アニメはどんどん盛り上がっていきますが、拙作は平常運転でございます
とはいえ終盤なので、そろそろ新作の情報も出す予定~
陽が落ち、夜になった。
東堂賢志は自室にて、窓辺に拠って外を見下ろしていた。敷地のすぐ外に、国際警察の派手なパトカーが駐車しているのが見える。
「……ここも、潮時か」
冷たくつぶやかれた言葉。その余韻が消えるより先に、部屋のドアが控えめにノックされた。
「賢志、ちょっといいかしら?」
祖母だった。青年は途端に表情を切り替え、「いいよ」と応じる。やおら、扉が開かれて。
「ごめんなさいね、休んでいるところ」
「大丈夫だよ、どうしたの?」
祖母は一瞬、躊躇するようなそぶりを見せた。それを口にしてしまえば、今この瞬間が悪夢へと変わる──その事実を憂いているかのような姿。賢志は彼女の言わんとするところを察したが、沈黙を保っていた。
そして、
「……あなた、ほんとうに賢志なのよね?」
ほら、やっぱりだ。
「きょう来てた国際警察の方たちがね、おっしゃってたの。ギャングラーが失踪した人間に化けて、詐欺を働いてるかもしれない……って」
「………」
「……ねえ、賢志。いきなり復学するのも怖いからって、私の事業の手伝いをしてくれるって言ったわよね。渡したお金……どうしたの?」
「………」
「賢志!」
黙したまま口を開かない孫に、彼女は焦れたように声のトーンを上げた。
と──青年の様子が、にわかに変わって。
「はは……はははは、ハハハハハハッ!」
「!?」
大声をあげて笑う賢志。その表情が邪ないろに染まっていく過程を、老婦人はまざまざと見せつけられた。
「……馬鹿だな、おまえ。最後まで騙されていれば、命までは取らないでやったのに」
「賢……志……?」
婦人は戦慄した。目の前の孫が、見も知らぬ怪物としか思えなかった。──いや、比喩でなくそれが真実なのだ。パトレンジャーの言った通りなら。
「通報されちゃあ面倒だ。──ここで死ね、人間」
そして──老女の悲鳴が響いた。
「──!」
賢志……否、賢志に擬態したギャングラーには誤算があった。屋敷の外にいる警官のひとりが、並外れた聴力の持ち主であったということだ。
「東堂さんの悲鳴だ……!──飯田!」
「ムッ、動いたのか!?」
裏の鋭児郎たちに連絡している暇はない。ふたりは塀を跳躍して飛び越えると、手近な窓を銃撃で粉砕して屋敷に侵入した。
「──そこまでだッ!!」
「!?」
VSチェンジャーを構え、賢志の私室に飛び込んだふたりが目の当たりにしたのは──まさしく今、老婦人の首を締め上げている青年の姿だった。
「貴様!!」
怒りに燃える天哉が、躊躇なく青年の肩口を射抜く。その弾みで手が離れ、婦人は解放された。
「ッ、国際警察め……嗅ぎつけるとは!」
「耳郎くんの地獄耳、舐めるんじゃない!!」
「……他人に言われると複雑だけどね、それっ!」
ぼやきつつ、さらに一発。その直撃を受けても、青年は低い声で呻くだけ。常人ならば、最低でもその場に昏倒するのは免れないのに。
つまり彼は、人間ではない──
「チィっ!」
舌打ちを洩らした賢志は、そのまま踵を返した。ガラスを破壊してベランダに出、そのまま飛び降りてしまう。
「ッ、逃げたか……!」
「飯田、追って!ウチもすぐ行く!」
殺されかけた婦人を独り放置していくわけにもいかない。身体能力の高い天哉に追跡を任せつつ……響香は、インカムに指をかけた。
同じ頃──裏路地の車内は、張り詰めた空気に包まれていた。
「……本当、なのか?死柄木……」
「連中がウソつく理由は、ないと思うね」
「ッ、なら……五月雨くんは……!」
噴き上がる焦燥に、鋭児郎が拳を握りしめたときだった。
『──耳郎から切島、死柄木へ。東堂賢志が殺人未遂を起こして逃走した!』
「!」
弔は即座に反応した。素早くパトカーから飛び降り、響香の誘導に従って走り出す。
「……ッ、くそっ」
そして一瞬出遅れた鋭児郎もまた、結局はそのあとに続くよりほかになかった。──快盗からの返信。五月雨少年の姿に擬態したギャングラーは、確かに存在したと。それがルレッタ・ゲロウという、巨大オタマジャクシにより親子を引き離したギャングラーであることまで、鋭児郎の知るところではない。
ならば、擬態に使われた五月雨少年の安否がどうなったか。既に楽観的な考えなど吹き飛んでいるけれども、だからこそ真実を追求しないわけにはいかなかった。
*
逃走した賢志青年は、住宅街を抜けて開けた港湾に出ていた。
「……もうひとつ稼げると思ったんだがな。奴らめ、動き出すと早い」
"内通者"の逮捕はつくづく損失だと彼は思った。あの狩猟犬どもをかろうじて繋いでいた首輪が、完全に外れてしまったのだから。
まあ、良い。"化けの皮"を挿げ替えて、ほとぼりが冷めるまで身を隠すとしよう。
しかし──彼がその場から消えるより早く、追跡者は姿を現した。
「逃がさんぞ、ギャングラー!!」
「!」
怒涛の勢いで距離を詰めてくる、迫力ある体躯の青年──飯田天哉。銃を構えていなければ、そのまま体当たりでもされるかと思っただろう。
「チッ……!」
見かけによらぬ俊足。むろんおとなしく捕捉されるつもりなどない賢志は即座に踵を返そうとするが、
「ハイ、そこまで」
退路もまた、追いついてきた三人により塞がれてしまった。
「いい加減、正体現しな!」
その言葉が示す通り、彼らは既にこちらがギャングラーであると確信している。今さらしらを切ったところで、通用しまい。
「……無用な戦闘は避けたかったんだがな」
そう言い捨て……同時に、ヒトの姿をも捨てる。そして露になった正体は、タツノオトシゴに似た怪人。その盛り上がった両胸に、一対の金庫が埋め込まれている。
「如何にもオレは、ギャングラー……ナリズマ・シボンズ」
「名前なんてどうでもいい」吐き捨てる弔。「ステイタス・ダブル、その片方に入ってるのは声を自在に変えるコレクション……"
通常、ギャングラーは擬態しても声までは弄れない。このナリズマという男は、コレクションの力でその弱点をカバーしていた。
「で、もう片方は?」
「ハハハッ、おまえはコレクションに詳しいんだったな。ならばなおさら、教えてやるわけにいくまいよ」
その答は、正直なところ予想通りのものであった。訊かれて堂々とひけらかすほど、このギャングラーは愚かではない。
一方で──言うまでもなく鋭児郎には、どうしても答を引き出さなければならない問いがあって。
「ホンモノの賢志さんは……今までおめェが擬態してきた人たちは、どうなった!?」
「擬態ィ?ああ、"化けの皮"のことか」
「化けの皮、だと……?」
その不穏な名称に、心臓が嫌な音をたてるのがわかる。
そして──ナリズマはついに、真実を口にした。
「ハハハハッ、──死んでるに決まってるだろうッ、馬鹿め!」
「………!」
──死んで、いる。
賢志も、他の"化けの皮"に使われた人々も。……五月雨も?
鋭児郎は己の足下に大穴が開き、奈落の底へと落ちていくような錯覚を味わった。それは"絶望"と名付けうる事象に他ならなかった。
「お前ら人間は所詮、我らギャングラーのエサにすぎない。金も、命も!何もかも綺麗に平らげられて幸福と知れ!」
「……貴様ぁ!言わせておけば!!」
義憤に駆られた天哉、響香……そして弔も、一斉に警察チェンジを遂げて躍りかかっていく。対するナリズマは狙撃銃で武装し、彼らの包囲を避けながら反撃を開始した。
その中にあって──鋭児郎は独り、立ち尽くしていた。絶望によって穴が開いた心を、どろどろと澱んだ液体が侵していく。それは、怒り……否、もっとどす黒い感情だった。
「……さねえ……」
友人の弟が、殺された。
「許さねえ……!」
ギャングラーの……こいつらの、身勝手のために。
「てめェらだけは、絶対許さねえ……!!」
鋭児郎の中で、何かがぷつりと切れた。
パトレンジャーのコンビネーションに晒されながら、ナリズマは一歩も引かず応戦していた。尤もそれは比喩上の話で、実際には後退を続け距離を保っていたのだが。
「ハハハハッ、どうした人間ども!?」
「ッ!」
矢継ぎ早に飛んでくる弾丸に、パトレンジャーは手を焼いていた。その威力は高く、直撃はおろか掠っただけでも大きく後退させられる。
「ッ、流石にステイタス・ダブルか……」
「間合いにさえ入り込めれば……!」
そのためには奇襲が有効だったが、ナリズマは抜け目なく三人の一挙一動を観察している。それも容易いことではないのだった。──三人?
「がぁああああああ──ッ!!」
それはまるで、野獣の咆哮だった。ぎょっとする天哉たちの横を、赤い影が走り抜けていく。赤──烈怒頼雄斗。
「切島……!?」
まさしく赤の嵐だった。パトレン1号に変身を遂げた鋭児郎が、ナリズマめがけてまっすぐ突進していく。戦略も何もあったものではない動き。当然、ナリズマは彼に銃口を向けた。
「飛んで火にいるなんとやら……──死ねぇ!!」
放たれる弾丸が刹那、1号の胸元でスパークする。警察スーツを破るまではいかないとはいえ、その衝撃は相当なもの。仲間たちは息を呑んだが……それでもなお、彼は止まらなかった。
「何ィ!?」
「てめェが、」
「──死ィねぇぇぇぇッ!!」
弔の脳は一瞬、その背中をルパンレッドのものと誤認した。
ナリズマの顔面に拳がめり込み、一瞬の静寂ののちに彼を大きく吹っ飛ばす。個性によって硬化したそれは、ときに弾丸を凌ぐ威力を発揮するのだった。
「切島、くん……?」
弔のように具体的な何かを連想したわけでなくとも、天哉や響香にとってもその姿は別人のように捉えられた。あふれ出す激情が今、彼を戦鬼へと変えている。
その気迫に圧倒されながらも、ナリズマはまだ奥の手を隠し持っていた。
「ッ、よくも……!ならばその怒り、仲間同士で晴らしあうがいい!」
金庫の片割れが光を放つ。
「ッ!?」
刹那、パトレンジャー全員が予想だにしない行動をとっていた。それぞれがまるで輪を描くように銃を向けあう。当然、望んでの行動であるはずがない。
「ッ、身体が……勝手に……!?」
「"
その名の通り、他者の肉体を操るルパンコレクション。その見えない糸に、四人揃って絡めとられてしまった。
「く、そぉ……ッ!こんなの──」
「ハハハッ、せいぜい抗え人間ども。どうせ運命は同じ、おまえたちは撃ち合って死ぬんだ!」
ナリズマの支配下に置かれた指先が、引き金にかかろうとする。
「ッ、こんな……ヤツに……!」
絶対に、許さない。──だから、敗けるわけにはいかない。
そのとき不意に、三つの影が宵闇を過ぎって。
「があァッ!?」
降り注ぐ銃弾が、ナリズマの全身を容赦なく食い破る。堪らずその場に倒れ込んだところに、その影たちが殺到した。
『3・1──0!』
「ルパンコレクション、」
『9・3──0!』
「いただきっ!」
ふたつの手が、ふたつのルパンコレクションを取り上げる。慌てたナリズマが銃を向けようとしたときにはもう、彼らはマントを翻していた。
「……快盗……!」
「けっ……今さら苦戦してンじゃねーわ、クズ鉄金庫ごときに」
ふたりを率いるように現れたのは、ビクトリーストライカーの能力で強化武装したスーパールパンレッドだった。その仮面が一瞬、鋭児郎と交錯する。ただ今は、お互いに発する言葉は見つからなかったけれど。
「お、おのれ快盗ども……!不意打ちとは卑怯な!」
「ハァ!?あんたにだけは言われたくないっちゅーの!」
「その口、今すぐ塞いでやる」
改めてVSチェンジャーを構えるルパンレンジャー。──しかしその所作を、他でもないレッドが押しとどめた。
「……なんのつもりだ?」
「ほっとけ。あの熱血の目、見りゃわかんだろ」
「いや見えへんやん……」
物理的にはイエローの突っ込みがもちろん正しいのだが、レッドが言いたいのはそういうことではない。
「てめェは……俺がブッ倒す……!」
全身から闘気を漲らせるパトレン1号。その様子を認めたエックスが、彼にあるモノを投げ渡した。
「!、これ……サイレンストライカー?」
「ご覧の通り。──やれよ、烈怒頼雄斗」
「……!」
その呼称は──まぎれもない、死柄木弔が切島鋭児郎の英雄としての矜持を認めたことの証左だった。
「……借りるぜ!」
その意を容れ、サイレンストライカーを受け取る。VSチェンジャーに装填し、
ごくりと唾を呑み込むと同時に、トリガーを引いた。
『サイレンストライカー!グレイトパトライズ!』
『「──超、警察チェンジ!!」』
パトレン1号の胴体が光に包まれ──黄金の鎧が、警察スーツの上から装着される。
先日のデストラとの戦闘において、ルパンエックスも変身したその姿──名付けて、
「スーパー、パトレン1号……!!」
「ッ、そんなもの!」
たじろぎつつも、ナリズマは彼に対して弾丸を撃ち込んだ。強化しようと、その実力を発揮する前に倒してしまえば同じことだと。
しかし防御力もまた、実力のうち。──スーパーパトレン1号の鎧は、弾丸をことごとく弾き返した。
「何ィ!?」
「………」
反撃の代わりに、彼はサイレンストライカーのもうひとつの能力を発動させた。
「グオァッ!?」
突然大気にのしかかられるような感覚が来たかと思えば、ナリズマの足がコンクリートを突き破り、ずぶりと沈み込む。──重力操作。デストラも使用した、サイレンストライカーの本来の能力。
これでもう、ナリズマに逃げ場はない。
「終わりだ──ッ!!」
両肩のトリガーを力いっぱい引き……一瞬の充填から、膨大なエネルギーの必殺砲を発射する。その熱量は、イチゲキストライクなどとは比較にならない。ナリズマがせめてもの抵抗にと放った弾丸など、豆鉄砲にもならなかった。
「バカな、このオレが……グワアァァァァ──ッ!!?」
そして紅蓮の中で、彼の肉体は消滅するのだった。
(……まだだ)
そう、まだ終わりではなかった。
「──私の可愛いお宝さん、ナリズマを元気にしてあげて……」
吹き飛んだ金庫の残骸に対して、神出鬼没のゴーシュ・ル・メドゥがルパンコレクションのエネルギーを注ぎ込む。たちまち金庫は修復と巨大化を同時に為し……そして、肉体を再構成する。
「──おのれ……!快盗も警察も許さんぞぉぉぉッ!!」
「……!」
巨大化したナリズマが、海水を揺らしながら迫る。すかさずエックスが、仲間ふたりにエックストレインファイヤーとサンダーを投げ渡した。
「飯田くん、耳郎サン、よろしく」
「……うむ!」
「オーケー」
彼らの手によりエックストレインが巨大化せしめられる。次いでトリガーマシン。そして、
『今日こそ、オイラも大活躍だ〜!』
飛んできたグッドストライカー。意気軒昂な彼のコールにより、トリガーマシンが合体する。
──完成、
「「「パトカイザー!」」」
「エックスエンペラー、ガンナー」
並び立ち、巨大ナリズマと対峙する二体の巨人。──その姿を認めたルパンレッドは、沈黙のままに踵を返した。
「あ、ちょっ……レッド!?……どうする、ブルー?」
「……ここは、従うとするか」
レッドが何を考えているのか……何かあると怒鳴るよりむっつり黙り込んでしまう傾向にある少年だが、長い付き合いゆえある程度は読み取れるようになってきたふたりである。それに今回のことは、彼らの心にも少なからず動揺を与えていた。
「……ブッ飛ばす!」
激情に支配されたパトレン1号の言葉とともに、戦闘は再開された。
同時に銃撃するパトカイザーとエックスエンペラーに対し、ナリズマは建造物を盾にしながら狙撃銃を構える。
「銃の腕なら、オレが上だ!!」
彼の持つ銃はむろん、狙撃に比重を置いてはいるが、連射性能においてもパトカイザーやエックスエンペラーガンナーと同等以上のものがあった。
「ッ!」
ばら撒かれる弾丸を、二機は素早く地面を転がりながら回避していく。辺り一面に散る火花が、コックピットにまで熱を及ぼしているように感じられた。
「ッ、流石にステイタス・ダブルか……」
こちらに喰らいついてくる程度の実力はある。──しかし先日、最強クラスのギャングラーを死闘の果てに撃破した経験が、彼らにはある。
「切島くん、サイレンストライカーだ。パトカイザーにも──」
「わかってる!飯田、耳郎……いくぜ!」
『サイレンストライカー!位置について……用意!』
『──出、動ーン!勇・猛・果・敢!』
『縦・横・無・尽!』
『伸・縮・自・在!』
サイレンストライカー、そしてバイカー、クレーン&ドリルが一挙に射出される。それらは勢い込んでナリズマに突撃し、その銃を弾き飛ばすことに成功した。
「グォッ!」
「今だ、グッドストライカー!」
『Oui!いきます、まとめて変わりまっす!』
土台たるグッドストライカーを除いたすべてのトリガーマシンが分離し、戻ってきたサイレン・バイカー・クレーン&ドリルが胴体を、腕を、頭部を形成する。
ビクトリーストライカーのそれとはまた異なる重厚な姿。その名も、
「「「完成!サイレンパトカイザー!!」」」
大地に立つその姿──その機械の瞳に射抜かれたナリズマは、戦闘より策略を好むだけあって早々に不利を悟った。
「オレは他の連中とは違う……これほどのヤツとやり合うつもりはない!」
言うが早いか、躊躇なく背を向け海に飛び込む。タツノオトシゴに似た容貌なだけあり、彼は水中深くで長時間活動することができた。ゆえに海底深くまで潜り込み、敵の射程圏外まで逃げようという算段だった。
「……馬鹿だな」
そうつぶやいたのは、サイレンストライカーの地力を知る弔だった。
同時に、中心の砲口から弾丸が発射される。海に入ったそれは、海水を掻き分けるように進撃し、
「グボァッ!?」
海中深くに逃げ込んでいた、ナリズマの背中を貫いた。
「当たった……!」
「いけるぞ、切島くん!」
「ああ……!」
ならばもう、一秒たりとも生かしてはおかない。
「「「「──パトカイザー、サイレンガンナーストライクっ!!」」」」
サイレンパトカイザーとエックスエンペラーが全砲門を開き、全エネルギーをもって火砲を掃射する。それは夜の港を一瞬昼に戻すほどの光を撒きながら、浮かび上がってきたナリズマを呑み込んだ。
「がぁああああああッ、誤算……だらけだああああ──!!」
次の瞬間、海水は爆ぜ、無数の飛沫となった。それらは雨のように降り注ぎ、二機の巨人を濡らしていく。
「………」
その始終を見つめる鋭児郎。彼が如何なる表情を浮かべているのか……仮面に覆われている以上、彼自身も含め何人も知ることはないのだった。
「あーらら、せっかくのお得意様が……。サッムぅ」
肩をすくめ、密かに去っていくザミーゴの存在も……また。
*
翌日。死闘の痕跡が残る港に、鋭児郎は蛙吹梅雨を呼び出した。──そこで、すべての真相を語ったのだ。
「そう……。やっぱり、そうだったのね」
梅雨は心外なほどに落ち着いていた。むろん、ギャングラーの"化けの皮"に使われていたなどというのは予想だにしないことだったろう。しかし二年の歳月は、彼女にこの結末を覚悟させるには十分だった。
「これで……これでやっと、あの子を静かに眠らせてあげられる……」
「梅雨ちゃん……」
「ありがとう、切島ちゃん」
そのひと言に、鋭児郎は堪らなくなった。──そして気づけば、彼女の小さな身体を抱きしめていた。
「ごめん……ごめんな、梅雨ちゃん……!救けられなくて、ごめん……!」
「ッ、……切島ちゃん……――う、うう……っ」
「うああああああ………ッ!」
梅雨は、泣いていた。鋭児郎の胸で、既に亡き弟を想って。
その涙を受け止めながら、鋭児郎は誓った。ギャングラーを、必ず滅ぼすと。これ以上誰にも、涙を流させて堪るものか。
それでも今この瞬間、彼の心は、腕の中の友人にのみ捧げられていた。
à suivre……
「てめェが、デクを……!」
次回「ヤミクモ」
「……かっちゃん、僕はーー」