【完結】Adieu au Héroes   作:たあたん

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じろーちゃんといえば音楽、音楽といえば…ってことで、このエピソードになりました。

それに伴いオリジナルギャングラーも登場します。ごめんねラブルム。


#5 鳴らない六弦 1/3

 ヒーロー・烈怒頼雄斗こと、切島鋭児郎の朝は早い。

 

 正確には、ここ数日で急激に早くなったというべきか。彼は所属するヒーロー事務所ほど近くにアパートを借りて住んでいるのだが、偶発的に仮出向することになった国際警察日本支部からはかなり距離があるのだ。電車を乗り継いで数十分かけて出勤し、警察戦隊の業務をこなす日々。

 

「ふぁああ……」あくびをこぼしつつ、「っし、今日も頑張んねーとな!」

 

 拳を握り、己を鼓舞する。無論何事もなく一日が終わるに越したことはないが、相手とするギャングラーは未だ大量に潜伏している。その多大な脅威を取り除くためにも、彼は先頭に立つつもりでいた。

 

 最寄り駅から歩いて数分。日本支部庁舎の前までやってきた鋭児郎は、見知った女性の背中を発見した。通勤途中であるためか、警察戦隊の制服ではなく一般的なパンツスーツ姿だが。

 

「お、──耳郎さーん!」

 

 そこそこの大声で呼びかけるが……反応はない。鋭児郎は首を傾げた。彼女──耳郎響香とは既に良好な関係を築いていることもあり、無視されたとは微塵も考えない。お人好しな性分ゆえであるともいえる。

 いずれにせよ彼は躊躇なく駆け寄り、響香の肩を軽く叩いた。「きゃっ」と女性らしい声をあげて振り向く──刹那、耳に繋がった黒いコードが目に入った。

 

「あ……なんだ、烈怒頼雄斗か」イヤホンを外し、「おはよ」

「おはようございます!音楽聴いてたんスね」

「まあね。ひょっとして声かけてくれてた?気づかなくてごめん」

「いやぁそんな……──耳郎さん、休憩中とかもたまに何か聴いてますよね。どーいうのが好きなんスか?」

 

 人に訊くならまず自分からというポリシ──―というほどでもないが──のもと、「ちなみに俺は演歌派っス!」と続けると、響香が軽く噴き出した。

 

「な、なんかわかる気がすんなぁ……」

「硬派っスからね!」

「はは……ま、そういう意味じゃウチもイメージ通りかな」

 

 「ウチはロック派なんだ」と響香。ただし彼女の場合、その入れあげ方は一般的な趣味の範疇にはとどまらなかった。

 

「親が音楽関係の仕事しててさ。ウチもそっち目指して音大通ってたんだ。昔の話だけどね」

「えっ、すごいじゃないっスか!?」

 

 音楽に携わる仕事というのは、漠然とであれば憧れない人間のほうが少数なのではなかろうか。ただプロヒーロー以上に狭き門なのも事実であって──意外なチャレンジャーとしての側面に、鋭児郎は感心していた。

 しかしそうなると、当然浮かんでくる疑問があって。

 

「……でも、そんならどうして国際警察に?」

 

 音大と警察──明らかに、噛み合わない。

 が、ほどなく鋭児郎はしまったと思った。響香の表情に、一瞬翳が差したから。

 

「……色々、あってさ」

「あ……」

「ま、もっと小さい頃はヒーローにも憧れてたし。ヒーローやるには不向きな個性だから早々あきらめたけど」

 

 「逆に警察は天職かも」と、コード状に伸びた耳朶に触れる響香。彼女の個性"イヤホンジャック"の特性を鑑みれば、確かにそのとおりかもしれない。

 だがいかなる事情があるにせよ、彼女がふたつもの夢を手放したことに変わりはない……飯田天哉もそうだったように。

 

 その事実は、決して軽いものではなかった。

 

 

 *

 

 

 

「ねぇボス、ギタールが最近活きのいい人間を仕入れているんですって。実験に使いたいので買っていただけないかしら?」

 

 ドグラニオ・ヤーブンに対し猫なで声で己の要求を伝えるは、側近のひとりであるゴーシュ・ル・メドゥ。ギャングラー同士の取引にも当然金品が介在する。まして労働力に実験材料にと、万能に扱える知的生命体の売買ともなれば──

 

 と、ドグラニオとゴーシュの間に割り込む巨駆があった。──ドグラニオの腹心、デストラ・マッジョだ。

 

「おねだりなら相手を選べ、ゴーシュ。身の程を弁えろ」

「構わんよ、デストラ」

「!?、ボス……」

 

 ぎょっとするとともに、もしやボスは「構わんよ」が口癖になっているのでは?とデストラは要らぬ心配をした。当然、口には出さなかったが。

 

「我々に取引は付き物さ。ゴーシュの実験、ギャングラーの発展には役に立つ」

「ふふっ……ありがとうございます、ボス」

「………」

 

 「それにしても」と、ドグラニオはワインを煽りながら続けた。

 

「ギタール・クロウズか。ああいう変わり種に後を継がせるのも、面白そうだと思わないか?」

 

 尤も警察や快盗に葬り去られたガラット・ナーゴやナメーロ・バッチョと比較すると、彼はその意欲が薄いようなのが残念なところだった。

 

 

 *

 

 

 

 始業時刻を迎えて早々、警察戦隊のタクティクスルームは厳粛な空気に包まれていた。

 その中にあって、指揮官である塚内直正管理官が口火を切る。

 

「ここ数日の間に、複数の音楽関係者が消息を絶っていることが判明した」

「!」

 

 "音楽関係者"──そのことばに響香がとりわけ大きく反応する。先ほど彼女の過去を聞いたばかりの鋭児郎もまた、「え」と声をあげかけてしまった。

 

「質問をお許しいただけますでしょうか!?」挙手する天哉。

「元気だな……どうぞ」

「連続失踪事件とは確かに由々しき事態ですが、それが何故ギャングラーの仕業と判断されたのでしょうか?」

 

 対ギャングラー専門部隊であるパトレンジャーが動く以上、天哉の疑問はもっともである。

 当然、答は存在した。

 

「ある音楽大学のキャンパス内で、ギャングラーらしき姿を目撃したという複数の情報が入ってきている。失踪者の中でもその音大の関係者……とりわけ学生が最も多いことがわかったんだ」

「なるほど……失礼いたしました!」

 

 天哉が納得したところで、塚内は事務方ロボットであるジム・カーターに呼びかける。

 その指示に応じて、ジムがプロジェクションマップを展開した。

 

『ここがその音楽大学です!』

「!、え……ここって……」

 

 響香の動揺がさらに深まる。鋭児郎が訊くよりも早く、天哉が「そうか」と声をあげた。

 

「ここは確か、きみの在籍していた音大だったな」

「……うん」

「そ、そうなんスか!?」

 

 彼女にとって、あらゆる意味で深い思い入れがあるであろう場所。そこに潜むギャングラー。

 

 その顛末は、響香にとって苦いものになるのではないか──鋭児郎にはそんな予感があった。自分の平凡な勘など、的中しなければいいという願望とともに。

 

 

 *

 

 

 

 失踪者個々人についての捜査を天哉に任せ、響香と鋭児郎は件の音大へと向かった。

 

「烈怒頼雄斗……運転大丈夫?代わるよ」

「だ、大丈夫っス!休みんときは乗り回してるんで……」

 

 とはいえ、まだ免許を取得してふた月足らず。操作がおっかなびっくりになるのも無理からぬことであった。

 そんなことより、

 

「……なんか、ヤなギャングラーっスよね。耳郎さんの母校で事件起こすなんて」

「まあ、ね……」うなずきつつ、「でも、それ以上に不思議な感じもするな。あそこにはもう、一生行くことなんてないって思ってたから」

「耳郎さん……」

 

 ぼうっと助手席のシートに身を預けたまま、響香はぽつりとつぶやいた。

 

「……せめて、ちゃんと卒業したかったな」

 

 

──音大に到着したふたりは、早速情報収集を行うべく動き出した。

 響香の表情には未だ郷愁が残っているが、身のこなしにまで感情の揺らぎは表れていない。彼女は間違いなく、プロの捜査官であった。

 

「さてと……まずは地道に聞き込みするっきゃないな。行こう、烈怒頼雄斗」

「うっす!」

 

 それにしても、と鋭児郎は思う。キャンパスは広く、活気に溢れている。自身の母校である雄英高校もヒーロー科のほか普通科、経営科、サポート科とあり大学並みの規模と設備を備えていたが、やはり雰囲気からして異なる。

 

(キャンパスライフかぁ……。ちょっと憧れる……かも)

 

 プロヒーローという世人の憧憬を集める職業に就いていて、自身の立場には何も不満などないのだが。ヒーローを目指して一直線に進んできた鋭児郎にとって、この光景は新鮮そのもので。

 

「ッ、集中集中!漢らしくねえぜ鋭児郎!」

「?、どしたの急に?」

「あ……ハハ、スンマセン」

 

 互いに複雑な想いを抱えつつ、聞き込みという職務をこなしていく……が、

 

 

「……なかなかヒットしないっスね」

「そうだね……」

 

 行きかう学生たちは大勢いるから、数撃てば当たる……と思ったのだが。

 皆、学内にギャングラーが潜んでいるという噂を耳にしたことがあるというくらいで、具体的な情報をもっている者にはなかなか巡り会えない。

 

「ま、捜査ってのはそんなもんだよ。十人でダメなら百人、百人でダメなら千人ってね」

「おー……そういうの、なんか好きっス!」

「ふ……だと思ってた。さ、聞き込み再開するよ」

「うっす!」

 

 意気込んだふたりが動きだそうとしたときだった。

 

「!」

「?、耳郎さん……?」

「しっ!」

 

 突然表情を険しくして、周囲を見回す。耳を澄ましているようだが、鋭児郎には何も聞こえなかった。

 しかし次の瞬間、彼女はいきなり踵を返して走り出した。

 

「ちょっ、どうしたんスか!?」

「悲鳴だ、間違いない!急いで!」

「えぇっ……」

 

 やはり鋭児郎には聞き取れなかったが、響香を疑う理由もない。彼女のあとを追うのは当然だった。

 

 

 *

 

 

 

 響香の耳は正しかった。

 

 学内のはずれで、ギターを提げた青年が腰を抜かしている。怯えきったその瞳に映し出されるのは、人間にフクロウを掛け合わせたような異形の存在で。

 

「う……うわぁあああ!!」

 

 青年の個性なのだろう、その身から電撃が奔り、怪人に襲いかかる。が、怪人は鬱陶しげにそれを振り払うような仕草を見せるばかりで、まったくものともしていない。青年の表情がますます絶望に染まっていく。

 

──そのときだった。

 

 突如飛来したカード状のオブジェクトが、怪人の肩口を切り裂いていった。

 

「ッ!」

 

 うめき声をあげて後ずさる怪人。間髪入れず、頭上から声がかかる。

 

「やはりここに潜伏していたか、ギタール・クロウズ」

「!?」

 

 学舎を踏みつけるように立つ、三人のマスカレイド。怪人──ギタール・クロウズが「快盗か……!」と忌々しげな声を発すると同時に、彼らは白銀の銃を構えていた。

 

「「「快盗チェンジ!!」」」

 

『0・1・0!』

 

『マスカレイズ!──快盗チェンジ!』

 

 三人の快盗に仮面の意匠が覆い被さり……一瞬にして、彼らを変身させた。

 

「予告する──」

 

 

「テメェのお宝、いただき殺すッ!!」

 

 VSチェンジャーのトリガーを引きながら、マントを翻して跳躍する。一瞬にして標的との距離を詰めていく快盗戦隊ルパンレンジャー。

 舌打ちをこぼしたギタールもまた、巨大な鉤爪を振りかざして応戦する。静かなキャンパスのはずれはにわかに砂塵吹きすさぶ戦場と化した。

 

 直後、鋭児郎と響香もこの戦場に姿を現した。

 

「ギャングラーに快盗!?」

「ビンゴか……!──行くよ!」

「うっす!」

 

 VSチェンジャーを構え、

 

「「警察チェンジ!!」」

 

 "パトライズ"と電子音声が流れ──トリガーを引くと同時に、ふたりもまたパトレンジャーへと変身を遂げる。

 

「うおおおおおお──ッ!!」

 

 吶喊するふたり。快盗たちとの間に割り込むようにして、ギタールに攻撃を仕掛ける。

 しかしこの場には、ギャングラー当人以上に彼らに対して攻撃的な者がいて。

 

「オラァッ!!」

「うおッ!?」

 

 いきなり赤い拳が鼻先で風を切り、パトレン1号はぎょっとした。

 

「避けんなッ、死ねカス!!」

「てめっ……どんだけ俺ら目の敵にしてんだよ!?」

「俺の道にいんのが悪ィんだよ!!」

 

 なんたる傲慢な物言いだ、と鋭児郎は怒りを通り越して呆れ返った。これは快盗だからというより、この男の人格の問題だろう。

 いずれにせよ、はいそうですかとこの男の道からどいてやるわけにはいかない。自分たちにも為さねばならない使命がある。

 

「悪ィけど、俺らもコイツには用があんだよ!」

「拐われた人たちの居場所……とっとと吐かせる!」

「……!」

 

 刹那、レッドの動きがわずかに鈍る。それに気づいたのは、目の前にいる1号のみだったが。

 

(え、こいつ……?)

 

 そのとき、意図せず乱戦の主役となってしまったギタールが吐き捨てるように言った。

 

「貴様らの相手をするつもりはない……!」

「!」

 

 ガスマスクのような形状をした口の隙間から、どす黒いガスが噴出する。たちまち、ギタール自身の姿が覆い隠されていく──

 

 それだけではなかった。

 

「う゛……ッ、な、何これ……!」

 

 強烈な刺激臭にイエローがえずく。咄嗟にブルーが彼女を後方に引っ張り、避難させた。

 

「離れろ、神経ガスかもしれん。──ッ、」

 

 結局、彼らは包囲を解かざるをえず。ばら撒かれたガスに乗じて、ギタール・クロウズは姿を消してしまったのだった。

 

「ッ、くそっ、チャンスだったのに……!」

「………」

 

 パトレンジャーのふたりが悔しさを隠しきれない一方で、ルパンレンジャーはひと言も発せずに早々と退却を決めていた。標的のいない戦場になど、用はないとばかりに。

 ふたたび学舎に跳躍する彼らの背中に向かって、たまらず3号が叫んだ。

 

「待ちなよ!……せめて、あいつについて知ってること、なんか教えてよ」

「………」

 

 快盗が易々と情報を渡してくれるはずがない──そんなことはわかっていた。それでも一縷の望みにかけたいほどに、彼女は焦っていたのだ。

 しかし、その結果は意外なもので。

 

「……ルパンコレクションの能力だ」

「えっ……」

「コレクションの能力で、奴は人間をどっかに転送してる。わかってンのはそれだけだ」

 

 最後に舌打ちひとつ残して、レッドは屋根の向こうに消えた。ブルー、イエローとあとを追っていく。

 追撃……する気にはなれなかった。

 

「……なんか思うところあったんスかね、あいつ?」

「かもね……」

 

 ことば少なにうなずきつつ、響香は変身を解いた。ギタールは姿を消してしまったが、手がかりは目の前に残されている。襲われていた、やや軽薄そうな金髪の青年だ。エレキギターを提げているところを見るに、ここの学生に間違いないだろう。

 

「ねえ、あんた──」

 

 響香が声をかけようとした瞬間、青年が「あぁっ」と声をあげた。

 

「あの……耳郎響香さんっスよね!?」

「え……そ、そうだけど」

「やっぱり!マジかよすげぇ!」

 

 いきなりにじり寄ってきたかと思えば、むんずと両手を掴んでくる。振りほどくこともできず、響香は困惑するほかなかった。

 

 

 それがこの青年──上鳴電気との出逢いだった。

 

 

 




当初パトレン2号は上鳴を想像してたんですが、結局出せなかったのでココで救済。
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