんじゃないの。爆豪くん?」

「!」

 

 ナカマ、仲間……一瞬呑み込みがたかったが、やや粘着質だが落ち着いた声は確かに耳馴染んだものだった。振り返ると、自分と同じ緋色の瞳と視線が交錯する。

 

「……てめェか、死柄木」

「よう」

 

 にこりと笑う青年を、勝己はため息混じりに受け入れた。

 

 

 *

 

 

 

 一方、ようやく平常運転に戻りつつあるのが警察戦隊の面々だった。

 

「──我々についてだが、ひとまずはこのまま任務を継続することになった」

 

 管理官・塚内直正からの伝達に、隊員たちはほっと胸を撫でおろす。クリスマス・イブの一件で管理官以下メンバー全員が拘束される事態となり、一時はチームの存続すら危ぶまれたのだ。長官の逮捕と入れ替わりに釈放されはしたが、組織に逆らったことは事実……更迭がないとは限らなかった。

 

「じゃあ俺ら、何も変わりナシっつーことですね!良かった……」

「……いや、よりによってトップがギャングラーと内通してたんだ。市民のウチらを見る目は、ずっと厳しくなるよ」

 

 耳郎響香の言葉に、無邪気に喜んでいた切島鋭児郎は明らかに萎んでしまった。警察戦隊そのものは無事でも、国際警察全体は大きく動揺している。今後どのような事態が起こるか、未だ先は見通せない状況なのだった。

 

「失った信頼は、実績で取り戻すしかない」飯田天哉の言葉。「我々のすべきことは、如何なる状況であろうと変わらないさ。そうだろう?」

「……そう、そうだよな。俺たちの使命はギャングラーを倒して、世界を守ること。そのために、今まで以上に頑張るしかねーよな!」

「ま、確かに。それしかないよね」

 

 顔を見合わせ、頷きあう三人。彼らの盤石なチームワークは、文字通り一朝一夕の時点で形を成していた。今となってはもう、何十年と組んで仕事をしているかのような阿吽の呼吸ぶりだ。

 ただ……ここには付かず離れずながら、間違いなくチームの一翼を担っていた青年の姿がなくて。

 

「それと、死柄木捜査官の処遇についてだが」

「!」

 

 鋭児郎たちの表情に、再び緊張が走る。──国際警察を追われた死柄木弔のことは、三人もずっと気にかけていたことだった。件のクリスマス・イブ、エンデヴァーこと轟炎司救出のために異世界へ突入して以降、彼は一度も姿を見せていない。当然だが。

 

「し、死柄木の疑いはもちろん晴れたんスよね!?それなら──」

「──まあ聞け、切島くん。悪い話じゃない」

 

 逸る鋭児郎を手で制し、塚内は続けた。

 

「彼については引き続き警察戦隊(ウチ)で面倒を見るよう、上層部(ウエ)から指示があった」

「!、本当ですか!?」

「ってことは、死柄木の立場は変わらないと?」

「ああ。十五年前の個性事故の捜査に関して、日本警察と調整中ではあるが」

 

 弔は事故の重要参考人として、事情を聴かれることにはなるだろう。──尤もそれとて、彼が再び国際警察に戻ってくればの話だが。

 

 未だ半信半疑の塚内に対し、三人……とりわけ鋭児郎は、弔の帰還を確信しているようだった。互いに命を預けて戦ってきた彼らの見解なら、青臭くともそれが正しい。離れていた旧友の末路を思い、塚内は若い彼らにより強い期待をかけていたのだった。

 

 

 *

 

 

 

 弔の去就については、警察と対立する立場にある少年も内心気にかけていた。

 

「──どうすんだよ、これから」

「は?」

「ケーサツだよ。てめェがあいつらとつるんでたほうが、俺らも好都合なんだけど」

「……あー、」

 

 天を仰ぐようなそぶりを見せた弔は、そのままむっつりと黙り込んだ。それが必要なことだと、彼も頭ではわかっている。ただ──

 

「……連中と俺とじゃ、住む世界が違う」

「は?」

「なのに、俺なんかに入れ込ませるのは……なんつーか、心が痛い」

 

 勝己は一瞬、言葉に詰まった。それが端的にはなんという単語で表しうるのか、彼にはすぐわかった。そして存外、頭ごなしに否定できない自分がいることも。

 

「……わからんでもねえ」

「お……共感してくれるんだ」

「まァな。でも、逃げ続けンのは無理だろ。ギャングラーと戦ってる限り、どうせ戦場でかち合うんだからよ」

「はは……確かになァ」

 

 そのとき彼らが、逃げている自分に何と言うか。対して自分は、なんと返すか。弔の心は揺れていたが、それは決して不快な感情でもなかった。

 

「ま、きょうは大晦日だし。ゆく年くる年でも見ながらのんびり考えるさ」

「ゆく年くる年って、てめェ……純日本人かよ」

「いや人種的には純日本人だから。フランスかぶれなだけで」

 

 このふたりにしては牧歌的な会話を繰り広げつつ、歩を進めていたときだった。

 

「──見つけたぞ……快盗!」

「!」

 

 鋭い声とともに、一気に空気が張り詰める。

 揃って振り向いた彼らが見たのは、地響きをたてながら迫る一つ目の巨人だった。

 

「デストラ……!」

 

 黄金の金庫をふたつ持つ、ギャングラーのNo.2。その地位に相応しい威容は、周囲の生きとし生けるものすべてに凄まじいプレッシャーを与えていた。

 

「……なんか用?大晦日のこの忙しいときに」

 

 緊張を紛らわすような弔の軽口。それに対し、

 

「安心しろ。貴様らに、年など越させん……!」

 

 わかりきった解答。ふたりだけで敵う相手ではない──しかし、炎司たちに連絡をとっていられる状況ではない。

 ましてや、逃げるなど。

 

「チッ……やるしかねえか」

 

 腹を括ったふたりは、寸分違わぬタイミングでそれぞれの変身銃を構えた。

 

「「──快盗チェンジ!!」」

 

 光に包まれ、それぞれ赤と白銀の快盗に変身を遂げる。

 

「俺が前に出る。きみは、」

「撃って撃って撃ちまくれ、だろ。わーっとるわ!」

 

 言うが早いか、VSチェンジャーとルパンマグナムの二丁を構える勝己──ルパンレッド。意が通じていることにひとまず満足すると、弔の変身したルパンエックスは躊躇なく突撃を敢行した。

 

「貴様らの戦い方など、前の戦いで既に見切っているわ……!」

「だったら黙って手ぇ動かせよ、ステイタス・ダブルゴールド!」

「減らず口を……!」

 

 そう、デストラの言う通り減らず口だった。ルパンエックスの堅牢な鎧も、彼の圧倒的なパワーでもって炸裂するハンマーの直撃に耐えきれるかはわからない。勝機があるとすれば今は、レッドのルパンマグナムしかない。

 

「今日こそ必ず貴様らを討つ……!ドグラニオ様の期待に応えるために!あの方の意志を継ぐために!!」

「ッ!」

 

 声高に叫ぶデストラは、猛烈な勢いでエックスを攻めたてる。その背後から喰らいついてくる弾丸には怯むそぶりも見せない。

 

「ッ、こいつ……!」

 

──今までとは違う。本気でこちらを、殺しにかかってきている。

 悟ったところで、遂にハンマーの一撃がエックスを弾き飛ばした。

 

「ぐああッ!?」

「死柄木!?──クソがっ!!」

 

 前衛がいなくなってしまった以上、出し惜しみしてはいられない。VSチェンジャーを手放し、レッドはルパンマグナムのダイヤルに右手をかける。

 

『ルパンフィーバー!Un, deux, trois……』

「オラァッ!!」

『イタダキ、ド・ド・ド……ストライク!!』

 

 そして放たれる、一撃必殺のエネルギー弾。標的は真正面、直撃コース。これなら──

 

「そんなもの……!」

 

──刹那、デストラの金庫の一方が光った。

 

「フンっ!」

 

 その巨体を躍らせ、弾丸の軌道を外れる。直撃はおろか掠ることもなく、標的を見失った弾丸はあらぬ方角へと消えていった。

 

「な……っ!?」

 

 弾速に秀でたルパンマグナムの一撃を容易くかわされた、レッドの受けた衝撃は大きかった。もとよりスピードに秀でたギャングラーというわけではない、それをまるで、最初から予測していたかのように。

 

──予測?

 

「てめェ、まさか……!」

「………」

 

 言葉の代わりに、デストラは先ほど光った金庫を開いてみせることで応えた。

 果たしてそこに仕舞い込まれていたのは、黒と赤を基調とした戦闘機の模型で。

 

「ビクトリーストライカー……!」

 

 イブの日──異世界に囚われた炎司を救出すべく、ザミーゴに扉を開かせるのと引き換えに渡さざるをえなかった"切り札"。取り戻す算段を躍起になって考えていたところで、よりによってデストラの手に渡ってしまうなんて。

 

「未来予知……くだらん力と思っていたが、使いどころを見極めれば役に立つ」

「ッ、ナマじゃ勝てねえからコレクション頼みってか……!」

 

 その言葉がブーメランとなって返ってくることは重々承知しながら、吐き捨てるレッド。そんな無理矢理な挑発でもして隙を生み出すほかに、今思いつく手だてはなかったのだ。

 無論、デストラ相手にそんな作戦が通用するはずもなく。

 

「もはや手段は選ばん……!──さあ、どこからでもかかってこい!」

「クソが……!──おい、死柄木!」

「……ッ、」苦痛に呻きながらも、「……ハァ。やるしか、ないよな」

 

 ふたり同時に仕掛ければ、ビクトリーストライカーをもってしても動きは読みきれない。ならば弔も、倒れてなどいられなかった。

 

「「──うおおおおおおおッ!!」」

 

 ともに雄叫びをあげ、走り出す。そのまま正面から突撃するルパンエックスに対し、レッドは途上でスライディングに移り、足下から金庫に迫らんと試みる。

 しかしそうした涙ぐましい努力も、デストラの得た力の前には無に帰す運命にあって。

 

「フン……──ならば、これだ!」

 

 ふたりがいよいよ接敵しようとした瞬間、デストラの()()()()()金庫が光った。

 

「──!?」

 

 刹那、ふたりはまるで巌にのしかかられたかのごとく地面に押し潰される。コンクリートに亀裂が走る。指一本たりとも、動かせない──

 

「……ンだ、これ……!?」

「ッ、重力、操作……!」

 

──サイレンストライカーの、真の能力。

 

 這いつくばる快盗を侮蔑を込めて見下ろすと、デストラは重力の方向を変えた。──レッドを標的に、自らへと引きつけてしまったのだ。

 

「ヌゥン!!」

「がぁ──ッ!?」

 

 こうなってはもはや、為す術もない。レッドの胴体をハンマーが捉え……彼はそのまま、背をくの字に折った状態で撥ね飛ばされた。

 それと入れ替わるように、重力の檻から解放されたエックスは再び攻撃を試みていた。勝己には悪いが、この瞬間を打開の糸口に変えるしか──これしか、ない。

 しかしデストラは既に、サイレンストライカーの力を使いこなしていた。前面に展開していた重力波を、そのまま盾として機能させたのだ。

 

「ン、の……っ!」

 

 一歩も前に進みえない状態で、それでもエックスは悪足掻きにXチェンジャーの引き金を引く。実体をもたない光弾ならばという考えだったが、重力波はそれさえも消散させてしまった。

 

「失せろ」

「ぐ──ッ!?」

 

 結局彼も、デストラに一矢報いることはできず。一秒後には、レッドともども地面を転がっていた。

 

「く、そがぁ……ッ」

「ッ、………」

 

 もはや身を起こすこともできないふたりに、言葉もなく迫るデストラ。このあとの運命は、もはや決したも同然だった。

 そこに、

 

「──待てッ、デストラぁ!!」

 

 勇ましい声音とともに、駆けつけてきたのは他でもない──パトレンジャーだった。その視線が一瞬、倒れ伏すエックスと交錯する。

 

「……死柄木、」

 

 この一週間、音信不通の状態だった弔が今、目の前にいる。その事実にパトレンジャー……とりわけ鋭児郎の心は揺れたが、事態は既に切迫していた。

 

「警察か。──貴様らにも私の本気、見せてやるッ!」

 

 力いっぱいハンマーを振り上げ──その場に振り下ろす。一瞬、時が停まったような静寂。

 

 

──そして彼らは、無数の火柱に呑み込まれた。

 

 

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